写真の評価 / 良い写真とは?

年末は認定制作の結果発表の時期で、自分や友人の作品の評価に一喜一憂する学生の姿が見受けられます。いわゆる写真の客観的な評価は難しいと思われがちですが、評価する先生方の採点の差は意外と少なく、あらためて写真の魅力は個人の好みに左右されにくいものだと思います。年末は認定制作の結果発表の時期で、作品の評価に一喜一憂する学生の姿が見受けられます。成績が上位の学生は、多少の順位の差があっても素直に評価を受け入れていますが、なかなか評価の結果が受け入れられない学生もいます。特に精一杯に頑張ったのに、それが思いのほか低い評価だったりするとなおさらです。

そこで本題の「良い写真とは?」について。私は授業でデジタル表現、いわゆるフォトレタッチを担当していますが、私が写真を評価する際、写真のどういった点を判断しているか今回お話しします。

「テーマの明確さ」
まず始めにテーマの明確さについて。ここでのテーマとは、単に写真の主題を指すのではなく、自分が撮ろうとしている写真が本当に自分が撮るべき内容であるかどうか?といった、自分と写真との関わり方を意識的に考えているか判断します。よくあるのが撮影者が自らテーマとして設定した内容と、潜在的に抱いている意図が異なるケースがあります。

以前、学生の作品で「現代における女性の抑圧」をテーマにした写真がありました。しかし作品に写っているのはただ抑圧された女性の姿ではなく、閉塞感の中でも自分を確立しようと力強く立ち上がっている女性の姿でした。つまり撮影者の感性は抑圧された状況の容認から、もう次のステップ、自立して自分らしく生きる女性の未来を写し出しています。この場合、テーマによって写真を抑圧しているのは撮影者自らに他なりません。

写真は自身の内に無意識にもっている価値や世界観を写します。何気なく撮った一枚に、自分が表現したいこと、自分が信じている世界、自分の見つけた美しさが表れています。その本質を自分が理解する前に言葉にまとめてしまうと、使い古された概念や定義に引きずられ、本来表現すべき内容が曖昧になってしまいます。そのため常に写真を通じてテーマ (思想)を再検証する必要があり、その過程が写真の純度を高めることにつながります。

「表現のための技術」
表現のための技術とは、よくある「写真がきれいに撮れるテクニック」とは異なります。ここで言う「表現のための技術」とは、テーマやコンセプトをより明確に表現し、見る人に届ける技術をいいます。

例えば、ライティングまたは光の指向性を用います。どこから光が入ってきてどこに当たるか、すなわち光が最終的に当たっている個所が、写真の主な被写体だと見る人に暗示します。これは演劇の舞台でスポットライトが当たっている役者が主人公だと分かるように、見る人の意識の優先順位を示します。またピントを用いれば、ピントが合っている部分が作者の視点だと伝えることができます。これは絵画の遠近法と同じで人の関心を作品のテーマに集中させます。他にもアングルを用いた心理的影響や、トーンやコントラストで世界観や感情も表現できます。

これらを意識的に行うことで、写真で伝えたいテーマや内容を見る人により正確に伝えることができます。なぜこういった表現が必要かといえば、写真は視覚からの感覚をイメージとして伝えることを得意としていますが、言葉のように客観的な概念や物事を論理的に伝えることはあまり得意としていません。そのため見る人によっては分からなかったり、また異なった意図で伝わることがあります。作品の意図が間違って伝わらないよう情報を整理し、より正確に伝わるよう再現します。

「プリント品質と展示やブックの見せ方について」
最後にプリント品質と、展示やブックの見せ方について。まず意識してもらいたいのが、写真は第三者に見られる瞬間が本来の見せ場です。編集中のPCモニターはあくまで過程にすぎません。そのためシーンや目的に応じて、見る人が写真に集中して見られる環境、また表現したいテーマを再現する場を作ります。

プリント品質はその写真に関心を持って見てもらうための、最初の入り口です。誰だって質の悪いプリントは見たくありません。具体的にはテーマに則った色や質感の表現がされているか、技術的にはハイライト・シャドウの処理やトーンジャンプ等々、写真の伝えたい内容とは関係のない不要な情報が伝わると、見る人の集中が途切れ作品を見る興味すら失われます。

展示やブックの見せ方についても同様です。展示の場合はサイズや額装、レイアウトや高さ、照明も作品の一環として考えます。ブックの場合はページの構成や体裁によっても、写真から伝わるメッセージは大きく変わります。このように展示やブックは単に1枚の写真の集合体ではなく、また別の意味での作品作りであると考えます。

今回は写真を見るポイントについて概要をまとめましたが、各タイトルの詳細な事例についてはあらためてご紹介できればと思います。最後に良い写真とは、テクニック以前にその人がどれだけ自分と向き合っているかが大切だと思います。テーマでもお話ししましたが、自分が気づいていない意思の中に同時代性が写し出され、写真はそれを顕在化させる手段ともいえます。そして写真の共感とは、その同時代性がどれだけ多くの人の体験と結びついているかにかかっていると私は考えます。時代や国を超えて、人間にとっての大切な価値を共有できるのが写真の素晴らしいところです。

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