見出し画像

みちのく汐風トレイル(その3)

野田村 〜  田野畑村

起床と共に東の空を眺めます。薄曇り。雨は落ちてはいませんが、車の屋根には昨夜来の雨の痕跡が残っています。ウエザーニュースによれば午前中は時々小雨(1mm程度)、お昼ごろには土砂降りの予定(17mm)です。昨日の苦行を思い出せば、霧雨程度なら望むところ。豪雨はいただけませんが。
6:30に朝食会場へ行くも、今日も同じく入場待ち。不安定な空模様を勘案して急遽トレイルコースを変更し、本日はまず野田村の役場からトレイルを開始、三陸鉄道リアス線沿いに普代村まで南下することにします。

緊急の変更で、野田からのコースの地図は用意してありません。ということで、今日はこの地を熟知している友人の指示に従うことにします。海からの心地よいそよ風と柔らかな太陽の日差しを浴びて、今日は絶好のトレイル日和になりそうです。震災当時野田村は震度5弱を記録し、最大約18mの津波が襲来、津波の最大遡上到達高は37.8mに及び、村内の約3分の1にあたる515棟の住家が被害を受け、37名の尊い生命が犠牲となったそうです。今は村内の建物はすべて新築され、大きな愛宕神社の赤い鳥居が当時の面影を残しています。海岸沿いの家屋はすべて撤去され、パークゴルフ場と高規格道路が整備されました。しばらくトレイルのルートは整然と整備された公園の中を歩きます。十府ケ浦を見下ろす震災記念公園で「底肉刺」の手入れをしてから再び出発します。歩き始めて20分ほど、天気予報通りぽつりぽつりと水滴が、西の空も暗くなりいよいよやってきました。本まずは当面の雨宿りにと国道45号線を南下して「野田玉川駅」に到着。

20分ほど休憩し、小雨を押して出発、駅すぐ下の玉川漁港へ。浅学非才な私にはわかりませんが、歌枕の「玉川」、その候補地は全国諸所にあるといいますが、この玉川もその候補地の一つで、あの西行法師も玉川海岸の美しさに魅せられてこの地に草庵を結んだとか。高台には西行屋敷の跡の記念碑があります。現在は玉川漁港によってしっかりと海岸はコンクリートで固められています。

・夕されば 汐風こして陸奥の 野田の玉川 ちどりなくなり(能因法師)
・みちのくの 野田の玉川見渡せば しほ風こして 氷る月影(順徳院)

10時過ぎには霧雨も本格的な土砂降りになってきました。大きな木の根元で雨宿りしながら様子を伺います。ウェザーニュースでは昼過ぎまで一時間17mmの本格的な降雨を予報しています。梅雨時のトレイルです。雨は覚悟の上、前進あるのみ。昨年購入したレインウェアを着こんでいざ出発と行きたいところですが、ちょっと待った、友人が雨具をすべて車の中に置き忘れたというのです。リュックの底から小さな日傘ですが探し出し、再度出発です。なぜレインウエアがあるのに傘を持ち歩くのかって?それは靴ひもを結びなおす人にそっと差し出すためです。大きな体に小さな傘。蕗を右手に猫バスを待つトトロのようです。

ここで新たな目的地がロックオンされました。国民宿舎・烏帽子荘のすぐ先にあるというドライブイン。そこでウニ丼を食べて雨上がりを待とうという計画です。ごうごうと水しぶきを上げて走り去るトラックに身を縮めながら側道を歩くこと約6km、時刻にして11:30目的地に到着。眼下にリアス線の鉄橋と漁港を眺めることのできる絶好のロケーションです。列車は鉄橋の上で一時停止し、しばし乗客にこの素晴らしい景観を堪能する時間を提供しています。

友人の卓越した交渉力により、この雨が小降りになるまでの滞在を認めていただいて食事にありつきます。「磯ラーメンといくら丼セット」(1,500円)。コーヒー350円。しかしなかなか雨足は衰えません。そこで再度計画を変更。普代駅までのトレイルはあきらめて、堀内駅からリアス線で野田駅へ戻り、車で今夜の宿泊地、田野畑村の羅賀荘に行くことに決定。ここで知る人ぞ知るトリビアを一つ。堀内駅は「あまちゃん」の「ゆいちゃん」が、トンネルに向かって「私アイドルになりたい!」と叫んだ駅です。到着した一両編成の列車はこれまた観光客で一杯。いつもこの満杯状態なら三陸鉄道の経営も安泰とみるのですが。


陸中野田駅で列車を降りて今朝駐車した野田村役場へ。野田に別れを告げて今夜の宿泊地田野畑村に向かいます。田野畑村は海岸段丘の上に開けた、平坦で本当にのどかな農村です。田野畑村の「ふるさと納税の返礼品」は名産のアイスクリームと乳製品だそうです。ホテルで食しましたがこれが秀逸。是非一度は口にしてみる価値はありそうです。海辺に出るともうそこは第三セクターの羅賀荘。もうすでに何台かの観光バスが到着しています。震災では3階まで津波に洗われたそうですが、現在は修復され営業を再開しています。朝晩二食付、海側展望の部屋。まさにこれを求めていたのです。旅の疲れを癒すのにこれは必須アイテム。この旅のクライマックスと言っても過言はないでしょう。

午後6:00からの夕食は久しぶりに旅館の夕飯を鱈腹食いました。あとは部屋に帰って眠るだけ。ところで驚くべき体験を述べて本日を締めくくります。部屋に戻ると翌日の日の出の時刻を書いたメモが置いてあります。なんと「午前4:07」。「じぇじぇじぇ!!!」。もう一度「じぇじぇじぇ」。日本の東端であり、かつ本州の北端となればそうかもしれませんが、頭では理解できても体がついて行かないのです。「夏至の時は午前3時台に陽が昇る」という現地の方の言葉もまんざら嘘ではないようです。確かに九州に行くとこれと全く逆の体験をしますね。あの広大な中国では全土で時差がなかったりとか。旅をするとはこんな非日常に身を置くことなのだとまとめて。それではお休みなさい。

みちのく汐風トレイル(その2)
https://note.com/visonbaison/n/n9b700fe403e9
みちのく汐風トレイル(その4)
https://note.com/visonbaison/n/nf31c64ae2fa4

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?