噓日記 1/19 髭剃り失敗
失敗した。
俺の口ヒゲが失われた。
大切にしてきた口ヒゲが剃り落とされてしまった。
俺のようなヒゲメンは日々のグルーミングが欠かせない。
ヒゲを残しつつ清潔感を出すためには必須な行動だ。
生えすぎたヒゲを剃り落とし、長さを揃え、ヒゲの輪郭を際立たせる。
それらは体調を整えるのと同じ。
ヒゲメンが表に出るために必要な礼儀であり儀式なのだ。
そこに日々拘る時間が俺を俺たらしめていた。
ヒゲをデザインする時間は煩わしくも、どこか愛おしく、自らを形作るヒゲの前で少々テンションが上がる。
今日の俺も調子に乗ってヒゲを剃っていた。
少し伸びすぎたヒゲを整えるために。
全体をヒゲ用のバリカンで数ミリに刈り揃え、もみあげにかけてフェードをかけていく。
上手いもんだ。
ヒゲが濃いメンズだけが習得する特殊技能。
そこらのヒゲなしたちにはできない芸当だろう。
しなくていい芸当。
そして、ヒゲ用のボディートリマーでヒゲのラインを細めていく。
左右対称になるように鏡で確認しながら、左右の髭のバランスを整える。
顎からもみあげにかけてはこれで一旦完了。
次に口ヒゲに取り掛かる。
そこで俺は、やった。
明確にやった。
口ヒゲは清潔感を出すために唇から数ミリ空けるように剃るのが基本なのだが、俺のヒゲは少しの間放っておいたためやや唇にかかり始めていた。
これはいかんとボディートリマーで唇から数ミリ離して下のラインを調整する。
そして上のライン。
上のラインの位置で口ヒゲの太さと印象が大きく変わる。
慎重に、慎重に。
左右のヒゲの羽のように広がった先から削っていく。
そんで、やった。
剃りすぎた。
ダリになった。
ダリみたいなほっせーヒゲになった。
やべっと思ってリカバリーしようにもヒゲはすぐには戻らない。
左のヒゲをミスったら、右のヒゲも差し出すしかない。
俺は左右のヒゲを細く刈り揃えた。
ダリでしかなかった。
泣く泣く俺は全ての口ヒゲを剃った。
泣いていたかも。
明々後日デートなのにヒゲがなくなった。
これはもはや服を着ずにデートに行くようなものだ。
恥ずかしい。
そして失敗ついでに口の下のヒゲにもトリマーが当たったようでそこもぐちゃぐちゃにしてしまった。
泣きながら剃る。
口ヒゲとフェイスライン、そして口の下に生やしていたヒゲが俺のミスによりフェイスラインのみになってしまった。
めちゃくちゃ悲しい。
変じゃないかなぁ。
悲しくで自撮りしてみる。
これはこれであり。
渋さが減ったが若さは戻ってきた。
不幸中の幸い。