噓日記 3/1 革靴履いて
月の初めの一日は何と言うかやはり気が引き締まるものだ。
襟を正すというか、一度真人間に自分をリセットしようとする感覚。
そんな感覚をより実感として得るために、今日は俺にしては珍しく、しっかりとした革靴を履いて外出してみた。
俺の中で、革靴というものは大人の記号であり、真人間の記号、そして社会との迎合を表す記号である。
それを履いて出歩くことで、社会の中での自分の立ち位置を踏み固めるのだ。
結果としては、今日一日でしっかり靴擦れを起こした。
真人間化失敗。
その靴擦れに貼った絆創膏を一撫してからこの日記を書き始めた。
確かこの革靴を買ったのが2年前。
2年前にはカチカチだった革も多少伸びて、少しでも履きやすくなってくれたかな、ということでチャレンジしてみたが全然ダメ。
俺が長男じゃなけりゃ泣いてた。
まぁ長男じゃないから泣いたけども。
それくらい固いし、足は痛いし。
今日履いていた靴下に刺繍されたモグワイも心なしか悲しげな顔をしていた。
俺はグレムリンの映画をまともに見た覚えがない。
しかし、一体いつになったらこの革靴は俺に懐いてくれるのだろうか。
ちょっと履いたくらいじゃ靴擦れを起こさない、そんな程良いパートナーになって欲しいのだが。
靴擦れについて先ほど革靴好きの友人に相談してみたのだが、クリームを塗れだとかシューキーパーを使えだとかありきたりなことしかアドバイスしてこない。
そんな底面の意見なんて求めていないのに。
俺はクリームを塗ったり、シューキーパーを使ったりしたくないのだ。
何故ってそれはダルいから。
革靴ってもっとスニーカーくらい手軽に履きたい。
なんで革靴ってケアしないとまともに履くのも許されないの?
もうどこに行くのにもVANSがいいよ。
VANSのオールドスクールでどこにでも行かせてよ。
靴擦れしないしさ。
そんでこんだけ面倒なくせに、なんで冠婚葬祭って革靴履かせんのよ。
多様性の時代だろ、革靴の手入れと墓参りが嫌いな俺みたいな人間を受け入れてくれよ。
俺は革の手入れと先祖の弔いが一番苦手なんだよ。
でもさ、一応俺だってこの革靴を買った時に変わろうとしたのよ。
革製品にしちゃダメなことを覚えたりさ。
水に濡らしてはいけないだとか、光に当ててはいけないだとか、夜中を過ぎたら決して食べ物を与えてはいけないだとか。
これ、モグワイの飼育ルールだわ。
もうどっちがどっちか分かんなくなるんだよ、革靴とモグワイ。
つまりそういうこと。
俺はグレムリンの映画をまともに見た覚えがないってこと。