スタートアップで成果をだすCS|フェーズごとの業務とプロセス(江戸教授)
「カスタマーサクセス」実は相談が多い分野です。KPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)を追っていくと、カスタマーサクセス(CS)に力をいれるべきでは....という段階が訪れるものです。しかし、スタートアップの現場で活用できる体系化された情報のキャッチアップが難しい状況です。今回カスタマーサクセスの構築のプロであり、積極的にスタートアップ支援もされてるアディッシュ株式会社の代表の江戸教授よりスタートアップで成果を出すカスタマーサクセス(顧客満足)をスタートアップのフェーズごとの業務とプロセスをご教示いただきました!
江戸浩樹教授
アディッシュ株式会社
代表取締役
東京大学農学部生命化学・工学専修卒業。2004年に株式会社ガイアックス入社。インターネットモニタリング事業、学校向けネットいじめ対策事業、ソーシャルアプリサポート事業の立ち上げなどを経て、2014年にアディッシュ株式会社を設立。2020年3月には東証マザーズに上場しました。
アディッシュ株式会社とは?
「つながりを常によろこびに(Delight in Every Connection)」をミッションに掲げ、ソーシャルメディアやコミュニケーションサービスなどで発生する課題解決を目的とした「カスタマーリレーション事業」を提供しています。
「インターネットモニタリング」「スクールガーディアン」「ソーシャルアプリサポート」の3つ事業の柱でクライアントを支える過程で、カスタマーサクセスをサポートする機会が増え、カスタマーサクセスの事業を本格的にスタート。特にアディッシュ社のカルチャーでもあるアクティブさ柔軟性が、ベンチャーやスタートアップ企業との相性がよく、積極的にこれら企業の支援をしています。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスの定義は、Japan Customer Success Communityで、「顧客を成功させるために、自社の提供サービスの価値を最大限に引き出せるよう支援することで、結果として、Churn(解約)低減、アップセル、ポジティブなクチコミを実現し、自社の利益に貢献すること」と記載があります。
簡単にいうと、「顧客の成功体験の最大化」ということです。
カスタマーサクセスについては多岐にわたる質問を多くもらいます。
・カスタマー対応はどのようにすればよいか
・ユーザーを獲得したけど解約されないようにするにはどうすればよいか
など、様々な内容がカスタマーサクセスという一つの言葉に集約されてしまいますが、顧客の成功体験を最大化という意味では受動的に行っても良いですし、能動的に行っても良いと思います。
だからこそ、今回は「構造的に分解する」という視点でお話をしていきます。
カスタマーサポートとカスタマーサクセスの違いと顧客との関係
●スタイルの違い
カスタマーサポートでは、受動的なスタイルが求められ、カスタマーサクセスでは能動的なスタイルが求められます。
●KPIの違い
カスタマーサポートでは、顧客満足度や対応数をKPIとし、カスタマーサクセスではサービスの継続率や解約率などをKPIとしている会社が多いと思います。
●ニュアンスの違い
カスタマーサポートでは、プロダクトに関する使い方が中心になると思いますが、カスタマーサクセスではプロダクトの活用方法が中心になると思います。
このように、カスタマーサポートとカスタマーサクセスでは似ている様で異なる能力が求められます。カスタマーサクセスチームを立ち上げて、サポート全体を行っている企業も多いと思いますし、カスタマーサポートとカスタマーサクセスを分けて対応している企業もたくさんいると思いますが、前提として、カスタマーサポートとカスタマーサクセスでは少しニュアンスが異なります。
カスタマーサポートとは、利用開始後の問題解決、カスタマーサクセスは利用開始から提案のタイミングのことを指していると言われます。
(カスタマーサクセス実行戦略|山田 ひさのり (著))
要するに、利用開始からプロダクトの使い方をサポートすることが、カスタマーサポートであり、カスタマーサクセスは利用開始から提案までのことを指すという点では、私は、それでは足りないと思っています。
実際は利用後のユーザー体験を改善することもカスタマーサクセスの非常に大事なパートであり、上記の対応では実際のビジネスでは足りないと。
顧客がプロダクト・サービスを利用する場合、顧客には「それを使ってなし得たいこと」が存在します。そして、なし得たいことを実現するには、次の2点を知る必要があります。
●プロダクト・サービスの適切な操作方法
カスタマーサポートはお問い合わせに対応するためにプロダクトやサービスの仕様を深く精通していることが重要であり、プロダクトやサービスに精通しているカスタマーサポートが担当する必要があります。
●プロダクト・サービスを利用する上での顧客の状況
カスタマーサクセスは、プロダクトやサービスの仕様についてはもちろん、その利用をする上での顧客の状況や内部事情をどれだけ把握できるかがポイントで、これをよく知るカスタマーサクセスが担当する必要があります。
これが混同してしまうと、乖離が生まれて経営者の意図と沿わない状況に発展してしまいます。
カスタマーサクセスの重要性
「カスタマーサクセス」という言葉がよく取り上げられるようになってきた昨今、その背景に何があるかというと、LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)の概念が強くなったことかと思います。
特に、SaaS(Software as a Service)などのサービスがたくさん生まれてきている中で、どのように顧客に使い続けてもらうか、というテーマが強くなってきました。
売り切りのビジネスモデルであれば、顧客が成功せずとも売上はあげやすいですが、サブスクリプションでは解約されてしまい、売上は上がらず、カスタマーサクセスが重要になるのです。
「顧客を成功させるために、自社の提供サービスの価値を最大限に引き出せるよう支援することが重要です。結果としてChurn(解約)低減、アップセル、ポジティブなクチコミを実現し、自社の利益に貢献すること」ができると思います。(Japan Customer Success Community)
それでは、価値はどのように生まれるのでしょうか?
そしてどのように提供できるのでしょうか?
それを、「グッズ・ドミナント・ロジック」と「サービス・ドミナント・ロジック」という2つの視点から考えて見ます。
自動車の価値から考えてみる
<グッズ・ドミナント・ロジックの視点>
グッズ・ドミナント・ロジックはもともとは「売り切り」という意味でした。自動車であれば、自動車を提供するのみが、グッズ・ドミナント・ロジックの考え方でしたが、近年では、サービス・ドミナント・ロジックへと変わっていると思います。
<サービス・ドミナント・ロジックの視点>
「自動車は移動することができるサービス」と考えてみましょう。
・マーケティングの4Pにあたる、モノに価値がある、という考え方
・本当に車を売れば購入者に価値提供できたのか?
・購入者に運転するスキルがなければ、移動という価値が提供できないのではないか?
・購入者の周辺に道路が整備されていなかったら、移動という価値が提供できないのではないか?
・そもそも購入者が求めていた価値は移動なのか?移動は手段でその先に目的があったのではないか?
などと、様々なサービス・ドミナント・ロジックの考え方ができます。そのため、顧客と一緒にサービスをどのように価値を高めていくかということが大事なのです。
「サービス・ドミナント・ロジックは、企業のみでは価値の最大化を実現することができず、企業と顧客が一緒になって価値を共創するという世界感に立つ。すなわち、経営活動のゴールは、交換価値の最大化にとどまらず、その後の「使用価値」を最大化することになります。(https://www.dhbr.net/articles/-/2698?page=2)
つまり、価値提供はできず共創することでしか価値は生まれないということで、サービス・ドミナント・ロジックはカスタマーサクセスに非常に近い考え方です。
それでは、顧客側のサービスが足りないときにどうすれば良いでしょう?
ネットリテラシーがあまり高くない企業に対してSaaSを提供していく場合を考えてみましょう。
SaaSを提供するまでに、プロダクトではない部分をやらなければ、なかなか価値が生まれません。使いこなしてくれる顧客は非常に価値を感じてくれているが、まだ使いこなせていない顧客の場合、どのように使いこなしてもらうかが鍵となります。
例)
・顧客に教育の機会を提供する
・顧客と並走する
・サービスとして提供する(設定代行など)
・代理店やインプリベンターに補完してもらう
・コミュニティでサポート(質問するなど)
などと、顧客側の足りない部分をどう補完していくか。これを考えていくことが、まさにカスタマーサクセスであるといえます。
ここまでのまとめ
●グッズ・ドミナント・ロジックに代表されるような「売って終わり」という時代は終わり、「LTV」を意識する経営に。
→例えばチャーンレートなどが経営における重要指標となりカスタマーサクセスが重要に。
●カスタマーサクセスにおいては、サービス・ドミナント・ロジックの視点でいえば「顧客と価値を共創」を目指すということ。
→顧客側で足りていない「サービス」を補完していくことがカスタマーサクセスの施策
といえます。
カスタマーサクセスを構造分解する
こちらは、Gainsightが提唱する、顧客のレベルが上がるに従って必要となる要素を元素記号に照らし合わせて、カスタマーサクセスの要素を定義している図です。
が、実際にこれを見てカスタマーサクセスを考えつく人は少ないのではないかと思います。
前述のとおり、カスタマーサクセスについて様々な相談を受け、取り組みに難航している企業も多い中で、もう少しカスタマーサクセスというものをビジネスに生かせる形で展開したいと思っています。そのため、今回は2つの視点を提案したいと思います。
江戸教授が2つの視点から提案|顧客ライフサイクルと顧客分類
1つ目が顧客のライフサイクルで2つ目が顧客の分類です。この2つの視点を持つことでカスタマーサクセスを構造分解できると考えています。
<顧客ライフサイクル>
顧客のライフサイクルとして、プロダクト導入→活用→更新/拡大→解約というサイクルがあります。
このライフサイクルに当てはめると、カスタマーサクセスは構造分解できると思います。
顧客ライフサイクルからカスタマーサクセスを見ると、プロダクト導入時には、受け入れから定着・戦力化が必要で、このオンボーディングにはセールスが対応またはカスタマーサポートの担当が対応しているケースもあるでしょう。どの担当者が対応していても、顧客にまず使ってもらえるようなプロセスは必須だと思います。
たとえば、申し込みフローがあったり、最初に何かデータを入れないと使えないこともあるでしょう。あるいは購買するために何かしらのインプットがないと使えないこともあると思います。
その次の活用フェーズは、活用事例や、利用データを分析して、活用をさらに発展することができますし、他の顧客でも展開させることができます。
更新と拡大フェーズになると口コミが波及したり、顧客から顧客を紹介してくれるようなサービスをつくろうなどと、考える必要があります。
解約については、解約対応から解約を防ぐ施策について、ヘルススコアをスキームとして顧客がどのような行動をして、解約になってしまうのかを考える必要があります。
このように、顧客ライフサイクルをベースに考えると自分たちがどの段階を改善する必要があり、施策が必要なのか、理解することができます。
顧客ライフサイクルからカスタマーサクセス施策例を考える
前述した価値を顧客と一緒につくるために、まずは顧客とどの段階でどのような状態を共創できるとよいか想起しましょう。
・今のプロダクトで一番足りてないところはどこか
・ライフサイクルのどの段階の施策が最も効果的か
→それは誰ができて誰ができていないのか
・顧客がどこで落ちるとプロダクトとして問題か
・次のプロダクトフェーズやマーケティングフェーズになった際に、どのように変化するか
などと、顧客のライフサイクルを構造分解して考えていくと、現場から経営者まで疎通しやすい状態になると思います。
<顧客分類>
2つ目の視点は顧客価値の大きさに合わせた「顧客分類」です。
顧客価値とは有り体に言ってしまえば、要はLTVの大きさです。
カスタマーサクセスを検索すると、一度は目にしたことがある図式かと思いますが、それぞれの「タッチモデル」を簡単に解説します。
●ハイタッチ:1対1で顧客と付き合うパターン
・対面での導入支援
・定例ミーティング など
●ロータッチ(ミドルタッチ):複数の顧客を対象としたパターン
・トレーニングプログラム
・複数人ウェビナー など
●テックタッチ:全顧客を対象としたパターン
・チュートリアル
・動画 など
この分類に顧客を分けていくと、すべき施策が見えてきます。
例えば、実際に顧客にプロダクトを提供し、その後顧客に利用してもらうために何をするか、いわゆるオンボーディングを考えてみましょう。
オンボーディングを強めたい場合、ハイタッチならば、顧客と1対1のミーテイングをするべきですし、ロータッチの場合は10人~20人が参加できる導入支援ウェビナーをするべきでしょう。テックタッチであれば、動画などを用意してマニュアルにするなどが考えられます。
「オンボーディングを強化したい」という一つをとっても、顧客分類をすることで、様々な施策が考えられるのです。
このように、顧客ライフサイクルと顧客分類の2つの視点をもつことで、カスタマーサクセスは構造分解できるといえます。
施策とケース例
このように、顧客ライフサイクルと顧客分類という視点で分解すると、カスタマーサクセスチームで行うべき施策や重点ミッションが見えてきます。
例えば、
・カスタマーサポート…一律で発生するため改善型の問い合わせフォームをつくる(テックタッチ)
・ヘルススコア…全指標をみるのではなく、特定の顧客に絞って調査し、その指標に合わせて個別MTGを設定しにいこう(ハイタッチ)
・オンボーディング…全ての顧客に対応する(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)
これはあくまで例ですが、顧客ライフサイクルと顧客分解の視点を入れると、そのチームの最重要ミッションや、プロダクトは、今何を改善するべきなのか、見えてくると思います。
とはいえ、カスタマーサクセス施策はレベルがあり、場当たり的なカスタマーサポートからフレーム化し、顧客をサクセスできる状態から自社のカスタマーサクセスのパターンをつくりあげていくまでに、少しずつ積み上げていく必要があります。
プロダクトやマーケティングの状況で移り変わっていくので、カスタマーサクセスの担当者も同じ施策を続けていると、うまくいきません。
今のプロダクトの状況や未来の状況を考え続けることが大事だと思いますし、いきなり全てに重点を置いてもうまくいきませんので注意が必要です。
2つの視点から見えてくる3つの掛け合わせ
カスタマーサクセスを考えていく中で、顧客の価値を最大化させていく・成功体験を最大化させていくということを前提として、「構造化する2つの視点」を持つことで内容が分解でき、具体的な「施策レイヤー」が見えてくると思います。
一方、「実行するのは人」なので、アウトソーシングも検討しながら、社内外のリソースを活用して、「実行する組織」を形成していくとよいと思っています。
最後に
今回の記事で、カスタマーサクセスの重要性がよりご理解いただけたかと思います。スタートアップの会社に限らずカスタマーサクセスでお悩みがある方は、アディッシュに実際にご相談することもできます♪
▽アディッシュ株式会社についてはこちら
アディッシュ株式会社 | 情報社会で発生する課題解決に貢献する (adish.co.jp)
ビタミンゼミってなに?
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