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ストリップス債(ゼロクーポン債)

証券会社で国債を購入する際、「ストリップス債(ゼロクーポン債)」というものがラインナップされている場合があります。
この記事ではストリップス債とはなにか?またメリットデメリットは何か?についてお話します。

楽天証券の米国ストリップス債販売条件
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/bond/foreignbond/usd/issued07.html

ストリップス債とは?

ストリップス (STRIPS) 債とは「Separate Trading of Registered Interest and Principal of Securities」の略であり、利回りの貰える債券(利付債)を元本部分と利子部分(クーポン)に切り離して販売されているものです。
楽天証券で購入できるのは元本部分のものであり、これを購入しても利子はまったく貰えません。
「利子が貰えないやつとか買う意味ないじゃん」と思うかもしれませんが、元本よりも大幅に割り引いた価格で購入することができます。
上記の画像の例では、残存期間6年1ヶ月のものは額面価格の79.06%、21年1ヶ月のものは43.55%と、後者は実に額面の半分くらいの価格で購入することができます。
もし額面価格の半分のストリップス債を購入すれば満期日には満額が貰えますので、倍になります。
なぜ額面価格よりも非常に割安な価格で買えるのかというと、その価格は市場金利を反映した価格になっているからです。
もし市場金利が10%だった場合、1年後に償還となる無利子債(ゼロクーポン債)を額面で100万円分買う場合には、銀行に預けていた場合には110万円になるわけですから、額面100万円のままで購入してしまっては相対的に損になってしまいます。
そのため、市場金利を反映した割安な価格で購入する必要があり、この場合には例えば90万円で購入することができれば銀行に預けていた場合には99万円になるところ、100万円が貰えるということになるので相対的にはこのくらいの価格で売買されることになります。

ストリップス債の理論価格

元本部分

では、どのくらい安い価格で購入することができればいいのでしょうか?
市場金利を r とし、購入価格を x、満期が n 年後とすると、銀行に預けていた場合には複利計算で $${x \cdot (1 + r)^n}$$ となるはずですから、償還(元本)金額がこれよりも多ければ十分魅力のある価格設定となります。
したがって元本価格を y とすると

$$
\displaystyle \text{(ストリップス債の理論価格)} = \frac{y}{(1 + r)^n}
$$

よりも安ければ買ってもいいでしょう。

それではこの公式を用いて、楽天証券での販売価格を検討してみましょう。
執筆時点 (2023年7月) の市場金利はおおむね4.5%程度(MMFの利回りを市場金利と仮定しています)ですので、

  • 6年1ヶ月もの:76.51%(※楽天証券販売価格:79.06%)

  • 21年1ヶ月もの:39.53%(※楽天証券販売価格:43.55%)

となりますので、6年1ヶ月ものであれば理論価格よりも安いため購入してもよさそうですが、21年1ヶ月ものはちょっと割高ですね。
ストリップス債を購入する場合には理論価格をちゃんと計算し、購入に値するかどうかを考えるとよいでしょう。

利子部分

次に利子部分の理論価格を考えてみましょう。
なお利子部分については証券会社での販売はあまりされていないようですので、おそらく機関投資家などのプロ向けにしか販売されていないのだと思います。
ですのでこの節については読み飛ばしていただいても構いません。

利子部分の利回りについては、定期的に貰えるキャッシュフローを現在価格に割り引けば計算できます。元本価格を y とすると

$$
\begin{array}{ll}
\text{(利子部分の理論価格)} & \displaystyle = \frac{yr}{1 + r} + \cdots + \frac{yr}{(1 + r)^n} \\
& \displaystyle = y \left( 1 - \frac{1}{(1 + r)^n} \right)
\end{array}
$$

となります。
途中で等比数列の和の公式を利用しました。

いまの計算では将来キャッシュフローを割り引くことで愚直に計算を行いましたが、実はもっと簡単な考え方があります。
ストリップス債は債券を元本部分と利回り部分に分割したものであると説明しました。
ということは、債券の元本部分の価格と利回り部分の価格を足したものは債券の現在価格(元本価格)に等しくなるはずです。
このことから利回り部分の理論価格は

$$
\displaystyle \text{(利子部分の理論価格)} = y - \frac{y}{(1+r)^n}
$$

となるはずです。
これはキャッシュフローから計算した結果とまったく一緒となりますので、暗算する場合にはこちらの「考え方」を利用するほうがいいでしょう。

メリット

ストリップス債を購入するメリットとしては、少ない投資金額で大きな将来キャッシュフローを得られることです。
通常の利付債券では額面価格と同じ価格を支払うことになりますので(利払いは年2回あるので早めに利子を貰えますが)初期の支出は多くなってしまいます。
しかしストリップス債では額面価格よりも大幅に安い金額で購入することができるため、少ない初期投資で大きな金額が将来的に貰えるのが魅力です。
また、利付債券では利払い日にもらった利子を再投資するのは難しい(債券の最低購入価格に届かない)ですが、ストリップス債では基本的に複利計算での割引価格で購入することができるため複利効果を直接的に得られるのが魅力です。
また金利が下落した際には債券価格が上昇するため、満期まで保有せずに金利の下落を見越して購入する、といった使い方もできます。米ドル建てで変動金利で借り入れを行っていた場合などには、これによって金利変動をヘッジするなどの使い方も想定されます。

デメリット

ストリップス債に限らず、債権投資には主に以下のリスクがあります。

  • 投資先の破綻(デフォルト)リスク

  • 金利上昇による債券価格の下落リスク

前者については自国通貨建て国債(米国債、日本国債など)であればデフォルトすることは基本的にありませんのでリスクはゼロですが、社債や自国建てではない国債(ユーロ建て債など)はデフォルトリスクがあります。
後者については、金利と債券価格は「シーソーの関係」にある、すなわち市場金利が上がると債券価格が下落してしまう可能性がありますので十分注意したいところです。満期まで持つことを前提としていれば気にしないかもしれませんが、手元に現金が必要となり中途解約(売却)する際には損失を出してしまう可能性があります(もちろん、逆に金利が下がれば利益となります)。

まとめ

  • ストリップス債は小さな元手で大きな将来キャッシュフローを得られるメリットがある

  • 金利は貰えないので、定期的なキャッシュフローは得られない

  • 金利が上昇すると損する可能性がある

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