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【第3四半期】 お気に入りアルバム

8月以降、全然音楽を聴く余裕はありませんでしたが、聴いておきたいアルバムは最低一周は聴いた気がします。年末に年間ベストは出したいので、そのメモも兼ねて何枚お気に入りを選出。

3 of Us - FLO

サマソニの出演も果たし、その知名度が鰻登りの FLO。En Vogue や Total 、TLC 、Destiny's Child を連想させる 00's の オーセンティックな R&B を担っているグループは今 FLO しかいない。タイトル曲は Brandy & Monica の「The Boy Is Mine」(1998) から影響を受けたとのことだが、微かに現代 UK R&B のテイストも加わっている。デビューから一貫してプロデュースを手がけている MNEK の作品性にも注目。

Best Track
M3. 3 of Us

参考記事 


UTOPIA - Travis Scott

サイケか?トラップか?蓋を開けてみたら、Kanye West だった。ROSALÍA や The Weeknd のステージ演出、Rihanna の今年のハーフタイムショーなど、Kanye West という存在そのものにリスペクトを捧げるアーティストが目立つ2023年。そんな中、『Yeezus』(2013) から『Donda』(2021) までの音楽性を飲み込んだアルバムを Travis Scott が丸々1枚リリースしたのは、驚きではあるが納得でもある。「ユートピアは存在するのか?」というコンセプトが(きっと)掲げられており、その探求は結局自己の探求へと帰結する。その点では『ye』(2018) や『KIDS SEE GHOSTS』(2018) とのつながりも見えてくる。変わらずコライト・スタイルで情報過多のギリギリを攻めており(M4「MY EYES」の長すぎるヴァース!)、アルバムとしての強度は最強。ここに辿り着くまでに悲惨な事故はあったが、Travis Scott の帰還は成功した。

Best Tracks
M3. MODERN JAM
M18. TELEKINESIS

JAGUAR II - Victoria Monét

今年のソウル/R&B 大本命。Ariana Grande の右腕として大活躍し、2020年に初のLP『JAGUAR』をリリースした Victoria Monét の2作目。プロデュースは変わらず D'Mile が務め、新作は実質『An Evening with Silk Sonic』(2021) の続編として楽しめる。70s ソウルを軸にした "Smoke" に最適のアルバム(そういえば Silk Sonic も"Smokin' out the window してたね)。今年は Victoria Monét と、『The Age of Pleasure』(2023) をリリースした Janelle Monáe の「モネモネ」コンビが強力。

Best Track
M3. Party Girls (feat. Buju Banton)

BB/ANG3L - Tinashe

今までずっと微妙に惹かれなかった Tinashe が、ここにきて Alternative/Experimental R&B の快作をリリース。オープナーの「Treason」のシンセパッドで初手に痛快な一撃を喰らう。不気味さと妖艶さを兼ね備えた、今年のベストシングル候補の「Talk To Me Nice」は早くも今 LP(それにしても短すぎない?) のクライマックス。続く「Needs」は、先行シングルとして聴いたときはありふれたミディアム R&B ナンバーだと感じたが、アルバムの流れで聴くと一番気持ちいいハイハットとクラップが鳴っている。アルバムの魔法。808の偉大さ。残る後半部もひたすらセクシーで脳天直撃。自分でも意外だが、今年のベスト R&B は Tinashe になるかも。

Best Track
M3. Talk To Me Nice

GUTS - Olivia Rodrigo

セカンドアルバムスランプなんて存在しなかった。オープナー「all-american b*tch」から才能がビンビンに溢れ出ててオーバーキル。固有名詞の使い方と情景描写がピカイチ。たとえば、”Coca-Cola bottles that I only use to curl my hair” (コカコーラの缶は髪を巻くときしか使わない)のたった一文で、「イケてない」自分を表現すると同時に、資本主義の象徴で不健康の象徴であるコカコーラと美容と結びつけることで、現代の若い女性が置かれている状況のニュアンスを表現できている(気がする)。全曲叙事性マックスで語りどころしかないのだが、個人的な白眉は「ballad of a homeschooled girl」。"Each time I step outside, it's social suicide" というパンチラインは映画『Mean Girls』(2004) からの引用。20年前経ってティーン女性が抱える悩みは多様化し表面化したものの、根底にある「ああなりたいのになれない」「どうしたらいいかわからない」といった取り乱した感情は変わらないのか。今年のAOTY 大本命。

Best Track
M1. all-american b*tch
M5. ballad of a homeschooled girl

The Love Album: Off the Grid - Diddy

何も期待していなかったし、賛否あるかもしれない1枚。しかし少なくとも私には、B面のサウンドの厚みと客演の豪華さに圧倒されっぱなしだった。R&B のレジェンドが若手を引き連れて作ったアルバムという点では Babyface の『Girls Night Out』(2022) と聴き比べることもできるが、今作の方がバンガーの連続で満足感は高い。SZA「Hit Different」(2020) ヴァイブスの「Reachin' (feat. Ty Dolla $ign and Coco Jones)」で活躍するのは、やはり Ty Dolla $ign。R&B の客演で一番重宝されるのは Ty Dolla $ign 説(持論)、今まだ有力。

Best Track
M12. Moments (feat. Justin Bieber)
M16. Reachin' (feat. Ty Dolla $ign and Coco Jones)

Heaven & Gold - Cleo Sol

SAULT の Cleo Sol によるサプライズ2作品。「空間」を感じさせるソウルは、考えてみれば数少ないのかもしれない。プロデューサーの Inflo は、その魔法を操れるただ一人の人物だ。その上を優雅に舞えるのも、Cleo Sol ただ一人だ。

Best Track
M2. Airplane (from Heaven)
M5. Please Don't End It All (from Gold)

Again - Oneohtrix Point Never

オーケストラか?実験音楽か?電子音楽か?プログレか?そんなのはどうでもいい。57分間に散りばめられたサンプルの数々、計算されつくした音のニュアンスに没頭すれば、目の前には黒い宇宙が広がる。深緑の自然も見えるかもしれない。暖かさを感じたと思えば、冷たい瞬間もある。シニシズムとニヒリズム。私が OPN から感じるのはこういった感触だが、他の人はそうではないかもしれない。それを確かめるために、「もう一度」聴いてみよう。

Best Track
M2. Again

番外編: Snooze (Acoustic) (feat. Justin Bieber) - SZA

後出しみたいでセコいが、『SOS』(2022) のベストトラックは「Kill Bill」なんかではなく(もちろん良い曲なんだけど)、「Snooze」だと思っていた。恥ずかしながら私も最近気づいたのだが、同曲は Babyface がペンを取っている。つまり「曲が良い」のだ。アコースティックバージョンにすることで、構成とメロディの良さが際立つ。さらに、Justin Bieber のパフォーマンスが完璧。メインストリーム復帰後の彼のパフォーマンスには磨きがかかっていて、来年中くらいにはリリースされるであろう(されると嬉しい)次作は、R&B の傑作になるのではないかという予感さえしている。

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