人間が資本主義に絡め取られていく原点を描く〜共同制作オペラ「夕鶴」記者会見
本日は全国共同制作オペラ、團伊玖磨「夕鶴」の記者会見へ。民話「鶴の恩返し」を下敷きにした、日本語オペラの中でも屈指の人気を誇る名作で、個人的にも大好きです。團伊玖磨の没後20年記念というのも、今回の制作のきっかけのよう。国際的に活躍する演出家(小説家でもある)の岡田利規さんが、オペラを初めて演出するというのが1番の話題です。
確かに、面白いお話が聞けました。
まず岡田さんが口を開き、「演劇の上演というのは「現在」行われているもの。「現在」を観客に届けたい」ということから、時代設定は抽象的。「今の観客に、『夕鶴』のポテンシャルを突きつける」。
岡田氏が考える「夕鶴」とは、イノセントな「つう」が、資本主義に絡め取られていく「与ひょう」に、それでいいのか?と問いかけていく物語。「つう」は、「資本主義」を乗り越えた時点にいる、とのことでした。観客には、「与ひょう」を自分のことのように感じて欲しい、資本主義の原理的な部分を体現しているから、とのこと。
劇中に登場する子供たちも重要で、今回は一種の劇中劇のようにし、子供たちは劇の中で純粋な子供たちを生き、同時に、観客として大人の愚かさを見守る、二重の役割が与えられるとのことです。
「オペラは、音楽が語るもの。本来は演出の必要がない。何をやるのか、それを見つけるのが楽しい」と語っていたのも印象的でした。だから、最近の演出家がよくやる、台本や音楽を変えることは全く考えなかったそうです(ブラボー)。
今回、全国で3回の公演があり、指揮は辻博之さんと鈴木優人さんが分担。この「全国共同制作オペラ」にずっと関わってきた辻さんが、10月30日の東京公演を指揮します。
その辻さん曰く、「夕鶴」は「心理描写に優れ、登場人物4人は社会の縮図のよう。新しい演出にも対応できる作品」。頷きました。
鈴木さんは、「夕鶴」には小さな頃から親しんでいて、美しい一方「居心地が悪い」作品だと思っていたそう。けれど結婚し、子供を持った今では、別の気持ちでこの作品を見られる、と語っていました。
歌手の方たちからも、それぞれ興味深い発言がありました。
タイトルロールのつうを歌う小林沙羅さんは初役ですが、ずっと念願の役だったそう。玉三郎の「つう」の美しさに感動した経験もあり、またいろんな名歌手が歌う「つう」を見てきたと言います。今、母になり、ちょうど第二子を出産して、色々見える景色が変わった。その経験も生きるかもしれない。。。とのこと。今回のチャレンジでは、これまでの自分にとっての「つう」のイメージがリセットされそうで、それはそれでこれまでの経験も無駄ではなかったと思っているそうです。新しい「つう」像が見られそうです。
与ひょう役与儀巧さんは、「与ひょうはキーパーソン」。今回の現場では「ディスカッションをして解釈を深めていく」のが面白いと語り、悪役惣どの三戸大久さんは、「やりたかった役。中から出てくるキャラ」だと発言。それぞれの方にそれぞれの想いがあり、とても面白く聞きました。
ダンス、振り付けの岡本優さんからは、「この作品のつかみどころのないところを担いたい」という発言があり、これも期待できそうです。
出演者の発言終了後の質問も活発で、参加したプレス関係者の興味を惹いた会見だったことが証明されました。1番の興味は、やはり岡田演出ですね。
「夕鶴」は永遠の名作オペラの一つ。その普遍的なところを見せてくれそうな今回の公演、とても楽しみです。
公演情報はこちら。来年早々に刈谷、熊本公演があります。
https://www.opera-yuzuru.com/