噓日記 1/13 ハンバーガー
ハンバーガーとは不思議な食べものです。
普段目にする回数が多いですが、その時が訪れるまで食べたいとも思わないのです。
ですが、その時が一度訪れてしまいますとハンバーガー以外を受け付けられないと申しましょうか、ハンバーガーしか食べたくならないのです。
私にとって、その時が今日でございました。
昼時にどうしてもハンバーガーを食べたくなって仕様がなくなり、半ば狂ってしまったように急いで車に飛び込みました。
一番近くのハンバーガー屋を急いでスマートフォンで検索いたしまして、カーナビに打ち込みます。
法定速度を守りながらもはやる気持ちが抑えきれずに、それでもその気持ちをあてる先がなく、ハンドルを握る両手に強く力を込めてどうにか落ち着こうと苦心したものです。
永遠にも似た数分間のドライブの末、ハンバーガー屋まで辿り着き、店内に入る時間も惜しんでドライブスルーを選択します。
昼時ということもございまして、数台の車が列を成しております。
その時間にストレスを溜めるのか、それとも今の私にとって最適なメニューを選ぶのか、考えるまでもございません。
頭の中をフル回転させまして、セットで何をいくか、ドリンクはどうするか、そして単品で何か注文しようかとシミュレーションを重ねます。
そして、いつの間にか注文も私の番に。
ガチャガチャとした音質の悪いスピーカーにも関わらず透き通った麗しい女性の声で注文を取られます。
私は先ほど思いついた最高のメニューを注文いたしました。
ハンバーガーを食べる時、私は遥か彼方、アメリカ合衆国に意識を飛ばします。
その地で生まれたジャンキーな食文化、それに想いを重ねるために。
チーズバーガー、コーラ、ポテト、そしてチキンナゲット。
アメリカン四重奏を奏でる彼らに今日の昼餉を飾っていただきます。
そして、注文後にそれらを受け取り、車を飛ばして自宅へと帰りました。
テーブルを拭きあげて、安いプラスチックのトレーに薄紙を敷き、買ってきたハンバーガーたちを綺麗に整列させていきます。
そして、錯覚させていくのです。
ここはアメリカンダイナー、そこで私、いや俺は気怠そうに惰性でハンバーガーに齧り付いているのだ、と。
食事中ですが、スマートフォンも触ってしまっていい。
ハンバーガーとはそういう食べ方が正解なのです。
片手にハンバーガー、もう片方の手にスマートフォン。
スマートフォンでは「ハンバーガー 発祥国」、そんな言葉を検索してアメリカの風を感じます。
発祥国、ドイツでした。
急いで冷蔵庫からビールを取り出して喉を鳴らして飲みます。
危ないところでした。
危うく文化盗用するところでした。