キャリアカーからの脱出(ナンセンス小説 2023/11/08)
俺は今キャリアカーに閉じ込められている。
背中に乗用車を何台も乗っけているバカでかいトラックがあるだろう。あれがキャリアカーだ。
邪悪組織ハイキーショブーンの手にはめられ、キャリアカーの荷台の内部……二層構造の下層部分に取り残されてしまったのだ。
キャリアカーの荷台部分は鉄骨で粗く囲まれているだけなので、出ようとすれば外へ出られる。だが、キャリアカー自体が高速でF1サーキットを周回しているため、着地に失敗すれば大けがは避けられまい。
どうにかして安全に外に出る方法はないものか……
荷台の下層には、2台の乗用車が積まれていた。
車の中に何か使える道具がないかと思い、俺は揺れに気を付けながら近い方にある車に近づきドアを開けた。
ドアを開けたとたん、中から凄まじい数のイナゴの大群が飛び出してきた。俺は驚いて危うく荷台から放り出されそうになったが間一髪のところで踏みとどまった。
一方イナゴの大群は荷台の外へ散り散りになり、それを狙う鳶の大群がサーキット場を包囲し始めた。
俺は恐る恐る下層にあるもう1台の車のドアを開けた。
すると中からカニの大群がうじゃうじゃとこぼれ出ていき、サーキット場の路面を瞬く間に覆いつくしてしまった。
更にカニを狙ってどこからともなくアライグマの大群が現れ、いたるところでぴょんぴょん飛び回り始めた。
俺は見たこともないような生命の躍動に感涙したが、脱出の手がかりは得られていない。上を見上げると、上層にも1台車が積まれているのが見えた。俺は風圧の中、死に物狂いで鉄骨を登り上層へ移動した。
上層に着くと、体全体に強い日差しが照り付けた。さらに、鳶のフンが四方八方から嵐のように降り注いてくる。
俺は怒り狂いながら上層にある車のドアを開けた。
中は緑色のドロドロした物体で埋め尽くされていた。
それは……巨大なアオミドロの塊だった。
アオミドロは車から流れ出る時に、俺の体を力強く押し出した。
まずい、車から放り出される!
もはや、これまでか……
……気が付くと、俺の体は何かに乗って道路を疾走してるようだった。
一体何が起こった?まだキャリアカーの上にいるのか?
俺は、自分が乗っている"それ"にゆっくり視線を下した。
これは……カモシカの大群!
アオミドロを狙ってやってきたカモシカの大群の背中がクッションとなって、俺は一命をとりとめたようだった。
周りをよく見ると、トンボの大群にヘビの大群、イタチの大群、さらにはヌーの大群と、サーキット場は多種多様な生物の楽園と化していた。
しばらくはカモシカの背中に乗ってこの楽園を駆け抜けようか……それで頃合いを見て降りればいいだろう……
後日、キャリアカーの運転席からゴブリンの大群が湧き出てきたのはまた別のお話である。