噓日記 6/20 ギターと暑さとふるさと
ギターを掻き鳴らしている。
数年前に手慰みに買ったアコースティックのミニギターがこんな蒸し暑い晩にはよく似合う。
高校時代にギターと出会い、それから真面目に練習するわけでもなく20個程度のコードを適当に紡ぎ続けてきた。
ウイスキーの水割りを傍に、適当にジャカジャカと弦を震わせる。
音楽理論もまともに知らないので、このコードの次はこのコードがあったら気持ちがいいなと試行錯誤を重ねながら、時折思い出したかのように酒を呷る。
グラスが纏う結露がテーブルを濡らすので、休憩がてら指でその水滴をツッとなぞったりして、火照る体の具合を確かめる。
コードがいい具合に耳障りが良い調子になったら、適当に歌詞を乗せて小さな声で呟くように歌う。
ボーッとした酔いと蒸し暑い宵に乗せたコードの余韻が心地良い。
俺が歌を歌う時はありもしないことを歌にする。
それは時に世界の平和であったり、今の恋心であったり。
現実と乖離した歌詞がただそこに俺を没頭させてくれる。
今日紡ぐ曲のテーマはキスマーク。
えっちな漫画のキスマーク、梅毒みたいだという曲。
俺は道徳の教育を受けていないので平気でそんな歌を歌う。
キスマークと梅毒の表裏一体な存在感は俺のような道徳教育を飛級した男にしか歌えない。
道徳教育は時に誰かにとっての正しい道を否定することになる。
正しい教育を受け、正しい家庭に育ち、正しく成長を果たした者にだけ道徳感は微笑むのだ。
俺のように世界の規範からもドロップアウトした人間には道徳教育という押し付けがましい正義のあり方が説教くさくてたまらない。
だからこうして俺は歌う。
俺が感じた全てを社会規範という圧倒的な正解に向けてぶつけるのだ。
俺のこの在り方がロックンロールであるのだと盲信しつつ、とめどない言葉のカスケードから今の俺を表現する。
キスマークと梅毒は似ている、彼氏のいる女は額にタトゥーを入れろ、彼氏が欲しい女は小指にオレンジ色のネイルをしろ。
様々なテーマが行き交って、最終的に俺なりのラブソングが出来上がる。
その歌を古いラジカセでカセットテープに録音し、デモテープにして毎度送っている。
ハロプロに送っている。
あとナベプロにも送っている。
俺は誰かの神様になりたい。
唯一信じられる絶対の何かになりたいのだ。
こんな蒸し暑い晩に、そっと誰かに寄り添える、そんな何かに俺はなりたかったのだ。
ついでにユネスコから表彰されたい。
ユネスコ世界偉人歴に選ばれたい。