DICOM画像と画像モニター
DICOM画像に適したグレースケールの階調はいくつだろうか?という疑問を持つ、(玄人な)画像系の仕事に従事する医療従事者は多いかもしれません。
本当に重要なのは、DICOM画像の品質(深い色深度を含む)です。
この理由を、少し回り道をしながら解説したいと思います。
グレースケールの劣化
例えば、ビット数(Bits Stored)が12であるCT画像を考えてみましょう。画像には 2^12=4096 階調のグレーレベルが含まれていることになります。真っ白から真っ黒まで、4096種類のグレー色のグラデーションステップがあると考えてください。
このグレーを表現できる12-bit(Bits Stored)のDICOM形式のままであれば、4096階調を表現できるピクセルデータを保持しているので、適切なソフトウェアやモニターで表示・閲覧することに何ら問題はありません。
一方、画像が一部のBMPやJPEGのような256階調(8-bit)しかサポートしない非DICOMフォーマットに変換されたりすると、元の4096階調を維持できなくなります。8-bit の256種類のグレーレベルしか表示できなくなります。これは、画像データそのものの色深度をダウンスケールしているので、画質は劣化していると言えるでしょう。
色深度のダウンスケールで劣化した画像は、元の画質に戻すことができなくなります。そのため、オリジナルのDICOM画像をバックアップしておくべきです。
画像コントラストの調整(劣化なし)
PACSやDICOMアプリケーションに搭載されているウィンドウ調整(ウィンドウレベル)機能を使って、表示するグレースケールの範囲を調整することができます。
例えば、4096階調のCT画像を従来の既製モニター(256階調のみサポート)で見る場合、元の4096階調の範囲を、256諧調スケールへマップしながら、"脂肪"、"肺"、"骨"など、目的に合わせたコントラスト調整ができます(これは、専門的にはLook Up Table ; LUTによって実現します)。この方法は、元画像に変更を加えているわけではなく、オリジナルデータは保持したまま、画像処理を行っています。
コントラストの調整は、元の4096階調のCTのグレースケールのうち、指定されたサブレンジ(ウィンドウで指定されたヒストグラム部分)を取り出し、モニター上の256階調にマッピングしています。ウィンドウは、サブレンジの範囲、レベルはそのサブレンジの中央を示します。よって、ウィンドウの上限と下限はレベルによって調整されます。例えば、肺野条件の場合は、ウィンドウの下限は、-500 - (1500/2) = -1250、上限は、-500 + (1500/2) = 250です。これはCTの例ですので、生のピクセルデータ(0~65535)をCT値に濃度キャリブレーションしていることに注意してください。
DICOM画像を表示するモニター
オリジナル画像の画質が保たれていれば、ポータブルデバイスのディスプレイから、放射線医療に特化した10メガピクセル以上の高解像度モニターに至るまで、どんなモニターでも同じように画像を見ることができるはずです。
あるいは、12ビットの色深度をそのまま表示できる(256諧調へマップする必要がない)画像診断専用モニターでは、画像をオリジナルのまま見ることができます。繰り返しになりますが、256ビットの従来型モニターでは、カラーマッピングでそのレンジ内の色合いを256諧調に変換しながら表示します。
え!じゃあ8 bitの色深度モニターじゃだめじゃない?
と、私は思いました。
モニターの性能は、色深度の深いグレースケールを表示できる方が、いいのでしょうか。
この課題を考えるために重要な指標は、輝度とコントラスト比です。
輝度は、モニターが発する光の量です。通常、その単位は、カンデラ毎平方メートル;cd/m^2)で表されます。
コントラスト比は、モニターが再現できる最も暗い色(黒)の輝度に対する最も明るい色(白)の輝度の比率として定義されます。例えば、コントラスト比が1000:1であれば、最も明るい白が、最も暗い黒の、1000倍の明るさであることを示しています。
理論的には、コントラスト比が高ければ高いほど、画像の濃淡の区別がつきやすくなります。
DICOMでは、このコントラスト比と人が識別可能な濃淡レベルの関係を「Just Noticeable Difference (JND)」で説明しています。最小可知差異(さいしょうかちさい)です。これは、一般には、「ある標準となる感覚刺激からはっきりと弁別できる刺激の最小の差異のこと」です。モニターに関していえば、ある特定の観察条件下で人間が(平均的に)見ることができる最小グレースケールの差です。
理論的には、JNDはモニターの輝度に依存します。DICOM PS 3.14 では、Barten氏らの研究の結果をもとに、この関係を数式化しています(この図を描いてみたい人は、PS 3.14 Annex B Table of the Grayscale Standard Display Function (Informative)のデータを使ってください)。
この図をどう解釈するかというと、例えば、かなり良い500cd/m^2 の輝度のモニターを選んだ場合、一般的な人の目は、約700のグレーレベルのグラデーションステップを識別できることが期待されます。
ただし、モニターやグラフィックカードのハードウェアが、700の色深度をサポートしていることが条件です。
ここでまた4096諧調について考えてみると、ハードウェアが4096階調を表示できるとしても、500cd/m^2 では、平均的な人は、700階調以上を識別することはできないことになります。
ではもっと輝度を上げてみたらどうかというと、画像診断専用のモニターの最高輝度が1200 cd/m^2だとして、そのときのJNDは900程度になります。これでもまだ及びませんね。
このような理論とは別に、JND関数は、画像診断用モニターの校正時のキャリブレーションという実用的な目的にも使用されています。キャリブレーションの目的は、このDICOMの輝度とJNDの関係に沿うように、モニターの輝度を調整することです。このモニターの輝度の校正には、推奨輝度があります。よくある画像診断用モニターの推奨輝度は、500 cd/m^2です。
人の限界
人間の視覚システムは非常に複雑です。
例えば、画像のノイズ、分布、形状、見ているものの位置によって影響を受けます。また、見る環境にも影響を受けます。周囲の明るさや、椅子の高さ、体調など、さまざまな要因によっても視覚が左右されます。
最大数のグレースケールを見ることができることは、本当に重要なのでしょうか。おそらく、上の条件がすべて整っているとして、視覚が超人的に強い人でない限り、その意味は薄いのです。
結局、JNDを高くしようとすると、輝度を高くしなければなりません。
一般的なラップトップPCのモニタは、350 cd/m^2程度です。それでも眩しいと感じるときがあるでしょう。普段、ラップトップPCで作業している人が、急に600cd/m^2(730JNDに相当)を超える輝度のモニターで作業できるのでしょうか。おそらく、高すぎる輝度は敬遠されるでしょう。眩しすぎるモニターに覗き見防止フィルターを付けてちょうどよいくらいかもしれません。
このような理由で、現在は多くの医療従事者が、300~500 cd/m^2の輝度でモニターを動作させているはずです(なので、モニターメーカーの輝度キャリブレーションの推奨が500 cd/m^2)。その結果、モニターは快適な輝度を提供しますが、オリジナル画像のグレースケールの色深度を表現するには到底及ばないということになります。
では、結局のところ、医療従事者が快適に、かつ、エラーを最小限に抑えながら画像を見るためには、モニターの階調はいくつあれば十分なのでしょうか?
Bender氏らは、低コントラストの病変画像を、8ビットと、10または11ビットのそれぞれの色深度で放射線科医に提示した実験を行い、結論をこう示しています(意訳含む)。
この実験から分かる通り、10/11ビットの深いグレースケールはコントラストの改善はしたものの、放射線科医らは通常の8ビット表示を好んだのです。
さらに、11ビットのグレースケールは「シャープでない」と認識されるケースもあったようで、このケースでは、階調数が多いため、滑らかな画像に見えるが、それは画質の劣化やぼやけと認識されたそうです。
人間とは不思議な生き物です。時には最もシンプルなものが最も効果的であることもあるのです。
しかし、さらなる技術開発で、このストーリーは覆るかもしれません。みんなの目が超人化するなど。
何が起こるかはまだわかりません。
要するに、元のDICOM画像の品質が重要なのです。
Stay Visionary
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