想いは力〜2021年の音楽界雑感
2021年も、あと2時間足らず。コロナに翻弄されつつ、仕事もそれなりにこなし、プライベートの荒波ともなんとか付き合ってきた1年でした。
今日は今年最後のコンサート、ミューザ川崎のジルベスターコンサートにお邪魔してきました。
注目の若手三人をソリストに迎えての協奏曲コンサート。牛田智大さん(ピアノ)、吉村妃鞠さん(ヴァイオリン)、佐藤晴真さん(チェロ)の3名です。指揮は秋山和慶マエストロ、オケは東京交響楽団。完売御礼、大入り袋が出ていました。ミューザでは初めて遭遇した大入り袋(よく出ているみたいですが、、、汗)、なんだか大晦日に得した気分です。
丁寧に音楽を作り込み、表現の幅を際立たせる牛田さん、内面から沸々と湧き上がる「音楽」を形にする、巫女のような才能に溢れた吉村さん(10歳!)、繊細さと高度なテクニック、歌心と鮮やかな高音域の表現力を持つ佐藤さん、それぞれの個性を堪能しました。
聴きながら、いくら大晦日とはいえ、10−20歳ちょっとという若さのアーティストたちの協奏曲コンサートがこれほど盛況だったことに、今年のクラシック音楽界の一面を見る思いでした。
一つは、世代交代。日本人が2位と4位を得たショパンコンクールが好例ですし、今年前半だとエリザベート王妃国際コンクールでも、日本人アーティストが大活躍。若手アーティストの存在感が、かつてなく高まった1年だと感じています。
そしてアーティストのあり方も、様変わりしました。
これもショパンコンクールが好例ですが、特定の先生について、地道に努力を重ねる、というパターンが薄れ、「かていん」こと角野隼斗さんに代表されるような、発信力で自分の力を高めていくタイプが増えたこと。2位に入賞した反田恭平さんもそうでしょう。先生の言うことを聞くのではなく、自分の意思、自分が何をしたいか、どうなりたいかを考え、自己プロデュースする。そういうアーティストが目立ってきたし、これからは主流になっていくでしょう、その背景には、コロナ禍で、自分で発信できるアーティストがぐっと有利になったという事情もあると思います。
反田さんに関していえば、彼の考え方と実行力には圧倒されました。
5年ほど前ですが、イタリアのトリノで、反田さんとバッティストーニがラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を録音したセッションの取材に行ったことがあり、反田さんにもインタビューさせていただきました。
その時も、とても頭のいい、ビジョンのある方、そして人間力がある方だなあ、ということは感じたのですが、ピアノは割と華奢な感じがした。いっぱいいっぱい、だと感じる部分がなきにしもあらずでした。
それが、今回、ショパンコンクールの映像を見ていてまず驚いたのは、体格がしっかりして貫禄がついていたこと。5年前はかなり痩せ形で、体型も華奢だったのです。
コンクール後、あるテレビ番組に出られていたのを偶然見かけたのですが、驚いたことに、華奢な体だと音も細くなること、ある程度体格がないとしっかりした音が出ないことに気づき、体重を増やしたと。確か20キロくらい(うろ覚えですみません)。その結果、がっしりした音が出るようになったという。確かに、5年前よりはるかに充実した音を出していらっしゃると思います。
華奢な体格だと華奢な音しか出ない。それに気づくのもすごいですが、そこから体格を変えてしまうところが何倍もすごい。2、3キロ増やすのとは訳が違うのですから。。。
そして、ショパンコンクールでいい成績を取るために、ワルシャワに留学し、そのための先生につき、徹底してショパンを学んだ。言うは易く、行うは難し、の世界です。
とはいえ、まずは「想い」がある。そしてそれを実現するためにリアルな計画を立て、実行する。誰にでもできることではもちろんありません。けれど、全ての出発点としての「想い」は大事。反田さんの話を聞きながら、それを痛感しました。
想うこと。それは自立の第一歩です。私たち凡人でも、「想う」ことはできる。「想い」の中で、人は自由です。反田さんのように全てを実現できなくとも、その一部でも実現できれば、それはこれからの人生の力になります。そして繰り返しですが、そのスタートラインは「想う」ことなのです。だから、普段何を考えているかはとても大事。
頭ではわかっていても、凡人ゆえに、そして内向きな性格なので、気がついてみるとつまらないことでクヨクヨしたり堂々巡りしていることがよくあります。そういう傾向だけでも改められたら、人生は格段に広がりそう。そう思えた出来事でした。
この拙文をご覧くださっている皆様に、来る年が、豊かで、実り多く、幸せに満ちた年になりますように。
今年も本当にありがとうございました。
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