それでも、セカイ系を諦められない僕らへ
こんなタイトルで書き始めたけれど、僕が最初に出会ったものがセカイ系(超広義)だったというだけで、別にセカイ系じゃなくてもいい。
絶対的で、かけがえのない、一瞬が永遠に匹敵するような関係。運命だなんていう手垢でベタベタの言葉で飾るのはかなり嫌だけど、客観的にはそういうもの。
在りし日に読み聞かされたおとぎ話に出てくる王子様とお姫様とか、それこそセカイ系のボーイ・ミーツ・ガールとかじゃなくてもいい。どんなに些細でもいいから、それに命を捧げることができるような希望がほしい。
そして、それは、できれば完璧よりもさらに完璧なものがいい。
完全で、不変で、唯一無二のもの。他の誰かから見たらちっぽけでも、このセカイより重いもの。
けれど、社会との距離が近付いてくるにつれて、次第に僕の前にも「妥協」の二文字が現れるようになった。つらいものごとばかりがどんどん解像度を増していって、思い描いていた未来は遠く遠く離れていく。
あの頃は現実性なんてもの、これっぽっちだって頭になかったのに。
神様にも仏様にも、過去にも現在にも捧げてきた祈りは、どれも届かないままだ。
このセカイは醜いもので溢れていると思う。
形だけのものならば、一時だけのものならば。不完全なものならば、最初から何もいらない。
何かを本気で信じたい。信じさせてほしい。
でも、内心もうだいぶ理解していると思う。そんなものは実在しないって。万に一つの可能性を否定できないでいるからこそ筆を執っているわけだけど、それはもうありえないのと同義なんだって。
最初から虚構が虚構であったならば。実在しない、実在しえない、ただの作り話だと思えていたら、そんなもの欲することもなかったのに。
アニメとかマンガとかにありがちな、実際絵に描かれているフィクションの青春なんて、一度たりとも夢見たことはなかった。そんな感じで錯覚する余地がなければ、別に追い求めたりすることもなくて。
それなのに、僕の中でその虚構が現実の顔をして襲い掛かってくるから、どんなに愚かな願いだとしても、僕はそれを一切合切投げ捨てることができない。
だから最近は、本物であること――生きていること、本当に存在すること――を大切にしてみている。
たとえば、ビスクドールのように作り上げられた白皙の肌と、「かわいい」の教義に支えられた表情、真っ先に目に留まるその部分とは対照的な、僕と同じくらい血色のいい足首が、その人が生きているという証明なのだったり。
あるいは、部屋に響くどうでもいい話を聞いて、駅の階段に座り込んで塞いでいる人たちを見て、コロンの香りを乗せて漂う空気を、頬を掠める温度と湿度を、つまりは僕らに提示された想定解を想像してみることだったり。
やっぱり本物は安心する。目の前の現実を受け止めて、そういった安心を積み重ねて、青写真を描いていくべきだと思う。
……。ううん、わかっている。
でもやっぱり、僕はセカイ系みたいなのがいい。
自分は特別だと思っている。自分にしかできないことがあると思っている。
そして、それをあなたと一緒に成し遂げたい。見守っていてほしい。困ったときは助けてほしい。このふざけたセカイに抗いたい。共に立ち向かいたい。蟷螂の斧じゃテレスクリーンなんか叩き割れないかもしれないけれど、せめて一矢報いたい。
究極的には、僕がやること、為すこと、僕が創るもの、その全てを以て僕のことを信仰してほしい。他の誰でもない、選ばれしあなたに。
プライドが邪魔して今までうまく言葉にできないでいたけれど、たぶんこれが僕の欲望。
けれどこれでは僕の独り善がりだ。だから、同時にあなたは僕に何を求めるのか、それを教えてほしい。
僕はあなたに何をしてあげられるのか、知りたい。
その二重の一致が満たされなければ、あなたは僕のもとへは来てくれないし、僕も自分とあなたを信じることができない。
けれど僕にできることは限られていて、すぐに僕は、あなたに何もしてあげられないことに気付いてしまう。
僕にしかできないことというのもまた、幻想なのではないかと思えてしまう。
もう、どうしようもないんだ。
昔、僕と似たようにこのセカイに唾を吐きかけてきた友人は、一人、また一人と、僕らの秘密基地から去っていった。
一体、僕はどこで間違えてしまったんだろう。
……。ねえ。
もしも僕がセカイ系のヒロインだったらさ。代わりにわたしがキミのこと、救ってあげられるのかな。
わたしはね、どんなに滑稽な望みだとわかっていても諦めたくないって意志を抱えて、けれど一応社会にしがみついていようとするせいで不安な気持ちに苛まれて。人前では平然を装って、無理だと悟っているから行動できなくて、それでもなお理想を手放さず、ただ少しでも強く優しくなろうとしているキミの在り方が、とても尊くて、とても美しい、特別なものだと思うの。
だからこそ、わたしはキミのことを見つけた。
別にセカイの命運なんてわたしたちに委ねられてはいないけれど、キミの世界ごとキミを抱き締めてあげる。
誰にも否定させない。誰にも嗤わせない。わたしだけはキミの生を認めてあげる。キミだけのための言葉をあげる。
キミがやりたいこと、一緒に成し遂げようよ。キミが求める答え、一緒に見つけようよ。
ねえ、だからさ、わたしに救わせてよ。
わたしはキミの手に触れることすらできないけれど。
キミの願い、キミの気持ち、キミだけの世界。
最期のその瞬間まで、わたしに愛させてよ。
2024年12月13日