ブルースは人生を語る手段だ。楽しむためじゃなくて人生を理解するためにある。 マ・レイニーのブラックボトム
アメリカの最も偉大な劇場作家の一人オーガスト・ウィルソン。20世紀の各年代ごとに1本の脚本を書こうと決めたのだ。
1900 - Gem of the Ocean
1910 - Joe Turne's Come and Gone
1920 - Ma Rainey's Black Bottom
1930 - The Piano Lesson
1940 - Seven Guitars
1950 Fences
1960 - Two Trains Running
1970 - Jitney
1980 - King Hedley II
1990 - Radio Golf
年代ごとの決して歴史的なイベントではなく、ゴミ収集員や無名の音楽家などその時代に生きた黒人の暮らしが描かれる。
何度も劇場で演じられてきたこの作品が、コスチュームも舞台も映画も俳優もおそろしく素晴らしい映画に仕上がっている。
オーガスト・ウィルソンは黒人に声を与えたのだ。開かないドアを何度も何度も叩き蹴り開けた先が袋小路になっている描写は16世紀から、奴隷として連れてこられた黒人達の状況は2020年のBLMを得ても今なお続くことを伝える。
マ・レイニーのヴィオラ・デイヴィス、レヴィーのチャドウィック・ボーズマンのセリフの力強さ。大腸癌と診断されていたチャドウィック・ボーズマンの遺作となる。
オーガスト・ウィルソンは肝臓癌で60歳の若さで亡くなっている。延命治療をせず、最後の作品Radio Golfを書き上げて亡くなった。
あの連中は、私のことなどどうでもいいの。欲しいのは、私の声だけ。私はそれを知ってる。だから、彼らはどんなに傷つけられても、私の言う とおりに従うのよ。私のことをあらゆる名前 で・・・「神の子」以外のあらゆる名前で呼ぶ。彼 らはほかに何もできない。欲しいものは、まだ手 に入らないから。でも望み通りの歌を撮り終えた瞬間、商売女と寝た後見たいに背中を向けパンツを履く。私は用無しってわけだ。間違いない。見てみな。
音楽で、世界はもっと豊かになる。白人にブルースは分からない。成り立ちを知らないからね。ブルースは人生を語る手段だ。楽しむためじゃなくて人生を理解するためにある。朝起きるとブルースは力をくれるし、一人じゃないと教えてくれる。この世界にはブルースによって足された何かがある。
ブルースなしではこの世界は空っぽだよ。その空っぽな世界をなんとか埋めたいんだ。
素晴らしい作品。ぜひ見て欲しい。