第一回ふじえだ短編演劇祭(2019)観客賞受賞作品「つかずはなれず」

今日は昨年
藤枝短編演劇祭
出演作品を公開します

この作品は有り難い事に審査に於いて観客賞を頂いた作品です
しかしあくまでも脚本の力で受賞した物ではなく
観客の皆さんと空気を共有しながら創り上げ
上演順などにも恵まれての受賞です
更には俳優の努力もあっての物でもあるので
「これで観客賞?」とか懐疑的な目線で見ないように(笑)

では作品紹介
ジャンル  コメディ・現代劇
上演時間  15分
出演者   2名
場面転換  無
上演難易度 低

「つかずはなれず」

   この物語の登場人物は二人
   舞台は雪山にある山小屋
   二人の男がいる
   男の一人「渡辺」は考え事をしている
   もう一人「神田」は窓の外を眺めている

神田   
「うわー、凄え。雪めっちゃ降ってる。凄くない?静岡じゃさ、滅多に降らないから、テンション上がるよね。めちゃくちゃ綺麗だなぁ、雪っていいよねえ。渡辺もそう思わない?」
渡辺   
「別に。」
神田   
「え?何で何で?雪だよ?テンション上がるでしょ普通。静岡県民なら。」
渡辺   
「普通ならな。」
神田   
「何それ?え?雪なんて珍しくないって?スノボに行くから普通的な?リア充アピールですか?」
渡辺   
「遭難してんだよ、俺達・・・。」
神田   
「・・・雪綺麗だなぁ。」
渡辺   
「じゃなくて、なあ神田、お前状況分かってるのか?」
神田   
「状況?」
渡辺   
「だから、俺達遭難してるんだぞ。」
神田   
「そうなんだ。」
渡辺   
「・・・。いいか、今俺たちはこの雪山の山小屋にいる。外は吹雪で身動きが取れない。スマホも圏外で電波は無い。救助が来るまで待つしかない。」
神田   
「それ、俺達、遭難してない?」
渡辺   
「だから、さっきから言ってるだろ。そうなんだって!」
神田   
「・・・あ~あ。」
渡辺   
「今のは違うぞ。今のはお前が言わせたからだ。」
神田   
「分かってるって、本当はお前も言いたかったんだろ。分かる、分かるよ。こういう時にしか言えないけど、言ってはいけない一言だものな。不謹慎であるからこそ惹かれてしまう禁断の言葉遊び。遭難したんだ、そうなんだ。」
渡辺   
「それで何でそんなに能天気でいられるんだよ。少しは緊張感持てよ。」
神田   
「え?どういうこと?」
渡辺   
「何でわからねーんだよ。普通分かるだろ?」
神田   
「いや、ピンと来ないな。ちょっと手本見せてくんない?」
渡辺   
「何だよそれ。だからな・・・「ダメだ、スマホも通じない。俺達完全に遭難したみたいだ」「そうだな、助けが来るのを待つしかないか」「とにかく寝たら危険だ。お互いに寝そうになったら、起こそう」「ああ、救助が来るまで二人で助け合おう」みたいになるだろ、普通。」
神田   
「ああ、はいはい。そう言う奴か。「ダメだ、スマホも通じない」「Wifiあるんじゃない?」
渡辺   
「ねえよ。何でこんな雪山にWifiがあるんだよ。」
神田   
「だって駅前ならどこにでもあるじゃん。」
渡辺   
「ここは山ん中。駅前の真逆だよ。」
神田   
「ここも駅前かも知れないだろ。俺たちの終着駅。」
渡辺   
「・・・そう言うこと言うな!確かに緊張感出るけど、そういうのじゃないだろ。」
神田   
「分かったよ。「ダメだ、スマホも通じない」「助けが来るのを待つしかないな」「わりい、俺が山に行こうなんて誘ったばっかりに」「やめろよ、渡辺。お前のせいじゃないだろ」「だって、俺が山に行きたいって言ったから、神田はいつも優しいから付き合ってくれたんだろ。お前は本当に友達想いだし、気配りも出来てトーク力もある。おしゃれだし、清潔で運動神経も抜群だから。男女問わず人気者で、俺なんかとは正反対の人間だ。だから絶対に俺のせいなんだ」「そうだな、渡辺お前のせいだ」
渡辺   
「やめろ!何ひとのせいにしようとしてるんだ。しかもなんだよ、自分の事友達想いとかおしゃれとか人気者とか。勝手に俺に何言わせてんだ。」
神田   
「いや、ありのままのお前を表現したつもりなんだけどな。あれ?じゃあこんな感じか?「悪い、俺が誘ったばっかりに」「やめろよ、今はそれどころじゃないだろ」「そうだな、悪い」「俺が出来心で地図をすり替えたせいだ」
渡辺   
「お前、何してるんだ!」
神田   
「いや、冗談だよ。そんな事する訳ないじゃん。」
渡辺   
「お前、この状況で良くそんな冗談が言えるな。」
神田   
「だってさ。」
渡辺   
「だってなんだよ?」
神田   
「いや、だって深刻になったってどうにかなるわけじゃないだろ?」
渡辺   
「だからってふざけていいわけじゃないだろ。」
神田   
「分かってるよ?でもさ、苦手なんだよ、暗くなるの。」
渡辺   
「状況を考えろって言ってるんだよ。TPOだよ、TPO。」
神田   
「ああ、東京フィルハーモニー交響楽団?」
渡辺   
「それは東京(T)フィルハーモニック(P)オーケストラ(O)TPOだ。」
神田   
「デヨージナーゼ?」
渡辺   
「甲状腺ペルオキシダーゼの略称じゃない!」
神田   
「おお、良く知ってるね。」
渡辺   
「お前もな。じゃ、なくて。だからこれだよ、これ。こういうのをやめろって言ってんの。」
神田   
「何で?」
渡辺   
「だから、俺達遭難してるんだぞ。食べ物も飲み物も限られてる。救助が来るかも分からない。余計な体力を使わない方が良いんだって。」
神田   
「張り切ってるのはお前だけだぞ?」
渡辺   
「張り切ってないよ。必死なの、俺はこの状況を乗り切りたくて必死なの。」
神田   
「大丈夫だって、助かるよ。」
渡辺   
「そんな保証どこにもないだろ?」
神田   
「そう思ってると気が持たないだろ。あんまり深刻に考えすぎると返って危険じゃないか?」
渡辺   
「何で?」
神田   
「精神的に追い詰められて、理性を失うかもしれないだろ。「ダメだ、このまま助けなんて来やしないんだ。俺たちはこのままここで死んでいくんだ。食べ物もあと少し、助けが来る前に餓死してしまう・・・。はっ、あいつがいなくなれば、食料は俺だけの物だ。あいつさえいなければ。神田!死ね!・・・はっ、いない。馬鹿なあいつは確かにここで寝ていたはずなのに。どこに行った?」「フハハハハ、バカめ。お前の考えなどお見通しだ。自分だけ生き残ろうなんて愚かなことを考えおって」「くそっ、ばれていたのか。畜生!殺せよ、俺を殺してお前が生き残ればいいだろう」「バカ野郎。お前を殺してまで生き残って何になるんだ。諦めるな、二人で行き残って、笑顔で家に帰ろうぜ」「神田。お前は本当に良い奴だ。友達思いだし、気配りも出来てトーク力もある。おしゃれだし、清潔で運動神経も抜群だから。男女問わず人気者で、俺なんかとは正反対の人間だ。だから俺が死ぬべきなんだ!グサッ!」「渡辺ぇ!」
渡辺   
「お前、何回俺のせいにしたいんだよ。」
神田   
「え?だってお前のせいでしょ?」
渡辺   
「え?」
神田   
「え?」
渡辺   
「ちょっと待って、どういうこと?え、お前、遭難したの俺のせいだって言いたいの?」
神田   
「大丈夫だよ、俺は気にしてないから。」
渡辺   
「そうじゃなくて。遭難したのが俺のせいってどういうことだよ?」
神田   
「いや、だって地図を持ってたのはお前だろ?」
渡辺   
「そうだけど。」
神田   
「だから。」
渡辺   
「でも、こっちの方が平らな道だからこっち行こうぜって分かれ道で俺の指示を無視したのはお前だろ?」
神田   
「そうだっけ?」
渡辺   
「そうだろ。お前がそんなことしなければ、今ごろ俺たちは普通に下山していたんだよ。」
神田   
「あー、そっかそっか。じゃあ俺のせいか。悪い悪い。」
渡辺   
「お前な、もう少し反省しろよ。って言うか、申し訳ないって思わないのか。」
神田   
「思ってるよ。謝ってるじゃん。」
渡辺   
「(何か言おうとして)・・・もういいや。」

   少しの間

渡辺   
「そう言えばさ。」
神田   
「うん?」
渡辺   
「何か前にもこんな事なかったっけ?」
神田   
「(考えて)そうだっけ?・・・遭難?」
渡辺   
「いや、分からないけど。何か似たようなことなかった?」
神田   
「う~ん・・・あ!」
渡辺   
「やっぱりあった?」
神田   
「あれだよ、それアレ。アレだよ。」
渡辺   
「アレじゃ分からない。」
神田   
「アレアレ、なんだっけ?アレ、ケバブ、ケバブだ。」
渡辺   
「・・・もしかしてデジャブのことかな?」
神田   
「デジャブ?なんだよそれ?トルコ料理かよ。」
渡辺   
「それがケバブだよ。」
神田   
「は?どういうこと?」
渡辺   
「こっちが聞きたいな。だから、前にもこうやってお前とこんな事なかったっけ?」
神田   
「え?・・・う~ん・・・思い出せないなぁ。気のせいじゃない?」
渡辺   
「まあ、そんなことあったとしてもどうにかなるわけじゃないしな・・・。」

   渡辺、溜息をつく

神田   
「溜息!」
渡辺   
「何だよ?」
神田   
「ダメ、溜息。暗くなる。明るく希望を持とう。」
渡辺   
「分かったから、少し静かにしてくれよ。落ち着いて考えたい。」
神田   
「そうか、分かった。そうだな、落ち着いて考えよう。」

   少しの間

神田   
「よし、俺もまずは食料の確認をしよう。そうしよう。(バッグを確認する)ぱりんこ、よし。キットカット、よし。ハーゲンダッツ、よし。ハーゲンダッツ、よし。ハーゲンダッツ、よし。おい、一体俺は何個ハーゲンダッツ持ってきてるんだ!でも、雪山なら溶けないと思って。や、でも今食べたら寒いな。帰ったら食べよう。じゃあ、何でもって来たんだ?あ、でもあれだな、やっぱりこういう時は寝たらダメなんだよな。寝るな、寝たら死ぬぞって良くやってるもんな。あれ、何で寝たら死ぬんだ?寝てる間に助かるかもしれないのに。お腹も空かないしな。あれ、実は都市伝説なんじゃない?ちょっと寝てみるか。ぐー・・・はっ!いかん、死ぬかと思った!やっぱり寝たら死ぬぞ。寝るな、寝たら死ぬぞ!」
渡辺   
「うるせー!うるせーうるせー!お前は少しは黙っていられないのか。頼むから静かにしてくれよ。こっちは真剣に助かる方法考えてるんだよ。お前の冗談に付き合ってる余裕は無いっての。死ぬなら一人で勝手に死んでくれ。」

   間

渡辺   
「あ・・・いや、すまん。言い過ぎた。悪い、忘れてくれ。」
神田   
「いや、ごめんなさい。ちょっと静かにします。」
渡辺   
「いや・・・ありがとう・・・。」

   二人静かになる
   そしてゆっくりと暗転
   少しして明転
   二人立ち位置はあまり変わっていないが、少し疲れた顔をしている

渡辺   
「おい、起きてるか?」
神田   
「起きてまーす。」
渡辺   
「俺が寝たら起こしてくれよ。」
神田   
「ぐー・・・。」
渡辺   
「おい、寝るな。」

   暗転
   明転

神田   
「どれくらいたった?」
渡辺   
「二日・・・。」
神田   
「吹雪止まないね。」
渡辺   
「ああ。」
神田   
「お腹空いたね。」
渡辺   
「ああ。」
神田   
「眠いね。」
渡辺   
「ああ。」
神田   
「助け来るのかな?」
渡辺   
「・・・。」

   暗転
   明転
   二人とも衰弱して、震えている

神田   
「寒いよー、寒いよー。」
渡辺   
「頑張れ。」
神田   
「頑張るよー。絶対頑張るよー。」
渡辺   
「・・・俺達、このまま死ぬかもしれないな。」
神田   
「どした、いきなり?」
渡辺   
「いきなりじゃないだろ。もう限界だろ。このままじゃ助からないって。」
神田   
「大丈夫だって、絶対助かるって。」
渡辺   
「そんな保証どこにもないだろ。このまま眠ったら、気持ちよく死ねるかもな。」
神田   
「寝るな、寝たら死ぬぞ。」
渡辺   
「(少し笑いながら)言ってみたかった言葉、言えてよかったな。」
神田   
「ダメだって。寝るなって。よし、分かった。じゃあ、寝たら死んじゃうゲームやろう。寝た方が負けな?寝たら死んじゃうから、頑張れよ。」
渡辺   
「お前は元気だな。俺の為に使わなくていいから、自分の為に温存しろよ。お前は生き残れるかもな。」
神田   
「ふざけるなよ。一緒に生きて帰ろうぜ。そう、約束したじゃないか。」
渡辺   
「したっけ?」
神田   
「・・・してないかもだけど。でも、普通に考えてそうだろ。」
渡辺   
「ごめん。俺はダメっぽい・・・。」
神田   
「渡辺!ダメだって。分かった、くだらない事やるぞ。うるさいって言われても言うからな。じゃあ、俺のとっておきのモノマネな。アムロレイやるぞ。「二度も打った、親父にも打たれたことないのに」。
渡辺   
「似てねー。」
神田   
「あ、起きてる。頑張れよ。」
渡辺   
「だから俺の事は良いから。お前は自分のことを考えろよ。」
神田   
「そんな事できるわけないだろ。二人で帰るんだよ。諦めるなよ。」
渡辺   
「神田。お前は良い奴だな。友達思いだし、気配りも出来てトーク力もある。おしゃれだし、清潔で運動神経も抜群だから。男女問わず人気者で、俺なんかとは正反対の人間だ。だからお前は生き残るべきなんだ。」
神田   
「渡辺!」
渡辺   
「俺はさ、本当はお前が羨ましかったんだと思う。いつも明るくて、誰とでも仲良く出来て。俺にはそう言うこと出来ないからさ。ああ、そうか、思い出したわ。昔さ、お前とかくれんぼしててさ、ほら、近くの空き地でよくやったじゃん?いつも広場の隅に、トラックの荷台だけが置いてあってさ。覚えてる?」
神田   
「何となく。」
渡辺   
「二人でよくそこに隠れてたんだよな。秘密基地みたいにして。でもさ、ある時たまたま中に入ってはずみで外の錠が掛っちゃって、出られなくなったんだよ。」
神田   
「ああ。」
渡辺   
「あの時、どのくらい閉じ込められたんだっけ?あんまり覚えてないけど、お前はあの時も最後まで元気だったよな。」
神田   
「そんな話何で今するんだよ。」
渡辺   
「いや、ちゃんとお礼言ってなかったな、と思ってさ。いつも明るくして、俺に元気をくれてありがとうな・・・。」
神田   
「おい、渡辺!渡辺!」

   ゆっくりと暗転
   少しすると舞台明るくなる
   渡辺、目を覚ます

渡辺   
「ん・・・日の光、か?吹雪止んだのか・・・?(外を見る)止んでる、やった俺達助かったんだ!おい!神田!神田、助かったぞ。」

   しかし、そこには誰もいない

渡辺   
「神田?・・・神田?何で俺、神田を呼んでるんだ。だって、神田は小さい頃、俺とかくれんぼしていた時に・・・。そうだ、あの時もあいつは泣くだけの俺を元気づけようとずっと喋ってて、俺を不安にさせないようにバカなことばかりして・・・それで・・・。幽霊?じゃないよな。俺が無意識のうちにあいつを必要としていたのか・・・。また、助けられたな。ごめん、俺ばっかり。」
神田   
「(声だけ聞こえる)いいよ。お前が生きててくれれば、俺も嬉しいから。」
渡辺   
「ありがとう・・・ありがとう・・・。」

   幕


ありがとうございました
楽しんでいただけましたでしょうか?
現代劇に苦手意識があるので悩みながら書いた脚本ですが
お客様には好評でとても安心しました
タイトルは、企画の運営上先に決めてしまったので
正直フィットしきれていない可能性があるので
もしかしたら今後変更するかも知れません

※木田博貴作品を自分たちも上演したいよ!と言う方・団体様は一度ご連絡ください。基本上演は歓迎ですので。なお、無断上演はお断りしています。

※また木田博貴作品を「漫画」や「映像作品」などにしたいよと言う方も大歓迎です。是非一度ご相談ください!コラボレーションしましょう!

気に入っていただけたらサポートも嬉しいです サポートしていただいた分は全て演劇界の発展のために使わせていただきます