No3 鬼百合だけが知っている 白木蓮の心花物語
崖っぷちに建つ観光旅館。
その側の、浜に続く鬱蒼とした森を下ると小さな浜があった。
そこは私の秘密基地。
石ころだらけの浜は、濁った水にもかかわらず、旅館の
宿泊客が海水浴を楽しむプライベートビーチのような場所だ。
森が暗くて怖いから、友達は誰も泳ぎにこない。
お盆が過ぎてクラゲが出る頃になると、観光客も少なくなり、私は一人で思い切り泳ぐ。
泳ぎつかれた帰り道。
怠い身体をひきずりながら、
身を縮めて登る森の中。
辺りからむせかえる草の匂い。
草の中からじっと私を見つめる鬼百合。
「知ってるわよ。
あんたの秘密。」
鬼百合に見透かされ、
息を切らして森を抜ける。
10歳だったのか。
胸の底で騒ぐマグマ。
それが何なのかも知らず。
少女は一夏づつ階段を登る。