ヒューマニエンス『土』特集ついて
人間と土は関係するのか?
『ヒューマニエンス 』をご覧くださった皆様、ありがとうございました。放送時間は1時間ですが、数か月にわたってお手伝いしてきたものです。BSNHK、NHK教育は何度かお手伝いしたことがあるのですが、『ヒューマニエンス 』はNHK地上波でも短縮版を放送するということで、広く発信できるチャンスだと思い引き受けました。土と人間の関わりで1時間もつのか?という番組制作サイドの不安。もちろん、私サイドには自信しかありません。根拠はいくつかあります。
人間は土から Homo ab humo
まずは、英語のhuman(人間)とhumus(腐植)となるラテン語の語源が同じだということです。もっと言うとhumor(ユーモア)、humidity(湿度)、humility(謙遜)などラテン語の語源は同じなのだそうです。しっとりしたイメージ。かつて命は土から生まれると信じられ、神様が土で泥人形を作り、息を吹きかけて人間を作ったという神話も創世記にあるほどです。
食べ物の95%以上は土から
神話では納得できなくても、私たちの食べているもののの95%以上は土由来だといわれます。残り5%は海由来。論文では98%以上という数字しか見たことがありません。いずれにせよ、土は大事です。「身土不二」という言葉もあります。現在、マクロビ(by 桜沢如一)や有機農業+地産地消の拠り所に使われますが、もともとは仏教用語で「自らの行いは自らに還ってくる(=因果応報)」を意味しており、土は広く環境という意味で人間の生活を制約してきました。
人口密度を決定する土
世界には異なる土があり、人口密度が大きく異なります。気候、水が一番重要ですが、土はその次に重要です。とくにヒトがおそらく食料をめぐる競合で負けたゴリラ、チンパンジーの主食はアフリカの熱帯雨林のフルーツ、そのフルーツ生産量は土のリン量に制限されるといわれます。このへんが、土と人間が深くかかわると考える根拠でした。
人糞尿・北前船・ハーバーボッシュ
肥沃な土ばかりではありません。収穫すると、肥料で持ち去った栄養分を補う必要があります。人糞尿は重いので、都市近郊でリサイクルするのが精いっぱい。そこで生まれたのが京野菜や葛西菜(=小松菜)です。さらに多くの非量が必要となると、魚に目をつけました。油を搾った後の粕が即効性のある肥料になったためです。蝦夷(北海道)に衣服を運び、帰りに肥料を持ち帰りました。このとき、持ち帰った昆布が琉球、清国まで届き(密輸)、その帰りに漢方薬(⇒富山の薬に)が届きます。黒船来航以前から開国への機運が高まっていた、その素地を生んだ究極の原因は土でした。ハーバーボッシュ法の発明は世界人口を5倍まで増加させました。その功罪は、今日の人類の苦悩そのものです。
微生物・団粒・不耕起栽培
土は今まさに砂漠化のような問題を引き起こしている話題も重要です。この話題になると、どうすればいいのかという対策まで話さないといけなくなります。突然、ハードルが上がるのです。将棋、教育、恋愛に必勝法がないように、農業にも必勝法はありません。でも、どうしても私たちは必勝法を求めてしまいます。その時、飛びつきたくなるのが不耕起栽培です。「土壌中の微生物、とくに菌根菌には植物との共生関係があり、耕起はそれを壊してしまう。不耕起栽培は団粒構造の発達を促進し、微生物の共生関係を守る」というシンプルなストーリーが分かりやすいからです。団粒には土壌有機物を保護し、陸域最大の炭素貯蔵庫としての土壌の機能を発揮することも期待できます。部分的にいいことだらけです。でも、水田は代掻きしますが2000年持続的でしたし、大根やニンジンは耕起が欠かせません。雑草抑制、排水性の改善に耕起の欠かせない土もあります。土壌を過度に耕起することがよくないのであって、耕起の全否定は違います。
不耕起栽培の難しさ
不耕起栽培がさらにやっかいなのは、北米・南米の半乾燥地で流行っている遺伝子組み換え作物+除草剤で成立する大規模農業(化学肥料まく)と、自然栽培(有機農業の一つ、無肥料が原則)として提唱された日本の小規模農業が混在し、その二つが相容れない点です。人によって不耕起栽培という言葉でイメージしているものが異なるのも難点。それぞれの成立した背景・意義は異なり、オプションの一つとして理解されるといいのですが、不耕起という言葉にパンチがありすぎて、土をたがやす慣行農業との対立構造で描かれてしまいがちです。他の出演者の顔を立てつつ、そこを避けようと苦しみました。番組制作サイドも一緒に悩んでくれました。
テレビの魅力と難しさ
テレビの仕事を引き受けることの私にとっての価値は、違う畑の人たちにとって土がどう見えているのかが番組を通して見えてくることです。番組制作はチームプレーで、私の思い通りには(全然)ならないのですが、一方で、アイデア出しをした私の責任はかなり問われると思っているので、科学の範囲内、法律の範囲内、他者を攻撃しない、分かりやすい、かつ面白い、かつ抑制的(=よく感じ悪いといわれる、でも、テレビ出ると調子に乗ってあることないこと話す人がたまにいる)でやるバランスの難しさを感じています。
織田さんに会いたかった
今回仕事を受けたのは織田さんに会いたかったのも一つです。「振り返れば奴がいる」「お金がない」「就職戦線異状なし」とかどれも大好きで、当時の流行りなのでしょうが、そのポジティブさに励まされたし、織田さん歌もとても良くて(最近歌ってないけれど)。「Never Rain」のCD持ってましたと織田さんに言えたのがファンとしての収穫でした。織田さんも「Never Rainはコアだね~」と笑っていました。あと、元村有希子さん(毎日新聞)には本(『大地の五億年』)を送っていたのですが、ちゃんと届いていました。地味な本は自分でアピールするしかなく、それでなければNewtonの科学の名著にも選ばれなかったとも思うのです。
NHK地上波での放送がない!
「お金がない」ではなくて、今回は地上波NHKでの放送の予定はないそうです。『ヒューマニエンス 』はNHK地上波でも短縮版を放送すると聞いていたのですが、甘くないのです。でも、NHKはあなたの受信料に支えられています。民意は無視できません。もう一回見たいなと思う方は是非、清き一票をお願いします。