小説【アコースティック・ブルー】Track6: Paint it,Black #2
白い壁が疾走する靴音と荒々しい息遣いを大きく反響させる。
SEIICHIは事故の一報を受けて急いで病院に駆け付けた。
”救命救急センター”の看板を確認して病室に飛び込むと、既に連絡を受けて駆け付けていたメンバーや、スタッフ、親族がベッドを囲むように佇んでいた。不吉で耳障りな電子音が鳴り響き、肩を震わせてすすり泣く声が聞こえる。ベッドには不思議なくらい穏やかな寝顔をして横たわるTASKの姿があった。
「SEIICHI ――一足遅かった……」
SEIICHIの姿を認めてICHIROUがそう伝える。SEIICHIは人垣を押し退けてベッドに詰め寄った。
「嘘だろ。そんなわけねぇよな……!」
その瞬間まで何かの冗談だと思っていた。目の前のTASKもただ眠っているようにしか見えない。しかし場の空気が真実だとSEIICHIに思い知らせた。
「おい、ふざけんなよ! まだツアー終わってねぇんだぞ!
新曲の構想があるって言ってたじゃねぇかよ!」
ベッドに横たわるTASKの肩を掴んで揺すり始めるSEIICHIを、他のメンバーやスタッフ達が止めに入る。ベッドから引き剥がされたSEIICHIを慰めるように、ICHIROUが肩に手をかけた。
「なんでこんなことに……? 事故って何だよ……!?」
「ツアーファイナルで予定してた演出だよ。ワイヤーで宙づりになるやつ。
多分、装置が誤作動おこしてそれで……」
「俺が提案した演出か……っ!?」
ICHIROUは肯定も否定もせずにただ悔しそうに歯を食いしばっている。ICHIROUのそんな苦悶の表情にSEIICHIはTASKの身に起こった悲劇が疑いようの無い真実だと改めて実感した。SEIICHIの顔からみるみる生気が失われていく。
「俺のせいだ……!」
震える声で苦々しく一言吐き出すとSEIICHIはその場に膝からくずおれた。
深い後悔と失意に沈むSEIICHIが奥歯を噛み締めながら涙を堪える姿に、周りにいるメンバーやスタッフ達はどうすることもできず、ただただ立ち尽くした。
TASKの眠るベッドの脇に設えられた小さなテーブルには、彼の衣類や所持品が置かれている。その中にディスプレイが無残にひび割れたデジタルプレイヤーが置かれていた。