ワグネル「反乱」に伴うモスクワ近郊におけるロシア機の動向
2023年6月23日~24日(日本時間)に発生した、ワグネルの「反乱」に伴ってモスクワ近郊で確認されたロシア軍・ロシア政府機などの動向一覧です。概ね24日夜時点までにこちらで確認できたものに限られているので、抜けがある場合はコメント欄で情報提供いただけると幸いです。
また、本稿で記載した以外にも、ModeSトランスポンダの応答がなく、航空機追跡サイトでtrackできなかった航空機(戦闘機など)が存在しうることにご留意ください。
本稿のリサーチはkn1cht氏と共に行いました。ご協力に感謝いたします。
Rossiya - Special Flight Squadron (RSD)
Специальный лётный отряд «Россия» は大統領専用機などの運航を担当するロシア政府の組織です。
RSD981 (Il-96-300, RA-96017)
モスクワ(ヴヌーコヴォ)からウファに向かい、ウファ滞在1時間未満でヴヌーコヴォに戻りました。
復路において、カザンでローパスしているのが若干奇妙な点です。
RSD697 (Il-96-300PU, RA-96022)
有事の際に空中からの作戦指揮能力がある機材です。大統領を含む要人が搭乗する可能性があります。
モスクワ(ヴヌーコヴォ)から北西へ向かい、トヴェリ付近で高度を下げ、FR24から表示が消えました。また、25日(日本時間)にトヴェリ付近でFR24に表示され、モスクワに戻ってきました。
ModeSトランスポンダを切った(あるいはFR24がMLATで追跡できなくなった)上でホチロヴォ空軍基地に着陸したという可能性があると考えられます。同基地はロシア大統領邸宅に近いとされており、過去にもTu-214PUの発着が確認されています。
一時、「プーチンがサンクトペテルブルクに逃げた」との情報もありましたが、フライトからその確証は得られませんでした(サンクトペテルブルク行きであれば、トヴェリ付近で高度を下げることはないと思われます)。
RSD523 (A319CJ, RA-73025)
モスクワ(ヴヌーコヴォ)からサンクトペテルブルクに向かいました。記事執筆時点(日本時間25日)でもサンクトペテルブルクに滞在していると思われます。
RSD629 (Tu-214PU, RA-64520)
Il-96より小型ではありますが、作戦指揮能力がある機体です。
モスクワ(ヴヌーコヴォ)からサンクトペテルブルクに向かいました。その後、ヴヌーコヴォに戻っています。
RSD605 (Il-96-300PU, RA-96021)
RSD697と同型機です。
モスクワ(ヴヌーコヴォ)から北西に向かい、トヴェリ付近でFR24から表示が消えました。こちらもトヴェリ付近で高度を12,000ftまで下げています。
また、25日(日本時間)にトヴェリ付近でFR24に表示され、モスクワに戻ってきました。RSD697と同じ行動パターンです。目的地がホチロヴォ空軍基地であった可能性があります。
ロシア連邦国家親衛隊 (National Guard)
AZAZ0909 (Il-76MD, RF-76803)
グロズヌイ付近からモスクワ(ヴヌーコヴォ)へ到着し、ヴヌーコヴォから東に向かって再度出発しました。
CHD96581 (Il-76MD, RA-78847)
モスクワ(おそらくジューコフスキー)から東に向かい、再びモスクワ(ヴヌーコヴォ)に戻りました。その後、ヴヌーコヴォからジューコフスキーに回送しています。
ロシア空軍
RFF96577 (Il-76MD, RA-86906)
CHD96581と同じような動きです。
モスクワ(おそらくジューコフスキー)から東に向かい、再びモスクワ(ヴヌーコヴォ)に戻り、ジューコフスキーへ回送しています。
その他
Alex Ivanov氏により、RA-64530 (Tu-214PU)、RA-85605 (Tu-154)、RF-64519 (Tu-214ON)、RA-86559 (Il-62M)の4機がモスクワ(チカロフスキー)から南東に向かったと報告されています。筆者もデータをチェックしたところ、この4機はアストラハン・プリヴォルジュスキー空軍基地に向かったことが確認できました。
ロシア非常事態省 (EMERCOM)
SUM9123/SUM9124 (Il-76TD, RA-76429)
モスクワ(ジューコフスキー)からグロズヌイへ向かい、その後ジューコフスキーに戻っています。
SUM9107/SUM9108 (An-148, RA-61717)
位置情報が異常に乱れていました。モスクワ(ジューコフスキー)を離陸し、最終的にグロズヌイに向かった機体なのですが、途中でウクライナ上空を飛行しているようなデータが見受けられました。
ADS-B ExchangeやFlightradar24のデータを確認したところ、確かに記録上はADS-B由来の高精度なデータでウクライナ上空の飛行が記録されています。しかし、以下の画像で示すように、595kmを33分(1081km/h)、700kmを3分(14,000km/h)で移動しており、An-148の性能どころか航空機としてあり得ない速度になっていました。
そのため、実際はウクライナ上空を飛行していたのではなく、下図のように白い点線で示したロシア領内を飛行していたのではないかと考えられます。
原因は不明ですが、ロシアによるGNSS(GPS)に対するジャミングの可能性も排除できないと考えています(ただ、そうなると同時間帯に飛行していた他の航空機も影響が出るはずで、ジャミングであると断定に至るものではありません)。
SUM9121/SUM9122 (Il-76TD, RA-76363)
モスクワ(ジューコフスキー)からカザフスタン領内を経由してグロズヌイへ向かいました。その後、ジューコフスキーに戻っています。
この区間であれば先述したSUM9107のように、アストラハンからカスピ海に出る経路が一般的なものであり、カザフスタンを経由する経路は珍しいといえます。
その他軍事産業・国営企業など
CPK9803 (Tu-204-300, RA-64044) - ROSCOSMOS
ロスコスモス専用機です。モスクワからカイロへ飛行しました。情勢との関係性は不明です。
48112 Yak-40 - MiG
MiG保有の専用機です。モスクワに向かったことが確認されましたが、情勢との関係性は不明です。FR24では履歴が表示されない機体です。
その他気になる動向
SBI2047 (B737-800, RA-73447) - S7航空定期便
情勢が緊迫する中、モスクワを離陸したのちに高度550ft(約167m)で飛行していると表示されていました。B737ほどのサイズの旅客機がこの高度を飛ぶというのはあまり考えられる状況ではないですし、実際にそうであれば、おそらくソーシャルメディアにその動画などが投稿されて騒ぎになっていると思います。
SVR6005 (A320, RA-73825) - ウラル航空定期便
SBI2047と同様です。こちらはレーダー表示が途切れておらず、ヴォルゴグラードを過ぎたあたりで550ftから通常の巡航高度に突然切り替わりました。データ不備の可能性が高いと考えられます。