~まさかの炎上~ベンチャー企業の危機管理広報101
ライター:鄭
テレビや新聞、もしくは雑誌などのマスメディアにおいて不祥事が報じられた。インターネットに投稿された内容が発端となり炎上した。
貴社にそのような経験はないだろうか。もしなかった場合、その時どう対応すればいいのか、社内で体系化されているだろうか。スタートアップの多くが自社とステークホルダーの関係性を構築する広報に舵を切る一方、いざ不祥事が起きた場合や炎上した場合、どうやって失った信頼を取り戻し、自社を守る広報を行うのかという点においては無防備なケースが多い。
貴社ならどういう対応をするだろうか(ケーススタディ)
例えばの話をしよう。
貴社は飲食チェーン店を営んでおり、自社工場で生産している冷凍食品に異物が混入していることが発覚した。すぐに処分したが、さらに異物混入の可能性がある冷凍食品の廃棄処分を依頼した業者が転売していたことが発覚した。
その時、貴社はどういう対応をするだろうか。社内では廃棄処分の意思決定をし、業者を手配しているため、我関せずの姿勢を取るのか。あるいは生産者としての責任と食を扱う事業者としての職業倫理に基づき、いち早く関係者全員にこの件を伝えるのか。
実はこれらは2016年1月13日にカレーチェーンである「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開する株式会社壱番屋で実際に起きた事案である。同社の愛知工場で生産していた冷凍ビーフカツに異物混入の可能性があったため、壱番屋は全ロットに対して廃棄手続きを行っていた。しかし、依頼した処理業者が転売をしており、スーパーなどで一般流通していた。
このケースは壱番屋に非がないことから、「一般消費者の不安を払拭し、消費者との関係を構築する」という広報としてあるべき姿、行うべき行動がどの立場から見ても、比較的明白だったかもしれない。実際に異物混入の可能性がある商品が転売されていることが発覚した際に、同社はすぐに
リリースを出している。
炎上現場は想像以上に錯綜している
では、以下の場合どうだろうか。
・海外から仕入れていた食品に異物が混入していた
・その異物は体内に入っても、健康上全く問題がないとされている
・異物混入は製造、仕入れの過程でどうしてもゼロにはできない確率的事象である
あなたは広報担当者としてどのようなリリースを出し、どういう対応を取るだろうか。誠心誠意謝罪し、言い訳を述べず、消費者の不安を払拭することに全力を注ぐことが当然のように見えるかもしれないが、実際問題、多くの企業が理想論を体現できずにいる。それは何故だろうか。
想像してみよう。
前述の通り、貴社が海外から仕入れている食品に異物が混入していた。その異物は体内に入っても、医学的には健康上問題がないとされているが、その食品は貴社で製造していないこともあり、異物混入の可能性をどうしてもゼロにはできない。広報の代表電話番号には、貴社の商品を購入したことがない人たちからの問い合わせ電話が殺到している。「なぜ今回のようなケースが起きたのか?もし健康上何か起きた場合、会社はどう対応するのか?」とひっきりなしに問いただされる。広報担当者のあなたの脳裏には「混入していた異物は体内に入ったとしても健康上問題がない」ことが浮かび上がる。
社内では仕入れた商品はランダムに点検までしていた。それでも今回の異物混入は起きた。責任の所在は仕入先にあるようにも思える。しかしあなたは本当に、正確な事実関係を述べ、消費者の不安を払拭することに尽力できるのだろうか。また、自社の商品を買ったことがない問い合わせ主に対しても謙虚に対応できるのだろうか。
実際の炎上は、このように責任の所在や仕入れ先、中間業者など様々な要素が複雑に絡んでいる。社内では「我々はある意味、被害者ではないのか」という声も上がってくるであろう。「謝罪した場合、当社が法的責任を負わなければならないのではないか」という懸念もあなたの頭の中に浮上するであろう。
これらの葛藤は広報担当者が冷静な判断を欠く原因でもあるが、例えば冷静な判断をしたとしても、広報担当者と同じように冷静な判断を下せなかった経営層がリリースに手を加えたり、記者会見で言い訳じみた弁明をしてしまう原因でもあったりする。
~炎上時の対応~(静観、謝罪する、反論の意思表明をする)
炎上時、一般的に企業には3つの選択肢があると言われている。
①静観する
②反論する(もしくはその意思表明をする)
③謝罪する
炎上の内容にもよるが、例えばごく一部の界隈でしか問題視されていない話題だった場合、静観を検討する企業が多いように見られる。謝罪するか否かの基準は後述するが、「静観」は炎上時に必ず意識される選択肢である。静観することで時間経過と共に鎮火されることを期待するのは理解できる。
では、反論はどうだろうか。例えば前述のケースだと「海外から仕入れている商品に異物が混入していたが、混入されていた異物は身体に害を及ぼすものではない」という事実があった。そのような中、「身体に害があるのではないか」「健康被害が発生した場合、どういう対応をとってくれるのか」という問い合わせが相次いだ場合、「混入されていた異物は、健康に害を及ぼすものではありません」と回答するのはどうだろうか。
静観した場合起こりうること
炎上は、数日から1ヶ月ほどで鎮火するケースが多いため、静観することは合理的な判断のように見えるかもしれない。しかし、インターネット上の情報は基本的に半永久的に残り、検索された場合、炎上した内容がいつまで経っても人目に触れる。特に静観した場合は攻撃側の履歴しか残らず、それに対する企業の対応の履歴が残らない。そのため、検索した人にとっては企業が一方的に悪く映る可能性が高い。
また、炎上すると不特定多数の人が、もしかしたら過去に同じような事案があったのではないか、他にも不安を刺激する事案があったのではないか、と情報を探し回り始める。これらは不安を増長させ、より多くの人を巻き込む。そのため、静観はより企業の信頼を損ない、場合によっては炎上を加速させてしまう可能性が高い。
反論は基本的に「火に油を注ぐ行為」
当事者として事実関係を把握していると「事実と違う」と思う場面もある。そういう場面では、少なからず反論したくなることもあるが、炎上している環境下での反論は基本的に逆効果にしかならない。反論することで「反省していない」と解釈されることが多く、より多くの批判が寄せられることが多い。過去に企業が指摘や炎上に対して反論して炎上が早期に収まったケースは、
①炎上に至る前or炎上直後に対応
②反論の根拠を明示し、第三者による検証にまで誘導している
という2つの要素を満たしている。言い方を変えると、この2つの要素を抑えていない場合、反論が炎上を加速させる。もし、炎上の際に反論を検討している場合は前述の要素を確認し、反論の可否を慎重に検討することをオススメする。
謝罪する/対応する
では炎上時、企業は必ずしも謝罪すべきなのだろうか。もし貴社に炎上時に対応するか否かの基準がなければ、以下のチェックリストを参考にしていただきたい。
☐炎上の内容が自社の商品and/orサービスに関連するか
☐個人の生命、身体や健康の安全にかかわる問題が発生する可能性があるか(もしくは関わっているか)
☐二次被害の発生が予想されるか
☐経営幹部等の重要人物が関わっているか
☐会社や経営幹部に非があるか
☐違法性、刑事事件としての事件性があるか
※上場企業の場合には、特別損失の計上が見込まれる等、適時開示ルールによる開示が義務付けられる場合があるが、今回は未上場のベンチャー企業向けの記事のため割愛する。
もしチェックボックスに一つでもチェックが付いたら、企業は対応、そして謝罪を検討することをオススメする。これらは企業と消費者、そしてその他のステークホルダーとの信頼関係に影響を及ぼすからだ。実際、事実を公表・説明しない、謝罪すらしない態度をとることで世間から不誠実のレッテルを貼られ、ブランドイメージだけでなく信用を失う。
もしかしたら「なぜ謝罪を検討しないといけないのか」と疑問に思う方もいるかもしれないので、詳しく「なぜ謝罪をするのか」を説明する。
炎上時の謝罪の本当の意味とは
なぜ炎上したのかの理由は様々だが、どの炎上も「不快を感じた人が多数いる」という事実がある。会社ではなく個人の立場で考えた時、誰かを不快な気持ちにさせた際に一言もお詫びをしないということはまずないだろう。悪いことをしてしまった、誰かに迷惑をかけてしまった場合にお詫びの言葉を発するのは人が世の中で共存していくための礼儀ではないだろか。この個人対個人の礼儀が、昨今はステークホルダー対会社という関係でも当てはめられている。謝罪は決して法的責任を認めるのではなく、不特定多数に不快な気持ちをさせてしまったこと、世間を騒がせたことへのお詫びであり、そして潜在顧客含むステークホルダーの信頼関係を維持するために必要な礼儀というのが、ここ最近の危機管理広報の考えだ。
個人対個人の話を出したが、企業を構成するのが人であり、企業の商品やサービスを利用するのが人である以上、この礼儀の部分はスルー出来ない。故に社会的な意味での謝罪は炎上を収めるにあたって非常に重要な要素だ。
以前は静観することで時間の経過とともに鎮火していたであろう炎上が、昨今は時間の経過とともに企業のイメージや信頼を著しく棄損するのは、この礼儀の部分が大きいのではないだろうか。
まとめ
以上、ベンチャー企業が炎上した際の対応と、謝罪が推奨される理由を説明した。
静観:より多くの人の目に触れられる可能性がある
反論:必須項目を満たしていない場合、炎上を加速させる
謝罪:社会的意味での謝罪は炎上鎮火のための重要な要素
また、冒頭では広報担当者がなぜ社外から見て適切と思われる対応ができないのかを説明したが、部署間で板挟みになることだけでなく、経営層が社会的な意味での謝罪の重要性を理解していないことで、広報担当者が適切な炎上対応ができないケースは非常に多い。これらの状況は起きてから解決することは非常に難しく、事前のガイドラインや危機管理広報の研修などが必要である。
もし社内で危機管理広報のガイドラインなどが整備されていない場合、ぜひ気が付いた時にでも専門家や周囲の詳しい人に相談することをオススメする。(弊社でも対応可能なため、こっそりサイトのリンクを貼っておく…笑)
※次回は実務編!※
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