名作の正統的な上演、藤原歌劇団「清教徒」
この週末は、二期会、藤原という二大オペラカンパニーが、それぞれの個性を発揮した公演で勝負しています。
宮本亜門演出の二期会「魔笛」の感想は前に呟きましたが、昨日は藤原歌劇団の「清教徒」に行ってきました。ベッリーニの名作。ベッリーニの最後のオペラでもあり、彼の最高傑作とする人も少なくありませんが、日本では滅多に上演されません。まあ、「ノルマ」だって本当に滅多に上演されない。ベッリーニ、なんで日本ではこれほどマイナーなのでしょうか???不思議だなあ。歌手がいない?
そんなことはないでしょう!と思った、昨日の公演でした。歌手の水準が高く、指揮もよく、演出もいわゆる伝統的な、歌を邪魔しない美しい演出。「これぞイタリア・オペラ」ですね。とても藤原歌劇団らしい公演でした。演出も指揮もとんがった二期会「魔笛」とは好対照です。繰り返しですが、カンパニーがそれぞれの個性を出してくれるのは、聴衆としては願ったり叶ったりです。
今回のお目当ては、ヒロインのエルヴィーラを歌った佐藤美枝子さん。日本人として初めてチャイコフスキー国際コンクールの声楽部門で優勝して以来、20年以上第一線で活躍しているベルカントものを得意とするソプラノです。昨年ですが、このプロダクションの記者会見があったときに、学生時代に藤原歌劇団の「清教徒」を見た。それに感動して、いつか自分も、藤原歌劇団の舞台で「清教徒」を歌うと決心した、とおっしゃっていて、それは絶対聴かねば!と思っていたのです。
その佐藤さんのエルヴィーラ、やっぱり聴きごたえありました。透明感もありながら、表情がぎっしり詰まった声。高音も美しく響き、テクニックも堅実ですが、フレージングがとても美しい。ベッリーニならではの長い旋律が生きます。あんな小柄な体格のどこに溜まっているのか?と思わせられるように湧き出してくる「声」。そして、表現力。大ベテランなのに(大ベテランだからこそ、でしょうか)、純真な娘の心の揺れが客席に伝わる。精進されていることを感じる円熟の歌唱でした。
相手役澤崎一了さんは、最近メキメキと頭角を現している藤原のホープ。甘い声、豊かな響き、明るい音色、たっぷりした声量と、テノールに求められるものの多くを備えている逸材です。「清教徒」のアルトゥーロ役は高音が頻出する至難のパートですが、その点でもかなり健闘していらしたのではないでしょうか。これからのご活躍が楽しみです。
個人的に印象に残ったのは、リッカルド役の岡昭宏さん。これまでも何度か聴いているのですが、今回は大きな役だったので聴きどころがたくさんあり、とても良かった。スタイリッシュなバリトンで、ベルカントものに向いていると感じました。あまり声量のあるタイプではないようですが、ベッリーニあたりだとこれくらいでいいですし、声はきちんと通るので不足は感じません。
他のキャストも好水準で、イタリアオペラを聴いた満足感を味わうことができました。
柴田真郁さんの指揮もとても良かった。柔らかく軽快で、弾力があって、音が綺麗で表情が繊細で、まさにベルカントにぴったり。ベッリーニの流麗な旋律が綺麗に浮き上がります。ご本人はヴェリズモがお好き、と漏れ聞いたのですが、いやいやベルカントもぜひ振っていただきたい。東フィルの力もあるのでしょうが、絶妙のコンビでした。
松本重孝さんの演出はいわゆる伝統的な演出で、柱や城壁をモチーフに、台本と同時代の雰囲気を出したもの。上演のコンセプトからいえば、これでいいのだと思います。「清教徒」は内容的にはかなり過激な?ところもあるオペラなので、上演が増えれば演出に工夫があってもいいでしょうが、現在のようにほとんど上演されない状況だと難しいでしょう。
ところで佐藤美枝子さん、朝日カルチャーセンターにお越しくださり、「清教徒」の「狂乱の場」をその場で歌ってくださいます!もちろんトークも。今回聴く方も聴かない方も、ぜひお越しください!
https://www.asahiculture.jp/.../58eb8bed-9641-6f01-1f35...
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