高配当株投資を勧めない理由
配当利回りが4〜6%程度の高配当株投資が一部の株クラで人気となっているようです。
特にFIRE(経済的自立と早期退職)を狙う方に多い気がします。
金融資産が一億円程度あれば、平均配当利回りを5%とすれば年間配当は500万円ですから、約20%の税金を支払ったとしても手元に400万円が残る計算となり、日本人の給与収入者の中央値が350〜400万円であることを考えると十分に生活することができるでしょう。
高配当株は一般的に成熟産業
成長産業の企業であれば、企業収益を配当に回して株主に還元してしまうよりも、設備投資や人的投資に回すことで複利効果を活用してさらなる業績の向上を狙うことができまので配当利回り(配当性向)は低い傾向にあります。もっともそれが成功するかどうかは個別企業や産業に依存しますが、まともな経営者であればそのように考えるはずです。
一方で配当をじゃぶじゃぶ出している会社というのは安定して企業収益をあげることができているものの、既に産業として成熟しており企業収益を将来投資に回したところで成長可能性が低いと経営陣から判断されている場合が多いと思われます。
もっとも高配当を謳うことで高配当株投資家の資金流入を狙い株価の上昇を狙っている企業も存在しますが、そのような企業は配当性向が高く、場合によっては100%以上(企業収益以上の配当を配っている)となっている銘柄も存在します。配当性向が100%以上ということは会社の資産を取り崩して配当を行っているということであり、いわゆる「タコ足配当」を行っているということになります。タコ足配当を行っている場合、その企業の純資産を食いつぶしてしまった場合にはそれ以上配当金を配ることができなくなり、減配となってしまいます。
そうしたタコ足配当を続けている会社は持続性がないため、絶対に買ってはいけません。したがって高配当株投資を行う際には十分成熟した産業で安定した収益をあげている銘柄を選定する必要性があります。
キャピタルゲインは狙えない
高配当株投資を行う際には十分成熟した産業の銘柄を買うことになりますので、企業収益の増大による株価上昇(キャピタルゲイン)を狙うことはできません。
そもそも高配当株投資を行う以上、期待するのは年間配当でありキャピタルゲインについては期待しないという投資方針となりますが、これには大きなリスクがあります。
企業収益の長期的安定性
投資先の銘柄が安定的に収益をあげている間は問題ないのですが、万が一何らかの内的・外的要因で企業収益が落ちてしまうと減配に繋がり、結果的に高配当を目的としていた投資家の売りが殺到し株価は下落してしまいます。
したがってキャピタルゲインの観点としては「アップサイドは狙えないがダウンサイドリスクはある」ということになります。
企業収益の安定性は業種や会社にもよりますが、インターネットが十分に発達した昨今においては科学技術革新や人々の行動の変化といった社会的変容はインターネットの普及前と比べて格段に短期間で発生しえます。
業界内でナンバーワンの地位を長年に渡って築いてきた企業であっても、最新技術やインターネットを用いた革新的なサービスを提供するベンチャー企業の登場により淘汰されてしまう可能性があります。
例えばテレビ業界などは既にYouTubeやTikTokなどのインターネットを介した動画配信サービスの成長により衰退の一途を辿っており、実際にテレビを持っていないという家庭も多いのではないでしょうか?とはいえまだまだテレビは現役でありテレビの配信周波数を新たに取得することが難しく既得権益(新規参入は不可能)となっていることなどのポジティブなファンダメンタルズは存在しますが、今後衰退する可能性は高い一方で成長する余地は低いと考えています。
また例えば日本たばこ産業 (JT; 2914) は高配当株銘柄として比較的人気な銘柄ですが、健康的被害が存在することなどから特に若年層を中心として愛煙家は減少傾向にあります。現在のところは比較的安定的に企業収益は推移していますが、今後喫煙者率の多い中高年層の減少により企業業績が悪化する可能性は高いと考えています。
配当利回りとキャピタルロス
たとえ6%といった極めて高い配当利回りがあったとしても、年間で株価が6%以上下落してしまえばトータルとしては損失となってしまいます。もちろん年単位では景気循環などもありますので、配当とキャピタルゲイン/ロスを含めた損益は単年ではあまり気にする必要はありませんが、5年、10年といったスパンで配当とキャピタルゲイン/ロスの合計値がマイナスであれば投資結果としては失敗となり、FIREを目的として高配当利回り銘柄を保有している方は再就職を迫られる可能性があります。しかしFIREを行い職歴に長いブランクがある場合には再就職をしようとしたとしても、就職面接においてはこのブランクはかなりのマイナス評価を受けることとなり、再就職は困難です。
おすすめしない理由
以上のようにアップサイドへの期待は薄い一方でダウンサイドへのリスクが存在しますので、少なくとも僕は高配当株投資は積極的に行っていません。
もっとも、定期的にリスク評価を行い投資先の業界全体や企業単体での凋落リスクを正しく評価した上で定期的な銘柄入れ替えを行うのであればリスクを低減させることができますので、定期的に適切かつ合理的なポートフォリオの見直しをするという前提では投資方針の一つとしては有力なものではあると思います。しかし、逆に言うと適切なデューデリジェンスを行うことのできない投資初心者が配当目当てで安易に高配当株投資を行うことは愚策と言えます。
高配当株投資は安定的に高いキャッシュフローを得られるという心理的安全性が高い投資手法となりますので、全面的に否定するわけではないのですが、決して安全かつ簡単な(初心者向けの)投資手法ではないと考えています。
そもそも配当を行うと、理論的には権利落ち日の前後で配当金の額だけ株価は下落する(PBRの変動がないと仮定した場合)ため、含み益に対して課税がされない日本の税制上では強制的な利確行為であり、自己のコントロールできないタイミングで利確と税金が発生します。
高配当株投資自体を否定するわけではありませんが、巷のメディアで大きく取り沙汰されている記事を鵜呑みにして投資初心者が安易に手を出すと長期的には失敗する可能性が高いと考えています。ある程度投資経験を積み適切なリスク評価ができるのであれば、安定したキャシュフローを得られるという心理的安全性は高いですので、投資経験が長く平均寿命に近い年齢に達しており老後資金として安定したキャシュフローが欲しい、という方にとっては検討に値する投資手法です。しかし20〜40代程度の現役世代で収入の一部を投資に回す余力(入金力)がありリスク許容度も高い方は、株式市場の平均リターン(7〜10%)を下回るような高配当株投資よりも「攻めた」投資手法を中心に資産形成をされてはいかがでしょうか?
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