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噓日記 2/21 つけたい犬の名前

犬を飼ったらつけたい名前をいつも考えている。
いつもいつも。
生活に支障が出るレベルで考えている。
考えすぎるせいもあって注意力は散漫で、ここ三年で八回事故を起こしている。
もうこれ以上やらかすと任意保険に入れないかもしれない。
だから今日決する。
飼ったらつけたい名前を今日決める。
前提として人気の名前をつけたくない。
そりゃそうだろう。
今年、赤ちゃんに名付けられた名前で一番多かったのは〇〇ちゃんです! なんて発表を見た後に我が子に〇〇と名付ける親はなかなかいない。
凡百の誰かにならないで欲しいという祈りが命名には込められているのだ。
犬も一緒。
オリジナリティがある方が、犬の生涯においてもプラスに働くだろうという希望。
飼い主のエゴ。
だから俺もそのエゴに従って犬の名前にはオリジナリティを出したい。
調べたところによると、犬の名前で人気なのはムギ、モカ、マロンなどの体色をモチーフにした茶色を連想させるものとソラ、リク、ウミなど自然を連想するものが多いようだ。
もうその辺は除外する。
茶色を始めとする色や自然を連想させる名前は一切つけない。
あと、二文字、三文字もやめておく。
文字数さえもオリジナリティ。
犬は家族だ。
そんな家族にペット然とした名前をつけるのは憚られる。
どうせつけるのならばもっと人っぽさ、なんならもっと上位存在らしさがあるとより良い。
実篤(さねあつ)とかもいいかと思ったが、武者小路に先に使われているので使えない。
武者小路実篤は人っぽいし、上位存在っぽいから丁度良かったのだが。
困った。
もう俺のボキャブラリーに犬用の語彙がない。
どうしようかな。
もうあれでいいかな。
よし、俺が飼う犬の名は大癋見(おおべしみ)だ。
お、口に出したらなんかいい感じ。
動物病院で大癋見ちゃんって呼ばれたら面白いし、めっちゃいいじゃん。
大癋見とは主に天狗の面として用いられる能面のことを指す。
への字に曲げた口元が印象的な面で、パグなどの犬につける名前としてはベストなモチーフだろう。
天狗の語源は隕石が落ちる様子が犬に見えるということに由来するらしいし。
天の狗、即ち天狗。
犬につけるにはめっちゃいいじゃん。
ストーリーも後からついてきてくれた。
もう決定!
大癋見!
もう変えない!
ただ、惜しむらくは犬を飼う予定がない。
とんとない。
だから大癋見を飼うことはできない。
一度でいいから大癋見と一緒に野山を駆け回りたかった。
今までありがとう、大癋見。
これで俺の任意保険は守られた。

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