課題解決のための図解の技術〜業務フロー図の描き方(業務改善編)
ライター: 秦
非効率な業務課題に悩まされていませんか?また、現状を把握し、業務を可視化できてますか?本記事では、業務分析・業務効率化を進めるための業務フロー図を題材に、課題解決のために必要な図解の技術について解説します。
今回は下記事の後編になります。前編で描いたのは改善前、Beforeの図です。後編では業務効率化にまつわる課題と、実際に業務の非効率な部分を自動化する改善例を解説して行きます。
はじめに
業務効率化や自動化のプロセスには「現状把握」と「可視化」が含まれますが、「どこ」が非効率なのかを正しく把握することで、効果的な効率化につながります。
なんとなく非効率な業務があるからと、局所的に最適化するだけでは、一連の業務に潜む3M(ムリ・ムダ・ムラ)を排除することはできません。
ムリ:無理のある仕事量やスケジュールなど
ムダ:不必要にかかっている時間、手間、不要な業務など
ムラ:負荷の偏り、繁忙期など時期による偏りなど
管理者の目線だけでなく、経営者・現場の目線も踏まえて自社業務の全体感を俯瞰して見ることで、真に最適化すべき業務の全体像が見えてきます。
可視化によって得られる"バリュー(価値)"
業務が可視化されていないと社内で以下のような問題が起きやすいです。
・業務の全容を誰も正しく把握できていない
・業務のムリ・ムダ・ムラが不明瞭になっている
・その場しのぎの対応で業務を行っている
・業務がマニュアルされておらず属人化されている
・業務間で同じような作業があっても気付けない
業務が可視化されると何が嬉しいのでしょうか。
・現状を客観的に見ることができる
・関係者が共通認識として業務の全体像を把握できる
・どこにムリ・ムダ・ムラがあるかが鮮明になる
・外部へ委託する際の共通言語ができる
・他業務と共通する部分を抽出して横展開できる
・業務マニュアルとして基礎教育に活用できる
といった様々な"バリュー"が生まれます。
業務のプロセス(工程)やフロー(流れ)を可視化するための図として「業務フロー図」があります。直感的でわかりやすく、統一的な表現を用いることで「誰が見ても同じ理解を得ることができる」ようになります。そのためにも図解することは非常に有用なことです。
業務の可視化における"課題"
しかし、現実的には以下のような問題が生じています。
▶️ 生煮え
・イマイチ描き方がわからない
・的確に表現できていない図ができあがる
▶️ 飾られた絵
・図を描いても業務に追われメンテナンスされない
・図が難解で描いた人しかメンテナンスできない
▶️ 絵に描いた餅
・図は描いたが実現できない
・改善するためのリソースが確保できない
図解すること自体のハードルの高さや、図自体が置き去りになったり、理想像を描いてはみたものの実現できなかった、などの課題によって業務効率化が頓挫したり継続しなかったりといったことはしばしば起きています。
「生煮え」はなぜ起きるのか?
図解力については日本の義務教育ではほとんど育たない能力でしょう。「図に起こして解説する」という行為自体があまり馴染みのないものであるため、いざ図を描いてみようとなっても上手に描くことができません。
また、作図編で業務フローを記述するための記法にはいくつか種類があると書きましたが、あまり認知されていません。それらはシステムベンダーやITコンサルタントがシステム要件の分析やシステム設計の分野で多く用いられる記法だからです。
「飾られた絵」はなぜ起きるのか?
業務効率化を図る人が必ずしもその業務に専念できるとは限りません。専門の体制が取られない限り、既存の業務との掛け持ちで行うことがほとんどでしょう。そのような状況下では、落ち着いて図を描いて、メンテナンスをして、評価・改善をして、といった活動は困難になりがちです。
また、「生煮え」によって作図が属人化されてしまったり、外部のコンサル業者などへ委託して図を描いてもらったものの、追加したり編集できる人が内部にいなければ、継続性は期待できません。
「絵に描いた餅」はなぜ起きるのか?
現状(As-Is)の可視化の後にはあるべき姿(To-Be)を描くことになりますが、現実的で具体性のある図になっていなければ絵に描いた餅になってしまいます。
技術的な問題への解決策が提示されていないなど、図の抽象度が高く具体性に欠けていれば実際に何を投入すれば実現できるかがわかりません。また、人や資金といったリソースが考慮されずに理想像が描かれていては計画を立てる段階で決裁が降りず頓挫するでしょう。
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受発注業務を自動化して改善する
まずは、前回描いたBeforeの図です。
図1-7. 手作業の部分(赤字)のみをハイライトした図
これらを改善するために、①仕組みベースと②システムベースとの2通りの具体例を挙げます。
①仕組みベースでの改善
Google Workspaceに標準で備わっているGoogle Apps Script(GAS)を活用してフローを整備するといった手法が検討できます。
②システムベースでの改善
受発注管理システムに搭載されているステータスの自動制御や書類の一元管理・帳票出力・仕入先マスタ管理・仕入先へのメール通知・担当間の通知といった機能を活用して手作業にかかる手間や時間を削減したり、Slackなどのチャットベースのコミュニケーションツールに連携して速報性を高めるなどの工夫が検討できます。
あるいは、これらをハイブリッドでフローを構築するのもありでしょう。
いずれにせよ、「可視化されている」ということは改善を行う上でも意思決定を行う上でも大きなメリットとなります。
また、細かい点ではありますが、注文書などのExcel帳票がドライブ上にアップロードされていないことがわかりました。担当者のローカルPC上に保管されている状況はすぐにでも改善すべきでしょう。データや情報の流れを追うことができるのもひとつのメリットです。
可視化することで、このような業務に潜む課題を発見し改善へとつなげることができます。
自動化による改善例 - 仕組みベース
直近は既存の資産でコストをできるだけかけずに改善したい、という方向性になったとします。GASで手作業を自動化しフロー自体の改善を併せて行った例です。今回は在庫管理については言及してませんが、関連業務も含めた可視化および分析を行うことが大事です。
💡 改善点
▶︎ 手作業の自動化
・ 各帳票PDFの出力はGASで自動処理(Excelは廃止)
・ドライブへの帳票アップロードは全てGASで自動処理
・社内のコミュニケーションをメールからSlackに変更
・作業開始の契機もSlackに変更
・仕入先へのメールはGASが自動で文面を作成して送信
▶︎ 業務フローの変更
・請求書が仕入先から経理担当へと直接送られるよう変更
・注文データシートで発注・納品・検収のステータスを一元管理
図1-8. GASによる改善例
手作業で行った場合の作業時間を試算してみます。
1つの注文にかかる時間 = 76分
・ドライブへのアップロード:2分 * 8箇所 = 16分
・Excel帳票入力・PDF出力:15分 * 2箇所 = 30分
・メール作成・送信:5分 * 6箇所 = 30分
注文数 50件/月 * 12ヶ月 = 600件/年
所要時間 = 76分/件 * 600件/年 = 45,600分/年 = 760時間/年
月間の平均注文数を50件として、年間で約760時間がかかる計算となりました。処理すべき注文数が増加するほど時間も多く要するようになります。
さらに、入力誤りや漏れといった人為的ミスの発生リスクも自動化することによって低減するなど、数字に表れにくい付加価値を生むことができるようになります。
自動化による改善例 - システムベース
現実的には難しいこともありますが、自社と仕入先で共通の受発注管理システムにてやり取りを行えるようになると、更にフローは簡略化されます。Slackと連携し通知できるシステムであれば、フロー内のコミュニケーションは受発注管理システムで完結します。そしてfreeeなどの会計ソフトと連携して自動仕訳まで行ってくれれば経理の業務負担も減ります。
💡 改善点
▶︎ 手作業の自動化
・各帳票PDFの出力は受発注管理システムから行う(Excelは廃止)
・各帳票は受発注管理システム上に保管(ドライブは廃止or併用)
・受発注管理システムとSlackを連携し入力を契機に通知、メールも合わせて送信
・作業開始の契機もSlackに変更
・相互への通知は受発注管理システムが自動処理
・受発注管理システムとfreeeを連携し自動仕訳を行い、振り込みまでを自動化
▶︎ 業務フローの変更
・請求書が仕入先から経理担当へと直接送られるよう変更
・受発注管理システムで発注・納品・検収・請求のステータスを一元管理
図1-9. 受発注管理システムを導入した改善例
受発注管理システムへの移行にかかる導入・運用・教育コストはかかりますが、データが一箇所に集約され、さらにコミュニケーションも自動化し、かなりの効率化に繋がります。また、個人情報保護の観点でもドライブやスプレッドシートへの細かなアクセス権限操作が不要となり、受発注管理システム上のアカウントベースでの管理ができ安心です。
とはいえ、ここまでの機能を有したクラウド受発注管理システムは少ないように思います。freee受発注管理とアドオンでZAIKO・Slackと連携するなど複数のシステムを組み合わせて、受発注・在庫・請求・コミュニケーションの一連のフローを構築するという手法が現実的ではないでしょうか。
比較しやすいようにBefore-Afterを並べます。
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かなりスッキリしましたね。
まとめ
以上、2部に渡って業務フロー図の描き方について解説しました。後編のまとめです。
・現行業務の課題や問題点を把握するために業務フロー図を用いて可視化する
・「どこ」が非効率なのかを正しく把握することで、効果的な効率化(一連の業務に潜む3M(ムリ・ムダ・ムラ)の排除)につながる
・可視化によってコスト削減、人為的ミスの抑止、属人化の排除など、様々なメリットが得られる
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note: Visionary Base編集部
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