[論文紹介]昆虫ウイルス、寄生蜂、チョウ目昆虫の軍拡競争と遺伝子水平伝播
Horizontally transmitted parasitoid killing factorshapes insect defense to parasitoids
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論文内容:
チョウ目昆虫 (Lepidopteran insects) は、寄生蜂 (Hymenopteran parasitoids) と昆虫ウイルス (baculovirus, entomopoxvirus, etc..) に共通の宿主として利用されています。
寄生蜂は、チョウ目昆虫に捕食寄生 (宿主に寄生して殺してしまう) し、昆虫ウイルスはチョウ目昆虫に様々な病原性を示します。そして同じ宿主を共有する生態系 (kingdom) では、軍拡競争とそれ故の進化圧があると想像できます。
本論文で筆者らは、昆虫ウイルスとチョウ目昆虫が保有する遺伝子ファミリー parasitoid killing factor (pkf) の機能を解析し、寄生蜂に致死的な影響をもたらすことを明らかにしました。
(1)チョウ目宿主がpkfを獲得することで、一部の寄生蜂 (C.kariyai) には致死的な影響を与え、一方で別の寄生蜂 ( M. pulchricornis) には影響がないことが分かりました。
(2)pkfホモログは複数のdsDNA昆虫ウイルスと、チョウ目宿主から発見され、系統解析結果より複数回にわたってpkfがウイルス間またはウイルスとチョウ目宿主間で水平伝播されたことが示唆されました。
(3)チョウ目宿主由来のpkfも、一部の寄生蜂 (C.kariyai) に致死的な効果を発揮しました。
(4)pkfは一部の寄生蜂 (C.kariyai) 細胞において、アポトーシスを介した細胞死を惹き起こしていると考えられました。
以上、本論文では、昆虫ウイルスとチョウ目昆虫は、寄生蜂に対抗する遺伝子を水平伝播で獲得することで生き延びてきたと考えられました。
記事作成者によるイメージ図:
談話会メンバーのコメント:
「遺伝子の水平伝播」というウイルスの進化における面白い役割を知ることができ、談話会メンバー一同はウイルスの存在に改めて魅了されました。pkf遺伝子の獲得機構や、pkf resistantの寄生蜂の進化機構は今後の解析が気になるところです。また、水平伝播やクロスキングダムをキーワードとしたウイルス研究は興味深く、動物、植物、昆虫、水圏、様々なウイルスを研究する研究者の連携の必要性を感じました。
余談:
昆虫を対象にしている研究者がいなかったため、昆虫を身近に感じるべく談話会メンバーの最近気になる昆虫、ムシ、節足動物に関して語ってみました。
鳥居: 翅アリがたまに部屋に出るので気になります。
中里: 部屋の至る所に出るゲジゲジが気になるそうです。
小嶋 : カマドウマにトラウーマがあるそうです。
岩本: クモは地位の確立に役立っているそうです。
藤田: マダニの採集グッズを最近自作したそうです。
佐藤: セミをベランダに飾っている (自称) そうです。
高橋: サナダユムシという奇妙な生き物が瀬戸内海の干潟から発見されたそうです。
引用:Gasmiet L. et al., Horizontally transmitted parasitoid killing factor shapes insect defense to parasitoids. (2021). Science 30 Jul 2021: Vol. 373, Issue 6554, pp. 535-541
記事作成担当:ウイルス学若手ネットワーク 鳥居
談話会メンバー:中里、小嶋、岩本、藤田、佐藤、高橋
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