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変わる世界を楽しみながら、変わらない気持ちで描き続ける-イラストレーター SHIO-

vision trackでは昨年、見る人の「心を動かすイラストレーター」との新たな出会いを求めて、「vision track所属イラストレーター / 公募プログラム」を実施しました。選考基準は「自分にしかない『らしさ』を起点にしながら、多くの人の『好き』に応えられること」。300名以上の応募者の中から7名のイラストレーターが所属に至りました。
より多くの方に7名の魅力をお伝えするため、1名ずつインタビューをお届けしています。
第6回目にご紹介するのはSHIOさん。建築を学んだ後にアメリカや日本の大手企業で働き、現在はイギリス・ロンドンを拠点に活動中です。世界中の様々な都市で新しい人や景色と出会い、その想いを描き続けてきたSHIOさんのイラストは、ささやかな日常の中にある幸せや豊かな気持ちを呼び起こしてくれます。「創作すること」に強く心惹かれてイラストの道へ進むことになった彼女の原点と、今の自分にぴったりハマったと語るロンドンでのクリエイティブのこと、その先にはどんな未来を見据えているのか、たくさんお話を伺うことができました。
ぜひ最後までお楽しみください🌷


海外で芽生えた「創作すること」への気持ち

ーSHIOさんは元々は建築を学ばれていましたが、なぜ自分の絵を描こうと思うようになったのでしょうか?

子どもの頃から絵を描くのは好きでしたが中・高はまったく描かない日々が続きました。大学で建築学科に進んでまた手を動かすようになりましたが、その頃はまだ「描くのが楽しい!」というよりは図面を描くためという感じで子どもの頃のようなパッションがあったわけではないんです。
また絵を描き始めたのは大学院を卒業してロスへ引っ越した時。仕事はしていましたが時間があったので、週末に見た景色などの思い出を自然と描くようになりました。
また、当時住んでいたバーバンクは、勤めていたディズニーをはじめ、ユニバーサルやワーナーなどアニメーションスタジオがたくさんある地域だったこともあり、アニメーションの業界を目指す人のための予備校のようなものがたくさんあって。そこで初めてフォーマルな絵の勉強をして、「人ってこう描くんだ」とかパースのしっかりした描き方とか、基本的なことを改めて学びました。

ーそうしたクリエイティブな環境の中で、自分で表現することにも興味が出てきたんですね。

勤務先のディズニーでも終業後に絵の講座があって、その中に片腕で先生をしてる方がいたのですが、片手だけで本当に素敵な絵を描いていて。その様子にもすごく感銘を受けましたし、日々アーティストやアートディレクターなど様々なクリエイターと交わって仕事をして、生み出されるクリエイティブを見ていく中で「自分も描きたい、創り出す側になりたい」という気持ちが芽生えました。ディズニーではパーク内の建物の設計などテクニカル寄りの仕事をしていたけれど、もっとクリエイティブな仕事がしてみたいな、と。
すごく絵が上手かった当時の上司に話してみたら、「描き続けたら上手くなるよ」という言葉をもらって、素直にじゃあ続けてみよう、と思ってそれからずっと描き続けてきた感じです。

コロナ禍で訪れた転機

転機となったカフェ「hungarian pastry shop」のイラスト

ーその後帰国して三菱地所に就職されたんですよね。建築系の知識を活かせる企業だったのかなと思いますが、イラストレーターという仕事への意識はすでにあったのでしょうか?

20年の3月に帰国して就職したのですが、コロナ禍で時間があったので家で過ごす時間も多くて。アメリカで見た景色やお店の絵を描いてInstagramに投稿していたら、すごく大好きで毎週通っていたニューヨークのカフェの絵をそのお店の人が見て、絵を買いたいと連絡をくれたんです。自分のイラストを全く知らない人に買ってもらったのはそれが初めての機会ですごく嬉しくて、もっと絵でなにかできないかなと考えはじめたという意味で、自分としてはそこから「イラストレーター」としてのキャリアが始まったのかなと思っています。
ちなみにそのカフェはその絵をポストカードにして今も販売してくれているんです。

渋谷駅の仮囲い

ーその後は会社員をしながらクライアントワークに加え、壁画も経験されましたよね。

AdobeやLenovoなど少しずつお仕事のご依頼をいただくようになり、だんだんイラストレーターとしての活動が増えてきました。
それと、壁画はずっとやってみたいと思っていて。自分の好きなイラストと専門知識である建築が融合しているのが壁画なのかなと無意識に感じていたと思いますし、「場のアイデンティティを高める」という魅力にも惹かれて、会社や周りの人にもよく話していました。その中でTokyoDexさんにご縁をいただいて、オフィスの壁や渋谷駅の仮囲いに描くプロジェクトに携わらせてもらうことになったのが最初のきっかけです。そこで日本のクリエイターの方々とも出会うことができて、それがまたお仕事に繋がったりもして、最近もロンドンのプロジェクトで壁画を描いていますし、今後もやっていきたいですね。

魅力が詰まったロンドンという街

ー今はロンドンにお住まいですが、なぜロンドンに行こうと思ったんですか?

日本で3年働き、そろそろ違う世界が見たいと思っていました。申請できるビザに期限があったこともありましたし、行くなら今がタイミングかな、やりたいことをやろう!と。
最初にロンドンに来た時はワーキングホリデービザで、当時は抽選制だったので出来心で応募したら当たって、このチャンスを逃したら行けないかもと思ったのもありました(笑)
人生のやりたいことリストの中に「ヨーロッパに住む」ということがあり、ヨーロッパに近いイギリスにはずっと興味がありました。ロンドンには行ったこともなく、何をするかどこに住むかも決めず、最初の1年は描くことに集中してみようかなくらいのぼんやりとした計画で向かいましたね。

ークリエイティブの環境なども含め、ロンドンはいかがですか?

クリエイターにとってすごく良い環境だと思います!
イラストレーターのミートアップやイベント、マーケットが頻繁に開催されていたり、東京にいた時とは比べ物にならないくらいたくさんの人に出会うことができますし、その出会いをきっかけに一緒に何かやらない?という話をもらえることもたくさんあります。
インディペンデントな店や活動をサポートしたいと思ってくれる方も多く、有名でなくても自分が良いと思えば絵を買ってくれるし、壁画をやっていたらサインを求められたり、個人のクリエイターに対するサポートや尊重されている感じがすごく強いです。
ロンドンは美術館も無料ですしアートが身近な環境で育ってきた人が多いからか、中高生のような若い人でもプリント作品を買ってくれたりして。
行政のサポートがあるプログラムもあったりするので、色々な人に出会えてサポートも受けられて、ロンドンに来られて本当に良かったと思ってます。

ー確かに日本では有名企業とのお仕事をしていたり、SNSのフォロワーが多かったり、そういった意味で実績のある方に注目が集まりがちな部分があるように思います。
現地でのクリエイターの活動は実際にどんな雰囲気なのか気になっている日本の方も多いと思うので、ロンドンの雰囲気をもう少し教えてもらえますか?

コミュニティが非常にオープンで、知り合いがいないと入れないような雰囲気もなく、初めてでもウェルカムな雰囲気があって、すごく活動しやすいと思います。東京ではイラストを始めクリエイティブなコミュニティにはあまり出会えなかったですが、ロンドンではそういったところに誰でもアクセスしやすい環境があることで、サポートしてくれる人やメンターも見付けやすい。私自身、人生の違うフェーズだったらここまでハマらなかったもしれませんが、今の自分に本当にぴったりな環境だったなと思ってます。
凝ったデザインのポスターがたくさんあったり、パッケージにもイラストがたくさん使われていたり、地下鉄の文字や地図にもデザインへのこだわりを感じます。素敵なクリエイティブに触れられる機会が多く、普通に生活しているだけでもインスピレーションが湧く街なので、イラストに限らず、クリエイティブ系を目指す方にはロンドンすごくおすすめです!

ーちなみに、SHIOさんがロンドンでとくに好きな場所は?

家の近くの森のような公園が気に入っていて、気分転換の散歩やスケッチに行くのが好きですね。いい具合にデジタルデトックスにもなります。
公園は丘のようになっていてロンドンの街が見えて、ワンちゃんたちが幸せそうに走っていたりして。一度開発されそうになったところを住民の反対で開発中止になった経緯があって、日本では簡単に木を切られたりしてしまうけれど、ロンドンの街づくりは市民の声でしっかり行われていて、そういうところが豊かだなと感じたります。大都市でもすぐ緑にアクセスできる、そのバランスがすごく良いなと思いますね。

vision trackは刺激をもらえる場

JINS

ーロンドンにいる中で今回の公募にご応募いただき所属となりましたが、所属してみていかがでしょうか?

vision trackのことは前から知っていたし所属できて嬉しいです。
イラストの仕事を意識し始めた時から、どうやったら入れるんだろう?とずっと思ってて、Instagramの投稿で公募を見た瞬間にすぐさまチャレンジ!という感じでした。
所属前のトライアルプログラムの時から、すごく親身に寄り添ってもらい自分だけでは気付けない点にも気付けましたし、所属のイラストレーターも才能ある方ばかりで、自分も早くこうなりたいと刺激をもらえる環境です。

協働で生み出すイラストレーションの仕事

Lenovo

ーアイデア出しも含めて、普段はどういった制作スタイルですか?

基本的には自宅で、iPadでProcreateを使って描くことが多いですね。
ロンドンに来てからは絵を描く人たちのコミュニティに参加して、外に出てスケッチしたり他の人の作品や制作スタイルからインスピレーションをもらったりもしています。
描きたいな、と1番思うのは新しい景色を見た時。ロンドンでも旅先でも、見たことのないものを見たらその場でスケッチして、後で清書したりしています。

ークライアントワークで意識していることはありますか?

基本的にポジティブなイメージを伝えられるようなイラストを描きたいと思っていますし、自分が見る人の立場になった時どう感じるか?どう思って欲しいか?ということを考えていますね。
相手の立場に立って考えて、「レスポンスは早く」「分かりやすく的確に」などは会社員の頃からずっと意識しているかもしれません。
実際の制作でもクライアントさんのやりとりの負担を考えて、できる限り複数パターン出してイメージのすり合わせをしつつ、なるべく早めに最終イメージを共有することを心がけています。

ーSHIOさんはイラストレーターとしてお仕事をしつつ、自分を表現するアーティストの部分も持っていると感じますが、ご自身ではどのように考えていますか?

人と協働して伝えたいイメージをビジュアル化していく、自分のスキルで直接そこに関わることができる、というのがイラストの面白いところで魅力だと思っています。
アーティストとして自分の好きなものを自分の考えで描いて、それを人に喜んでもらうという経験ももちろんすごく嬉しいことですが、人と一緒に何かを生み出してそれがメッセージとして世に出ていくってすごく素敵だなと思っていて。どちらも大好きですね。
現状アーティストかイラストレーターか、明確に自分の中で区別がついているわけではなく、どっちもできたらと思っています。

どこにいても、原点をずっと忘れずに

ー今後チャレンジしたいお仕事はありますか?

海外に住んで、日本って本当に海外から好かれているなと実感しています。今後は海外の方にはもちろん、日本人が気付いていない部分という意味では日本の方にも、日本の魅力や良さを伝えられるようなプロジェクトに携わることができたらと思っています。
日本でも東京に限らず他の地域でも何かできればいいなと思っていて、建築の友達と組んで仮囲いに一般の方と絵を描いたりとか、実現に繋がりそうな企みもあったりします。

ーなるほど。建築や海外生活などSHIOさんのバックボーンや経験の組み合わせを生かした、SHIOさんならではのお仕事ができそうですね。
最後に、3年後の自分へ一言お願いします!

3年後どこにいて何が起こるか全然分からないですが(笑)
興味関心が変わりやすいタイプではありますが、描くことへの興味は小さい頃からずっと持ち続けているのでそこは絶対諦めずに、「描くことが好き」という原点の気持ちを忘れずに、楽しく続けていてほしいなと思っています。

インタビュー後記

SHIOさんの多彩な経歴とイラストを描くようになった経緯が非常に興味深かったです。ロサンゼルスでの経験がイラストへの情熱を再燃させ、ロンドンでの環境で更に促進されていく、海外生活や異文化から得たインスピレーションがプラスに働いていて、新しい環境に果敢に飛び込む姿勢こそがイラストレーターとしての道を切り開く鍵となっているように感じました。一方で、どのような環境でもSHIOさんらしさが根幹にあり、「描くことが好き」という思いにブレが無いことも彼女の魅力です。
SHIOさんだからこそ表現できる、異なる文化の架け橋のような存在として、今後のイラストレーターの活動が楽しみでしかたありません。


【SHIOプロフィール】
日本の大学で建築を学んだ後に渡米し、コロンビア大学大学院にて都市計画を学ぶ。 その後、ウォルトディズニー・イマジニアリングにて世界中のディズニーランドの設計に携わったことがきっかけとなり、イラストレーションの制作を開始。
帰国後は三菱地所にて街づくりの仕事に従事、2023年からはロンドンに拠点を移しフリーランスのイラストレーターとして活動中。 様々な都市生活での経験で得たインスピレーションからさりげない日常の風景を切り取り、見る人の感情を映し出すイラストを得意とする。

<SHIOに関するお問い合わせはこちらまで💁‍♀️

写真:RYO
インタビュー:光冨章高(vision track)
編集:増山郁(vision track)


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