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噓日記 8/30 無言開催リッツパーティー

この世でまだ誰も成し得ていないことをしたい。
人に生まれたからには誰もが抱くそんな感情。
人がいなくなった校舎でここは誰にも触れられたことがないだろうと思しき場所を探しては触れて歩いた子どもの頃と同じ感覚。
それが不意に止めどなく溢れて、如何ともしがたくなったため、幼少期より共にそんな感覚を共有し続けた愚かな友人たち2人を自宅へ招き入れて無言リッツパーティーを開催した。
パーティーなんてものはスピーカーからドンドコ音楽を流して、淫靡な雰囲気に身を任せながら男女で酒を酌み交わし、思い思いにまぐわうものだと認識している。
パーティーに参加したことがまともにない人間だから基本的にパーティーに関する知識はアダルトビデオからしか得られない。
煮卵みたいなケツをした黒ギャルが参加していることは知っている。
そんなパーティーを今日は男だけで、そして無言で執り行う。
表題の通り、リッツパーティーだ。
準備の間、我々は無言。
それぞれがリッツに乗せてみたいものを持ち寄って、皿に盛り付けたリッツの上に添えていく。
時折持ち寄った具材が被ったり、思いもよらない我々の間隙を突くような具材が持ち込まれたりすると思わず声が出そうになる。
だが飛び出そうになる言葉をグッと堪えてハンドサインでやり取りをする。
具材が被った時には持ち寄った者同士で中指を立て合い、思いもよらないものが持ち込まれた時は持ち寄った者以外がサムズアップしてそれを讃えた。
ついでに意味がない時にも中指は立てた。
準備を終え、立食パーティーの体を成したところで狂宴が繰り広げられる。
手に持ったシャンパングラスを少しかかげ、3人でクイと飲む。
リッツに手を伸ばし、口へと運ぶ。
まず初めに、明太子とクリームチーズを乗せたリッツ。
旨い。
だが無言だ。
咀嚼する音が耳の中で反響し、周囲全体で響いているような錯覚がする。
その音が2人にも聞こえているんではないかと気恥ずかしくなり、自然と咀嚼がゆっくりになる。
2人の様子を見てみると、彼らもどこかぎこちなく口を動かしている。
そうか、我々は今同じ感覚を味わっているのか。
詰まるところ、我々は同じ沈黙を共有している。
沈黙から我々が音を生み、それを支配している。
無言のリッツパーティーは厳かに、ただ確実に娯楽へと昇華されてゆく。
無の中に生まれる音はジャズと同じだ。
そんなアドリブに溢れた音の中、我々は粛々とリッツを食み、そして奏でた。
パーティーを終え、皆すっきりした顔で日常へと溶け出してゆく。
無音から世界へ。
その後、我が家から解き放たれた2人は公園の砂場でトンネルを掘っていたところを沢口靖子に狙撃されて命を落とした。

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