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噓日記 11/16 ラブソング探して
ラブソングをいくつか覚えて夜の街、心にもない言葉を歌に乗せる。
俺は今までそうやって、自分じゃない誰かの恋心に納得できないまま、だがその分かりやすさに便乗していつだって愛を歌ってきた。
俺が歌の当事者ではないという、部外者であり安全圏でもあるエリアに居座りつつ、歌に込められた想いを安く浪費して街の喧騒に紛れ込んで生きてきたのだ。
ラブソングの陳腐な歌詞に、俺の心はそんな簡単に言い表せられないと心の中で虚勢を張るも、ラブソングに感化されるような人間を相手にいい格好をしようとその歌を利用する。
結局のところ、俺がラブソングを利用しているのか、それともそこまで見越して作られているのか実際には分からない。
だが、そんな曖昧なラブソングとの関係が実は案外心地よい。
そんな嘘に塗れた、嘘を媒介にしたコミュニケーションでしか自分を彩れないのだ。
舞台となる街も同様に嘘を許してくれる。
夜の街は俺という虚構を作り出してくれるのだ。
そこにある人格も、好みも、そして歌も。
全部偽物であっても受け止めてくれる優しい嘘が根底にある。
夜の街を往く皆がそうだろう。
店員も、客も、皆が。
どこか自分じゃない何かを演じ、冷笑気味に自虐しつつも、それでも受け入れてくれる街の懐から抜け出せない。
さながらヘンゼルとグレーテルのお菓子の家のように、危険だと分かりつつもその甘さを我慢できないのだ。
ありもしない恋愛感情を疑似恋愛で消化して、金を払っているという免罪符に慰められながら街を往く。
飲んで、歌って、口説いて、飲んで。
そこに本当の自分の姿はなくても、その嘘ごと抱きしめてくれる街ごと俺が抱きしめて。
そんなその日暮らしのような遊びを幾らか繰り返し、また明日へ帰ってゆく。
タクシーに揺られ、見知った町へと戻っていく度に少しずつ嘘から現実へと引き戻されていく。
さっきまでの嘘の優しさから直視できる明日という厳しい現実へ帰っていく。
帰るべきはこちらだと分かっていても、帰りたくないと駄々を捏ねて、それでも無慈悲に連れ戻されるあの車内。
タクシーを家より少し手前で降りて、酔い覚ましに少し歩いて帰る。
鼻歌を小さく歌いながら。
一歩ずつ一歩ずつ、明日へと歩を進めていく。
気分は意外と悪くない。
車内ではあんなに嫌だった明日に向けて、正しく足が地についているのだ。
昨日見た夢を、その嘘を。
少しだけ背負って帰路を進む。
俺はその時歌う鼻歌が、俺にとって本当のラブソングだと思っている。
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