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日本の大企業と破壊的イノベーションを考える(前編)


先日、「破壊的イノベーションの起こし方」出版イベントとして「大企業の事業創造力を高めるー破壊的創造のアイデア創出プロセスのフレームワークを徹底解剖 」と題した講演を行いました。そこでお話しした内容の一部をこちらに書かせていただければと思います。

1. はじめに

私自身は金融業界出身でアルゴリズムを専門とし、世の中で解明されていない事象を数式で解析する事業へ長きに渡り携わってきました。現在は、2014年に設立したVISITS Technologiesで、「イノベーションは、どう起こるのか?」「アイディアは、どのようにして生まれるのか?」といった、これまではブラックボックスであった創造性に関する疑問を解明し、誰しもがイノベーションと創造力を発揮できるようにしようと、「デザイン思考テスト」をはじめとしたイノベーション・DX支援サービスを開発・提供しています。いずれも、科学的・論理的なアプローチによって、アイデア創造のフェーズに焦点をあてています。

2.ロジカル思考からデザイン思考へ

これまで過去30年を振りかえると日本企業は「ロジカル・シンキング」を重視してきましたが欧米では「デザイン思考」が注目されてきました。ビジネスに於いては論理より重要なのは”人の心を動かすことだからです。すなわち、消費者は論理が正しいから購入行動に出るのではなく、心が動かされたことによって最終的な意思決定を行います。
しかしながら、日本にデザイン思考の考え方をそのまま持込み、「ユーザーに共感して潜在ニーズを見つけろ!」「潜在ニーズを満たす新しいアイデアを考えろ!」と言ったところで、なかなか実践出来ないのが現実です。それであれば、日本人が鍛えてきたロジカル・シンキングの力をうまく転用し、論理的アプローチによってユーザーの心の動きを理解し、新たなビジネスアイデアを生み出すことができれば、日本にも勝ち筋があるのではないか?と考え、この本を執筆しました。

3. アイデアはどのように生まれるのか

創造的なアイデアは天才的な人物のひらめきがない限り生まれないと考えられがちですが、全くそのようなことはありません。本書ではどうしたら誰もが科学的によいアイデアを創造出来るか、論理的アプローチにこだわって解説しています。日本にはじめてイノベーションという言葉が入ってきた時に「技術革新」という和訳がつけられたことで、新たな技術を開発しなければならないように捉えられていますが、実際にイノベーションとはシュンペーター氏が唱える「新結合」であり、今までにない要素を組み合わせることによって、これまでなかった新たな価値が生まれることであると考えています。

いわゆる「Connecting The Dots」は、「ドットを繋げる」という言葉の通り、これまでインプットした様々な知識や暗黙知が、ある日頭の中で突如繋がって閃く、そんなイメージがありますよね。もちろん、そのためには膨大なインプットも必要になりますが、実は蓄積した知識や暗黙知の繋ぎ方が非常に重要になってきます。本書では、「新結合」としての「筋の良い繋ぎ方」のパターンをいくつか紹介しています。例えば、顧客の新しいニーズを見つける際も、あるペルソナにこれまで組み合わせたことのないシーンをあてはめてみると新たなニーズが見えてきたり、そのニーズに組み合わせたことのない技術やデータの組み合わせてみることで新たなソリューションが見つかったりする。これもまた「新結合」です。

また、仕事ができる人は、抽象化が上手く、良いエッセンスを抽出して結合させることができます。そのまま結合して上手くいかなくても、物事を抽象化して結合を行うと価値が生まれたりします。この「どう抽出し」「どのように結合させるか」にも上手く行うためのメソッドが存在します。実は、この「新結合」としての繋げ方のパターンが深掘りされた情報はあまり世の中に出ていないため、「”Connecting The Dots”自体は大切だよね」までで、話が終わってしまうことが多いです。そこで、センスの良いと言われる人間が無意識に思考していることを分解・パターン化し、本書で紹介しました。

4.共感の発生するメカニズム

もう一つ大切なのが、人間が生まれつき持っている「本源的欲求」に着目することです。

一般的に、デザイン思考においては「ユーザーに共感しよう!」と言いますが、「なぜ人間は他者に共感できるのか?」の論理的な説明は私は聞いたことがありません。私自身、アルゴリズムやAIといった数学的な世界からキャリアをスタートしていることもあり、「共感の発生するメカニズム」について全く新しい考え方を持っています。ここでは、それを簡単にご紹介したいと思います。

例えば、なぜAIには創造性がないと言われるのか。ビジネスにおける創造性を「ユーザーの課題を発見し、解決すること」と定義するなら、デザイン思考的な視点で言うと「AIは他者に共感できないから、課題を発見できない。したがって課題解決ができず、創造性がない」という理由になります。では、なぜAIは他者に「共感」できないのか。それはAIが極めて論理的であり、論理で説明できない「欲求」を持たないからです。

一方、人間にはAIと違って生まれつき持っている「本源的欲求」があり、この欲求は時に極めて非論理的です。例えば、部下が上司から正論で怒られているシーンがあったとしましょう。どんなに上司の話が論理的に正しかったとしても、部下は感情的に素直にそれを受入れらないことも多いはずです。その理由は、部下に人間が本来持っている欲求、例えば「言い訳をしてでも自分を正当化したい」という「防衛欲求」が働いているからかもしれません。AIがこのシーンに遭遇しても、部下の感情は全く理解できないでしょう。上司の話が論理的である上に、人間の欲求を理解できないからです。一方で、それを側でみている同僚は、部下の気持ちに共感できるかもしれません。「確かに、そんな言われ方をしたら認めたくないよね。」と。同僚が共感できる理由は、同僚にも生まれつき「防衛欲求」があるからです。すなわち、人間には、他者との「共通点としての」本源的欲求が存在するため、他者に共感できるのです。

デザイン思考が「共感」から始まる、というのは皆さんご存知だと思いますが、こうして考えると、デザイン思考は「本源的欲求」から始まる、とも言えます。また、デザイン思考が論理性よりも「人の心の動き」に注目した「人間中心」の考え方であることを鑑みれば、人の心を動かす原動力となる「本源的欲求」に着目することが、サービス作りにおいてもいかに重要かお分かり頂けると思います。本書でも、この「本源的欲求」にフォーカスし、「どうやって人の心を動かすサービスを作るか」をご紹介しています。

本日はここまで、後半では大企業と破壊的イノベーションについて書かせていただく予定です。


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