【Flightradar24の正体不明機を分析する】コロンビア上空のロシア機?
Flightradar24を見ていると、時折、謎の航空機に出くわすことがあります。その分析結果をツイートすることもあるのですが、今回はせっかくなので、分析の流れや手法を記事にしてみようと思います(定期的にやるかもしれません)。
航空情報OSINTの入門編として参考にしていただけると幸いです。
今回のターゲットはこちらです。コロンビア上空を飛行しているRA-99333です。RAはロシア国籍を示しますが、それ以外の情報が空になっています。
なお、本記事ではFlightradar24の有料プランのみで取得できる情報を含みます。航空機の情報を分析したい方はSilver以上の契約を検討してみてください。
アイコンは信じない
Flightradar24では機種別のアイコンが用意されており、固定翼小型機、固定翼大型機、回転翼機(ヘリ)、ドローンなどを識別できるようになっています。しかし、それらは識別済みの航空機に関しての情報であり、今回のように識別情報がない航空機に関してはアテになりません。
今回の航空機はアイコン種別は固定翼機のように見えますが、速度は一定して140kts程度しか出ていません。時速でいうと260~270km/h辺りです。
また、飛行高度も2400ft前後(約700m)を維持して飛行し続けています。
これらの情報より、ヘリコプターの可能性が高いと推定できます。
ちなみに、その航空機が所属している軍隊や航空会社が明らかな場合、保有機材一覧から候補を列挙し、その機種の巡航速度などから具体的な機種を推定できるケースもあります。
コールサインに惑わされない
シンプルにコールサインで検索しましょう。今回はPNC610でしたね。Flightradar24の便名別ページが出てきます。「Prince Aviation」という航空会社のフライトだそうですが、本当でしょうか。とりあえずページを開いてみます。
同一便名を持つフライトの記録が参照できます。どうやら同じRA-99333が同じ「PNC610」という便名で、同じ空域を何度も飛んでいるようですね。
ここでPrince Aviationについても検索してみます。航空会社コードPNCがPrince Aviationのものというのは本当ですが、「セルビアを拠点とする」「エアタクシーおよび航空学校事業を行っている」という情報からすると、同一のものはなさそうです。また、保有機材一覧(Fleet)にもヘリコプターは含まれていません。
この時点で、表示されているPNCは非公式なコードの可能性が高いと判断できます。実は、Flightradar24に表示されるコールサインはトランスポンダに手入力された値であり、ICAOなどによる承認に基づくものではないのです。例えば日本国政府専用機など、自衛隊機の海外運航ではJapanese Air Forceを略してJFというコールサインが使用されますが、これも航空会社コードとして認証を受けたものではありません。
また、航空会社が保有していない機体では、機体の番号(機体記号)がそのまま表示されることもあります。
ちなみに、雑に「コロンビア PNC」で検索してみると、PNC-0242、PNC-0245という機体番号の機材がヒットします。ここから、「PNC」はコロンビア国家警察の識別用の記号であり、「PNC-0610」が機体番号であるという仮説が考えられます(同じ機体が同じ便名で何度も飛行していることとも一致します)。
PNC-0610で検索すると、航空機写真投稿サイトのページがヒットします。やはりコロンビア国家警察に機体番号PNC-0610のヘリコプターが存在するようです。正体はこのヘリでした。
中古機の場合、ごく稀に売却前の登録番号に基づいた情報を発出している例もあるのですが、UH-60がロシアに売却された記録がないため、RAの番号が紐付いているのはかなり不思議です。筆者はデータの不備である可能性が高いと考えています。
ICAO 24-bit Addressの活用
ここまで順を追って説明しましたが、もう1つ注目すべきポイントがあります。それはICAO 24-bit Addressです。これは16進数の数値で、航空機のトランスポンダと紐付いて登録されている番号です。機体の売却時などを除き、変更されることは原則としてありません。また、このアドレスは国によって割り当てが決まっており、100000 - 1FFFFFはロシアの航空機を意味します(参考)。
素直に「158405 aircraft」で検索してみると、Flightradar24とは別のサイトがヒットします。こちらでは以下の通り、機種名と機体記号がバッチリ出ています。上記のリサーチと一致しますし、おそらくこれで間違いないでしょう。
米国・シコルスキー製のコロンビア機がロシア向けのコードを使っているのは不可解ですが、軍用機ではこのような例外が時折見られることもあります。
今回はFlightradar24が参照しているデータベースにおいて、何らかの不備があったのではないかと考えられます。
データの不備もある
Flightradar24は強力なツールですが、今回のようにデータが間違っていることも多々あります。それを踏まえた上で、複数のソースを照らし合わせることにより、航空機の同定が可能となります。