氷上の決戦(ナンセンス小説 2023/11/04)
「さあ始まりました、藤井渡のフリーです。今大会最後の演技となります。」
「金メダルがかかってますからね。出し切ってもらいたいものです。」
「まずは軽快な滑り出しからの……トリプルなんとか!トリプルなんとか!ダブルなんとか!」
「素晴らしいですね。完璧に決めていきました。」
「出だしは文句なしといったところでしょうか。さあ続いては……えー……そろそろかな?……きた、トリプルなんとか!ダブル?なんとか!シングルなんとか!」
「ふたつ目もトリプルじゃないですか?」
「えー、そうかもしれませんが、よくわかりません。最後のシングルってこれミスなんですかね?」
「うーん、わかりませんが、迫力もなかったしミスだったのかもしれないですね。」
「さあ続いて……しばらくそのまま滑っていますね。」
「いや、これステップってやつですよ。立派な技です。スケートしながらこんな動き出来ないでしょ?」
「いや、私スケートしたことないので……。この辺りはジャンプしないんですかね?」
「なんか事前に回数が決まってるらしいですよ。ぴょんぴょん飛びまくれば点数が伸びるってものでもないようです。」
「へえ。」
「あ、そうこういってる間に……減速してる?」
「あ、回り始めました!スピンですね!」
「片足だけ地面につけてぐるぐる回っていますね。」
「こういうのって回ってると逆にバランスとりやすかったりするんですかね?コマみたいに。」
「えー、どうなんだろう?それはちょっと分からないなあ……あ、ポーズが変わった」
「回りながらポーズを変えていますね。あ、今また変わりました!」
「バリエーションが豊富ですね。」
「藤井選手は回り続けていますが、ここで楽曲の情報をお伝えします。演技で使わているこの楽曲、皆さんも聴き馴染みがあるのはないでしょうか。有名なクラシック曲、ベートーベンの『トッカータとフーガ ニ短調』です。」
「バッハじゃないですか?」
「あれ?これってバッハでしたっけ?」
「バッハです。」
「失礼いたしました。バッハの『トッカータとフーガ ニ短調』だそうです。」
「あ、今ジャンプしましたよ!」
「嘘!?見逃しました。いつの間にスピン終わってたんですか?」
「スピンは楽曲紹介し始めてすぐ終わってましたね。」
「あら、タイミングが悪かったですね、すみません。今のジャンプはどんな感じでした?」
「2連続で飛びましたが、どっちもトリプルじゃないかな。」
「4回転ではない?」
「あー、どうだろう、歓声すごかったから4回転だったのかな。4回転ってなんて言うんでしたっけ、英語で。」
「クアドラプルですね。でも3回転か4回転かなんて素人には分からないですよね。」
「そうですよね。見分けられる人はすごいと思います。」
「さあ、そろそろ演技の終盤のようです。ですよね?」
「え?あと1分ぐらいあるんじゃないですか?」
「そんなにはないんじゃないかと……」
「あ、今終わりました。すみません、全然違いましたね。」
「いえ、お気になさらず。」
「さあ、間もなく得点発表です。金メダルの獲得には115点ぐらい必要らしいです。」
「え、今暫定1位の選手は120点出してましたよ?115でいいんですか?」
「これって1回目の演技のスコアが低い順に滑ってるんじゃないでしたっけ?」
「そうか、じゃあ120点より低くてもいいのか。」
「藤井選手の隣にいるのは、父親でしょうか。」
「コーチじゃないですか?こんなところに父親は入れないでしょう。」
「いや、藤井選手の父親がコーチをしてるらしいですよ。」
「あ、そういうこと!」
「得点出ました!!ええと……これどこ見るんでしたっけ?勝ったのかな?どっちこれ?」
「藤井選手泣いていますね。金に届かなかったのかもしれません。」
「これそっちの涙ですか?嬉し涙じゃないかと。」
「どっちの涙なんでしょうこれ。」
「あ、これ金です!!今ちらっとスマホみたらニュースアプリの速報通知来てました!藤井選手、金メダル!!!!!!」
「ほんとですか!!いやー、やりましたね!!!」
「おめでたいですねー。」
「おめでたい。このスポーツ初見なのになんかすごく感動しちゃいました。」
「私もです。」