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お題 ぼくはくま


「昨日っ!!」

爆音でドアを開けたのに、奴は寝ていて。私のベッドで。

「も〜なにぃ?ヤカマシ〜」

呑気な声に、私は怒りを抑えられない。

「昨日あれだけ頼んだじゃない!佐藤君を帰り道に一人にしてって!なのに....私が追いついた時には学年一の美人と歩いてた!!」

私は奴に通学バッグを投げつけた。

「んも〜イタイよぉ」

「嘘つき!佐藤君を一人にして私と帰る、そう仕組むって約束だったじゃない!」

奴は起き上がり、憎らしく笑った。

「バレンタインにはちょっと早いでしょー?焦らしだよ、ジ、ラ、シ」
「バカっ!」

昨日あんなに....髪もサラサラにしたし、スキンケアだって。一生分頑張ったのに!
....こともあろうに学年一となんて。
もうダメだ。終わった。

「ちょ、ちょっと〜?泣くぅ?そんなことで〜」

涙の間から思いきり奴を睨む。
少しは困っているのか、後頭部を掻こうとしているが届いていない。

あの佐藤君の笑顔。美人にはあんな顔するんだ。
....でも待って。よく、考えたら....

「....佐藤のやろう、ただの面食いなだけかもしれない」

「お?」

「そうだよ、あんなデレデレしたとこ見たことないもん。そうだ、絶対そう!」

「ほほ〜う。元気出てきたね」

「フン。佐藤の正体がわかって目が覚めただけよ」

私は奴に向き合った。

「と、いうことで。返して」
「へ」
「返して!私の奥歯!」

手を差し出し指先を毛むくじゃらな腹に突き立てる。

「何でさ〜言うこと聞いたのに」
「どこがよ、私の願いと真逆なことしてくれたでしょ!約束は不成立よ!返して!」
「もうダメ〜♪」

そのクマは毛の中から私の奥歯を取り出した。
奪おうとしたがヒョイとかわされ、なんと──

「え?!あんた、浮い....」
「約束なんて知らないよん。ぼくは〜ぁ....くまだもん」
「な、何....」

「ぼくはぁ〜....あー、眠い。
ぼくはくまぁ〜アクビで上手く言えな〜い。あはは」

「悪........魔?」

「そ!キミの一部をもらって願いを叶える。けどぼくアクマだからさ、あまのじゃくなんだよね。もらったからって、約束なんか叶えなくてもいいんだよ」

ベッドに登り捕まえようとする、けれど浮いてあちこちして柔らかい毛並みに掠るだけ。

「願いを叶えるクマ....自分でそう言ったくせに!嘘つき!」

「うふふー奥歯ありがとうね、よいひょっと」

クマは大口を開けて私の歯を奥へ埋め込んだ。

「やったー!揃ったー!ほら見て見てー、ぼくに騙されたおバカさんたちの歯だよ〜」

にぃ....と嘲けるように顔を歪ませる。
もう愛らしかった面影もない。

「それよりさぁ、あんなに好きだった人のこと佐藤のヤローとか言ってたよね。ぼくら共謀しない?」

「ふざけないでよ!」

「いや〜キミ素質あるよ、アクマの。この体あげるよ、力が使えるよ。その間、ぼくはキミの体に入っとくね。力の使い方教えてあげる」

──もういい。
私はベッド上でジャンプし直ぐ壁を蹴って、ついにクマの足を捕らえた。

アクマは情けなく命乞いをした。
そこで、私は約束を提案する。

条件を飲ませた隙に即、私は力の限り毛むくじゃらに拳をめり込ませた。


気がつくと、奥歯があるべき場所に戻っていた。
嫌らしい顔で見せびらかして来た歯も全て、消えている。
持ち主達の元へ帰ったのだろう。



#青ブラ文学部
#ぼくはくま
初めて参加させていただきました。

素敵な写真、お借りしました。
文中の描写と全く同じでびっくりしました、見つけた時👀

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