噓日記 12/20 カス戦士の休息
抱えていた仕事が一段落ついたのでやっとこさ気が抜ける。
張り詰めていた緊張の糸はダルンダルンと緩みきり、明日からの服装のことしかもう頭にない。
なんでもこれから気温がさらにグッと下がるらしい。
何を着たらいいのやら。
毎年の冬を何らかの手段で乗り切っているが、毎年どうやって越冬したのか忘れてしまう。
常に冬の初心者として生きている。
おしゃれで暖かいコーディネートでも探そうと思ってInstagramを流し見する。
そこで発見する謎のインフルエンサー。
フォロワーは少ないので正確にはインフルエンサーではないのだが、振る舞いとしては間違いなくインフルエンサー然としていた。
こんな寒い中でプチプラでおすすめのスキニーのアンクルパンツを紹介していた。
頭がおかしいのか。
寒いし、時期はずれだし、流行りでもない。
彼のコーデに目を奪われて、彼の投稿を色々確認したのだが全てスキニー。
ジーンズもスキニー。
令和五年も年の瀬といった時期に、スキニー。
別にスキニーパンツが嫌いなわけじゃないが、投稿していたコーディネートが全部こダサい。
そんな彼が女子ウケ、とか書いて投稿しているのが何故だか面白い。
明日からのコーディネートの参考に、という当初の目的はとうに消え失せ、彼のこダサいコーディネートを見ながら酒を飲むフェーズに移行する。
有り体に言えば輩というか、品が良さそうに見えない彼が自己プロデュースをしてファッションインフルエンサーであろうとする姿はどこか微笑ましく可愛らしい。
ただサイジングから何からがちょっとずつ常人とずれている。
彼に憧れている人はいるのだろうか?
コメントもないのに彼の投稿は続く。
その辺りで違和感に気付く。
彼の投稿、昨年の十二月で止まっていたのだ。
私は一年前のファッションをこダサいと馬鹿にしていたのだ。
私は私の行いを恥じた。
昨年末、彼はファッションインフルエンサーであることを諦めたようだった。
私のように意地の悪い奴らに監視されていることに耐えられなかったのだろう。
悲しい。
ほんの短い時間であったが、彼との出会いと別れが何故か小さな隙間となって私の胸に少しの悲しみを運んだ。
彼がチャレンジしようとしていたことを私がやれるかと聞かれたら、私にはやれない。
チャレンジする大切さを彼はその命をもって私に教えてくれたのだ。
子どもが生まれたら犬を飼え、なんて言葉があるが、子どもが生まれたら伸びてないファッションインフルエンサーをフォローしろと私は伝えていきたい。
それが私の使命なのかもしれない。
あと、昨年末でも別にスキニーのアンクルパンツは全然流行ってなかったので彼は普通にこダサい。