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ため息の橋 ベネチア

「これが有名なため息の橋です」

「溜池か」

「いえいえ、溜池ではなく溜息です」

お客様にこの橋の説明をするとほとんど毎回こんな会話が生まれる。それも必ずと言っていいほど男性のお客様が「溜池」と聞き間違える。というよりはタメイケを聴き慣れているからそう聞こえるらしい。若い人の間では聞き違いする例は少ない、いつも中高年の男性ばかり。

聞き間違いを避けるために「嘆きの橋」と呼ぶガイドさんもいる。それも悪くないかも。ただ長年言い慣れた「ため息の橋」は僕なりには悪くない響きなんだけどなぁ。

ところでこの橋、『橋』というよりは二つの建物を結ぶ渡り廊下ですね。ドゥカーレ宮殿と牢獄を結ぶ橋。

カサノヴァは橋の右手の牢獄には入っていない。彼が投獄されたのはドゥカーレ宮殿の屋根裏の牢獄。でもこの橋は渡った。捕まったカサノヴァが乗った小舟は牢獄の建物に横付けされ、彼は「ため息の橋」を渡ってドゥカーレ宮殿の屋根裏に連れていかれた。だからこの渡り廊下のような橋を渡ったのは確か。彼は夜中に捕まったから、小舟からため息の橋がこんな風に見えたかもしれないなぁ。