噓日記 12/24 メリークリスマスジジイ
本日はクリスマスイブ。
いわゆる所の聖夜みたいなものでございますね。
幸せそうな家族連れ、アベックなんかが街に屯しているもんですから、私はそんな彼らを一人残らず通報している次第です。
不埒な輩から街の治安を守っているんでございます。
そんな私は家庭を守ろうと家の中で布団を被って一日過ごしておったんですが、この時間になって守る家庭がないことを思い出したんです。
そこで今日の日記にはそんな聖夜の出来事を残しておこうと思います。
さて、時は四十年ほど遡りましょうか。
私の古い知人にA君、という方がいらっしゃいました。
彼は利発にして聡明、クラスでも人気者の子でありました。
私のような日陰者にも分け隔てなく接してくれる、数少ない友人と呼べる一人です。
そんな彼にまつわるエピソードなのですが、彼の家はお寺でして、クリスマスというものを祝ったことがないと言うのです。
そこで、クラスの人間が集まって小さいながらも彼のためにクリスマスパーティーを開催しようと持ち掛けるのです。
家庭の宗教に子どもが縛られるのはいかがなものか、と当時の私も思っていたので勿論それに賛同します。
五百円まででプレゼントを買ってそれを交換しようだとか、給食のパンを食べずに残しておいて放課後にみんなで食べようだとか、今思えば慎ましいのか貧乏たらしいのか分かりませんが、つつがなく計画は進行しました。
私もセンスがないことは重々承知しておりましたが、クラスの誰かが喜んでくれるようにと発行されたばかりの五百円玉を握りしめて、数駅先の百貨店まで自転車で行ったのを覚えております。
そこで買った紫色の缶ペンケース。
男女どちらに当たっても使えるだろうという私なりの配慮が色に表れております。
そんな準備を進めて、クリスマスパーティー当日。
さて、プレゼントをカバンから取り出し、パーティーの開催を待っていた時のことです。
クラスの仕切り屋から、教室から出ていくように言われました。
そこで私は察しました。
クリスマスパーティーの頭数に私は入っていなかったのだと。
悔しさというか虚しさがそこで込み上げて来ます。
涙になってそれが表れてしまう前に、私は一つ頼み事をします。
「A君に、これを渡して」
綺麗な包装紙に包まれた缶ペンケースを仕切り屋の彼に預け、逃げるようにその場を去りました。
なけなしの五百円、誰かのための五百円。
これでよかったと自分を誤魔化し、泣きながら家に帰ったのを覚えております。
翌日、A君は紫色の缶ペンケースに筆記用具を移して使ってくれていました。
そこで私は思ったのです。
誇り高く生きよう、と。
それから毎年、聖夜には楽しむグループを全て通報しているというわけでございます。