睨目山のトンネル(ナンセンス小説 2023/11/16)
いいかい、睨目山のトンネルに入ったら、出口を抜けるまでは絶対に振り返っちゃいけないよ
どうしてかって?
睨目山のトンネルはねえ、死霊のたまり場になっているのさ
そりゃあもううじゃうじゃといるんだよ
でも、トンネルをまっすぐ前だけ見て歩いている限りは、奴らからちょっかいをかけられることはないからね
奴らはいたずら好きでねえ
トンネルを通る人を見つけると、笑わせようとその背後に回り込んで、ずっと変顔をしているんだ
顔を引きつらせながら、振り返るときを今か今かと待ち構えているのさ
でも、長いトンネルだからねえ
進んでいるうちに、奴らの変顔が少しずつぎこちなくなっていくのさ
顔の筋肉が疲れちゃうんだろうねえ
しかしぎこちなくはなろうと、奴らは決して変顔を解除することはない
顔の筋肉を休ませている間にもし通行人が振り返ってしまったら、それはもうもったいないからねえ
奴らはそれを何よりも恐れているのさ
でも、奴らも考えてはいるようで、近年はうまく顔の筋肉を休ませる方法を編み出したみたいだ
まずはグループ1が通行人の背後に忍び寄って変顔をし、グループ1が疲れてきたらグループ2が変顔をしながらグループ1と交代する
交代が完了したらグループ1は変顔を解除する
グループ2が疲れてきたら、同じようにしてグループ1と交代するんだ
ローテーションさ
しかしこの方法には欠点があったみたいでねえ
交代を行う間はどちらのグループも変顔をしているから、一瞬互いの変顔を見合うことになる
そのときに「変顔ってそんなに面白いか?」という根本的な疑念が頭をよぎってしまうんだ
しかし始めてしまったからには途中でやめるわけにもいかず、奴らは疑念を抱えたまま変顔の行進を続けるのさ
そのようなことが続いたから、今では奴らの変顔のモチベーションは無に等しい状態
それでも通行人を見かけるとついつい変な義務感に駆られて変顔を始めてしまう
でも、心の通っていない変顔では人を笑わせることはできないのさ
逆に見てる方が無性に物悲しくなってしまうんだ
そんな変顔は見たくないだろう?
だから睨目山のトンネルに入ったら、出口を抜けるまでは絶対に振り返っちゃいけないよ