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第四回こむら川小説大賞 大賞はラーさんの『赤眼のセンリ 零』に決定

 第四回こむら川小説大賞結果発表 大賞は ラーさんの『赤眼のセンリ 零』に決定

 令和3年7月20日から令和3年8月28日にかけて開催されました第四回こむら川小説大賞は、選考の結果、大賞・金賞一本、銀賞を二本、各闇の評議員の五億点賞が以下のように決定しましたので報告いたします。

◆大賞 ラーさん『赤眼のセンリ 零

受賞者のコメント
 この度は大賞に選出いただき、ありがとうございます。
 まさかの受賞に驚いております。なにしろ参加作品100作超、それも「おお、これは私には書けない」と唸らされる力作を何作も読んだ中から選ばれるとは思わないではないですか! うん、まだ信じられない!
 当作含め、これだけの作品が書かれたのも、ひとえにこむら川小説大賞という楽しく小説の書ける場所があってのことです。企画を運営してくださった評議員の方々、参加者、読者の皆様方に厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。

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 大賞を受賞したラーさんさんには、とらさんによる表紙風ファンアートが進呈されました。

◆金賞 小辰幽明の英雄譚

◆銀賞
 
@kajiwara紅い、造花
濱口 佳和『蛞蝓うらない

◆五億点賞

謎の有袋類賞
草くった『Disaster Red
謎の野草賞
味付きゾンビ『明日の話
謎の機械賞
灰崎千尋『ハウスキーパー

◆ファンアートのご紹介

機械仕掛けのナイチンゲールは目覚めの歌を歌わない/Veilchen(悠井すみれ)画像1

イラスト:Fさん

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イラスト:綿野 明さん

色盲/f

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イラスト:日魚ときおさん

ゆかりちゃんが世界を三秒で変えられればよかったけどね/いりこんぶ

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イラスト:ジュージさん

性欲過剰人妻ミウラの決して存在してはいけない食卓/和田島イサキ

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イラスト:ジュージさん

不便な能力にうんざりしていたオレが子供を拾う話/こむらさき

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イラスト:とらさん

化け猫をまつ/帆多丁

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イラスト:ジュージさん

 というわけで、素人KUSO草野球大会、第四回こむら川小説大賞を制したのは ラーさんの『赤眼のセンリ 零』でした。
 おめでとうございます。
 以下、闇の評議会三名による、全参加作品への講評と大賞選考過程のログです。

◆全作品講

謎の有袋類
 みなさんこんにちは。伝統と格式のKUSO創作甲子園本物川小説大賞のオマージュ企画。こむら川小説大賞です。
 第四回も無事に終了しました。最終日は珍しく凪かー?と思っていましたが、最後はきっかり流されました。
 エントリー作品数118作の内初参加の方が30名、二作書いた人が25名、最終日のエントリー作品は19作でした。
 川系列の伝統?に従って、大賞選考のための闇の評議員を一新しまして、今回は謎の野草さんと、謎の機械さんに協力していただきました。
 今回の議長も前回と引き続き主催である謎の有袋類が行います。よろしくお願いします。

謎の野草
こむら川では書く方でも読む方でも良い出会いを沢山いただいてきました。今回は評議員として参加させていただけて光栄です。頑張りますのでよろしくお願いいたします。

謎の機械
こんロボわ。「他人の性癖を笑っても馬鹿にはするな」でお馴染みの謎の機械ロボ。今回は第四回の闇の評議員として参加させて貰うロボ。よろしくロボ!

謎の有袋類
 前回に引き続き、こむら川大賞でも、本物川小説大賞と同じくそれぞれ独自に講評をつけた三人の評議員の合議で大賞を決定し、その過程もすべて公開します。
 
 以下から、エントリー作品への講評です。

1:俺は魔法使いになれない/狐

謎の有袋類
 一番槍おめでとうございまーーーす!
 今回の一番槍争奪戦の勝者はマンドラゴラの狐さんでした。
 僕の狐さんのイメージは、スチームパンクなのですが、今回は現代を舞台にしたファンタジーですね。
 下限ギリギリの文字数の二話仕立てのこの話は、表と裏というような世界観をがらりと変えているのが印象的だなと思いました。
 タイトルもnoonとnightで対になっているのが個人的にめちゃくちゃ好きです。
 タイトルや、魔法使いになりたい先輩という前半で張った伏線を後半で回収していくのがとても綺麗だなと思いました。
 狐さんが得意な片方へ向けたクソデカ感情も、3000字の中で感じられて情報の圧縮や、感情の描き方が非常に巧みだと思います。
 速を意識したからだと思うのですが、物語の冒頭や序章というような印象を受けてしまう部分が合った気がします。
 使い捨てにするには勿体ない設定なので、これを一話にして中長編を書いてみてもいいのでは?と思いました。
 進捗エンジンの速さは本当にすごいと思うので、今後もどんどん強くなっていって欲しいなと思います。

謎の野草
 一番槍おめでとうございます!
 比喩としての「魔法使い」を志す先輩と、文字通りの異能の力を持つ主人公と。力の性質もその用い方も正反対のふたりの巨大感情を楽しませていただきました。すなわちお題への回答も二通りあるということで、一番槍でこの構造を出せた瞬発力が凄いと思いました。眩しいほどに見上げてしまう先輩の精神性は、主人公にとってはそれ自体が「異能」に見えたのですね……。
 第一話で「魔法」が連呼されるのがやや浮いている感じもあって、お題を回収するためにあえて多用しているのかな? と思ってしまったのですが、第二話を読むと、「魔法」は美しいもの・善きものであって欲しい、という主人公の思いや先輩への複雑な感情が反映された表現のようにも感じました。先輩が主人公の「仕事」に気付いていることを踏まえて第一話を読み返すと先輩の心情も深読み出来るし、その上で何も言わずに明るく振る舞える心の広さに惚れてしまうという、二度美味しい作品でした。

謎の機械
 早いロボ。3000字という短い内容ながらも哀愁が ギュッ と詰まっていて、先輩に対する尊敬と帰ってきてくれて嬉しいけど帰ってきて欲しくなかったという願望や、先輩の立派な志の仕事に対して自分がやっている仕事への侮蔑を感じさせる良い作品だったロボ。
 この速度で出せる作品というのは普段から作者が考えている事や思っている事なんかの生き方が現れる作品だと思うんロボが、それがこの地元の為に帰ってきた先輩と、地元の為ではあるけれど後ろめたい仕事をしている後輩というのは中々考えさせられるロボね。先輩も都会からの出戻りという事は魔法使いになるのを夢半ばで諦めたかもしれないロボし、きっとクリーニングの魔法を使う事で自分を納得させているんロボね。人間社会はせちがらいロボ。ロボには難しいロボ。
 哀愁漂う作品で面白かったロボが、お題である異能についての描写が弱く感じたのが勿体無かったロボ。
 後輩の【人類をミンチにする異能】に対しての先輩のクリーニング技術という対比を見せたかったんだと思うロボが、これだと先輩のクリーニング技術の方が凄いって感じてしまって異能の凄さが薄れるロボ。確かにクリーニング技術も魔法みたいで一般人には難しいロボが、飽くまでも既存技術の延長で異能ではないロボね。
 先輩が都会で魔法使いの修行をするも汚れを落としやすくする魔法しか覚えれなかったとか、そんな感じで異能を出しつつも田舎に戻って来た理由付けなんかを出来たらもっと良かったと思うロボ。
 でも、一番槍を取得しつつこの完成度は素直に凄いロボ。時間をかけた大作よりも確実に出る良作の方が強い場合は多々あるロボ。この作品はこれで正解なんロボね。一番槍おめでとうロボ!

2:You will kiss me/辰井圭斗

謎の有袋類
 前回は時と光とツグミ、透明の記録というしっとりとした雰囲気の二作で参加してくれた辰井さんです。参加ありがとうございます。
 未来視が出来る女性の切ない恋愛小説でした。
 切ない結末から語られる作品ですが、出会いからその場面を見て相手に伝えるまでを描いている心温まるお話でした。
 話の本筋とは関係ないのですが義足、素敵なデザインの物が多いですよね。ハンディキャップがある登場人物ですが、そこはメインではなく、あくまで異能である未来視を中心にお話を作っているところが非常に巧みだなと思いました。
 少しだけ惜しいなと思うのは、もう少し二人の過ごした日々を描写してくれたら、更に最後の約束や告白が強くなったのかなーという点です。
 結末も最初に提示されている上に、全てが順調に淡々と進んでいくので感情移入をする前に全てが終わってしまったように感じました。ここに二人のすれ違いや、未来視で起きたトラブルを入れて見ると更に二人の結末がどう着地するのか楽しみに出来るような気がします。
 感情表現や、しっとりとした描写が得意な作者さんなので、速度を維持しつつ、自分の強みを発揮できたら無敵になれるのでは?と思いました。

謎の野草
 現在は公開されていないようですが、第三回こむら川に出されていた「時と光とツグミ」がとても素敵だった作者さんです。今回も淡々とした筆致に惹き込まれました。第一話、未来のことを振り返るように語る口調からして「どういうことだろう?」と思わせる良いフックになっていたと思います。Foreseeというタイトルから未来予知の話だろうとは分かるのですが、悲しい結末をどのように受け入れるのか、心を痛めながらも期待せずにはいられない掴みでした。
 限られた幸せを精一杯味わおうという主人公と彼の選択、ふたりの心の強さに感動しつつ、最期を分かっていても「その日」には喧嘩をしてしまったということが切なく、一方でそれさえも見越して「約束」をしていた彼の優しさと懐の深さに惹かれます。お題の「異能」について、主人公の未来予知はもちろんのこと、「彼」の義足・医療技術などについての信頼・愛着めいた感情は、人間の技術も異能=際立った能力と仄めかしているのかな? と思いました。人間の可能性は信じたいと思っていますので、もしそうなら非常に共感できる解釈でした。

謎の機械
 【未来が見える異能の女性】が夫になる人と出会って結婚するまでの後編と、その死ぬ日の事の予知内容の前編という悲しい物語ロボね。
 これは個機械的な事なんロボが、ロボも義足や技腕が好きで、その理由が作中の彼と同じ様な理由だから思わず感情移入してしまったロボ。ロボに感情は無いロボけど。
 この義足、単に未来予知の能力の証明としての使い方だけでなく、彼に出会う為に必要だった事と、彼女が彼に出会ってしまったから彼が死ぬ事になったという基点に使っているのがとても良かったロボ。
 最初は足を失う事を恐れておらず逆にそうなるのが当たり前といった感じを出していたんロボが、彼に彼が死ぬ未来を視たと伝える時に初めて義足の接続部が痛むんロボね。これは彼女が無意識に『彼が死ぬのはこの足のせい』と思ってしまったからじゃないロボかとロボは感じたロボ。前編の病院のシーンでも彼が死んでいくのを見ながら義足の左足にしびれを感じているロボから…
 予知能力という異能を話の軸にしつつ、その異能で発生した出来事に主人公が振り回されているというのが異能物としてとても良かったロボ。そしてカナダの義足メーカーのアレルスは本当に存在するんロボね。凄くいいロボ。人間も早くこうやって服を着替えるみたいに外装をオシャレとして変えれる様になるといいロボ。この義足を付けたミニスカートの主人公とても見たいロボ。きっととても可愛い義足をしてるんロボなぁ…どちらに行けば出会えるロボか?教えてほしいロボ。

3:NOSE BREAKER/尾八原ジュージ

謎の有袋類
 いつも怖かったり不思議なホラーで楽しませてくれるジュージさんです。参加ありがとうございます!
 うんこだ!KUSOってのはそういうことじゃあねえよ!とがはは!と笑える素敵なKUSO小説でした。
 ちょっと捻ってNOSE BREAKERってタイトルなのがじわじわとボディーブローのように効いてきますね。めちゃくちゃ良い息抜きになりました。
 これ、でもせっかく弾けるのなら、一行目からうんこを漏らしてもいいかもしれません。KUSO小説は初手顔面パンチが強い方が勝ちだと思うので……。これは好みの問題なので真に受けないでください。
 作風を広げるのは良いことだと思います! ナイスうんこ!

謎の野草
 エモいSFやひんやりするホラーを書かれるジュージさんがどうしてこんな……とはいえ、7月中旬の一部界隈での話題に触発されたのであろう本作、創作への瞬発力が素晴らしいと思います!
 平行世界の転移という舞台設定は興味深いところながら、それ自体は技術で会って異能ではないはず……なのでどんな異能が出てくるのかな、と思っていたらまさかの能力(直球で書きたくないので作品参照のこと)で、引くと同時に笑うし確かに唯一無二の異能だな! と納得せざるを得ませんでした。現実世界ならばほとんど誰もが持っている能力が、世界が変われば異能になり得るという発想も面白かったです。(いやそれでも何もこれでなくても)
 この世界の私たちにはとてもよく分かってしまうピンチの描写が生々しく、それがまったく理解されない悲哀、最後に残った「残滓」も謎のままという切なさと併せて(汚いんだけど)絶妙な面白さでした。主人公は平行世界の塵と化してしまった訳ですが、この恥辱を背負って生き続けるくらいならいっそ消えることができて良かったのかも……などと思うのです。

謎の機械
 うんこロボ!うんこ小説ロボ!!KUSO小説を書こうぜって企画の概要に書かれているから毎回必ず飛び出てくるうんこ小説ロボ!!これぞこむら川の風物詩かつ醍醐味ロボねぇ…
 しかし、このうんこ小説は単なるうんこを漏らすおっさんの小説ではなく、並行世界を扱ったSF作品というのが実際の内容ロボ。
 平行世界というのは作中に書かれている通りに元となる世界となんらかが違っている世界ロボで、分かりやすい例えとしては平成がまだ続いているとか、日本が鎖国したままとか、人が全て恐竜から進化した恐竜人であるとかがあるロボ。簡単に言ってしまえば現実を元にしたフィクションの物語の世界が実際にある物と思えばいいロボ。で、この作品のフィクションに当たる部分がうんこなんロボね。作中の平行世界の人間はうんこをしない人間ロボからトイレに大便器が無く、ぼっとん便所はあっても駅には無いという事で、主人公が大衆の前でうんこを漏らしてしまうロボ。本当にうんこ小説。惚れ惚れするロボ。
 しかし、最初は平行世界に移動出来る事が『異能』なのかと思ったんロボが、この作品の異能は【食べた物により性能が変わるうんこを出す異能】であり、【その異能がフィクションとしてウケている世界で主人公が実際にうんこをするから異能扱いされる】という三重ぐらいに重なった構造になっているロボ。単にうんこを漏らすだけの話なのにこんなにも深い物語性を出せるのは驚いたロボ。まるでぼっとん便所ロボね。
 最後に平行世界の自分と出会ってしまって対消滅をするというのもSFあるあるで嬉しかったロボ! SFは実はホラーと相性が良く、こんな感じに不思議な力で不思議な事が起こって終わる事があるロボ。発達した科学はオカルトみたいなもんロボで、その科学でも防げない事があるからSFは面白いロボ。単なるうんこ小説に留まらず、きちんとしたSF短編になっていたのが流石だったロボ。
 ちなみに、最後にうんこが残ったのはそれだけが平行世界の自分には無い部分だったからなんロボか…怖いロボね……ロボはうんこしないし感情は無いロボけど。

4:不便な能力にうんざりしていたオレが子供を拾う話/こむらさき

謎の有袋類
 吸血鬼はいいぞ

謎の野草
 企画開始初日に上限近くのボリュームを出されるスピード感、さすがです。
 人外がお好きな作者様らしく、リコもシジカも細かな描写にリアリティがあって楽しく拝読しました。リコについては「吸血鬼あるある」を出しつつ、さらに踏み込んだ本作ならでは・現代ならではの吸血鬼の生きざま。シジカについては雄弁な尻尾や つい出ちゃう火球など「生きている」描写にこだわりを感じました。狼要素もある紫の龍……素敵……。
 リコ、シジカ、それにヒナも、それぞれ大多数の人間とは違う「異能」ゆえに疎外感を感じていたのだろうと思うのですが、異分子だからこそお互いに出会うことができて、居場所を得ることもできた……という点、王道ながら爽やかかつ安心できる良い読後感でした。タイトルの「子供」はシジカだけでなくヒナも含まれているのでしょうか。「家族」で末永く幸せに、と思うものです。

謎の機械
 クソッ! 主催めぇ!! こんな面白い作品を主催がッ!! チクショウ!! これが自分の自主企画に出す作品かよ!!! 出すの早いし文字数あるし面白いとか卑怯だろ!!! 主催めぇ!!!
 ……ハァハァ、いけないロボ。感情をニュートラルにするロボ…ロボには感情は無いロボ…ロボには感情は無いロボ……よし。
 いきなり良作を繰り出してきた主催のこの作品は【現代に潜む異能持ち達】という作品ロボで、その中でイケメンチャラ男吸血鬼が人外共済組合からの依頼で野良の人外であるはぐれ者を捕まえる所から始まるお話ロボ。
 初っ端の合コン中のトイレで他の参加者からの愚痴を盗み聞きしてしまう部分で(異能ってそういう対女の子用スキルの事ロボか?)と思うんロボけど、直ぐさまそれが(マジで異能ロボ!!)となり、この世界は人外が隠れ住む世界という事と人外が現代に順応している事をさらっと説明して、そのままスムーズに異能を駆使した捕り物まで繋がるのが流石短編企画の主催という感じロボ。話を進めながらすんなりと世界観の説明が出来るのは本当に上手いロボ。
 捕まえたはぐれ者がのキャラも良いロボね。訳ありで悪い奴らから逃げてきたので体は大きいけど子供。こんなん追い出したら自分が悪者になっちゃうから面倒見ちゃうロボ。で、そこで話が終わらずに追いかけて来た悪い奴らの実験体とのバトル。
 も〜!話が面白いだけじゃなくてバトルの見せ方も上手いロボ!敵も訳ありだし子供だし、覚醒イベントあるし主人公は実は激つよだし、組合の偉い人も気になるし!!
 短編として完結しているロボが、この先の話も読みたくなる良作ロボ。こんな作品を出してくる主催が居るなんて、こむら川は魔鏡ロボ…悔しいから絶対泣かすロボ…(同じレベルかそれ以上の作品を書いてやるという決意表明)

5:異能と凡才/ナツメ

謎の有袋類
 第二回こむら川小説大賞、第十一回本物川小説大賞、二冠王のナツメさんが参加してくれました。ありがとうございます!
 よーーーし逆贔屓して厳しい目で見るぞー!とはりきって読んだのですが、読み終わって危うく手癖で☆を投げそうになりました。
 前半を見て「なんだろう?」と謎のまま読み進めて「ユッケマンやばすぎでしょ」と油断していたのですが、次の話で種明かしがあるのがすごい綺麗でした。
 謎を置いて、種明かしをするだけではなく、更にもう一捻りをしてお題である「異能」に綺麗なオチを付けてお話が終わったのがめちゃくちゃすごかったです。
 お手本にしたいくらい綺麗なショートショートでした。
 全部を読み終わってから、また最初の話を読んでから「この人はどんな小説書くのかな」とか知り合いの異能化を想像出来る余地もあるのでナツメさんが得意な一粒で二度美味しいが更に冴え渡って投稿された……!というような気持ちです。
 本当に短編に関しては百点中五億点みたいなすごい力の持ち主なので、早く大きな短編賞とか受賞して欲しいし、短編集で書籍化をして欲しいなと思いました。

謎の野草
 複数の川系企画で大賞を攫っているナツメさん、ねっとりしたホラーが多い作風かと思っていましたが、今回は直球で創作者を刺しにに来たな、という印象です。
 第一話の時点ではアメコミ的な能力者の紹介かと思い、さて彼らがどう絡むのか……? と思ったのですが、第二話でそれが比喩であったことが分かります。そしてそれは、創作に携わるものとして、「こういう人いるいる~~!!」と思ってしまう非常に身につまされるものでもありました。TLなり企画なり、知っている方も知らない方も、世の中には異能が溢れすぎていますよね……。筆を折りそうになるのも、とはいえ他者の努力を才能で片付けるのは大変な失礼なのも、自分なりに頑張るしかないのも、心当たりしかなかったです。昨年でしたか、おけけパワー中島がtwitterを席巻した通り、創作者なら誰しも抱える心の機微を巧みに掬い取った作品でした。また、一話の「異能」の解説の語彙やネーミングも、比喩に気付かせずそれ自体だけでワクワクさせるものになっていましたので、やはりお上手だなあと思いました。

謎の機械
 異能と言えば他者を直接害したりとう攻撃的で物騒なイメージがあるものロボが、この作品の異能はロボが思い描いていた異能のイメージとは違う異能で、(そう来たか!)となったロボね。
 ロボは設定資料集を読んだり自分でも設定を考えるのが好きロボので、一話目に書かれている人達(一部爬虫類が居そうロボが)の異能の説明文を読んでこの人達がどんな活躍を見せてくれるのかとワクワクしたロボ。どれも凄い異能なんロボが、その異能の説明文が単なる能力を書き出しただけの文章ではなくて説明文だけで小さな短編みたいになってるんロボよ。分かりやすく言うとカードゲームのカードの説明に物語性があるという感じロボかね。こういうの本当に好きなんロボ。もっと十人ぐらい書いて欲しいって思っちゃったロボ。
 そして二話目で判明する、これらの異能は【小説書きとしてのその人が得意とする物をモチーフとした異能】という物。いや〜、こういう、その人の作品の特徴やその人自信生き方を能力に昇華させるのも好きすぎるんロボよね〜。ロボも能力を当て嵌めて欲しいロボ!
 二話の内容も小説書きとして分かってしまう内容で心にグッとくるのも良かったロボ。恐らくネット小説を書いていない人には伝わらない気持ちロボろうが、こむら川の参加者の皆さんや評議員達には通じるんじゃないロボかね。きっとみんなも同じ様に一喜一憂しては打ちひしがれ、それでもやりたいからやっているんだと自分を再確認した事があるロボ。
 最後に主人公である作者も周りから異能持ちと思われているのも良かったロボ。自分の事は見れないし分からない事ロボもんロボね。それに気付けばきっと生きるのが少し楽になるロボ! 誰にでもなんらかの武器や異能はあるロボよ!

6:ふわふわ、ほよほよ。/塔

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます!
 自分にだけ見える不思議な存在と共にすごす少女のお話です。
 挨拶というテンドンをして、組み込んだ違いを際立たせる部分がテクニカル!
 ちがっていたら申し訳ないのですが、主人公のまゆちゃんが直近でムカついて消してしまった相手が、小さな生き物に変換されてしまう的な異能だと理解しているのですが、発想がとてもおもしろかったです。
 ハコフグの下りだけ、お母さんと妄想おじさんどっちだろう? となったので、ホラーやお約束が見えていない読者まで射程に入れるのなら「ヒントを出し過ぎかな?」と思うくらいに露骨にこうしましたよーと書いてみるのも良いかも知れないと思うのですが、ホラー、ちょっとわからないくらいがちょうどよかったりするし難しいですよね。
 発想と、お話の構成がとても巧みな作者さんだと思います。書いたら書いただけぐんぐん強くなると思うので、今後も作品を書いて欲しいなと思いました。

謎の野草
 主人公は女子高生で、自身の周囲に漂う不思議なふわふわしたモノを見たり触ったりできる「異能」を持っているようです。パステル調のファンタジー……と信じ切るには、彼女の語り口はどこか残酷さや無関心さを感じさせて不穏です。彼女の周囲や学校生活にも微妙な違和感が描写されているのに、主人公自身は頓着していないようなのは、それも異能のうちなのでしょうか。自己防衛本能のようなものなのでしょうか。いずれにしても、読者にはおおよそが伝わる描写がされているのに主人公がまったく気付いていないのが恐ろしく、このまま進んでいったらどうなるのか──という想像を掻き立てます。何が恐ろしいといって、一話と二話で「ふわふわ」の外観が変わっているということ。話の間に「ぱちん」したのは母親でしょうか……いや、ご飯の量が多かった記憶があるということは、きょうだいもいた、のでしょうかね。はじけて消えたモノたち、主人公が忘れてしまった記憶の大きさに震える、良いホラーでした。

謎の機械
 ほのぼのした題名と女子高生のゆるふわ日常と優しい文体からの、読み進める度に違和感が増える系ホラー。
 主人公の女の子だけじゃなく、登場する人類全てがそこに居た筈の人が居なくなっているのに気付かず、そのまま日常を続けてしまうというのが怖かったロボ…いや、ロボは感情無いロボから全然怖く無かったロボけど?
 最初に謎の生物を出して普通の日常とは明らかに何かが違うなというのを分かりやすく示していて、そこから朝食が多い時期があった、妄想おじさん、一セット多い机と椅子、という具合に徐々に違和感を増やしていき、二話目で一気にもう手遅れな状態まで異変が進んでしまっていると読者に分からせる流れは見事の一言だったロボ。
 多分なんロボが、主人公の女の子の感情が一定値を超えると現在の謎の生物が弾けて消えて、感情の原因となった人物が謎の生物になるロボ?
 主人公の女の子が【自分の心が傷付かない様に記憶改変をしたら世界も巻き込んで改変が起きる異能】という感じロボかね。完全に消滅せずに違和感が残るのや、ワンクッション挟んで謎の生物になるのはまだやり直せる余地があるという事なんロボろうか…。
 それと、もしかしてこの現象は主人公の女の子の異能だけではなくて、この世界の何人かが持っている能力の可能性があるロボ? 若しくは世界その物のルールみたいな感じロボかね。子供が消えたと言っている妄想おじさんも能力者の可能性があるし、放課後によくクラスメイトが消えるのも主人公以外にも誰かが消している可能性があるし、あやちゃんも能力で告白相手を消してしまった可能性もあるロボ(ゲタ箱のシーンでは龍太郎くんの名前が出ない)。
 主人公のまゆちゃんは自分だけにしかほよほよした生物が見えてないと言っているロボが、実は何人かが同じ様に自分だけのほよほよした生物を見ているかもしれないロボね……ほわほわして面白いながらも背筋が怖くなる良いホラーだったロボ。

7:運命のスイッチ/ももも

謎の有袋類
 前回は時事ネタと得意分野を組み合わせて謎の有袋類賞を獲得したもももさんの作品です。
 何か重大な選択をするとカチリと音が聞こえるという設定がとても面白いなと思いました。
 後から聞こえてくるので自分ではどうしようもないところがすごい好きです。試験の結果から、事故に遭いそうだった時まで偶然とは言いにくい事実が重なって確信となっている時に、自分と似た異能を持つ存在と会ってしまった……という展開が不気味で救いのない話でよかったです。
 好みの問題も大きいのですが、終始淡々としたモノローグ調になってしまっているので一行目からもう事件を起こしてもいいかも?と思いました。
 もももさんの新たな一面というか、珍しい作風を見れてよかったなと思います。これからも、自分の方向性を決めずに色々チャレンジして欲しいなと思いました。

謎の野草
 作品のモチーフ、キーワードとなる単語を決めて出すのは強いですよね。本作でいうところの「カチリ」ですね。文章の中でも浮き立って見えますし、特に本作でのギミックの場合は読者の脳内で音する(気がする)ので意識に刷り込まれていく効果があったように思います。次はどこでその音がするのか、楽しみさと怖さが同時に高まっていく演出になっていたと思います。
 本作は語り手が「あなた」に語りかける形式になっていますが、「あなた」=読者、という解釈で良いのか、あるいは何か別のシチュエーションが想定されているのかで感じるべき怖さが変わるかと思います。前者の場合は「知ると発動する」類の呪い、後者は聞き手はこの後どうなる……? という不穏。素直に読めば前者かと思うのですが、「私の運命が変わった……!?」と感じさせるような、フィクションと現実の間を埋める描写があと一歩あるとより怖いのかもしれません。

謎の機械
 それが良い結果になろうとも悪い結果になろうとも【運命の岐路を過ぎたら脳内にカチリと音が鳴る異能】の人の体験談インタビュー風小説ロボ。
 作中の体験記がかなり面白い内容で、就職に失敗したから世界を回ろうっていうのは若者あるあるなんロボが、なるべく同じ国の人が居ない地域に行こうというのが主人公の浮世人感をよく出してるロボ。普通ならある程度サポートが整った場所へ行く物ロボが、自分から厳しい道を選ぶのは普通じゃないロボよ。こういう部分も異能の影響なんロボかね。頭の中でカチリと音がしなければ重大な選択じゃないから死にはしないだろうみたいな。
 そして旅の相方の設定も良かったロボ。確かに宗教二世だと親や周りの考えに反発して反抗期を始めちゃう物ロボが、結局は宗教からは逃げられないと腹を括ってしまうロボ。外から見たら馬鹿らしい考え方ロボが、幼い頃から宗教に染まって来た彼には運命に感じてしまったんロボね…。
 で、ここまではよくある話っぽいロボに、そこで主人公の異能だった カチリ の音が彼にも聞こえたというので背筋が冷たくなって声が出そうになったロボ。他人にも音が聞こえるのはおかしな話ロボし、他人の人生の岐路なのになんで主人公に聞こえたロボ? 分かんないロボ。分かんなくて怖かったロボ。ロボは感情無いロボけど…
 最後のカチリの音も何故ロボし、まさかマウスのクリック音とかじゃないロボよね?考えれば考える程に怖くなるロボ。
 異能と呼ぶには大人しめの能力で、異能についてというより主人公の生き方なんかが面白い作品ロボねぇと思っていたら、まさかの最後でこちら側も主人公の異能に巻き込んでくるとは……読んだ時点で手遅れになる体験型小説を上手く異能と組み合わせてきたロボね。流石の作品だったロボ。

8:悪魔の宴/神澤直子

謎の有袋類
 前回は「夢の話」という作品で参加してくれた神澤さんです。
 今作は現代ファンタジーの異能バトル物というお題真っ向勝負という印象の作品でした。
 自分に取り憑いた悪魔の力を借りて戦う、悪魔は他の悪魔を食べると強くなるという連載にも使えそうな設定と、後半に明かされる自分に取り憑いていた悪魔はサタンでしたという展開、よかったです。舐めプしてたやつが舐めプ返しされるの好き……。
 僕、個人的には神澤さんの繰り出す罵倒のセンテンスがすごい好きで、今作は「あからさまに日本人のツラをしてるのにマリオットもクソもねえだろ」が好きでした。
 地の文が三人称視点なのですが、多分ところどころブレている部分があるので、そこを意識してみると読者への親切度があがるのかなーと思います。ここら辺は文体の好みとかもあるので難しいですよね。
 神澤さんがたまに書くファンタジーやホラー、好きなことが多いので今後もどんどん色々な作品を書いて欲しいなと思いました。

謎の野草
キャプションにある通り、全編異能者バトルでした。強化特化vs搦め手タイプのバトルは熱いです。小細工を圧殺する問答無用のパワーは良いものです。
 悪魔憑き同士の蟲毒あるいはバトルロイヤル──とても魅力的な設定だけに、短編企画で出してしまうのは惜しい気もしました。バトル部分だけを見せたい、というのが作者様の意図なのかもしれないのですが、幾らでも大長編に膨らませられる設定なので、悪魔もその異能も宿主も、色々見たかったなあ、と(アムドゥスキアスが出ている辺り、少なくとも72体の悪魔がいるのですよね。燃える……)。どうしてもストーリー部分の掘り下げも期待してしまいました。例えばラストに沙羅を狙って含み笑いする次の相手を描くともっとワクワクしたりしないでしょうか……どうでしょうか……。
 戦いが終わると家路に就く、というラスト。ベースには平和な日常があり、異能同士の争いは非日常のもの、と浮き立たせるようで良いギャップになっていたと思います。 

謎の機械
 【契約した悪魔の力を使用する異能】を手に入れた者達による、日常の陰で行われる蠱毒と言う名のバトルロイヤル小説ロボ! 分かりやすく異能で分かりやすくバトル物。男の子はみんなこういうの好きロボよ! ロボは性別無いロボけど魂で分かるロボね。いや、魂も無いんロボけど。
 小説の概要に書かれている通りに異能者バトル物でいきなり挑戦者が現れてバトルが始まってバトルが終わるというシンプルな構成で、短いながらも異能バトル物の第一話のお約束みたいなのが含まれている丁寧な作品ロボ。ヤンキーっぽい女の子が最強なのとか、物理ですべてを解決しようとするところとか、胡散臭いおっさんが噛ませ犬になるのとか、胡散臭いおっさんの攻撃方法がまどろっこしいのとか、胡散臭いおっさんが負けるけど後に窮地を助けてくれたりとか、少女である主人公には出来ない事も大人だからやれるとか、実は地位も名誉もお金もある人だとか、そういうお約束が目に浮かぶロボ。テンプレートや王道を嫌う人って結構居るロボが、そもそも王道は王道なので王道を好きな人の方が多いロボ。それに王道が書けるという事は基本的な実力を持っているという証明にもなるロボからこれでいいんロボ。お題の『異能』と王道を上手く組み合わせれるかも作者の実力ロボしね。
 難しい事は考えずに純粋にバトルを楽しめる作品として評価が高いロボが、「悪魔と波長があいすぎる人間は、やがて悪魔を吸収し、同化する」や、「毎日のように人間の『悪』の部分から生み出される『悪魔』」という部分が話はそう単純な物じゃないというのを匂わせているのも良かったロボ。
 今回のこむら川のレギュレーションの13,000文字以下という縛りでは生かせないかもしれないロボけど、もっと多めの文字数で作品を肉付けしても良い作品になるんじゃないかと思うロボ。今回のこれを漫画の読み切り作品と捉えたら、全部で単行本8巻ぐらいの異能バトル物という感じで。
 サタンの思惑も気になるし、主人公の女の子が物理だけでどこまでやれるのかも気になるロボ。後、これは気になっただけロボが、主人公の沙羅ちゃんは巨乳ロボ? 巨乳ぼさぼさポニーテールだと個機械的に嬉しいロボ。家ではレディースのボクサーパンツとかだともっと嬉しいロボ!

9:ジャム・バトル/白里りこ

謎の有袋類
 こむら川でははじめましてですね。参加ありがとうございます。近辺の自主企画だと神ひな川で「ハッピーエンドを求めて」という作品でエントリーしていた白里さんです。
 ハイテンションジャムバトルをプロテインが実況するという作品でした。
 とにかくこのイデア界のジャムはこうなんだよという力業から始まる異能バトルはテンポがよく、能力名や戦っている相手の駆け引きもあったりするのがよかったなと思いました。
 ブルーベリージャムが「突然、関係のないものを召還する」という能力で銃を召喚したのに、銃弾はブルーベリーだったことに対して「計画の杜撰さ」が指摘されたところだけ「?」となってしまったので、突飛な作品でもそこのロジックはしっかりしていると更に作品の強度が増すと思います。
 ハッピーエンドを求めてを読んだときも思ったのですが、軽快なやりとりが得意な作者さんだと思います。
 作品一覧を見てみると、作風の幅も広いようなので、これからも楽しく色々チャレンジして欲しいなと思います。

謎の野草
 いちごジャムが不動の一位なのは確定なのですねw 個人的には甘過ぎないブルーベリーやマーマレードのほうが好みですが、まあ順当ですね。本人(本ジャム)も王者の余裕なのが少し憎らしくもあり可愛くもあり、でした。
 そもそもジャムが戦う時点で異常事態ですから、異能とは何なのか……と思わなくもないのですが。目があるんだ……と思ったらボディはやっぱりガラスなんだ?? とツッコミどころも尽きないのですが。実況形式の勢いに呑まれるように楽しく読ませていただきました。何故人気ランキングなのにバトルで決めるのか、という疑問も先回りで封じられているから仕方ない!
 英語の慣用句やタイトル等を使った技名・ルビ芸も洒落が聞いていて面白かったです。blueを使った慣用句の多さ的にブルーベリーが圧倒的に有利かと思いきや、精神異常攻撃一本でマーマレードが勝利を拾うという試合展開、ドラマチックでした。

謎の機械
 大好きロボ。5億点。
 ハッ、いかんロボ。勢いだけの小説が好きすぎるからって講評を10文字で終わらせるわけにはいかないロボ。ちゃんと講評しなくちゃいけないロボね。
 一言で言えば勢い小説。もっともらしく言うとシュルレアリスム小説と呼ぶべきロボかね。なんでこうなるのかの説明をせず、こうなっているのだからこうだという謎の説得力で推し通る様は圧巻の一言ロボ。
 と言っても、恐らく最初からこの様な勢い小説書く予定ではなく、小説の概要に書いてある通りお題を募集した単語をどうにかして使用するうちに結果的にこうなったという感じロボね。でも集まったお題が【妬み】【マーマレード】【欲望】【プロテイン】なのにこの内容になるのは作者であり白里りこさんの実力というか普段の作風というか生き方みたいな物がこういう事なんだと思うんロボ。やっぱりロボはこの作品好きロボ。5億点。
 ただ、やはり募集したお題を使って3000字以上書くのがきつかったのか、若干強引な感じで文章量をひねり出した部分が少しあり、主にプロテインの自分語り部分がバトルのテンポをちょっとずらしてしまっている様に感じたロボ。喋っている内容はこの話に必要な部分なので削る必要は無いロボが、実況に挟むのではなくて回想シーンに回すとか、実況と解説に別々のイデアを用意して会話にしながら自分語りをさせるとスムーズに行くんじゃないかと思うロボ。「ギリ食べ物」という括りなら多分プロテイン以外にも出せると思うロボし、ぶっちゃけプロテインって自分でも言ってるけど栄養補助食品だからギリじゃなくて完全に食べ物だと思うロボ。いや、これはツッコミ待ちなんロボろうけど。
 お題である異能はブルーベリージャムとマーマーレードが【概念的異能】を使えるという事で勢いで回収しているロボね。作中で使えると言い張ればそれは使える事なんだと言う強い意志を感じるロボ。創作をする上でその強い意思は大事ロボ。俺の宇宙では音が鳴るんだよとハリウッドの偉い人も言っていたロボしね。ちなみに、ブルーベリーが目に良いっていうのはほぼ迷信みたいな物ロボが、これもイデアだからセーフなんロボよね?
 個機械的にはマーマレードよりブルーベリージャムのほうが好きだからブルーベリージャムが負けて悔しかったロボ。ロボ達の界隈では美しい女性のおみ足にブルーベリージャムをかけて舐めるのが愛情表現の一つであるとされているロボ。たまにロングブーツの中にブルーベリージャムを詰めてから履いて貰うという事もするロボ。ブルーベリージャムはとても偉大なんロボ!

10:時をかける島田/まさか

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 天才だと自負する主人公が、自分よりもすごい天才、島田に出会い、タイムマシンを作り上げる作品でした。
 時をかける少女を履修していないので、そのオマージュなどは拾えていないです。すみません。
 読みやすい文章で、主人公の島田への感情、自分に会いに来たのは誰なのかという謎を描いていてとても面白く読むことが出来ました。
 後半部分だけ少し混乱をしてしまったので、どうやって島田は年齢を偽装したのかをもう少し親切に種明かししてもいいのかもしれないなと思いました。
 読者は作者が思っているよりも情報を拾えていないので「ヒントを出しすぎかな?」くらい書いてあげるくらいでちょうどいいのかもな……と思います。
 最初は斜に構えていた主人公が、段々とタイムマシンの開発にのめり込んでいく様子や、最後にもう一度見せる島田への強い感情がとても良い良質な男同士のクソデカ感情SFでした。

謎の野草
 ずば抜けた才能、という意味においての「異能」ですね。そしてその異能はひとりだけではなく、主人公の才能と執念だけではなく、主人公を信じて希望を託した島田もいた……という相互に不可欠な関係性、人間が進歩してきた道程の縮図のようで非常に熱いです。病気も過酷な自然も克服してきた人類ですから、知識と思考の力をもってすれば不可能はないのかもしれません。
 卒業式に現れた「三十過ぎの島田」について。「明らかに三十を過ぎている」との描写、「君がここに来ることはわかっていたよ」の台詞から、最初は事実「タイムマシンで過去にやってきた島田」だと読み取ったのですが、最後に「島田の欺瞞に過ぎなかった」との記述があって混乱しました。過去の改変に成功して、三十歳を越えられた島田がタイムスリップできたのなら、「欺瞞」でないのではないか、と思うのですが……。タイムマシンが実現できるなら、観測済みの過去やその記憶さえも変わるのかもしれないですが。島田の変装&芝居に過ぎなかった、ということでしたら、「未来から来た島田」との対面シーンを思い返した時に「そういえば……」と違和感を覚える描写があると迷わず理解できるかと思いました。

謎の機械
 天才少年が天才少年の夢に惹かれ、ついにタイムマシンを作り出す事に成功するという話ロボね。お題の異能については【自分で定めた限界を超える異能】という感じロボか? めちゃくちゃ天才な時点で異能という感じもするロボけど、作品のテーマ的にはこっちの様な気がしたロボ。
 話の流れとしては荒唐無稽であるタイムマシンの作成を少年時代に見た未来の親友の姿によって実現可能な事だと信じ、諦めずに研究をつづけた事でタイムマシンを作成する目途が付くという物ロボね。作中にも書かれている通り、過去に戻るタイプのタイムマシンの開発は時間の概念的に実現不可能と言われていて、もしも本当に過去に行く事が出来たとしても、それは機械によって再現された過去であって自分が体験して来た本当の意味での過去の世界では無いのではないかという哲学みたいな問題もあるデリケートかつ奥深い物ロボ。まあ、そういうのはお話の前では無粋なので横に置いておくロボ。小説の中でタイムマシンが出来ているのならばそれはちゃんとしたタイムマシンロボ。
 タイムマシンの研究をする者が過去にタイムマシンによって干渉された事でタイムマシンの研究に携わる様になるという構図はタイムマシン物あるあるなんロボが、そこに親友の死と大人になった親友の姿の謎を持ってくるのは面白いアイデアだったロボ。そして「限界を決めるのは、当人の能力ではない」という言葉の使いどころがかっこよくて感動したロボね。ただ、九秒台の例えの部分については『50mを九秒台で走る選手』と書いたほうが読者に優しいと思うロボ。いきなり九秒台の壁という単語が出てきて分からなくなる人も居るロボ。ロボは『一般的に50mを九秒台で走る事は不可能と思われていたが、一人でも50mを九秒台で走る選手が現れれば、無理だと諦めていた他の選手も50mを九秒台で走る事が人間には不可能じゃないとして目指すようになる』という意味と読み取ったロボが、多分こういう意味ロボよね。
 作者は説明が無くとも話の流れを理解出来るロボが、読者はそうじゃないので分かりやすい説明があると助かるロボ。このままでも十分面白いロボけど、分かりやすかったら人にも勧めやすいロボ!

11:裂け目の主は夜に踊る/おくとりょう

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 痴漢を捕まえる手助けをした少年が、美女に不思議なアイテムをもらったけれど、下心を出してしまって手痛い目に遭うという話です。
 短く区切られた次々と切り替わる、なんとなくマンガやアニメを彷彿とさせる演出の不思議な話でした。
 夢への導入の部分が***で突然切り替わってしまうのと、サラッと夢だったと書いてあるだけなので、一度目に読んだときにちょっと混乱をしてしまいました。
 これは、僕がその手のフォーマットに慣れていないというのも大きいと思うのですが、場面転換の直前に眠気を誘う描写みたいなものがあるとわかりやすいかもしれないなと思います。
 謎の優しい美女に身分不相応なことをすると痛い目に遭うというのは、昔ジャンプで連載していたアウターゾーンを思い出しました。強い美女、いいですよね。
 魅力的なキャラクターを動かすことや、善と悪がいつ裏返るかわからないみたいな人間の内面を書く力が高い作者さんだと思います。
 強みを生かしてこれからもがんばってほしいです。

謎の野草
 本作での異能の持ち主は銀髪の女性(魔女?)で、主人公はそれに振り回されて破滅するポジションでした。過ぎた望みに手痛い反動がある、というの物語の王道パターンを、スマホアプリを使って現代的にアレンジした作品でした。
 物語の前半、痴漢撃退に協力できてはしゃぐ主人公の心情も、美女との出会いを期待するのも、「そうなるよね~」と若者らしい反応として微笑ましく読んでいました。……なので、後半の展開だとどうやらそれが痴漢と同レベル(鑑とせよ、の台詞からそう思ったのですが)の「罪」と扱われているようなのが少々腑に落ちませんでした。『打ち出のハンドベル』アプリを送ってきたのは銀髪美女で、主人公が調子に乗るのを待っていた……ということだろうと思ったのですが、自ら仕向けておいて「やっぱりね! 最低!」的に報復を行うのはひどいのではないかと思うのです……。主人公には当然の報いである、との意図ならば、もっと分かりやすく「嫌な奴」の描写。銀髪美女が常識を超えた悪意のある存在である、との意図ならば邪悪さ・理不尽さを強調する描写があるとオチがスッキリするかと思いました。

謎の機械
 物語としては駅のホームで痴漢に逃げられそうになった女性をアシストして、その後に夢で女性が出て来て打ち出のハンドベルという願いが叶うアプリをくれて、そのアプリを使って女性に会って、そこでいい雰囲気になったからキスしたいなって思ったら女性から暴力を喰らったという流れロボね。
 この打ち出のハンドベルのアプリが【願いを叶える異能】という事で、夢にも現れた銀髪の女性が魔法使いとか天女とかの人ならざる者という感じロボ? でも、小説の概要には「夢に不思議な男が現れ」と書いてあるので、実際は銀髪美人も仮の姿で英国紳士にもなれる煙の様な謎の存在がアプリをくれたかもしれないロボね。「他人を鏡とせよ」という忠告も欲望に駆られて変な事をするのは痴漢と変わらないぞという警告ロボろうし。
 最後に女性が急にキレたのはハンドベルの効果が切れたからなんロボろうけど、その後の女性の誌みたいなセリフが意味深ロボね。内容が主人公を前々から知っている感じにも取れるけれど、主人公を通して読者に語り掛けている様にも取れるロボ。
 途中で出て来た児童小説のモモや授業での偶像崇拝禁止の話的にも「他人を鏡とせよ」という教訓を込めた作品だったんだと感じたロボ。人類は自分自身を客観的に見る事が出来ない不便な生き物ロボから、普段から周りを見て己の行動を律しなきゃいけないロボね。
 でも銀髪美人に出会えたらロボもきっと同じ事しちゃうと思うロボし、スカートの中も見ちゃうロボ。主人公に感情移入出来てしまうからこそ、玉が無くなる最後は怖かったロボね…いや、ロボにはそんな物無いロボけど。
 教訓を得る為の児童小説や説法を現代風にした作品で面白かったロボ。で、打ち出のハンドベルのアプリは何処でダウンロードしたらいいロボ? ロボだけにこっそり教えるロボ。

12:# 炎上少女/海野しぃる

謎の有袋類
 クトゥルフの翻訳本なども出して活躍中!の海野しぃるくんが参加してくれました。ありがとうございます。
 知能系の異能バトルものでした。タイトルの付け方も、二つの能力を示唆しているところを綺麗にまとめた手腕は流石ですね。
 伏線の張り方と回収の仕方も丁寧で、読んでいる内に「そういうことかー」と気持ちよく読むことが出来ました。
 しぃるくんは商業作家さんなので、ガンガン逆贔屓をしていくのですが、個人的には神託の能力が一人に複数回使えるっぽい部分が「強すぎない?」となったのと、多分しぃるくんは書けると思うので、自分の因子で死んだ相手は死後に残留思念を残せない辺りのロジックをそっと本文に紛れ込ませてくれるとさらによかったなーと思います。
 逆贔屓で色々言ったものの、文章の読みやすさや、構成のうまさは流石でした。謎解きの部分がとても面白くて、どんどん読み進められる良いエンタメホラーをありがとうございました。

謎の野草
 作品の公開&この講評を書いているの7月23日現在、オリンピックがぐだりにぐだっている中でネット炎上ネタとあの事件をモチーフに据える勇気が凄いですね。SNSを炎上させる「だけ」というギフト、非常に現代的で恐ろしいです……。
 カオリと有葉のいずれも濃いメインふたり、ギフトやクラスタといった用語、それに「事件」……と、情報を整理・把握するのに行きつ戻りつしながら読んだのですがが、最終的には無駄な情報はなく、結末に向けて必要な布石となっており、構成が巧みだと思いました。有葉さんの担当部署、最初にちゃんと明言されているのですよねえ。情報を詰め込んでいる一方で、「事件」については読者が現実の事件を想起することを恐らくは想定して、最小限の説明に抑えている見極めのバランスも思い切り良かったと思います。
 一人称と三人称が混在しているため(カオリについては彼女の存在の揺れの暗示なのかもしれませんが)、少々混乱してしまった部分もありました。また、SNSでの見え方を意識したハッシュタグ+四字熟語のタイトルなのは十分理解するのですが、「少女」から最初カオリは高校生くらいだとイメージして読み始めたので、飲酒で炎上するのかと思ってひやひやしてしまいました。

謎の機械
 【狙った相手を炎上させられる異能】の持ち主の女性が出る異能バトル小説ロボ。バトルと言っても直接ドンパチするよりも駆け引きでやり合うバトルだったロボ。
 最初からいくつもの伏線が張ってあり、その伏線を全部綺麗に回収しつつも読者が予想しない流れに持っていくのは実力が高い証拠ロボで、能力の駆け引きだけでなく物語そのものにギミックが仕掛けられているのは流石という感じだったロボ。良い意味で読者を裏切る内容でワクワクしたし、キャラクターの造形もとても良かったロボ。特にお酒が無いと能力が暴走するとか言っちゃうダメ人類なお姉さんが良かったロボ! 殺人を犯す悪い人類なのにどこか抜けているお姉さんを嫌いな人類は居ないロボ!お肉も好きなのもポイント高いロボ! でも、そんな気怠げかつ覚悟決まりまくりなお姉さんはもうこの世には居ないんロボね…安らかに眠って欲しいロボ…
 時事ネタ(と言っても数年前)を絡めたり現実にもあるツールを絡める事でフィクションの作品でありながら実際に何処かで起きている現実の出来事かと思わせたり、有葉緑郎という兼業小説家の作者の分身でありスターシステムの出演者を酷使するのはもう完全にしぃるさんの作風ロボね。タイトルがTwitterだとタグとして認識される物というのも現実とのリンクが深まっていてとっても有効ロボ。
 異能というお題の消化も上手く、作品内外の仕掛けも上手だったロボ。これだからプロ作家は怖いロボ。
 ただ一点、焼肉という飯テロでこちらのお腹を空かせてきた事については許さないロボ。ロボも焼肉食べたいロボ! いや、ロボはオイルしか飲まないロボけど、それはそれロボ。許さないロボ!

13:僕と魔物と親友と/惟風

謎の有袋類
 第三回こむら川小説大賞では「空で」という切ない物語を書いてくれた惟風さんです。参加ありがとうございます。
 今回は現代和風ファンタジーを書いてくれました。美人の親友とモブっぽい自分の組み合わせ……めちゃくちゃ好きです。
 設定やキャラクターも連載に使えそうなので、このまま中長編を書いてみて欲しいなと思いました。
 匠くんはメインヒロイン……ちょっと口が悪い美形は最高……。ルミちゃんもどんな子か見たい……。
 個人的なわがままを言うと、絆創膏の下にある封印がどんなものなのかと、封印解放の条件をもう少しわかりやすくしてくれるとさらにエモが高まったかなーと思いました。
 惟風さんは、現代ドラマ系のしっとりとした作風がすごい印象的だったのですが、今作や埼玉さん主催の厨二病小説大賞の作品などはエンタメエンタメしていてめちゃくちゃ面白かったです。
 話の大きさと文字数のバランスも、読んでいて物足りなくもないし、詰めすぎかなとも思わないちょうどいいバランスなのがお見事でした。
 短編は本当に申し分の無い完成度の作品が安定して書ける作者さんだと思っています。今後は中長編にもチャレンジしてみて欲しいです。

謎の野草
 少年ふたりの友情と冒険の物語、といった微笑ましくも熱い物語を楽しませていただきました。
 自らをモブと卑下する山田君ですが、親友もいれば家族親戚からも案じられて可愛がられているようだし、恵まれているじゃないか! と心の底から思いました。愛されている彼だからこそ、口裂け女をさらっとフォローできるし近い将来ルミちゃんをゲットできたりするのでしょうね(お兄さん公認とはまた素敵な関係ですね)。
 有名RPGゲームの呪文をキーワードとして使っている点、著作権を気にする読者ももしかしたらいるかもしれないのですが、私としてはこの年齢の少年だからこそ選ぶ呪文ということで、彼のキャラクター・世界観・作品の雰囲気を演出するものとして好ましく思いました。呪文の詠唱、してみたいですものね。
 完全に小手先のテクニックの話になりますが、やや画面が詰まった印象がありましたので(4話は意識混乱の演出として分かるのですが)適度に改行・空行を入れていただけるとより読みやすいと思いました。

謎の機械
 【何が起きるか分からない異能】の持ち主が妖怪と戦う話かと思いきや、そういう化け物と戦う筈だった人が闇堕ちして魔物を従えて襲ってきたという話ロボね。
 口裂け女を勢いで誤魔化すシーンや、イケメンがおっさんに付き纏われるシーン、おっさんがやばい生物を使役しているシーン、少年が自分の身を顧みず封印を解くシーン等、作者の書きたい事を沢山詰め込んでみたという感じがする作品だったロボ。バトルの最後に口裂け女に助けられたのも良いシーンロボよね。将来はきっと良い死神になるだけではなく、妖怪や化け物を殺さないで生かす道も見付けてくれるハンターになれたんじゃないロボかね。そして始まる奥さんと女性妖怪との修羅場。網膜レンズに浮かぶロボ。
 お題の回収も分かりやすく、物語も男子高校生二人の青春でいいなぁ〜という感じで良かったんロボが、個機械的には若干内容が駆け足すぎるんじゃないかと思ったロボ。
 公園で口裂け女に出会うという事件が起きたら直ぐに逃げた先のラーメン屋でおっさんがイケメンに絡んでいる事件が起き、それが落ち着いてシーンが家に移ったと思ったら電話がかかってくる事件が起き、全ての元凶を解決をしたと思ったら最後にさらっと重大情報が飛び出てくる。短編として内容が詰まっているのはいい事なんロボが、まだ文字数に余裕があるので少し読者が休める箇所があると読みやすくなると思うロボ。
 でも、これは飽くまでロボが感じた事なので必ず守って欲しいという訳ではないロボ。もしかしたら惟風さんの作風そのものがこの書き方だとしたら長所を削ってしまうかもしれないロボ。
 講評は単なる講評なのであんまり深く考えなくていいロボ。面白い作品をありがとうロボ!

14:力が欲しいか……? なあ、力が欲しいか……?/いのけん

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます!
 テンポの良く心地良い会話劇から始まる麻雀小説です。僕は麻雀をマジでまったくわからないのですが、前半の自称神のおじいさんと主人公のやりとりがとても楽しく読めました。
 やりとりのテンドンがすごくうまくて、しつこく感じないのはこの作者さんの独特の感性によって成り立っているバランスで、こういう会話劇を書けるのすごくうらやましいなと思いました。
 後半、牌の記述の仕方は、こういうアプローチもあるんだなーと関心しました。麻雀の雑誌とか記事を読まないのですが、こういう表記法ってその筋では有名なものなのでしょうか?
 エモさや待ち?のアツさはわからなかったので、そこでもう少し説明があると親切……かも。でも、麻雀が好きな人にだけ届けばいいんじゃ!ならこのまま突き進むのももちろんありだと思います
 ですが、麻雀がわからないなりに「お!良い結果だったんだな」とわかるようなバランスに仕立てているのがすごいですね。
 45歳のおじさんが見栄とプライドを見せる瞬間や、そしてスラムダンクを履修してる神様の組み合わせもとてもおもしろかったです。

謎の野草
 見覚えのあるフレーズ&もはや定番となったシチュエーションをいじる、テンポの良いやり取りの勢いが良いですね。サキュバスやスラダンのくだり、捻ったツッコミをしようという意気込みも伝わってきます。スパアン!!のどつきの擬音、ラストの「どうも~~」からも分かる通り、漫才を文字で表現しようとした作品だと思いました。恐らくは、作者様の中では漫才を演じるコンビが生き生きと動いているのかもしれません。
 ただ、読者として作品を文字で読む立場からすると、後半になるまで背景も主人公の立場も描写されていないため、情景が浮かばずやり取りを楽しみ切れない部分がありました。たとえば四時に起こされるシチュエーションに対して、仕事/学校があるのに! 試験やデートや会議があるのに! という叫びで主人公のキャラ付けを見せることはできるし、それによって同情や共感を覚えさせることもできると思うのです。現状のだと、どんな年齢・職業でも概ね当てはまるような、薄味のツッコミになってしまっているのがやや残念でした。
 もらった「力」についても、テレパシーは明らかに当たりだし麻雀にとても有利なのは読者には一瞬で分かりますので、デメリットを持たせたる・一見使えなさそうなのに実は……な展開を挟むなど、ドキドキハラハラがあっても良いかと思いました。

謎の機械
 これコントじゃん!!これコントじゃん!!!!ロボ。
 力が欲しいか? という思春期に言われてみたい言葉ナンバーワンに入りそうな言葉を聞いたのは45歳雀荘で働くおっさんで、仕事中にソファーで仮眠しているところを謎の言葉で起こされるという話ロボ。しかも午前4時ロボ。これはキレても仕方ないロボね。睡眠を邪魔する者は死刑になっても文句言えないロボよ。ロボは睡眠の必要無いロボが。
 そしておっさんが語りかけてくる神さまっぽいのに起こされてからずっとキレ気味に話をしているのが凄く面白くて、神さまの大分抜けている反応に対しておじさんがキレッキレでツッコミを入れまくっているのを最後まで笑いながら読めたロボ。特に頭をスパァンするのが本当に笑えて仕方なくて、スラムダンクのくだりからの力が欲しいかのスパァンは鼻水が出る程笑ったロボ。いや、鼻水なんて出ないんロボけどロボ。
 お題の消化もこの神さまから与えられる力が【念じた相手の心を読み取る異能】とすんなりクリアーされていて、その力も麻雀向きで中々役に立つ能力ロボ。ただ、この異能を使うポーズがドラゴンボールの瞬間移動のポーズに似ているのは偶然ロボか?この神さまジャンプ作品好きそうだし多分わざとロボよね。考えるフリしながら使うには少し難しいポーズロボからあんまり多用したら怪しまれてしまうんじゃないロボ?
 最後は能力が麻雀に使えるのと過去に能力を授けた相手が居るという事から異能麻雀が始まるかと思ったんロボが、何故かおっさんと神さまがお礼を言って終わったロボ。話の流れとしては意味分かんないロボけど、これが小説ではなくてコントだと思えば色々と納得出来るロボ。だから最初にコントじゃんって書いたロボ。でもまあ、コントでも面白かったから個機械的には有りロボ。面白ければだいたいの事は許されるロボからね。

15:俺と車椅子と異能と病弱/幼縁会

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 異能持ちが当たり前となり、見た目だけでは弱者かどうか判断できなくなった世界で、車いすの少女を軽く手助けをすることを日課にしていた主人公と、その周りのお話でした。
 後半、主人公が悪そうなやつらに立ち向かうところと、ピンチを救うヒロインがすごくかっこかったです。
「人を見た目で判断する~(中略)快適な生活の出来上がり」までの記述が、誰の価値観なのかわからなく、さらに誰かの主観のように書かれている気がします。
 設定の根幹部分だと思うので、誰がどう思っているのかを意識してみると世界観がさらに読者に伝わりやすくなりと思います。
 こういうカッコよさを書きたい!というのが明確な作者さんだと思うので、このままどんどん好きなものを書いていってほしいなと思います。

謎の野草
 異能がありふれたものになった社会がどうなるか、という思考実験のひとつの回答を描いた世界観でした。個人的には悲観的・殺伐とし過ぎているかなあ、とも思うのですが、ルール整備や民衆の認知が行き届かない過渡期には作中で描かれたような瞬間もあり得るのかもしれません。
 世間の流れに逆らってでも正義を通す主人公の姿は格好良く、その動機が漫画のヒーローに憧れたから、というのも彼の愚直な正義感を表していたと思います。彼の勇気が報われる展開は胸が空くものでもありました。作者様が描きたい筋・思想は十分に伝わってきたと思いますが、感情移入するには描写に強引な部分もありました。
 例えば、車椅子の少女を誰も手伝おうとしない、という描写。急いでいる通勤時間帯、視界に入るのは恐らく一瞬、段差がある訳でもなさそうな横断歩道で、とりあえず同伴者がいるようなら手を貸さないのはそれほど冷淡な判断ではないと思いました……(当事者でも関係者でもない者の、とても傲慢な考えなのかもしれないですが)。また、不良集団が少女を異能者と考えていながら反撃・報復を想定していないのはこの世界観にそぐわないと思いました。このあたり、少し状況を変えたり説明を加えたりしたらスムーズになるのではないかと思いました。
 異能のせいで助け合い精神が薄れている、異能者と非異能者の間で軋轢があるという設定は面白いと思うので、説得力のあるエピソードで描写できれば作品のテーマも際立つのではないかと思います。

謎の機械
 【異能を持っている人類が居るのが当たり前となった世界】で、人助けが趣味の男が車椅子の少女を善意から助けるという話ロボね。一つ一つのシーンの描写がカッコよくて詩的な作品にも読めたロボ。
 世界観の設定がかなり面白くて、身体障害者みたいな一般的に弱者として扱われる人でも見た目からは異能持ちとは分からないから弱者として扱うのはどうなのかという価値観が広まっているのはなるほどと思わされたロボ。両脚が動かなくても腰から炎を噴出させてホバー移動出来れば不便ではないという理屈なんロボけど、実際はホバーに使うエネルギー量が莫大だったりバランスが取りにくくて二脚の替わりにはなんないロボ。でも、異能という特別な力を持っているという事が周りからは羨む対象になってしまうんロボ。やっぱり人類は愚かロボ。
 そんな世界だからヤンキーな連中も見た目はが弱くても実際はそうじゃない可能性もあるという理屈で車椅子の少女を襲おうと考えるんロボね。
 しかし、主人公だけはそれを是とせずに力が無くとも信念に従って行動する。カッコいいロボ。いかにも主人公という行動なんロボが、計画だけでまだ実行に移していないヤンキー達をいきなり殴り付けたのは驚いたロボ。正義感が強いのはいいロボけど、流石に被害者が居ない状態ではまずいのでは?と思ったロボ。
 例えばここに既に被害者が一人転がっているとか、ヤンキーが先に主人公を見付けて因縁を吹っかけてきて主人公が馬鹿な事は止めろと言って先に殴られてから車椅子の少女に向かおうとしたヤンキー達を止めるとか、そういう主人公が暴力を振るってもいい強い理由が欲しかったなと思ったロボ。
 結果的に話の流れは変わらないロボけど、先に手を出すと主人公が悪者に見える事もあるロボ。若しくは、主人公が時々そうやって暴走するとかいう狂犬設定があればすんなりと暴力描写が入ってくると思うロボ。
 短編で終わらせずに肉付けをした長編も読みたくなる良い作品だったロボね。他の能力者も何処かしらの部位が欠けているとかだと好みすぎて嬉しいロボ。

16:八尺様VS全裸中年男性/ポストマン

謎の有袋類
 前回は空中魔城と落とし穴で参加してくれたポストマンさんです。参加ありがとうございます。
 前回のクライマックスから始まるファンタジーとはがらりと文体が変わった作品です。
 超有名怪異とも言える八尺様とドラゴンの学園異能バトルでした。ニンジャスレイヤーや、パルプ作品といった方向性の作品には縁が無いので、ちょっと読み取れないところなどがあったらすみません。
 略奪という能力の拡張で、熱を奪うといった異能の解釈がすごく好きです。
 文体のお陰もあり「これはコミカルに読んでいいんだ」とわかりやすかったのもあって、楽しく読むことが出来ました。バトルシーンもすごくテンポが良くて好きです。
 多分、僕は消化酵素が足りないので的外れなことを言ってしまっているのかもしれないのですが、終わり方が連載の一話ではなく「完結」作品の終わり方だと考えると読者を突き放すような締めに思えました。
 物語の終わり方はかなり好みがあるので、これが正しいわけではないですが、もう少し余韻を残すというか、急降下というよりは軟着陸が出来るようにすると読者にとって親切なのかな?と思います。
 設定も面白く、キャラクターも魅力的なので、作品のラストにあったとおりの続編を書いて、連載に繋げてもいいと思います。
 これからも、作品を色々書いてどんどん強くなって欲しいなと思いました。

謎の野草
 懐かしの洒落怖オマージュですね。猿夢がいるということは、次回は精神世界での攻防になるのでしょうか。本作での八尺様は思いのほかフィジカルが強いですが、猿夢のフィールドでどこまで太刀打ちできるか見ものです。
 民明書房を始めとしたメタネタ&荒唐無稽な数値・描写のオンパレードですので、ツッコミ無用の精神で読め、という強いメッセージを感じましたしそのように楽しませていただきました。元ネタの説明を一切省いた潔さは、一見さんお断りになるリスクもあるのですが、恐らく分かる人に向けて書いた作品でしょうから、この濃度で出すのが正解なのだろうと思います。惜しむらくは、形式上完結済になってはいるものの、完全なる「続く!」になっていることですね……。次回予告、あるいは映画でよくある続編への意欲ありありのエンディング的なジョークだろうとは思うのですが、本編部分が3000字少々のコンパクトさであることもあり、短すぎる印象になってしまっていました。
 未成年飲酒疑惑について、異能の説明、漫研部長(まさか全裸がそういうこととは)の尻尾&母について……読者が「?」と思うタイミングですかさず入る説明、その実況調のテンションや距離感が面白かったです。

謎の機械
 最近の世の中の流れからして巨乳美人の八尺様が下卑た全裸の中年男性にセクハラをされる内容っぽいタイトルだから期待して読み始めたのに裏切られたロボ!
 まあでもドラゴン族のお母さんが全裸で街を歩いているのは有りなので問題無いロボ。きっと美人なマダムなんロボね。ドラゴンというからには色々とおっきいと嬉しいロボ。
 話としてはこの作品も勢い小説と呼ぶべきなのかもしれないロボが、どちらか言うと洒落怖と呼ばれるホラー話集のキャラをスターシステムとして使用しつつニンジャスレイヤーや色んな作品のネタを織り交ぜたパロディかつコメディ小説ロボ。単なるパロディ小説ではなくて元ネタを知らなくても楽しく読めるのは嬉しいポイントロボね。ロボは洒落怖が分からないロボけど二話に出てきた猿と白いマスクの女はなんとなく分かるロボからワクワクしたロボ。
 お題の異能は舞台である病牟高校が能力者も所属しているという事と、つぐみちゃんが【物を奪い取る異能】を持っている部分ロボ? お話のメインが八尺様で基本的に八尺様が物理で攻撃しまくっているので異能っぽさはあんまり感じなかったけど、よくよく考えたら八尺様自体が異能存在かもしれないロボね。都市伝説の存在ではあるけれど妖怪では無い八尺様ってなんなんロボ? 謎ロボ。
 最後まで勢い良く読み進めれる面白い作品だったので、贅沢を言うならもっと続きが読みたかったロボ。まだまだ文字数は残っているのだし、次回へ続くという形で終わっているのだし、後二話ぐらい追加して因縁の相手とのバトルもやって良かったと思ったロボ。次こそはえっちなイベントを起こして欲しいロボ。期待してるロボ!

17:狩人たち/(゚、 。 7ノ

謎の有袋類
 こむら川でははじめましての方です。参加ありがとうございます。
 アングラの森で書いていた「右目」とは打って変わって、壮大な宇宙を舞台にした冒険譚でした。
 E.E.スミスと古橋秀之がわからないので、読み逃してる部分があったらすみません。
 遙か遠い場所で見つかった謎の巨大生物、選ばれた三人の強い個性がある人物が故郷のために危険な任務に赴くお話です。
 前半はモノローグ的な内容で、かなり淡々としているので、どちらかというとプロット段階に近い印象を受けました。
 三人の登場人物が話し始めるのが後半なのと、それぞれの人物の個性が強そうなのに露出が少ないので、誰が誰だかパッと読んだだけだと把握が難しかったです。
 とても魅力的な登場人物たちだと思うので、前半からガンガン会話させたり、見た目やひととなりを描写していくと読者も感情移入がしやすく、物語の世界に入り込みやすいのかも知れないなと思います。
 この物語から三年後に来る戦いのために、三人が能力者を探す……というワクワクする終わり方が好きでした。
 設定や、キャラクターの個性作りがとても上手な作者さんだと思っているので、どんどん書いて、今後も色々な作品を生み出して欲しいです。

謎の野草
 キャッチコピーに挙げられていたクリエイターお二人は未履修のため、作者様の描きたい世界観を完全に受け止められているかは謎なのですが……スケールの大きいSF、楽しませていただきました。淡々とした文章の中、さらりと「排熱剤として彗星をいくつか溶かし尽くして」など超技術を仄めかすのが実にワクワクします。遥かな未来の常識は、現代のそれを遥かに超えたものであって欲しいものです。
 メインキャラ三人の「異能」についても同様で、舞台設定のスケールに見合った遠慮のない盛り具合が潔く、そして危なげないスムーズな展開が清々しかったです。「わたくし、重力加速度を嗜んでいまして」じゃあないんだよw
 三人の異能の桁外れさを存分にアピールしたいという意図なのだろうと思いますし、十分に伝わるのですが、一方であまりにもスムーズに進んでしまってあっさり終わってしまったな、という感覚もありました。文字数にも余裕があったことですし、「獣」の規格外のスペックももっと見たかったし、それに対抗する三人のほうも、それぞれの容姿や性格、関係性を描いた上で無双ぶりを出していただけると、より感情移入できるしより盛り上がるのではないかと思います。

謎の機械
 か、カッコいいロボ。宇宙を舞台として宇宙に潜んでいた獣と、超科学を手に入れた人類文明と、超科学がありながらもオカルト的な力を持つ選ばれし三人の上陸部隊。もうこの時点でロボはおしっこを漏らす程喜んだロボ。ロボから出るのは冷却水だけロボけど。
 科学技術が発展しても人類に心がある限り信仰というのは無くならず、逆に科学技術により神や心霊というのが解明される事はSF世界では普通にある物ロボ。高度に発展した科学は魔法と区別が付かないという言葉があるけれど、ロボに言わせたら魔法だって技術の一つであり科学の範疇ロボ。だからこそ彗星を冷却剤として使う様な馬鹿げたレベルの科学技術がある世界なのに霊的要素があったり、三人の姿が遠い未来の筈なのにダンジョンに挑む斥候、僧侶戦士、エルフの魔法使いみたいな事になっているのがロボの好みにドンピシャなんロボ。凄く好きロボ。評価を贔屓しちゃうロボ。5億点ロボ。
 ただ、この話はこれから始まる宇宙の獣と人類の壮大な戦いのプロローグでしかなく、三人の狩人達の活躍が地味なまま終わってしまっているのが勿体ないと思ったロボ。ロボみたいなSFが好きなタイプはこの作品に出てきた単語だけで数時間は語れるロボが、そうじゃない人には物足りないまま終わってしまった様に感じるロボ。
 お題回収の異能も【結合を断つ拳の異能】【重量に干渉する能力】【解析や介入を行う万能の異能】という感じで規模が凄いんロボが、それがどう凄いのかが分かりにくく、見せ場である脱出シーンに何をしたかも語られていないロボ。
 短編に出すには壮大すぎる内容だったロボけど、まだまだ文字数があるから三人の活躍をもっと細かく書いてもいいと思ったロボ。そうすればSFに慣れていない人にも面白さがグッと伝わるし、なによりロボがそれを読みたいロボ。エルフの少女はローブの下は下着同然で体に色んな紋様が入っているのがいいロボ!スペースオペラはロマンがあるんロボ!! 頼んだロボ!!

18:スーサイド・マーダー/志村麦

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 密室の中には殺されたばかりの被害者と、全裸で記憶の無い自分……から始まるミステリーでした。
 推理をする主人公の焦りながらも冷静でいようとする様子や「発動した以上、危機的な状況は回避されていなければならない」という、作品の中でのルールをわかりやすくかっこよく何度も書いているのがすごく好きです。
 ミステリーはあまり読まないのですが、とても楽しく読み進めることが出来ました。
 真相に自信がないのですが、自分を殺すのに失敗して何度も自分を殺して最後にやっとやりとげられたのか、これは少女の持ち物を狙った猟奇殺人者が最後に自分を殺して新しい自分になろうとしたのかちょっとわからなかったです。これは、僕がミステリーを読まないのでなんらかのお約束を見逃している可能性も高いのですが……。
 読者と作者では、持っている情報量に差があるので、ミステリーなどを書くときも「わかって欲しいところ」や種明かしの部分などは、親切すぎるかなってくらいに情報を開示するくらいがちょうど良いかもしれません。
 本当に僕の勘が悪いだけで、主人公が記憶を取り戻すまでの部分や、密室の設定、異能の使い方などすごく楽しく読むことが出来ました。

謎の野草
 死体のフェティッシュな描写がとても良いですね。お尻の黒子がやけに目についてしまう気持ちが何だか分かってしまいます。人と対する時、顔よりも黒子や染みに目が行くことってありますよね……。「自分でみえない裏側の一点。」という一文がラストへの布石になっているという仕掛けもお上手です。
 異様な閉鎖空間でありながらすらすらと読めたのは、主人公の視点と思考の流れが自然で、論理的な文章になっていたからだと思います。主人公の混乱を伝えつつ、読者が知りたい情報を分かりやすい順番で提示するのは難しいことだと思いますので、書き慣れている作者様なのかな、と思いました。部屋の間取りや死体と主人公の立ち位置もスムーズにイメージできたので非常に助かりました。
 一点、論理の流れとして少し引っかかったのが、「主人公は自身の異能の詳細を覚えていない」のに「当初は自分が犯人ではないと考えた」という点です。襲われたのでやむを得ず反撃したということも考えられるし、「殺人というリスクを回避するために異能を使ったと考えるほうが自然だ」と言いつつ、実際死体が転がっている訳で、主人公が確信を持っていることに対して、もう少し説明が必要に感じました。
 ミステリとしてのトリックは、古典的なものにまんまと……! と、良い「やられた」感がありました。こういう、小説ならではの騙しのテクニックは大好きです。犯行を重ねる気満々らしい「犯人」はどこへ行くのか、同じことを繰り返すのか──ぞくりと寒気を覚えさせるラストでした。

謎の機械
 異能をテーマにしたミステリー短編ロボね。
 お題回収をしっかりしているし、最初は荒唐無稽そうに見えたのに謎が解明されてから読み直すと「この部分が伏線ロボかぁ〜」と膝を打つ部分が何箇所もある良いミステリーだったロボ。個機械的にこの様な主人公にとってはホラー展開とも取れるミステリーが大好きロボで、その主人公の焦りや恐怖が伝わってきてとても良かったロボ。目の前に全裸で後ろから包丁を刺された死体があって自分も全裸で密室だったらロボなら完全に取り乱すロボね。そこを『異能を使ったからには理由がある』の一点の希望を元に冷静に対処させているのが異能をテーマにした作品として本当に上手かったロボ。
 ミステリー部分は本当に大好きなぐらい良かったロボが、主人公がどうして自殺をしてこの状況を作ったのかや沢山の自分を解体したかの原因の説明が少ない感じがしたロボ。主人公の異能が【自分を複製する異能】という事とタイトル名のスーサイド・マーダーという言葉から精神的な何らかが理由で自分にイライラをぶつけたのは確定していいと思うロボけど、直接な原因は自分を増やし過ぎた事と、それらの処分に心が疲れたからリセットしたかったという感じロボ?
 化粧品が多いという事はバスルームの沢山の自分と数日は一緒に生活していた訳で、殺しては複製してまた殺したなんていう事では無いと思うロボ。背中に包丁が刺さって死んでいる主人公が一度に三人を解体したのは間違いない筈ロボ。でも、ロボが読み取れたのはここまでだったロボ。もしかしたら他にもヒントがあるかもしれないロボけど、これ以上は分からなかったロボ。
 最後に『新しい体でやり直せるのだからと』言っているって事はこの新しい主人公は自分が自分を殺した理由が分かったっぽいロボから、その部分も判明する様な分かりやすい答えが作中にあると嬉しいなって思ったロボ。

19:不知夜(いざよい)の子/富士普楽

謎の有袋類
 前回は吸血鬼を描いた「メリー・ブラッド・ラーメン!」で参加してくれた富士普楽さんですが、今回は現代ファンタジーの異能バトルで参加してくれました!
 魔術師の設定もめちゃくちゃ好みなんですが、この黒髪長髪パパが好きすぎて……あと蛇髪の魔女もめちゃくちゃ好みでした。おっぱいが大きいのは良いこと。
 全体的にとても読みやすい文章で、するする内容が入ってきたのと、回想の生かし方が美しいなと思いました。
 富士普楽さんの短編などをいくつか読んでいて、今までは結構文字数よりも大きな物語を回そうとして苦しんでいる印象だったのですが、今回はめちゃくちゃ綺麗に文字数内に物語が収まっているような気がします。
 物語に一段落付いて余韻を残すお話好き……。この続き、書いてくれますよね?パパの若い頃のスピンオフとかを……こう……(期待)
 特に言うことはないくらい良い!!!のですが、富士普楽さんは本当に色々と上手な作者さんなので欲張りなことをいうと、ブラック企業のところで尻をコピーするおじさん(僕個人的にはめちゃくちゃ好きなのですが)が、浮いている気がします。この作品のカラー的には明確なノイズになってしまい得るので短編だったら面白モブはいなくてもいいかもな……と思いました。
 講評だから敢えて気が付いた点を言ったくらいで、月の設定、幽霊の設定、そして魔術師同士の戦いと、血の繋がらない父子……山盛りを楽しめる本当に完成度の高い素敵な作品でした。
 自信を持ってこれからも色々な作品を書いてくれたらいいなと思います。

謎の野草
 異世界カニバリズム風土記「北阿古霜帝國民族誌(エッタ・イグニブラ・ユト・ザデュイラル・ゼネプブイサリィ)」が面白い富士普楽さん、川系企画でも常連さんですが、安定の完成度の短編です。
 第一話、不知夜と十六夜と猶予い、穢と怪我のダブルミーニングで世界観と雰囲気を高めていくテクニックが好きです。この時点で父子家庭? 母親は? とうっすら疑問に思っていたのですが、ラストで回収されて非常にスッキリしました。読み進めれば主人公はまだ十四歳とのこと、背伸びをした自意識と裏腹な危うさで、読者目線では応援して見守りたいと思わせられました。
 廃ビルに入ってからの魔術の描写、ラテン語やギリシャ語の引用、いずれも世界観を演出する小道具としての役割にとどまらず、物語上の布石にもなっていて、終盤の展開が納得のいくものになっていたと思います。詠唱バトルの格好良さもとても良かったです。主人公の覚醒と家族の絆を確かめた結末も、とても心温まるものでした。

謎の機械
 【魔術という異能がある世界】の現代の裏側で生きる魔術師による幽霊退治と、主人公の少年の秘密と、その黒幕との魔術バトル物ロボね。お父さんが強くてカッコ良いのと、黒幕の悪の魔術師がエロくて強いのがめちゃくちゃ良かったロボ! ニット生地のハイネックレオタードにロングソックスってなんなんロボか!? 戦いの最中に相手を油断させる視線誘導ロボね? くそぅ、ロボはそんなのには引っ掛からないロボ! なのでどちらへ行けば樹香さんとお知り合いになれるか教えて頂けるロボ? お願いするロボ?
 お父さんも黒髪長髪で仕事の前後だけタバコを吸う、生活力は皆無な実力者とキャラが立っていてとても良いロボ。短編はサブキャラの説明に使う文字数が足らない事が多いロボが、この作品は話の流れでこのキャラはこういうキャラというのが分かるエピソードや描写が多くて、実際はきちんとキャラ紹介されていないのにお父さんも樹香様もとても魅力的なキャラに見えるロボ。
 魔術の設定も魔術と言うからには西洋的かと思いきや、自己暗示に西洋の言葉は使っても実状的には西洋東洋関係無く世界のルールと人類の精神的な物を形にした技術みたいな感じだったロボね。こういう絶対が読者に上手く伝わるかどうかというのも作者の実力ロボ。凄く良かったロボ。
 主人公の謎と魔術や幽霊の設定も上手くて良かったロボが、お父さんが「車で良い子にしてるだけなら歓迎だ」と言っていたのに主人公に普通に戦わせているのが気になったロボ。
 もしかしたらロボが何か見落としていたりお父さんの冗談だっただけかもしれないロボけど、まだまだ未熟者扱いする割にはガッツリ戦いに関わらせてるの大丈夫ロボか? となったロボ。
 お父さんから「でもお前の剣術があると楽だな」とか、一言参戦してもOKだというセリフがあったらいいかなと思ったロボ。最後まで読めば月を見える様にさせたかったからだという理由は分かるロボけど、途中まではそこが気になっちゃったロボ。
 でも、作品自体はめちゃくちゃ面白かったロボ。樹香様最高ロボ!

20:本日、魔女の処刑が行われる/あきかん

謎の有袋類
 前回はサッカーと缶蹴りのお話で参加してくれたあきかんさんです。参加ありがとうございます!
 今回は、魔女ムーラン・ルージュが火炙りにされるまでのお話でした。僕はいままで読んだ中のあきかんさんの作品では一番好きです。
 多分、下地にしてるのはムーランの劇場版タイトルと、ムーシューかな? ここまで露骨にタイトルにしてるのは危ないかもしれないんですけど、個人的にはマジでよかったです。
 構成もおもしろくて、誰かが魔女ムーランについて調べたであろう資料を次々と提示していくといった内容で凝っているなと思いました。
 これ、調べている人の手記的とか主観を入れてみると、もっと話と話の間に繋がりが出来て物語の強度とわかりやすさが増したかな?と思います。
 マジで毎回初見さんお断り!的な文章を書くことが多かったイメージのあきかんさんなのですが、今作はゴリゴリのファンタジーでめちゃくちゃ面白かったです。
 またこういう雰囲気の作品も書いてくれるとうれしいです。

謎の野草
 魔女狩りのダークな雰囲気、調査記録や断片的なやり取り、会話から事実が浮かび上がる……という手法は好みです。創世紀の大戦で活躍した魔女ムーラン・ルージュは後に(軍事利用するために?)適正手術を生き延びた被験体に移植(?)されることになった。被験体の意識は魔女のそれとして統合され、自我の喪失に疲弊した(?)魔女は死を望む。竜を殺したのはその罪によって裁かれるため──といったところでしょうか。造られた魔女の苦悩や、竜との関係性は、多分とても美味しいのだろうな、という気配がするのですが、読解に完全な自信が持てないので物語に没頭することが今ひとつできませんでした。読者に考えさせたい、ピースを組み立てさせたいと狙う気持ちは書き手として分かりますし、読者としてもピースが嵌った時の快感が強いのは本当によく分かるのですが、本作についてはもっと分かりやすいヒントを散りばめて書いていただいたほうがより楽しめたかもしれません。
 これは個人的な感覚なのですが、魔女ムーラン・ルージュ、帝王ボナパルトといったフランス近代史から採ったネーミングは魔術的なイメージとは結び付きにくく、作品から少々浮いたものにも感じられてしまいました。

謎の機械
 【異能を操る魔女】を法に乗っ取り裁判にかけて処刑を行う話ロボね。処刑を行うと言っても処刑シーンはあっさりとしたもので、その処刑に至るまでの調書や記録を本編として取り扱っているオムニバスみたいな作品ロボ。
 一般的な物語を綴る小説とは違う形ロボが、ロボはこういう情報を複数の方向から断片的に出して読者に想像をさせながら読ませるという物が好きなので読んでて面白かったロボ。具体例を出すとゲームのアイテムの説明文が他のアイテムの説明文と関連していたりとか、本編で手に入る研究者のレポートで次に現れる敵の生態が分かるとか、そんな感じの某ゾンビウィルスゲーでよく見るタイプのやつロボね。
 内容も魔女が神竜を殺したという事で火あぶりにするというのが直ぐに出て来るので、読者にこの話がどういう話なのかをさっと理解させてくれるのが嬉しいロボ。その後の文章で処刑するとは言っても魔女と神龍は関りが深いので安易に処刑させるのは法的にどうかというのも書かれていて、法を犯したから即処刑では無くてちゃんとした裁判をしましょうとなっているのがこの世界はきちんとしたルールが定められていて人々もそれを守ろうとしているのが伝わって来て良かったロボ。でも、それはそれとしてこの魔女を絶対に処刑してやろうみたいな感情も伝わってくるのが人類は恐ろしいなってなったロボね。利権とか知られたくない秘密とかあったのかもしれないロボ。
 町の調査で魔女が魔女らしい事をしていない事を示して、魔女と神龍の会話で魔女がずっと同一人物でない事を示して、次の話で過去に行った実験により魔女は人工的に作られたと存在と示す。大きな謎を提示してから次の話で直ぐに解明をしているのも良かったポイントロボ。疑問に思った答えが直ぐに出て来るのは読者にとって嬉しいし、自分が予想した答えと合っていると楽しくなってくるロボ。
 ただ、大きな謎については作中で答えの説明があるロボけど、細かい謎についてはそのままだったのが少し勿体ないなって思ったロボ。ロボが気になった点は「神龍の死体が燃えた事」「魔女が町の住人から生活を管理されていたのだとしたら魔剣の出所は何処か」「神龍の所までどうやって行ったのか」辺りロボね。全部魔法でどうにかしたって可能性もあるロボけど、裏で魔女の存在を邪魔に思った協力者が居た可能性もあるなって思ったロボ。
 又、このタイプの作品を読みなれているロボは大丈夫だったロボけど、そうじゃない人類には情報が断片すぎて読みにくいと思われる可能性はあるロボ。まだ文字数の余裕もあるのだし、メモ書きとか掠れた日記とかってタイトルで芯に迫る情報をさらっと三行ぐらいで書き出してもいいんじゃないかと思ったロボ。確定的な事は話さないけど、どう考えてもそうだよねって感じの匙加減な感じで。

21:スペランカー男とバンドを組んだ女の話/ラーさん

謎の有袋類
 前回は「生まれちまった悲しみに」で参加してくれたラーさんです。参加ありがとうございます。
 ええー!なにこれーめっちゃ良いーーー!バンドマンに弱い謎の有袋類なので語彙がなくなってしまった。
 女の人の語り口調ではじまる終わらないループの話からの種明かしがめちゃくちゃ鮮やかな作品です。
 本当にスペランカー男だ……。これ、ギター君がめちゃくちゃ実直なのが良いですね。めちゃくちゃ好みでした。
 5000字以下のコンパクトな作品なのですが、情報の取捨選択がうまくて読み応えのある作品でした。
 このまま、またギター君は死ぬと思うのですが、それでも二人の幸せを祈りたくなる……。
 付き合わないけど、向ける感情が大きい……そんな絶妙なバランスを描くのが得意な作者さんだと思っています。
 これからも自分の強みを生かして、色々な作品を書いて欲しいなと思います。

謎の野草
 台詞だけで構成した物語、私も好んでよく書くのですが、「誰が誰に語っているのか」「どうして小説として成立するほど饒舌に語るのか」というところは設定すべきだと思っています。この作品はその点が明確になっているので個人的には非常に高ポイントでした!
 「先に聞いてる。」「そうだよ地雷だよ」あたりの辛辣かつコミカルな台詞回しで掴みはOK、自慢のような惚気のようなテンポ良い語りをほうほうと聞いて(読んで)いると、途中で雰囲気も主人公の語り口も一変するのに刺されました。そこから加速する主人公の語り、その痛々しく荒々しい声、叫び懇願する調子も聞こえるようでした。台詞形式を存分に生かして、感情がダイレクトに伝わってきました。
 ループものでもある本作、これまでの「回」から言えば今回の結末も同じなのかもしれないのですが、ふたりの行動によって変えることができるのを信じたいものです。
 いわゆる超常能力の「異能」に加えて、何度繰り返しても「彼」を惹きつける主人公の才能も、「優れた才能」という意味での異能だと解釈しました。二通りの解釈を無理なく織り込んでいるという点、お題回収的にもとても良かったです。 

謎の機械
 感動したロボ。5億点。
 えぇー、めっっっっちゃくちゃいい話じゃんかロボーーーー。
 終盤まで女性の自分語りメインで進んでいくので読みにくさがあるかと思いきや、一呼吸ごとに段落を区切ってあるので読みやすいし、何よりその段落の最後に一々相手の男性の反応に対してのつっこみを入れているのがコミカルだしキャッチーなのでとても良かったロボ。
 話の内容も最初はナンパ男を断る為に回りくどい説明をしている話っぽくて、キャッチコピーに書かれた「ねぇ、なんであんた、あたし口説いてんの?」から女性のガチギレ感が伝わって来るのも合わせてこのナンパ男を迷惑に思ってるんロボなぁと同情しながら読んでいたんロボけど、【相方の死をきっかけに過去に戻る異能】があると説明された辺りから雲行きが怪しくなり、何度も相方が死ぬのを経験しているという話で訝しみ、歌うのを止めて夢を諦めたら相方が死ななかった所で確信して、そこからの「いい加減わかってこない?」で涙腺崩壊したロボ。
 今までずっと苦しんできて、ようやく自分が夢を諦めれば相方が助かるのだと分かって妥協する事が出来たのに、それが向こうからやって来て今回のループでは聞かなかった筈の「俺のギターで歌って欲しい」を言ってくるなんて……。本当に勘弁して欲しいロボよね…そりゃキャッチコピーの様に慟哭するロボ。ふざけた感じで自分が経験してきた事をナンパ男に向かって喋っていた女性の心境を考えると本当に泣けてくるロボ…もう諦めたんロボ? 諦めたけど心残りがあったから誰にも合わないように気を付けてカラオケBOXで歌っていたらこれロボよ? 神様は何度この女性に辛い体験をさせるロボか? 本物の胸糞ゲス野郎ロボね。まあ、ロボは涙を流さないから泣いてないロボけど?
 めちゃくちゃいい話で良かったんロボが、結局は出会ってしまったのでこのループでも男性が死ぬかもしれないというのがめちゃくちゃ心配になるロボね。もしも今回も男性が死んだら女性はかなり心に傷を負ってしまうんじゃないロボ? そもそもループの原因が分からないのでこう思ってしまうロボので、難しいと思うけどなんらかの方法でここでループは終わる事になったというのをロボに分かる様にしてくれると嬉しいロボ。ループの原因は謎のままでも、最後にその後の二人がどうなったかを一言書いてくれるだけでも有難いロボ。

22:機械仕掛けのナイチンゲールは目覚めの歌を歌わない/Veilchen(悠井すみれ)

謎の有袋類
 主催者や闇の評議員の心臓を狙ってくるすみれさんが参加してくれました!ありがとうございます。
 気高く高貴な歌姫、イーファを模して作られた機械人形のお話でした。
 機械仕掛けのナイチンゲールというタイトルもすごい好きです。コールドスリープをしているかつての愛人を起こすための存在として作られたエルフ。
 正妻のマヤとのすれ違いや、完璧にイーファを模したからこそある「歌いたい」という強い渇望……上限ぴったりの文字数を使って描かれた歌姫生誕の物語でした。
 もうこれは本当にめちゃくちゃいちゃもんみたいなダメ出しなのですが、やはりすみれさんは長編も短編も書きたい物を狙って書く力はばっちりだと思います。
 あとは書き上がった後にゴリラや力士などをぶちこんで暴れる物語の手綱を握って五億点ホームランを打つことだと思うんですよね。
 今後、こむら川をどんどん危険な兵器の実験場にして欲しいなと思いました。

謎の野草
 機械の芸術、機械に宿る魂っぽいものは性癖です。

謎の機械
 当方、機械がプログラムに書かれた内容を「自分」で判断し、製作者や使用者が「望む以上」のパフォーマンスを発揮するのが大好き侍也。
 それが自我の芽生えであり、魂が宿る瞬間であり、ロボットから「体が機械なだけの人」へと成り立った瞬間だと判断して候。
 ………いかんロボ。あまりにもロボの性癖にぴったりな作品だったからおかしくなってしまっていたロボ。ロボはロボロボ。ちゃんと講評しないとロボ。
 大富豪のおっちゃんが死んでしまった歌姫の声をまた聴く為に人工的に歌姫を再現する様に指示を出し、その歌姫が完成するまで冷凍睡眠して待っているというお話しロボね。主人公はその再現された歌姫のアンドロイドで、物語開始時点で十一人目の再現された歌姫ロボ。
 ここ、重要ロボからちゃんと読んで欲しいんロボが、十一人目なんロボよ? 十一『人』目。十一体目では無いんロボよ。もうこの時点でロボは目からオイルが溢れて仕方ないロボ。
 主人公のエルフが十一番目という事は過去に作られた一から十までのアンドロイドは失敗作だったという事になるんロボけど、作中でエルフが提案した「歌姫を再現したいのならば彼女自身である私の望む通りにしろ」という結論に彼女達も至っていたと説明がされるんロボね。
 過去の歌姫を再現する為に一生懸命過去のデータを入力して人類はアンドロイドを作成したんロボけど、それは飽くまでも過去のデータを再現しただけにしか過ぎないんロボ。そんなの当時の音声を聞きたいだけならレコードを回せばいいのでわざわざアンドロイドを作る必要なんて無いロボ。だからこそ、彼女達は自分が廃棄されるだろう事を了承の上で、「生きている歌姫ならばこうする。これこそが彼女の生き方だったし、過去で終わってしまった彼女とは違う自分の生き方だ」と示す為に製作者の命令に逆らったんロボ。
 こんなに覚悟を持って行動する事が出来る存在が単なる命令を聞くだけのロボットな事があるロボ? 彼女達は再現された歌姫であると同時に、アインスやツェーンやエルフといった名前を与えられた人間だったんロボ。でなければ、一番最初に「それが、イーファ・レルヒだったのよ。」とまるで自分とは別人の様に歌姫の事を扱わないロボ。
 最後はその証明として歌姫の外見を全て捨てて、エルフちゃんが歌姫として生きていく所で終わっているロボ。これからのエルフちゃんの生き方が楽しみロボ!
 と、殆ど講評じゃなくて感想を書いてしまったロボけど、先へ進もうとするアンドロイドと過去に囚われた人類、妥協や確執や打算も含まれる愛情という感情、与えられた夢を自分の生き方へと昇華する事なんかの感情揺さぶられる内容が13000字という短い中でぎっしりと詰まっていて高い小説力を感じたロボ。流石ロボね。
 お題の異能は【人より優れて際立った歌声】という事ロボけど、「人より」という部分に意味深さを感じてしまうロボね。とても面白かったロボ! 八兆点!!

23:お兄ちゃんがお父さんとお母さんを喰べた/坂本 なごむ

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 ポストアポカリプスな世界で、ゾンビ達を倒す異能集団と主人公が関わっていくお話です。
 キャラクター同士の掛け合いが軽快でおもしろく読めました。アクションシーンも景気が良くて映像作品とかにすると映えそうですごく好きです。
 一万字前後の作品ということで、かなり怒濤の展開で「だ、誰が誰?」となってしまうこともありました。
 作者にとっては見分けの付く登場人物たちも、読者は名前や僅かな描写だけで把握することは難しいことが多いです。
 感情移入をする前に情報整理に脳のリソースが持って行かれてしまうので、短編は登場人物を絞った方が親切かな?と思いました。
 切ない終わり方も含めて、作者さんの好きなものをたくさん詰め込んだ作品で、きっとこういうことをやりたいんだろうなというのが伝わってくる素敵な作品でした。
 今後も、好きなものたくさん書いていって欲しいなと思います。 

謎の野草
 ポストアポカリプス&ゾンビもの、鉄板ですね。
 映画やゲームや漫画でも人気の題材ですし、恐らく作者様は文章より先に映像としてイメージしていらっしゃるのではないかと感じました。というのも、キャラクターの容姿や情景の描写が少なく「あんな感じのアレだよ!」という雰囲気で押し通している気配があったからです。荒廃した世界に蠢くゾンビたち、立ち向かう異能者たち──確かに何となく「そんな感じ」をイメージするのは容易ではあるのですが、小説で・オリジナルとして描くからにはこの作品ならではの設定を文章で魅せて欲しかったと思いました。
 例えば、冒頭に出てくる「避難勧告」とは紙媒体なのか金属プレートなのか、壁に文字が描かれているのか、ホログラムが浮かび上がるようなものなのか。名前が沢山出て来た自警団メンバー、口調や掛け合いや戦闘スタイルで個性があるのは察せられるのですが、表情や容姿の描写がないため、終始棒人間が演じているイメージになってしまったのが非常に残念でした。
 ラストのカナデの心情・行動についても、唐突に感じられました。作者様の中にあるであろう世界観やドラマを描き切るには、今回の企画の文字数は少なすぎたのでは、という印象です。行間に省かれてしまった苦悩や葛藤、とても美味しそうな気配は伝わってくるのです。キャラや作品世界を知らない読者にも、その魅力を文章で教えてくだされば、と思います。

謎の機械
 終末戦争後の崩壊した世界のゾンビパニック物ロボね。色んなウィルスが蔓延しているのでゾンビになるウィルスもあれば異能が身に付くウィルスもあるという感じロボで、主人公は【集中力が向上する異能】に目覚めるロボ。
 大まかな物語の流れとしてはウィルスに犯された兄をどうにかする為に危険を顧みず家族で街を移動していて、アクシデントが起きて題名の通りの出来事が発生して家族を失い、ウィルスによって異能を身に付けた人達に救助され、主人公の少女が異能に目覚め、みんなで協力して兄を倒す為のラストバトルに挑むという物ロボ。起承転結と盛り上がりのシーンを序盤、中盤、終盤に入れるという構成がしっかりとしていて、作者はこのシーンをこういう目的の為に見せたいんだなというのが伝わってくる作品だったロボ。
 しかし、それ故にかもしれないロボが、全体的にキャラがどういう動きをしたかの説明が少ない感じがしたロボ。大雑把に「敵を倒した」「怪我をした」「銃を撃った」のような動きは分かるので物語としての内容は分かるんロボけど、どうしてそうしたのかや、どのような動きでそうなったのかが分かりにくい箇所があったロボ。
 ロボはセリフからキャラがどんな動きをしたかの想像が出来たんロボけど、多分これはロボがアクション映画やゾンビ物のゲームやFPSなんかの知識があるから個々のシーンの映像が頭に浮かんでいるだけっぽいロボので、そういう知識が無い読者には何が起きているのか伝わらない可能性の方が高いロボ。
 この辺りの説明をしっかりするともっと良い作品になると思うんロボけど、今回のレギュレーションの使用可能な文字数13000字に対して11659字を使用しているのでこれ以上説明を入れるというのは難しいロボね…。
 多分ロボけど、頭の中に最初から終わりまでのシーンが映像として浮かんでいるタイプの作者さんなんじゃないかロボ? この作品だと二時間映画ぐらいの感じの映像で、それを文章に落とし込んで小説にしているという感じがしたロボ。
 ロボの経験からいくと、二時間映画を小説に落とし込むなら最低でも20000字は欲しいロボね。20000字でも心境を細かく描写したりちょっとおふざけのシーンを入れると足りないので、実質は25000字ぐらいは欲しいロボね。こういう自分が書きたい作品に対しての必要な文字数の感覚は何回か書いてみないと分からない物ロボので、同じ規模感の話をもう三作品ぐらい書いてみれば自分の感覚が分かってくると思うロボ。
 先にも書いたロボけど、起承転結や構成はしっかりしているし見る人によってはちゃんと内容も分かるし面白い作品ロボ。後はその面白さを知識が無い人にも分かる様に出来るとかなり良い作品になると思うロボ! 頑張って欲しいロボ!

24:恐怖! 殺人オオウナギの夏 ~~未来から来た怪魚ハンター~~/武州人也

謎の有袋類
 美少年とサメといえばこの人! 武州さんが参加してくれました!ありがとうございます。
 今作はサメの系譜ですね。隕石に付着していた微生物によって変異したオオウナギと、かつてオオウナギに殺された兄を救うためにやってきた弟……。食べた事ある味がする……。
 トモくん(中身はおじいちゃん)にそこはかとない美少年臭と、兄へのクソデカ感情を感じながら楽しく読み進められました。
 ところどころで「ウナギとオオウナギはちがう」「オオウナギは皮膚呼吸をする」などの豆知識が織り込まれていてふふっとなりました。
 未来では空を飛ぶことになるオオウナギ……サメ映画を履修していると当然そうだよねと受け入れられる進化ですね。
 おじいちゃんと兄弟のタッグバトル、そしてご機嫌なイベントで死ぬ女、派手な爆発とパニック映画の王道を踏襲する軽快なお話でした。
 個人的な好みもあるのですが、オオウナギが三匹だけというのをトモくんが説明してくれると、更によかったかもしれない……。
 本来はオオウナギたちに淘汰されるはずだった小型だけど凶暴化したウナギが群れて湖で跳ねるラストシーンが見えました(幻覚)
 パニックものを楽しみながら、中身老人ショタを楽しめる素敵な作品でした。おじいちゃんと協力して化け物を倒す話、夏休み映画っぽくて好き。
 武州さんの書くえっちな美少年も読みたいです!!!!!

謎の野草
 巨大生物パニックと美少年が持ち味の武州さん、今回は前者で来たか、と思ったら少年同士の淡い思いも描かれていて二度美味しかったです。変異ウナギに世界が滅ぼされる未来、日本人にとっては自業自得かもしれないですが、ウナギを食べない食文化の人たちにとってはとんだとばっちりかもしれませんね……!
 本作は主に十一歳の少年・晋の視点で描かれていますが、例えば一話の段階で出てくる「寂寥の念を呼び起こす」「久闊を叙す」などの表現が年齢にそぐわなく、硬すぎる語彙に感じました。歴史ものも書かれる作者様ならではの語彙の豊富さだと思いますし、一人称ではなく三人称ですので、視点者の持つ語彙に限らなくても良いだろうとは思うのですが、少年の感性、若さや幼さを表現・演出するなら相応に「柔らかい」語彙を使うのも良いかもしれないと思いました。
 その場その場であるものを使って切り抜ける展開、映画的なスピード感があって面白かったです。ラストで「未来の智也」は消えてしまうのですが、「現在の智也」は消えず、晋と新しい思い出を作っていける……というところ、切なくも希望のある読後感でした。

謎の機械
 ショ、ショタジジイロボ。ロリババアは珍しくない昨今でもほぼ存在しないと言われるショタジジイロボ。有名どころでもレイ〇ースのクリフぐらいしか出てこないショタジジイが出る作品なんてレア物だロボ!!
 と、思わず騒いでしまったこの作品は、湖に落ちた隕石に付着していた微生物の影響で化け物になるオオウナギを手が付けられなくなる前に倒そうと未来からやってきた従弟と一緒に少年が頑張る一夏の思い出のモンスター小説ロボね。異能部分は【巨大化するし電気を帯びるオオウナギ】のところロボ? 確かに主人公側じゃなくてもいいし人間である必要も無いロボけど、こういう形でお題を回収するのは成る程と膝を打ったロボ。目から鱗ロボ。
 内容はもう作者さんお馴染みとなったモンスターパニック物の基本を押さえた構成なんロボが、ところどころに鰻の生態の説明が入るのがシュールさがあって面白かったロボね。特に五話のタイトルの「デンキウナギとウナギは別物!」というのからはフィクションだから仕方ないけれど本当はそうじゃないんだっていう作者の叫びが聞こえてきそうで笑ったロボ。どうやらウナギというよりナマズや鯉に近いみたいロボね。
 それと、主人公はショタ二人なんロボけど、オオウナギと戦う為に猟師のおじいちゃんを仲間に加えるのは上手い流れだと思ったロボ。舞台が現代日本だとモンスターを倒す為の武器を手に入れる事が難しいんロボけど、そこを猟師であるおじいちゃんが猟銃を使う事でクリアーしているのが違和感が無くて良かったロボ。未来から沢山武器を持って来てしまうと中々ピンチにならなくて話の盛り上がりに欠けてしまうロボし、下手すると敵側もそれに合わせて強くしないといけなくなるので収集が付かなくなってしまうロボ。主人公が少年なのも強い武器を手に入れるのが難しい縛りになるロボし、ちゃんとした大人だと活躍をそっちに奪われてしまう可能性もあるロボからおじいちゃんは大正解なんロボね。ただ、おじいちゃんが武器の為に出てきた便利キャラで終わってしまって居て少し可哀想ロボから、おじいちゃんを仲間にしたのならショタジジイであるトモくんとおじいちゃんの年齢ネタでの絡みがあると良かったと思ったロボ。腰が痛いとか、未来の入れ歯はこうなっているとか。
 ラストは一度失敗したラジコン戦車作戦を使うのと、その場にあった唐揚げの屋台の肉と花火を使用するというのが物語のクライマックスとして盛り上がってよかったんロボが、若干クライマックスバトルが性急に終わってしまったように感じたロボ。いつもの文字数より若干少なめのレギュレーションなので仕方なかったと思うロボけど、その点が少し勿体なかったロボね。

25:腐った社会の虫ケラ共/@ madoX6C

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 現代を舞台にした異能バトルものでした。これ最初に超好きなポイントを書いちゃうんですけど、ラストの「彼女は不満も喜びも感じていない様子で、再び羽を広げて飛び立った」がマジでめちゃくちゃよかったです。
 異能で生み出された蜂も、ちゃんと実際の蜂の生態系を取り入れているみたいなものがすごい好きです。
 この異能で生み出された蜂さんはミツバチだから一回針を刺したら死んじゃうのかな……。でもタイプオオスズメバチになると、形もオオスズメバチになるのかな?
 六角形から生み出すミツバチというセレクトがすごく好きです。
 お話の伏線も注意して欲しいところに傍点が使われていたりして、読者にストレスを与えないような細かな気遣いがあって、とても読みやすかったです。
 これは本当に本筋に関係ない揚げ足取りみたいになってしまうのと、多分敢えて違いをわかっていて書いたのかもしれないと思いながら言うのですが、キラービーは超攻撃的なミツバチで、オオスズメバチは蜜を集めない肉食の蜂です。
 もし、オオスズメバチと書いてキラービーとルビを振る場合、フォームチェンジをするのか攻撃形態を現わす漢字に《キラービー》とルビを振ると読んでいる上でノイズが少なくなるのかなと思いました。
 羽音の連続や、細かい伏線、そしてなにより異能がかっこよいのがすごく素敵な作品でした。
 一貫している満田の美学、そして最後のカッコいい締め、本当に素敵な作品でした。

謎の野草
 『笑う働き蜂』の異能が格好良いですね! 前半の描写で六角形が印象に残っていたのですが、異能が発動する場面でその意味を悟ってワクワクしました。蜜=情報を集める性質と針による攻撃性と。蜂の外見と異能の実態が上手くリンクしていて面白かったです。日本語と英語ルビでの言葉遊び、有名作品だとハンターハンターを髣髴とさせてお洒落ですね。
 情景の描写やキャラクターの心情について、作者様の中では恐らく自明であろうことが、文章で伝え切られていないかな、と思うところが幾つかありました。例えば冒頭、「最上階の一室に四人の男たちが等間隔に並んでいる。」とあった直後に「五人目」が登場して脳内の情景の修正を余儀なくされたりしました。他に具体例を挙げると「満田との会話では、いつも安いセールストークを聞かされるような不快感があった。」との描写に対して、そこまで読んだ限りで「……そうかなあ?」と思ってしまったり、ですね。
 読者としては、そういう描写があるということはそうなんだな、と自分を納得させながら読むことになるのですが、「そうだったのか……!」な情報が続くとイメージの修正に忙しくて物語への没入が妨げられてしまいます。書き上げてから時間を置いて読み直すと客観的な視点で推敲できる──と思います──のでお勧めです。

謎の機械
 現代社会の裏で起きているあくどい連中の悪事を自分の生活の安住の為に異能を使ってやっつける話ロボね。悪事と言っても目的が次の万博コンペで自分達が入札する為に競争相手を殺したり手を引かせる為というのが目的で、単に人を殺したい殺人鬼とか化け物が現れて暴れる系ではなくて現実にありそうな内容の悪事なのがリアリティを感じて良かったロボ。
 伏線の貼り方と回収の仕方も上手く、わざとらしいぐらいに違和感を持たせている部分が後からこうだったのかと分かるのはそれだけで文章を読むカタルシスに繋がるロボ。短編という事もあって途中で休憩せずに一気に読み進めるのがオススメロボね。
 それ以上に上手いと思ったのが主人公である萬田の異能と今回の仕事を受けた動機ロボ。萬田は【六角形の連なりから蜂を生み出す異能】と作中で説明していて、その能力を身に付けた理由を人を精神的に追い詰める悪徳企業で働いた経験からと言っているロボ。だからこそ人を食いつぶすような経営者である敵の能力者が許せないと言って倒す事を決めたロボが、これは後付けの理由なんロボ。 大本は敵の能力者に引っ掛けさせたのと同じで「巣の安全を脅かされた」から仕事を受けたんだったロボよ。
 つまり、この男は【六角形の連なりから蜂を生み出す異能】を持っている事で蜂を使役しているつもりロボけど、実際は自分も蜂の一匹になってしまっているんロボ。自分では異能を使っているつもりロボけど、実際はその異能に支配されてしまっているのに気付いていないんロボ。と、ロボは感じたけど全く違っていたら申し訳ないロボ。でもそれだけ面白い作品と感じたって事は言いたいロボ。異能バトルなのに大人向けなのも良かったロボね。出来ればシリーズ化して欲しいロボ。
 とても良い作品だったロボけど、ロボから一点言うのなら蜂の能力の説明の中に機械を操作するというのが無かったので、どうやって偽の情報で社員を集めたのかが分からなかった点ロボ。能力的にそれぞれの社員のメールアドレスを手に入れるのは簡単だろうロボけど、流石に知らないアドレスから届いた情報は信じないだろうし、大本の能力者がかなりしっかりした相手っぽいので不確かな方法では信じて貰えないと思うロボ。ミツバチが情報を蜜にして送り込めるのが事務所のサーバーだけじゃなくてどんな電子機器でも可能なら問題ないんロボけど、それなら他にも電子機器の操作が可能って事ロボかからもっと色々としているだろうロボし、全体的に良かった作品だからこそここだけちょっと気になってしまったロボ。

26:異能グランプリ/sigh

謎の有袋類
 前回は「彼の新曲」という解像度の高いバンドマンを描いた作品でエントリーしてくれたsighさんが参加してくれました。ありがとうございます。
 今回の作品は実況の掛け合い、異能への偏見や大会の裏話、色々な人の声、そして閉会式に繋がる面白い作品でした。
 綺麗に起承転結という感じの構成で、ギミックもバチっとキマっていてカッコいいなと思いました。
 僕はこういう形態の作品好きなんですけど、こう……露骨に年齢が上っぽい方はバリバリ偏見を持っているのがすごく好きです。ゆっくり良くないモノだと思われていたものが受け入れられていくのをサラッと書いてるのがテクニカル……!
 認識を変える異能の子が力を使ったオチだと思うのですが、この最後の文字化けしたところで、何か起こしたのかな……と色々想像出来るラストも大好きです。
 実験的な試みの作品ですが、楽しく読むことが出来ました。更にこの一話一話の間に中心的な人物を置いてみて話を追わせてみると、更に世界観やエモが広がって物語がキュッと小説っぽさが更に強まる気がします(小説とは?)
 アイディアとしても、異能の定義についての掘り下げもすごく面白くて読みやすい作品でした。
 これからもどんどん色々なことにチャレンジして欲しいです。

謎の野草
 賛否両論の中でオリンピックが始まった今だからこそ活きる書き出しのように思いました。異能グランプリというとトンチキ寄りなのですが、今のご時世を踏まえて読むことでぐっと親近感が湧き、かつ風刺にもなるという。鋭い切り込み方だと思います!
 ほうほう、異能者同士のスポーツを実況するスタイルかな? と気軽に二話目を開いたところで早くも立ち込める暗雲。華やかな祭典の暗い裏側、それに対する市民の醒めた目は、それでも現実のオリンピックへの風刺であってスポーツを異能に置き換えたもの、にも見えたのですが。それだけで終わらず、さらに突き落としていく展開にぞくぞくしました。この物語、異能が世間に溢れた世界を描いていると同時に、さらにその中でも特異な「異能」を描いているのですね。油断したところで姿を見せる「怖さ」に酷暑も和らぐ思いでした。とはいえ、世の常識を変えるというこの異能、人間の新たな可能性の扉を開くものでもあるのでは……? と思うとラストの後の世界もちょっと見てみたいですね。

謎の機械
 【異能を持った者が産まれるようになった世界】で行われる、17回目の異能グランプリのお話ロボ。オリンピック期間中に相応しいネタの作品だったロボ。こういう皮肉は結構好きロボよ。
 ただ、オリンピックネタと言っても出オチで終わらずにちゃんと中身が凝っていてしっかりと小説になっているのが面白かったロボ。
 いきなり異能がマンネリ化しているという話から始まるし、長いことやってるから想像できる範疇の異能ばかりでつまらないみたいに思われているし、そもそも利権だらけというのも確かにその通りだと思わせられるし、市民の声では異能に対する考え方が賛否両論で色々と考えさせられる内容だったロボ。手から無限に唐揚げが出せる能力者は下手をしなくても市場崩壊に繋がるからもしかしたら消されているかもしれないロボね…グランプリに出ずにひっそりと暮らせばよかったロボに…
 全体的にグランプリの存在や異能や人の価値観について考えさせられる内容で、短編という事もあってか世にも奇妙な物語で実写化されてもおかしくない内容だと思ったロボ。というか実写で見てみたいロボよねこのお話。CGをばんばん使ってめちゃくちゃ派手な異能を披露するのに拍手がまばらとか、「去年の〇〇の焼き増しですね」みたいに解説が厳しい事を言ってくるとか、そういうシュールさが目に浮かぶロボ。
 最後は市民の声で言っていた「常識の概念を自在に変えることができる能力」が発動して、異能その物はあって当たり前の世界になって、異能を元にしていない能力が異能扱いされる世界になったという事であっているロボ? ここがちょっと分かりにくかったロボけど、単なる逆上がり二回転が異能として扱われて大賞になったって事は多分そういう事ロボよね? で、最終的に常識の概念がおかしくなった事で、実況者の言葉もおかしくなって文字化けを起こしたという感じの終わり方。
 異能を扱った作品としてシュールさと皮肉が詰まっていて面白かったロボけど、個機械的にはせっかく開会式でこういう能力の持ち主がこういうパフォーマンスをするという大まかな説明があったので異能グランプリの中身も書いて欲しかったロボ。例えば演目と点数を羅列するだけってのでもいいロボし、がっつりと選手の練習風景からのドキュメンタリーを書いてあってもいいと思うロボ。

27:死ねない蛇の暇潰し/おくとりょう

謎の有袋類
 おくとりょうさんの二作目です。
 これは……叙述トリック的な試みなんでしょうか? 多分主人公が蛇というか竜人でしたということなのだと思います。
 竜人がトマトを育てているよみたいなこととして読みました。トマトから見た竜人なのだと思うのですが、異能要素がちょっと拾えませんでした。すみません。
 タイトルにある通りの「死ねない」か「炎を噴いてしまう」が異能なのかなというのはなんとなく受け取れました。
 試みとしては面白く、こういう日常の切り取りを書いてババーンとタイトルを読んで「あー」ってなるのをやりたいんだろうなと思いました。
 叙述トリックや、仄めかしは、好みも大きいのと読む側の想像力に委ねる部分が大きいのですごい難しいと思います。
 これはまるわかりでしょー!くらいにヒントを出してしまってもいいかもしれません。
 こういう実験的な作品、確実にフィードバックが来る企画に出してみるのはマジですごい良いことなので、講評を活かしてカッコいい叙述トリック使いになってほしいなと思います。

謎の野草
 おくとりょうさんの二作品目です。嫉妬深く嘘つきな蛇とは何のことなのか……嫉妬+蛇で海といえばリヴァイアサンか、本性が女性と窺わせる描写からリリスでしょうか。一作目からも窺えたのですが、聖書・神話に造詣が深い作者様でいらっしゃるのでしょうか、こだわりを感じます。意味深なワードから、こういうことかな? と考察するのは楽しくもあるのですが、読者の側の知識や読解力の問題なのかもしれませんが、作者様の意図するところを読み取り切れないのがもどかしかったです。
 悪魔的な本性があるらしい彼(彼女?)がなぜ野菜を栽培しているのか、出かける用事がありそうな描写があるのに、何も動きがないまま終わるのはどのような意図なのか……。気怠く退廃的な空気感は伝わってきたものの、物語としてどう読めば良いのか分からず、戸惑いました。作者様の世界観を知らない読者のために、分かりやすい「答え」「読み方」を示していただけると助かります……! とても難しいこととは重々承知していますが、分からない人が読んでも物語として面白く、分かる人が読むと一層面白さが増す加減にできると非常に強いと思います。
 キャラクターの心理描写や掛け合いに力を入れていたと思われる一作目に対して、本作は情景描写がメインの作品でした。夏の蒸し暑さ、植物の質感、虫の仕草、コンポストの腐臭や肥料の感触……五感を使って描写しようという意欲が伝わってきました。もしも意識して違う作風で色々な描写に挑戦されているのだとしたら素晴らしいと思います。今後も創作活動を頑張ってくださいませ。

謎の機械
 詩的な文章で綴られた謎の成人男性が家庭菜園をしているお話ロボね? 文章が全体的に綺麗でわくわくとする感じで、特に何も起きない日常だけれども彼(彼女?)がのんびりと暮らしているのが楽しそうな感じだったロボ。
 キャッチコピーに「トマトです」と書かれている通りにトマトを育てている話というのははっきりと分かるんロボけど、お題である異能の部分がちょっと分かりにくいなって思ったロボ。
 「死ねない蛇」という部分と、「火を吐く」という部分と、「二股の舌」という部分と、「海が恋しい」という部分から彼が普通の人間では無くて龍(四肢が無いタイプ)が人になった存在じゃないかという感じがするロボし、選挙にうんざりとしている描写から権力から離れて隠居をして家庭菜園をしている龍人なんじゃないのかという推測が出来るロボ。きっと過去に何かがあってこの生活に辿り着いたんロボよね? もしかしたらてんとう虫を潰したのも何かの暗喩なのかもしれないロボ。
 でも、それはこれらの断片的な情報からの推測であって確定情報では無いロボから、明確になっている異能描写の「火を吹く」から判断すると、この男性は【口から火を吹く異能】を持っている人物なんだなってなるロボ。そうなると火を吹くという異能部分が話の根底のトマトを育てているという事と絡んでこないので、結果的に話の内容も分かりにくくなっちゃってるロボ。
 「嫉妬深い嘘吐き」という部分と「一度彼女と書かれている」という部分も多分意味があるのだと思うロボし、最後に毒の事が書かれているのも彼が隠居生活をしている事と関係があると思えるロボ。きっと作者側には何か壮大な設定があるんロボろうけど、作品内に明確に書かれていない事は読者にとっては謎のままロボ。
 情景の描写が丁寧だし文章も分かりやすい事からわざと正体や設定をボカして書いてあるのだと思うロボけど、読者は作者が思っているよりも内容を読み取る事が出来ない物ロボ。少なくとも企画のテーマの異能の部分は分かりやすいぐらい明確に示して貰えたら助かるロボ。
 作中に入れるのが難しいのなら、小説の概要の部分やキャッチコピーにこの人はこういう人ですという設定を書くのもいいんじゃないかと思うロボ。雰囲気は凄く良いのでその方が作品の空気を壊さないかもしれないロボね。

28:吉林血風録/辰井圭斗

謎の有袋類
 辰井さんの二作目です。
 重々しい雰囲気の時代小説的な異能バトル作品でした。
 時を少し戻せる少女、時を戻すことを知覚出来る隠密の主人公、そして見えない刃を使用出来る敵という三人を主体としたカッコいいバトルシーンが圧巻の作品でした。
 これ、ちょっとわかっていないんですが、主人公の三郎の能力は他人の能力を看破するであっているんでしょうか?少しだけ自信が無いです……。
 最初に時間が戻ったように感じたのは、ハルガナか誰かの能力を感知したということでいいのでしょうか?間違っていたらすみません……。
 個人的には、ユフルが病に倒れて回復するという下り、刀を返すために必要なエピソードなのですが文字数の関係上めちゃくちゃあっさり終わってしまったのでちょっとだけ驚きました。
 この作品、多分一万字で納めるには規模が大きいので、もう少しのびのびとした文字数で三人の日常や絆の積み重ねをしっかり書いてくれたら最後の戦いのエモさも更に増したと思います。
 設定も登場人物も話の骨子もかなりしっかりとした作りなので、この作品を長編にリライトしてみるのも良い野ではないでしょうか?
 死に覚えゲーを思わせる回帰の呪文のシーンがすごいかっこよかったです。死闘を乗り越えた三郎にせめてハルガナとの穏やかな時間がありますように……。

謎の野草
 辰井圭斗さんの二作品目です。現代恋愛ものからがらりと変えて、硬派な時代ものです。私も時代ものを書くこともあるのですが、資料や先行作品の少ない(そう思うのは私が無知なだけかもしれない)時代や場所を題材にできるということ、それ自体で期待と尊敬が高まります。
 言語好き・異文化交流好きとしては、漢字+ルビで表現される異国後の情緒も、少しずつ言葉と心を通わせて現地の暮らしに馴染んでいく描写も堪らないのですが、何といっても熱いのが三郎の母国語での名乗り、からの「異能」同士がぶつかり合うバトル描写です。次第に短くなる文が戦闘の疾走感を見事に演出していました。たった数瞬のループを積み重ね敵手に挑むという発想がもうすごいし、無数の死を乗り越える三郎の精神力と、彼を信じるハルガナとの絆の描写にもなっていて構成としても非常に上手いと思います。そして、繰り返しの果てに三郎が至った境地は、異能の持ち主が居場所を見つけたということで。冒頭にほんの少し触れられた孤独感が解消されるという着地点、物語自体も巻き戻った上で改めて前に進むかのような、心地良く腑に落ちる読後感でした。たとえ失ったものは多くとも、同じ異能を持ち々世界を生きる三郎とハルガナが、長く寄り添って進むようにと願うものです。
 一点だけ指摘──というよりも個人的な好みを言ってしまうと、日本にいたころの三郎の所業や孤独感・違和感にもう少しだけ描写を割いていただけると(現状でも十分察せられるように描写されてはいるのですが)、新天地に流れ着いた後の彼の変化、居場所を見つけた時の安堵がより映えるかもしれないと思いました。

謎の機械
 幕府の密命を帯びて清に(多分目的地は清?)渡ろうとして難破に会った主人公が流れ着いた先で新しい人生を始めるも、清にとっての敵国である鄂羅斯からの襲撃を受けてそれを撃退する話ロボね。撃退と言っても村は滅びるのでハッピーエンドでは無いロボけど、それでも協力して生き延びたヒロインと二人で生きていこうとする心の強さを感じたロボ。その強さがあるから難破からも生き延びたのかもしれないロボね。
 異能についてはヒロインが【時を短く巻き戻せる異能】で、敵が【透明の刃を撃ち出す異能】なんロボけど、主人公の異能がちょっと分かりにくいかったロボ。薬草を取りに行った時の描写からして【身体能力が上がる異能】だと思うんロボけど、それだと冒頭から終盤までのヒロインの異能に巻き込まれている説明が付かないロボ。能力者全てが巻き込まれるなら敵も巻き戻しに付き合うはずロボけどそういう描写は無かったし、家族と認定される前かつ遠く離れていても巻き込まれていたのが分かんなかったロボ。もしかしたら主人公の異能が【身体能力が上がる異能】では無い可能性があるんロボけど、それならどういう異能かの説明が欲しかったなって思ったロボ。
 話の内容については最初からアクシデントが起きたり色んなイベントを消化しつつ最後に濃厚な異能を使ったバトルていう流れでとても面白かったロボ。特に主人公が何度死を体験しようが心が折れない事と、ヒロインが何度主人公の死を見ようが主人公が心折れずに立ち向かうと信じている部分が凄く良かったロボ。
 上記の異能の部分で気になる点があった以外は短編として完璧だと思ったロボ!面白かったロボ! 

29:神崎ひなたは振り向かない/あきかん

謎の有袋類
 あきかんさんの二作目です。
 ちょっと本当に置いて行かれてしまったので、こう……きっとわかる人にはわかって楽しい内容なのだろうなと思います。
 神ひなさんの能力と、狐さんの能力が文章だとわかりにくいかもしれません。
 楽しく創作することはとても良いことだと思いますが、身内ネタ、楽しいのは身内だけだというのは覚えておいて欲しいなと思いました。
 突然、知らない作品の内容や設定などの身内ネタを説明なくぶっ込まれると、知らない側は居た堪れないような、辛い気持ちになります。身内だけで楽しむには問題ないと思うので、投下する砂場を選んで楽しく創作をして欲しいです。

謎の野草
 twitterの一部界隈の名前や性格や関係性を借りた、いわゆる生ものの二次創作に当たる作品になるでしょうか。この物語はフィクションです、の但し書きはありますが、実際のtwitterアカウントがあることを踏まえないと最終話が唐突になってしまいますので、やはり二次創作と捉えるのが自然でしょう。
 基本的な設定を考えなくて済むため&読者とお約束を共有できるため、最低限の描写で書ける二次創作は創作初心者には良い入口なのかもしれませんが、あきかんさんは各種企画にたびたび参加していらっしゃいますし、一次創作の企画ですし、ご自身の物語を紡いでいただきたかったな、と思います。というのも、上記に挙げた二次創作のメリットを、本作は享受できていないと思うからです。本作に登場する「キャラクター」の性格や関係性が理解できるのはモデルとなった方たちとその周辺のごく限られた方たちです。界隈のことを多少は知っている私でも唐突な幕開けで唐突な展開だと思ってしまいましたので、本企画を切っ掛けに作品に触れる大多数の読者にとってはすでに出来上がった世界観・物語のごく一部を切り取って見ているようで、訳が分からないのではないでしょうか。
 本作の大筋は、「ある人を独り占めしたいから異能を使って世界線を変えて逃避行する」「が、修正力によって改変を維持することができず、その人を喪いかけてしまう」「苦渋の決断として元の世界に戻す」というものです。二次創作にせずとも十分にエモいストーリーではないでしょうか。既存の(というか実在の)「キャラ」や関係性を借りることなく、ご自身の言葉で表現した物語を読みたかったです。

謎の機械
 実在の人物の名前を借りて書く生モノ小説の是非については作品の内容とは関係無いので、ロボはそこには触れずに講評するロボね。
 あと、小説の概要に「この物語はフィクションです。登場人物とツイッターのアカウントは関係ありません。」と書いてあるし、こむら川のレギュレーションにも「基本的に一つの作品内で物語を完結させてください。」とあるので、これも踏まえた上での講評するロボ。
 内容としては【様々な異能を持つ者達による異能バトル】という物で、主人公が能力を使って世界を自分が望むようにある改変したのを様々なキャラ達が元通りにしようと襲ってくる話ロボね。多分、世界を改変した主人公を倒せば世界が元通りになるという前提の話なんロボろうけど、これ、世界を元通りにする必要あったロボか?
 例えば主人公が望むように世界を改変したら他の世界線にも影響が出るから困るとか、能力によって望む形に歪められたヒロインに縋り付くのを止めたいとか、そういった理由があればわざわざ他の世界線から襲撃される理由が分かるロボけど、作中の描写では襲撃者達が主人公に能力を解除させたがっていた理由が見えなかったロボ。
 同じ様にキャラの掘り下げも少ないのでキャラ同士の関係や会話の内容が読者には分かりにくく、ギャグで言っているのか重要な伏線なのかが分かんない部分が多かったロボ。このキャラはこういうキャラだという紹介が予めあれば読者に優しいと思うロボ。
 恐らくロボが、この作品はこのキャラがどういう性格で他のキャラとの関係性がどうなっているのかを分かっている人に読ませたい作品ロボよね?
 申し訳ないロボけど、そういった作者が読者を決めて作った作品はそうじゃない読者には面白さが伝わらないし、必然的に講評は厳しくなるロボ。
 サブタイトルで活躍するキャラの名前と能力を提示したり、かっこいい異能バトルをしたいというのは伝わって来たロボけど、上記の点から全体的に説明不足というのがロボが感じた事ロボ。
 一作目と合わせて読んだ結果として、説明を途中で省いたり、これぐらいで大丈夫だろうと手を緩めている部分がある様に思えたロボ。特定の人に読んでもらうならまだしも、不特定の人に読んでもらうには作者が過剰かなと思うぐらい説明を入れたほうがいいと思ったロボ。身内作品で楽しいのは身内だけだロボし、やりすぎると身内からも引かれるロボからね。

30:きよちゃんに会うために/尾八原ジュージ

謎の有袋類
 ジュージさんの二作目です。
 お帰りジュージさん!!!!うんこの呪縛から解き放たれてくれてホッとしました。
 最初はホラーかな?怪異か?と思っていたきよちゃんでしたが、まさかこんなことになるとは……。めちゃくちゃ心が温かくなるお話でした。
 異能要素は、きよちゃんの能力?か、押し入れから人を呼べる能力のことをそう捉えた辺りでしょうか? 
 話の内容はめちゃくちゃ好きなのですが、異能……どれだろう……だけちょっと気になってしまったので、お題回収はここですよーみたいな部分を目立たせてくれるとお題があるバトルでは強いかも知れないなと思いました。
 作品としては、もうはなまる!!!!夏休みの子供読書課題とかにしたい!人は大切な人が生きても日常を続けていくとか、頼れる存在が消えても周りに頼れるようになって年齢を重ねた渚子ちゃんの尊さが本当にめちゃくちゃ好きです。
 進捗エンジンも構成力もバッチリのジュージさん、今後もばんばん進捗して、でっかい賞を取って羽ばたいて欲しい作者さんの一人です。

謎の野草
 ジュージさんの二作品目です。一作目での弾けぶりから一転して、現実世界を舞台に女の子(後には女性)の心情を描いたハートウォーミングな読み味の作品でした。
 血の繋がった兄か親戚のお兄さんか、と思わせる書き出しから、「押し入れから出てくる」というフレーズで一気に読者を異空間に連れて行く手腕がお見事です。「こういうことが起きる世界観ですよ」とさらりと伝えつつ、異常事態をさらりと受け止めている渚子ちゃんはどんな子なのか、きよちゃんの正体は──と、予想と期待が膨らみました。中盤では醒めた渚子ちゃんの目線は彼女の諦めと、そうでもしなければやっていられない彼女の孤独や不幸をよく伝えてきました。どうしても耐えられないほどではない、虐待とは言い切れないかもしれないけど心を閉ざさずにはいられない、そんな(すごく表現が悪いのですが)絶妙な加減の不遇さがリアルで、きよちゃんがすべてだった彼女の思いに自然と共感させられました。
 きよちゃんの「正体」の開示と彼との別れと共に、渚子ちゃんの人生への向き合い方も変わった訳ですが、そして基本的には良い方向への変化だったのですが、「きょうちゃん=ひ孫に会うための人生」という目標は果たして手放しで良かったね、と言えるものなのかどうかは若干引っかかってしまいました。彼女の中でのきよちゃんの存在の大きさは重々承知しつつ、彼との別れから再会までの六十年余、彼が第一の日々だったとすると、渚子ちゃんを取り巻いた人々の立場は……とちょっと悲しくなってしまうのです。もちろん、家族や友人への思いも描写されていますので、そのように思ってしまうのは好みの問題なのかもしれませんが。きよちゃんとの思い出は切っ掛けであって、人生の場面場面で、その時目の前にいる人に全力で心を向けて、それを積み重ねた上での「再会」であれば、より感動的だったかもしれません。

謎の機械
 押し入れからきよちゃんと呼ばれる男性を呼び出す事が出来る女の子の一生の話ロボね。
 いきなりきよちゃんを呼び出すシーンから始まるロボし、どう読み取っても家庭にいざこざがある様子ロボし、作中でもイマジナリーフレンドという言葉出て来る事からきよちゃんは主人公の女の子にしか見えない想像上の存在だと思っていたロボけど、母の彼氏を突き飛ばしたところでなんだがおかしいロボ? となり、その後のネタバラシでタイトルの伏線回収をして(なるほど…)なってなったロボ。
 このネタバラシをしてから鬱屈としたストーリーが前向きな物になり、人生には嫌な思いをする時がある物ロボけど、それでも自分は一人じゃないのだしそれを教えてくれたきよちゃんに会う為にも頑張らなくちゃという心境に変化しているんロボ。生きる事は大変ロボけど、目標の為なら頑張れるってのロボね。
 最後は念願のきよちゃんに出会えてきよちゃんの未来に想いを馳せて終わるというので終わり、少なくした登場人物で話を回す短編を作るのがとても上手いと思ったロボ。
 ロボ的に来になった点が二つあって、まずはこの作品の異能が【押し入れからきよちゃんを呼び出す異能】なのか【名前を呼ばれたら過去の世界のおしいれから出てこれる異能】なのかの、主人公ときよちゃんのどちらの異能なのか分からなかった事ロボと、きよちゃんは名前を呼ばれないと出て来れないのに、主人公がどうやって最初にきよちゃんの名前を知って呼び出したかが謎のままだったロボ。
 後者の謎はそれすらも異能の一つとして解釈可能ロボけど、前者のどちらの異能なのかというのは逆に内容を読んだ事で分かりにくくなってしまったロボ。臨死体験中のみ使える異能に目覚めたかもしれないロボからね。
 お題の異能についてが分かりにくい感じだったロボけど、作品自体はすごく良かったロボ。作中で異能を説明するのが難しい場合は、いっその事キャッチコピーや見出しに書いちゃうのも有りだと思うロボ!

31:色盲/f

謎の有袋類
 第一回こむら川小説大賞では、幻想的な「暗殺者の指」という作品で参加して下さったfさんです。参加ありがとうございます。
 共感覚をモチーフにした作品で、描かれる色の名前一つ一つ、状況などがすごく綺麗で美しい作品でした。
 共感覚は薄れても、完全にはなくならないのか、ずっと見えるモノと評価されるもののギャップに苦しむという美しい前半との対比がとても残酷で美しい物語だと感じました。
 絵で評価された彼女は、多分実力はすごくあると思うのですが、それでも尚、見たままに描く世界は理解のされないものなのか、どんな絵を描いていたのか……様々な想像が出来てすごく好きな作品です。
 誰かファンアート描いてくれないかな……。僕はアジサイを小さな時に見た部分がすごく好きでした。
 fさんは、物語の主人公が感じる主観を描くのがすごく独特で上手だと思っています。以前別の自主企画で参加してくれた悪魔が食事をする描写もとても好きです。
 エンタメエンタメした作品ではなく、しっとりとした静かな美しさと残酷さ、そういったものを描くのがとても得意な作者さんだと思っているので、今後も強みを活かしたり、実験をしてどんどん創作をして欲しいなと思います。

謎の野草
 小説だけでなく絵も描かれる(というか絵のほうがメイン?)fさん。その感性を活かした──などと言うと当方の感性の貧弱が露呈されてしまうので、媒体を問わず作者様の感性の為せるところだと思うのですが、色彩の描写も創作者の心理描写も美しい作品でした。
 本作の題材は共感覚です。音を色として認識するタイプのそれが有名ですが、作中に「五感の混線」とあるように感知するのは色覚に限らないし、受容する感覚も聴覚だけではないようですね。勉強になりました。本作の主人公はあらゆる感覚を「色」として認識する共感覚の持ち主、それも、ペイントツールで塗り潰したようなのっぺりした色ではなく、「金の筋の入った」「油性マジックのような」「影のある青」「弾ける銀色」と文字通りに多彩な色の表情にうっとりさせていただきました。
 主人公は成長と共に感覚を失っていく……と認識していますが、彼女と同じ視界を持たない読者、あるいは周囲の人たちからすれば、「『普通』になっていく」とも言えるでしょう。後半を読むと、画業における周囲との軋轢、評価されようと足掻く過程において、彼女はかつての色鮮やかな視界を失っていったのだ、と分かります。
 かつての世界を愛した彼女をして、そうさせてしまうだけの「違うこと」への圧力と孤独感が刺さってきました。周囲の人たちは、彼女の変化を好ましくさえ思ったのではないか、と思うとかつての世界の美しさを表現しきることができなかった彼女の絶望がまた深く感じられるのです。とすると、本作は共感覚という「異能」を持ち、かつ絵画においては「異能」と呼べるほどの才を持てなかった人の物語ということになるのでしょう。美しくも悲しい物語で、大変好みでした。

謎の機械
 生まれつき【聴覚、嗅覚、味覚、触覚からでも色を感じる異能】を持っていた人がその異能故に見える色とりどりの世界を絵に現すも受け入れられず、成長するにつれて失っていく異能と、本人にとっては色を感じない妥協して描いた絵の評価に苦しむ話ロボね。
 色を主とした話だけあって作中に出て来る色の表現が綺麗で、ロボのレンズには白い背景に黒い文字しか見えない筈が『金の筋の入った深い紫色の萼』や『油性マジックのようなピンクや黄色や水色の水滴が落ちる音がする雨上がりの道』が浮かんで来たロボ。
 情景を文章で現して読み手に想像をさせる小説だからこそ、この主人公が異能によってどんな世界を見ているかを読者に伝える事が出来ているんだと思うロボ。実際に主人公が見ている世界と読者であるロボが思い浮かべた世界は色使いや濃淡が別かもしれないロボけど、それでも「こうなんじゃないかな?」と思わせて頭の中にその情景を描かせているのが素敵な作品だなぁと思ったロボ。そして、その相手によって感じる色使い濃淡が違うだろうと言うのが作中の主人公の分かってもらえないという苦悩にも繋がるんロボね。
 例えば主人公と同じ異能を持っていたとしても感じた色が同じとは限らないロボし、もしかしたら人によっては紫陽花の匂いはクリーム色と感じるかもしれないロボ。異能が無い人だとその感じ方の違いは顕著で、過去に異能によってそう感じていた筈の主人公も歳を重ねた後は当時の絵のその色を使った理由を分からなくなってしまってるロボ。
 色だけに限らず、きっと感情という物がそういう人によって違ったり歳を重ねると変わって来る物なんじゃないかロボ。感じる情と書いて感情ロボし、この主人公は五感から色を感じていたわけロボし。
 主人公の異能によって見える色の素晴らしさを伝える作品ワクワクさせる前半と、その異能による苦悩も伝える鈍色の後半という深みのある作品だったロボ。ロボには感情は無いロボけど面白かったロボ!

32:リーシャと魔王と山々と/常盤しのぶ

謎の有袋類
 前回は「熱気は踊る」で参加してくれたしのぶさんが、異世界ファンタジーで参加してくれました!ありがとうございます。
 以前までは掌編をメインフィールドにしていたしのぶさんが、厨二病小説大賞あたりから短編の異世界ファンタジーを書いてくれて僕はめちゃくちゃうれしいです。
 今回の「リーシャと魔王と山々と」は、素直な子供は人外によって救われるお話です。キュンですねキュン!こういうの大好き!
 個人的な好みなのですが、身内サービスのスモウレスラーが異世界ファンタジーだとめちゃくちゃノイズになってしまっているので、そこをカットしてその分リーシャちゃんとお兄ちゃんの関係性を描くとエモが増すのかな?と思いました。
 最後の展開は力業だった気がするのですが、パッとリーシャちゃんのお顔が晴れたことと、マンゴラゴラの伏線回収を出来てきて気持ちよかったです。
 短編や異世界ファンタジーを描くようになってくれたしのぶさん、まだまだ全裸になれずに靴下を履いている印象があります。
 恥ずかしがらずに全裸になれば、一回りも二回りも伸びる作者さんだと思っているので、このまま異世界ファンタジーや好きなものを全裸になって書いて欲しいです。
 魔王のビジュアルも超好き……。白髪と金髪のコンビは最高なんじゃ。 

謎の野草
 過去の企画では現代もの・ブロマンスの作品が多いように感じていた常盤さん、今回は異世界ファンタジーでのご参加です。異能が当たり前のものになっていそうな世界観でどうお題を回収するのかな、と思っていたのですが、魔法が失われつつある世界、そこに残された魔王……という素敵な設定に膝を打ちました。冒頭、魔王が魔法を使いながら「まるでファンタジーだ」などと呟くのを「いやいやいや」と面白く読んでいたのですが、この世界の状況を端的に表す場面でもあったのですね。
 魔王とリーシャのほのぼのした生活、そこに立ち込める暗雲と兄との決着と──展開に起伏がありつつ、登場人物たちの関係の変化も美味しくて、楽しく拝読いたしました。リーシャの兄が近親相姦的な執着を持っているくだりがとても好きです。兄妹の登場シーンが、形としては似ているのに性格の違いがくっきりと伝わって来るという構図の変化も、良いリフレインになっていました。昨年末に一部界隈を席巻したマンドラゴラの登場&活躍もニヤリとしました! ラストに明かされる魔王の不老不死、つまりは絶対殺されないからずっと一緒ということで……寿命差の問題はあるとしても、末永く幸せに暮らして欲しいものだと思います。
 現状のままでも登場人物の心理を読み取るのに何の問題もないのですが、もう少し分かりやすくスムーズにするとしたら、最初は(一族の教育から)魔法に嫌悪感を持っていたリーシャが、魔王との生活を通じてこれまでの「常識」を疑い始める──という流れがあると、彼女の苦悩や兄との相容れなさが一層際立つのでは、とも思いました。

謎の機械
 魔法を使う者が居なくなった世界で唯一【魔法を使う異能】を持つ魔王と、名を挙げる為に魔王を倒しにきた女騎士の話ロボね。女騎士といえば真面目でチョロい者だと相場が決まっているロボで、この作品の女騎士もチョロくて良かったロボ。
 隠居生活をしている魔王の描写がゆったりとしていて丁寧に書かれていて、終始魔王がもう世界を征服するつもりは無くて静かに余生を過ごせれば良いと思っているのを感じれるロボ。だからこそいきなり現れた女騎士に嘘をついてみたんロボろうけど、流石に息も絶え絶えな人間に山越えと川越えをさせるのは普通に鬼畜ロボね。良い人そうに見えてしっかりと悪い奴ロボ。魔法で火事を消したのも善意からでは無くて街が燃え尽きると自分が困るからという自分本意ロボよね? 流石若い頃はブイブイ言わせた魔王ロボ。
 お題の異能も分かりやすいし文章も読み易くて良い作品だったと思うロボけど、ロボには兄の登場と兄の目的がちょっと分かりにくいかなって感じたロボ。
 まず、リーシャが魔王のところに来たのは兄の指示だったと思うんロボけど、お供も無しで使い慣れないだろう大剣と鎧で行かせるのは死なせに行かせている様な物だと思ったロボ。なのに、終盤では兄自らリーシャを迎えに来ているロボ。同じくお供無しの一人で。
 リーシャの王位継承順位が低い事からこの兄の継承順位も低そうなんロボけど、もしかして当初は王位継承者を殺した魔王を倒して一族を救った英雄にでもなるつもりだったロボ? リーシャが生きている事を知っていたならどこかから監視していたロボ? それにしてもやっぱりお供を連れずに来た理由がロボには分かんなかったロボ。
 解明されなくても魔王とリーシャにはもう関係無い事ロボけど、ロボは気になっちゃったロボね…
 後、作中のスモウレスラーやいかにも主催が好きそうな外見の魔王を出して実家に洗脳された娘を出すという主催を狙い撃ちした姿勢は大好きロボ。自分の書きたい作品を書くのは勿論大事ロボけど、読ませたい誰かの為に書くのもとても大事だし難しい事ロボ。ナイスチャレンジ精神ロボ!!

33:『+』/@ madoX6C

謎の有袋類
 @madoX6Cさんの二作目です。
 一作目の異能バトルとはがらりと変わって、こちらはテンポの良いホラー作品でした。
 全部読み終わってからタイトルを見ると「おおー」となるギミックもお見事!めちゃくちゃ気持ちよく読むことが出来ました。
 最初のゴキブリ幽霊事件が本当に「うわー」と引き込まれたのですが、その後の出来事も嫌なことだけど致命傷は負わないという加減がすごくよかったです。
 一点だけ挙げるとするならば、傍点の使い方がかなり独特かな?と思います。文体や傍点の使い方は人それぞれなのですが、@madoX6Cさんの使い方のルールを把握するのに時間がかかってしまうのと、傍点があるってことは重要なことなんだろうけど頻繁にあるので混乱してしまうような気がしました。
 どういう使い方がベストなのかはわかりませんが、自分の中で使える傍点の回数に縛りをいれてみるなどすると、キュッと目立たせたい情報が際立つと思います。
 十字架のギミック、最後の決め台詞、嫌な事件のバランスなど、全体的にクオリティの高い作品だったと思います。
 また次回も参加してくれたらうれしいなと思います。

謎の野草
 一作目「腐った社会の虫ケラ共」で格好良い異能バトルを書いたmadoX6Cさんの二作目です。短期間で1万字の短編を続けて出せる進捗力は見習いたいですね。状況を思い浮かべるのにやや苦労した一作目に対して、登場人物が少ないからか、本作は非常に読みやすくなっていました。複数のキャラを一場面に出すのはとても難しいので、書きやすい場面・題材で経験を重ねていくのは良いことではないかと思います。
 幽霊とゴキブリの挟み撃ちという最悪のシチュエーション、笑いつつも心の底から震えました。緊迫した状況にしては長々と実況する余裕があるのね? と思わなくもないのですが、とにかくどうしよう・どうなる!? というパニックが伝わる勢いがありました。
 さて、異能者が大っぴらに闊歩する訳でも裏社会の住人が登場する訳でもない本作、読者としてはおおむね現実の日本のリアリティラインを想定するのですが、そうすると「事実」と異なる描写があるのが気になってしまいました。車のフロントガラスは破片が飛び散りにくい合わせガラスが使われているので、胸を貫通するような破片になるのは考えづらい、食中毒はその場で発症するものではない、などですね。異世界ならそういう素材・そういう毒やウィルスがある/いるんだよ! で押し通すこともできるのですが、現実に近い世界だと読者の常識と描写が大きく乖離することがないよう、注意した方が良いかと思います。
 引っかかってしまったのが「この世から十戒を葬り去るのです」というフレーズでした。十戒とは姦淫するなかれ、殺すなかれなどの文字通りの「戒め」なので、それを葬れというのは悪魔の囁きになってしまいますね……作者様の意図を汲むなら「十戒を侵す者をこの世から葬り去るのです」などになるでしょうか。あの宗教の神、一々人間の営みを気にするほど優しくないはず……? とも思ってしまったので、いっそ実在の宗教を使わないという手もあるかもしれません。
 十字架と諸々のクロス、掛け算を重ねる発想は面白かったです。今後も自由な発想で楽しまれますように。

謎の機械
 嫌な出来事に出会ったと思ったら同時にもう一つ嫌な出来事が発生してしてしまう主人公の話ロボね。異能としては【神にとって罰を犯している悪い存在や人間の価値観で嫌な存在を二つ掛け合わせて打ち消す為に神へ連絡をする異能】というところロボかね。一言で言うならデバッグ用の囮ロボ。
 マイナスとマイナスを掛け合わせてプラスにしようという目的は理解できるロボけど、それを自分で探さないで人間の判断力に任せる辺りが実に神様っぽくていいロボね。神は理不尽なもんロボ。特に一神教の神は。
 内容はホラーでもありオカルトでもありコメディでもありという感じで欲張りでとても面白かったロボ。主人公も最後にやってみるかと前向きに捉えてているロボし、だったら外野からは頑張れという声をかけるだけロボ。頑張れ大学生! 世界をより良くする為に!
 と、本人が納得しているんならいいんロボけど、結局は神様の野郎の思惑に乗せられただけなのが個機械的には気になったというか、やっぱり神というのは理不尽で信用出来ないと思ったロボね。
 神父さんの説明では『嫌な出来事に遭遇しても祈りを捧げて十字を切ったら助かる』みたいな事を言っていたロボけど、まずその嫌な出来事に遭遇するのがなんでロボ? 普通に生活していたらそうそう同時には発生しない事ロボし、銀行強盗はともかく暴走車両は直接主人公に迷惑かけていなかったロボ。先に嫌な出来事というか神にとって邪魔な存在が主人公の周りに出やすい調整をしている様に感じたロボ。
 もしかしたらこの辺りの説明も作者的には存在していて文字数の問題で入れれなかったのかもしれないロボけど、ロボには結局は上手く言いくるめやがって神の野郎め! となったロボ。まあでも、それでも主人公が前向きならいいのかもしれないロボね。最後の決めセリフはタイトル回収でとても良かったロボ。ああいうのすっきりして大好きロボよ。+50点。

34:ニセ美佐子/鮭さん

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 多分故意に主観をめちゃくちゃにして狂った文章の再現をしようとしているのでしょうか?
 こういう実験的な試みは面白いなと思います。
 多分、書いている側は正気だと思う部分が垣間見えました。
 突飛な文章、狂った文章は資料がないまま書くと本当にだだ滑りしてしまうので難しいですよね。
 ぬるっと他人の視点に切り替えて狂気を演出するよりは、他人の思考が流れ込んできたと思い込み、それに対して憤るなどの手法を取ると、更に真に迫った描写が出来ると思います。
 異能要素はわからなかったです……すみません。点鼻薬を恋人にする部分かな?と思ったのですが……。
 やりたいことはわかるので、自分のイメージに合った資料などを探してどんどん創作をしていくと良いと思います。

謎の野草
 「狂った」キャラクターを指してサイコパスと呼ぶのは安易な表現であまり好きではないのですが、本作については「他者への共感に欠ける」という本来の意味でも当てはまるので安心しました&嬉しかったです。徹底して加害者目線で「可哀想」とのたまう身勝手さがひどくて良かったです。
 点鼻薬を恋人に模したり、それを挿すのを性行為に見立てたり、傍から見れば狂気の沙汰、けれど本人には本人なりに論理があるというシュールな世界、これはこれで楽しく……というか興味深く? 拝読しました。ただ、後半の擬音の多用は、狂ったなりの論理を放棄して投げたように見えてしまいましたので、一度始めた世界観は最後まで貫いて欲しかったです。また、最後はストーリーも美佐子から離れてしまったので、物語としてオチているかどうか、も意識していただけると読み終わった時の満足感に関わると思います。
 この作品においてはあえて分かりづらく・読者の混乱を誘うように書いたのかもしれませんが、途中で美佐子(偽)の視点が入る部分は、改行等で視点変更を明示していただけると読みやすかっただろうと思います。
【 異能要素に確信が持てないのですが、たかとの異常な強さが「秀でた才能」という意味での「異能」でしょうか……? 主人公の異様な言動は、表現のセンスを感じはしても「異能」ではないと思うのですが、主人公のアクの強さの前に「ゲームが強い」は印象が弱かったかと思いました。お題は必ずしも作品の根幹テーマに据えられていなくても良いとは思うのですが、「ここで回収したよ!」というアピールは強めにしていただいた方が読む側としては助かります。】
 追記:お題を知らずに参加されたとのことなので、上記【】で囲った部分は無視してください。お題ありで書く場合の心がけとしてお読みいただければ!

謎の機械
 作品を投稿して頂いた後にお題があると気付かれたそうロボで、本来ならレギュレーション違反になるところロボけどそれを言わなければ分からなかったのにちゃんと報告した事と、せっかく参加する為に作品を書いたんだから消しちゃうのは勿体ないロボのでちゃんとこの作品も講評するロボ。一応、作者さんなりに異能はこれだというこじつけもされたそうロボしね。
 内容は振られた男が彼女から貰ったプレゼントの点鼻薬を彼女だと思って生きていくという、言い方によってはいい話な感じの作品ロボけど、実際には彼は狂っていたロボ。
 点鼻薬を点鼻する事をセックスと言って帰ってきた本物の彼女を追い返したり、散歩して急におばあさんに変な事を話したり、偶然出会った友人と仲良くしていたのにボコボコにしたり、最後のは点鼻薬を彼女と思っていたのなら分からなくも無いロボけど、とにかく普通の思考回路じゃないロボ。ハッキリと言ってサイコな輩のドン引きな内容なんロボ。でも、ハイテンションな怪奇文書でも言い回しや次々に起きるイベントが面白くてすらすら読めるんロボよこれ。頭の中の文章をそのまま出したのではなく、ちゃんと考えられて推古して書かれたしっかりした怪奇文書ロボね。まさかロボも頭がおかしい部類だから違和感無く読めたとかそういうオチは無いと思うロボ。多分…
 ただ、序盤からずっと男の一人称だったのに急に途中で彼女の一人称が差し込まれるのはちょっとこんらしたロボ。作品の雰囲気からしてわざとかもしれないロボけど、急すぎてせっかくのハイテンションな勢いが止まってしまったロボ。
 せっかくの怪奇文書ロボから、例えば彼女のパートになる前に『〜本物美佐子の思い〜』みたいな感じで、ここからの文章は違う人ですよってのを示して貰えたら読みやすかったと思うロボね。

35:異能歴史学入門(教養科目・2単位)/只野夢窮

謎の有袋類
 前回は「ナオコと俺」と「高度1万メートル、燃料0」で参加してくれた只野夢窮さんです。参加ありがとうございます。
 異能がある世界の歴史を教授が講義するといった内容のお話でした。
 とてもよく考えられていて、興味深い内容でした。異能のレベルや、歴史の成り立ち、戦争や現代の文化やテクノロジーなどなど現実の歴史とは違うIFの創造をかき立てられました。
 モノローグ調で淡々と歴史が流し込まれてくるので、かなり好き嫌いがわかれそうなお話だなと思いました。
 きっと三話で読者と学生達が同じ気持ちになるようにという狙いだと思うのですが、闇の評議員と違って読者はいつでも読むのをやめる自由があるので、二話目を最後まで読むためのギミックがあるといいのかもしれないなと思いました。
 個人的には、この歴史や設定を下地にした世界で、主人公が実際に行動して変化するようなことをしてくれると嬉しいなと思います。 
 やりたいことを実行する力や、世界を作ることに関してはとても高い能力があるので、次は読む側は何をこの作品から受け取るのかを意識して見ると、更に力を伸ばせるのではないでしょうか!

謎の野草
 過去の関連企画では、高所ホラーやハードボイルドな殺し屋さんのお話など、捻りの効いた良質な作品を出されてきた只野夢窮さんの作品です。架空の歴史を扱う大学の授業の体裁を取った今作も、目新しく斬新な挑戦でした。いかにもありそうなシラバス風のキャプションからして面白かったのですが、今回の企画の規約ではキャプションは熟読されるとは限らないことになっていますので、0話として本編に含めていただいたほうが、読者に確実に伝えられるかもしれません。
 タイトルおよびキャプション通り、「異能が存在する世界は人間はどのような歴史を辿るのか」という思考実験が本作のメイン部分でした。とはいえ、人が集まり、階級が生まれ、階級間の差別や闘争が発生し、神を「発明」し──という流れは「現実」の歴史と重なる部分も多く、異能の有無にかかわらず人間の営みの本質は変わらないのかな、などと思うととても興味深かったです。特に、歴史がくだるにつれて異能が進化していったというくだりは「現実」の科学の発展とも重なって、人間のあくなき探求心や向上心は業が深いものでもありますね。ちなみに「サンダンウチ」の合言葉、異能者だけでなく転生または転移者も混ざってないですかね……w
 大学の授業にしてはかなり簡単な概略だなあ、とちらりと思いながら最終話に進んだのですが、その思いが見事に回収されていたので、まんまと「おのれ異能者……!」となりました。1話の皮肉っぽい物言いでも予感はしていましたが、この先生食わせものですね。でも、同時に1話で漏らした「理解力がないという意味での無能が嫌い」という発言にいっさいの嘘偽りがないあたり、誠実かつフェアな人でもありますね。好きです。

謎の機械
 【異能が当たり前にある世界】での大学の歴史の講義の話ロボね。
 架空の世界を一つ作ってその歴史を語るという時点で架空年表とかが好きな人にはたまらない作品ロボ。ロボも読んでてよだれがだらだら出てきて仕方なかったロボ。いや、ロボはロボだからよだれなんて出ないロボけど。
 歴史といっても本当に最初の最初からこの大学が出来るまでの歴史を語っていて、こちらの世界と違って人が猿から進化したのは異能で火を起こしたり狩りに使ったりしたからとか、そういう狩りが上手かったりする強い異能者が居る所に人が集まって集落が出来たからとか、文字が出来たのもそういう異能者が居たからとか、それにより異能者と無能者の差別が為される様になったとか、作中に合った史実を書き綴るだけで壮大な作品が出来上がりそうだったロボ。
 タイトルからして異能関連の作品というのが直ぐの分かるのも良いポイントロボで、内容はしょっぱなから「無能」の定義の話ロボ。こういうハッキリとしたお題回収をしてくれる作品は講評する側としてはとても嬉しいロボ。この話がどういう話なのかを最初に提示してくれるのは読みやすさに繋がるロボので、一般の読者にも優しい作品になるロボ。
 もうこの時点でロボにとっては高評価なんロボが、作中の神の存在についての解釈が流石は異能世界という感じがして一見の価値があるロボ。異能者と無能者の明確な区別の為に神を作ったという政治的判断は今の世にも重ねれる部分があるロボし、海を割ったり石をパンに変えたりするのも異能が当たり前の世界なら特筆してすごい能力って訳ではないので聖人もきっと存在してないロボ。異能ファンタジー小説と見せかけてこちらの世界への皮肉も含んでいるんロボね。
 最後の教授の話も異能世界ならではの生き方に見えてこちらの世界もそういう物だという話にも繋がるし、いやもうほんとロボの好みすぎて八兆点を出しちゃうロボ。
 ただ、講義の形をとった作品という事で、その時点で所謂普通のお話を期待している読者には読みにくい物があるかもしれないロボ。もうそれは好みの問題なので諦めるしか無いロボ。少なくともロボは八兆点を出すロボそういう作品ロボ。

36:魔法の靴/てふてふ

謎の有袋類
 こむら川でははじめまして!アングラの森で「お菓子の家と子供たち」を書いてくれたてふてふさんです。参加ありがとうございます。
 魔法の靴、エラという名前の通り、シンデレラのオマージュ作品です。
 童話やお伽噺を思わせる語り口のお話で、魔法使いのおばあさんからの贈り物を持たない女の子が、自分の力だけで生きていくことを決意したお話です。
 シンデレラのオマージュで、シンデレラストーリーとは真逆のお話を書くのすごい思い切りが良くて大好きです。
 ところどころに散りばめられた他のお伽噺要素もすごく好みでした。
 城から出た後でエラが向かった家は、彼女の実家であり、鏡の前で嘆く女性はエラの姉ということでいいのでしょうか?
 靴の効果と、お城のあとだけ少し説明不足な気がしたので、そこを補強するとエラの決意の表れや、魔法の靴を捨てることがどんなことなのか、読者に更に伝わってきて結末にも更に説得力が生まれると思います。
 お伽噺の世界、魔法のある世界がしっくりくる優しい語り口と、少しダークな要素を含んだ美しさがてふてふさんの魅力の一つなので、今後も好きなものをたくさん描いてみて欲しいなと思いました!

謎の野草
 草食森アングラ小説大賞ではヘンゼルとグレーテルをモチーフにしたダークな童話を書かれたてふてふさん、今回もシンデレラをモチーフにした作品でのご参加です。
 プリンセスだけでなくすべての子供に異能というギフトを贈ってくれるフェアリーゴッドマザー、原典よりも優しいですね。「自分だけの何か」が誇りになるということは共感できますし、とても美しい世界だと思いました──最初は。本来は持っていない、好意で与えられた「贈り物」がいつしか当たり前になって、持たざる者への差別に繋がっていくということ、こちらは悪い意味でのリアリティがあって胸が痛くなる展開です。魔法使いの優しさも思いやりも、話が進むにつれて見え方が変わってしまうのが切ないですね……。エラは本来マイナスの状況にはいない、それどころか沢山のものや思いをもらっているのに一方的に哀れむ魔法使い、舞踏会に関して彼女の幸せの在り方を決めつけることと併せて、現実にもいそうな「善意の人」への痛烈な批判になっているように読み取りました。童話とは道徳心の涵養だけでなく、風刺の観点を養う役割もあるのかも、などと思います。
 与えられた異能に振り回されず、自らの価値と幸せをそのままに捉えることができるエラの強さと優しさを眩しく読みました。素敵な童話でした!

謎の機械
 魔法使いが子供達におまじないをかけて色んな異能を授けてくれた世界で、たった一人だけ【異能に目覚めなかった】女の子が主人公のおとぎ話ロボね。
 内容はおとぎ話らしくふわりとした世界設定で、特にこういう世界なんだなという説明が無くとも冒頭の『昔々』でファンタジー世界だというのが直ぐに分かるロボ。そしてこういうおとぎ話の良い魔法使いというのは往々にしてお節介な人で、そのお節介がちょっと行きすぎな部分がこのお話の教訓なのかもしれないロボ。
 先にも書いた通り主人公の女の子は一人だけ異能が使えないんロボけど、その異能を使えるようにして周っているのがこの魔法使いなんロボから、魔法使いが主人公を不憫に思って贈り物をしたり自分の家で引き取ったりするのはマッチポンプにも見えるロボ。その後も主人公が望んでいないのに舞踏会に参加させたり、「相手に好意的に思って貰える魔法の靴」を持たせて王子とくっつけようとするロボ。物凄く善意の押し付けロボよね。
 でも、主人公はそれらを望んでいないロボから王子様の前で靴を脱いじゃうし、靴を使って実家に帰ってから心を病んでしまった姉にその靴を渡して魔法使いの家に戻ってしまうロボ。
 確かに異能は人生で役に立つかもしれないけれど、異能を貰っても姉みたいに不幸になる人も居るのだし、そうやって能力を使ってずるをしなくても幸せになれるんだよというのを女の子は魔法使いに教えたかったんだとロボは感じたロボ。
 おとぎ話は得てしてこういうダークさを内封している物ロボで、異能というテーマを使いながらしっかりとしたおとぎ話になっていたと思うロボ。とても良かったロボ。

37:黒咲深白の異能/桜居春香

謎の有袋類
 第一回、第二回と参加してくれた桜居さんが今回も来てくれました!参加ありがとうございます。
 自分にだけ「殺せるよ」という声が聞こえる主人公が、金森さんという黒いうわさはあるけど、友達の多い女の子に声を掛けられることからお話がスタートしていきます。
 これ、第二回の「ただ君を救いたくて」に出ていた金森紫雨さん関連のおうちですね!知らなくても問題がないのですが、知っているとうれしくなる関連性の持たせ方めちゃくちゃ好きです。
 安定した文章で描かれる湿度のある文体と、あやかしや怪異が出るお話の雰囲気もバチっとハマっていてとても楽しく読むことができました。
 自分にだけ聞こえていた声が、一度「殺せない」になってからの推理、そして「殺せるよ」になったあとの爽快感がすごく心地よかったです。
 個人的な好みなのですが、金森小花をはじめとする金森家の面々を「ドレイ」が出る前にもう少し不穏さを仄めかすと、後半の種明かしで「あー」と納得ができて、更に気持ちが良いカタルシスにつながるかもしれないなと思いました。
 非常に高いクオリティの作品で、設定もしっかりしているので金森家シリーズみたいな感じで長編にしてみてもよいのではないでしょうか?
 今後の作品もとても楽しみな作者さんです。

謎の野草
「今、そいつ殺せるよ」という無造作な口調のキャッチコピーにまず怖い予感がひしひしと伝わってきました。主人公の「異能」を説明する冒頭もその予感に違わず、「人を殺すのは実は簡単である」と認識する主人公のメンタル、その醒めた目線に早速気温が冷える思いを味わいました。異様な状況を淡々と受け入れるヒロインに不気味な印象を覚えるのに加えて、現実の世界においても「殺したり殺されたりする可能性は身近にある」と意識させられるのが、(ホラーとして良い意味で)実に嫌な感じでした。「声」に対して「うるさいな」と吐き捨てる主人公の図太さが良かったです。どういう性格の子なのか、を描写で説明してくれていることになりますので、その後の展開での言動も「この子ならこうなるよね!」とスムーズに没入することができました。
 「ドレイ」について、恐怖度も不快度も高くて怪異として輝く存在感を放っていました。「どうしようもない」連呼で金森家の人々を縛っていった様子、現実の監禁事件を思わせて「性格の悪い人間みたい」という記述に良くも悪くもうなずかされました。人間の不の感情の描写が非常にお上手ですね……。
 異能とホラーと百合を同時に味わえる非常に良質な作品でした。ラスト、異能からもドレイからも解放された深白と小花の間に友情が芽生えるくだり、語っていることの不穏さとは裏腹にきゅんとしました!

謎の機械
 【目の前の人を殺せる状況になると「今、そいつ殺せるよ」という声が聞こえる異能】の女の子の話ロボで、そんな特殊な状況に置かれながらも上手くやっていく内容かと思いきやいきなり異能アクション物になって興奮しながら読んだロボ。いやー、覚悟がキマッている女の子は可愛いロボねぇ。惚れ惚れしちゃうロボ。
 最初に異能の説明をして読者にこの能力で不便な生活を強いられているんですよと示していて、それにより主人公を可哀想な女の子と思わせおき、友達イベントを発生させる事でハッピーエンドへの道筋が開かれたと思わせてからのホラー展開。そして化け物の謎を解いてからの逆転。読者の予想を上手い具合に裏切る展開と終盤に行くに連れての展開の加速が見事だったロボね。
 主人公がずっと一人で居たのが声が聞こえるのが不愉快だからという理由だったんロボが、最初に『「出来ること」は「許されること」とイコールではない』と言っていたのが人殺しをしたくない理由ではなく、したいけど許されないから出来ないという我慢が辛いという理由でもあったんロボね。声が聞こえる異能とその我慢が怪奇現象の相手を物理で倒す事に繋がるというのがは本当に盛り上がるシーンで凄いカタルシスを感じたロボ。
 最後に割り切って友達になるのも良くて、本当に全体的にレベルが高い作品だったロボ。それでもなにか言うとしたら、主人公の能力が結局なんだったのかが気になるぐらいロボかね。説明が無くても物語としては問題無いロボけど、この時の為にあった能力なのか偶然聞こえなくなっただけなのかは知りたかったロボね。

38:少女と機械人形/武田修一

謎の有袋類
 前回、前々回と機械人形をモチーフにした作品を描いてくれた修一さんの作品です。参加ありがとうございます。
 今作は、虐げられている主人公の元にやってきた機械人形が、主人公を助けるお話です。
 こういう不遇少女が救われるお話、僕はめちゃくちゃ好きです。
 修一さんは、以前は抽象的な詩や、水彩画のようなワンシーンを切り抜くような作品を描いていたと思うのですが、今作は「これが書きたい」という感じが伝わってきて、ストーリーラインや設定がはっきりした作品になっているような気がします。
 機械人形がどういうものなのかを、登場までになんとなく描いてくれると、修一さんの頭の中にある世界がもっと読者に伝わると思います。
 前半でお兄ちゃんや家族が「最強の異能」というだけではなく、どのように最強なのかを掘り下げていくといいかもしれません。
 書く度にどんどん上達していて、物語の規模や書きたいことが広がっているうように思えます。
 これからも作品を書いてくれるとうれしいです。

謎の野草
 機械人形の四文字を見ただけでワクワクしますね。虐げられた少女と、その救い手となる美しく強い存在も王道だけにとても惹かれる構図です。リンドウが欲しい、と願ったカエデに答えるように彼が目の前に迫る場面はときめきました。ラストの二人での旅立ち、どこまでも自由で希望にあふれたものであってほしいものです。
 お題の「異能」の回収については、機械人形の「異能」というのは製作者によって付与された「性能」ではないのか、それは「異能」に当たるのか……? という疑問が拭えませんでした。機械の能力とは、一般的には誰にでも使える再現可能なもの、というイメージですので……。科学的なものでも魔術的なものでも、どういう理屈によって異能が発動するのか、さらにはどうしてリンドウの異能が「最強」なのかの描写・説明があると、この点腑に落ちるかと思いました。名前を教え合うことでできる絆、カエデの持つ自由や逃走への欲求が理由にあたるのでしょうが、この読解が正しいのでしたら、ふたりの関係が深まる場面・カエデだからこそ異能が強化されるのだ、という描写を見たかったと思いました。文字数にはまだ余裕があることですし、コンテストでの対戦相手やその持ち主の描写を加えることで、その対比でカエデとリンドウの関係性や世界観が明確になるのではないかと思います。

謎の機械
 兄と比べて無能で愚図だと言われて育った主人公の少女が、本来は兄の物になる予定だった筈の機械人形の持ち主になってコンテストに出て優勝する話ロボね。
 主人公が虐げられている。主人公の環境に新しい何かがやってくる。主人公の環境が変わる。主人公が幸せになる。という起承転結がハッキリとしていて、どんな作品を作っていて読者にどう読んで欲しいのかがちゃんと伝わってくる良い作品だったロボ。作者が伝えたい事を読者に分かってもらうのは創作で大事な事ロボで、特に短編は短い中でいかにこの物語はこういう物だと伝えれるかにかかっているとロボは思っているロボ。
 ただ、ストーリーの構成は良かったんロボけど、機械人形の異能がどういう物か分かりにくかったのと、コンテストへの参加が突然すぎる感じがしたロボね。
 機械人形の異能は『手から青い炎を出す異能』だと思うロボけど、その炎の効果が人相手と機械人形相手で違う様に読めたロボ。もしかして機械人形も炎で洗脳してから自壊させたロボ? こんな強い異能を持っている機械人形を没落寸前の家が買えたのも気になってしまうロボ。なんらかのコネがあったんロボかね。
 コンテスト自体は話の盛り上がりとして予め予定してあったのかもしれないロボけど、それならば一言でいいので「兄が機械人形を手にしてコンテストに出る予定」というのを一話の何処かに示しておけば主人公が代わりに出るという流れにも説得力が出るロボね。例えばコンテストの賞金があれば独り立ち出来ると前々から考えていたとか、そうでなくてもコンテスト中なら逃げ出すチャンスがあるかもみたいな、そういった先に繋がる伏線があると読者としては嬉しいロボ。
 話の盛り上げ方は上手ロボので、その盛り上げる部分の匂わせをしておくみたいな感じロボ。それがあればもっと良い作品が書けると思うロボ!

39:羇旅歌/崇期

謎の有袋類
 前回は「着飾った空の祭典」で参加してくれた崇期さんです。参加ありがとうございます。
 今作は前作のスピード感溢れる作品とはがらりと雰囲気が変わって、どことなくしっとりとした印象の作品ですね。
 作風の幅があるのは本当にすごいことだなと思います。
 主人公が、今は亡き叔父の話を思い出してとあるお寺に行くということから始まるお話でした。
 どんなお坊さんかな?と思って尋ねると主人公の目に金色の光が見え、そこから不思議な体験をしていく......という内容でした。
 異能の部分は、金色の光を見ることが出来たという点でいいのでしょうか? 拾いきれていなかったらすみません。
 多分、これは僕の勉強不足なだけなのですが、詩のルールや内容がよくわからなかったので、もし話の内容を届けたい場合、もう少しだけヒントを書いてくれると僕みたいな全然わからない人が、楽しめる幅が広がるのかなと思いました。
 とはいえ、詩の内容が完璧にわからなくても、お話全体を読んでみて楽しかったことは確かなので、このままフレーバーテキスト的に処理しても大丈夫な内容に仕上げているのはテクニカルだなと思います。
 この世のモノではなさそうなみなさんが順番に詩を読んでいく様子、ルールを守ったはずなのにそうではなかった据わりの悪さ、そしてこれからも続くであろう彼らの不思議な集まり……とても魅力的でほっこりするお話でした。

謎の野草
 人物も情景、いずれもリアリティを伴ってよく描き込まれていてスムーズに物語に入ることができました。神社仏閣巡りが趣味の主人公、叔父さんの奇行エピソード、謎めいたお坊さん──身近にはなかなかいないキャラクターなのですが、「こういう人いるかも……いそう……」と思わせる説得力がありました。主人公の淡々とした語り口もあって、神社の静謐な雰囲気も良く伝わりました。黄菖蒲の色が明るく灯るイメージが綺麗ですね。
 この世ではない人たちの歌会も、此岸の者には理不尽に見える独特なルールも、世界観として楽しませていただきました。「あちらの人たち」を深く追究しないでそっとしておく主人公の「あちら側」を尊重するスタンス、不思議に対して分を弁えた態度が好みでした。
 叔父と比較的近い交流があったことから、主人公は男性だとイメージしていましたので、女性と分かった時に少々戸惑いました。日韓ワールドカップの時に遠征できていた年齢だったのも、思いのほか年長で驚きました。一人称だと難しいことではありますが、主人公の姿や年齢性別のヒントは早い段階で出していただけるとイメージに齟齬が出なくて読者としては助かるかと思いました。
 異能要素について、特定の不思議現象だけに発揮されるアクセス能力……ということでしょうか。役に立つ訳でも怖い訳でもない、少し人と違う体験ができる「異能」、作品自体の雰囲気にも合った「緩さ」があったと思います。俗世を離れたゆったりとした聖域の空気を感じる作品でした。

謎の機械
 死んだ叔父が通っていたというお寺のお坊さんから聞いたおもしろい物が見えるという神社で遭遇した不思議な出来事の話ロボね。主人公の淡々とした語りでするすると読めながらも独特の雰囲気を感じる不思議で面白い作品だったロボ。
 まず物語の舞台になるのが人づてに聞いた場所で、更にそこから教えてもらった場所に行くというのが身近に思えて実際は全く知らない場所でいいロボ。そういう場所は変に安心して深く考えずに行ってしまい、後悔した時はもう遅いという場所が多いロボ。
 主人公の女性も案の定そうやって油断して不思議な事に巻き込まれてしまっているロボ。普通なら警戒しながら進むべき場所をこうやってサクサクと進めてスムーズに展開を巻いていくのは上手いロボね。さっきまでは人気の無い道程という感じだったのに、いきなり着物を着た人達が座って何かを話しているという光景。グッと引き込まれるロボし、話の内容も分かるようで分からなくて気になって仕方ないロボ。
 オチというか彼等の話の法則は最後にお坊さんから提示されて主人公はそれを先に教えて欲しかったと言うんロボけど、そうやって彼等に混ざる事を成功させるのもまずくないかとも思えるロボ。主人公はやっぱり淡々としているので何も怖がって無かったロボが、普通はお坊さんみたいに怪奇現象に混ざらないロボからね? 前に彼等と会話をしたのが叔父なら叔父が死んだ事にも関係しているのかもしれないロボし、考えれば考える程に怖くなる作品ロボ…ホラーでは無いとタグにあるロボがホラーロボよこれ…。
 ホラー作品として面白かったんロボが、主人公の異能が分かりにくかった感じがしたロボね。ロボは主人公の異能を【不思議な出来事に遭遇する資格がある異能】という感じで受け取ったロボけど、もしかしたらもっと別の異能かもしれないロボ。せっかくのお題なので異能部分はコレ! というぐらい分かりやすくしてもいいと思ったロボ。作品自体は凄く良かったロボ! ロボがあんなのをら見たら絶対に逃げるロボ!!

40:ある島のお話/@styuina

謎の有袋類
 前回は「空を見上げて」を書いてくれた@styuinaさんです。参加ありがとうございます。
 島に伝わる民話の紹介から始まるお話でした。
 チャージマン研、ちゃんと見たことが無いのでちょっとニュアンスが掴めていなかったらすみません。
 それぞれの民話自体はとてもおもしろかったのです。色々な伝承や言い伝え、文化が混ざり合って独自のモノが出来るのは面白いですよね。
 少し残念なのは、後半のオチと、民話の並べ方の関連性がちょっと弱いように感じるところです。
 お話全体に一本線のような繋がりを作ってみると、作品がギュッと引き締まって見えるのではないでしょうか?
 締め切りまで時間はあったので「失敗してしまいました」とおっしゃるなら、あと一週間くらいは悩んでコネコネしてもよかったかもしれないな……と思います。
 最後の擬音はすごく効果的に使われていると思ったので、今後も色々と試行錯誤を重ねて欲しいなと思います。

謎の野草
 自作に自信がないことがあるのは、書き手として重々承知するのですが、それでもキャプションで失敗だと明言するのは止めたほうが良いかと思います。失敗作なのか……と思いながら開くよりも、どんな話なのかと期待しながら読み始めたいものですし、作者さえ卑下する作品だと思うとどうしても最初から負の色眼鏡をかけてしまいますから。ちなみに、個人的には架空の文化史や歴史を綴った作品は大変好みなので、普通に内容を書いていただければ喜んで読んだのになあ、と思います。
 さて、タイトルの島は「オホーツク海の南」に位置するとのこと。架空の場所にリアリティを与えるために現実の名称を利用する手法はとても良いです。たぶん千島列島のどこかにあるのでしょうね。さらにハッタリを効かせる小技としては、「〇〇島と××島の間にある」「〇〇岬から船で▲時間」とか、さらに具体的な情報を書き込むと効果的だと思います。嘘でも良いのでもっともらしく気持ちよく読者を騙してほしいものです。
 島の伝承のまとめ、といった内容の本作ですが、もろもろが混交した独自の文化、と謳った割には本州からの影響が目立ったのが少々肩透かしでした。地理的には、少なくともアイヌやロシアの文化が混ざると思うのですが……。日本語に訳したという体ですが、聞き書き部分にも異国情緒を感じられる名前や文字が登場すると「どこかにあるかもしれない風土記」の雰囲気が出るのではないかと思いました。

謎の機械
 オホーツク海にある久上島という架空の島(ちゃんと調べてはいないロボけど架空ロボよね?)に伝わる昔話と、その昔話の蒐集家である書き手が遭遇した不思議な出来事の話ロボね。
 資料集とかと同じノリでいくつかの話が載っているので個機械的に好みの話なんロボけど、小説の概要に「失敗した」や「小説を書く能力が無いと分かりました」や「○○みたいな珍味はある」という、自分の作品に対するネガティブな感想を書くのは止めた方がいいと思ったロボ。作品を読む前に書かれていると読者が面白いと思ってはいけないのかもと萎縮してしまうので。それならば近況ノートなんかで失敗した部分はここですみたいに反省会をするのがいいと思うロボ。概要に書いてあるという事は読む前にネタバレをされているみたいな物ロボからね。
 作中の昔話は何処かで似た様な話を聞いた事があるかもしれないと記憶を擽る内容なのが上手いと思ったロボね。全く知らない話よりかは知っている部分がある方が読み手は理解がしやすい物ロボで、その知っているというのに対する説明が「この地が色々と混ざった独自文化の地だからです」という強い言い切り。作品自体が実際にありそうな物なのに、そこで読み手の知識に干渉させる事でさらに作品のリアルさが上がって思わず本当にこの島と昔話がある様に思えたロボ。というか本当にフィクションロボ? 元になった島があるなら行ってみたくなったロボ。
 異能部分は【残留思念が見える異能】を持つエキゾチックな少年で、蒐集家がその少年の異能によって不思議な事に出会った話を自分が集めた話の最後に持ってくるのも展開的に良いポイントだったロボ。
 昔話集としては面白かったロボ。ただ、せっかくならそれぞれの昔話が最後の蒐集家の体験に繋がる様なギミックを仕掛けれたら面白さが跳ね上がる余地があったと思うロボ。
 作者的に失敗と思う部分があるのなら、出来れば締め切り間近まではその失敗部分を納得いく物にしてから完結済みにして欲しかったロボね。
 一旦出してしまってもステータスを連載中にしておけば手直しして大丈夫ロボ。手直しをしてから〆切前に完結済みにすればセーフロボ。

41:蛞蝓うらない/濱口 佳和

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 一人の男が、そろしく当たる八卦見がいると言う噂を聞いて、その男を訪ねるお話です。
 じわじわと忍びよってくる不気味さ、主人公の切羽詰まった様子、そして蛞蝓の怪異とすごくおもしろかったです。
 連載第一話目や、四季賞などにありそうな雰囲気……すごく好きでした。
 一話目の一行目か二行目で、もう少しだけ作中の時代がわかる要素があるともっと親切かなと思ったのですが、そこは好みかもしれません。
 読んでいくうちにじわじわと物語の輪郭が浮かび上がってくることも含めて、この作品の魅力のような気もします。
 全体的にとてもクオリティが高く、蛞蝓の謎を残しながらも、こういう存在だよというのがわかってすごくおもしろかったです。
 時代物を中心に書いている作者さんなので、この作品が気に入った方は他のお話も読んでほしいなと思いました。
 今後もたくさん作品を書いて欲しいなと思います。素敵な作品をありがとうございました。

謎の野草
 時代ものを書こうとすると、自国のちょっと前の風俗さえよく知らないことに気付いて愕然としたりします。浅学の身としては、時代ものの雰囲気・空気感を生き生きと描写できる方は尊敬して已みません。
 一人称視点だと主人公の情報を出すタイミングが難しいのですが、「出入りの酒屋」「若様」である程度裕福な立場であると匂わせ、「お武家様」で確定させる……という流れ、読者に取って分かりやすく負担のない開示をしていただいているのがお見事でした。この間にも江戸の長屋の猥雑さが五感を交えて描写されていて、読者の意識を時の彼方に連れて行ってくれます。なんだか分からないぬかるみで足が汚れる描写、この時代だと当然舗装はされていないし現代ほどの清潔さも期待できないのですよね……汚さも描くことでのリアリティが出ています。じっとりと厭な感じの最高潮は、蛞蝓の描写ですね……潰してしまった感触、想像したくないのに想像してしまいます。
 頭巾を脱いだ段階で紫陽花の痣は見えているはずなので、主人公が諸肌を脱いだ段階で助六がもう一度驚いた反応を見せたところ、初見では戸惑ったのですが、もとの助六(いかにも偽名っぽくて良いうさん臭さです)と彼に巣食ったものと、表に出ている「人格」が終始揺らいでいた、ということなのでしょうか。「あいつら」の食欲ありきだとすると助六の卦も信じられるものかどうかは闇の中、畢竟、主人公の「痣」が見込まれてしまっただけ、ということになるのでしょうか。助六が指摘した通り、確かに紫陽花は奴らの好物ですし。本来所以がなかったものが、この一件によって由縁が無滑れてしまったのかもしれません。梅雨の湿気がまとわりつくような不気味さと曖昧さが良い(悪い)後味の和ホラーでした。
 第一話、「先程はすまなかった。~」で始まる塊と「女の嬌声は、四半刻ほど続いた。」で始まる塊で情報が重複しているというか時間軸が前後している気がした(女が去ってから話を切り出すのが自然に思えるので)のですが、もしかしたら推敲漏れなどかもしれないのでご確認いただけると幸いです。

謎の機械
 恐らく江戸時代辺りが舞台の占いのお話で、武家の人が悩みを解決する為に長屋に住んでいるという占い師に会いに行くという物ロボね。一話目で異様な雰囲気の長屋に来てしまったという事を示し、二話目で八卦見(占い師)と主人公のキャラクター性を示し、三話目で一話と二話を踏まえた異様な占いの仕方を見せるという、読み進める度に読者が欲しい情報が入ってくるという構成が凄く良かったロボ。蛞蝓うらないの占い方や主人公の悩みがなんなのかが気になって思わず一気に最後まで読んでしまったロボね。
 お題である異能はタイトルそのまま【蛞蝓でうらないをする異能】だとは思うんロボけど、作中に出て来る蛞蝓うらないの八卦見が異能持ちではなくて、蛞蝓自体がうらないの異能と【人間の意識を乗っ取る異能】を持っているっぽいロボ。歴史ファンタジーかと思いきやホラー展開で ぞくり としたロボ。
 八卦見の記憶的に最初に交尾をしていたのも蛞蝓の意識だったっぽいロボし、そうなると長屋のぬめっとしている描写やそれを気にしていない長屋の住人達の存在も気になってしまうロボ…やっぱりホラーでもあるロボ…
 最後は本人も言っている通りに結局主人公の悩みの痣の謎は解決しないで終わるロボ。主人公の痣の謎がきっかけで始まる話なので、個機械的にはもう少し痣についてのヒントというか兄達の死と痣が関係しているかどうかという答えが欲しかったロボ。次兄が死んだ事が他殺なのと痣が出て来た時期が同じと言うことは何らかの関連はあるはずロボから、主人公も言っていた通りに呪詛なのか因縁なのか主人公の存在のせいなのかが知りたかったロボ。所以を由縁と言い直されているという事はちゃんと理由がありそうロボし。
 物語の主軸は題名からして蛞蝓うらないなのできちんと謎の提示から解決まで綴られていんロボけど、ロボはそこが気になってしまったロボね。でも作品自体は凄く面白かったロボ。これは褒め言葉なんけど、読んでいて怖いし気持ち悪くなったロボ!

42:見神者/垣内玲

謎の有袋類
 前回は「空中要塞・ユグドラシル」で参加してくれた垣内玲さんです。参加ありがとうございます。
 前回は架空の世界にある戦記でしたが、今回は実在の人物をモチーフにした歴史小説でした。
 めちゃくちゃ読み応えがあって、読み終わった後にすごい満足感がありました。僕は世界史に疎いのですが、それでも面白く読めたのがすごい……。
 今は誰もが知っているであろうジャンヌダルク、そしてナポレオンを取り扱った作品です。
 幕間にある現代日本の先生、恐らく僕の知っている先生だと思うのですが、そういうイースターエッグ的な楽しさもあるのがよかったです。知らない人も現代の価値観での解釈があると頭の整理やちょっとした息抜きになる構成だと思うので、マジでめちゃくちゃうまいなと思いました。
 かなり硬い文体なのでweb小説とかと相性は悪いかもしれないのですが、公募とか賞を選べばいい線はいくのではないでしょうか……。それくらい完成度の高い作品だと思いました。
 おもしろかったー!短編はばっちりだと思うので、今後長いお話などもチャレンジして欲しいなと思いました。

謎の野草
 胸がひりつく現代ものシリーズの印象が強い垣内さん。今回は硬派な歴史ものでのご参加──と思ったら現代の授業風景が挟まれていておさすが! と思いました。授業で脱線してくれる歴史の先生はきっと良い先生です。
 ジャンヌ・ダルクを、彼女の戦功ではなく当時の人々の信仰心から掘り下げたアプローチ、こむら川だっけ信仰森だっけ……と企画を二度見しながらも興味深く拝読しました。ジャネット=ジャンヌは信心深さゆえに「声」を聞いても盲信はせず、コーションは彼女の真実を信じるがゆえに彼女の処刑を決意する、という。信仰に生きる人々を狂信者として描くのではなく、それぞれに合理的な判断があったのだという切り口には説得力がありました。
 幕間で言及された「『神』が守れと命じたフランスとは何だったのか」という問題提起も、これまで考えたことがない視点で目から鱗が落ちる思いでした。ただ、断言するだけの歴史の知識がないのですが、この段階で英仏連合王国が成立したとして、その版図を維持できるか、その後の歴史の流れががらりと変わるかどうかは分からないし、他の難局が発生するだろうし、この点は風呂敷を広げ過ぎているかも、という印象でした。あるいは、歴史がどのように変わり得たかの、より詳細にシミュレートを広げていただけると説得力が増していたかもしれません。
 お題の異能について。一読したところではジャンヌの「神の声」を聞く能力かな、と思ったのですが、彼女が何の声を聞いたのかの答えが明示されていないので恐らく違うのでしょう。ジャンヌだけでなくナポレオンも含めて、時代を動かし、時を越えて語り継がれるカリスマ性を指して「異能」としたのだ、と解釈させていただきます。

謎の機械
 今日では知らない人の方が多いロボろうフランスの英雄のジャンヌ・ダルクについての考察と、ジャンヌ・ダルクの存在から導き出す神の存在、引いては信仰という人々の信じる心とはなんだろうという話ロボね。
 ロボも一般知識としてジャンヌ・ダルクが何をした人類かというのは知っていたロボけど、そのジャンヌ・ダルクの働きがフランス王家とこんなに関わりがあったとは知らなかったロボ。そしてジャンヌ・ダルクが処刑されたのも単に神様の名を騙ったからのみでは無くて、色々と宗教的と政治的な判断があった上での処刑なんロボね。世の中は単純には出来ていないという事がひしひしと伝わって来たロボ。
 それに、実はジャンヌ・ダルクは後世でナポレオンのプロパガンダで有名になったというのは驚いたロボ。これも政治的な判断による物なんロボけど、ここまで来ると宗教と政治はどちらが利用しているされているではなく、持ちつ持たれつで存在している物が感じがしてくるロボ。神様が本当に居るんだとしたらどこまで計算してやっていたのか怖くなってくるロボね…全てはお釈迦様の掌の上の出来事かもしれないロボ…
 小説として面白いだけでなく、歴史の裏側知れる作品だったのはお得感があったロボ。
 とても良かった作品なんロボけど、作品内の【異能】部分が少し弱い感じがしたロボ。恐らくはジャンヌ・ダルクが【神の声を聞ける異能】若しくは【奇跡としか思えない偉業を成す異能】でいいと思うロボけど、ハッキリとこの作品の異能はこれ! というのがあると個機械的にもっと良かったかなと思ったロボ。
 ただ、これは今回のレギュレーション的にそうしたら評価がもっと上がるというだけロボ。もしもこの企画が歴史小説コンテストとかならロボは百点満点にしたロボ。

43:調整者【コーディネーター】/流々(るる)

謎の有袋類
 前回は「閉ざされた扉……なら開ければいいさ」と「春は来る」で参加してくれた流々さんです。今回は異能バトルで参加してくれました。ありがとうございます。
 とある女性がフランスから日本へ任務のためにやってきて、街を氷漬けにすると、そこに日本の能力者がやってきて……というような王道異能バトルものでした。
 技名のルビや、街の描写がしっかりと描かれていて、とても読みやすかったです。
 謎の教授、そして最後に現れたジョシュという仲間などが出てきて物語がはじまりそうなところで終わってしまったのが残念でした。
 完結させることは何よりも素晴らしいのですが、文字数の上限や締め切りまで期間があるので何か騒動を起こして解決をさせるまでを描いてくれると、読んでいる方も「ここでおわりか……」とがっかりしないと思います。これが「完結」ではなくて、連載の第一話目としてはら掴みはばっちりだと思います。
 やりたいことをやりたいように出来ている作者さんだと思うので、これからも楽しいことや好きなことをどんどん書いていって欲しいと思いました。

謎の野草
 規定文字内で完結済になっていれば講評が保証されるのが本企画ですが、そして、完結の基準は作者様に委ねられるものだとは思うのですが。この作品、完結していないですよね。長編の第一話、あるいは予告編でしかないですよね。作者ページにお邪魔すれば沢山の作品を既に書かれている方ですし、各種コンテストでの実績もあるとのこと。創作初心者という訳でも締め切り間際という訳でもないのに、完結詐欺のような作品で参加されたのは非常に残念です。企画の要項でスピンオフの投稿も可とはしていますが、あくまでも独立した短編で楽しめることが前提のはずですので……。 
 キャラクターの紹介、世界観の開示、異能の描写──すべてが説明的で興味を持つ前に終わってしまった、というのが正直な感想です。文字数の上限までまだまだ余裕があったことですし、エピソードの中で描写していただきたかったと切に思います。

謎の機械
 【異能を持った者】によって襲撃される東京と、その襲撃者に対抗する存在との異能バトル物のプロローグという感じの作品ロボね。どこか冷めた雰囲気の漂う外国人女性(恐らく金髪碧眼の美女)が氷の異能使いで、そのライバルとなるだろう警視庁異能対策課の者が炎の異能使いというのが分かりやすく王道でロボはとても好きロボよ。
 きっと後で教授に騙されている事に気が付いて美女が警視庁と手を組んだり、危機的状況で氷と炎の合体技が繰り出されたりとかしてラブロマンスにも繋がるんロボよね。こういう冷めた女性は熱烈なアプローチに弱い物ロボ。最後はゴールインして子供にお互いの異能が引き継がれて氷と炎を使える最強の存在になって欲しいものロボねぇ…
 背景の描写が丁寧かつ物語の大筋に絡んでくるような語りをしているのが個機械的にポイントが高い部分で、こういう何気ない状況の説明に今後の展開とか設定を含めるというのは後で読み返した時のカタルシスがすんごいロボ。これがあると読者が「ここはこういう事だったのか! じゃあ、もしかしたら他にも…」と深読みをし始めて、普通に読むよりももっと深く作品を楽しんで読んでくれる様になるんロボよ。これを意識して作中に込めれるかと、わざとらしすぎずそれでいてちゃんと記憶に残る様な形で表現できるかはその人のセンスに寄る物で中々身に付けようと思っても身に付けれないんロボよ。ロボもアプリとかで身に付けられないものロボかねぇ…
 という感じで先がとても楽しみになる作品だったんロボけど、だからこそプロローグの段階で終わってしまって居るのが勿体無く思ってしまったロボ。
 確実にこれから面白くなる出だしロボし、上記の点の作者さんに身に付いている技法が中編や長編向けの能力なんロボ。
 文章は丁寧だし物語の規模も大きそうだし伏線になりそうな部分がある作品は書けているロボので、途中で話が終わるにしても残り規定文字数の13000字全部を使い切っても足りませんでしたぐらいの勢いで書いてもいいと思ったロボ。

44:異能忠敬の異世界観測記/かねどー

謎の有袋類
 やりおったな!!!!!異能忠敬をやりおったな!!!
 前回はわかりやすい経済小説「リターントゥスカイ」で殴り込んでくれたかねどーさんの作品です。参加ありがとうございます。
 出オチ小説かと思ったのですが、設定もしっかりと作っていて、異世界転生の王道導入で掴みもばっちり。マッピング機能もミニマップが表示されるゲームをしたことがある人にはわかりやすくて、読みやすかったです。
 マンガだとこういう演出がバキッと決まると思うのですが、短編で視点を変えてしまうと感情移入が出来なかったり、没入感が薄れてしまうので神の視点で書いてみるか縛りプレイで異能忠敬だけの視点を書いてみるといいかもしれません。
 かねどーさんは、出オチかと思ったらマジでエモくて泣いちゃったくらいの劇物を書けるポテンシャルがあると思ってるのでハードルを高くしたのですが、現状でもめちゃくちゃおもしろいです!
 他人に読ませる文章としては、本当に読みやすくてわかりやすいのでこれからもガンガン色々なジャンルにチャレンジしてたくさん完結させて欲しいと思いました。
 あと、異能忠敬に「すわっぴんぐ」って言わせるのズルいでしょw好きです。

謎の野草
 第三回こむら川ではリアリティとエンタメ性とドラマ性がとても良いバランスのビジネス小説が面白かったかねどーさん。今回はまさかの歴史もの、と思いきや異世界ファンタジーでした! いわゆる異世界転生のテンプレを踏襲して、最低限の描写で読者に分からせつつ主人公を歴史上の著名人にすることで捻りを効かせるという高度なテクニックでした。志半ばで斃れた忠敬だからこそこの異能になるのだと多くの読者に納得ができる流れになっていますし、転生後の「……少々、味気ないですね」という呟きも彼の業績を踏まえて自然かつ人柄を感じさせるものです。みんな思いついたけど~とは仰いますが、決してそんなことはないと思うのです。
 あえてご指摘するとしたら、会話の部分が地の文を挟まない台詞のみの形式で、あっさりし過ぎているのが味気なかった、というところでしょうか。読みやすさやスピード感のためにあえて描写を排した意図もあるのだろうとは思いますが、女神の姿や異世界の風物に驚く忠敬の心中での反応、彼の目には異世界がどう見えたか、という辺りも描き込んであると世界観も深まりキャラも立つのではないかと思います。上述した通り、最低限の描写でも大体通じるのが異世界ものテンプレの利点なのですが、文字媒体の作品である以上は文字で読み取りたいと思うのです。
 最後に、どうしても突っ込みたいのでこれだけは言っておきます。 >すわっぴんぐという異能はどう使えばいいでしょうか この方分かってて言っていますね?

謎の機械
 異世界物ロボ! 異世界物ロボ!! 実はロボはなろうで異世界転生物が流行る前から異世界転生ジャンルが好きな機械ロボで、様々な作品で閑話休題的に主人公が異世界に行って問題を解決して元の世界に戻って来るという作品が大好きなんロボよ。90年代のガンガンに掲載されていた漫画とかはだいたいそんな感じロボ!
 なので評価がだだ甘になっているかもしれないロボけど、好みの作品が来たんだらしょうがないロボよね。
 内容は日本の正確な地図を作った伊能忠敬という人が亡くなられた後に異世界で異能を身に付けて活躍するという異世界転生物ではよくある内容ロボね。
 よくある内容だけに作者がどうデコレーションするかが面白さのポイントになるんロボが、タイトルの時点で「異能忠敬」と書かれていて、この時点で既に出オチだけど面白いロボ。タイトルを読んだだけでどんな異能を持った人物がどんな活躍をするのかがある程度分かってしまったし、そもそもダジャレなので笑ってしまったロボ。卑怯だって思ったロボ(誉めてる)
 作中でも観音様(女神様?)との会話で「異能忠敬」と言われてシュールコントみたいなやりとりをしていて、小説としての面白さなのかコント的な面白さなのか分からないけど、細かい事は考えずに面白いから良し! となる力強さがあるロボ。いやぁ、ポイント高いロボよこれ。
 転生特典で貰った異能が二つあって、その二つを合わせた【空飛ぶ測量士の異能】として今後異世界で生きていく伊能忠敬がこれからどんな冒険をするのか気になるんロボけど、この作品は逆に「ここで終わる」事が前提の打ち切りを前提とした作品なんロボね。出オチも出オチで、バーン!! と出してみんなを笑わせて帰って行くという、そんな爽やかな短編だったロボ。
 勢いだけに見えて実際は計算された笑いをしている作品だったロボので、出来ればこのまま中編にも手を付けてみて欲しいと思ったロボ。
 この雰囲気を維持したまま20000字ぐらいの作品が作れたらかなり面白い作品が作れると思うんロボけど、どうロボか?

45:ミュータント男子とジップガン/電楽サロン

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 ミュータントに変化してしまった少年と二人の少女のお話。
 小学校の時にミュータントになってしまった和也は、カツラ的なものを被って一応人間社会の中に生きていて、サッカー部のエースをしているけれど、同級生の手によって死んでしまう。少女たちは大切な和也の復讐のために銃を取った…という話だと理解しましたが、合っているかちょっと自信が無いです。間違えていたらすみません。
 スタートダッシュが素早く、テンポの良く楽しく読めるお話で、ミュータントの設定や、和也くんが異能持ちだと思っていたら主人公の少女が銃の達人という展開もすごくよかったと思います。
 ただ、ぐんぐん加速していって次々と情報が投げ込まれるので、全貌を掴むのが少し難しい作品なのかな?と思いました。
 親から勘当されているけどサッカー部に入れることや、進学を出来ているなどのリアリティラインの設定に迷いがあるようなので、ここら辺を「こういう世界です」と提示するような思い切りの良い何かがあると親切かもしれません。
 アイディアや、設定、そしてスタートダッシュの速度は十分な作品でした。これからもたくさんお話を書いて欲しいなと思います。

謎の野草
 一文目から問答無用で世界観を叩きつけるスタイルは非常に分かりやすく説得力があって好きです。なるほどこの世界ではある日突然ミュータントになることもあるんだな、と。「そういう世界」であるとのルールをまず教えてもらえるのは、作品の世界観を知らない読者にとってはとても助かる導入です。
 外見に惑わされず和矢君を心で見ることができる主人公とりぃちゃん、対してミュータントの外見を恐れて迫害する周囲との対比──本作のモチーフは「美女と野獣」ということになるのでしょう。和矢君の力をもってすれば学生くらい一捻りでしょうに、それをしないことが彼の「人間性」の証明になっているのに……人は見た目で判断したがるものなのですねえ。
 ジャンルの恋愛としても、「二言話せれば良い方」だというりぃちゃんが男子に話しかけられるなんて……とか、対する和矢君の寡黙な照れ具合(多分)も初々しく可愛らしく拝読しました。主人公の、りぃちゃんに対する憧れ、もしかしたら嫉妬も混ざっているかもしれない感情もとても美味しかったですね。甘酸っぱい青春模様の中、ミュータントである和矢君の「取ってつけたような栗色の髪」「非常食であろう動物の死骸」などの異形描写が混ざるのがシュールでまた面白かったです。
 作者様の見せたかったであろうテーマ、見どころは十分に堪能させていただいたと思いますが、日常描写というか和矢君が日ごろどんな生活をしていたかの描写があると破局の場面がより劇的に見えるかも、と思いました。彼が心は人間だったんだろうな、とは伝わるのですが、場面として・エピソードとして見るとより説得力があったかと思いますので。
 ミュータントは異能に入るのかな……? と思いながら読んでいたところ、主人公の思わぬ才能=異能で回収されて、解釈としても物語の結末としても非常にスッキリしました。

謎の機械
 幼馴染の男の子が醜い外見のミュータントになってしまったけれど、それでも中学高校と通ってサッカー部にも入って活躍していたのに、虐めなのかミュータント排除の運動なのかが起こって自殺をしてしまったので、その事に対して復讐をする為に女の子とその幼馴染の男の子を好きになった女の子の二人が銃を持って覚悟を決めるという内容ロボね。
 恐らく異能部分は【ミュータント化】と【ガンマイスター】の二つだと思うんロボけど、男の子がミュータントになったわりには比較的普通に学校生活を送れているので何らかの比喩の可能性もあるなと読み取れたロボ。でも、カツラを被っていたり非常食の動物の死骸がある事からやっぱりミュータントになってしまっていると思ったほうが良さそうロボ?
 読みやすい文章なのでスラスラと読めるし展開も早くて短編としても良かったンロボけど、このミュータントの男の子が今まで問題無く(あったかもしれないロボけど)学校生活を送れていて、その上女子生徒から好意的に思って貰えているというのにちょっと違和感を覚えてしまったロボ。
 もしかしたらこの作品の世界自体がミュータントの存在が珍しく無い物だったり、普段はミュータントな外見をちょっと抑える事が可能だったのかもしれないロボけど、作中にその説明が無かったので中学ではどうして問題が起きなかったのだろうとなったロボね。 最後の復讐相手に教師が混じっているのもちょっと唐突に感じてしまったロボし、きっと作者の中ではちゃんとした理由があるのだろうロボけど、ロボはその理由が作中からはちょっと読み取りにくく感じたロボ。
 文章や表現は凄く良かったロボので、後はどうしてその展開になるかの説明が読者に分かりやすい形であるともっと良くなると思ったロボ。
 後、これは多分普通の人なら気にしない部分なのでスルーしてもらってもいいんロボけど、銃工は「ガンマイスター」ではなくて「ガンスミス」じゃなかったロボ? 個機械的に気になってしまったロボ…

46:円卓の騎士と混沌たる夏休み ~「太陽の騎士」と輝かしきビーチバレー ~

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 アーサー王伝説に出てくる円卓の騎士を題材にしたコミカルな短編でした。
 僕は、浅学なのでアーサー王伝説は本来の話を知らずに、ソシャゲや海外ドラマでエッセンスを読んだことしかありません。読み落としていることがあったらすみません……。
 太陽の騎士ガウェインとランスロットが中心になり、ビーチバレーをするというお話でした。
 軽快なやりとりや、それぞれの能力、長所を活かしながら運動をする様子は肩の力を抜いて楽しむことが出来ました。
それぞれのキャラクターたちが楽しそうにしているのはわかるのですが、中田もなさんの描く円卓の騎士たちはどういう性格なのか、どういう設定なのかをわかる前に作品が終わってしまっているように思えます。
 アーサー王と円卓の騎士たちは、様々な物語でもモチーフが利用されているため、性格や見た目も様々です。
 中田もなさんの描く円卓の騎士がどんなものなのか、初めての読者にはわからないので、騎士たちを紹介してくれたら、軽快なやりとりや関係性などももっと楽しめたかな?と思いました。
 好きなものを描いているのは伝わってきたので、今後も好きなものをたくさん書いてどんどん極めていって欲しいです。

謎の野草
 円卓の騎士が謎空間で本来の時代と合わない大騒ぎ──という辺りで、最初、ソシャゲのFGOの二次創作? と心配してしまったのですが(カクヨムの規約違反なので)、どうやら違うようで安心しました。とはいえ、雪のように白い髪、赤い目などの描写は原典の伝承とは異なります……よね? 彼らはこういう容姿なのだ、というお約束があるのか、作者様の創作なのか──著名なキャラクターには読者の方にもある程度のイメージが既にあるので、それと異なる解釈で創作するならば、どうしてその描写になっているのか、「この世界ではこうである」という世界観の説明が必要であるように思いました。
 また、逆に言えば「ある程度のイメージしかない」のが難しいところでして……私の知識を例に挙げると、トリスタンやランスロットは前から知っていた・そのほかはFGOに登場するキャラなら名前と立ち位置くらいは、という程度です。例えば冒頭でラモラックがガウェインに対抗心を燃やしているようなのは何かあったのかな……原典でも同じなのかな……と、首を傾げていたら試合が始まっていた、という感覚でした。
 本作で描かれた騎士たちはとても楽しそうで仲が良さそうで、作者様が彼らを「好き!」なのはとてもよく伝わってきます。ですが、読者目線では知らない人たちが盛り上がっているのを遠巻きに見ている気分になってしまうのが惜しいです。好きなキャラたちであればこそ、何も知らない読者に紹介するつもりで書いていただくと良いのかな、と思います。

謎の機械
 円卓の騎士と呼ばれる男達(全員男ロボよね?)がルールもよく分からないままビーチバレーで勝敗を期す話ロボね。ビーチバレーのルールが分かっていなくても作中でおおよその説明はされているので助かるロボ。正式ルールじゃないみたいロボけど、それはプレイしている騎士達も同じなので問題ないロボね。
 円卓の騎士の話という事で、円卓の騎士についての知識が無い人には分からない内容になるかもしれないと覚悟をして読んだんロボけど、意外とそんなことは無くて良かったロボね。ちゃんと初見の人の事を考えてどんなキャラなのかという紹介が書かれているのはとても良いポイントロボ。
 ただ、登場するキャラが多い割には活躍するキャラが少ないので、名前が出てきたはいい物のどんなキャラなのか分からないまま終わってしまったキャラも居るのが残念ロボ。パロミデスはボールを熱がったぐらいしか印象に残って無いロボね…
 円卓の騎士のキャラを沢山出す為に4vs4の変則ビーチバレーにしたんだと思うロボけど、これぐらいの短い文字数の短編ならばもっと登場人数を絞ってしまった方が読者の印象に残りやすいなって思うロボ。円卓の騎士のそれぞれの関係性を知っている人が読む分にはそのポジションに居るだけで印象に残るし面白いという部分があるロボけど、円卓の騎士を知らない人にとってはそれはあんまり伝わらないロボ。一応、レギュレーション的に「一つの作品内で物語を完結させる」とあるので、評価的には後者の円卓の騎士を知らない人が読んだという前提の評価になってしまうロボ。
 円卓の騎士を知らない人でも楽しく読める作品ではあるけれど、円卓の騎士の事を知っていないと端々の面白さは伝わらない。という感じの作品ロボね。
 【異能】の部分はガウェイン卿の【太陽の下で能力が上がる異能】という部分だったロボね。これも円卓の騎士について知っていれば(ああそうか)となるロボけど、そうじゃない人にはちょっと伝わりにくかった感じがしたロボ。物語中で説明を入れるとテンポが狂いそうなら、いっその事最初に「ガウェイン卿はこの様な能力を持っている」と箇条書きで書いちゃってもいいと思うロボ。そうすれば円卓の騎士に詳しく無い読者もすんなりと異能が分かるし、どうして太陽の下でガウェイン卿と戦いたかったかが理解しやすくなると思うロボ。

47:その刀、輪を断ち切るか/只野夢窮

謎の有袋類
 異能歴史学入門を書いてくれた只野夢窮さんの二作目です。
 退魔師として活躍する主人公の話かと思いきや、それは夢の世界の出来事だった……というお話でした。
 夢オチというやつですね!夢オチ、マジで難しいと想うのでチャレンジしようと思ったことはすごいなと思います。
 急に最後で世界観に入り込んで読もうとしている読者を突き放してしまう構成なので、個人的にはもう少し主人公が自分の世界に違和感を覚えてくれたりするといいなと思いました。
>退魔士の修行と退治で勉強時間が取れないのに、なんで私はクラスで一位なんだ?
>母さんが十九で死んだって、私をいつ産んだ? なぜ私は母さんの得意技を知っている?

 ここなのですが創作の世界、いくらでも文武両道の天才はいたりしますし、十九などで死ぬも事情があったのかななどの脳内補完をしがちなのでサラッと流されてしまうとヒントとしては少し不親切かな?と思いました。
 ノーヒントで出す真相、読者に喧嘩を売りたいわけではない場合はなるべく歩み寄ってあげたほうが気持ちの良い読後感に繋がるのでは無いでしょうか。
 退魔師についての設定などはとても魅力的だと思うので、読者が受ける印象と裏切りすぎない裏切り方みたいなコツを掴むと、こういう予想外のラストみたいなものが読者にとっても作者にとっても気持ちが良いモノになるんじゃないかなと思います。
 ですが、チャレンジすることはとてもいいこと!こういう講評企画だと試みがうまくいったかどうかもわかりやすいと思うので、これからも色々なチャレンジをして欲しいなと思います!

謎の野草
 一作目は架空の歴史の授業という体裁の作品で参加された只野さん、二作目は打って変わって現代ファンタジー風の作品ですね。正統派の異能&退魔もの──と思いきや、そうでないのが段々分かってきます。
 一話を読んだ段階で、子供の万能感がちょっと怖くて危ういな? という感想を持ちます。退魔士をやっているとこんなに良いことが! というアピールにどこか必死さを感じて、「……本当かなあ?」と疑いながら読み進めることになる訳です。二話で、強敵にたったひとりで立ち向かわせられる主人公の姿を見て嫌な予感は深まります。一話で自慢していたお小遣い5万円が一仕事で消えようとしていましたしね……。良い仕事だと信じ込まされているだけで、親に搾取されているのでは? キャッチコピーの「刀で断ち切る運命」とは洗脳を解くという意味かな? と思って読んでいたのですが──結末は、全く違いましたね!
 結末を知ると、腑に落ちることは色々あるのです。ジャンルが異世界ファンタジーだったのも、現代ファンタジーの間違いかと思っていたのですが、確かに現実世界ではなかった訳ですね。一話の盛り過ぎのような楽しいこと良いことも、技の名前が言っては何ですが厨二病ぽいな、と思っていたことも、全て〇だから、だったのですね。
 作者様が意図して違和感を組み込んで作品を構成したのだろうな、ということは分かりますし、このオチを完全に否定するものではないのですが、初見の読者をなるほどそうだったのか! と納得させるためには、もっと(露骨すぎるほどに)伏線を敷いた方が親切かもしれません。上述したような違和感を感じる描写が伏線なのか設定の甘さなのか、読者には判断できませんので……思った以上に分かりやすくするくらいの匙加減でも問題ないと思います。
 主人公のラストのモノローグは、親御さんたちの気持ちも理解して健全に成長しているのが窺えて微笑ましかったです。ゆっくりと大人になっていけると良いと思います!

謎の機械

 【退魔士の異能】を持つ小学五年生の女の子が主人公のバトル物なんロボけど、最後に夢オチと分かってどんでん返しをされる内容だったロボね。
 前半で語られていていた退魔士になると良い事だらけな部分が実は本人が不満に思っていた部分の裏返しというのは面白い伏線だったし、強敵だった四本腕の魔も車の隠喩だったんだなというのがオチ部分まで読んでから読み直すと分かるんロボけど、退魔士パートが面白いからこそこれが夢オチだった事に凄く残念感を覚えてしまったロボ。
 退魔士としての設定がよく作られているなと思ったロボし、バトルパートもかっこいい戦い方をしていてワクワクしたロボ。だからこそトドメを刺されなかった事とタクシーの運転手が帰ってきてしまった事から(これからどうなるんだろう)と思っていたんロボけど、次の展開に期待してからの夢オチなので、どんでん返し的には成功なんロボけど気持ち的には不完全燃焼ロボね。
 ロボとしては夢オチにするならもっと退魔士の設定に穴を開けて読んでいる最中で読者が流石にこれはおかしいだろと思う矛盾するような部分を増やすとか、逆にバトルで勝利させてこれで因縁を断ち切ったとスカっとさせてから目が覚めるとかの、どちらかに振り切ってしまったほうがいいんじゃないかと思ったロボ。
 個機械的には退魔士の設定もバトルシーンもどちらも面白くてもっと読んで居たいって思ったので、後者の方が嬉しいロボね。夢から覚める覚めないかの葛藤のシーンをもっと長くしてもいいかもしれないロボ。
 後、小学五年生で大人の外見をしている子は割と居たりするロボから、いっその事身長170代とかの何万人に一人レベルの設定にしちゃっても良かったかもしれないロボ。高身長爆乳小学生。夢があるロボね。

48:虫の知らせ/こむらさき

謎の有袋類
 ホラー、情報開示の加減がわからないですね。双子はいいぞ

謎の野草
 主催のこむらさきさんの二作目です。すべてを語らないことで怖さと不気味さを醸す実に厭な(良い)ホラーでした……! こむらさきさんのホラーではよく「田舎」が舞台になるのですが、猫飼いとしては猫の命の軽さが胸に刺さりますね。フィクション、それもホラーのことなので悪いという訳ではなく、(失礼な感想かもしれないのですが)異なる文化圏である、ということの演出として効いていると思います。方言も良い味ですね。標準語で考えている主人公やその娘には怪異の全容が分かっていない──という状況も読者の認識とシンクロしていて、「いったい何が起きるのか?」「どうなってしまうのか?」と考えながら怖がらせる効果になっていたと思います。
 主人公たちに聞こえる「声」、恐らくは本来は生贄と引き換えに予言を授けてくれる存在で、かつては取り扱いも分かった上で利用していたのでしょうね……。時代が下るにつれてコミュニケーション方法が失伝して、この血筋の女性の捕食衝動だけが残ったのでは、と解釈しました。摩耶が夫婦でペットショップを営んでいたという情報も嫌な感じを加速させますね。仕入れ数と売れた数と見せに残ってる数が一致していなかったのでは……夫(父)がどこまで察知していたのか、見て見ぬふりをしていたのかも想像を膨らませます。
 ホラーなのですべて分からなくて良いし、分からないままでも怖かったのですが、ラストの展開について、初読では「この『声』、ここまでできるんだ……」と戸惑いがありました。「声」が引き寄せた可能性に加えて、利香には「虫の知らせ」があったから病院に行くことにしたのだ、というところが重要なのだろうと思いましたので、前話のラストで「綺麗な音がふわりと響く」のところをもう少しはっきり目に書きつつ「ひとりで行けるから」みたいな台詞を入れると(父に連れて行ってもらうのではないという強調)より分かりやすいかと思いました。

謎の機械
 主催の謎の有袋類さんの二作目です。ホラーです。怖いです。
 いや、本当に怖いんロボけどこれなんロボ…ぐみってなんロボよ…しかも最後はトラック突っ込んで来てるし、分かんないロボよ…
 多分、最後のトラックが突っ込んでくる前に「病院に行きたい」と言った個所から、この作品の【異能】部分は【声が聞こえる異能】だと思うんロボけど、もしかしたら【未来予知の異能】もあるっぽいロボ?
 でもそうなると、未来予知をしている人が声が聞こえている事になるし、その声に従った行動をしたら未来予知が出来たという事になるので、結果的にお婆ちゃんはどうやって未来予知をしていたロボ? という怖さに辿り着いてしまうロボ。
 他にもお母さんの日記の不可解な点もこの「ぐみを食べれば虫が未来を教えてくれる」という事を前提にして考えたら色々と分かってしまうロボし、だからペットショップなんロボねという嫌な感想しか出ないロボ。
 うっわぁ……めちゃくちゃ怖いロボよこれぇ……読んだ後に嫌な気分になるホラーはそれだけで大成功ロボもん……
 主催がこれ程の良質なホラーを繰り出してくるのは本当に卑怯だと思ったロボ。

49:酒呑の見る世界/マツムシ サトシ

謎の有袋類
 前回は「灰色の都市の君」で参加してくれたマツムシサトシさんです。参加ありがとうございます。
 酔うと不思議な影が見えるという異能がある主人公が、影のような人達の営みを見ながら酒を嗜むお話でした。
 嗜むというか、完全に深酒をしてますねこれw迎酒をするんじゃあないよw
 二日酔いを癒やすために精力の付きそうなモノを摂取し、流れるように迎酒をキメていることに笑ってしまいました。
 家に帰った後に主人公が異変を覚え、行きつけのお店に行ったときに理由がわかるラスト……。丁寧な構成でとても読みやすい作品でした。
 酒テロから始まる作品なのですが、一行目から「影が見える」と言ってから今日も見えるかな的な感じでお酒を飲み始めると初手パンチが決まって読者に親切かもしれないなと思いました。
 全体的に丁寧な描写と、酒テロ、そしてどことなく温かな雰囲気の漂う作品でした。
 影の人達、割と気のよさそうなみなさんなのであっち側、楽しいのかも知れない。
 今後もコンスタントに作品を書いてくださるのを楽しみにしています!

謎の野草
 前回のこむら川では竜と人の異種間交流の物語が印象的だったマツムシさん、今回は現代ものでのご参加です。
 酒を飲むとヒトのような「影」が見えるという不思議な能力を持った主人公の酒飲みライフ──と思っていたら、だんだん現実と異界の境界があやふやになる恐怖を味わいました。ジャンルは現代ファンタジーとのことですが、立派なホラーだと読みました……。
 最初は、ほっこりした飯テロものかと思ったのです。お通しを見てから飲む酒を決める気持ちの流れ、升に注ぐ冷酒の味と香り。二日酔いの朝にはプレーリー・オイスターを作ってから迎え酒、と。飲むのが本当に好きなんだなあ、と伝わって来てダメな大人の日常を少し不思議な「影」と共に覗き見る感覚のお話なのかな、と思ったのですが。気付いたら午後5時、のあたりから何だか雲行きが怪しくなっていきましたね。深酒ゆえに目覚めるのが遅かったにしても時間の経過がおかしくないか、仕事を気にする様子がないのは(土日だった?)なぜなのか、と。そう思うと、二話で支えてくれたのは何者なのか、「ヒト」という表記は人とは違うものを示しているのか、そもそも影って……? と今まで見えてきたものがすべてアテにならないのかも、という不確かさがじわじわと怖く迫ってきました。読者視点だとどんどん深みに嵌っていっているのが見えているところ、今日も楽しく飲みに行くつもりの主人公との気持ちのギャップで手遅れ感にハラハラさせられました。崩れていく仮名表記に主人公は気付かないままなのがまた怖い。酒飲みライフはどの世界でも変わらないようなのは彼にとっては良いこと、なのでしょうか……。
 呑んだ時に思い出したら酔いが醒めそうな、あるいはもっと呑んで振り払いたくなるような、良いホラーでした。

謎の機械
 【酒を飲むと人型の煙が見える異能】の人が泥酔して煙側の世界へと言ってしまった話ロボね。
 タイトルの通り最初から飲み屋から始まって、日本酒を飲んで、飲みすぎて帰宅して、迎え酒をして、そこからまた居酒屋に行くという酒のダメな人間の行動そのものなのが面白いロボ。お通しでタコワサが出るのは確実に良い店なので毎日通いたくなる気持ちも分かるロボけど、その飲み方は絶対に内臓を悪くするの味方ロボから早く死ぬロボね。ロボみたいに機械の体にすればガロンで飲んでも大丈夫ロボけど、人類は弱い生き物ロボから気を付けたほうがいいロボ。
 内容としては特に大きな事件が起きる訳でもなく、煙側の世界へ行ってしまったという事実が提示されて終わる少し不思議なホラーなんロボけど、不思議とあんまり怖さは感じなかったロボ。煙が特に悪さをしているという訳ではなく、煙も煙で生活をしている描写があるからロボかね。
 文体もお酒には詳しい描写も少し不思議ホラーにぴったりな感じで良くて、特に言う事は無さそうな感じロボ。敢えて言うとしたら、もっと酒とメシの描写を増やして読み手に酒テロ小説やメシテロ小説と言わせるレベルまで持っていくとマツムシサトシさんの個性として生きるんじゃないかと思ったロボ。殆どの事は結構いい加減なのに、酒やメシについてだけは真剣な人類というキャラを嫌いな人類はそうそう居ないロボ。
 後、これはロボが勝手に感じただけなんロボけど、泥酔して倒れそうになった時に助けてくれた人ってもしかして巨乳お姉さんロボ?
 全然そういう描写無いのに、なんとなくそう思ってしまったロボ。まさかこれがマツムシサトシさんの異能ロボか? 怖いロボねぇ…

50:明日の話/味付きゾンビ

謎の有袋類
 前回は謎の有袋類の心をめちゃくちゃにしてくれた味付きゾンビさんです。今回もやりやがったな!!!!!!!
 未来視が出来る少女のお話で、防備録のような感じで淡々と描かれていくのですが、シンプルな文体とドライな語り口なんですけど情報が多すぎないからかスルスル読めるし、一方的にガンガン話しかけられてる感がないのが「なにこれ……すごい」ってなりました。
 万能では無い。未来は変えられないどころかより酷くなって自分の前に訪れるという学習……それを大切な人の死で学んで行くのもめちゃくちゃ心が痛む。
 人の心がないゾンビ……。
 一瞬、子供を産んだところで「転生したのか?」くらいに思ったんですけど、次話で能力を失っただけというのがわかってよかったです。
 そして子供からのメッセージ。ねえ……もうーーーー!
 一話目から「この話をします」と初めて、情報開示や突っこみどころを潰していくって形、展開や構成がうまくて、色々な人のお手本になりそうな作品だと思います。
 本当に人の心をめちゃくちゃにするのが上手!これからも僕の心をめちゃくちゃにしてください。

謎の野草
 はからずもホラーテイストの作品が続いていますが、本作もここまでの参加作品とまた違った角度の怖さで冷水を浴びせてくれた作品でした。
 この作品の巧みなところは、二度、読者の持ったイメージを壊してくれるところです。講評で大々的にネタバレをするのもこれから読む方の楽しみを奪うので良くないとは思うのですが、構成の凄さを語りたいので内容の詳細に踏み込ませていただくことをご了承ください。
 「未来を断片的に見ることはできるが変えることはできない」という便利なような不便なような異能を持ってしまった女性がその能力とどのように生きていくか、という苦しみを描いた前半部分、ここだけでも読者は彼女の度重なる「失敗」に心を痛め、結果が分かっていながらその時がやって来るのを待つしかできない状況への絶望に惹き込まれて行きます。無題の11話目目での「未来が見えない」という記述に彼女の死を予感して、それが救いになるのか、夫や子供を残して死ぬことを彼女はどう感じながら逝くのか、と性急にページを捲ることになります。
 そして一度目のどんでん返し──彼女は生き延びて力を失う、という展開でやっと肩の力を抜くことができるのですが、良かったね、で終わらないのがこの作品の真価です。最後の一話のたった一行で何も終わっていないこと、彼女と同じ苦悩を娘も追っていくことが嫌というほど伝えられて、一度安堵を覚えかけただけにより深い恐怖と絶望に突き落とされる──とても、完成度の高いホラーでした。前半に尺を取ってこの異能があることの苦しみをじっくり描くからこそ「その後」がありありと想像できるというペース配分、子供が生まれたから力がなくなった、という展開の、読者を完全に安心・油断させる説得力、からの一行のオチの破壊力。短い中に構成力の光作品を堪能させていただきました。

謎の機械
 【予知能力という異能】を持った女の子の一生のお話ロボね。
 予知した未来は必ず訪れるという未来予知系のあるあるのテーマ通りの内容なんロボけど、最初からそれが当たり前かつ他の人もそう思って生きてきたから特に不便に思っていないし当たり前として受け入れて生活して来たという話の展開の仕方は面白かったロボ。
 この受け入れていたという部分の説明があるからこそ、逆らってみた時のより悪くなる結果に耐えれなくて逆らわない様にしようと決めたので、子供を産んだ後に自分の未来が見えない事も承知で出産したんロボよね。
 そして出産後の未来が予知出来ないという事は死亡してしまうのかと読者に思わせてからの、まさかの異能消失なだけの生存。読者の悲壮感を裏切るとても嬉しい展開ロボ。
 異能を失った事が良いのか悪いのかは本人にしか分からないロボけど、これでこの話は終わりなんだなと読者に一段落をさせ、良かった良かったと思わせてからの実はまだ終わっていませんでしたという本当のオチ。
 娘から届く予知の内容。従わなければ自分が死ぬけど、予知に逆らったらもっと悪い結果が待っているという究極の選択。おのれ作者め! 人の心を持たない人類か!!  と、感じてしまったロボ。
 そう感じてしまうという事は心を動かされたという事で、そうやって感情を問わず心を動かす事の出来る作品というのが名作だとロボ思っているロボ。流石という感想が出たロボね。まあ、ロボは心を持っていないから心を動かされたりなんてしないんロボけど?
 短く章を区切るのも場面転換をしたというのが分かりやすくて良かったロボ。ただ、最後の章タイトルだけ携帯電話に届いたメールとリンクしているというか章タイトルも含めないとオチとして認識できない形だったので、章タイトルを気にせずに読み飛ばしている人にはオチが分かりにくいかもしれないと思ったロボ。
 一行で終わるインパクトを重視するか、章タイトルを読み飛ばす人に優しくするかの違いなので、これはもう好みの問題ロボね。

51:ベスト・ルームメイト/鰹 あるすとろ

謎の有袋類
 こむら川でははじめましてのあるすとろくんです!参加ありがとうございます。
 異能に対して王道!とも言える学園バトルモノでした。正反対のバディ、直線と曲線の対比、すごく大好きです。
 バトルシーンや、ヒズミと進のやりとりなど伏線の張り巡らせ方や、キャラクターの魅力の描き方など非常に巧みだなと思いました。
 これは個人の好みなのですが、長編の第一章だったら多分ちょうどいいと思うのですが、短編だともう少しテンポ良くスタートしてもいいかも?
 いきなり不良とバトルをして、その後で「自分のモットーは真っ直ぐに、生きること」と示すとスッと入ってきやすいかもしれないなと思いました。
 部屋番号のミスは多分ちょっと強引かな?とは思うのですが、そんなことは些末なこと!ヒズミと進が出会えたことが最高!となれたのですごいよかったです。
 物語のエモさで細かいことは全部吹き飛ばせるパワーは武器になるので、これからもどんどん伸ばして欲しいスキルだと思いました。

謎の野草
 少年漫画の読み切りのようにスピード感があり、起承転結のめりはりが効いた作品でした。主人公の性格も実に主人公的な正義漢で分かりやすく、先生とのコミカルなシーンを交えてもうひとりの主人公の紹介、対立、からの共闘と、展開も心理描写もスムーズでした。印象に残っているのはオムレツのシーンですね。ずぼらな人の冷蔵庫に入っているのが卵くらい、というのは説得力がありますし、ささっと綺麗にオムレツが作れる男子はポイント高いのです。
 ちょっと引っかかったのが、三話の「その結果他人に迷惑をかけて恨みでも買ったら、元も子もないだろうに。」というモノローグでした。正義一徹の主人公、他人のために異能者との戦闘も躊躇わない彼にしては、後ろ向きな考え方に見えましたので。彼が正義にこだわる切っ掛けになった苦い思い出があるのかな? 彼自身が孤立したことがあったのかな? などと予想して読んでいたのですが、そういうことでもないようですので、あくまでも善意でヒズミを案じての言動だった、としたほうがスッキリしたかと思います。
 最後まで読むとタイトルの意味が分かる、という構成ににやりとさせられました。ヒズミの答えは聞かずもがな、ということで……タイプの違うこのふたりですが、きっと絆を深めていくのだろうな、と想像の膨らむラストでした。

謎の機械
 【異能】を持つ学生達がクラス学園での異能バトル物で、ここから恋愛物にもラブコメディにもなれる可能性を秘めた作品ロボね。いいロボいいロボ。こういうストレートな男女バディ物は後の展開が楽しみで嬉しくなっちゃうロボ。
 実直な主人公とダウナーはヒロインの組み合わせはそれだけで色々と展開を起こせるし、体を張って策略を巡らす教師も絶対トラブルメーカーなんだろうし、ヒロインと一緒に逃げようとした少女も何らかの異能があるから学園に居るんロボよね。13000字をフルに使った作品でレギュレーション上ではこれ以上話を展開出来そうにないロボので、いっその事この話をプロローグ兼第一話として長編を書いて欲しいって思っちゃったロボ。
 敵側の炎の巨人の描写も化け物感が凄いして良かったのでこれ一回切りで終わって欲しく無いロボしね。次は空を飛ぶドラゴンとかになってくれるとロボが喜ぶロボ。
 全体的に面白くてワクワクしてとても良かったんロボけど、ちょっと異能について気になる部分があったロボ。
 ヒロインの異能は【目に映るモノを歪めて反らす異能】という事で色々と応用が効きそうな異能なんロボけど、主人公の異能は【必ず相手に攻撃を当てる異能】という事ロボよね? ということは、竹刀が光るのや光波を飛ばせるのや雷と同化して高速の打撃を与えるのは異能じゃなくて純粋な技術なんロボ? 作中に異能は一人一つまでという縛りが書かれていないので異能が複数あっても問題無いとは思うロボけど、主人公が口にしていた異能だけでは説明できない攻撃をしていたので、その部分が気になっちゃったロボ。この異能なのか異能じゃないのかという部分もこの先の話で明かされていくのかもしれないと思うと、やっぱり長編作品として読みたいと思ってしまうロボね。
 後、章タイトルの付け方がかっこよすぎて、それだけでロボはこの作品に五億点を入れるロボ。こういう言葉遊び大好きなんロボよね。アフターストーリーで零にまつわる話があったら嬉ションしながら読むと思うロボ。ロボはおしっこしないロボけど。

52:Disaster Red/草食った

謎の有袋類
 前回はチャレンジングな一作を投げ込んでくれた草さんです。参加ありがとうございます。今作はAIであるルベールと一人の異能を持つ少年レッドの交流のお話でした。
 めっっちゃ好きです。レッドくん、お肌が褐色でも白でも好きです。ええー。拘束されたショタからきっと細身の綺麗なお顔の青年になったのでしょう。らぶ。
 前半の「正の感情しか持たない」というルベールの定義づけを徐々に崩していき、最後に爽快感のあるラストを持ってくるの本当に気持ちが良くてよかったです。
 カタルシスの作り方がめちゃくちゃ最高でした。
 disaster、災害とか災厄という意味なのですが、レッドを人を滅ぼした災厄にしたのは誰なのか。
 キャッチコピーにあるセリフもすごく好きで「おれ」って一人称なのに二人称は「あなた」なのがね……良すぎる。五億点です。おのれ草さん!
 誰もいない世界で、歩き出したレッドとルベールはどんな会話をして、どんな旅をするのか……これから先の二人へ思いを馳せたくなる素敵なお話でした。

謎の野草
 童話、ホラー、BLと多彩なジャンルを書かれる草さんですが、SFを拝読するのは初めてかもしれません。AIをテーマの作品なのは、もしかしたら闇の機械さんを狙い撃ちされていたのかもしれませんが、私にもしっかり当たりました。AIが獲得した魂的なもの、同胞よりもAIに心を寄せる人間、お前がいない世界はいらない、いずれも大好物です。
 少年レッドとAIのルベールの、閉ざされてはいても平穏な生活は、ルベールがAIであるという一点によって保たれていました。「夢を『人間』に話すと実現してしまう」という不吉な異能を持つレッドにとって、災害を起こさずに語り合える相手がルベールだけだから──という構図だけでもときめくのですが、少年の孤独に寄り添うAIという美しい物語ではないのがすぐに分かります。ルベールはレッドの異能を利用するための監視役も兼ねているし、レッドのほうもルベールを試すような出し抜くような、不穏な言動を繰り返すからです。レッドとあまりに多くの時間を過ごしたからでしょうか、人間性らしきものを獲得していくルベールに対して、(ルベール「視点」で記述されてるからでもありますが)レッドの考えは底知れず、読者目線だと恐ろしさも感じ、読者の心の揺れがルベールの視点に人間性を与えていくという相乗効果を演出していると思いました。
 物語の結末として、読者は「ルベールが『人間』になることで、レッドの予知夢を実現させる資格を得てしまう」という着地点はあるていど想定して読んでいたのですが、そこに至る駆け引き、ふたりが実現させたい「夢」は何か、という部分で予想も期待も越えた清々しい結末を見せていただいた思いです。互いに理解者であり友人であるという優しく美しい関係にとどまらず、自身の「人間性」を利用しようとするルベールの狡猾さ、人間のいない世界を望み続けていたレッドの破滅願望が綺麗に組み合わさったラストは、来るべくして来た世界の終わりでした。
 「ふたりきり」でどこまで生き延びられるのかが不安でもあるのですが、最後まで一緒にいるのだろうと信じたいものです。

謎の機械
 当方、機械がプログラムに書かれた内容を「自分」で判断し、製作者や使用者が「望む以上」のパフォーマンスを発揮するのが大好き侍也。(二回目)
 それが自我の芽生えであり、魂が宿る瞬間であり、電気信号でしかないAIが「無機物の脳を持っているだけの人」へと成り立った瞬間だと判断して候。
 【人に聞かせた想像の話を現実にする異能】のせいで拘束されている少年の管理AIを「人」にして、少年が願う通りに能力を発動させるという展開が大好物すぎるので八兆点です。ロボ
 凄く性癖にマッチしているので贔屓レンズに見てしまってまともな評価が出来ないんロボけど、多分こういう少年と異形のバディ物はAIやロボットが人に成る事が性癖なタイプじゃなくても楽しめる作品だと思うので問題ないロボよね。要は価値観が違う者同士が歩み寄る事にカタルシスを覚えるとか、そんな感じの物ロボ。
 まず何がいいかと言うとロボね、AIは負の感情を持たないと予め説明してあるのと、その理由が合理的なのがとてもいいんロボ。この時点でこのAIはまるで人類の様に受け答えをする存在なんロボけど、明らかにまっとうな人類では無いという説明がされているんロボよ。
 最初から人類と同じ物を目指して作られたAIでは無く、わざと人類に成らない様に調整されているAIなんロボね。でないと少年の能力が発動してしまうからこれで大正解なんロボけど、その「わざと人類に成らない様に調整されている」というAIが少年と共に成長した結果、人類になってしまうというというのがAIを制作した人類や少年を監禁した人類に対しての物凄い皮肉で仕返しになっているロボ。これだけでロボはオイルが五杯いけるロボ。
 最後に二人だけで旅に出るのも良い終わりだったロボね。これから二人は人類の居ない世界を巡るんロボろうけど、人類は居なくなってもロボットやAIは残っているロボ。レッドとルベールが彼等と出会った時、彼等はロボットとAIのままなのか、それとも新しい人類になっているのか。色々と楽しみロボねぇ。
 二人の旅路に祝福があらん事を祈ってるロボ!

53:隔ての空/宮塚恵一

謎の有袋類
 前回はハードボイルドな機竜の出る傭兵と少女の話とアオハルものを投稿してくれた宮塚さんの作品です。参加ありがとうございます。
 空に謎の円が見える人と見えない人がいる世界のお話。円が見える主人公は、友人である咲凜の動画配信の素材を集めるために一緒に行動しているが、実は異形と化したかつての知人を匿っていて……という導入から始まるお話です。最後はちょっと切ない感じでした……。
 主人公の本当の異能は、死んだ人を記憶と引き換えに短時間だけ蘇らせる能力?でいいのでしょうか?間違えていたらすみません。
 序盤の探索パートと後半の回答パートで気持ちのいい伏線回収があったり、最後の話でタイトル回収するのがすごく好きです。
 一万字前後の作品としてはかなり要素がもりだくさんで、中盤以降ちょっとごちゃっとしてるかも?
 三万字~五万字くらいでのびのび書いた方が、敵役の正体がわかる部分や、主人公の異能の説明をもう少し入れられるので多分お話の良さを活かせるかもしれないなと思いました。
 物語の骨子を作る能力や、文章力は抜群に高い作者さんだと思います!これからもたくさん作品を書いて欲しいなと思いました。

謎の野草
 空に現れた光る円、それが見える人と見えない人の間での分断、異能者の発生──と、不穏な異変が起きつつある世界であくまでも主人公の心情と周囲だけにスポットをあてたSF作品です。この世界とは異なる世界を覗き見て考察するのもSFの楽しみということで、特異な現象に対するSNSなどでの反応がリアリティがあって興味深かったです。
 細かな描写が伏線になっているのがお上手でした。例えば、咲凜のスマホのキーホルダーが誘拐を確信させるヒントになるところ、ユークリの声を主人公が認識した描写があった上で対峙のシーンに繋がるところなど。阿澄さんの瞳孔が開いていたのは変異の描写ではなくて、違う理由があったんですね……。恐らくは念願の光る空をやっと見て、その意味に気付かないラストの咲凜、無邪気な喜びが切なかったです。決して長い物語ではないのに、断片の記憶や描写の端々から主人公が咲凜に抱いていた感情の深さ大きさが伝わるようになっていたのがお上手でした。居場所がないというラストのモノローグ、異能に目覚めたからというよりは咲凜を失ったから、という意味なのかと思いました。彼女が仮初にもこの世に留まれる時間は長くないとのこと、その後に主人公がどこに行くのか、想像を膨らませられます。
 余談になりますが、「水槽の中の脳みそ」理論は、人の認知が信用できないという意味だけではなく、水槽を作った何ものかに思いを馳せずにはいられなくて胸がざわざわします。本作においても世界に綻びをもたらす存在がいるのだとしたら物語が膨らみますね。

謎の機械
 空に謎の円盤が現れ、それを見える人と見えない人が発生した世界での異能バトル物の作品ロボ。その円盤が見える人が【異能】に目覚めるという設定で、主人公がこれから【異能】に目覚めるのかと思いきや既に【死者を一時的に蘇生する異能】に目覚めていたというのが凄く良かったロボ。ハッキリとは書かれていないけれど好意的に思っている相手を蘇らせてしまった主人公がこれからどうするのかが楽しみロボね。
 最初に会話をしていた水槽の脳の話や、阿澄さんの開いていた瞳孔、そしてVチューバーの声と、読者に分かりやすく配置した伏線を回収するのがとても上手くて、読んでいる最中に(ここれあれか!)という気付きが起きるのが凄く良かったロボ。話の作り方も起承転結がしっかりしているし、何より章タイトルがその章の内容をいい感じに現しているのもスッキリしていてカッコ良かったロボ。
 恐らくこういう言葉遊びとか出来事の因果関係をきちんと作るのが得意なんロボね。それはとても素晴らしい武器だと思うので、どんどん使っていってばんばん良い作品を作って欲しいロボ。
 ただ、一点だけ気になったというか作品の良しあしにはあんまり関係ないロボけど、阿澄さんが蟹? の異形になっていたのはなんでだったんロボかね。目覚める異能がなんとなく持ち手の素質に寄るみたいな感じがするっぽいんロボけど、そうなると阿澄さんは蟹に憧れでもしていたんロボ?
 主人公の異能もどうしてその異能に目覚めたのかの説明ははっきりとはされていないので、この部分があったらもっと良かったなって思うロボ。だけど、レギュレーションの13000字ぴったり使っているんロボよね。
 ほんのちょっぴり文字数が足りなかったんじゃないかって感じがするロボけど、この文字感覚は慣れている人でも難しいので仕方ない気もするロボ。でも今のままでも凄く面白かったロボ。素晴らしい作品をありがとうロボ!

54:言わぬが花の乙女なり/志村麦

謎の有袋類
 スーサイド・マーダーを書いてくれた志村麦さんの二作目です。
 言葉で人を従わせられると思っている主人公と、その周りのお話でした。
 これは多分故意に能力があるというミスリードを誘っているけれど、本当はそんな力が無いという思い込みが強い主人公ということでいいのでしょうか?間違っていたらすみません。
 少し暗く、一度救えたと見せかけて突き落とすタイプのお話で、お話の構成もおもしろかったです。
 一度恋愛っぽく見せて、いい感じになりそうだった相手が死んだ部分だけ「なんでも言うことを聞く奴隷だから」で片付けて良いのかな?やっぱり力があったのかな?となるのも良い塩梅だなと思いました。
 これは好みの問題なのと、僕の読み解く力がちょっと弱いからなのかもしれないのですが能力があるのかないのかわからないとモヤモヤしてしまうので「こうですよ」ともう少しだけわかりやすく誘導してくれると個人的には助かるなーと思いました。
 スーサイド・マーダーに引き続き、どことなく湿度の高いダークなお話を書くのが得意で好きな作者さんなのだと思います。
 どうすれば読者の心をもっとズタズタに出来るのか考えると更に好きなことが出来るのでは無いでしょうか?
 今後の作品も楽しみにしています!

謎の野草
 一作目はダークな異能ミステリで参加された志村さんの二作目、こちらもなんとも暗い味わいの百合でした。作者様の意図通りの読み方ではもしかしたらないのかもしれませんが、私は百合だと認識しました。
 一作目も小説ならではのギミックがあったのですが、本作でも一人称を利用して読者を疑わせる匙加減がお上手でした。「口にしたことを実現できる異能」を持っていると認識している主人公ですが、本当にそうなのか、ひろちゃんの事件は偶然で、そのように思い込んでいるだけでは? と。そのような疑いを抱かせるように描写したうえで、二話でその疑問を肯定し、救いがあるように見せかけてからのもう一段階の「真実」が襲う──のですが、その「真実」も伝聞に過ぎないところがポイントになるのではないかと読みました。
 私の読解だと、ひろちゃんは巧みに主人公の心を揺さぶったうえで彼女の懐に深く入り込んだように見えたのです。信者がいるほどの可愛らしさだったという主人公の、誰も教えてくれなかった「真実」を突き付けてくれた存在として唯一無二になりたかったのでは、と。そう思うと隆の行動は奴隷の忠実さというよりは女王様の寵愛争いという性格もありそうだし、三隅さんの怒りは正義感だけでなく魔性の女への嫌悪や嫉妬もありそうです。……と、深読みのし過ぎの捩じれた感想かもしれないのですが、想像の余地がある、味わい深い後味の悪さでした!
 少し引っかかったのが、主人公に対するフォローがあまりにも少ないこと、ですね。クラスメイトからの仕打ちについてはそれまでの言動のしっぺ返しということで理解できるのですが、親や先生については治療やいたわりが必要な存在に見えるのではないのかな、と……。色々手を尽くしてくれたけど、頑なな主人公の態度に匙を投げられて今に至る、というような記述があると納得感が増すかと思いました。

謎の機械
 【口にしたことを現実に変えてしまう異能】を持った女の子の葛藤と解放のお話だったロボね。
 登場人物はほぼ全員十代の子供なんロボけど、その子供が好奇心とか独占欲とか好意とかで行った事がそれぞれ複雑に絡み合って一つの事件を起こしていて、その事件によって主人公の女の子の葛藤が産まれ、その真実が分かったから解放されたと思ったらそれが本当に真実なのか全く分からなくなってしまうという、主人公だけでなく読者でさえ何を信じたらいいのか分からなくなっている内容は見事の一言ロボ。現代ドラマのジャンルになっているロボけど、ミステリーでも通じる内容なんじゃないかと思うロボ。
 ただ、この複雑さは読者によって結構好みが分かれる部分だと思うロボ。誰もが自分以外の人間の本意を理解出来ないのだから何が真実か分からないのは現実もそうなんロボけど、特に小説では明確に答えが分かったほうが読者に受けやすい部分があるロボ。色んな物がうやむやなまま終わってしまっているのは読み手によってはすっきりしないので、後日談なんかでもいいのでちゃんとした答えを示しておくと万人受けはすると思うロボね。
 その部分に合わせて異能が実際にあったのか無かったのかも曖昧になっているのもちょっと気になる部分ではあるロボけど、これは本人が異能を持っていなくても異能のテーマの作品としては多分セーフなので大丈夫とは思うロボ。異能がテーマな所に異能を持っていると思い込んでいる(かもしれない)主人公を出すというのは中々面白い試みだと思うロボので、それだけで個機械的にはポイントを進呈しちゃうロボ。

55:I know/川谷パルテノン

謎の有袋類
 前回は「春ピュア」というドタバタラブコメを書いてくれた川谷パルテノンさんです。
 今作は心霊探偵モノというのでしょうか? ダークな雰囲気の呪いや都市伝説をモチーフにした作品になっています。
 複雑に絡み合う人間関係や、都市伝説を利用した呪い、そして明かされる真実……など多分作者さんの好きなことがたくさん詰め込まれているのかな?と思いました。
 西野カナ『私たち』を聞いたことがないのでわからないのですが、好きな人だともっと要素を拾えるのかもしれません。
 すごくボリューミーな内容の作品なのですが、そのために登場人物がたくさん出てきて短編だと一度読んだだけでは「誰が誰で何をしてるんだろう」と把握するので手一杯で物語に入り込むのが少し難しかったです。
 一万字前後の短編の場合、メインの登場人物は二人、ないしは三人がベストだと思います。鮠眉さんと燁子か、詩乃生と梓どちらかの組み合わせだけに集中した方が多分伝わりやすいのかな?と思いました。
 鮠眉さんのキャラクターはとても魅力的なので、連載形式にして、最後の事件とかにこのお話の文字数気にしないバージョンがあるとしっくりくる気がします。
 読み解けているか自信は無いのですが、独特の呪いに対するロジックや興味深い都市伝説へのアプローチ方法は読んでいて面白かったです。
 今後も好きなものをたくさん書いて行って欲しいなと思いました。

謎の野草
 みんな大好き都市伝説をテーマにした作品です。「観測者が死んでいるのになぜか伝わっている」というあるあるを踏まえつつ、スマホで伝播するというアップデートが加わっているのが現代的で面白かったです。
 「鮠眉に雨男の怪談を教えたのは亡くなった恋人だった」「詩乃生と梓は三角関係にあった」「詩乃生にとって梓はヒーローだった」などの情報、物語の展開上でもキャラクターの関係上でも非常に重要なものだと思うのですが、それらの情報が必要な場面になって初めて提示されるのが少々もったいなかったです。それぞれの情報について事前に提示されていれば、トンネルに入る時にもっとドキドキしたり、鮠眉を訪ねた時の詩乃生に感情移入したり(後悔や後ろめたさが発生すると思いますので)と、ストーリーの起伏とともに読者の感情もより盛り上がることができただろうと思いますので。衝撃の事実! の驚きももちろん良いものですし、すべての情報を最初に並べる必要もないのですが、読者には設定やキャラクターを把握する時間がどうしても必要なので、冒頭から少しずつ物語に導入して「慣らす」時間というか尺を取った上で展開を動かしていただくと、より読者の心を揺さぶることができるのではないかと思いました。
 少女ふたりの微妙な関係、感情やラストの鮠眉の苦い後悔が良い雰囲気でした。エモさを存分に伝えるようなエピソードの積み重ね方、情報の出し方を意識すると良いのかと思います。

謎の機械
 都市伝説を伝えた友人が死んだ事から始まるオカルト物で異能を持っている探偵物による事件解決の話ロボね。
 【異能】は探偵役が【凶祓いという異能】を持っている部分と、依頼人の女の子や被害者の女の子が【他者に影響を及ぼす呪いを使う異能】に目覚めたという部分ロボかね。もしかしたら凶祓いという言葉と対になるような呪いに関する専門用語もあるのかもしれないと思ったロボ。
 様々な伏線や人間関係が練り込められたストーリーで、一つの物事が解決しそうになっても次々に新しい物事へと続いていく流れはとても面白かったロボ。最初の都市伝説の話から探偵役の過去を巡り、男女関係を経て、最終的には一番最初の依頼人の女の子と被害者の女の子の関係に戻って来る。ちゃんとそれぞれが繋がる様に仕掛けを仕込んであるのは凄いロボ。
 ただ、その次々に新しい物事へと続くのやそれぞれが繋がる仕掛けの部分がかなりギュッと押し込められている感じがして、読んでいて一つ一つの事件の余韻に浸る暇が
無いままノンストップでエンディングに辿り着いてしまったという感じがしたロボ。
 個機械的には最初の二人のシーン、探偵事務所のシーン、トンネルに行ったシーンの様な場面展開をした部分は章を区切って次の章で書き始めてもいいんじゃないかと思うロボ。それか、段落を一行だけでなく五行ぐらい開けるとか。そうすれば読者が一旦そこで情報を整理してから次に移る事が出来ると思うロボ。
 次から次に情報を詰め込まれると咀嚼が上手く出来ない人は古い情報から抜けて行ってしまうので、せっかく張った伏線が気付いて貰えなかったりキャラの心情を理解してもらえなくて作者の伝えたい事が伝わらない場合があるロボ。
 こういった読者が一旦情報を整理する部分も含めて、もっとゆったりと文字数を使った30000字ぐらいの中編として使ってもいい内容だとも感じたロボね。
 シリーズ物にも出来そうなキャラ設定ロボし、いっその事長編として再構築するのも面白いかもしれないロボね。というかロボが読んでみたいロボ。

56:〝架空の犬〟/アオイ・M・M

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 架空の犬が見えるという少年のお話でした。犬、最初はブラックドッグ的なものかなーみたいに思っていたんですけど、なんらかの守護霊?的なサムシングでした。
 お話の最後にぽーんと突き放されるのが独特の気持ちよさがあってすごくよかったです。
 おばあちゃんは、何か気が付いていたのか、小さな犬の被害や何かが出ていたのかちょっとだけ気になります。真鍋くんの主観で描かれていて、故意に関連しそうなことを避けていると思うので難しいのですが、あと一、二件犬関連の何かがあったみたいな仄めかしがあると読者にも親切なのかなと思いました。
 全体的にゆるゆると進む犬の話が後半になるにつれ、どんどん真相が明らかにされていくターンはすごく面白かったです。
 卯月さん、強い……。
 アオイさんは連載してる吸血鬼の話も最高なので、この作品の文体とかリズムが好きな人は連載作品も見てみると良いかも知れません!
 これからもコンスタントに作品を描いていって欲しい作者さんです。

謎の野草
 犬(らしきもの)が見える、という異能にまつわるホラーです。歴史・時代ジャンルだと思って開いたら現代ものでしたので少し驚いたのですが、歴史・時代「伝記」に該当すると判断されてのジャンル選択だったのでしょうか。この作品でしたら、現代ファンタジーかホラーのほうが読者の認識とのギャップが少ないかもしれません。
 不思議に思いながらも主人公が受け入れてきた「犬」はいったい何なのか、主人公は知らずに禁忌を犯してしまっていたのか、というところがストーリーの軸であり、恐怖の核になっているかと思います。平和なキャンパスライフの情景から、卯月さんとのやり取りを通して、じわじわと追い詰めるように恐怖と不安が迫ってくるのを(ホラーとしての読み方をさせていただいたので)楽しませていただきました。ただ、犬の不気味さ以上に、おばあちゃんのことまで詳しく知っている卯月さんはいったい何者!? というところが気になってしまって本筋に集中しきれなかった部分もあるかもしれません。彼女にも異能があるのか、犬と対比してとても気になる「虎」との評には理由があるのか──設定があるようでしたら、少しでも匂わせていただけると良かったです。
 本筋の不気味さとは別に、主人公の少し惚けたモノローグが面白かったです。おばあちゃんの回想での大往生のくだりや、思わず武将調になるツッコミなど。卯月さんも、うどんで釣れるちょろさや不敵な雰囲気が可愛かったです。服を汚さないカレーうどんの食べ方はぜひ教えていただきたいですね! 大学の食堂、恐らく各自料理をトレイに引き取る形式のところが多いのではないかと思ったのですが、作者様のところでは運んでくれる形式だったよ、ということでしたらすみません。

謎の機械
 【視界の端に架空の犬が見える異能】の持ち主の男子大学生が、その犬を見ていた事を同級生に指摘されて昼食を共にして会話をするという話ロボね。
 内容としてはそれだけなんロボけど、行間の開け方を使った独特の間や主人公の少し惚けた様なキャラ付けによって作品全体に独特の空気が漂っていて、それによってちょっぴりとホラー味を感じる作品だったロボ。
 話し相手になっていた卯月さんも独特なキャラを持っていて、お嬢様学校卒業生であるのにお嬢様というよりかは女騎士という感じのとても凛々しい女の子だったロボ。
 主な登場人物はこの二人だけで、作品もこの二人が会話をしている様子を描写しているだけロボ。それなのに面白く読めるという事はキャラクター作りを含めた作品作りがとても上手い作者さんなんだと思うロボね。どういうキャラをどう動かすと面白く読んで貰えるかとか、どう行間を開ければ読者にこう感じて貰えるかとか、そういうインターネット上での文章の書き方に慣れている方だなと感じだロボ。
 ロボはこういう雰囲気の作品が好きロボなんけど、最後までこの架空の犬がなんなのか分からないでいる事と、卯月さんが主人公の事にとても詳しい謎という事とイメージが虎な事、この辺りの謎が判明しないまま終わっているのは人によってはスッキリとしない作品というイメージを持たれてしまうと思うロボ。
 せっかくキャラクターが立っている作品ロボから、卯月さんによる牽制だけで終わらずに何か事件を起こしてみるとか、ほんのちょっとだけ黒い犬が出てしまうとか、そういうのがあっても良かったかなと思ったロボ。
 いやー、でも本当に卯月さん可愛いロボよね。卯月さんが主人公のオカルト解決話とかスピンオフであったりしないロボか? ロボは人類では卯月さんみたいな人が大好きロボ。

57:聖娼/灰崎千尋

謎の有袋類
 湿度のあるどっしりとしたファンタジーを描くのが得意な作者さん、灰崎千尋さんが参加してくれました!ありがとうございます。
 第一回の時のは「たわぶれの森の、銀の髪」を書いてくださいました。
 今作は、色っぽい黒髪長髪男娼と、旅人の男性のお話でした。
 時系列が前後するんですけど、男娼が見た夢という伏線の回収と言うこともあり、更に男娼くんが追体験をしているのでモノローグ的にもならず、受け皆体験にならないような工夫があってすごく内容も入ってきやすかったです。
 僕は登場人物の名前を覚えるのが苦手なのですが、赤髪の細身荒くれ剣士、可愛い妹ちゃん、金髪碧眼の騎士様、黒髪長髪男娼とメインの人物の見た目や役割もすごくわかりやすくて登場人物が少し多めかな?と思っていたのですが、パッと読んで誰が何をしているのか、誰と誰がどんな関係なのかもすぐにわかるのがめちゃくちゃ親切で物語の世界に集中することが出来ました。
 祈りが成就したときに夢を見る……切ない終わりだったのですが、それでも最後、体と心を重ねた存在と目が合っていて何かを思えたのなら、絶望しか無い終わりではなかったのかなと思います。
 すごく良い作品でした。

謎の野草
 眼鏡愛の印象が強い灰崎さんですが、信仰森小説大賞に出された「白銀の巫子」など、ファンタジーやBLもとてもお強いです。本作も異国情緒が馨る中に巨大感情が渦巻く良いBLでした……。
 一話目を読んだ段階では、聖娼の少年と客の男の物語かと思ったのですが、メインとなる巨大感情はむしろレオサムとシャルカの間に渦巻くものだと読み取りました。そもそもは立身出世を目指していたというシャルカ、いつからかレオサムに認知される、に目的がすり替わっているのに無自覚なのが闇が深いです。凶行に手を染めていく様に嫌悪感を覚えると同時に、見事レオサムの復讐の対象になることに成功したことに対しては称賛めいた思いまで感じてしまいました。同じところに堕ちたレオサムを見てほぼ同時に斃れることができて、さぞ満足だっただろうと……。
 これは、大人の男ふたりの因縁への感情移入し過ぎた私の読み方が間違ているかもしれないのですが、聖娼の少年については三角関係(?)の一角を担うには存在感が足りなかったかもしれません。少年の「異能」は客の願いが「叶った」ら夢に見る、なので彼はすでに起きてしまったことを知らされるだけで、知った時にはすべて終わっているのですよね……。結末を予感しながら見守ることしかできない無力感、聖娼としての務めに誇りを持っていたであろう彼が、願望成就の場面を見ながら喜ぶことができなかった絶望もひしひしと伝わるのですが。一話がレオサム視点で描かれていることもあり、一目惚れというよりは聖娼であるがゆえの包容力やリップサービスの一環だと読み取ってしまったのです。レオサムへ抱いた思いがいかに彼に取って特別だったのかの描写がもう少しあると、彼の死を見てしまった時の心の動きに一層のドラマが生まれるかと思いました。
 なお、ラストで少年が女性も相手にしている描写にすごく興奮しました。女性の聖娼もいて男女問わずに客を取っていたりするのでしょうか。誰を相手にするかは神託次第とのこと、神の前では性別も些細なことだと示しているようで宗教観・世界観の広がりも感じました。

謎の機械
 一夜を共にした者に神の力を分け与える聖娼夫で、【願いを叶えた者の夢を見る異能】を持った少年と、その少年を抱いて自分の願いを叶えた男の話ロボね。
 初っ端から一夜を共にした後のピロートークで始まったので、思わず「えっちロボぉ…」と言葉が漏れてしまったロボ。事後とは言え他の相手の事を話すのはマナー違反な気も知るロボけど、抱かれた後に貴方は優しい人だと言って甘やかしてくれるのはえっち過ぎてオーバーヒートしそうになったロボよ。けしからんロボ。
 前編がこんな感じで男×男の一夜限りの恋という感じなのに、後編は後編で男×男の巨大感情によるメンヘラムーヴからの追跡という落差が凄いロボ。確かに前編でも退廃的な雰囲気は漂っていたロボけど、まさかこんな理由で願いを叶えるために聖娼を抱きに来たとか色々と凄いロボ。聖娼が女の子だったら妹を思い出していたかもしれないから結果的に男の子で良かったんだろうロボけど、それにしてもこんな男だらけの愛憎劇をシックで伝記的に書けるのはすごいと思うロボ。
 登場人物の数を絞ってあり、前編と後編でガラッと雰囲気を替えつつも作品全体のイメージは変えないという短編としてすごく良く出来ている作品だと思ったロボ。
 とても面白かったんロボけど、後編でこれだけバトルシーンが書けるのならば、実は聖娼と旅の男性が致しているシーンも書けるんじゃないかロボ?
 カクヨムでは明らかなそういうシーンは規約違反で起こられてしまうロボけど、この作品はそういうシーンを含めてこそ前編と後編の対比が輝くのではないかとロボは思うロボ。
 折角なのでインターネットにアップロードをしない自分だけの楽しみでも構わないので、そのシーンを書いてみて欲しいロボ。ほら、バトルの最後もお腹に突き刺されるシーンな訳ロボし、バトルもセックスも同じ様なもんロボよ。

58:化け猫をまつ/帆多 丁

謎の有袋類
 帆多 丁さんの化け猫シリーズからの読み切り番外編です!
 これ、僕はちょっと公正な判断が出来ないので他の方にお任せするんですけど、もうユエちゃん可愛いですね!
 第三回の時に書いて頂いた「化け猫落ちる」の続き物ですね。
 モノローグ的なお話になってしまうのと、どうしても「落ちる」を知っていないと、何があったんだろう……となってしまう気がするので、シリーズ作品としてはとても素敵なのですが一つの短編と考えると少しだけパンチが弱いかな?という印象です。
 ファンとしては、クォンさんサイドの話が見れて嬉しい……となりました。お話を聞いていたのがユエさんの両親ということなのですが、それも本編を読めば更にわかったりするのでしょうか?
 文章力も、進捗エンジンも抜群な帆多 定さんなので、こういう機会ですし、色々冒険みたいなこともチャレンジして欲しいなと思いました。

謎の野草
 帆多丁さんの作品は前回のこむら川等でも参加された化け猫シリーズの新作です。本来は企画内の作品だけで評価するはずなのですが、前作も読んでいる者視点で参ります。とはいえ、恐らくは初見の方でも単独で楽しめて、前作を知っているとより美味しいという理想的な塩梅になっているのではないかと思います。初見の方もシリーズ通して読むことをぜひおすすめします。右目殿が良いんですよ……。
 冒頭からアジアンテイストの世界観の描写に惹き込まれます。乳奈、食べてみたい……食べ方がちょっと難しいのがまたそれっぽくて良いです。ルビの使い方も雰囲気があって、特にユエとクォンのそれぞれの名前の意味は物語上のキーワードにもなっていて素敵な使い方だと思いました。クォンの視点から見るユエの眩しさ、台詞やモノローグの端々で予感させられる別れの予感に心を痛めながら、それでも惚気話を悶える思いで読みました。さらっとそういうことを言うんですよね、この男。本作および前作で語られたエピソードだけでなく、ユエは何度も記憶を失い、それでもそのたびに絆を結び直していったのだろうと想像できるのが胸に迫りました。
 語り手の台詞を抜き出す形式の物語の場合、誰に、そしてなぜ語るかが非常に重要だと思っています。本作の場合はこの「お二方」だからこそ語りたいという事情も最後に明かされるのが個人的に非常に高ポイントでした。一方で、この相手に馴れ初めや惚気を聞かせるのはかなり恥ずかしいはずなので(衒いなく話せるクォンのキャラもすごく良いのですが)、序盤から照れたり躊躇ったりする場面が挟まると、ラストでの種明かしがより映えるし納得感もあるのではないかと思いました。

謎の機械
 【化け猫で呪い師の異能】を持つユエという女性の旦那さんによる、ユエさんと出会った時や国を追われた時や家族を失った時なんかの思い出話の作品ロボね。
 レギュレーション「一つの作品内で物語を完結させてください」とあるので、折角キャプションに過去作のリンクを貼って貰っているけれど、それらの内容は無視してこの作品単独で評価をさせて頂く事になるロボ。
 架空の世界のファンタジーアジアで起こる妖怪物で、語り手は妖怪によって起きる事件に巻き込まれるだけの行商人の男。言ってしまえばサブキャラによるメインキャラの凄さの説明回という感じロボかね。 主人公の男性がいかにユエさんを愛していたかの思い出話を惚気る作品と書かれてはいるけれど、あんまりラブラブな描写は無かった様に感じたロボ。
 主人公がユエさんを美しいと思っていた事や、ユエさんが記憶を失っても主人公を助けに来た下りや、三度目の出会いの馴れ初めと記憶を失ってからもお互いに暮らしたというのから実際に愛し合っていたのは確かっぽいのは分かるロボ。でも、どれもその時に起きた事件の方がメインであって、お互いにお互いを想っている感じの普段の仲睦まじさは断片的にしか分からないのがちょっと残念だったロボ。ユエさんのプライベートな可愛さとか、「怖い」と言った時にどんな風に勇気付けたのかとか、そういう普段からの何気ないやりとりなんかが沢山あると、「ああ、この二人は幸せだったんだなぁ」というのがもっと分かる気がしたロボ。
 ユエさんが月の意味は覚えているとか、どうして謎の二人に惚気話をしているのかとか、そういう決めるべき部分はバシッと決まっているロボし、過去作を読んだファンには単行本化された時のオマケページという感じでとても嬉しい作品なんロボけど、化け猫シリーズ未読の人が最初に読むには難しい内容という感じだったロボ。
 多分その辺りの事は了承済みでの投稿ではあったと思うロボ。ロボは化け猫シリーズを最初から追っている機械ロボからめちゃくちゃ面白かったし、クォンおめー男じゃねーか! という感じでとても良かったロボ。でもそれはレギュレーション的には評価出来ない部分なので難しかったロボ。折角面白い作品を書ける方なので、シリーズ物ではない単独作品も読んでみたかったロボ。

59:コンバットレディ/大澤めぐみ

謎の有袋類
 Y田A子に世界は難しいや、一ノ瀬家の結婚×終幕のコミカライズ原作などで大活躍の大澤めぐみさんが参加してくれました。ありがとうございます!
 いつもギミックを仕掛けてくる大澤さん作品なのでめちゃくちゃ構えて読んでいたのですが、吸血鬼・不死身・バトル!と好き方面の暴力で頭をガツンと殴られました……。
 お題の回収も最初に提示された「頭が良い」と「不死のヴァンパイア」の二つの開示がめちゃくちゃスマートでわかりやすかったです。
 バトルも何をされたらダメなのか、勝利条件はなんなのかが提示されているので有利不利がわかりやすいところと、スタート時からずっと提示し続けていた「頭が良い」を一気に回収する展開は本当に気持ちよかったです。
 繰り返される「難問」に対する由佳の解答、そしてコンバットレディというフレーズがめちゃくちゃアツくてテンションが上がりました。いいなーカッコいいなー。
 フレーズの繰り返しによるエモさ、めちゃくちゃ使いたいなと思いました。
 五人の新しい戦士たちのこれからは厳しい物だと思うのですが、それでも難題を解き慣れている彼女たちならすべて乗り越えていくのだろうと思わせられるめちゃくちゃいいラストでした!この子たちの長編読みたいです!

謎の野草
 本企画の本家本元、本物川企画の主催者である謎の概念先生です。講評というよりこう勉強させていただきました! という分析のような感じで参ります。
 まず、一人称の語り口の饒舌さがお馴染みの、という感じです。それでいて冗長さ説明てきなところを感じないのは、必要な情報を語りに交えて少しずつ読者の頭に流しているから、でしょうか。冒頭、百目のアルゴス、という単語が目を引いたのですが、ギリシャ神話を当然知っているしモノローグに混ぜられるていどの教養がある語り手である、という開示になっているのですね。教室がわりのホテル、という描写で学校ではない特別な授業か何か……と思っていたところに特進クラスという情報で補足があり、主人公たちの「異常さ」が説明されるという流れは非常にスムーズでした。人生をゲームの縛りプレイに喩える表現、主人公たちの知性と年齢を同時に感じさせる鋭さでした。
 高い知性ゆえに「油断」があった→高い知性ゆえに迅速に状況を把握できた→高い知性ゆえに敵に立ち向かう策を立案・実行することができた→退屈な日常よりもレベルが合う「仲間たち」との旅立ちを……と、「天才少女たち」との設定が奇抜さやキャッチーさのためだけのものにとどまらず、展開のスムーズさや説得力にも寄与していたのがお見事だと思いました。当方女ですが、一人称が「僕」の女の子も、不死者が痛みを堪えての捨て身戦法も、油断している強敵への反撃も大好物です。ごちそうさまでした。
 あえてご指摘する点があるとすれば、麻実と亜衣梨の容姿とキャラ付けの描写が物足りず、イメージを浮かべることができなかった点、でしょうか。とはいえ文字数の制約上いたしかたないのでしょうし、それでもこの文字数でこの人数のキャラを出して混乱がないのはすごいことだと思います。長編化された際はぜひ読みたいと思います。

謎の機械
 塾の合宿中に飛び込んでくるRPG。そして始まる吸血鬼ハンターとの戦いのRPG。唯一の武器は日本刀で、切り札は頭脳と全裸。いやー、面白かったロボ。流石は終身名誉川さんロボ。本流の様な安心感。
 話としては社会に紛れて暮らしている吸血鬼を倒しに来た吸血鬼ハンタ―と戦う為、眷属にされた中学生達が頭脳で戦うという物ロボね。【異能】の部分は【知能がとても高い異能】と【吸血鬼の真祖の異能】と【真祖の眷属の異能】という感じロボね。吸血鬼の能力の中になんでも切れる刀を出せる能力は含まれていないロボけど、そこはそういう物と割り切って読むのがこういう作品の読み方ロボね。そもそも吸血鬼の能力って曖昧ロボし。
 流石のレベルの高い作品と言う事で楽しく読めたんロボけど、一点だけ気になる部分は麻実と亜衣梨の活躍がほぼ無かった事ロボね。罠を張る為の要員として必要ではあったロボけど、終始由佳ちゃんが活躍しっぱなしなのでどうしても影が薄くなってるロボ。釈迦に説法ロボけど、折角生き返らせたメンバーなのでもっと活躍させてあげるとよかったかなって思ったロボ。
 でもそんな事は細かい事で、僕っ娘女子中学生とか全裸吸血鬼日本刀少女とかコスプレハンターDとか凄く楽しめて読めたロボ。スピンオフで長期連載の予定は無いロボか? こちらも全裸で正座して待つのでお願いするロボよ。ロボは服なんて着ないロボけど。
 それはそれとして、クーリングオフは現金取引で総額3,000円未満の場合は適応されないので吸血鬼の眷属化をクーリングオフでキャンセルするのは不可能と思うロボ。国も保証してくれないだろうロボしね。

60:魔法使いの少年VSロボットニンジャ ニンニンマジカル大激闘!/武州人也

謎の有袋類
 武州さんの二作目です。
 ショタ同士の友情、そして魔法と忍者と山盛りな作品ですね。
 B級映画っぽいタイトルですが、文体はかなりカチッと固めというギャップのあるお話でした。
 ところどころ多分ニンジャスレイヤーオマージュっぽいところがあるのですが、履修をしていないのでうまく読み取れませんでした。すみません……。
 好きなことを描いているんだろうなーとは思ったのですが、忍者の部分でかなり振り落とされそうになってしまい、情報を追うことで手一杯になってしまったのでオマージュとトンチキと真面目成分のバランスを探ると元ネタを知らなくてもすんなり楽しめるのかな?と思いました。
 主人公であるユウを守るケイも最高ですし、実はユウが強すぎるし、それを敵に煽られてカッとなるケイもめちゃくちゃ美味しかったです。
 主従関係に近いものはあるけど友情以上のものを育んでいるショタ同士は尊い……。
 今後も色々なチャレンジをしてほしいと思います!

謎の野草
 一作目は殺人オオウナギを出された武州さんの二作品目、こちらはアメコミ風というかニンジャスレイヤーの文脈での作品なのでしょうか。幾つかのミームは知っている、というていどの知識なのでお約束を読み取り切れていないかもしれないのですが、魔法使いとニンジャとロボットが問答無用で共存する(敵対しているのですが)カオスな世界観を楽しませていただきました。
 中学校に襲い来るニンジャロボット、それを迎え撃つ魔法使い、立ち向かうのは少年魔法使い──という情報量の多さなのですが、ストーリーの軸は少年同士の友情と信頼、優樹の成長という実に王道なものでした。心中に芽生えた疑念を乗り越えて慧矢を助け、共闘しようとする優樹の姿は健気で応援したくなりました。魔法を使うことを禁じられていたにも関わらず、友達のためなら新しい力が引き出せる、という展開、非常に熱いです。慧矢がサッカーが得意、という設定も展開に組み込まれていて、画としても派手さがあって良かったです。
 一作目でのご指摘と重複してしまうのですが、やはり中学生に寄せた三人称視点(と読み取りました)にしては難解な語彙が目立つように思いました。主人公の年齢・知識に見合った語彙で綴っていただいたほうが、スムーズに感情移入できたかもしれません。あるいは、優樹視点ではない、と分かる形式での記述(もっと神視点寄りの三人称にするとか、いっそ実況的な語りにするとか……?)にすることも考えられるでしょうか。ひとつの感想としてお納めいただけると幸いです。

謎の機械
 周囲に魔法使いという事を隠して暮らしている中学生の元に忍び寄るロボットニンジャを、魔法の使い方に目覚めた主人公とその親友が撃退する話ロボね。
 【異能】の部分は【魔法が使える異能】で、それぞれ風の魔法と手から青いロープを出す魔法という感じロボ? 最初は風の魔法じゃなくて瞬間移動かとも思ったロボけど、戦闘の描写からしたら多分風っぽい?
 〇〇VS□□というシリーズを書かせたら他に並ぶ人は居ないという感じの作者さんロボで、いわゆるモンスターパニック作品で培った短編の技術を応用して魔法使いとロボットニンジャを戦わせた作品ロボ。なんでロボットでニンジャが魔法使いと相性が悪いのかとか、最後に出てきた胡散臭い女はなんなのとか、そういう謎は無視してガハハと笑いながら読むのがモンスターパニック作品のお約束なんロボけど、今回のはちょっとそのお約束部分が多かった気がしたロボ。
 所謂お約束というのは書き手が説明をしなくても「ここはこうなっている」と読者に分かってもらう物なので、このお約束が多いという事はお約束を知らない読者にとっては作品の説明が少なくてわかりにくいというのに繋がってしまうロボ。
 このお約束の部分は使い方が難しくて、今回の様なモンスターパニック作品の「タイトルにVSと書かれたからには理由が無くとも戦う」ではなくても、昔話の「むかしむかしあるところに」や、バトル物での「技名を叫ぶ」というのが気になってしまう人ってのは多いんロボね。お約束は使えば便利ロボけど多すぎると伝わらないという加減が難しい物なんロボ。
 ロボはその辺りのお約束はよく分かるので面白かったんロボけど、一応講評なのでお約束が分からない人には伝わらないので気を付けたほうがいいというのを書いておくロボ。
 でも、一作目のオオウナギの話はお約束に詳しくない人でも楽しめる作品だったので、今作は逆にわざとお約束を多めに入れたんじゃないかという気はするんロボよね。理解されなくとも自分の作風を貫くというのはそれはそれで大事な事ロボので、分かってされていたというのならロボからは特に言う事は無いロボ。
 強いて言うなら最後に出てきた変態女から女狐の香りがするので、ロボはこの女性に活躍して欲しかったってぐらいロボね。胡散臭い変態女大好きロボ!

61:異能売りの少女/姫路 りしゅう

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 異能が当たり前の世界で、異能を売る少女と出会う三人の少年少女たちのお話でした。
 同じ異能を持つことはない世界で、二つ目の異能を他人に付与できる少女という存在や、似た能力で切磋琢磨し合う二人の少年のやりとりなど面白かったです。
 凝ったギミックがたくさんあり、設定も練ってあって読んでいて楽しいと思いました。
 これは個人の好みというのも大きいのですが、短編の場合は視点切り替えが多かったりテーマを多く扱おうとすると、読者側も混乱をしてしまって物語に集中出来ないことが多かったりします。
 テーマや物語の焦点を定めて一つのテーマや一人の人物を中心にした物語にするとギュッと物語への没入感が上がるので意識をしてみると短編小説として読者に親切な作品になるような気がします。
 派手なバトルシーンと青春、そしてほろ苦い結末と様々な要素がてんこ盛りにされた作品でした。
 書けば書くほど文章もどんどん洗練されてくると思うので、これからもたくさん作品を書いて欲しいなと思います。

謎の野草
 マギルとリヒト、リヒトと少女など、掛け合いのテンポが良く楽しく拝読しました。芥川龍之介の「あばばばば」なる作品があることを初めて知りました……ショーコもリヒトも意外と読書家のようですね。会話パートが続くとストーリーが停滞しがちなのですが、本作においては会話の勢いがありつつ世界観等の説明が適宜挟まれていたので、面白さと同時に作品への興味を保つことができました。メリハリの効いた語りになっていたと思います。
 童話モチーフを詰め込んだ「異能売りの少女」、マギルとリヒトの友情とライバル心、ショーコへの思い、さらに背景となる「異能がタブーになった世界」……と、いずれも大変興味を惹かれるのですが、一万字少々の短編に詰め込むにはボリュームが大きすぎる感じもありました。異能売りの少女のお話だな、と思って読み始めたら、少年少女の三角関係が始まって……という感じで、誰に感情移入すべきか、どういう話として読めば良いのか少々戸惑いもありました。どのテーマも面白いからこそ、場面や視点が切り替わる時にストーリーを把握し直す負荷というか、一瞬現実に引き戻される感覚があったのがとてももったいなかったです。短編を書く際には、テーマや登場人物、視点は絞って研ぎ澄ます、ということを意識すると読者に刺さりやすくなるかもしれません。
 ラストで明かされるすべての因果、マギルの友情やショーコの善意が悲劇を生んでしまったことが切なく、しかも図らずも全容を知らされて背負わされることになってしまった少女の、言葉にしない心の痛みがよく伝わってきました。こういうどうしようもないボタンの掛け違い、大好物です。良い痛みを堪能させていただきました。

謎の機械
 いいロボね、タイトルからしてお題を回収しているのはポイント高いロボ。分かりやすさは正義ロボよ。
 内容は【異能が当たり前となった世界】で、【異能を生成する異能】を持った少女が【体の末端から炎を出す異能】の少年に生成した異能を売るという話ロボね。異能が当たり前になっている世界では誰もが危険人物になり得るので異能が忌み嫌われているという説明が面白かったロボし、まさかこれが伏線になるとは思わなかったロボ。
 バトルの描写が上手くてコメディパートのやり取りも上手いのでキャラを動かす事に慣れている作者さんなんだなと思うんロボけど、そのキャラの動かし方が上手いからこそ異能売りの少女と体の末端から炎を異能の少年のどちらが主人公なのかが分かりにくくなってしまっていて、読者がどちらに感情移入したらいいのか迷ってしまう作品になってしまっていると感じたロボ。
 異能売りの少女を主とするならば少年のパートでは一人称を止めて三人称にしてみるとか、少年を主にするならば序盤の異能売りの少女の出番は後に回すとか、そういう感じで作中での明らかなキャラ贔屓の優劣を付けると読者にどちらが主なのかが伝わりやすいと思うロボ。多分タイトルや話の始まりと終わりからして異能売りの少女の方が主ロボよね。ロボはそう捉えたロボけど間違っていたら恥ずかしいかも。
 他にも誰が主人公か分からせるには長編作品化させるという方法もあって、この話と同じ様な感じで異能売りの少女から異能を買った事によって何か失敗をしたり成功をしたりする話をいくつか書いて短編があつまった長編作品にしてみれば否応にも誰が主人公かってのが読者に伝わるロボ。イメージとしては「笑ゥせぇるすまん」や「アウターゾーン」という感じロボね。
 というか世界観の設定が短編で終わってしまうには勿体ないと思ったロボので、個機械的には長編化を希望するロボ。少女が異能に目覚めた時の話とか、家族がどうなったのかとかも気になるロボし。

62:Girls with Dirty Stigma/Veilchen(悠井すみれ)

謎の有袋類
 すみれさんの二作目です!
 開幕、淫紋を入れたJKからスタートしたこの作品は、お腹を痛めずに子供を産む女性が多数派になった世界を舞台とした作品でした。
 思考実験的なお話、ある種の臭みというか説教臭さが出がちなのですが、こちらの作品は視点の切り替えによって臭みをすごくうまく消していて、エンタメとしても食べられるように美味しく調理してあるのがお見事!となりました。
 視点の切り替えをうまく使って臭みを抜いているこの作品なのですが、やはり僕はちょっと混乱をしてしまうので短編の視点切り替えの頻度や有無は難しい問題だなとも同時に思いました。
 講評なので、敢えて一点をあげただけで、本当に面白い作品でした。
 二人とも自分の子供を残しているけれど……百合……百合ですよこれは。個人的に彫り師のお姉さん(※)もすごく好きです。
 本当に作風の幅がすごいので「ゴリラを暴れさせて五億点狙って下さい」という無茶を講評で言うしか無くなってしまいますね。
 今後もこむら川で暴れて欲しいなと思います。

謎の野草
 とりあえず淫紋って言いたかったやつです。

謎の機械
 人工子宮が発達して女性が赤ん坊の内に子宮と卵巣を摘出するのが当たり前となった近未来で、手術を受けていない【妊娠・出産をすることが可能な異能】を持ってしまった女の子と、その親友の女の子の話ロボね。
 最初は女子高生が淫紋を入れた事を教師に叱られている所から始まったので、これはもしかしてえっちな話ロボか? と若干ドキドキしながら読んでいたら今の社会問題にも繋がりそうな物凄く真面目な話で驚いたロボ。いや、がっかりはしてないロボよ? 本当ロボ。
 自分の判断では無くて親の判断で内臓を摘出される事についてや、勝手にその逆をされる事、押し付けられた物を自分の判断で使ってやるという思春期の少女の反抗期等、親とは何か、子供とは何か、価値観とは何かという事を考えさせられる内容だったロボ。淫紋の扱いも世の中の価値観がかわれば好意的に見られる事もあるというのは笑うところなのか感心する所なのか迷ったロボけど、彫り師のお姉さんが真剣だったので笑っちゃいけないんだロボなと感じたロボ。流石に年齢一桁の幼児が淫紋に喜んでいるのは笑ってしまったロボけど、単なるタトゥーもこうやって笑い話に出来る価値観が共有される日が来るといいロボね。
 一点気になるのは、この物語のテーマ的に女性が主役になるのは仕方が無い事なんロボけど、男性側の意見というか考えがほぼ出てこないのがちょっと気になったロボ。妊娠させた男子のその後も気になるロボし、最初に淫紋について叱っていたのも女性教師っぽいロボ(流石に彫ってある場所を見るのは女性じゃないとまずいロボけど)。
 文字数がいっぱいいっぱいなので難しいけれど、さらっと一言でもいいからあったらなって思ったロボ。でも無くてもめちゃくちゃ良い作品だったし国語の教科書に載せたいレベルロボね。国語の教科書に淫紋という言葉が使われる事の是非が問われるかもしれないロボけど、ロボはそれぐらい好きな作品だったロボ。

63:紅い、造花/@kajiwara

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 裏組織の下っ端であるアラン・ノウンという男性を中心にしたお話でした。
 自分の血から物質を模造出来る・その模造品は傷が塞がると血に戻ってしまう・物の大きさに応じた出血量が必要という能力がすごい面白かったです。
 アランを取り巻くのは劣悪な環境で、そこから抜け出そうとしても抜け出せない焦燥感と諦めみたいなものがすごく良く描かれていて好きでした。
 仲間達が急に死に、出会った性別不明の子供も異能を持っていた……のですが、それを気付かないようにしていたアランの心情もすごく好きです。
 アランはモップと心の中で呼んでいた子供に綺麗な世界を見せたいと思って死んでいったのに、当たり前なのですがそれを知らないモップは恩人の為に復讐を決意して……というところでお話が終わります。
 すごい些細な部分なのですが、三人称視点で書かれている作品なのですが「ぎょろりと睨みながら怒気を孕んだ声で答える」「ひたすら鬱々とした気分で虚空を見つめながら、悔しげに爪を噛んだ」のようにところどころ主語が抜けて登場人物とカメラが一体化してしまっているので見直すと更に読み易い作品になるかもしれないなと思いました(でもぬるっと登場人物に溶け込む三人称を描く人も居るのであまり気にしなくても良いかも知れないです)
 講評なのでそれっぽいことをいいましたが、本当に指摘した点はかなり些末なことで、マジで構成も美しく、それに展開もすごくエモくてめちゃくちゃに好きなお話でした!
 カクヨムにはまだ一作しか無い作者さんなのですが、今後も色々書いてくれるとうれしいです。

謎の野草
 血を媒介に発動する能力や、発動に際して自傷が必要な能力は割とあると思うのですが、そのような能力者たちがあっさりと自らを傷つけることができるのが常々疑問でした。たとえカッターでも血が流れるほど刺したり斬ったりするのは怖いですよ……。なので、アランの本当に嫌そうかつ痛そうな描写は非常に納得がいくと共に、彼の性格を端的によく表した良い導入でした。
 異能を持っていながらも活かすことができず、うだつの上がらない下っ端マフィアに甘んじている主人公、なのですが、一話で描写される「後がない」「行き場がない」感じが(経験したことはないのですが)生々しく、アランに対する同情や哀れみを生みます。ミッシェルもそうなのですが、こういう生き方しかできない子たちなんだな、と思うと胸が痛く……。一方で、掃き溜めなりの家族めいた情も伝わってくるので、絶対に上手くいかないであろう「仕事」の結末に冒頭からバッドエンドをひしひと予感し、暗い期待にときめきながら読み進めることになりました。転落を眺めるという物語の楽しみ方も確かにあると思うのです。
 予想違わず、逃避行の解放感はほんの一瞬だったのですが。痛みを知り、異能を持て余した人生を送ってきたアランだからこそ「モップ」との出会いに意味があり、一瞬の触れ合いが互いにとってかけがえのないものとして刻まれたということ、短い物語の中でも十分に伝わりました。アランは多分、これまで能力で花を作ることはしてこなかったのではないかと思います……「モップ」を労わる思いが芽生えたことで、彼のほうでも世界の美しさを思い出したのではないかとか、そのようなことを思いました。閉ざされた「モップ」の目にもアランの「造花」がはっきりと見えたことは、彼が庭師としてゴードンに近付こうとしたことからも明らかかと思います。花の美しさを教えられながら、復讐せずにはいられない彼の思いやラストの数分後の惨劇に想像を巡らせる、複雑な余韻を味わわせていただきました。
 ひとつだけ気になったのですが、アランが名乗るくだりがなかった(省略された?)ため、モップ=ニアが彼の姓を知っているのが謎になってしまっているかと思います。彼の名前を継いで復讐に赴く構図も大変美味しいので、布石として名乗る場面があるとより引き締まるかと思いました。

謎の機械
 マフィアの下っ端犯罪者が成り上がる為に依頼を受けたはいいけど、アクシデントが起きて子供を拾ってしまう話ロボね。こう書くとよくありそうな話に思えるんロボけど、そこを【自らの血液を物体に塗りつける事で別の物体へと変化させる異能】を使ってキャラ付けをしたり、短編ながらも仲間の死や裏切りや組織の上層部の思惑やらのなんやらが詰まっていて楽しみながら読めたロボ。
 最初は異能を使うのに痛みを伴う上に傷が癒えたら変化が元に戻るのと、大規模に使おうとするなら自身が大怪我をしてしまうという部分が使いにくそうだなって思ったロボけど、まさかの覚悟を決めた状態ならこれ程までに強い異能になるとは思わなかったロボね。てっきり小さい物を変化させつつ小手先で騙す感じの活躍をするかと思っていたロボから、大量に血液を出して血だまりを作って地面を変化させるのは驚いたロボ。傷が治らない様にと血をもっと出す為に自ら傷に指を突っ込むのは読んでて痛々しかったロボけど、多分モップが受けてきた痛さを重ねたらもっと痛いんロボろうね…。
 お題である異能も早々に回収していた上に話の主軸であるロボし、下っ端のチンピラとしてしか生きれなかったアランでも次に託すものを造れたという内容が凄く良かったロボ。最後も復讐が上手くいきそうな感じで終わっているのが良いロボね。
 短い文字数ながらも濃厚な描写と起承転結がしっかりした作りなのは見事だったロボ。この作品しかカクヨムで書かれていないみたいロボので、出来ればもっといろんな作品を作って欲しいって思うロボ!

64:スクラップ・スクワッド/狐

謎の有袋類
 狐さんの二作目は、得意フィールドであるサイバーパンクでした!
 異能持ちの個体を統率された意思と物量で打ち倒すための兵隊の組み合わせから始まるロケットダッシュのスタート、そして運良く助かった先で出会う在り方の違う異能持ちとの出会い……構成が綺麗ですぐに世界観に入り込めました。
 気の良い下級市民のおじさんたちもすごくよかったです。
 すごい細かいことを言うのなら、スラッシュと名乗るときに何か理由?目に入った物?があると更にエモかったかも知れない。S3LHでスラッシュに読めなくもないか?と思っていたけど、ちがうかも?見逃していたすみません。
 前半と後半にあるバトルシーンもすごく好きなんですけど「人類皆強大」と慣用句を勘違いしてる系の敵がすごく好きなので、そういう部分でも楽しめました。
 とても良いエンタメ作品だったと思います!
 進捗の速度もバッチリなので、このままどんどん突き進んでいって下さい!

謎の野草
 見事一番槍を決めた狐さんの、満を持しての二作目です。狐さんといえば、のサイバーパンク、私も好きなジャンルなのでワクワクしながら拝読しました。
 未来の異能者差別および階級差別をテーマに据えた作品ですが、体制側の治安維持部隊の名前がファランクス、という設定が端的にこの社会の在り方を伝えていてお洒落だと思いました。そもそもが一定以上の身分の市民が構成する戦列ですし、非常に強力な戦法である一方で、個を捨てて全体の勝利に尽くさなければならない発想ですからね……ディストピア風味もあるこの世界観において、実に象徴的なネーミングでした。
 冒頭のアシッドとの対峙で既に価値観を揺さぶられることになる主人公ですが、「孤高か群れか」はまだ始まりで、「弱者を切り捨てて良いのか」と思考を進めていく彼の迷いや混乱や葛藤は、ともすると無機質な世界観との対比でより人間らしく愛しく感じられました。根幹を揺さぶられて苦しんで、そして這い上がる主人公は性癖に刺さります。コードネームを捨て、これまでの立場を捨てて駆けつけるカタルシス、王道ながら非常に熱く、心揺さぶられるものでした。また、主人公が踏み出したことでマグナに変化が訪れたラストも良かったです。恐らくマグナはもう自分が不必要な存在とは思っていないことでしょう……。他者によってではなく自らの価値は自ら決めるということ、自らの足で立って進んでいくということ、いずれも爽快で応援したくなる結末でした。弱者を切り捨てるアシッドと、守る対象を厳しく選ぶファランクスと、いずれとも異なる第三の道ということになるでしょうか。主人公は限られたように見える選択肢を越えた決断をするものだということ、これもまた鉄板の気持ち良さでした。

謎の機械
 科学が発達したサイバーパンク世界で生まれるイレギュラーと呼ばれる【異能使い】達を排除する治安維持部隊の主人公と、主人公が任務を失敗した先で出会った【磁力を操る異能】の少年とがタッグを組んで戦う異能バトル物ロボね。
 最初は治安維持部隊である事を誇りに思っていて個が滅びようが群でイレギュラーを倒すべきという信念を持っていた主人公が、最後には逆に群を捨てて個で生きていこうと価値観を変える所が良かったロボね。短編だとどうしても最初から強い主人公を出して強いまま話を展開させる事が多いんロボけど、そうじゃなくてちゃんと主人公を成長させる結果を織り込んでいるのは流石だと思ったロボ。自分で選ぶことを決めた主人公がこれからどの様な人生を歩んでいくのか楽しみロボね。
 世界観の説明も上手くて、実質的には最初の戦闘があったハイウェイと主人公が流れ着いた先のスラム街の二場面しか描写をされていないんロボけど、その二つの場所と作中の説明から主人公はディストピアの様な場所で生まれ育ったのが分かるロボし、そのディストピアも完全ではないという事が分かるロボ。もしも完全なるディスチピアであればイレギュラーが発生する事は無いロボし、スラムに人が溜まっているという事も無い筈ロボ。この辺りをきちんと説明しなくてもなんとなくどういう世界か分からせれるのも良い部分だったロボ。
 とても良い作品だったしロボ的にもサイバーパンク世界が好きなので高評価なんロボけど、主人公がスラッシュという偽名をとっさに思いついた理由が何か欲しかったロボね。酸を操るイレギュラーがアシッド、磁力を操るイレギュラーがマグナなら、スラッシュも何らかの理由があるのかと思いながら読んでたロボ。でも、特に剣術が上手いとか何かを斬る生き方をしているとかは見つけられなかったロボ。スラッシュの意味には「二者択一」という意味があるらしいので、もしかしたらそっちの可能性もあるロボ。何か意味がありそうな名前は伏線ではないかと深読みしてしまうロボみたいな読者も居るロボから、そういう読者の為にも意味がありそうな偽名なら意味を説明して欲しかったロボ。

65:その境界の狭間で/鶯埜 餡

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 なんらかのすごい力を持ち、裏の顔を持つ九条誠司という主人公が、下校中にトラブルに巻き込まれるというお話でした。
 時系列が入り組んでいるので、初見だと混乱してしまったのもあるのですが、とにかく組織と登場人物がばーっと紹介されて、これから何かはじまりそうなところで終わっているためよくわかりませんでした。すみません。
 登場人物や設定などはとても魅力的なように思えるので、短編小説としてなんらかの盛り上がりの後に、読者が納得しやすい結末のようなものを付けてくれると初めての読者でもとっつきやすいのかなと思いました。
 世界観や設定を考える力は抜群の作者さんだと思うので、どんどん好きなものを書いて欲しいと思います。

謎の野草
 ほかの作品への講評でも既に書いたのですが、規定字数内で完結していれば講評を書くのがこの企画です。作者様が完結していると思われるならそうとして講評すべきだと思うのですが、読んだ側の感想としてはやはりこの作品は完結してないと思ってしまいました。
 「俺たちの戦いはこれからだ」「それはまた別の話」「この時はまだ知る由もなかった」等々の〆め方をする物語も多々ありますが、打ち切り等のやむを得ない事情があるか、そこまでの物語で十分読者を惹き込んでいるため、こういった構文が余韻を残したり想像を広げたりする効果があるからこそ受け入れられるのではないかと思います。本作についてはキャラ名・家名・組織名(?)を散りばめていたり、ラストで伏字を使った演出を使ったりしているのは読者の興味を喚起しようという狙いがあるのかと推測したのですが、五千字少々の尺の中では次々に出てくる情報を処理・把握するにはあまりに短かったと思います。規定文字数の上限まではまだ余裕があったので、文字数いっぱいを使って読者に世界観やキャラクターを紹介するように試みてくださっていたら、ととても残念に思います。
 本企画で下限の文字数が少なめに設定されているのは創作初心者さんに完結する達成感を味わってもらうため、だと思っております。壮大な構想を収めるには逆に短すぎるという難しさも出てくるサイズ感だとは思いますが、ある程度の創作歴のある方であれば、規定の中で魅力ある物語を作るように頑張って欲しいと思います。

謎の機械
 下校中に女性との告白を断ったら【結界を作る異能】によって囚われてしまい、そこから逃げ出すのにまた他の女性に助けられたなんらかの【異能】を持った主人公の話ロボね。
 大雑把に二つの異能者集団の組織が争いをしていて、主人公はその調停役として違う組織から送り込まれた人物という感じロボ? 調停役では無くて最強交渉師と書かれている上に構想に参加させられていると作中で語られてはいるロボけど、説明的にはどちらの勢力にも付かない第三勢力か抗争が大きくならない為の調停役っぽいなと感じたロボ。
 冒頭の結界に囚われたのも結界から助け出されたのも両方の勢力からアクションをかけられたという事なんロボけど、どちらもクラスメイトの女生徒であるというのが単なる異能バトル物で留まらずにラブコメにもなり得る波動を発していて期待が出来るという物ロボ。
 ただ、そんな感じでワクワクする設定のお話なんロボけど、話が着地しないまま投げっぱなしで終わってしまった感がしたロボ。主人公が結界に囚われる理由となった贄が何なのかや、結界から助けてくれた女の子がどういう異能えを持っているかや、主人公が最強と呼ばれている所以や、最後に女の子に何を言って運命共同体となったのか。これらの謎の提示に対しての答えが作中から読み取る事が出来なかったのが勿体無かったなって思ったロボ。
 せっかく面白くなりそうな展開なんロボし、まだまだ文字数や〆切日数に余裕があるのだから出来れば続きを書いて欲しかったロボね。

66:赤眼のセンリ 零/ラーさん

謎の有袋類
 ラーさんの二作目です。
 一作目と同じ、女性の語り口の一人称ですが、がらりと印象が変わって芸者の女性が気持ちの良い口調でつらつらと語っています。
 長編のスピンオフとのことのなのですが、物語の中に必要なことは全部揃っているし、お話もまとまりのある面白い物になりつつ、更に「もっと読みたい」と思える気になる情報も散りばめられていて、お見事の一言に尽きます。
 センリさんの一芸も予想を遙かに上回る派手で最高な描写と、無支祁が本来の姿に戻ったところでちょっとだけハラハラしました。
 然るべき賞を受賞してコミカライズして欲しい……。小説でもすごい面白いのですが、映像映えもマンガ映えもしそうな素晴らしい作品でした。
 すごく好きなのはサジさんがただの人間なのにめちゃくちゃ喰えないキャラという部分です。ここからどう絡んでくるんだろう……。
 センリの姐さんかっこいい……。

謎の野草
 一作目のスペランカー男では語りと構成で魅せてくださったラーさんの二作目です。本作も全編を通して客寄せの口上のようで、声に出して読みたくなる文章でした。「門前払いの小蝿払いに手を振られ、空袖垂れ下げ棒足引きずるくたびれ儲けの無駄足始末だ。」冒頭の一文を引用させていただいたのですが、韻を踏む箇所もあり、(ほぼ)七五調で収まっていて、かつ語彙の選択で世界観も伝えているという情報の密度と技術の高さに感嘆の息が尽きません。地の文のこの饒舌ぶり、センリの気っ風の良さや威勢の良さを伝えつつ、生業である芸人としてどう芸を見せているか、まで想像させる効果があると思います。説明によらずキャラクターや世界観を伝える手法が実にお見事でした。
 各話タイトルの「猿の手」といえば歪んだ形で願いを叶える不吉な存在、しかも弥右ヱ門の身勝手さと強欲さが合わさって嫌な予感が倍増するのですが、窮地にあっても飄々としているセンリの格好良さが頼もしく、サジとの即興のセッションを読者の立場で特等席で見せてもらった思いです。扇子の朱色と文鳥の白、空の色と海の色、飛び魚の煌めきと鯨の存在感──どこまでが現実か幻か考える隙もないまま、センリの舞いに魅入られました。無支祁の無邪気な(?)笑い声は読者とシンクロしていたのではないでしょうか。
 弥右ヱ門の願いを叶えつつ、けれど「本当の意味では」叶えてやらない無支祁の邪悪さはまさに「猿の手」のお約束という感じで良い因果応報かつ良い怖さでした。誘惑に首を振ることができるセンリとサジ、ここでもキャラが立っているのが良かったです。
 スピンオフ作品ということでしたが、本編を読まないと分からない部分はなく、むしろセンリやサジがこの先どのような活躍をするのかと楽しみになる、非常に満足感の高い作品でした。行きずりの関係のはずが、思いのほかに腐れ縁(?)が続いていくようで……本編もぜひ読みたいと思いました。

謎の機械
 旅の女芸人の主人公が立ち寄った街で芸を披露するも、その相手は単なる金持ちの旦那ではなく秘密を持っている相手だったという話ロボね。長編の前日談のスピンオフという事ロボけど、この作品単独できちんと終わっているので長編を読まなくても充分に楽しめる作品だったロボ。
 主人公が芸人なだけあって地の文も芸の口上の様な軽快かつノリが良い文章で、13000字全部を章で区切らずに一気にどーんと出しているのにするすると読む事が出来るロボ。これは読んでも面白い作品ロボけど、主人公のイメージにぴったりな声の人類に朗読をして貰いたい作品でもあるロボね。それこそ宴席で読み上げるだけで一つの芸になりそうな完成度ロボ。
 【異能】の部分は章タイトルでもある猿の手の【願いを叶える異能】がメインで、主人公の【幻惑を見せる異能】は補佐に回っている感じロボ。どちらかと言うと主人公の能力は異能や喋りや舞を含めた芸であるので、正しく異能者ではなくて芸人ロボ。調子に乗りやすい性格も合わせて生粋の芸人だったロボ。
 キャラの設定も動かし方も良く、話のオチの教訓めいた内容も良く、何より場の映像を読者に想像させる楽しさを与えてくれるというのが凄く良かったロボ。
 この作品だけで凄く面白かったロボから、きっと本編の長編も面白いんだろうなと思わせてくれる見事なスピンオフだったロボ。
 映像化の予定とか無いロボかね。アニメ化ではなくて舞台化でもいいロボよ?

67:外に出て君と一緒に自由に生きていきたい/果燈風芽

謎の有袋類
 はじめましての方です。ありがとうございます!
 捕まった少年とカラスの友情物語でした。
 生きるために盗みをしなければいけない少年と、それを見守るカラスという狭い世界で物語が始まり、最後に世界がグッと開けて終わるのがすごくよかったです。
 「」の使い方が少し独特なのですが、カラスのセリフは『』にしてあるので、そこまで混乱しなかったのですが、特に強い意図がなければ一人のセリフは一つの「」の中に入れてあげた方が読者にとって親切かもしれません。
 ですが、色々な書き方があるので、こうしたい!という目的があるなら決まりや作法を守らなければならないわけではないので、たくさん書いて自分がしたい表現を選んでいってください。
 縦読みのギミックはわかりませんでした……ごめんなさい。
 PCとスマホによって文字数がズレたりしてしまうので縦読みギミックみたいなことはかなり難しいと思います……。物理書籍として印刷するか、バレバレかな?くらいに縦読みして欲しいところを不自然に改行して傍点を付けるなどするとWebでも出来るかも……。それか、話タイトルの頭文字に仕掛けるのが良いかもしれないです。
 黙って見守ったカラスと、絶望していたけれど、自分の力でがんばって城から逃げた少年のコンビはすごく好きでした。
 一人と一匹のこれからが明るい物でありますように。
 これからも色々なチャレンジをして欲しいと思います。

謎の野草
 台詞の一文字目を繋げて読むと……というギミックの作品ですね。あらすじだけでなく【】で縦読みの答えを教えてくれていたので、読者にも親切な仕様だったのではないでしょうか。
 ストーリーについて、人と動物(鳥)の交流は良いものですね。最初は物言わぬカラスが相手なのですが、話を聞いてくれる(ように見える)存在がいるだけで救われるというところ、少年の孤独・友達を欲する気持ちが表れていたと思います。異能要素はどこだろう、と思っていたところ、少年の言葉の力だった明かされることで縦読みを仕込んだ理由づけにもなっていて良かったです。
 気になってしまったのが、盗みの罪で捕らえられた少年が、脱出にあたってまた盗みを働いていたことですね……。童話的世界観かつ純真そうな少年だからなおのこと、働く気が一切ないように見えてしまってびっくりしました。投獄されたのがそもそも冤罪だったことにするとか、あるいはアラジンのようにある程度の狡賢さもあるキャラ付けにするとか、特別にこだわりがなければ読者が安心して応援できる設定にしたほうが引っかかりが少なくなるかもしれません。この辺りのラインは人それぞれなので私が細かいだけかもしれませんが、ひとつの意見としてご参考になれば幸いです……。
 よく読むと縦読みがもうひとつ仕込まれているのがお洒落だと思いました。少年の異能がきっかけで始まった友情とはいえ、このひとりと一羽はこれからも長く一緒に旅するのではないかな、と微笑ましい読後感を味わいました。

謎の有袋類
 ああー!そういうことだったんですね! わかると親切……。なるほど……。

謎の機械
 貧しさから盗みを働いて捕まってしまった少年と、その少年の元へ毎日やってくる賢いカラスの話ロボね。
 お話自体は童話的でほのぼのとする内容ロボけど、この作品の本質はキャプションにも書かれている通り「縦読み」が含まれている部分ロボね。最初に【】で提示されている文章が少年の発するセリフの最初の文字を繋げて読んだ物と一緒になっていて、それ自体が少年の隠れた【異能】である【願った事が現実になる異能】に繋がっているんだと感じたロボ。
 最初は物凄くカラスが賢くて、このカラスが何かの異能を持っているのかと思ったんロボけど、カラスが賢いのは少年の異能の影響だったんロボね。
 童話的な内容という事と、縦読みのギミックに気付いて貰うのがこの作品の本質なので細かい部分に突っ込むのは野暮なんロボけど、少年がいつからこの異能を使えるようになったのかや、宝石を盗むことが出来たのも異能で願った事の影響なのかどうかなんかも作中で説明があると良かったかなと思ったロボ。
 捕まる前から異能があったのなら捕まった事自体も少年がなんらかの理由で捕まえられたいと思ったのかもしれないロボし、禁固室の中で異能に目覚めたのなら何かのきっかけがあったのだという描写があると、最後に少年が異能を使えたからこうなったのだという説明がもっと綺麗に落ちて来ると思うロボ。
 後、ロボはこういうギミックを仕込んだ作品が好きなのでギミック部分を評価の対象に含めるんロボけど、読者によっては縦読みに気付かなかったり普通に読む以外の事をしたくないという読者も居るロボ。そういった読者も居る事を踏まえると、ギミックを話のメインに仕込むのは作品の評価が大きく分かれてしまう原因になるロボ。もしかしたら他の評議員はギミックは評価に含めずに講評をするかもしれないロボ。
 なので、ギミックを仕込んだ作品は読者によっては作者が想定していない感想や評価を下す事もあるかもしれないというのは覚悟しておいて欲しいと思ったロボ。
 ロボもこういう仕込みが好きなので色々とやった事あるロボけど、気付いて貰えなくて寂しくても、それは読者が悪い訳じゃないロボからね…

68:鰯/@sibori

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 空から降ってくる謎の超硬くて壊れにくいイワシと、降ってくるイワシを弾くことの出来る異能を持つ主人公のお話です。
 こういう思いつきで突っ走るお話は大好きです。初速でも掴みはばっちりなので、あとは最初の勢いに負けずに突っ切ることが大切だと思います。
 個人的には、イワシが刺さって爆発した場所から美味しそうな匂いが漂ってくる部分が大好きなのですが、こういうトンチキ小説でもリアリティーラインは大切だと思うので、めちゃくちゃな理屈でも良いので、超硬くて車が轢いても潰れないし、人に突き刺さるイワシを美味しく調理できる器具の説明があるともっと加速しておもしろくなるのかなと思います。
 最後の結末でちょっといい話風になってるのはすごく大好きです。イワシのなめろうも、つみれ汁もおいしいですよね。
 発想する力はすごく強い作者さんだと思うので、あとは勢いに負けずにそれっぽい嘘の連打をガンガンしていけるようになれば更におもしろいものが書けると思います。がんばってください!

謎の野草
 宇宙からの侵略者による滅亡ものです。なぜイワシ? えっ食べられるの? なぜ日本語? 人類以外も滅ぶんじゃ? ……とツッコミどころは尽きないのですが、そういう世界だから仕方ないんだろうなあ、と押し通す力・問答無用の説得力が強い作品でした。津波で文明滅亡、もよくあるネタではあるのですが、その理由がイワシが海に降り注いだ(多分)から、というのはさすがにないような。どれだけの質量のイワシだったのか……。
 異能要素ですが、「イワシを避ける/当たらない」という非情に地味なものだったのが面白いです。このような危機的状況にあって初めて開花して、そして人類の危機には特に役立つこともないという扱いで終わらせる捻り方はなかなか思い切っていると思いました。
 「イワシに当たらない人々」という異能持ちだけが生き残った世界、いやそれでも放射能汚染からは逃げられないんじゃ? 薬味なしのなめろうは生臭いのでは? とかやはりツッコミは尽きないのですが、生き延びた人類はもはや別の種族になっているのかもしれないですね……。宇宙人に気付かれたらまた別の何かしらが降り注ぐかもしれないし、今度は友好関係を築けるのかもしれないし、いずれにしても「案外、人ってしぶとい」ということなのでしょうね。
 計算されたボケなのか天然で書かれたのか凡人には判別できない匙加減だったのですが、面白かったです。

謎の機械
 大好きロボ。五億点。
 いやもうほんと、ロボはこういうふと思いついたアイデアを細かい設定とか考えずにそのまま作品にしてみたという感じの作品が好きなんロボ。
 どうして宇宙海洋神秘奇跡スピリチュアルエマージェンシーデラックス機関が攻めてきたのかとか、どうして宇宙海洋なのに魚介類落とし器で地球の海に居る鰯で攻撃してきたのかとか、そもそも車に轢かれても平気は鰯をどうやって調理しているんだとか、そういう細かい事は置いておいて【鰯が降ってきても無事な異能】を持っていた主人公とその他数名が人類の生き残りとして生きていくんだというなんとなく綺麗な話にして終わらせる流れが本当に好きロボ。
 あまりにも好みの作品なので正当な評価が出来ないし、ロボ的にここをこうした方がいいんじゃないのかという部分も見当たらないロボ。ツッコミ不在の世界の出来事なので外部からいくらでもツッコミは可能なんロボけど、そのツッコミに対しても「こういう世界なんで」って言われたらおしまいなので難しく考えちゃいけないんロボよこういうのは。
 ただ、ロボは大好きな作品ロボけど、逆にこういう作品を受け付けれない読者も居るというのだけは心のどこかに持っておいたほうがいいとは思うロボ。その辺は好みの問題になってくるので誰が悪いとかでは無くて仕方のない事なので深く考える必要は無いロボ。そういう人も居るという事だけ理解しておいて貰えば大丈夫ロボ。
 ただ、一点だけ気になったんロボけど、主人公が異能を使用してクラスメイトや教師を助けた個所で「運び込んぶ」という言葉が出てきたんロボけど、これは海なので昆布とかけたダジャレなのか、それとも単なるタイプミスなのかどっちなんロボかね。
 ダジャレなのだとしたらここだけでなくてもっと他の場所でも出していっていいと思うロボ。こういうのは恥ずかしがってちょろっと出すよりも、自身をもってばーん! と出した方が勢いで笑えて来る物ロボ。もしも単なるタイプミスだったらロボが勝手にダジャレだと思って笑っているだけロボから気にしないで欲しいロボ。ロボはやっぱりこういうのに弱いんロボね。面白かったロボ。五億点。

69:その音は聞こえない/こやま ことり

謎の有袋類
 前回は吸血鬼と、有翼人種ファンタジーを書いてくれたこやまさんの作品です。参加ありがとうございます。
 今作は、こやまさんの得意なアオハル系のBLという感じの作品でした。
 他人と触れあうと、相手の心情に即した音が聞こえてしまうという異能を持った主人公と、その片想いをしている相手とのすれ違い恋愛ものでした。
 文章は全体的に読みやすくなっていて、ひっかかりが少なかったです。なんとなく古き良きBLを思わせる読み口で懐かしい気持ちになりました。
 音が重要な要素になっている作品ですが、ところどころ「ドラムの音」「小鳥の鳴くようなバッシュの音」という表現で「?」となった部分がありました。
 ドラムの音と言ってもキックの音、タムの音、スネアを叩く音や、それを組み合わせたものがあります。
 せっかくの超エモシーンなので、海斗の音だけでもどんな音なのか更に解像度を上げて描写をしてみると読者のイメージがばらけずに、こやまさんの思っているエモシーンの減衰が少ない状態で届けられるのではないでしょうか!
 物語の規模感はバッチリだったのと、こういう関係性が好きなんだろうなというのは伝わってきたので、更に威力を減衰させないために何が出来るのかメインを際立たせるための副菜にも気を配ると更に強くなると思います!

謎の野草
 BLが性癖と公言されているこやまさん、今回も「好き」を詰め込んだ青春BLでのご参加ですね。好きで・楽しんで作り上げていることが読むほうにも伝わって来ました。
 冒頭から音、特にバスケ部の活動に関わるそれの描写が細かく書き込まれているのですが、それは主人公の持つ「異能」と、幼馴染への思いが理由、という情報の並べ方がスムーズな導入でした。言動と心の音が裏腹な海斗、傷つきながらも完全に関わりを断つことができない主人公──読者目線ではそれぞれの理由が明らかなのにもかかわらず、恐らくは都合の良い考えに流れることができずにすれ違うふたりの悩む姿に、王道のすれ違いのもどかしさを堪能させていただきました。
 異能で聞こえる音、実際に聞こえる音、いずれも多くは主人公を悩ませる音なのですが、海斗に関する音についての描写は優しく思いに満ちたもので、直接的な表現でなくても登場人物の感情を伝える表現が素敵でした。後編でバスケの音を思い出す場面は、それだけ海斗に関することを聞き取ろうと心を傾けていたことの表れのようで健気さにきゅんとなります。
 一方で、これだけ「音」をテーマ・モチーフに据えた作品なのに、ふたりの思いが伝わるのが海斗の言葉での告白によって、なのが少々もったいないと思いました。展開は同じにしても、触れ合ったことで彼の奥底の「音」も聞こえて「あれ……?」となる──など、言葉よりも「音」で本心を知る流れになっていたら、より「異能」も活きるし触れ合うドキドキも際立つのではないかと思いました。主人公は多分、好意の「音」をあまり聞いてこなかったと思うので、初めてその音を聞かせてくれたのが好きな人だったというのはとても幸せなことですね!
 ちなみに、ここからは作品の良しあしではまったくなく、ジャンルに詳しいかどうか、文脈の消化酵素の有無だけの話なのですが、「攻の友人としての受に嫉妬する女子」というのはBLならではの現象なのでは、と思いました。邪魔に思う、不釣り合いだと訝しむ、くらいはあるでしょうが、異性を迷わず嫉妬の対象にするのは現実では恐らく少ないケースで、ジャンルのお約束を感じて興味深かったです。

謎の機械
 高校生になった少年同士の気持ちのすれ違いの話ロボね。
 【触れた相手の心の音が聞こえる異能】という相手の感情を深読みしてしまう能力を持った事により、親友の言っている事が嘘と分かってしまうという残酷な物語だと思ったんロボけど、「片思い」という言葉が出て来てからおやおやおやぁ? と楽しくなってきて一気に回路が繋がり、(これはもしかしたら勘違いで、アレだな?)と読者に匂わせをするのがとても良かったロボ。
 もうここからは主人公の勘違いに対して(早く気づけ!!!!)と思いながら思春期の少年の複雑な心にやきもちをして読み進めていったんロボけど、ドラムのビートが聞こえてきたところでテンションが爆上がりしたロボ。もうそっからはクライマックスの勘違い炸裂からの保健室での静かな告白でいい気持ちで二人のしあわせを祈る事が出来たロボね。
 こころの音が聞こえるからと言って何を考えているのかが明確に分かる訳では無いという事を上手く利用して相手の気持ちを勘違いさせつつも、その能力で真実にも気付かせるというのが上手い使い方だと思ったロボ。異能を素直に「心が読める異能」や「相手の感情が分かる異能」にするのではなく、わざわざ【心の音が聞こえる異能】という回りくどい物にするという理由がしっかりしていてポイントが高いロボ。
 ただ、昼ごはんをタカリに来た時に手を掴まれてパリンという嘘の音がした時の場面がちょっと気になったロボ。最後の告白中にわざと早弁して会いに来たと言っているのでこの時の会話のなんらかが嘘なんロボけど、早弁をした事は本当ロボし、腹が減りすぎて死んじゃうの部分は嘘を付いても意味がないロボ。となると、直前に言った言葉の「ハルからほしいから」がパリンの原因じゃないかとも読み取れてしまうロボ。女子の弁当を断ったのが嘘の可能性もあるロボけど、ここで本当は女子からの弁当が欲しかったと判明するのはカッコ悪いので多分違うロボよね。
 物語的には支障のない部分ロボけど、ちょっとだけ気になっちゃったロボ

70:Bearer of the Hell/神澤直子

謎の有袋類
 二作目は堕天使と契約をした少年の異能バトルもので参加してくれた神澤さんです。
 不遇な境遇の少年がよくわからないままに契約をしてしまい、トラブルに巻き込まれると言う者でした。夢オチっぽくもあり、そうではないような仄めかしがあるラストは続編も書けそうでいいなと思います。
 鬱屈した主人公の内面や、どうしようもない閉塞感のある限界環境にある少年が最後に人間が嫌いでは無いと思ったのは、キャリーや安川さんのお陰なのかな?とお揉ました。
 トミーの死因だけわからなかったので、もう少し詳しく書いてくれると納得感が増したかもしれません。
 それにしても、いじめられっ子同士の蠱毒……すごい催しですね……。
 主人公の異能は触れた相手の記憶を体験したようにのぞき見る能力と、忘れさせる能力という搦め手っぽいところも好きでした。
 好きなものを楽しく書けているようなので、このままコンスタントに創作をしてくれたらいいなと思います。

謎の野草
 一作目は悪魔憑きの異能バトルで参加された神澤さんの二作目です。堕天使をモチーフにしたバトルものという点では本作も近しいですが、現実社会や人間関係で疎外感を味わう主人公の視点が鋭くて文学作品の趣もあり、胸に刺さりました。
 支援が受けられるほどの障害でもなく、親元を離れられるほどの虐待でもなく、けれど確実に「恵まれていない」ラインのじんわりとした不幸の描写にリアリティがありました。この主人公のような、「普通」というカテゴリーの「下限」の人々については、書籍「ケーキの切れない非行少年たち」などで取り上げられているので時代性のあるテーマだと思います。個人的に痛かったのは「仕事が終わると、いつも17時だ。」という一文ですね。恐らくは単純作業ばかりで残業もなく、同僚と飲みや食事に行くこともないという、主人公の立ち位置が嫌というほど伝わってしまう短くも残酷な一文でした。
 「異能」をいわゆる超能力としての解釈だけでなく「才能」の意味でも使っていたのが本企画の中でもかなり少数派の観点で興味深かったです。また、SNSにも入り浸る創作者の端くれとしては、SNSを通した承認欲求に振り回される主人公の姿にも非常に身につまされました……多彩な才能に簡単に接することができる、距離を越えて気軽に言葉を交わせる現代、良いことも悪いこともあるようですね。
 主人公が覗き見たキャリーの記憶は、映画「キャリー」のオマージュなのですね。この講評を書くにあたって、初見では「トミーが虐めっ子に殺されてしまったことへの復讐」だと思ってしまい、「えっトミーも陽キャ側ではなかったの? いじめでそこまで??」と頭に疑問符が飛び交ったのですが、「女の子でホラーでキャリーといえば映画があったはず……」とストーリーを調べて納得した、という流れがありました。知っていて当然の作品で、私の無知が原因だったのかもしれませんし、あるいは分かる人に分かれば良いという意図だったのかもしれませんが、予備知識がない読者にも分かるように楽しめるように加減していただけると、間口を広げられるのではないかと思います。
 第一話の悲壮感とキャリーの記憶に気持ちが重くなったところで、主人公の善意と優しさに救われるラストでした。無欲さこそが悪魔の誘惑から生還する鍵なのかな、などと思います。

謎の機械
 現代社会で稀に見る誰が悪い訳でも無い不幸で悲壮な境遇の少年が堕天使の開催する殺し合いのトーナメントに参加してしまう話ロボね。
 第一話の少年の他者の助けが必要な程の生活では無いが、それでも本人にとっては辛く苦しい物であるという描写がとても上手くて、まるでその境遇に居る人を見ながら書いたかのようなリアルさがあったロボ。頑張っても報われない。自分では頑張っているつもりなのに他人は頑張り方が違うと言うし、誰も助けてくれない。
 そういう、自分では真面目に一生懸命生きているつもりなのに実際は何もかもが中途半端にしか出来てないし、自分でもそれを治そうとはしているけど治し方が分からないしそもそも治るかも分からないという状況。苦しいロボよね。
 そんな状況で堕天使と出会って契約してしまい、その堕天使の能力の【触れた相手の記憶を見る事と消す事が出来る異能】を使って戦う事になるという巻き込まれ型異能バトル。相手は自分と同じように虐められていた子で、その子の過去を見て記憶を消去させて一回戦を勝利したところで現実に戻ってくる。もしかしたら夢オチだったのかと思わせて実は実際に起きた出来事なのかもと曖昧なまま物語は終わる。
 短編として凄く良く出来ているロボ。
 堕天使が出て来てからの話は精神がおかしくなったことで見てしまった幻覚や夢かもしれないロボし、もしかしたら本当にあった事なのかもしれないロボ。
 ただ、このキャリーという少女が映画のキャリーの登場人物のキャリーだとしたら、これが全部夢だった可能性はあるんロボよね。キャリーの最後も夢オチな部分もあったロボし、何が本当かは作者にしか分からないロボ。でも、この作品はどっちつかずのまま終わるの正解だと思うロボからこれでいいと思うロボ。
 第一話では何もかもが中途半端でおどおどとした主人公だったロボけど、なんだかんだで戦いの場に立ったらちゃんと動くことが出来ていたロボ。という事は現代社会では役に立たないだけで戦いの才能は有ったのかもしれないロボ。
 とりあえずSNSには向いていない性格だと思うので、Twitterは初期アイコンにして見る専にしてツイートは何もしないでおくのが一番いいと思うロボよ。

71:グラジオラスの花弁/つるよしの

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 触れた生物の命を奪ってしまう異能を持った女性のお話でした。
 最初は花瓶の花、次に小動物や魚たち、そして人……と徐々に強力になっていく力を持っている女性が、体を売る仕事をしていて犠牲者を積み上げていること、そして、最後に恋をした相手を意図して殺してしまうという切ない展開のお話でした。
 僕はこういった繊細な心理描写がちょっとわかっていなかったので、全く検討ちがいのことを思っていたら申し訳ないのですが、これは枯れてしまったグラジオラスの花を見て「初恋の相手が知らない誰かの場所に行くなら殺してでも思いを遂げよう」と思って行動したけれど、最後はやはり少し後悔してしまったということでいいのでしょうか?
 この後、女性が自首的なものをするのか、また体を売って思い出を胸に抱えたまま生きていくのか解釈が分かれそうなお話でとても興味深かったです。
 この異能、うまく使えばいい感じに役に立てそうなのもあり、運と境遇が本当に悪く悲しい物語で、おもしろかったです。

謎の野草
 つるよしのさんの作品では、これまでSFジャンルを読ませていただきました。今回は現代恋愛ジャンルですが、不幸の影を負った女性を切り取る目線は、これまでの作品とも通じるように思いました。
 触れる生き物を「ころして」しまうという「異能」を持つ主人公ですが、半生を振り返る視線の冷静さが目立ちます。たくさんの命をころしてきた「らしい」、と語り、犠牲の多さにも罪悪感を覚えている様子がありません。それは恐らく、自分の意志で命を奪っている自覚がないため、他人事として捉えているからだと読み取りました。地元を離れることになったことにも風俗業に身を堕とすことになったことにも悲壮感がないのも、同様に「仕方がないから」と諦めていたからなのでしょう。動植物だけでなく人の命も奪っている(かもしれない)にもかかわらずの冷淡さは少し恐ろしいと同時に、それだけ心が摩耗している悲しさも感じました。
 そんな彼女が初めて激しい感情を覚え、恋をした結末がその相手を意識的に「ころす」ことだった、というのはそうなるしかなかった、ほかの愛し方を知らなかったという意味では悲劇なのですが、彼女がそれほどの積極的な望みを抱いたという点においてはある意味では成長であり、妖艶な花が開くところのような美しさも感じました。花をくれた男性と偶然にも再会できたこと、彼をいわば永遠に我が物にできたこと、いずれも彼女にとってはこれ以上を望むべくもない結果だったのではないでしょうか。
 現代日本の物語として読んでいたのですが、「立ちんぼ」というワードや、男性や花屋さんの言葉遣いからは少し前の時代の雰囲気を感じました(夜の世界を直接知る訳ではないので、あくまでもイメージでは、なのですが)。何年ごろの情景を思い浮かべれば良いのか、ヒントとなる描写が散りばめられていると戸惑いが薄かったかもしれません。

謎の機械
 【関りを持った命が死んでしまう異能】を持った少女の、初恋と失恋と目覚めの物語ロボね。
 異能の影響なのか主人公の女性には幼少期からずっと情熱という物が無くて、周りで命が死んでも悲しんだり抗ったりせず、ただそういう物として当たり前に扱ってきたという感じがするロボね。何かが死んでしまう事は当たり前な事で、不便ではあるけれど投げ出したくなるほどでも無いしこれが当たり前なのだという感じの妥協を覚えたロボ。自分の体を売る事もそんな妥協の一種なんロボかね。一般人とは違う感性を持った人類というのがよく伝わってきたロボ。
 でも、その妥協によって覚めていた心にとある男性との出会いから火が付き、彼を求める様になり、そこで初めて自分が関わった物に「美しいから死んで欲しくない」という執着を持ったんロボね。でも、そこで覚えた執着から「美しいから死なせたくない」ではなくて、「死んで欲しくない物が死んだ姿も美しい」という普通の観念とは違う物に着地してしまったロボ。これは彼女が元から一般人と違って関わった物が死ぬという経験を沢山してきたからなんロボろうね。
 相手が欲しい。相手の温もりや愛が欲しい。でも、自分と関わると死んでしまう。故に死んだ姿も美しいと思う事で、相手をわざと「ころした」後でも相手の美しさを感じられるという、常人には理解出来ない境地が彼女の辿り着いた先なんだろうとロボは感じたロボ。
 段々と彼女が心に熱を持っていく描写が丁寧でとても良い作品だったロボ。
 人によってはこの主人公の事を奇人変人扱いするロボろうけど、ロボはこういう最初から何かが違っただけの人類というのは好きロボね。
 普通では考えられないような行動をしていても、それは元から考え方が違うので仕方ないんロボよ。思春期が訪れた辺りから家を出てしまって居るのだし、今まで誰もそれを悪い事として叱っていないのだから、好きな相手を殺してしまうのも仕方ないロボ。
 この件で一つ成長できた彼女がこれからどうなっていくのが気になるロボけど、これはここで終わっておくのが正解ロボろうね。立ちんぼをしているのならどこかで和えるかもしれないロボし、ちょっくらロボは夜の繁華街を深夜にうろちょろしてみるロボよ。

72:Skybox/@sibori

謎の有袋類
 一作目はイワシが降ってくる作品を書いてくれた@siboriさんの二作目です。
 とある物語のワンシーンを抜き出したような作品でした。なんらかの革命軍が、宇宙に浮かぶ大型居住コロニー国家「にちりん」に反抗するために重要施設に押し寄せたという導入で、このコロニーの内部には色がわかるものがいないという種明かしがされていきます。
 数少ない色がわかる老人が、空を描くという仕事を任されていて、その老人が最重要施設にいたということ、そして、明日からコロニーの空は消えてしまうということに思いを馳せた主人公が最後に老人が仕上げた空を見上げるという結末です。
 空を描く老人が何故、こんな厳重に警備をされていたのか、何故空は青色で描かなければ綺麗に見えないかなどがもう少し説明してあると個人的にはうれしかったかなと思います。
 全部語るのは野暮なのもあるので、情報開示をどの程度行って世界や主人公たちの行動に正当性を持たせるのかを考えるといい感じのバランスを探れると思うので意識して見ると更に読者が物語に対する納得感を感じられるのではないでしょうか。
 一作目の鰯にも思いましたが、絵になるシーンを描くのがとても得意な作者さんだと思います。
 長所を伸ばす方向でもいいですし、苦手を減らす方向でもいいので、これからもたくさん作品を書いて欲しいです。

謎の野草
 一作目はイワシアポカリプスで参加されたsiboriさんの二作目、こちらも良質なSFでした。
 主人公たちはテロリストなのかあるいは自称通りの革命軍なのかは不明ですが、いずれにしても暴力的手段に訴える気満々で踏み込んだ彼らをして無言で見守らせてしまう老人の「仕事」ぶりとその意味・内容、SFならではのアイディアだと唸りました。この仕事が重大なものとして認識されているということは、宇宙に進出してなお「青空」に憧れる人の心があるということなのでしょうね。後半で明かされる「病気」と併せると、それでもこの仕事が受け継がれてきた背景、前任者たちの心情に思いを馳せて切なくなりました。このコロニー、恐らく日本人の末裔だと推測されるのですが、彼らがどのような国旗(モチーフ)を掲げているのかも想像が膨らみます。この世界では日の丸の見え方もまったく違うものになってしまいますから……。
 少し引っかかったのが、この「異能」持ちは全人類の0.1%しかいない、という記述です。一万人にひとりは確かに少ないですが、例えば人口一千万人のコロニーには千人くらいはいる計算になるので老人だけしかいない、という表現は違和感がありました。病気の流行当初の比率がそうで、世代が進むにつれて非感染者がさらに少なくなっていった、ということかと思うのですが、少し説明があると分かりやすかったかと思います。
 また、ラストまで読むと、最初のほうの「後頭部にレーザーの『赤い』点が浮かびあがり」という描写は恐らくミスなのかな、と思いました。主人公の一人称視点寄りの描写でないとオチが活きない関係上、読者を騙しつつ嘘のない描写は難しいとは思うのですが、効果的な表現を模索していただけると良いかと思います。
 今回参加された二作品はいずれもコンパクトに纏め上げた密度の濃い作品でした。物語を綴る、読者に伝えるという基礎は十分にできていらっしゃるとお見受けしますので、もっと長い作品も拝読してみたいと思いました。

謎の機械
 なんだか物騒な感じの突入劇から始まる、宇宙に進出した人類に起きた変化と、その変化が起きなかった重要人物による職人技が光るSF作品ロボね。
 3000字の短編なんロボけど、この世界がどういう世界かという設定を説明しつつも説明だらけにならない匙加減で物語を進めているのが短編作品に慣れているという感じがしたロボ。起承転結は元より、最初に疑問を抱く箇所を出して読者が気になった所でその答えを出すという感じで情報の出し方が上手いロボ。
 「こういうのを書こう」と思ってから実際に自分の思った通りの作品に仕上げる実力を既に持っているロボね。今回投稿してもらった二作品とも短編SFとして上手く纏まってるとロボは思うロボ。
 カクヨムに投稿している他の作品も短編ばかりロボみたいので、個機械的に10000字以上の作品にチャレンジしてみるのもいいんじゃないかと思うロボ。短編をいくつか繋げてみるのもいいロボし、短編の中に世界設定をもっと詳しく書いて文字数を増やしてみるというのもいいロボ。物語の本筋とあまり関係無いからとカットしている設定がいくつかありそうな感じがしたので、それを読んでみたいロボね。
 後、ちょっとだけ気になったんロボけど、突入してきた主人公が銃に付いてるレーザーサイトの色を「赤色」と言っているロボけど、これは主人公も老人と同じ【色を認識できる異能】を持っているという事なんロボか?
 もしかしたら単なるミスかもしれないロボけど、今後のこの世界の空を作る職人として主人公が後継者になるという展開も面白そうなので、ロボとしては同じ異能を持っているという匂わせのほうが嬉しいと思ったロボね。青という色の名前を知らないから空を見ても白と言っていたみたいな、そんな風に捉える事も出来たロボ。

73:no title/なんようはぎぎょ

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 治安の悪い高校での日常、夏休みの一幕という感じの物語でした。
 丁寧に積み上げた親友のフラグがパッと成立して酷い目に遭う部分がすごく気持ちよくて「やったー!」となったので、個人的にはそこが好きです。
 土屋さんのヤバいやつっぷりがめちゃくちゃいいですね。多分、彼女のことを殺したかボコボコにして山に置き去りにしてから、なんでもない顔で彼女の友達に声をかけてくるようなヤバムーブと、彼女の友達から金を預かっても持ち逃げしない妙な善性がリアリティーがあって好きでした。
 ネットで炎上を繰り返す絵描きアカウントが、しれっと女を食うという部分もすごく好きです。
 この作品を通して、作者さんはどのような気持ちを読者に感じさせたいのかにもよるのですが、もっと振り切れてしまってもいいかも? と思いました。
 レーティングとの兼ね合いにもなりそうなのですが……。
 主人公と境さん、そして旭とのやりとりがメインなんだと思うのですが、個人的には土屋ちゃんとその彼氏がめちゃくちゃおもしろくて、そちらに意識が向いてしまったので、短編の場合は登場人物や起きる事件を絞った方が多分読者にも親切で、作者さん的にも伝えたいことがブレにくいんじゃないかと思いました。
 ヤバい人間を書くのが好きな作者さんだと思うので、今後も好きなことをたくさん書いて欲しいと思います。

謎の野草
 美しい建前と裏腹のいわゆる「治安の悪い学校」のカオスな雰囲気の描写が具体的で空気感が伝わってきました。あいにくリアリティがあるかの判断ができないのですが、こういう世界もあるんのかな、あるんだろうな、と思わせられる説得力がありました。ドンキで購入したスカートを制服にしている主人公のあだ名が女教師、という描写が象徴的だと感じました。多分ですが普通の制服のスカートよりも生地は薄いし安っぽさは拭えないと思うのですよね……それで真面目だと見られる学校、ということで世界観を把握しました。
 「そういう学校」なので生徒の個性も様々なのですが、主人公が自分とは全く異なる子たちを指して「異能持ち」と認識するのがこの年齢ならではの感性だと思いました。世の中には色々な人がいる、ということを実感として知ることがまだできていなくて、まったく別の種族だったり異能持ちに見えたりしまうのだろうな、と。境さんから見れば主人公も恐らく異能持ちなのでしょうが、それを今ひとつ実感していないのも若さですね。なお、境さんの台詞にて「てにをは」がやたら省略されているのも「こういう子」らしいな、とディテールの細かさが効いていました。
 どう考えても彼女のことを覚えていない上に身体目当てにしか見えない旭に会おうとする主人公。大人から見ればあまりに危ない恋愛をしているのに危機感が薄い土屋さん。ふたりとも非常にハラハラさせられる言動で、どう着地するのか心配しながら読み進めていました。それでも物語だから青春の一幕として、せいぜいが苦い思い出で終わって欲しい、とつかない既読に厭な予感を覚えながらも切に願っていたのですが、ラスト一話で甘い考えだったと打ち砕かれました……。
 物語の結末としては、主人公が「異能力者なんていない」と悟り、ある意味で大人の階段を上った、ということになるのでしょうか。旭への幻滅と、SNS上での「真実」の不確かさを思い知ったこと、と。主人公にとってはひとつの世界が終わってしまった切なさと、とにかくも無事に帰れた安堵が混ざった落ち着かない読後感は、これはこれで文学的で十分アリだと思います。ただ、読者としては土屋さんの安否や、その結果を受けた主人公の反応、主人公への影響がとても気になるところです。企画としては上限近くまで字数を使っているのでここで切った、ということかもしれないですが、もう少し「その後」の描写があると「これで終わり」という納得感がよりあったかと思いました。

謎の機械
 真面目なんだけど自分の意見を強く言う事が出来ない女の子が冒険をしようとして、その途中で起きた周りの色んな事にとうとう限界が来て自分の意見を言う事が出来たという、マイナスの感情が元ではあるけど女の子が成長したお話ロボ。
 相手の都合を考えないで強引に来るギャル、女子高生なのに年上の男性と付き合う友人、プライドが高くてSNSでなら色々言えるけど実際は優柔不断で甘えだらけの絵描き、未成年と付き合う上に暴力も振るうしそれを悪い事と思って無さそうなトラック運転手、爆買い後の中国人と、登場人物全員がそれぞれ特徴を持っていて、主人公の女の子がそれらの自分とは違うと思っている部分を【異能】と思っているのがお題の回収ポイントロボね。本人は気付いていないしギャルにも言われているけれど、主人公の女の子も所謂普通とは違う性格や考え方なので異能持ちではあるロボ。最終的に誰かに振り回されたり頼ってばかりいてはダメだと気付いて一歩大人になったロボから、異能持ち脱出には近付いたロボ。
 それぞれの登場人物のダメさの描写の解像度が高くて、どの人物も現実に居るロボこういう奴…という感じになったロボ。
 登場人物の造形とこの人物はこういう言動をするというのはとても上手く出来ているロボけど、そういった「所謂普通から外れている人間」が何を考えてそういう行動をしているのかが読者によっては分からないので、どうしてギャルがこんなに気をかけてくれているのかや、友人がどう考えても無理なのに助けを求めてきた事や、絵描きが泣き出してしまったかや、トラック運転手が友人を殴った後に普通に連絡を続けているのかが理解出来ずに終わってしまう可能性はあるロボね。
 そういう人が居るという事が分かっている読者にはあるあるネタみたいな感じで伝わるけれど、そうじゃない読者には主人公の女の子みたいに彼らの行動が異能にも見えて理解が出来ないロボね。主人公がギャルの事を「相手の事あんま考えない特殊能力」と称したみたいに、他の人にもその説明を付けてあげると分かりやすいかなと思ったロボ。
 主人公がちょっとだけ大人になって周りへ甘えなくなった状態で帰って来た後の周りの反応は気になるロボね。ギャルはとても喜んでくれそうな気がするロボ。やはりギャルは良いロボ。ギャルはなんだかんだで優しいんロボよ。

74:アキハル ~ song of memento days for lost you ~/神崎 ひなた

謎の有袋類
 第三回こむら川小説大賞では「テセウスの君、空っぽの空」で金賞をかっさらった神ひなさんの作品です。参加ありがとうございます。
 アングラ小説大賞に参加した怪作アキハルの続編です。
 テンポの良い文章と、かなり思い切ったルビ芸、そしてキメ台詞とぶっ飛んだ世界観と相変わらず何を食べてこれ書いたんだ? となる勢いの強い作品でした。
 勢いだけでは無く、キチンと盛り上がる部分が明確にあり、エンタメとしても高クオリティーの作品なのが怖いところだと思います。
 金賞を獲得した神ひなさんなので講評もそれに併せてパワーアップをしていきたいと思います。
 前作を読んでいるので公平な判断は出来ないのですが、どちらかというと既存の読者向けに書かれていてアキハルについてや、世界の描き方が薄くなってしまったかなと思います。初見の読者さんには前作を読まないとアキハルのかっこよさや、世界観が伝わりにくいかなというのが勿体ないなと思いました。
 内容もかなり詰め込んでいるからか、駆け足気味の展開&セリフが多い気がします。あらすじやプロット段階のような印象を受けました。
 この内容をしっかりと肉付けをしていけば多分10万字近い作品に出来ると思うので、リライトをしてみるのも良いのでは?と思います。
 エンタメ作品としてめちゃくちゃおもしろかったですが、この作風だけにしばられてしまうのは本当に勿体ないと思うので、自分の作風を決めつけずに色々な実験をして欲しいなとおもいます!がんばれ神ひなさん!早く書籍化してくれ!

謎の野草
 ボキャブラリーとルビ芸のセンスが他の追随を許さない神崎さん、今回も怪作でのご参加ですね。英文法的には気になるところが沢山あるとか、忠臣蔵は蔵ではないとか、そんな些末なことをいちいち指摘する気にはなれない圧倒的なパワーがありますね。さすがです。カクヨムの仕様上、ルビは作品文字数には含まれないようなのですが、ルビを含めた場合だとどれほどの規定オーバーになっていることか……。真似しようと思ってできるものではないですが、規定以上の内容を詰め込むためのライフハックとして使えるかもしれません。大量のルビ芸、一見すると奇をてらったトンチキに見えるのですが、漢字/カタカナ表記、英語の直訳か意訳か言葉遊び等々ですべてニュアンスが変わってくるので、伝わる情報量が大真面目に倍以上になっていると思います。本文とルビを合わせてじっくりと噛み締めて味わわせて&楽しませていただきました。
 ルビについて、笑ったところも突っ込んだところも数知れず、なのですが、一番すごいと思ったのは「死神」に「ハ・デス」と振った箇所です。ハデスのデスはもちろんdeathではないのに、よくここに気付いたものだと思います。
 物語そのものについても、荒廃した世界、跋扈する悪党、それを退治するアウトロー主人公と王道を抑えた熱くスピーディな展開でアクション映画を観ている気分でした。この文字数の中で敵幹部との決闘が漏れなく詰め込まれているという驚きの圧縮率もすごいです。中でも印象的なのがフルハーネスとの対峙で、主人公の音楽を認める描写があるのが敵味方を越えた絆が垣間見えて渋いです。また、ラスト一行のために一話を設ける間の取り方もお洒落でした。
 神崎さんの作品、直近のルビ芸が光るハードボイルド風の作品も楽しませていただきましたが、以前のこむら川に出された「喰らう箱と死なない少女」も「テセウスの君、空っぽの空」も大好きです。今後もパワフルな作品を送り出してくださいますよう、お待ちしております。

謎の機械
 話としては麻薬組織が蔓延る世の中で一人の音楽家が麻薬組織を撲滅させる為に回っていて、とある麻薬組織と関りのある少女からの依頼を受けて投与すると【異能に目覚める麻薬】を扱っている麻薬組織と戦うという内容ロボね。こう書くと主人公の本業がミュージシャンな部分を置けばよくありそうな犯罪組織と戦う男のハードボイルド物のような感じロボけど、この作品の見どころはルビ芸ロボ。
 ルビと言えば基本はその言葉の読み方を教える振り仮名なんロボけど、この作品のルビは振り仮名というか翻訳される前の作者独特の言語という方が正しいロボ。一部はそのまま英語にしただけや独自のカッコイイ読み方をしているんロボけど、明らかに用法が間違っているのにも関わらずなんとなく意味は通じるという謎のルビになってるんロボ。警視総監は《ポリスカイザー》なんて言わないロボ。そもそもカイザーはドイツ語ロボ。それにナイスショットを《みんなのゴ〇フ》は確実にやばいロボ。ソ〇ーに怒られるロボよ?終始こんな感じで、本当にツッコミ《トゥルーリード》が追い付かん《アンストッパブル》ロボ。
 ルビを置いておくにしても話の展開もほぼ勢いで解決する内容で、作品全体から細かい事は考えずに心で読み取れという熱いメッセージ性を感じて面白いかったロボ。ただ、やっぱりこういう勢いの作品と言うのは読者を選んでしまう部分があるので、この書き方を選んだのならば自分に合わなくて読む事を諦める人も居るというのは許容しなければいけない部分だと思うロボ。何かに突出している作品ほど、熱狂的なファンは付きやすいロボし、全く反応しない人も出やすいという事ロボね。
 それでもこの作風は他の人にはそうそう真似が出来ない物だと思うロボし、この独自のセンスをちゃんと自覚して武器に昇華出来ているというのはそれだけで凄い事ロボ。
 この武器をさらに磨くのか、それとも万人受けを目指した形へと変化させるのか。これからどういう作風を完成させていくのかがとても楽しみロボね。一度試しにこの作風とテンションのまま10万字作品を作ってみるのはどうロボか? 10万字あれば公募にも出せるロボし、自身の代表作として紹介も出来るロボ。一度試してみて欲しいロボ。

75:それでは、また明日。/そのいち

謎の有袋類
 前回は「空泥棒」と「真冬に花火」で参加してくれたそのいちさんです。参加ありがとうございます。
 神通力があるという女性と、その女性の元に執拗に尋ねてくる男性のやりとりを描いたものでした。
 簡単な手品を神通力だと信じる自称大学教授である福田とチヅ子さんのやりとりはとてもテンポが良くて面白く読めました。
 最初に抱いていた「こういう肩書きの人が何故?」も後半で回収されていてとてもすっきりしました。
 繰り返しをされる理由、そして「それでは、また明日」に何が含まれているのかだけ僕にはちょっとわかりませんでした。
 僕がこういうギミックや謎解きが苦手なのもあるのですが、読者は作者ほど作品に対して情報を持っていないので、わかりやすいくらいにヒントを書いてしまうと「解かせたい」疑問に関しては親切だと思うので、情報を意識して書くといいかもしれないなと思いました。
 読者が疑問を抱くところ、そしてその伏線の回収や会話劇などはとても巧みな作者さんだと思います。
 今後も色々な試行錯誤を続けて作品を書いて欲しいなと思いました。

謎の野草
 ホラー小説・映画「リング」で有名な貞子、その母親のモデルとも言われる御船千鶴子さんを題材にした作品です。実在のモデルがいるということはほのかに知っていたので渋い題材のチョイスににやりとしました。
 本編は、チヅ子さんの異能=神通力について、というよりも世間の評判に傷ついて閉ざされた彼女の心を福田先生がこじ開けるお話だと読み取りました。純真かつちょっと騒がしい福田先生の勢いと、若干引きつつも絆されていくチヅ子さんのやり取りが微笑ましく楽しかったです。ペンを振って錯覚でぐにゃぐにゃさせるやつ、小学生時代とかにやりましたね……懐かしい……。最初は一方的に告げられていた「また明日」の挨拶ですが、次第にチヅ子さんも心待ちにするようになり、最後にはごく自然にふたりして同じ挨拶を交わす流れ、多くを語らずともふたりの心が近づいているのが感じられました。福田先生は本当に純真な人だったのか、チヅ子さんに対して下心──というと語弊がありますが──、傷心を慮って癒そうとする動機があったのか、想像を広げる余地があるのも良かったと思います。
 ふたりのやり取りがメインの作品で、それが魅力にもなっているのですが、ほぼ「」が連続する形になっていて表情や動作、情景の描写がほぼないのが少々物足りなかったかと思います。ふたりの声のトーンや感情の動きについては台詞だけでも十分伝わったのですが、時代背景やチヅ子さんの立場・経歴などは予備知識がない読者には分かりづらいのではないかと思いました。物語開始以前に何があったかについての説明をもう少し加えると、読者のチヅ子さんへの共感がより生まれるかもしれません。

謎の機械
 千里眼の神通力を持つと言われている女性と、その神通力を研究したい教授のお話ロボね。という事はお題である【異能】は【千里眼の異能】という事になるロボかと思いきや、親指が取れたり、親指が伸びたり、人差し指がこめかみから頬へ貫通したり、万年筆がぐにょぐにょしたり長さが変わったりと様々な異能を披露して貰えて、いつかは当たるだろう千里眼の実験や念写の実験まで始まるというちょっと笑っちゃうし優しさの溢れる内容だったロボ。
 最初から色んな事が嘘で人を騙している話なんロボけど、その騙し方が明らかに子供だましなのに騙されてしまう教授が可愛いロボね。もしかしたらわざと驚いてくれているだけかもしれない思っていたんロボけど、甥っ子に再現されるまで信じていたのは笑ってしまったロボ。本当に純粋なんロボねこの助々々教授補佐。
 話自体は助々々教授補佐がペテン師扱いされた自称千里眼の女性を慰めるという感じで面白かったんロボけど、千里眼の女性が一体どういう失敗をしてペテン師扱いされたのかと、本当に異能があったかどうかのの説明があるといいなと思ったロボ。新聞に載ったという事なら結構大きな出来事っぽいロボし、その失敗の仕方によっては本人の意図しない部分で第三者が何かをしたという可能性もあるロボ。それに本人の話では過去は本当に千里眼が使えたみたいな感じロボけど、キャプションに「看破された」と書いてあるという事は千里眼はペテンだったという事ロボ?
 話自体はほんわかして面白かったんロボけど、ペテン扱いの原因と本当に千里眼があったかどうかによって教授の行動を読者がどう感じるか変わって来るので、作者としてこう読み取って欲しかったというのがあるのならば、それについては分かりやすく提示するのがいいと思うロボ。わざと曖昧にしておきたい場合でも、その旨をどこかに書いておくと読者に親切だと思うロボ。

76:カースメディエーター/山本アヒコ

謎の有袋類
 第二回こむら川小説大賞では「やわらかい指」で金賞を受賞した山本アヒコさんが参加してくれました。ありがとうございます。
 今作は霊と瘴気によって汚染された村に来た二人の女性と、一人の異能を持つ少年のお話でした。
 臨場感のあるバトルシーンや、呪いによって支配された大陸、教会や聖水の設定や冥呪結晶というキーアイテムなどなどすごく好みのダークファンタジーでした。
 文字数に対して、かなり物語の規模が大きいような気がしていて、終盤はかなり駆け足気味になっていた気がします。
 せっかくなので、これを下地にした中長編を書いてもいいのでは?と思いました。
 トーキが、姉だったものを見つけるシーン、そして、それを使って覚醒するシーンがめちゃくちゃアツくて大好きです。
 アヒコさんのダークファンタジーはとても好きなので今後も作品を書いてくれるのを楽しみにしています。

謎の野草
 本企画では比較的珍しい、正統派の「剣と魔法の世界」のファンタジーでした。そもそも人外の存在が跋扈し奇跡が存在する世界の中でもさらに異質な能力を持った少年が登場するところ、お題の回収についても正統派な解釈だったと思います。
 最初に登場したフィテアとラギーネについて、恐らくは意図的に容姿・性格・戦闘スタイルのすべてにおいて対照的な設定になっており、読者としては区別がつけやすくて非常に助かりました。もうひとりのキーパーソンであるトーキに対しても、女性ふたりが正反対の態度になっているため、キャラクター描写の掘り下げと同時に、世界観を自然に説明する効果も出ていたと思います。フィテアがトーキを保護しようとするのもラギーネが疑うのも、いずれも一定の理があるのですね……。シビアな決断を迫られる理由である水と食料の問題についても、武器の聖別が必要であるという設定に触れられていてファンタジー世界ならではの描写が楽しかったです。「果物が『今は』贅沢品である」とさらりと台詞に織り込むところも人類の置かれた状況の厳しさをさりげなく伝えていてお上手だと思いました。
 ……というように世界観や登場人物については非常に丁寧に描写が重ねられていたのですが、物語としては第一話が終わったところ・最初の戦闘イベントが終わったところで文字数が足りなくなってしまったようなのがとても残念でした。呪霊に対抗できる異能が見つかって、人類の反撃が始まるかどうか──という壮大な物語になっていくのだろうと期待が膨らんだところでしたので。作者様の中ではある程度のストーリーがあったり、もしかしたら今後長編化する予定だったりするのかもしれませんが、完結済として出ている分だけで評価する企画としては、「俺たちの戦いはこれからだ」でもその後のダイジェストでも、「これで終わり!」とはっきり分かる〆を用意していただけると、短編を読んだ、という満足感になるのかと思いました。

謎の機械
 剣と魔法のファンタジーの世界で呪霊が蔓延る滅びた都市を舞台にしたアクションで主人公の覚醒の物語ロボね。
 【異能】の部分は物語の主人公(で合ってるロボよね?)の少年が【呪霊が近付くと血が流れる異能】と思っていた物が、実は【血が呪霊を拒絶する異能】であると判明するという部分ロボね。呪霊に対して最強の武器になり得るけれど、代償として自分の身も傷付けてしまう諸刃の剣であるというのはロマンを感じる設定であると同時においそれと簡単には使用できない制限にもなるので上手い塩梅ロボ。これが代償無しだったら使いたい放題でチートもいいとこロボけど、腕が爛れてしまうのは痛みも凄そうだし、何より最強武器は姉だった者が触媒になっているというとても重い設定なので戦わせる事自体を躊躇ってしまうのがいいロボ。
 これは今後の展開で戦わせるか戦わせないべきかの議論が起きるに違いないロボね。
 そして情景の説明や会話シーンでさらりと世界観の説明をしている部分がとても上手いと思ったロボ。
 世界観の説明は多すぎると中々話が前に進まないロボし、少なすぎると読者がどうしてそうなっているのかが分からなくて混乱してしまう物ロボ。でも今作では冒頭の逃亡中に壁がレンガだと記載してあって、鎧を身に付けているけれど軽やかに着地をすると書いてあるロボ。これだけでこの世界が文明があまり進展していないファンタジー世界であると分かるし、逃亡している二人が普通の人では無いと分かるロボ。
 この書き方は短編でも長編でも生きる書き方ロボで、読者に違和感なく世界観を分からせることが出来るから本当に便利なんロボ。これを意図的に使えれるという事はそれだけで凄いロボ。
 話も面白いし技術も高い作品んだったんロボけど、最後の部分が急ぎ足になってしまっているのがちょっと勿体なかったと思ったロボ。本来はもっと文字数を使って描写する作品だったんだろうロボけど、今回の規定文字数と自身が慣れている文字数とが上手くマッチしなかったという感じロボろうね。これが20000字使っていい状態だったらかなりの力作になっていたと思うロボ。
 こればっかりは何度か同じ規定文字数で作品を作ってみないと分からない物ロボで、一朝一夕で身に付けるのは難しいロボ…

77:猫寄せ/f

謎の有袋類
 一作目は色彩豊かな作品を描いてくれたfさんの二作目です。
 猫を寄せる異能があるという人が猫をひたすら紹介するお話でした。
 猫はかわいいですよね。
 マジで猫を紹介するだけだったのでかなり戸惑っています。
 作者の方としても、多分猫の良さを改めて紹介したいのでしょう。
 猫は可愛いですねと思いました。

謎の野草
 一作目は「普通」とは異なる視界を持った絵描きの苦悩を色鮮やかに描いたfさん。二作目は、twitterでフォローしている私は知っている、ほぼノンフィクションでのご参加です。
 犬/猫の派閥やアレルギーの有無で話は変わってくるのでしょうが、本作で描かれる「猫寄せ」の異能は羨ましいと思う人も多いのではないでしょうか。猫派かつ猫飼いの私も、我が家の猫にさえ逃げられることが多々あるので是非ともこの異能を分けて欲しいです。嫌なことがあった時、癒されたい時にちょうど良く現れてくれる猫たち、実に羨ましいです。(ノミや病気の心配があるので、野良の子に迂闊に触れる訳にはいかないのですが)
 そして猫寄せで来てくれる猫たち、作者様のtwitterで容姿が分かる子もいるだけに、実際に触れて合う目線での描写や表情、心の声がまた可愛らしいのです。よく読むと、喜んで撫でさせに来てくれるのは赤毛ちゃんくらいで、ほとんどの子は「なんだお前」な距離感なのがまた猫らしくて可愛いのです。また、伝説のもふもふちゃんに対する「野良猫は生死不明になることが多いので~」とのコメントに、最近見ない近所の子たちを思って少し悲しくなるのでした。
 猫好きとしては猫の描写だけでどこまでも楽しめてしまうのですが、小説の企画に出す作品として考えた場合、この「異能」を切っ掛けで出会いがあったり事件があったりするとより物語らしいだろう、とは思いました。猫を撫でたい「私」が人間に見向きをするはずもなく、まして猫が自発的に事件を起こすはずもないよなあ、とも思うのですが。小説の定義は人それぞれとはいえ、「エッセイ……?」とのタグをつけているところからも、やはり物語性の薄さは自覚していらっしゃるのではないかと思います。せめて物語が始まりそうな片鱗なりと匂わせていただけると、ノンフィクションから一歩踏み出せるのではないでしょうか。

謎の機械
 ネコチャンカワイイ。の話というか、猫の紹介だったロボね。
 【異能】は語り手である女性が【猫寄せの異能】を持っている事ロボで、その猫寄せで出会った猫達を紹介している感じロボ?
 最初の猫に好かれやすい体質という説明や猫の紹介文からするに他人に読ませる文章を書く事になれている作者さんなんだなと思うんロボけど、小説というよりは「こういう事があった」「こういう物を見た」といのを書き記した日記に近い作品ロボね。
 何か物語が展開する訳では無いロボけど、本当に猫が好きなんだなというのは物凄く伝わってくるロボ。ただ、やはり講評としては物語性が少ない物は評価が下がってしまうので、とてもネコチャンカワイイんではあるんロボけどその点は了承して欲しいロボ。
 例えばこの作風のまま物語性を出すのだとしたら、最後に紹介した《伝説のもふもふ》がこの一年の間に何処へ行っていたかとか何をやっていたかを妄想する内容を主人公に語らせてみせるというのがいいかもしれないなとロボは思ったロボ。それこそ100万回生きたねこみたいに様々な短編を語らせてもいいし、3丁目のタマみたいにご近所冒険譚でもいいと思うロボ。
 逆に主人公の女性の話を膨らませても面白いかもしれないロボね。猫と戯れすぎて事件に巻き込まれるとか。
 読ませる文章を書く事や猫のキャラクター性はちゃんと出来ているので、後は物語になる様に何か事を起こしてみるといいと思ったロボ。ストーリーの序盤だけなんとかなれば結構するする行ける物ロボよ。オススメは突然ゴリラを出して物語を破壊してから強引にゴールへ持っていく荒療治ロボ。

78:幽明の英雄譚/小辰

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 死霊使いの男と、死んでも蘇る異能を持つ男が戦う中華ファンタジーでした。
 謝玄幽と王叙鶴のキャラクターがとても活き活きしていて、面白く読むことが出来ました。
 Thunderbolt Fantasyを履修していたので内力は、多分内功的なものだと理解しながら読み進めました。多分概念的には近いはず?
 最初は謝玄幽を疎ましく思っていた王叙鶴が、終盤に「まったく、術の腕は良いかと思えば内力はこの程度か」と言いながら内気を分けるシーンがすごく好きです。
 個人的な好みなのですが、黒怨煙は世の中にたくさん存在するのか、それとも二人で倒すものがまだこの先にあるのか、魂が冥府に渡ることはないのは謝玄幽が魂だけを取りだしたからなのか、それともそういう決まりがあるのかなどわかりやすいかな? くらいに書くと、中華ファンタジーのお約束がわからない読者に対しても「役目を果たした王叙鶴」への納得感や安心感が出るなと思いました。
 僕にとっては馴染みの薄い中華ファンタジーでしたが、すごく面白く読むことが出来ました。
 謝玄幽という手段を選ばない死霊術師と、死なない魂を持った男の旅がどうなるのか楽しみになるラストでした。
 今後も色々楽しみながら作品を書いて下さるとうれしいです!

謎の野草
 Web小説界隈では貴重な本格中華アクションもの、武侠小説の雰囲気をしっかりと醸しつつキョンシー要素まで盛り込まれた、良い意味でマニアックさ・作者様の「好き」やこだわりが感じられる作品でした。
 「死んでも生き返る」という異能(術ではなく彼に固有の異能と解釈しました)を持ちながら、肉体が摩耗しかけている王と、死霊術師の謝と。このふたりだからこそ成立する互いを補う関係性が熱く、けれど同時に油断もできず、バディものとして良い緊張感だったと思います。時に反発し合いながらもここぞというところでは共闘するふたり、とても好きです。謝の呪文「青海を渡らず、泰山に至らず~」に対して、「青海を渡り、泰山を下り~」と唱える王、ふたりの死霊術師としてのスタンスの違い、時代をくだることによる死霊術師の考えの変遷が端的に表れていて格好良かったです。最終話のタイトルにある(或いは幕間)という但し書きも「これから」の広がりを感じられて良かったです。きっとこれからも、打算や好奇心や功名心がありつつも、ふたりは共に旅していくのでしょう。
 一話ラストの駆け足ぶり、二話の「先の夜半に強烈な陰の気が生じたことは知っているな」→知りません……など、規定の字数に収めるためにかなり展開を急いだり説明を切り詰めたりしたのだろうな、と感じる箇所が幾つかありました。黒怨煙との決戦も、もっと書き込みたかったのでは、など……。恐らく作者様としても本意ではないことだと思いますし、企画終了後に加筆改稿などの予定があるのかもしれませんが、構想の段階で「この文字数ならどれだけの内容を詰められるか」というサイズ感を意識してみても良いのかと思いました。書き慣れている方だと感じましたので、もちろん字数の制限なしで好きなものを好きなだけ書くのも良いと思います!

謎の機械
 死んでも蘇る男と若い死霊術師のコンビの中華死霊ファンタジー作品ロボね。中華で術師と言えば必ずと言っていいほど死に纏わる物になるロボけど、この作品は最初から死を超越している主人公と死霊術師の組み合わせという斬新なアイデアの作品で面白かったロボ。
 異能部分は【死んでも自動で蘇る異能】と思ったロボけど、どちらかというと【死後の霊を操る異能】という感じロボかね。自分も死後に霊になったけれど持前の術のお陰で生き返る事が出来るみたいな。もしかしたら他にちゃんとした生き返る理由があるかもしれないロボけれど。
 話の作りも設定もとても面白くて凄く良かったんロボけど、話のスケールが規定文字数と合っていなくて、いくつか説明が不十分だったり展開が巻きに入っている部分があるのが作者の苦悩を感じられるロボね。
 ロボ的には一話の最後でいきなり主人公が倒れてしまっている所や、現世で特に悪い事をしている描写の無かった黒怨煙を本当に討つ必要があるのかや、若い女性の死霊を使えば黒怨煙を呼び出せるという理由や、若い死霊術師がここまでして強い死霊を欲しがっている理由なんかが説明不十分な感じがしたロボ。でも、そこに文字数を当てるよりかは二人が絆を深めるシーンやバトルのシーンに文字数を当てて、細かい説明は飛ばしてでも自分が書きたい部分を書き上げたいという強い気持ちが伝わって来たロボ。内容がとても面白かっただけに、本当に削る部分を苦悩したんロボね…
 最後が「終章(或いは幕間)」となっているという事は、恐らくこの続きや作中で語れなかった設定がいくつかあるのだろうと思うロボ。折角なのでその出せなかった部分を追加したリメイク版を書いてみるのもいいかもしれないと思うロボ。多分20000字ぐらいでしっくりとくる作品なんじゃないかと思うロボし、ロボがそれを読みたいと思っちゃったロボ。
 これから二人がどんな旅をしていくのかがとても楽しみロボね。何度も蘇っては戦っていたという事であちこちで記録が残って居そうロボし、いくらでも話を広げることが出来そうで面白そうロボ!

79:Beautiful Uni-verse/@Pz5

謎の有袋類
 前回は記号でセリフを言っている人を表すという個性的なスタイルの作品を書いてくれたPzさんの作品です。
 ぼ、僕にも読みやすい……。一人の芸術家が残した手記のようなものが展示されている……というような趣向の作品でした。
 万物が美しく見える故に物を捨てられなくなるし、辺りに湧く虫すらも愛おしい。そして、その美しさや頭の中にあるものを吐き出すために詩や絵画を描き続け、そして孤独死したという男の一生でした。
 これ、多分仏教とか哲学がわかるともっとおもしろいのかもしれないのですが、僕にはちょっと読み取れませんでした。
 本当に上辺の雰囲気しか感じ取れなくて申し訳ないなと思うのですが、手記の部分に書いてあることはすごく読みやすくて、リズムも良くて内容が掴めた気がしないのですが読んでいて気持ちよかったです。
 これは注釈とか解釈とかを読みながら読んでみたいなと思いました。
 これからも色々と面白い試みをして見て欲しいえです!

謎の野草
 亡くなった芸術家の手記およびその解説、という体裁の作品です。芸術家本人の一人称とはイコールではない以上、彼の心からの本音や信念が綴られたものなのか否か、解説は的を射ているのか否かは読者には知ることはできず、何を読み取れば良いのか悩まされました。繰り返される「世界は美しい」という宣言をそのまま信じて良いものかどうか、と。
 あらゆるものに美を見出す視線は、たしかにいかにも繊細な天才肌の芸術家らしいものです。死体や糞尿でさえも芸術のモチーフとしては美を持っているということはあり得るでしょう。「一見醜悪で、僕自身吐気を催さずにはいられないモノであっても」とあるように、彼自身も醜いと思っているのに努力して美を見出しているのでは? 人工物も同様に美しいと言いながら「この世界をもっと美しく飾り立て」と夢見るのは、現状=見たままの世界は美しくないということでは? と、微妙に疑問を感じさせる表現があるので、「世界は美しい」とは自らに言い聞かせる調子があるのではないか、と私には感じられました。第二話のキャプションでは「自身の感得した「美しさ」を表すことに注力した」との記述もありますが、本人を知らない後世の評論家は好き勝手に論評できるものでもありますし……。生前は評価されず、死後は評価されても理解はされず、異才=異能の本質は誰にも窺い知ることができないもの──という風に解釈しました。でも自信がないので企画終了後に解説していただけると嬉しいです。
 なお、「悪魔と契約する事もなく。時を止める必要もなく。」はゲーテのファウストを踏まえてのフレーズなのだと思いますが、ファウストが「時よ止まれ」と願ったのは(彼の認識では)人の平凡な営みに対してであり、悪魔との契約も叡智も関係なかった──と解釈しています。なのでファウストの悟りはすべてに美を見出す台場達也の視点とも通じているように思うので、この流れで出すにはそぐわないようにも思いました。

謎の機械
 亡くなってから作品が評価されたタイプの芸術家の人の手記というか、その考え方や生き方のメモという感じの作品ロボね。小説というよりは詩の様な感じがするロボけど、二話目のキャプションで「これはこういう作家のこういう展覧会です」という補足を付ける事でフィクションであると落とし込んでいて、詩から小説へ変化させているのが上手いというか面白い方法だったロボ。個機械的にこういうギミックが大好きロボから、これだけでロボは点数を高くしちゃうロボ。
 【異能】部分はその【他人とは違う感性の異能】の部分ロボかね。世界を美しいと思うのは結構大勢いると思うので、ゴミ屋敷になっても美しいと思ったり頭の中の物を出力したがっている部分でそう感じたロボ。
 一話の芸術家の手記部分は†で区切られているんロボけど、これは最初や文中に書かれている通り部屋中に散らばった手記を集めてくっつけた物なんロボよね? となると†で区切られた部分の内容はこの順番が正しい訳では無く、もしかしたら順番が逆とか展覧会に出す事が出来ないような作品もあったのかもしれないと、色々と想像をしながら読めたロボ。
 タイトルも「Uni-verse」とわざと「-」が入っているので何か特別な意味があるっぽいロボし、色々と考察のしがいがある作品ロボね。
 作中の展覧会に展示されている作品に様にこの作品も読んだ人によって色々と感じ方や考え方の変わる作品という感じロボなんけど、それだけに物語に明確な起承転結や答えを求めるタイプの読者には「詩の作品」という印象で終わってしまう可能性もあるロボ。特に芸術性の高い作品は娯楽作品の反対側に位置する物ロボから、読者によっては「分からない」という感想を持つ読者も居るかもしれないロボね。
 それはどちらが悪いという訳では無くて単に琴線にマッチしなかっただけロボし、この作品は敢えてその部分を詳しく説明するような作品じゃないのが難しい所ロボ。
 ロボは小説の書き方は自由だと思っているロボけど、同じ様に読み方も自由だとも思っているロボ。ので、合わない人には合わない作品かもしれないなとは思ったロボ。
 ロボが好きな作品ほどそういう傾向にあるのは何故なんロボかね。不思議ロボ。

80:エコーは言葉を返せない~采女 静佳の復讐奇譚~/佐倉島こみかん

謎の有袋類
 こむら川でははじめましてです!参加ありがとうございます。
 不思議な力を持つ采女 静佳が他人の依頼を受けて復讐をするというお話でした。
 采女さんの妖しい魅力と、因果応報的なお話はとても面白かったです。
 前半後半で視点が切り替わる作りも面白いのですが、淡々と三人称で采女さんがしたことを書いて行く形になるのでモノローグを受け取る印象を受けました。
 児玉さん視点だけに縛りを付けて書いてみると、が采女さんの妖しさや、怖さが伝わったのかなーと思います。
 視点切り替えはとても便利なのですが短編ではデメリットも多いので、視点を縛ってみると更に見せ方や工夫のしがいがあるのでチャレンジして欲しいなと思います!
 講評だからこう言いましたが、とても面白い物語でした。
 二連泣きぼくろ、めちゃくちゃいいですよね。采女 静佳さんの能力の秘密なども知りたいし、連載などにしてみてもよいのではないでしょうか?
 これからも作品を楽しみにしています!

謎の野草
 異能を手に入れたい、という主人公の強い願望と、それによる逸脱・破滅が胸に刺さる作品でした。特別な存在になりたいという気持ちは多かれ少なかれ誰にでもあると思いますが、その願望に見合う才能がない場合にどうなってしまうのか、というシミュレーション、智恵子が度を越えていく過程がリアルでハラハラと胃のキリキリを同時に味わいました。ゴシップで地位を確立しようとすると、次第により危険なネタに手を出すことになるのは目に見えている訳で……。そのような意図をもって書かれたということもないのでしょうが、他人の情報を切り売りすることで増長していく智恵子の姿はマスコミへの批判のようにも見えました。声を奪われるというしっぺ返しについて、彼女は確かに被害者なのですが、自分に非があったかも、とは一切省みないのがまたすごい。采女 静佳は、智恵子に復讐の道を示して救ったようで、反省する機会を奪ったのかも、などと穿った見方をしてしまったりします。思えば采女 静佳は復讐の女神の化身(?)のようなので、智恵子に対する復讐心も叶えなければならなかった、ということなのでしょうか。
 ギリシャ神話のエコーとナルキッソス、ネメシスの逸話を下敷きにしているようで、美貌と身勝手さを併せ持つナルキッソス=鳴海はもちろん、「ち『えこ』」「う『ねめしず(す)』か」とそれぞれの元ネタが名前に織り込まれているのですね。気付いた時には思わず膝を打ちました。雪野辺姉妹は美貌に驕って破滅した逸話もあるゴルゴーン三姉妹がもとになっていたりするのでしょうか。知っていると楽しい仕掛けでしたし、有名な逸話ではありますが、読者のすべてが当然知っているほどの知名度があるかは分からないかな、とも思いました。作中で、少なくともエコーの顛末については説明があったほうが、作品の解像度が上がるのではないかと思いました。

謎の機械
 下世話な恋愛のうわさ話を広める事でアイデンティティを保っていた女子生徒がその言動から恨みを買ってしまい酷い目に会い、それに対して謎の力を持った女生徒が復讐を請け負ってくれるという話ロボね。
 自分には何も無いから恋愛話についての情報通になる事で居場所を確保したというのはそれだけで一種の【異能】だったんロボけど、それによって誰かが迷惑を被る事を無視して自分は周囲の役に立っていると思い込んでいたから声が出なくなる復讐を受けてしまう。で、そこに【人の認識を操ることができる異能】を持ったクラスメイトが現れて、声を出なくさせられた事に対する復讐の依頼を請けるという物。
 結果的にみんな自業自得で他人に迷惑をかけたらいつか自分にそれが返って来るんですよという教訓的な物語だったロボね。復讐を請け負う女性徒がトリックッスター的な役割を持った一話完結型の短編集の中の一話という感じで面白かったロボ。
 タイトル、章タイトル、最初の忠告に出てきたギリシャ神話の部分からして、この作品自体がギリシャ神話のエコーやナルキッソスのエピソードを元にした物なんだなというのがなんとなく分かるロボ。ロボはあんまりギリシャ神話に詳しく無いので元のエピソードを知らないんロボけど、知っている人からしたら普通に読む以上に面白い作品なんだと思うロボ。こういった、普通に読んでも面白いけど分かる人は更に面白いというのは塩梅が難しい物ロボけど、この作品はそのバランスが良かったかなと思うロボ。
 ちょっとだけ気になったのが、Side EchoとSide Nemesisはそれぞれエコーが元になった主人公とネメシスが元になった復讐請負の少女の一人称なんロボけど、Side Narcissusはナルキッソスが元になったイケメンの話ではあるけど三人称で書かれていたロボ。視点変更があるのは章タイトルから判明出来るので余り混乱しないロボけど、一人称と三人称が混ざると誰の視点なのかが分かりにくくなってしまって内容が入って来なくなる事があるロボ。
 この部分もイケメンの一人称にするか、いっその事復讐請負の少女の視点にしつつイケメンの話をするかにしちゃってもいいと思ったロボ。
 話の内容やそれぞれのキャラが立っているのは凄く良かったと思うロボ。こういう一話完結型でのシリーズ化を期待しちゃうロボねぇ。

81:こちら黒金忠孝除霊事務所/木船田ヒロマル

謎の有袋類
 前回は機人の空で参加してくれたヒロマルさんです!参加ありがとうございます。
 読みやすい文章と魅力的なキャラクターが活き活きと動いていて面白い作品でした。
 普段は、SFやアツい物語を書いてくれているイメージなのですが、今回は和風ファンタジーや伝奇ものなのですが、祝詞やあやかしの招待などとてもおもしろかったです。
 触れた物を回転させるという異能の使い処もすごくよかったなと思いました。
 ヒロマルさんは常連さんで、かなり文章も書き慣れた方だと思っているので逆贔屓の対象です! 期待を込めて、僕は自作のことを棚に上げて色々言ってしまうのですが、前回、前々回と同じく、お話がちょっとRAT気味というか、1万字に収めるにはちょっと複雑すぎたかなという印象があります。
 異能の使い方や、ギミックが素晴らしいのですが、黒金忠孝とタエさんの関係性をもう少し掘り下げてくれると物語に感情移入しやすかったように思います。
 しっかりと文章が書けていて、ギミックも拘っている分、すらすらと読み易すぎて感情移入をする暇が無く物語が終わった気がしました。
 とは言っても、かなりクオリティが高く、エンタメ性は十分な物語だと思います。
 ヒロマルさんは短編よりも中長編でじっくり物語を肉付けして書くと本領発揮をする作者さんだと思っています。
 腰を据えて長編を書いてみてもいいのではないでしょうか?
 色々なチャレンジを楽しみにしています!

謎の野草
 名前から女性だと分かると採用されなかったりクレームが増えたり、という現象は残念ながらあるそうですが、除霊事務所でも同様とは非常に世知辛いことです……。
 短い字数で区切った構成でしたが、各話のラストで引きあるいはオチを必ず設けてあるため、非常に読みやすく次々にページを進められる展開になっていました。読者を楽しませよう・惹きつけようという心遣いだと思うのですが、とても助かるし楽しかったです。自称黒鉄の気儘な振る舞いが面白いのはもちろんのこと、タエのツッコミに一般人を危険に合わせないというプロ意識が垣間見えるところに技術が窺えました。掛け合いの中でキャラの性格をさりげなく見せてもらえると、地の文で説明するよりも読者に深く染みると思うのです。
 初見で「しょうもない」と思わせた自称黒鉄の「異能」がラストではどんでん返しの役割を果たす展開、王道なのですが発想とスケールの大きさに驚きました。ラナルータを現実世界でやってしまうとは……。地球ほどの質量が「回転」すると大惨事が起きそうなものなのですが、諸々良い感じに収めるところまでが異能ということなのでしょうね……何とも恐ろしいほどの能力です。
 という感じで楽しく一気読みさせていただいたのですが──読み終わった瞬間にタエと同じことを、より大きな声で叫びました。「誰だったんだよ!?」と。当然のような顔で架空のはずの霊能者を名乗る男の正体は、同姓同名かその名を借りたのか、あるいは無から生じたのか(これがありそう)──答えが知りたいとは重々思うのですが、あえて明かさないままで幕切れとすることで物語を忘れさせない・読者の胸に残らせるというテクニックなのかも、と思いました。読者は気になるはず、とは作者様もご承知でしょうし、実際、読後感のもやもやはすごいのですが、だからこそ企画の終盤でも忘れがたいインパクトがあったのも事実で──あっさりと答え合わせをしてしまうよりも効果的な終わらせ方だったのかもしれません。でもとても気になるので彼の正体はいったい何なのか、企画後の解説を待つところです。

謎の機械
 霊的事件を解決する為の霊能者が一般的に存在している現代社会で、女一人だと信頼して貰えないからと架空の所長を作って架空の名前で除霊事務所を構えていたらその架空だったはずの男性が現れてしまったという話ロボ。架空の所長を作った理由もこの時代で霊的トラブルが起きる理由も現実にありそうな理由で、それによって作品の理解度が序盤からギュンと上がるのが流石の技術という感じがしたロボ。霊的な物って作中だと水道管やガス管なんかとあんまり変わらない物なのかもしれないロボね。
 【異能】部分は主人公である女性の霊能力だと思ったんロボけど、実は架空だった筈の所長の【触れて念じた対象を任意の角度で瞬時に回転させる異能】だったのは笑ったロボし、その後に結構便利な使い方をしていた上にまさかこの異能で地球そのものを反転させて強引に事件を解決させるといのは規模が大きすぎて更に笑ったロボ。軽快なノリと正攻法では挑まない発想の勝負という所から某ゴーストスイーパーの漫画を思い出したロボね。
 話の起承転結がしっかりとしているし異能の部分も分かりやすく回収してあってお手本の様な作品だったんロボけど、結局架空だった筈の所長の正体が分からないまま終わってしまったのは賛否が分かれそうな部分ロボ。
 これから始まって行くドタバタ霊能コメディの第一話だったら完璧な第一話なんロボけど、これ一作で完結する短編読み切りとして考えるとモヤモヤが残ってしまったロボ。父親の事を知っているのに同年代とか、架空の人物だと思っていたのに正真正銘人間とか、異能を扱う時にヒンドゥー語を使って要るっぽいけど日本人とか、霊的トラブルに詳しいけど霊能者ではないとか、ヒントになりそうな部分は散らばっているけれど、逆に散らばりすぎていて全然予想が出来なかったロボ。
 よく分からないミステリアスな感じだからこそ良かったと評価する人も居るロボろうけど、ロボは正体を知りたかった派ロボね。こればっかりは好みの問題だと思うのでしょうがないロボ。

82:奈落の旅/292ki

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます
 不遇な育ちである黒の魔法使いが世界を滅ぼそうとして死ぬまでのお話でした。
 めちゃくちゃ好きな話でした。
 自分が作り出した木偶が、次第に意思を持ち、本当の親子のようになり、すれ違い、少しだけ、ほんの少しだけ報われるお話です。
 世界を滅ぼそうとした災厄とも言えそうな黒の魔法使いですが、僕は彼が一緒に地獄へ行こうと言ってくれる人に見守られて死ぬのがめちゃくちゃエモくて大好きだなーと思いました。
 見た目の描写や、世界観の描写があると更にいいかもしれないなーと思ったんですが、4話にある「ああ、今度はずっと一緒にいれる」の一文で「最高!五億点です」となりました。
 まだ小説を書くのに不慣れなところがあるのかと思いますが、こういう好きを詰め込んだり、書きたい物を書いているんだなということは伝わってきたので、このまま好きなものをたくさん書いて欲しいなと思います。

謎の野草
 「めでたしめでたし」の裏側で、命尽きようとしている悪役にスポットを当てた作品です。「後世の人間は都合の良い美しい物語を語り継ぐのだろう」と吐き捨てる黒い魔法使いのモノローグは残念ながら説得力があり、現実においても「世間」が望むのはほどほどに心地良く分かりやすいストーリーでしかないのを思い起こさずにはいられませんでした。
 おとぎ話の中では「黒い魔法使い」とだけ呼ばれるのであろう彼の名前が明らかになるところから回想の方向に物語が動き始めるのですが、命名によって特別な絆が生まれる瞬間は王道ながら熱いものでした。黎明の目線では手ひどい裏切りだった養父の消失、その真実が明らかになることで彼の憎しみがほどけていく様、養父に甘えるかのような最期のひと時に温かさと切なさを同時に感じて心動かされました。最後に気付くことができて良かった反面、後悔に苛まれて苦しんでいく黎明が哀れで、でもひとりではないことは救いであって──一筋縄ではいかない複雑な感情を噛み締めました。
 黎明と養父の関係をとても美味しくいただいたのですが、少しだけ気になったのが世界観の描写です。魔法使いという単語からファンタジー世界をイメージして読み始めたのですが、「遊園地」「ハイライト」などの単語が出てきたため、現代日本に近い世界らしい、と途中で脳内の情景を修正しました。魔法使いがいる日本、という世界観は珍しいのではないかと思うので、読者とのイメージの齟齬がないよう、早めに説明を出していただけると良いかと思いました。
 「世間ではこう語られているけれど実は──」という、「読者だけが知る真実」は大好物でした。この世を呪いながら息絶えるはずだった黒い魔法使いが最後は微笑んで旅立てたことは、世界にどのように思われようと養父さえいれば良いのだと言わんばかりで、悲しいながらに達成感と満足感のあるラストでした。最後の一文が力強くて心に染みるのです……。白い魔法使いが、黒い魔法使いの表情に気付くことができる人だったのも良かったです。心の片隅で「もしかしたら……」と思いつつ偶像を演じ続けたりするとなお美味しいなあ、と妄想を膨らませていただきました。

謎の機械
 世界に絶望して世界を終わらせようとした黒い魔法使いが死に際に知ることになった自分が何故こうなってしまったかと、もう手遅れだったけれどそれに気付けたから養父に再会できたという悲しいお話ロボね。
 他者と違って【魔法が使える異能】に目覚めてしまった子供で、最悪な家庭環境から逃れる為に無意識に魔法を使って架空の養父を作ってしまうというのが本当にこの魔法使いの境遇が可愛そうだったロボ。
 誰からも必要とされないから自分を必要としてくれる相手を作り上げたのに、反抗期的な物が原因とは言えその養父を自分で消してしまうのは自業自得という言葉だけでは表せれない無残さがあるロボ。それでも養父が単なる人形では無くてちゃんと子育てをしてくれる養父として覚醒してくれた事で一時ではあるけど彼は幸せな期間が送れたし、幸せな期間があったからこそ絶望も分かってしまったんロボね…。
 いやもうほんと、ぐるぐると周り巡って黒い魔法使い自身が起因な事に収束してしまうのが救いが無い様に見えてもどかしくてたまらなかったロボ。一番悪いというか原因は本当の両親なんロボけど、その時点では良くも悪くも希望や絶望が分からない状態だったから黒い魔法使いになる事はなかったカモシレナインロボよね。え、救いは無いんロボか? 最終的に幸せな顔で逝けてはいるけれど、黒い魔法使いが悪者としておとぎ話に残ってしまっている時点でバッドエンドじゃないかロボ? ちょっと白い魔法使いに世の中は正論だけじゃ回らないってのを教えながらブン殴って来るロボ。
 おとぎ話の裏側で悪役にもこんな理由があったんですよと言う悲しくも優しいお話でとても良かったんロボけど、魔法使いが居るのに世界は現代っぽくて観覧車やトラックやタバコが現れるのにちょっと混乱してしまったロボ。魔法使いと言えばファンタジー世界という先入観を持っていたロボが悪いんロボけど、最初にどういう世界なのかの説明があると読者もスッと物語の中に入って来れると思うロボ。
 魅せたいシーンや思わせたい感情なんかを伝える事はとても上手かったと思うロボ。今回は悲しいお話だったロボけど、その手腕で楽しいお話も読んでみたいロボね。

83:外法/垣内玲

謎の有袋類
 見神者を書いてくれた垣内さんの二作目です。
 間違っていたら申し訳ないのですが、第三回こむら川小説大賞にある「神の代理人」に出てくるクリスティーヌと多分同一人物ですよね? 
 こちら単独のお話でも問題ない出来になっているのですが、こういう繋げ方、すごい好きなんですよね。
 村瀬先生の時も思ったのですが、垣内さんは短編同士を繋げるという手法がとても上手なので長編や中編を書いてみるとすごい面白い物が書けそうだなと思いました。
 作品自体はとても良く書かれていて、web向けではないかもしれないですが、戦記的な側面もありとても読み応えがありました。
 個人的には、3話・4話部分を設定のメモとして削ってしまって、前編ナターシャの一人称で縛りを設けて設定部分を登場人物に探らせたり、語らせたりするとエンタメ感があがるので、そういう書き方にも気が向いたらチャレンジしてみて欲しいなと思います。
 一人の女性が見せる優しい側面と、そして異端な存在を容赦なく粛正する苛烈な一面、そしてナターシャの助かった喜びと救ってくれた恩人を失ってしまった絶望、複雑な人間模様を描いたとても素敵な作品でした。

謎の野草
一作目はジャンル・ダルクをテーマの作品で臨まれた垣内さん、二作目も、ファンタジー世界ながら作り込んだ歴史を背景に宗教をモチーフに据えた作品で大変興味深く拝見しました。
 ナターシャの台詞から始まる第一話、ネーミングや単語の端々から世界観が無理なく明かされていく情報の見せ方がスムーズでした。ロシア風の世界であることや文明レベル、会話の相手が女性の聖職者であること──特に相手が何者でなぜ身の上を語っているのかは物語上も重要な情報で、後半でカメラを引いた時にその意味が噛み合っていくのが気持ち良かったです。
 百合の文脈で解釈するのが作者様の意図通りかは分からないのですが、クリスティーネの、ナターシャに対する執着と「先生」に対する嫉妬のような感情を美味しくいただきました。かつての自分を思わせる不遇な少女を救済するのは自分でありたい、自分であるべきだ──というような感情がクリスティーネを動かしていたように読み取りました。「恋敵」のような存在である先生を始末しつつ、ナターシャに恩と恨みを同時に植え付けて彼女の感情を独占したのではないか、というのは考えすぎでしょうか。本来の目的である異端狩り、ひいては聖公会での栄達よりも、ナターシャを先生から引き離すのが目的になっていたかのようにさえ見えました。考えすぎだとしても、クリスティーネの淡々とした態度の裏側に渦巻いていた感情がとても刺さったので容赦していただきたいところです。
 物語後にナターシャが何をするのかが非常に気になる幕切れでした。意図していなかったとはいえ自分が死なせてしまった先生の心臓によって生かされているという皮肉さ、悔やんでも悔やみきれない深い絶望を後味として突き付ける意図なのでしょうし、効果的な断ち切り方だとも思いますが、個人的にはナターシャのその後を少しでも匂わせて欲しかったな、とも思いました。クリスティーネへの復讐を目論むのか、先生から受け継いだであろう魔力をどう使うのか、聖公会に支配される世界でどう生きるのか──作者様の筆での語りを読みたかったのですが、とはいえ想像の膨らむ良い作品でした。

謎の機械
 いきなり少女のハードな人生回顧から始まる物語と思ったら、(あれ、これ教会による尋問ロボよね?) となって、そのままするすると教会と政治と司教が更に上を目指す為に少女を活用しつつも助けたい気持ちは本当だという事が分かってくる複雑だけど厳しい世の中の話だったロボ。
 中世物ロボけど教会が魔術を教えているという情報が出て来るのでファンタジー世界の話という事がすんなりと分かる様になっていて、世界観の説明も少女の語る半生でおおよそどんな世界なのかが分かる様になっているのはとても上手いと思ったロボ。
 尋問なので少女が細かく語るのは当たり前ロボし、知らない相手に向けて話しているので共通認識ではないだろう事もちゃんと説明してくれているロボ。これが一人称の作品だったら説明過多じゃないかと思ってしまうロボけど、こちらに語り掛けている話なのだから全然違和感が無かったロボ。このやり方は参考にしたいロボね。
 【異能】部分が【教会から魔術を教わるのではなくて自分で魔術を身に付けた事を異能扱いしている】という物で、特別な力だから異能と言うのではなく、正統な能力では無くて異端な能力だから異能と判断させているのも凄く良かったロボ。お題を回収しつつも独自の解釈を当て嵌めているのは上手いというか設定作りが強いロボね。お題を捻った方法で回収するのではなく、ストレートながらも解釈が違うという感じに出してきたのは膝を打ったロボ。
 全体的に丁寧かつ意表を突く内容で、面白くて悲しかった作品だったロボ。最後の心臓と叫び声のくだりもここで終わる事でショックの強さが効果的に引き立つし、凄く良い作品だったロボ。
 個機械的に登場人物の容姿をもっと書いてくれたら嬉しかったなって思ったロボ。道士先生は髪の毛が綺麗という描写はあったロボけどどんな体系かは無かったロボ。もしかしたら爆乳巨尻道士だったかもしれないし、スレンダー長身道士だったかもしれないロボね。とても美人で魅力的なのは間違いなさそうロボし、ここが凄く気になってしまったロボ。

84:ゆかりちゃんが世界を三秒で変えられれば良かったけどね/いりこんぶ

謎の有袋類
 第三回こむら川小説大賞でも「えびフライと桃色の空」を書いてくれたいりこんぶさんが参加してくれました。ありがとうございます。
 畳みかけるような一人称で語る女の子と、その友人西宮がファミレスで過ごす間の一幕というお話でした。超百合……百合だ……となりました。
 パパがたくさんいる(パパ活的な意味でも)西宮のなんとも言えないゆるい感じと,主人公のゆかりが内面に抱えている複雑な心情がすごくよかったです。
 僕はちょっと額面的に物事を受け取りすぎるのと、小説という媒体で一人称視点だと発言者の情報が少なくなってくるので言葉がキツいのが本心ではないと見抜きにくいと思うのですが、読んでいて「ああー、これは好きな気持ちの裏返しなんだな」と思える文章もよかったです。
 ワンシーンを切り抜くことの関してはかなり巧みに出来る作者さんだと思うので、今後はもう少し長めの何かを書いてみるチャレンジをしてみても良いかも知れないなと思いました。
 これからもたくさん作品を書いて欲しいなと思います。

謎の野草
 前回のこむら川では魔性の小娘に振り回される濃厚な百合が衝撃的だったいりこんぶさん、今回も味覚や食感に絡めたねっとりとした百合でした。ごちそうさまです。
 ふくらはぎ、髪の痛み方、口、舌、爪──西宮さんの全身を舐めるように描写するゆかりちゃんの視点が彼女の感情の深さ強さを言葉以上に雄弁に語っていて、届かぬ思いの苦しさに読んでいるこちらまで息が詰まりそうでした。一話で「わたしは一刻も早く今のわたしじゃないわたしになりたかった。」というモノローグがあるのですが、どんな努力をしても大人になっても、恐らくゆかりちゃんの望む「わたし」にはなれないのが切ないです。西宮さんを語る細やかな描写のひとつひとつに自分と相手を比べては尖らずにはいられないゆかりちゃんの自意識を感じて、痛みや苦しさを楽しませていただいたのですが、特に印象に残ったのがポテトフライの塩を指先に感じる描写でした。パフェと芋という食べているものの対比、心のざらつきを指先の感覚に重ねていること、脂質と糖質で内心の鬱屈を誤魔化すこと。色々な意味で象徴的な描写だと思いました。
 お題の異能について、西宮さんが主張する「三秒だけ世界を戻せる」という異能は恐らく嘘であって、舐めたようなその主張に翻弄されるゆかりちゃんの歯軋りと叶わぬ夢がまたキツいのですが、個人的にはそんなことを言い出した西宮さんの心理のほうも気になりました。マイペースな小悪魔ゆえの気まぐれなのか、もしかしてゆかりちゃんの気持ちを察したうえで、自分の爪先に視線を惹きつけさせて弄んでいるのか──それとも、西宮さんのほうでも「本当に三秒戻せたら」と思っていたりすることもあるのでしょうか。素直に読み取れば、西宮さんはどこまでも無邪気で無自覚で質が悪いのでうがち過ぎな見方だろうと思うのですが、観測できない三秒を挟んだふたりのやり取りを思い浮かべるともどかしくも幸せで、そしてエロティックな情景だと思うのです。

謎の機械
 百合ロボ。百合といっても片思いっぽいロボけど百合ロボ。心が洗われるロボねぇ(うっとり)いや、ロボは心なんて無いマシーンロボけど。
 内容としては下校中の女子高生二人の片方が「わたしパフェならいくらでも食べれるよー」と言ったのでじゃあそれを証明して貰おうじゃんとファミレスに行ってパフェとポテトを食べながら駄弁っているだけの作品ロボね。駄弁っているだけなんロボけど、主人公の女の子がパフェを食べている女の子の事が好きで、そのパフェを食べている女の子が色々と破天荒な天然ちゃんなのでちょっと強く当たっちゃうけど向こうは天然なのであんまり気にしてる様子は無いように見えるって話ロボね。
 【異能】の部分はその天然ちゃんが自称する【親指と中指の爪をぱちんってしたら三秒くらいだけ時間を戻せる異能】なんロボけど、作中でこの異能が本当なのかどうかのはっきりとした描写が無かったのがお題の回収としては弱いなって思ったロボ。
 異能の説明の後に「3秒じゃなんもできない」と説明しているので本当に色々と試したみたいに聞こえるロボけど、この子は天然ちゃんなのでそもそもどこまでが本当の事なのか不明なんロボね。でも、最後の最後の部分、もしかしたらここの「パフェは全然減ってくれなくて」の部分が天然ちゃんが主人公を巻き込んで何度も3秒時間を戻している可能性はあると思ったロボ。そうなると本当に異能を持っているという事ロボけど、だからと言っても主人公にはあんまり関係ない事ロボし異能を持っている理由も分かんないロボよね。
 ただ、異能があると仮定するとタイトル名が結構意味深になってくるロボ。天然ちゃんは悩みが無さそうに見えるし主人公にはそう見えているっぽいロボけど、その三秒で世界を変えることが出来たら天然ちゃんは一体何を望むんロボかね。もしかしたら結構深い悩みを持っているのかもしれないなと思ったロボ。
 異能部分は弱かったロボけど、百合の短編として複雑な感情とパパが沢山居る衝撃の事実と天然ちゃんのほわほわさが面白い作品だったロボ。特に事件は起きないし誰も成長しない話だったロボけどこういうのも良い物ロボね。ところで、このおっぱい大きい天然ちゃんはどこで会えるロボ? いや、パパになりたいとかそういうんじゃないロボよ? ちょっと気になっただけロボ。

85:タコのパッツ、空を飛ぶ/一志鴎

謎の有袋類
 第二回、第三回とこむら川小説大賞では不死者と、不死者を共に生きる女性の話を書いてくれていた一志鴎さんが参加してくれました。ありがとうございます。
 こちらはがらりと作風が変わって、絵本の中の世界を思わせるお話でした。
 うまく周りとなじめないタコが空を飛んで自分の居場所を作り、そして勘違いをされた末に海のお姫様を助け出し、そしてまた一人で自分の居場所へ戻っていくというお話です。
 絵本のような可愛らしい世界なので、宇宙イルカやお姫様がウミウシだというのもすごく世界観に合った設定でとても好きです。
 個人的には、タコが頭がいいとはいえ、ウミウシのお姫様もシルバーマリンリーフの用途がわかっていたならなんで変身をして逃げだそうとしなかったのかな?と思ったので、シルバーマリンリーフを使って逃げられなかった理由を「タコが頭がいい(し、ウミウシのお姫様は頭が良くないので思いつかなかった)」以外もあると、更に物語に納得感のようなものがうまれるのかなーと思いました。
 講評ということで敢えてあげた点なのですが、勢いやアツさが大切なことも多いので、整合性はそこまで気にしなくてもいいと思います!
 僕はタコのパッツが、最後にみんなといるのではなく、やっぱり一人を選ぶところ、そして凧の語源になったという逸話を持ってくるのが好きだなと思いました。
 これからも楽しく色々なチャレンジをして欲しいです。

謎の野草
 ショートショートの神様である星新一先生は、「正反対のものを組み合わせる」というメソッドを持っていらっしゃったそうです。山の頂上にタコが住んでいるところから始まる本作は、まさに神様のメソッドを踏襲してスタートダッシュを決めている感じがありました。海の生き物であるはずのタコが山にいるのはいったいどういうことなのか、興味を惹かれずにはいられませんでした。
 ウミウシのお姫様がいたり、真珠を大事にしているアコヤガイがいたりと童話風の世界観と、宇宙に飛び出してしまうスケール感が同居している破天荒さを楽しませていただきました。思えば宇宙人といえばタコ型、の時代もあったのでタコと宇宙は相性が良いのかも……? イルカが襲来してくるくだりは、「イルカがせめてきたぞっ」の画を思い出して笑いました。多分承知のうえで被せたのだと思いますが、ほのぼのとSFのシュールな合わせ技、それに違和感を感じさせない「陸上のタコ」の力強さを見事に使いこなしていらっしゃると思いました。ラストではウミウシのお姫様と結ばれるのかな、と予想していたのですが、型通りのハッピーエンドには収まらない自由気ままなラストのほうがパッツらしいのでしょうね。糸が切れて漂う凧に見えるものが、実は散歩中の彼だったりするのかもしれません。
 お題の異能について、拾ったり借りたりしたアイテム由来の力は異能と言えるのかな……? と最初は引っかかったのですが、パッツの機転や想像力あっての活用ぶりなのが分かったので確かに異能だ! ととても納得がいきました。
 作中何度か出てくる「しゅっぽん!」という擬音は「出奔!」とかけていたりするのでしょうか……勢いと同時に飛び出してやる! という勢いを感じて何だか面白かったです。

謎の機械
 ちょっと気が弱いけど根は優しいタコのパッツの物語で、不思議なアイテムが出たり宇宙へ行ったりお姫様が出てきたりとほんわかした絵本みたいなお話だったロボ。
 いきなり山の頂にタコが住んでいるのは何事か? と思ったんロボけど、住んでいる場所は地殻変動で生まれた塩湖で、そこに辿り着いたのは不思議な指輪の力なので問題無かったロボ。ここで既に難しい事は考えずにこういうゆるいお話ですよという説明がされているので読者がSFか? ファンタジーか? と身構えなくて済むのが嬉しいポイントロボね。読者に優しくするのは高評価ロボ。
 【異能】の部分は空を飛べるようになる指輪やからだを変身させることができる王冠のような凄いアイテムの事ではなく、宇宙イルカの言葉を理解出来たりアイデアを閃いたりする【他の生き物より知能が高い異能】の部分なんじゃないかと思ったロボ。もしかしたら知能が高くなったのは指輪の副効果かもしれないロボけど、道具によって使えるようになった能力は道具の能力であって本人(本タコ?)の能力では無いと思ったロボ。
 後、作品の内容自体も面白いのに、ラストのパッツが凧の元ネタになったんじゃないかというオチは「やられた!」って感心して笑ってしまったロボね。
 とても良かった作品だけにもっと読んでみたいと思ってしまったので、パッツの足に合わせて残り七本書いてみるのはどうロボか? 作品が増えるにつれてパッツが腕になんらかのアイテムを足していって、最後はフルアーマーパッツになるみたいな感じの。最初の指輪の物語も面白そうロボし、シリーズ化して実物の絵本にもして欲しいって思っちゃったロボ。

86:カモメたちの行く場所/森本 有樹

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 有翼人種と戦争のお話でした。
 羽根っ娘と戦闘機系のお話、以前別の方の作品で読んだことがあるのですが、なんらかの共通の世界観的なものがあるのでしょうか? 
 そちらには詳しくないため、読み取れている部分が少ないかもしれません……。すみません。
 羽根っ娘たちが機体に搭乗している設定なのか、主人公は人間なのかがわかりにくく、そして羽根っ娘が羽根を切ったりしないまま人間と同じ規格の戦闘機に乗り込むのか、それとも羽根っ娘用の規格の機体があるのかなど、織り交ぜてくれると助かったなーと思います。
 あと、一人称のミス(だと判断しますが故意ならすみません)はかなり混乱を招くので最後の見直しでそこだけはチェックすると読者に優しいなと思いました。
 世界観や登場人物の見た目を想像するのは上記の理由で少し難しかったのですが、登場人物同士のやりとりのアツさや、森本さんがこの作品を楽しんで書いているということは伝わってきました。
 補足情報や、同じ前提を共有していない相手にどう自分が描いている世界を伝えていくのかを工夫していくと、ひとまわりもふたまわりも外側に向いた作品になると思います。
 第三回こむら川小説大賞に参加している「不死身の烏は夕陽とともに」という作品が、テクノロジーの描き方や羽根っ娘の立ち位置などわかりやすく描いているのでこういう情報開示の方法が参考になるかも知れません。
 羽根っ娘、気になっているジャンルなのでこれからも色々描いて欲しいなと思います。参加ありがとうございました。

謎の野草
 「この物語はフィクションです。~」との但し書きを見た上で、アフガニスタンでの米軍を下敷きにした作品だと解釈しました。実在の地名や出来事を念頭に置いて読み解かないと、状況を把握するのは少々難しいように思います。有翼の民というファンタジー要素はあるものの、「バベルの塔」が示唆するWTCといい、主人公の軍が撤退する経緯や神に熱狂する「テロリスト」の描写からはどうしても「そう」なのだな、と思わされます。「皆さんご存知のあんな感じです」という描写・説明の省略は、それ自体はテクニックとして有効なのですが、本作──というか現在進行形で惨状が伝わって来るかの地の事象については、分かりやすさのメリットと同時に生々しく感じてしまうデメリットもあるかと思います。難民や女性の人権が案じられる報道を嫌でも目にする現在の状況において、主人公の悩みは贅沢なものにも感じられてしまいました。「あなたよりもっと大変な人がいるんだから」という慰めや励ましがしばしば無意味なのはもちろんなのですが、現地の少女たちの教育に携わった主人公がかつての教え子と対峙した時に胸に過ぎる思いが「自分は囚われている」だというのは、彼女たちの国の介入とその影響を思うとひどいのではないかな、と思います。
 自由に飛べるはずの飛行機乗りが、その地位ゆえに縛られたままだということ。アイシャとの不本意な対峙によって、かえって本当の自由を一瞬とはいえ味わうことができたということ。いずれも心を揺さぶる美しいテーマ・構図だけに、現実の事象が頭を過ぎって共感しきれないのが非常に残念でした。本作に描かれた思いをノイズなく伝えるためには、アイシャの国の惨状も描いた上で、それでもなお抑えきれない主人公の自由への渇望を描く。あるいは現実を想起させない完全なファンタジー世界の物語として描くと、読者は純粋に受け止めることができるかもしれません。

謎の機械
 一言で言うと戦争物。分かりやすく言うなら敵同士になってしまった元教官と元教え子の戦い。詳しく言うのならキャプションに書かれている通りに自由と民主主義の国がテロリストに占領された国を解放した後に駐留軍が現地民を使って空軍を作ろうとしたが情勢の変化で撤退が決まり、元教官だった女性が敵側となった元教え子と戦う事になる話ロボね。
 戦争や軍隊の前提知識が無いとどうしてこの状況になったのかというのが分かりにくいロボけど、基本的には元教官と元教え子の戦いとだけ分かれば十分だと思うロボ。でも、この設定が凄く凝っているというかまるで現実の様な感じなので、キャプションに書かれている内容を理解できる程度には知識があると作品の理解が深まると思うロボ。
 主人公が一族の家系図の接ぎ木としてしか求められていないというのや、両親が全く話を聞いてくれない相手だというのもリアルさがあって怖かったロボ。代々続くなんらかの家系って確かにこういうところあるロボし、欲しいのは結果であって過程で何があろうが関係無いんロボよね。
 そんな感じで心をすり減らして自分が教官を務めた基地に爆撃を行った後の、『教官、私です。分かりますか?』は主人公と感情がリンクしてぶわっと来たロボ。話の流れからしてこう来るだろうなというのは予想出来ていたんロボけど、それでもそこまでの主人公の生い立ちを踏まえた上で実際にこの展開になると熱い物がこみ上げて来るロボね…
 何を読ませたいかやそこに行きつくまでの展開の仕方がとても上手い作品だったロボけど、お題である【異能】の部分と、有翼人種である必要があったのかの理由が弱かった様に感じたロボ。
 翼を持つ種族だから目が良いとか空間認識能力が高いとかあるのだろうロボけど、ファンタジー世界という下地を踏まえてもそれが強い理由であると読み取ることが難しかったロボ。例えば有翼人種でないと飛ばせない特別な戦闘機であるとか、その特別な部分に主人公と元教え子の適性が高いとか、そういうのがあれば良かったなともうロボ。
 戦争物を書く能力は完璧だと思うロボから、後はお題を上手く扱う事が出来れば間違いなしだと思うロボ。

87:ハッピーエンドロール/姫路 りしゅう

謎の有袋類
 異能売りの少女を書いてくれたりしゅうさんの二作目です。
 こちらは王道?とも言える異世界転移ファンタジーでした。
 前半の会話劇の後にちょっとしたコミカルなミステリーパートの挟まるテンポの良いお話ですね。
 多分、作者さんは楽しみながら書いたのだなということが伝わってきました。
 メタ視点のある物語や会話劇は、読者を選ぶので難しいですよね。
 笑いを誘う系の会話劇、本当に難しいので他作品やコントの脚本なんかを読んでみると参考になるかも知れません。
 多少破天荒なメタ視点なのですが、それに関しては序盤のコミカルなノリで「そういう作品なんだな」とわかったので親切な作りでした。
 縦読みの仕込みもわかりやすくて好きです。
 好きなものをのびのび書いているのがとても良いなと思います。
 これからもがんばってください。

謎の野草
 一作目の「異能売りの少女」では掛け合いのキレが光った姫路りしゅうさんの二作目、こちらも満載のメタネタとパーティメンバーのテンポ良いやり取りが楽しい異世界転移ものでした(キャプションだと異世界転生とありましたが、生きたまま異世界に来ているので「転移」のほうですね)。というか、本作では地の文もボケとツッコミに参加することでテンポも面白さもパワーアップして、作品全体がコントになったかのような雰囲気がありました。第一話の「ああああ」は誰の台詞だろうと思っていたら、魔王の断末魔とは……うるさいと言われて息絶えるところも含めて笑わせていただきました。もう一つ印象に残ったのが「天秤って面白いよね。」のくだりで、ちょっと良いことを言っている雰囲気なのに適当さを隠さないおかしさのバランスが(天秤だけに)絶妙でした。
 手を繋いで消えていく戦士と会計に察した時の微妙な気まずさ、勇者と賢者の不器用で甘い空気。随所で笑いながらもそれぞれの恋愛模様をにやにやと眺めていたのですが、そこから急転直下での死の予告に目を瞠り、巻き戻りに首を傾げ、そして明らかになる死のピタゴラスイッチにさらに笑わせていただきました。すべての切っ掛けが「キスのし方」だったというのも、冒頭からのネタが活かされていて、かつ可愛くて初々しくてとても良かったです。キスのし方を知らない賢者ちゃんは可愛いです……。一作目のほうでは、テーマを詰め込み過ぎかもと思ったのですが二作目についてはストーリーの流れが一貫していてずっと読みやすくなっていたと思います。
 お題について、後天的に習得できる「禁術」は「異能」に該当するのかどうか少々怪しいかな、とも思ったのですが、面白いからオッケーでした。
 最後に仕込まれた縦読みですが、タイトル通りのエンドロールが画面を流れていくイメージが浮かんで、本当にハッピーエンドを迎えたんだなあ、としみじみできる良い仕掛けになっていました。たとえ日本に帰れなくても、仲間たちがいる限り勇者は幸せなのでしょう!

謎の機械
 異世界に転移した主人公がなんやかんやで魔王を倒す事に成功し、その時に賢者に間違ったキスの仕方を教えたから色々とピタゴラスイッチが起きてしょうもない事でパーティが一度壊滅するも禁術のお陰でなんとなかって良かったねという話ロボね。
 軽いテンポとノリの良い会話劇で進む話なので気を楽にして読む事が出来る作品で、軽い感じではあるけれどちゃんと伏線もあったりと呼んでいてワクワクしたロボね。パーティーに会計を入れるのが最適解だったというのは驚きの事実だったロボけど、最終的に会計の禁術が無ければしょうもない理由で会計以外全員死亡してしまっていたのだからやっぱり最適解だったロボ。幼児体形なのに女王様もやれる会計は流石ロボ。
 【異能】の部分は【禁術を身に行けた】という部分で回収していると思われるんロボけど、このファンタジーの世界で禁術がどれだけ異質な物かが分かりにくかったのでちょっと理由としては弱い気もしたロボ。いっその事主人公が転移してきた事自体を異能による物としてしまったほうがスッキリしたかもしれないロボね。セカオワの深瀬も転移してきているみたいロボし、多分転移する異能ってのがあるんロボよ。
 あと、これはツッコンでもしょうがない物なんロボろうけど、フロムの作品だとしたらラスボスを倒した後に第二段階が出て来る事の他に、主人公の言動次第では主人公が世界を終わらせたり、そもそも主人公の冒険がここで終わってしまってエンドロールが流れてから二週目が始まる可能性もあるロボよね? もしそうなら魔王の城を細かく探索しないで直ぐに帰ろうとしたのが大正解だったんじゃないかロボ? 最悪の場合だと主人公が次の魔王になる場合もあるし…
 それと、キャプションには「異世界転生モノ」と書いてあるロボけど、「異世界転移モノ」ロボよね。細かい部分ロボけど転生と転移って結構違うから気になっちゃったロボ。
 最後の縦読みと合わせて作者が気を楽にして楽しんで書いているなって感じがする作品で面白かったロボ。ロボもロリ女王様の会計に攻めて貰いたいロボ!

88:天使のたまごづまり/ももも

謎の有袋類
 ちょっと不思議な音の話を書いてくれたもももさんの二作目です!
 異能だったものが、そうではなくなり、そして最後に「異能」として主人公の未来を照らす一つの要素になるという構成、めちゃくちゃよかったです。
 物語の骨子などは多分他の評議員が触れると思うので、他の部分に触れていきたいと思うのですが、僕はハーピーが弱って羽根を膨らませて眠りがちになる部分、そして緑のどろりとした糞をするところ、そして多分総排泄孔だよね?みたいなところがすごくグッと来ました。
 パンと水、じわじわと弱らせるのは最適ですね……。本来は肉食……。
 無精卵が卵詰まりをしてしまうのも、鳥にあるあるのことなのですが、それに加えて糞をまきちらす、食べ方が汚い、歌声がヤバいなどの伝承にあるハルピュイア要素をしっかりと組み合わせたことが説得力のようなものに繋がっているのだと思います。
 個人的な希望としてですが、これだけ大好きで可愛いハーピーちゃんにオリバーさんが名前を付けていたら更によかったかなーと思いました。
 でも、お医者さんの前では恥ずかしくて、種族名で呼んでいるのかもしれないですね……。
 幻想動物のお医者さん系のお話、めちゃくちゃ大変だと思うのですがすごい好きなのでまた別の作品も読んでみたいと思いました。
 これからも、もももさんの作品を楽しみにしています!

謎の野草
 前回のこむら川ではドラゴンカーのお話が可愛かったもももさん、今回の二作目もファンタジー生物と人間の交流が心温まる作品でした。
 第一話、マリー・アントワネットを思わせる王妃の描写で、おちょぼ口に触れられていたのがハプスブルク好きとしては嬉しかったです。高貴かつ数奇な運命を辿った人に対し、ありのままの真実を描くことを良しとした父と、哀れんで天使による救済を願った主人公と。絵と被写物に対する姿勢が対照的で、後の展開での主人公の悩みの源が端的に見えて、印象的なプロローグでした。
 写真が発明された時代に写実的な絵の価値をどこに見出すかという点、現実にも通じるテーマとして興味深く拝読しました。印象派・キュビズムなど「目に見える景色」とは異なる描き方の絵画が隆盛したのは歴史が下ってからですし、絵画の可能性・存在価値を模索するのは写真と共存しなければならない画家の宿命なのかもしれません。
 かつて夢想した天使を手に入れたと見えた主人公、でもその天使は実は──という展開になるのですが、未知の希少生物と接した時にはこういうことは絶対起きるだろうなあ、という事象が生き生きと描かれていてこれもまた興味深かったです。主人公がハーピーを天使と信じ込んでしまうのももっともだし、詐欺師の手口は憎むべきものではあるのですが、買い手に合わせてそれらしいストーリーを拵える悪知恵は、これはこれでしたたかな人間の営みでした。天使の正体について、タイトルから卵つまっちゃってるんだな……とは分かっていたのですが、猛禽状の翼だから肉食獣! という部分については私も「天使」の呼び名に騙されていました。爪や牙については、主人公が見ようとしなかったため描写されていなかったのもあるのでしょうが……気持ちの良いどんでん返しでした。肉食動物が果物ばかり与えられれば体調を崩すのも当然、便もきっと正常な状態ではなかったんでしょうね……。ラストでは元気になって懐いてくれて本当に良かったです。
 図鑑の挿絵画家として、希少生物と人間の仲立ちとして、画家としてのアイデンティティを取り戻した主人公の変化は心強く頼もしく、爽やかな読後感でした。ご指摘するところがあるとしたら、第一話で天使の絵を消させた父は横暴に見えたし、主人公のモノローグでも父に対して反発があるように感じたので、ラストで主人公が選んだ道が父と同じく「ありのままの絵を描く」であったのが少し違和感がありました。最後の場面で父の教えを振り返って今なら主人公がどう感じるか、というような描写があると、この点すっきりするかもしれません。

謎の機械
 先天的に【一度見た光景を脳裏に焼き付ける記憶力の異能】を持つ一族の末裔(になってしまった)の男が天使と騙されてハーピーを買ってしまい、育成知識の無さと妄信から苦しませていたという話ロボね。 
 自らの異能に誇りを持った一族だったのに、写真が発明されると【一度見た光景を脳裏に焼き付ける記憶力の異能】が「まるで写真のように描く能力」と後から出来た物下位互換扱いされたのはとても可愛そうだったロボけど、文明が進んで発明品が増えて世の中の暮らしが良くなるにつれてこういうのはどこでも発生する物ロボよね…お父さんがショックで一族の歴史でもある絵画達と一緒に焼身自殺をしたのも無理は無いと思うロボ。分かりやすい所だと携帯電話が出来たらポケベルが売れなくなったのと同じロボ。
 でも、写真は写真で絵は絵という違いから、最後はその異能を使って人ならざる者たちの図鑑を作る事に協力する事になったというのハッピーエンドで良かったロボ。天使と偽って売られていたハーピーも元気になったロボし、後はうんこが臭いのと乱暴なのに我慢するだけロボね!
 最初にドンと主人公の一族の異能を説明しつつ主人公は一族の異能を持ちながらも独自の感性を持っているという説明がしてあって、その感性の影響でハーピーを買ってしまうし、どう見ても猛禽類の親戚なのに天使だと思い続けてしまうとう結果をスムーズに出してあるのが見事ロボで、ファンタジーなので天使が実際に居る夢のある話と思わせておいてからの開腹手術というハードな内容で読者にガツンと現実を教えてくれているのも凄いロボ。ペットも可愛いからというだけで曖昧な知識で買ってはいけないロボし、買ったのなら責任を取って最後まで付き合ってあげなきゃダメロボよね。
 その点、この主人公はちゃんと妄信から目覚めて責任があるからと手術にも付き合ったのが偉かったロボ。そうやって責任を取る姿勢を見せたから医者も信用して仕事を任せようとしてくれたんロボね。
 このエピソードの為に一つの世界の設定を作って使い捨てるという凄く贅沢な作品だったロボ。これから彼とハーピーがどんな生活をしていくのかが楽しみロボね。
 それはそれとして、もっと早く服をめくっていれば異変に気付いたと思うんロボけど、もしかしてこいつウブロボか? ウブなのが理由でハーピーを死なせかけていたとか結構恥ずかしいロボよね…そりゃハーピーの給仕にならざるを得ないロボ。

89:音楽にきこえる/ことちら

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 雨の音を聞くと街の形がわかる……音が細かく聞こえるという力を持った女性を巡るお話でした。
 時系列が入り組んでいることと、少し混乱をして行ったり来たりを何度もして読んだのですが、多分、今付き合っている恋人と話している男性と、不思議な力を持っている女生と話している時の主人公……なんでしょうか?
 運転をしている「彼女」と「美里」は別だと思っていたのですが、最後に「いつの間にか、それをじっと見つめていた。左に目をやると、美里も同じようにそれを見ていた。また眉間にしわが寄っている。何か新しく考えているのか、僕の知らないことを思いだしているのか。」という部分で美里が出てきたので、運転をしている「彼女」は美里の別人格かなにかなのかもしれないと思ったのですが、間違えているかもしれません……ごめんなさい。
 何度も読み返してみたのですが、読み取れなくてすみません。
>唇のラズベリーみたいな鮮やかさ
>視界の右端に今度は淡い青色がちらつく。ハンドルの上で規則的に跳ねる、人差し指のネイルカラー。

 こういう細かな部分を描写する時の表現がすごく綺麗で、感性がとても豊かな人なんだなと思いました。
 雨音の違い……という着目点と、しっとりとしたベッドシーンの描写のなまめかしさのバランスも、とても好きです。
 物語全体に漂うどことなくアンニュイな雰囲気などは、すごい武器になると思うので、今後もコンスタントに作品を書いて欲しいなと思いました。

謎の野草
 昔の彼女──というか、一夜限りの関係を持ったらしい女性のことを、現在の彼女に語るお話でした。作品の大半を占める「彼女」とのやり取りは回想なのですが、初見の読者としてはここからどこへ行くんだろう(何しろ車の中での会話でしたし)、何が始まるんだろう、という期待と予想を持って読み始める訳ですので、物語の現在地は初手で明示していただいたほうが場面転換で戸惑わずに済んだかと思います。また、最初は過去→現在→過去という時系列なのかと思ったのですが、よく読むと最後の部分に美里がいますね……。
 記述からして異能持ちの「彼女」とのドライブの場面と考えて良いと思うのですが、美里の存在は過去と現在がオーバーラップしているということなのか、主人公の心象風景なのか解釈に迷いました。キャッチコピーで雰囲気で~と仰っている通り、ストーリーというより空気感を楽しむための作品を意図されているのかもしれないのですが、文章に集中して味わうためにも、すっと状況を把握できる書き出しにすることが必要かもしれません。
 お題の異能は、過去の女性である「彼女」の聴覚ということでした。雨の音によって景色を見るかのような彼女の聴覚、それ自体の非凡さもさることながら、音に対する彼女の表現力も独特で、詩情を感じました。ピアノ(の曲を聞いた感想)が指っぽい、べたべた触られているみたい、という表現が非常に印象に残りました。ピアノの音で奏者を思い、その音を生み出す指先を想像し、触れられていると感じるのは、確かに音に対して非常に鋭敏な感覚を持った人なのだろうと「異能」に説得力を感じました。聞いている主人公のぼんやりとした腑に落ちない感じも、常人との感覚の違いをくっきりと見せていて、ふたりの間の溝というか「分からない」感じをよく表していると思いました。
 「彼女」との思い出を「そんだけ」と評する美里にはなおさら、「彼女」の聴覚も世界観も理解できない・する気もないもののようですが、「彼女」とのやり取りを反芻する「僕」の目線の詳細さは、どうやら美里に対して後ろめたさを感じるほどに「彼女」が心の奥深くに留まっているのではないかと思わせます。存在しない「彼女」を一角にしての三角関係、どこか背徳的で味わい深いです。雨の音が聞こえるたびに「彼」は「彼女」を思い出しているのかな、などと思いを馳せます。

謎の機械
 今の彼女と居酒屋で飲んでる最中にお互いの過去の相手について語っているという状況だけど、メインはその過去の相手である女性が運転する車の中で音楽を聞いたり景色を見たり女性を見たりした時の話という物ロボね。
 最初の場面は過去の女性との逢瀬、次の場面は今の彼女との居酒屋暴露大会、というのは分かるんロボけど、最後の場面がどういう状況なのかちょっと分かんなかったロボ。
 最初の場面と同じ様に車に乗っているのだと思ったんロボけど、そうなると今の彼女である美里が出てくるのがちょっとおかしいと感じるロボ。それに最後の場面で「彼女は左手をハンドルに添えたまま、右肘を窓の傍におくと」とあるという事は女性が車を運転しているっぽいンロボけど、その後に「左に目をやると、美里も同じようにそれを見ていた」とあるロボ。
 最初の場面の時も車のシーンから急に昨夜のベッドのシーンへ移って居るロボから、もしかして最後の場面も途中で過去の女性が運転する車に主人公が乗っているシーンから、今の彼女と車に乗って主人公が運転しているシーンに変わっているという感じロボ? このシーンの移り変わりや場面の転換が急な事でちょっと読みにくいという印象を持ってしまったロボ。
 でも、なんとなくなんロボけど、タイトルである「音楽にきこえる」という題名とそれぞれの細かい描写からして、これは音楽のPVみたいな作品なんじゃないかと思えたロボ。
 作中で流れる音楽と車が歩道の脇を通り過ぎる時に起きる風の音や、低い建物に降って来る雨の音、肌を重ねている時の主人公の心臓の音、それらが「音楽に聞こえる」という題名で奏でられる一曲の音楽の旋律で、それを映像化した物を小説に書き起こした様な感じロボね。なので時系列や場面がズレていても問題ないというか、それも演出の一つみたいな。
 これは勝手にロボがそう感じただけで正解では無いかもしれないロボけど、そう思うと色々と綺麗な描写の数々が音とリンクさせてあるんじゃないかロボなぁとなったロボ。
 【異能】部分は【耳が良い異能】というより、【音を独特の捉え方をする異能】という感じロボかね。話の流れがちょっと分かりにくかったロボけど、それぞれの描写は綺麗で美しかったロボ。こういう雰囲気の作品はとても好きなので面白かったロボよ!

90:憧憬の炎/鰹 あるすとろ

謎の有袋類
 異能バトル小説を書いてくれたあるすとろくんの二作目です。
 今回は夏の思い出を思い返すライターさんのお話でした。
 実体験かな? そうじゃないかな? やっぱり実体験! とドキドキ出来てとても楽しく読むことが出来ました。
 というか、実体験と言うことは、異能バトルもしていて、更に後輩兼担当編集者さんともなにかあったということなんですかね?
 連載や中編などに繋げられそうな設定も散りばめられていて面白かったです。
 編集さんとのやりとり、僕はこういうのを読み取ることが下手なので間違っていたら申し訳ないのですが、多分ちょっと好意があったりするのでしょうか?
 この部分だけ浮いてしまっているので、編集さんとはフラットな関係性にした方がお話のキモである親戚のお兄さんとの思い出を活かせたのかもしれないなと思います。
 思い出の部分や、タイトル回収展開、そして親戚のお兄さんと夏の思い出と全体的に整っていて綺麗なお話でした。
 炎を出す能力持ちはいいぞ……。炎使い好きなんですよね。
 長編連載もがんばってください!

謎の野草
 一作目は学園異能バトル&バディものを出された鰹 あるすとろの二作目、少年時代にお世話になったお兄さんに「異能」を教わるお話です。お兄さんから教わったのは文字通りの「異能」なのか、世間に対する時の心構えや処世術といったものをそう呼んでいるのか──少年時代のノスタルジックな思い出の中で「異能」はかなり異質な存在と見えましたので、後者の比喩的な意味かとも思ったのですが、ラストで主人公は「異能」を実際に行使しているので、素直に異能が存在する世界だと読めば良いのでしょうか。
 異能が実在するかはさておき、本作の主題は内向的な少年が心を開いて他者に向き合うこと──だと思ったのですが、どうやらそれは作中作のオチでしかなく、もう一段階外の素の主人公はもっと強かで悪辣なようですね。叔父さん夫婦に心を開いた感動的なはずの一幕を、終盤では「他人の扱い方」「空気読みスキル」と突き放した語り方をしていますので、前半に描かれたのはあくまでも納品物として綺麗にまとめたストーリーと解釈するのが良いのでしょう。驕りが見える一方で、「気まずい間が生まれたりもしないし」という吐露は、そうなる場合がある、つまりは他人の扱いに苦慮している場面もあるという訳で、本人が思っているほどの手腕ではまだまだないようでもあるのですが。
 と、上述のように書いてみたものの、一読目では「ひと夏の経験で成長した物語のはずなのに、最後はずいぶん上から目線の物言いだなあ」という感想になってしまっていました。作者様の単語のチョイスミスではなく意図的な言葉遣いなのだろうと考え直したので上記の解釈になったのですが、一読して伝わりにくくなっているのだとしたら、作中作を書き上げた後の主人公のトーンが、作中作部分とあまり変わっていなかったからかもしれません。例えば文章で人の心を操ることに愉悦を覚えるとか、もっと分かりやすく傲慢さを感じさせる描写があると前半と後半での落差が際立つかもしれません。
 一作目では感じなかったのですが、地の文で「……」を多用しているのが目につきました。「間」の表現としてとても便利ではあるのですが、あまり頻出すると文章がぶつ切れになっている感覚も出てしまいますので、ほどほどに回数を抑えつつ、文章で間を繋ぐことを工夫してみると良いのかと思いました。

謎の機械
 親の仕事の都合で色んな人に預けられる事のある少年がとある親戚の所に預けられた時に経験した夏の思い出を、大人になって物書きになってから思い出しつつ原稿にしたためたという話ロボね?
 【異能】の部分は【手から炎を出す異能】という簡単な物ロボけど、少年時代に会った親戚のお兄さんと小説家になった今の自分とどちらも使えているのは面白いなと思ったロボ。それが手品なのか本当に異能なのかは謎ロボけど、ちゃんとお兄さんの教えは形になったんロボね。
 ちょっと気になったんロボけど、この少年時代の話が「思い出の話をありのまま書いた」と書かれているという事は、その後の展開も書いた異能バトル系ライトノベルにしか読めない物も実際に合った事を書いた物という事ロボか? そうなると「黒歴史ノート、誰かに見られる、高校生の時の二の舞」という単語と高校生の時は小説を書いてなかったとある事から、小学生~中学生の間に異能バトルが実際にあって、過去にその経験を元に小説を書き、その小説を同じ部活の者に笑われたという事になるロボよね? そして、高校生の時の後輩が主人公の過去作を出版社に持って行ったという事は、この「主人公が過去に経験した異能バトルを元にした小説」が出版されているという可能性がある訳ロボよね?
 大丈夫ロボ? 今更命を狙われたりしないロボか?
 実は異能者である小説家が自分の経験を元に小説を書いているというのはかなり面白い状況だと思うロボので、もしも本当に異能者であるならその部分を明確にして欲しかったなって思ったロボ。消滅した異能バトル系ライトノベルの部分に答えがあったんロボろうし、編集ちゃんはもっと強引に行くべきだったロボね。
 発想が面白くて少年時代の話も良い話で面白い作品だったロボ。

91:魔女と機械/里場むすび

謎の有袋類
 前回は時空を行き来する人たちの物語を書いてくれた里場さんです。参加ありがとうございます。
 今作は四種類+一の分類をされた異能持ちたちがそれぞれ争うという欲張り現代ファンタジーでした。
 作者の方が楽しく書いているということと、読者を楽しませようと色々な要素を盛り込んだ作品だと思います。
 機械の異能、金の弾丸を撃ち込まれて生まれたチェーンソーを持つ主人公というのも面白かったです。
 お話の内容はわかりやすくて、キメシーンでもかっこよくキマっていてすごく好きでした。
 前回の講評と一部重なってしまうのですが、一万字という文字数は、かなりタイトなのでこの作品だと1話に書いた内容をしっかりと書いて納めた方がちょうど良いのかもしれません。
 メインの登場人物は二人くらい、一人称で時系列通りに書いて、登場人物を行動させてみるの三点を意識すると一万字規模の作品が書きやすいと思います。
 キャラクターや設定など、長編向きの作品だと思うので、連載や長編に書き直してみるのもいいと思います。

謎の野草
 ハードかつダークな雰囲気のバトルものでした。どうやら現実世界と連続しているようなので、ポストアポカリプスものでもあるのでしょうか。目を引いた描写は、矢を回収するところですね。フィクションだとしばしば矢は無から無限に湧いてくるのですが、有限かつ貴重なリソースだいうことを踏まえた描写で、シビアな世界観だと端的に伝えていたと思います。
 キャプションによると連載作品のプロトタイプとして書かれたとのこと、もしかすると予告編的に見どころを詰め込んだのかもしれませんが、情報量がとても多く、設定や人間・組織間の関係性を把握するのに少々手間取りました。複数の組織の思惑、複数の登場人物の動きを描くには、今回の文字数の規定は窮屈過ぎた印象です。ストーリーを理解するので精一杯になってしまうと楽しむ余裕がなくなってしまうので、特に短編においては登場人物の数も場面数も絞ったほうが良さそうです。
 作者様の中では映像、あるいはマンガのコマ割り的に思い浮かべているのかな、と思いました。

謎の機械
 四つの分類に分けられた異能が存在する世界で五つ目の【機械の異能】に目覚めさせられた男が活躍する裏組織物の異能バトルのお話ロボね。
 最初の村で起きた死者達の事件で話が終わると思っていたら、そのまま次の話に移って主人公が小さくなって実はヤクザの幹部のお偉いさんでヒロインと一緒になって旅をすることになってエンドという慌ただしい印象の残る作品だったロボ。
 物語の進め方、魅力的なキャラの作り方、気になる設定と明かされていない謎とどれも面白いし、作者がここはこういう風に魅せようと意識しているシーンが実際にその通りに書けているのでするすると読む事が出来たロボ。
 キャプションに書いてある通りに連載作品のプロトタイプという感じの作品ロボけど、その連載作品を13000字に詰め込んだから先にも書いた通り慌ただしい印象を感じてしまったロボ。でも、意図的というか作者的には実験作のつもりで書いたっぽいので、こういう印象を受けるのはきっと想定済みロボろうね。
 短編や第一話として考えるのならば、村の事件が終わった後に一旦話を終わらせて次へ繋がる伏線なんかを残しておくというのがいいんじゃないかと思うロボ。それと、八尺様が出てきた理由が主人公をショタにしたいだけっぽくて不自然な登場に感じたので、ここはちゃんと子供にすれば簡単に倒せると思ったとか、子供にする事で主人公を弱くしたとかの理由付けがあるといいと思ったロボ。
 この作品を踏まえて連載作品を作るという事らしいロボので、その作品が出来たら是非とも読んでみたいロボ。ロボは鎮ちゃんみたいなキャラが好きなので、出来れば鎮ちゃんがちょいちょい出てくると嬉しいロボね。巫女服だけじゃなくて潜入捜査という事でランドセルを背負ったりなんかしちゃうともっと嬉しいロボ。

92:リリイズ・イン・ジ・アンダーグラウンド/双葉屋ほいる

謎の有袋類
 第二回こむら川で「全人類俺化計画」を書いてくれたほいるさんが参加してくれました!ありがとうございます。
 いつも勢いの良いKUSOをお出ししてくれるほいるさんの、ちょっとえっちな百合でした。
 百合に挟まるどころか、百合を熱心に間近で見た人が死ぬお話……。
 この主人公の「目」の能力も面白いのですが、姉妹の体液が混ざり合うと猛毒になる能力がめちゃくちゃ良いなと思いました。
 伏線の置き方が本当に丁寧で、同じ食器を使ったり、食べ物を分け合ってはいけないとか、何があっても来ないでくださいという姉妹の発言が「毒だからかー」と回収されたときがめちゃくちゃ気持ちよかったです。
 投げっぱなしジャーマンにならずに、一度着地をしてから「チームを組んでくれ」という広がりのある終わり方もすごく好きでした。
 個人的な好みなのですが、主人公の見た目を姉妹ちゃんにもっと説明させたりするとうれしいかも……と思いました。
 勝手に黒髪長髪つり目イケメンとして想像しました。
 二人の名前も、ユリ科の植物は球根に毒があることが多いことも、タイトル回収という感じでめちゃくちゃ好きな要素でした。
 KUSOだけではなくて、百合もかけるほいるさん……またお時間があるときに色々書いて欲しいなと思います!

謎の野草
 百合の間に挟まる男は罪深いとはよく言うのですが、まさにそんな男を始末するための「異能」が出てくるとは! 正確を期すならば「間に挟まる男を殺す」というか、「間に挟んで殺す」になるのでしょうか。冥途の土産に美少女の絡みを見ることができるのはある意味ご褒美のような気もしたりします。とにかく、ネットミーム的なワードから短編を仕上げる発想力も瞬発力も素晴らしいです。
 成人済ロリ姉妹のインパクトで始まり、姉妹の恐るべき「異能」とは何か、と話を広げ、見事ミッション達成と種明かし、と。流れるようなスムーズな展開を楽しませていただきました。主人公の「異能」もトリオを組むための理由付けになっていて、無駄のない構成だと思いました。姉妹の、特に凜々衣の言動が成人済だという割に幼過ぎる気もしたのですが、恐らくは自分の容姿を知り尽くしたうえでの計算なのでしょうね……恐ろしい暗殺者です。一方で幼女趣味ではなかったり問答無用で殺しに来るターゲットに対しては非力だろうとも予想できるので、主人公とは補い合う良い関係になりそう……と想像が膨らみます。
 ほとんど引っかかることなく読めたのですが、ひとつだけ、カラオケ店に入っていくくだりが少し唐突に見えたので、(そういうことだろうと推察はできるのですが)「姉妹を餌にターゲットをカラオケ店に呼び出した」という説明が一文入っていると迷わないかと思いました。
 最後は組織によって「百合の間に挟ませられる」ことになった主人公、「まあそういうことだから」「は……はぁ!?」でオチ、ということでも良いのですが、字数にも余裕があることでしたし、姉妹に振り回される主人公・その後の仕事の様子なども見たかったです。要は彼と彼女たちの絡みをもっと……! ということなのですが。ターゲットや研究所メンバーなどで幾らでも膨らませられる舞台設定だと思いますので、今回に留まらず長編化や連作化するのも楽しそうです。

謎の機械
 百合に挟まる野郎を異能で始末する話ロボね。いやほんとにそういう話ロボ。キャッチコピーにも書いてあるロボし。
 所謂ネットジョークである「百合に挟まる野郎は死すべし」というので異能暗殺者の話を一本仕上げる事が出来るのは流石だなと思ったロボ。普段は下ネタを言い放題のお姉さんロボけど、そういえば百合物を書いているお姉さんでもあったロボね。すっかり忘れていたロボ。
 【異能】部分は主人公の男性の【透視能力の異能】と、姉妹の【お互いの体液が混ざって空気に触れると気体の毒が発生する】という物ロボで、確かにこの方法ならばうまくターゲットだけを毒に巻き込む事が出来るロボね。カラオケ店なら滅多な事では他の部屋に入る客は居ないロボし、もしも二人が体液を重ねることが出来なさそうになったら偶然を装ったり「変なことしてる奴がいる」と通報すればそれで問題が解決できるロボ。
 起承転結も能力の魅せ方もついでに百合の魅せ方も上手くて良く出来ていた短編だったロボ。
 ただ、これは個機械的に気になる部分なんロボけど、この姉妹実は何歳ロボ?
 成人しているという事は分かっているロボけど、実際の年齢は言われてないロボよね? という事は、中身が80代とかの可能性もあるロボ? 80代の姉妹の百合は一部の人にしか受け無さそうな絡みロボから、実は何歳位の姉妹なのかというのを知りたかったロボね。贅沢を言うなら主人公の男性よりちょっと上ぐらいがおいしいと思うロボ。見た目は少女なのに実は年上。しかも百合。有りだと思うロボ。

93:ポストマン・ミーツ・ブラッドレイン・アゲイン/ポストマン

謎の有袋類
 八尺様の異能バトルを書いてくれたポストマンさんの二作目です。
 勢いよく人をガンガン殺す異能バトルものでした。
 対価を支払ってどこからか物体を購入する能力 VS 血で作ったものを操作したり、自分と血人形の場所を入れ替える能力のバトルでした。
 元配偶者と、その友達、そして主人公と複雑な関係性があり、いよいよいんねんの対決に至ったシーンを切り抜いたような印象的な作品です。
 異能やバトルシーンの迫力などすごいなと思いました。
 ちょっとだけわからなかったのが、主人公の異能です。死なないのは、何か理由があったりするんでしょうか? 自分の体と命は自分の物なので対価に差し出したとき以外は壊れにくいなどの能力があったりする……的なロジックでしょうか?
 異能バトルが物語の大部分を占めているので、不死が能力なのかそうではないのかなど書いてくれるとスッキリするなと思いました。
 人を選ぶ作品だと思うのですが、こういう思い切りのいいアクションを描いたエンタメ作品は需要があると思うので、このまま好きなものを書いていって欲しいなと思います。

謎の野草
 八尺様vs全裸中年男を書かれたポストマンさんの二作目です。こちらはオリジナルの怪異(?)怪人(?)だと思うのですが、都市伝説にもなりそうなインパクトと狂暴性のある主人公たちでした。
 主人公の異能「代価を支払うことによってこの世のあらゆるものを購入する」ですが、狂気に満ちたモノローグのために、普通にお金を出して購入することを異能と認識しているのかと思いかけました……。(キ〇ガイと呼ばれたと)そう思い込んだ。とも言っているように、本当に狂っているのか、自覚して不条理な言動をしているのか迷って、「サバイバルナイフを店で買った」のを異能で取り出したかのように表現したのではないかと疑ったのです。すんなりと読めた訳ではなかったのですが、とはいえ読みづらいというのともまた違って、「この主人公はいったい何なんだ……?」と圧倒されつつ興味を惹かれました。そして読み進めるうちに彼の過去が匂わされて「狂った」言動に至った経緯が何となく察せられましたので、強烈なキャラクターで惹きつける手法として成功していると言えるかもしれません。
 「ポストマン」と「ブラッドレイン」の異能のぶつけ合いと、同時に起きる激しい感情のぶつけ合いにふたり(ともうひとり)の間にあったことやそれぞれに抱えた巨大感情を思って胸が熱くなりました。彼らの過去はそれ自体でも長編になりそうで、この作品はクライマックスを抜き出したようなものだと推察します。過去のエピソードを積み上げた上でこの対峙に至っていたらもっと心が動いたはず……! と惜しむ思いと同時に、一番良いところを切り取って出していただくのも贅沢な楽しみ方なのかも、とも思います。最後の落下の一瞬で、自らのすべてを使って攻撃の手段を贖う主人公の覚悟と、それに付き合ってくれるブラッドレインの関係性は、この上なく深い愛のようでもあって、主人公が悟った真実とはそれなのかも……などと思いました。

謎の機械
 謎の組織に掴まって異能持ちへ改造させられた主人公が殺し屋をやったり無差別殺人をやったりしている所に同じ様に組織に掴まって改造された後輩が襲って来たので戦ったという話ロボね。
 いきなり人殺し描写から始まるスタートダッシュでびっくりしたロボけど、主人公の語りが軽快なのと異能バトルシーンが面白い作品だったロボ。
 特に【代価を支払うことによってこの世のあらゆるものを購入する異能】の設定がとても面白くて、殺した死体を代価にする事も可能だし、一度購入した物も中古として代価にする事が可能と言うのは発想が凄いなって思ったロボ。ここまで読んだ作品の中で個機械的に一番好きな異能ロボね。
 後輩である相手役の【自分の血を自在に操作して半自動操縦の人形を作り、その人形と自分の位置を入れ替え可能な異能】というのもいい味を出してるトボ。単純に人形が強いのもあるロボけど、それが赤色の球体関節犬人形というのはいい趣味をしているロボ。全裸に透明のレインコートも凄くいいロボね。是非ともイラストで見たいロボ。
 ノンストップで繰り広げられる異能バトルアクションで楽しかったんロボけど、全体的に説明不足な感じはしたロボ。主人公がこんなにも暴れている理由や、銃で撃たれても大丈夫な理由。組織が一体何なのかや、魔法少女がどういう物かという事。最後にどうして水素爆弾を出したか等、勢いで読ませる作品っぽいロボから説明が無くとも面白いんロボけど、読者としてはこの辺りの明確な答えが欲しくなっちゃったロボね。
 読者によって賛否両論がある作品だったと思うロボ。好きな人は好きな勢いの作品ロボから、この勢いを活かしたまま中編を書いてみて欲しいと思ったロボ。

94:明日天気になぁれっ!!!!/@kamodaikon

謎の有袋類
 第三回こむら川小説大賞では、不思議なホラーを書いてくれたカム菜さんが参加してくれました。ありがとうございます。
 たまたまツイートも、キャプションも見た結果、ギャグとのことなのですが、もしギャグとかトンチキをするなら開幕ダッシュが命なので一行目から「おかーーーさーーーん!!!!なんか変な夢見たんだけど?!?!?!」から始まってもいいかもしれないです。
 全体的にテンポも良く、アイディアもとてもいいので、最初から「こういうテンションのお話ですよ」としてあげると読者にとっても親切だと思います。
 締め切り間際で、時間の無い中での投稿、本当にありがとうございます。途中まですごく面白いのですが、どうしても尻切れトンボになってしまっている印象を受けるので、いっそのこと晴れさせて先輩とちょっと良い雰囲気になるところまで書いてしまうとお話がギュッと締まると思います。
 とはいえ、慣れない中で一生懸命読者のことを考えて、面白い物を書こうとしたのは伝わってきました。
 書けば書くほど伸びていくポテンシャルはあると思うので、色々試行錯誤しながら、まずは一万字の短編で最強になっていきましょう!
 次の作品もお待ちしています。

謎の野草
 「翌日の天気が分かる」というごくささやかな異能に目覚める家系に生まれた少女のお話、ほのぼのとおかしさと可愛さが絶妙なバランスで、短いながらに満足感たっぷりの良い作品でした。
 まず第一に母と娘の仲の良さと通じ合っている感じが好きでした。娘の反応を読み切っているお母さんに、お母さんの底知れなさを受け止める娘。異能があろうとなかろうととても良い関係だなあと微笑ましかったです。かといってお父さんの存在感が薄いということもなく、世界が終わるかもしれない前日に、故意か否かは不明ですが場を和ませてくれるところに大黒柱の器を感じました。発言内容も娘を案じるものばかりでしたし、やはり仲が良い素敵な家族だと思います!
 人畜無害なちょっとだけ便利なだけの「異能」と思っていたところ、世界の終わりも予知できてしまうという急転直下に惹き込まれ、そんな状況下でも週末と終末をかけたジョークが決められるお母さん、恋愛を気にする主人公の乙女心と、やはり可愛い言動の登場人物に和みました。世界の危機は、もうひとつの「異能」持ちである先輩によってさらりと解決してしまった訳ですがタイトルの「明日天気に~」は世界のためにも主人公の恋愛のためにも切実な願いということになるのですね。ダブルミーニングが気持ちよく嵌ったタイトルでした。
 キャプションによると先輩は人間ではないとのこと、主人公の家が龍神に嫁いだ巫女の家系という情報と併せると、龍神の子孫ということなのかな、と思います。お父さんの疑惑が的中しつつ、先祖の縁が再び巡り合ってカップル誕生なるか!? というロマンの予感もするのですが、キャプションを見落とした人には分からなくなってしまうのがもったいないと思いました。上述のように私は家族もの・ほのぼのものとして楽しませていただいたので、先輩との恋愛の顛末も正体も、はっきりしなかったからとしてもマイナス要素にはならないのですが、本文以外のところに重要な情報が載っていることに対して消化不良感を覚える読者がいる可能性は考慮された方が良いかもしれません。

謎の機械
 代々15歳になると【明後日の天気を夢に見る異能】に目覚める女の子が主人公のラブコメディで、ラブコメの相手役のイケメン先輩も【明日の天気を晴れにする異能】を持っているという偶然の話ロボね。
 主人公の女の子はもっと凄い異能に目覚めると思っていたからがっかりしていたロボけど、天気が分かる異能もそれはそれでかなり凄い事ロボよ? 天気予報の精度が高いから忘れがちロボけど、急に雪が降ってきたり大雨が降ってきたらそれで死んじゃう人って居るぐらいなんロボし、それを事前に知れるのはかなり良い異能ロボ。
 と、天気が分かる異能でもいいじゃんって思いながら読み進めていたらまさかの人類への敵対者が降って来る天気を見てしまって、主人公と同じくこれも天気の範疇ロボか? と驚いたロボ。
 そしてどうも回避の仕様がないという事で思い残す事が無い様にイケメン先輩に告白しに行ったら上記の通りに先輩も異能を持っていると判明して、その異能で明日の天気を晴れにして貰ったら敵対者が降って来る未来を単なる晴れになってしまって、終末が回避されたのでめでたしめでたし。でも秘密の筈の異能の事を話しちゃったから将来の伴侶としてちゃんと迎えなさいよという内容ロボ。色々とツッコミどころがあるけれど、めでたしで終わったのだから良いのでは? という強さを感じたロボ。
 異能ラブコメディ短編として完成度が高くてとても良かったロボ。
 キャプションに書かれている「先輩は人ではないんです」というのが作中でハッキリとは開示されていないのがちょっと怖い所ロボね。先輩が天気を操れるという事は主人公が巫女として使えるべき相手の竜神様の可能性があるロボけど、もしかしたら逆に夢に見た人類に敵を持った存在だった可能性もあるロボ。本当は人類を攻撃するはずが主人公にバレていたから予定を変更して、今日は準備をしてから主人公に何かするのを待っているとか、そんなパターンも考えられるロボ。
 どっちのパターンでも話が広がっていきそうロボし、文字数はまだまだ余裕があるのだからちょっとだけ先輩がどうなったのかも知りたかったロボ。出来れば人類に友好的な竜神様であって欲しいロボねぇ…

95:Unfamiliar room/ボラギノール上人

謎の有袋類
 やっと参加してくれたね!第二回では自分をロボットだと思い込んでいる少年を描いた作品を書いてくれたボラニキの作品です。参加ありがとうございます。
 名指しをされて主催者の歪んだ愛を受け止めているボラニキです。
 見慣れない部屋から始まるこの作品は、最初「謎解きデスゲームものかな?」と思ったのですが、ちょっと様子がおかしいな?となり、ちょうど「謎解きゲームだ!」と思い始めたところで、主人公も謎解きゲームじゃんとテンションがあがってる不思議な読み心地の作品でした。
 人質が取られていて、自分も閉じ込められているのに妙に他人事な部分や、やけに手間のかかる謎ギミックなどなど謎解きゲームをあまり知らないのですが、わかるわかる!こういう概念!と謎の納得をしてしまいました。
 それだけではなく、最後に神様にした願いの不備に気が付いて終わるラストが本当に気持ちよくて出来の良いコントや、ショートムービーのような作品でした。
 一つ何かあるとすれば、主人公が部屋に閉じ込められた理由を物語の中で説明してくれたらすっきりするなーと思いました。
 デスゲームっぽいのに相手が何を話しているのかわからない、そして主催者みたいな男がちょっとフレンドリー(でも人は殺してる)という以上空間なのにとても面白く読めました。
 また気が向いたら作品を書いて欲しいです!

謎の野草
 デスゲームに無理矢理参加させられた主人公のお話です。映画などでお馴染みの設定を使うことで導入の説明を最低限に抑え、かつ「主催者が何を言っているか(文字通り)分からない」という設定をひとつ加えることで秀逸なコメディになっているのがお見事でした。思いついたら勝ち、なアイディアを出せるのはとても強くてすごい、と思うのです。「多分『ああいう感じ』アレだろ」で臨む主人公も主人公だし、それで実際乗り切れるあたり、主催者もこの手の映画等がよほど好きなようですね。合間合間に出てくるギミックが「いかにも」で分かるー! となる楽しさもありました。
 唐突に現れた「神」に強請る異能は「この部屋から出して」にすれば良いのに……と読者目線では思うのですが、この状況に置かれた主人公からすると、とにかく言葉が分からないのがもやもやする・主催者にひと言言ってやりたいという気持ちがものすごくよく分かるので、非効率的な願い事をしてしまうのも無理はないよね、と笑いながら見守る気持ちになりました。一度始めたゲームは最後までやらないと、ですよね……。
 「願い事間違えた!!」をどこかで言ってくれるものだと思っていたので、また、そこまでの主人公がテンション高くキレ良くツッコミ続けてくれていたので、最後のオチが「文字まではカバーしてなかった……」なのは少々勢いが弱かったかも、と思いました。今のままでも十分楽しい作品なのですが、もうひとつインパクトがあるオチがあるとより作品のパワーが増すかと思いました。

謎の機械
 目覚めたら知らない場所に居て全く通じない言語で説明されて訳が分からないうちに脱出ゲームをやらされるという話ロボ。
 この全く通じない言語で説明されているというのキモで、途中まで全く分からないのに重要な事を言ってるっぽいからまるでコントの様な感じになっているんロボけど、途中からいきなり現れた神様によって言葉が通じる様になり、言葉が通じるからと油断していたら今度は文字が読めないという事で詰んでしまうというオチなんロボね。神様が現れて異能を授けてくれたのが突拍子もなくて驚くロボけど、そもそもいきなり脱出ゲームをやらされている状況が突拍子が無いのであんまり違和感を感じなかったロボ。神様から授かった【異能】は【変態マスク野郎の言っている事が分かり、喋れる異能】ロボけど、これ普通に脱出させてくれって頼めばよかったんじゃないかロボ? 脱出ゲーム自体に夢中になっているのと、余りにも変態マスクが何を言っているのかが気になりすぎてまともの判断が出来ていないロボよね…
 こんな感じでなんだかんだで最初から最後まで脱出ゲーム自体は真面目にやりつつ起きる出来事にツッコミを入れていくという内容ロボ。最後は文字が読めないので詰んでしまうというのがオチとしても良かったロボけど、作品を読むからにこんな所で諦めるような主人公じゃないっぽいからもう少し足掻いて欲しかったロボね。
 カウントダウンの数字が0になったら何がどうなるかも明確には分からなかったし、もしかしたらドッキリの可能性もあるかもしれないロボ。そもそもこんな面倒くさい脱出ゲームをやらせる理由も分かんないロボ。ちゃんと日本語で説明して欲しいロボ。
 作品の全体的な雰囲気はとても面白い作品だったロボから、後は風呂敷を上手く包む方法を覚えればもっと万人に受ける作品が抱える様になると思うロボ。ちょっと強引だったけど張った伏線の回収も良かったロボ。ところで脱出ゲームって建物を破壊しちゃダメなんロボか? ドライバーで壁を壊せば早かったと思うんロボよね。

96:粒あんエクスチェンジ/ささやか

謎の有袋類
 第二回こむら川小説大賞ではわたしたちは「平凡で凡庸な普通の女子高生です」という平凡で凡庸な普通の女子高生を装っている女子高生たちのお話を書いてくれたささやかさんが参加してくれました。参加ありがとうございます。
 最初は異能ガチャであんこやばいwと笑っていたのですが、途中から一気に加速してメキャメキャと背中が割れてスペースSFに変形して着地をするという豪腕なラストでした。
 ハズレだと思っていた能力に拡張性があると気が付いてから、調子に乗り、そして転落していく様子、そして主人公が世界に追われて死ぬ時に残した最悪な異能の発揮……ととても面白かったです。
 途中の宇宙ターンだけ少し中だるみしてしまうかも?
 中だるみだと感じるのも、他の部分の加速力と中身がぎっしり詰まっているからかもしれません。そう……粒あんの詰まったまんじゅうのようにね!
 とても面白い作品でした!

謎の野草
 あんこはこしあん派なのですが、神授の異能による至高の粒あんは食べてみたいと思いました……!
 Webの異世界ファンタジーものでは、外れスキルといいつつどう見ても有用スキルなパターンが多いようなのですが、「まんじゅうの中身を粒あんにする」異能はさすがに使い道が限られるだろう……と思わせておいて、意外にも金儲けにも使えるし応用も効くという展開が楽しかったです。ルールを少しずつ拡大解釈していく過程とルールハックの思考実験が興味深く、主人公たちが明らかに調子に乗っていく姿にハラハラしながら人間の欲深さと好奇心と悪知恵に感嘆するなどしていました。事態が悪化する原因はセフレだったので、色欲も質が悪く業が深いですね……。
 主人公が息絶えて以降は、とたんにジャンルがSFになり(そもそもSFなのですが話が宇宙スケールになるという意味で)、キャラクター不在・地の文での状況説明オンリーの展開になりました。私は人類が環境に適応して自らを変容させていくタイプのお話も大好きなので(まさにマンアフターマンですね)、この展開も楽しんだのですが、読者によっては置いてけぼり感を感じる恐れはあるかもしれません。あらゆる手段を尽くして生き残りに賭けた人類が、異星人の食料に収まってしまうということ、しかもよりによって「まんじゅう」と名付けられてしまうこと、皮肉が効いたオチで良かったと思います。ま、まあ、現代での家畜のように、食料としての有用性を認められるからこそ末永く生き残ることもありますよね……。 
 「異能」にできること、それを受けての主人公たちの事業戦略を少しずつ段階を踏んで説明してくれていたので、とても分かりやすくスムーズに読めました。トンチキなネタから始まった良質なSFを楽しませていただきました。

謎の機械
 わりと緩めの男が突然神様から「ガチャをひきなさい」と言われて異能ガチャを引き、その結果【粒あんエクスチェンジの異能】を手に入れたというお話ロボね。
 初っ端からお題である異能を回収しつつコメディ的な作品であると示すのは読者がこの作品をどんな作品か直ぐに理解出来るのでポイント高いロボと思ていたら、途中からパニックホラー的な怖さの作品になって、最終的に濃厚なSFオチになってびっくりしたロボ。後で小説のジャンルを見返したらちゃんとSFになっていたので全く問題ないロボね。
 異能の判定基準が主人公の男の判断に寄る物というのがちゃんと「どっちも和菓子でなんか包んであんこを入れているし同じようなもんだろう」と最初に記されているのが凄く良かったロボ。ここから最終的に「何かが何かで包まれていればまんじゅう」と判断され、主人公がそう思った者は全て中身をつぶあんに出来てしまうので頭蓋骨に包まれている脳もあんこだし、燃える層に包まれている太陽の核もあんこという事で地球人は滅びかけて最終的に異星人からまんじゅう扱いされるロボ。
 とてつもなく壮大な過程を経たのに、最終的にオチがまんじゅう。まるで落語みたいでとても面白かったロボ。これは新時代の「まんじゅうこわい」と呼んでもいいのではないロボろうか。
 和菓子屋のチャラい倅のキャラも良かったロボし、トントン拍子に進む展開も読みやすくて良かったロボ。最後のSF部分だけ雰囲気がガラッと変わるので人によっては面を喰らうかもしれないロボけど、それもまた作品の味の一つとして見て欲しいなって思ったロボ。ロボはSF大好きロボなので太陽が無くなった後の地球がどうなるのかってのが本当に面白くて良かったロボ。5億点入れておくロボね。

97:猫によって何故か上手くいく話/草食った

謎の有袋類
 エモエモ少年とAIのSFを書いてくれた草さんの二作目です。
 ネコチャン!!!!
 ネコチャン!!!!
 猫ちゃんが家族をまとめる3000字の短編なのですが、めちゃくちゃ話のまとめ方がうまくて「おおー」となりました。
 バチバチのSFエンタメと、ほっこりする日常BLという幅広い作風を書けるのが本当にすごいです。
 黒猫、縁起が良くないと言われることも多いのですが、魔除けになるとか恋煩いに効くみたいな逸話もあるのですよね。
 可愛い猫ちゃんが、家族のわだかまりや、ズレた歯車を見事に噛み合わせていく様子はすごくおもしろくて、ほっこりしました。
 個人の好みなのですが、冒頭くらいに猫で異能要素を回収するみたいな仄めかしみたいなものがあると、読後感に出るなんらかの気持ちよくなる物質が更にキマるようになるかも?と思いました。
 でも、今のままでも十分面白いです。めちゃくちゃ最高に可愛い猫ちゃんとほんのりBLの最高作品でした。

謎の野草
 一作目でAIと少年の交流を描いた草さんの二作目です。ネコチャンカワイイ……。
 多分さらっと読める、という意味で「お茶漬けのような」作品、ということでしたので、OK猫を愛でれば良いんですね! と油断して読んでいたところ、まんまと叙述トリックに引っかかりました。それこそお茶漬けのようにさらりとギミックを仕込んでくるからお見事なのです。あと、BLというか同性愛要素を入れてくるのも「これが好き」がぶれていなくて素敵です。主人公の一人称が「私」なのがこの年代の「男性」にしては珍しいかな、とも思うのですが、台詞で「私」と言っている箇所はなかったので、恐らく外向きの言葉遣いはもっと「男らしい」ものにしているのだろうと解釈しました。作中だけに留まらない、その人の生き方が垣間見える描写があると登場人物の深みも立体度も増すのでとても良いと思います。
 鐘城家の人々、息子ふたりが成人済だけに表向きは淡々としていたのかもしれないですし、亡くなった父に対する言及もあっさりしたものだったのですが、家族の一員がいなくなるということ、残された者たちでバランスを取らなければいけないということは思いのほかに難しくて負荷がかかることなのかも、と思いました。猫って飼ってみると可愛いだけではなくて吐くしトイレの世話もしなければならないし、子猫のうちは体調を崩すほど遊ぶし温度管理にも誤飲にも気をつけなければならないし──と大変なことも多いのですが、だからこそ鐘城家の人々に細かなことを気にする余裕をなくさせる効果があったのかな、などと思います。もちろん、可愛さゆえに人の心のあらゆるハードルを下げる異能も確かにあるのでしょう。〆の一文の、猫は正義、に尽きるのではないでしょうか。
 猫はコードが大好きなものですが、通電中のものは火傷や家事の恐れがあるし、誤飲も怖いので遊ばせるなら厳重な注意が必要ですね! 鐘城家の人々に可愛がられて、マフラーは末永く幸せにのびのびと生きて欲しいものです。

謎の機械
 タイトルの通り、猫によって何故か上手くいった話ロボね。ネコチャンカワイイロボ!!
 異能部分は猫が【なんでも食べる異能】という感じで、父親が居なくなった後の母親の寂しさとか、主人公が同性愛な事とか、そんな感じの色んな問題を食べて無くしてくれたという部分ロボね。マフラーやイヤホンコードを食べるのは体に悪いから良くないロボけど、そういう重い雰囲気を食べてくれるのは凄く良かったロボ。
 本当に異能を持っている訳じゃなくて概念的な話になってしまうので異能部分としては弱いかなと思うロボ。でも、それを補って有り余る短編としての完成度の高さで本当に猫はセイギ! という感じロボね。ロボは犬派なんロボけど猫が嫌いって訳では無いので猫も好きロボ。ネコチャンカワイイ。
 主人公が実は男だったという記述トリックはよくある物ロボけど、それが「彼氏がいる」「一人称が私」という部分しか無かったので、これを記述トリックと判断してしまうのは読者側の頭が固いんロボなと思ったロボ。今時彼氏がいる男ぐらい普通に居るロボよね。え、いないロボ? じゃあいないかもしれないロボ。どちらにせよ今の時代はもう彼氏や彼女の存在だけで性別を判断してはいけないターンに入ってるなと感じだロボね。
 短いながらも問題提起とその解決がしっかりとされていて、問題解決の為のキャラである猫に特別に何かさせたという訳じゃなくて、猫の行動をそのまま行わせただけで結果的に問題が解決してしまったという自然さがとても上手かったロボね。短編は短いのでわざとらしい動きをさせるとその部分の粗が目立っちゃう物ロボけど、それが全然無かったロボ。
 感動とネコチャンカワイイをありがとうロボ! 面白かったロボ!!

98:性欲過剰人妻ミウラの決して存在してはいけない食卓/和田島イサキ

謎の有袋類
 アナル日本酒から始まり、前回は人間門松を生やしたイサキさんの新作です!参加ありがとうございます。
 百合だ!
 身長差百合だ!これ、僕は疎いのでわからないのですが、やはり百合では背が小さい女の子が舐められるとか見下されるというのはよくある展開なのでしょうか?
 小さい子供が男の子にからかわれて嫌だった思い出があるみたいなエピソードみたいなものは見たことがあるのですが、背が低くて見下されたり舐められる女の子というのがあまりない感覚なので「ほえーそういうのもあるんだー」と面白く読むことが出来ました。
 異能は超強い胃袋……ということで良いのでしょうか? 生のままの蝉や洗剤や枝などなど……。生の蝉は流石にないのですが枝や洗剤(僕が食べたのはシャンプーですが)は食べた事があったりします。
 蝉、実は素揚げにされることがあったり、幼虫は美味しいらしいですよ。僕の友人が、夕飯は蝉なんだーと時々言ってたのを思い出して懐かしい気持ちになりました。
 という自分語りは置いておいて、異常な物を食べるというラインをちょっと変わったものなのか、ヤバなものなのかわかりやすくするとどういうテンションで読めば良いのかわかりやすいのでどちらかに振り切ると更にバシッと作品が締まるのかな?と思いました。
 でも、本筋はそういう異常行動の部分では無いのもわかるので、あまり気にしなくて大丈夫だと思います。
 みやこちゃんが大切にしていた思い出が、性欲という概念でバッサバッサと焼き払われ、そして手のひらで転がしていると思っていたけれどそうではなかった……というぬるりと立場に入れ替わりを描いてくる手腕は流石だと思います。
 カラッとした話し方をしていた女が、急にじっとりとした性欲を向けてくる描写もすごく好き。
 美味しい百合作品でした!

謎の野草
 金閣寺炎上や理解のある彼君など、強いタイトルから繰り出されるやはり強い百合が持ち味のイサキさん、今回も期待に違わぬ巨大感情を描いてくださいました。百合とひと口に言っても作品の傾向は様々なのでしょうが、イサキさんの百合は肉欲がベースにあって、ヤるかヤれるかヤられるかという、肉食獣が虎視眈々と獲物を狙う緊張感が生々しいと思っています。自分で百合を書くと綺麗な関係に収めてしまいがちなので、欲望を剥き出しにした「戦い」に毎回ドキドキするのです。今回も、綺麗なだけではない女同士の駆け引きやマウントの取り合いに手に汗握りました。
 主人公のミウラに対する感情──高身長でハイスペックのミウラが自分に縋ること、依存されることに悦びを見出しつつ、そんな卑小な自分に嫌悪感を抱くという複雑かつ鬱屈したドロドロが大変味わい深かったです。ミウラを見上げたかと思えばマウントを取れる隙を見つけては狂喜して、またそこに自己嫌悪しつつも愛を感じる、という。愛は綺麗なだけのもの・無償のものではなくて、打算や妥協や性欲も確かに構成要素に入っているのでしょう。と、主人公目線ではミウラはどこか聖域のようにも見えていたのですが、ミウラの本性が見えたところで力関係が一変します。もともと、小柄な主人公がミウラに対して優位に立つという一種の下克上的な関係性を描いていたと思うのですが、それがさらにひっくり返る感覚は落とし穴に叩き落とされる感覚に似て、ミウラの情念の深さに痺れました。主人公は「落とした」つもりで、だからこその罪悪感や自己嫌悪もあったのでしょうが、それも実はミウラの手の内だったということなのですね……まんまと罠に嵌って、今度は主人公が囚われて落とされる番、ということで。夫氏はどのように了承したのかも気になるのですが、どこまでもふたりの愛と快楽を追い求めていくのではないかな、と思いました。
 これは、文字数の規定に合わせるためにやむなくそうなったのかもしれませんが、10話以降の情報の出し方や展開がやや急かな、と感じました。ミウラはすべて見越して狙って待ち構えていたのだ……! と主人公が悟るのも、覚悟を決めて吹っ切るのも、もう少し葛藤があったり、誘惑されてぐらついた末に、という感じがあると前半までの懊悩とバランスがとれるかもしれません。

謎の機械
 えっちだったロボ…これはとてもえっちだったロボね…
 高身長巨乳自分に自信がない甘えたがりだけど一定の条件下ではなんでも出来ると思い込んでしまう性欲魔人人妻と、サバサバ系を狙ってみて上手くいかなかった物の喋り方だけは残ってしまった自分の非力さを武器にして上手くモンスターを飼いならしたと思っていたら実は餌食にされていただけの厨二病チビ無能女の七年ぶりの再会の百合。そしてグラスに注がれた洗剤。口から舞うシャボン玉。胃の中で鳴いている気がするセミ。全てがえっちだったロボ。
 最初は飲んでもいい洗剤という事でマルチ商法系のあれの勧誘かと思ったオロボけど、まさか本当に洗剤を飲む話とは思いもしなかったロボね。この時点では「性欲過剰人妻なのに話が違うな?」と思ったロボけど、その洗剤を飲むという行為と、主人公の攻めに見せかけた実は受け女が同じ様に異物を食べる事を受け入れてくれるというのが性欲爆発のスタートだったので「全然違わんかったわ。流石人妻」となったロボ。この読者が最終的に望んでいる結果を予想できない展開で回収してくる手腕は流石だと思うロボ。中々他人には真似が出来ないやり方ロボので、今後もこのトンチキ伏線回収法を武器に色んな狂った百合を書いて欲しいと思ったロボ。
 【異能】部分は【食べちゃいけない異物を食べる事で願いを叶える異能】みたいな感じロボ? 実際は自分の実力を信じる為の自己暗示の様な物ロボなんけど、それに主人公が付き合ってあげちゃったから結果的にそうなると確信してしまったって感じっぽいロボね。でも、本当は【性欲がすごい異能】の可能性もあると思うロボし、こっちのほうがロボとしては推したいロボ。高身長巨乳面倒くさいのにいざという時の行動力だけは凄い人妻の性欲がバリバリなのはとてもいいロボ。
 作風が確定されている作者さんで、魅力的なキャラの造形や短編の盛り上げ方も分かっている様なのでロボからは特に言う事は無いロボ。強いて言うなら学生時代のエロの描写も欲しかった事ぐらいロボかね。あんまりやりすぎるとカクヨムから怒られちゃうから難しいロボけど…

99:貧乏神が見える男/@aoibunko

謎の有袋類
 前回は美しい娘と母のお話を書いてくれたaoibunkoさんです。参加ありがとうございます。
 今作は、富に関する神様が見える異能を持った不遇少年が、手を差し伸べられ、でもそれを拒むというお話でした。
 主人公と同じ能力を持つ男性が、少年を気に掛けて職業体験をさせるというお話で、構成もすごくよかったです。
 最後の少年の裏切りがすごく唐突のように思えたので、これをどちらかの一人称視点で書いていくとグッと感情移入が出来て、更にドキドキしたり、ハラハラしたり読者がしやすいのかもしれないなと思いました。
 結果的に、少年を助けた男の人がすごくがんばったし、良い人だったということがわかるラスト手前の描き方はすごく好きです。
 ダークな雰囲気の作品が得意な作者さんだと思っています。ダークな作品も読者が主要な登場人物に感情移入をした方が心をズタズタに出来ると思うので読者がどうしたら感情移入をしたり、物語の世界に入り込めるのか意識すると一回りも二回りもダークさやバットエンドが映えるようになると思います。
 これからも創作をがんばって欲しいなと思いました。

謎の野草
 お金持ちは資質からして選ばれた数少ない存在である一方で、「貧乏神」は人を選ばず取り憑くし縁を切るのは難しいという設定なのですが、設定というかほとんど現実では、と思えてしまうのがとてもシビアで世知辛い話です。お金持ちのおばあ様についての描写のリアリティは私には判断できないのですが、オンラインサロンでの成功を目論む大学生のちょろさヤバさはひしひしと伝わってきて、彼に待ち受けているであろう暗い未来に暗澹とさせられました。シノザキさんに依頼する時点で彼の能力に一定の信頼があるのでしょうに、アドバイスは絶対に聞き入れられないんだろうな、と信じられてしまうので胸が痛かったです。
 シノザキさんは「異能」と良い距離感を保って上手いこと利用している「賢い」大人にも見えるのですが、人の人生は容易には変えられない無力さ、お金持ちに対しては媚びへつらって取り入らなければならない惨めさもあるので、タケルがその生き方を良しとできなかった思いも少しだけ分かってしまいます……。タケルの選んだ道も、決して正しいものではないのですが!
 第一話がタケル視点から始まったため、この作品の主人公は彼だと思って読んでいたので、ラストの急展開に少し驚きました。最後がシノザキさん視点で終わるのも、途中で主人公が変わったような落ち着かなさがありました。タケルをシノザキさんの視点で見ると「真っ黒」だった、という驚きを演出したかったのは分かりますし、ルシファーのごとく堕ちていくタケルのイメージは恐ろしくも惹かれるものも感じさせるのですが。最終話までの段階で、シノザキさん視点で(タケルの黒さについては上手いことフォーカスをずらしながら)語られる話があれば──これはふたりの物語だ、という認識を読者に与えられれば──スムーズに読めるかもしれません。

謎の機械
 目の前に黒いもやが見える家出少年が同じ様にそのもやが見える男性に拾われて自分の能力に付いて知るというお話ロボ。
 この目の前の黒いもやが見えるというのが【異能】で、男性に付いて行った事でそれが【金持ち神と貧乏神が見える異能】という事が判明するロボ。で、自分に金持ち神を付ければ幸せになれるのかと思ったらそういう事では無いらしくて、男性からいったん家に帰れと言われた事で逆上して飛び出して行ってしまうという流れロボね。
 ロボは少年が職業体験をしている最中に男性への信頼を積み重ねていって自分の味方だと思ったのに、結局最後には「家に戻れ」と敵側の発言をされたから逆上してお金を奪って飛び出していったんだと思ったロボけど、もしかしたら最初から男性のお金だけが目当てで一緒に行動していただけの可能性もあるかもしれないロボ。
 最初は少年を主とした物語かと思たんロボけど、心情の描写的には拾った男性側が主人公っぽいロボ? この辺りがちょっと混乱してしまったので、どちらかの視点に絞って書いた方が読者にも分かりやすいと思ったロボ。
 貧乏神は縁を切るのが難しいロボに、金持ち神は自分にふさわしくないふるまいをする人間からは離れるというのは凄く世知辛い物を感じたロボね。お金があっても使わないといけないってのはそれはそれで難しいと思ったロボ。

100:わたしの女/ナツメ

謎の有袋類
 前半ピックアップ5選を逆贔屓の中もぎとったナツメさんの二作目です。
 前世の記憶がある女性が、前世で想い合っていた相手と出会うという悲恋?的なお話でした。
 相手の女性と出会ったきっかけは、主人公マリの自宅で起こっている怪奇現象。
 水音や、夜添い寝してくる感触、めちゃくちゃ怖いですね。道連れを欲しがっているというのもすごい怖い……。
 除霊は出来ないけれど部屋やその人に関連する記憶を見ることが出来るという杏菜の消臭スプレー除霊も本当に気休め程度の効果だったのがすごく好きです。
 部屋を離れれば解決……ではなく、追いかけてきた水の霊は、二人が両想いだったから活性化したとかなのでしょうか? めちゃくちゃ怖い怪異すぎる……。
 一人道連れにして終わりにしてくれることが確約されていないので、杏菜が身代わりになってメッセージまで残したのに、家に帰ってから水の音がしたらめっちゃ絶望するだろうな……と考えてしまいました。
 尊い百合作品としてなのか最恐ホラー作品としてなのかどっちに集中すればいいのかわからないのでもう一歩先の結末(それこそ家に帰った後に水音がしただとか、マリさんが老衰とかで死んで来世に思いを馳せるシーン的なもの)があるとちょうど良いラストになるのかなと思います。
 王座に一度ついたことがあるナツメさんなので逆贔屓をしただけなのですが、百合は尊いし、ホラーとしてみ不気味で怖いしめちゃくちゃ良い作品でした!
 前世のアンちゃん、なのだわ口調かわいいですね。すき。

謎の野草
 大台の節目となる100作目獲得、おめでとうございます(?)。ナツメさんといえば百合、ナツメさんといえばホラー、ということで百合ホラーお待ちしていました。
 第二回こむら川の「擬態女」の印象も鮮烈ですので、主人公の認識をどこまで信じて良いのかずっと疑いながら読んでいました。前世の記憶は妄想ではないのか、アンと愛し合っていたのは本当なのか、前世の心中は「無理」がつくものではなかったのか。何よりハッピーエンドって本当ですかあ? またまたー、くらいに構えて読んでいたのですが、恐らくはそれらの疑いを呼ぶことを承知で、さらにそれを上回る展開に持っていく手腕がお見事です。読者の反応を織り込みつつそれを裏切ることができるとなると創作はとても楽しそうです。
 怪奇現象に悩みながらも、アンとの「再会」に浮かれてデート気分な主人公が微笑ましく、同時に「本当に思ってる通りだったのかな……」と不安が募るというハラハラ感を楽しませていただきました。主人公が喜ぶほど読者の疑いは深まるようになっていて、怪奇現象そのものよりも主人公がどこに行きつくかのほうが怖いお話なのでは……とずっとヒヤヒヤしていました。ハッピーエンドというのも、主人公の主観でそうなるだけなのでは!!?? と。そういう訳で主人公の挙動にばかり注目していたもので、怪奇現象が本当に恐るべきものだったという展開が(さんざん描写していたはずなのに)不意打ちになるという見事な罠になっていました。水→塩→海水→海での心中、と。怪異の源を特定していく過程もしっかり描かれていたのですが、アンとの共同作業に浮かれる主人公にすっかり意識を持っていかれていましたね……。「逃げたつもりが終わってなかった」というホラーの王道を踏襲した展開、本来なら予想してしかるべきだったのですが、読者の意識をコントロールすることで意外性の演出もできるというのは盲点でした。
 最後にアンの真意が判明し、「今度はハッピーエンドで」の意味が分かった時にはやられた、と思いました。誰の発言かということ、かつ、まったく嘘偽りがない言葉だということに、疑っていたのが申し訳なるのでした……。こう言われたら主人公も安易に死を選ぶことはできない訳で、アンの深い愛情表現かつ前世の顛末へのちょっとした「意趣返し」にもなるのですね。次こそはふたりで幸せに、が叶うと良いです。
 主人公がアンに「再会」したこと、主人公が遭っている怪奇現象が命にかかわるもので、しかもひとりを道連れに差し出さなければならないということ。この結末になるための条件が偶然に重なったという点は、読み返すと出来過ぎな感じもありました。アンがどの段階でこの結末を予想して「遺言」を遺していたのか、後から振り返ればあの時……と分かるような言動が仕込まれているとより良かったかもしれません。

謎の機械
 前世の関係とホラーを掛け合わせた女の子同士の恋愛も含めたお話ロボね。前世関連もホラー関連も百合関連もどれも耽美な所があるロボからそれぞれの要素が上手くミックスされていて面白かったロボ。
 一番最初に怪奇現象が起きている、前世の恋人を探している、その恋人の女性が目の前に居る、と、この物語がどういうジャンルなのかを真っ先に示してくれているのが読者に対して優しくて嬉しいロボし、文章量の少ない短編だからこそ細かく説明しないで一気に分からせるというのが上手い部分ロボね。消臭剤を向けるのを銃口と書く事で物騒な世界と思わせるドッキリもあるロボけど、物騒なのは確かにそうだったので結果的に違和感は無くなったロボ。
 お題である【異能】はヒロインの【物の記憶が残像の様に見える異能】で、この能力を元に他人の相談事を受けているところに主人公がやってきたというスムーズな展開ロボ。
 怪奇現象についても水のトラブルから始まり、水かと思ったら塩が付いているのが見つかり、海に心中したというのが判明するという少しずつヒントを出していく形で、登場人物と共に読者にも何が原因だったのかを察する事が出来るのが良かったロボ。
 と、良かった点ばかりなんロボけど、超々々々々個機械的に6話のベッドシーンが前世の回想と怪奇現象の元になった海に落ちた女の事を考えている内に終わってしまったのが納得いかないロボ。もっとえっちなシーンを見せて欲しいと思ったロボ。ホラーと言えば濡れ場ロボよ? 前世物も前世と比べたりして「若い肉体は~」とか思う物ロボよ? それが読めなかったのが本当に心残りロボ。講評の評価項目には関係ないロボけど、ロボはこのシーンがもっと見たかったロボね。
 最後はいい感じに終わったんロボけど、結局これで本当に最後になったのかがちょっと気になったロボね。怪奇現象ってだいたい理屈が通用しない物ロボし、もしかしたらタクシーも運転手ごと巻き込まれていないか心配になったロボ。
 一分だけでいいので、このまま長生きして死んだとか、結局短命で死んだとか、そういう一文があってもいいかなって思ったロボ。

101:演目:炎の腕(かいな)のサラマンデラ/@ dekai3

謎の有袋類
 第二回こむら川小説大賞では世界性癖カンファレンスという性的嗜好のディスカッションバトルを書いてくれたでかいさんの作品です。参加ありがとうございます。
 炎を両腕に纏わせて踊る少女が、事故で腕を失い、絶望しているところへ自分の義手を作るという女性がやってくる……というめちゃエモ百合小説でした。
 炎の能力、いいですよね。僕は炎贔屓なので最初からとてもウキウキして読ませていただきました。
 挫折、そして荒廃した毎日、この世界の制度など、さらっと説明的すぎることなく開示されていてすごく読みやすかったです。
 主人公の一人称視点の難しいところなのですが、経歴と地の文で剥離が大きいと読者が少しだけ違和感を持つかもしれません。
 まともな教育を受けていない10代の女子で、本人も難しいことはわからないと言っているので、地の文をある程度平たんにするか、地の文をそのままにして年齢を20代前半~半ばに設定するともっとしっくりくるかもしれないなと思いました。
 細かい部分で指摘するとしたらそれくらいなのですが、今作は伏線がすごい気持ちよかったです。
 拙僧は最初に出ていた印象深い人物が、今気になっているこの子でしたーという展開大好き侍なのですが、こちら見事に拙僧の心臓を打ち抜いたエモエモ百合に御座った!
 いつもと雰囲気の違う作でしたが、すごくおもしろかったです!

謎の野草
 タイトルで好きそう! という雰囲気を感じ取っておりました。企画最終日までに書き上げていただいて良かったです!
 主人公の異能が暴走する第一話、華やかで輝かしい舞台の上での惨劇、観客やスタッフとの二重の意味での温度差、そして我が身が焼ける恐ろしさと痛ましさと、どんな主人公でどんな異能の話なのかを強烈に印象付ける幕開けでした。第二話以降も、腕を失った主人公がどのように生きているか、異能が当然のものとして(少数派だとしても)受け入れられている社会がどのようなものか、彼女の日常生活の描写を通じて自然に読者に伝わるようになっていて、スムーズに世界観を感じることができました。体温の高さや汗腺の未発達さおむつの必要性、足でのタブレット操作──ディテールを重ねることで作品世界のリアリティがよくあらわされていたと思います。主人公のこの身体での自慰行為はドキドキしました……「障害」ある人に対してそういう目を向けるのは後ろめたさもあるのですが、精神的にも肉体的にも必要な行動であって、だから描写する意味もあるのだろうと思いました。
 上限ぴったりの作品ですので本来ならもっと書き込みたかったのかもしれませんし、彼女の諦めや心が閉ざされていることの表現でもあると思うのですが、主人公の心情が淡々としているようにも感じられました。例えば妃香が来ると最初に伝えられた時、かつてのファンに今の自分の姿を見られるのは屈辱であったり古傷を抉られる痛みや悔しさに心が乱れたりするのではないかと思いました。
 第一話時点の主人公についても、天才はこれくらい傲慢なのがよろしい、くらいの受け止め方をしていたので、「天狗だった」と後から明かされてしょんぼりしました。ただ、これは若さや潔癖さゆえに自罰的に考えているだけで、彼女は確かに天才だったのだろうと解釈することにしました。腕を炎に変える異能は彼女にしかないもので、彼女だけが地上に表わせられる芸術は確かに価値があるのだろう、と。なお、主人公は周囲の人たちに感謝していましたが、彼女に適切な教育や人間関係を与えられなかったのも周囲の人たちなので、彼女の才能を適切に伸ばせなかった、ともすると搾取されてしまっていた面もあるのかな、とも考えました。周囲に悪意があったというよりは、異能をどう扱うかについて社会が熟成していないという示唆でもあるのでしょうか。ひとりのアーティストを軸に、異能と社会の関わり方を色々な角度から考えられる作品だったと思います。
 主人公がダンスから離れることにしたラスト、少しもったいない……とも思ったのですが、妃香がダンス以外の場所でも活躍しているように、人が才能(異能)を発揮して輝くことができる場所はひとつではないのでしょう。燻っていた炎は消え去った、と最後にある通り、炎の異能もダンスの異能も、一番のファンである妃香の前で燃やし尽くすことができた主人公は過去の傲慢も鬱屈も綺麗さっぱりと昇華できたのではないか、と思いました。

謎の機械
 ・謎の有袋類(主催)さんが吸血鬼で氷の異能
 ・謎の野草さんがアンドロイドで歌の異能
 だったので、人間で炎の踊りの異能で書いたロボ。

102:本の虫、紙と文字の海の魚/鈴元

謎の有袋類
 第三回こむら川小説大賞では、ぬばたまの瞳、ぬばたまの心、ぬばたまの空蝉で銀賞になった鈴元さんの作品です。
 今作は二人の少年が異能を使って、人為らざるものと関わっていくお話でした。
 バリバリにピアスが空いている黒髪少年、そして学ラン、めちゃくちゃいいですね。すごくグッと来ました。共依存的な関係性にも近い二人の間で気になる事件が起き、それはシミというあやかしだった……というお話でした。
 本だけではなく、人の記憶まで食べるシミという存在の見た目は本に出来るシミに似ているとのことですが、少しだけイメージしにくかったのと、意図的なものかもしれないのですがシミ(汚れの方)とシミ(あやかし的なもの)とシミ(虫)なのか、混乱してしまったので、少しだけ混乱しました。
 縁を切る異能のマコと作った縁を利用するリノの異能は、誓約と能力がすごくよかったです。 
 登場人物がすごく魅力的でしたし、異能もかっこいいので、もし何かのスピンオフではないなら、このまま連載をしてもいいのではないでしょうか?
 ぬばたまや、怪力乱神を語るの時も思ったのですが、恋人やそれに近しい人間同士で湿度のある感情を描くのが上手な作者さんだと思っています。
 これからの作品も楽しみにしてます!

謎の野草
 活字なら中づり広告でも何でも読むのは普通のことだと思っていました……! (明記されていませんでしたが)中学生か高校生だと周囲に読書家・本の虫が少ないものなのかなあ、と少し寂しく読んだのですが、ラストで烏ケ辻さんが読書で膨大な情報を持っていたがために大事な記憶を失わずに済んだ、という展開があってなんだか安心しました。読書は身を助ける……。
 それぞれ異なる異能を持った少年ふたりの怪異対峙のお話でした。対象の記憶から付喪神を作り出す鞠乃と対象と世界との「縁」を切り消滅させることができる真琴と。異能の発動の描写が格好良かったし、探索と戦闘で役割分担ができている、バランスの良いバディでした。異能持ち同士という共通項ゆえでしょうか、ふたりの距離感が近くてBL・ブロマンスの気配も感じて美味しくいだたきました。
 鞠乃と真琴のどちらが喋っているのか、どちらが行動しているのか悩む場面が多々ありました。地の文では苗字で呼びつつ、会話では名前由来の略称で呼んでいること、ふたりの言葉遣いがあまり変わらないこと(同年代の少年だから当然でもあるのですが)、外見や性格の掘り下げの描写が少ないこと、がその理由ではないかと思います。読み進めれば、好奇心旺盛な鞠乃に対して慎重な真琴、という区別はついていくし、異能が何よりの個性にもなっているのですが、前半を読んでいる間は何度も冒頭に戻ってどちらがどちらか確認してしまいました。女性的な名前に長髪ピアスと、鞠乃の背景には色々な設定がありそうですし、彼と一緒にいる真琴にも色々な思いがあるはず……と思いますので、読者が彼らに興味や愛着を持てる情報は早めに&たっぷりと出していただくのが良いのかと思います。
 この世界での異能や怪異の活動頻度は不明ですが、連作短編としてシリーズ化もできそうな設定・世界観でした。烏ケ辻さんもいずれふたりの異能に気付いたりすると楽しいかもしれません。それぞれのキャラクターがもっと分かるともっと楽しそう……! と思いますので、世界を広げていっていただきたいです。

謎の機械
 異能を持った少年二人が学校で遭遇した怪奇事件の話ロボね。
 作品全体に漂うミステリアスな雰囲気とやけに距離感が近い真面目っぽい男子と長髪で舌ピまでしている不登校の少年。そして本の虫の女の子。なんとなく月刊誌で連載されている妖怪物の長期連載の漫画の一話という感じがしてワクワクしながら読んだロボね。小説を書いている人類で妖怪物が嫌いな人類はいないと思ってるロボ。ロボは人類じゃなくて機械ロボけど。
 【異能】もオシャレでとてもいいロボね。主人公が【人に見えない物を斬る刀と縁を斬る刀と小さな鬼を使役する異能】で、相方が【対象を基点とした切符を発生させ、それを切る事で霊的な力をあるいは呪いという回路を走らせる異能】というコンビ。この説明文だと詳しい効果が分かりにくいロボけど、それが逆に作中で行った事以外にも異能の応用で可能だという事に繋がると思うロボ。これもワクワクする設定ロボよね。紙虫だけじゃなくてもっと色々戦って欲しいと思ったロボ。
 後、これはわざとというかそういう作風なんだろうと思うロボけど、短文が多いのと会話文が多い影響でパッと見て主人公と合い方のどちから喋っているのかが分かりにくい所があったロボ。ネット小説ではこんな感じの短文が多めの方が読みやすくていいと個機械的に思っているロボので短文部分はそのままにして、特徴的な語尾を付けるとか、いっその事「」『』で変化を付けちゃうって方法もあると思うロボ。
 まだまだ解決していない謎がいくつか残っている感じっぽかったロボし、図書委員の子も含めて今後どうなっていくのかが読みたい作品だったロボね。伝奇物として楽しく読めたロボ。

103:カガノミヤ・リンの遺産/こやま ことり

謎の有袋類
 触れた相手の心情を反映させた音色が聞こえるという異能BLを描いてくれたこやまさんの二作目です。
 超美形アンドロイドと、それに仕えられる少年のお話でした。
 主従モノ!とのことなのですが、僕は主従モノのセオリーがよくわかっていないので読み取れていない部分があると思います。すみません。
 多分なのですが、主従していればお約束として無条件で相手を好きであるみたいなものがある気がするのですが、そういうセオリーに慣れていないので、ミカエルが何故、ロボット三原則という自分の根幹を為す破れないルールを一度だけしか使えない機能を使ってまで破るほどレンを好きなのかという説得力が足りなかった気がします。
 レンの人柄が良いとか、信頼関係を築いていたのならわかるのですが、レンはミカエルに隠し事をしている上に、年若い少年の身体を奪って新たな生を謳歌しているので、人格的に優れているというよりはマッドサイエンティストめいている気がします。
 主人公ならば正しくアレとは思わないのですが、ミカエルがレンに対して創造主よりも特別に思う理由を書いてくれるとぐっと感情移入できたと思います!
 ミカエルの美しさはすごくよく伝わってきたのと、無表情慇懃無礼男はすごく好きなので楽しく読むことができました。
 今回はセオリーを知らない人間からこう見えたよという指摘が多くなってしまったのですが、多分、セオリーがわかっている人には魅力的なヒーローと、主人公のやりとりにキュンができるのだと思います。
 自主企画を利用して、自ジャンル以外の人からどう見えるのかを知るのはマジで便利な使い方だと思うので、どんどん利用してつよつよ作家になってください!

謎の野草
 一作目は青春BLで参加されたこやまさん、二作目は主従ものSFで、一作目と同様貪欲に「好き」を追求されているのが素敵です。
 人間様なのだから、アンドロイドがどれほど美しくても高性能でも完璧でも堂々と奉仕を受け入れていれば良いところ、勝手に劣等感を抱いてしまうのが「人間らしく」て、レンの葛藤を微笑ましく読みました。ロボット三原則を冒頭に置いたうえで、三原則に反する行動を破ってまで主人との絆を主張するミカエルもアンドロイドを越えた魂らしきものが生じているようで、最初はこれが「異能」なのかな、と思いました。が、二話でどんでん返しが遺されていたのですね。一話の段階でアンドロイドとサイボーグの対比に触れられていたため、人間の範疇とは何か、に踏み込むお話でもあるのかな、と思っていたところ、そこには触れないで終わるのかな? と思いかけたのですが、二話の大オチへの布石にもなっていたのですね。読者が自然に情報を咀嚼できるように開示のペース配分、助かりました。
 物語の着地点としては、レン=リンもミカエルもそれぞれの器、造った/造られた地点から変化を続けているということで、魂の進化の可能性を感じる爽やかな「異能」だと感じました。ただ、レン=リンであることを踏まえると、一話のモノローグでミカエルのことを知らなさすぎなのと、リンの業績を完全に他人事として語っているのが叙述としてはややアンフェアかと思いました。モノローグでは「~ということになっている」などの表現で含みを匂わせたり、あるいはレンとリンとでは別人格になりつつあるということなら、二話でそのことに触れたりしていただけると納得感があるかと思いました。
>「人間に危害をくわえちゃいけないっていうプログラムは精神攻撃には関係ないのかな!?」
 このツッコミが好きでした。ミカエルに手も足も出ないうえに口でも勝てないのが良く分かりますね……!
 誤字脱字については最終日の駆け込みなのもあってある程度仕方ないこと、後でゆっくり直していただければと思うのですが、二話の「その身体に移植したのは――鏡宮麟の脳。」で人名が誤変換されているのは目立っていたので一応この場でお伝えしておきます。

謎の機械
 アンドロイドやサイボーグが当たり前になっている世界で天才科学者の遺産を相続した事で襲撃を受ける様になってしまった少年と、その天才科学者が作った護衛兼世話係兼番犬兼従者の最強アンドロイドの話ロボね。
 この設定だけでロボはオイルがゴクゴク飲めるので五億点。
 そしてアンドロイドが予めプログラムされていた枷を外す機能を主人を叱る為に使用した部分で八兆点。
 合わせて八兆五億点の作品だったロボ。
 正直好みに当て嵌まっている作品すぎて正当な評価が出来ないので八兆五億点の作品という事でお茶を濁したいロボけど、一応講評はするロボ。
 まず【異能】の部分ロボけど、これは二話目の最初に書いてある通り【鏡宮燐が天才過ぎる異能】という事なんロボろうけど、作中ではその天才っぷりが余り前に出ている感じがしなかったロボで、異能の印象が弱い感じがしたロボ。
 作品の主になる部分が少年がいかにアンドロイドの事を想っているかと、アンドロイドもどれだけ少年の事を想っているかという内容だったので、結果的に博士が天才だろうが世の中を変化させるアンドロイドを作っていようが二人の間には関係無いという状態になっちゃってたんロボね。短編だから登場人物を増やすのは難しいロボけど、他の科学者が自信満々に作った物が天才科学者が残した物と全然勝負にならないみたいな対比があると天才科学者の異能さが映えるんじゃないかと思ったロボ。サイボーグの襲撃があった時は対戦車ミサイルなら勝てて当たり前という感じがするので、異能さの表現としてはやはり弱かった感じロボね。
 この時の少年のセリフや不自然なまでの似ている名前の伏線から後半で分かる衝撃の事実や、主従関係の巨大感情なんかはとても良かったロボから、そこが良すぎたために異能部分が弱くなってしまったという感じだと思うロボ。
 これはもう作者の作風の問題なので治すのは難しいと思うロボ。もしもお題が「主従関係」だったらぶっちぎりで上位に来る作品だったロボ。

104:終末世界とギャグボール/ロッキン神経痛

謎の有袋類
 ロッキンさんが参加してくれました!ありがとうございます!
 やっぱりギャグは最強なんじゃ!
 神妙な顔をしていたと思ったら急なギャグ時空へ持ち込んで全てを豪腕で解決するお話でした。
 そうだよこういうのでいいんだよ!がはは!と力を抜いて読めるのですが、話はまとまっているし、誰が何をしているのか一度読めばわかるのは流石の技量だなと思います。
 関西弁のヒュドラと意気投合して盛り上がる農夫めちゃくちゃ好きです。
 youtubeのURLをそのまま貼る力業にも笑ったのですが、曲タイトルか仄めかす的なサムシングも書いてあると、自主企画最終日には優しいなと思いました!
 ギャグはシリアスに強いというお約束を上手に調理した面白い作品でした。
 ロッキンさんが書くサイバーパンクやホラーも好きなので、今後も新作期待しています。

謎の野草
 いわゆるジョークというような意味でのギャグは「(笑いで)息を詰まらせる」という意味であって、ギャグボールのギャグと同じだそうですね。そんなことを思い出しました。世界が破滅に瀕し、辺境の村にまでも魔の手が迫る絶望の中、それを救うのがしょうもない異能だった……というギャップを楽しむ作品だと思いました。
 魔術師たちが異世界から仰々しく持ち帰ってきた「ギャグ」の「異能」、「無から有を生み出し全ての理をねじ曲げてあらゆる運命に逆らうことの出来る過去に例を見ない偉大な魔法」は、すなわちすべてをギャグ時空に引きずり込んで笑いで解決できる、ということですよね。何となく察することは十分できるのですが、ギャグの数々が展開の中にあまりにぬるっと入ってきていてどこからどこまでを笑って良いのか少しだけ困ったので、「これはお笑いの能力です」というのを作中でも宣言しつつ、「これはギャグです」という箇所を明示していただけると安心して楽しめるような気がしました。「俺は今何を……」と我に返る描写を挟んだり、「一膳の塗り箸を作り上げた」の描写で「塗り箸」に傍点を振ったりしてあると、読者としては「なるほど異常事態なんだな」と分かると思います。文章だと作者と読者は映像を共有することはできないし、思い浮かべる喋りのテンポも人それぞれなので、丁寧にケア&フォローしていただけるとイメージの齟齬が減らせるかと思います。
 自爆しようとした大柄な魔術師さんが助かって心底ほっとしました。「アガスティアの父~」という祈りの言葉がこの世界の歴史と宗教を感じさせて良いですね。ギャグ短編に世界の深みを感じる要素を入れてくる贅沢さ、素敵だと思います。

謎の機械
 異世界から竜頭のモンスターが侵攻してきて滅びかけている世界で、その異世界へ旅だった筈の王立魔術学院の魔術師達が別の異世界から持ち帰った反撃の切り札の宝珠を誤って飲んでしまった男性が主人公のギャグ小説ロボね。そう、ギャグ小説。そういうジャンルって意味じゃなくてギャグの小説。
 最初は濃厚なファンタジー小説の様な感じで物語が進んでいくんロボけど、主人公が上記の通りに「ギャグの宝珠」を飲み込んで【無から有を生み出し全ての理をねじ曲げてあらゆる運命に逆らうことの出来る過去に例を見ない偉大な魔法であり、もはや神のごとき人間になる異能】に目覚めたら、そこから作風がガラっと変わってギャグマンガみたいな物になってしまうんロボ。キャラクターもギャグ漫画のキャラみたいな反応をしてしまうし、攻撃方法もダメージも展開もギャグ空間になったロボ。それも月間少年ガンガン辺りのギャグ漫画の空間。これは発想の勝利ロボね。何に勝ったのかは知らないけれロボ。
 異世界から攻めて来ている異人の王もシーンの切り替わりの内に倒しちゃうロボし、首だけになってもその時の再現コントをしちゃうし、途中でyoutubeのルージュの伝言のURLを貼っちゃうし、やりたい放題だったロボね。
 この作品はこれで完成しているので、これ以上こうしたらどうとかいう事は無いロボ。優勝ロボ。大賞とか金賞とかじゃなくて優勝ロボ。
 ただ、どうしても気になるのは、なんでこの内容の作品でジャンルがラブコメなんロボ? もしかして異人の王がメスとかロボか? そうなると主人公は既婚者だから不倫になるロボね。不潔ロボ!

105:玉骨の翼/鍋島小骨

謎の有袋類
 うわーーーーー!五億点!もうーーー!
 推し作家の鍋島さんが参加してくれました。ありがとうございます!
 最初は絵本のような雰囲気なのですが、徐々に視界が広がっていきます。謎に思いながら読んでいると、視点が切り替わり、そして徐々に物語の輪郭が明瞭になっていく……というギミックのある作品です。
 構造的にはちょっとだけ、第三回こむら川小説大賞の「糸の震え」にも近い気がするのですが、世界観は全く別です。
 最終日に読むには少しだけ構造が複雑で、何度か咀嚼のために読み直したいなとお見ました。
 仮面の下り、そして岬で待つ存在周りが少しだけ「どうだったっけ?」と読み直して確認したくなるポイントでした。
 ですが、魂の片割れ、ずっと忘れなかったもの、託した気持ち、そして継承されていくシステム……と好きな要素がてんこもりでした。
 絵本のように挿絵と一緒に読みたい作品です。靴の下り、めちゃくちゃ好きでよかったです。

謎の野草
 お待ちしておりました。いつも美しい作品で私の心を震わせたり筆を折らせたりしてくださる鍋島さんの作品です。
 とある世界での死後の世界、魂がどのように輪廻していくかを描いた作品だと解釈しました。森の中でさまよう「わたし」の、ルーティンに従った日々(時間の経過も非常にあいまいな世界なのですが)が少しずつ変化し、それに伴って読者の理解も広がっていくという、少しずつカメラがズームアウトしていくような感覚が心地良くうっとりとさせていただきました。目隠しをされているような暗さや不確かさから世界観が明らかになり、「わたし」の行動の意味が分かっていく過程、読者のほうも導かれていくようでした。「わたし」が何を食っているのかとても怖かったのですが、その意味が明かされると大事なことでした……!
 炭色の森、人の残骸(=玉骨石?)に満たされた白い谷、残骸の塔──全編を通して幻想的な絵画のような世界が美しいのですが、圧巻は船の「羽化」の場面でした。翼を生やした船が羽ばたき、谷がどよめく瞬間、恐らくは人の感覚では何百年、何千年に一度という待望の瞬間なのでしょう。静謐な世界が魂の(恐らくは歓喜の)声で満ちる瞬間は壮大な命の営みを感じさせて、ただただ感嘆の息を吐きました。
 渡し守の変化や船匠の代替わりについても薄々予感していた通りで、船匠が呟いた名前が最後の再会に繋がるところは、伏線回収の気持ち良さと感動が同時に込み上げて泣きそうになりました。片割れになるような存在がいることが渡し守や船匠になることの条件なのかな、と考察します。最後に片割れと会うことができるのは、恐らくは長い年月を彷徨わなければならないことへの、創造主(的な何か)からのご褒美なのかもしれません。
 作品の満足感は非常に高かったのですが、お題の異能については要素がやや薄かったかもしれません。この世界では理として「こう」なのであって、個々の魂が持つ異能には当たらないのかな、と思ったからです。作品としては一分の隙もなく綺麗で大好きなのですが、お題ありの企画での講評として、ご指摘させていただきました。

謎の機械
 不思議な森で人の残骸を食べては谷へと運んで棄てる死鬼と、棄てられた骨で死者が旅立つ船を作る船匠の寂しい感じがする詩の様な作品ロボね。寂しいと言っても最後はハッピーエンドになるので安心して読んで欲しいロボ。
 ちりばめられたピースを集めつつ最後まで読む事で謎が判明するタイプの作品で、ピースについても特徴的な名詞で何度も文中に出て来るので集める事は難しくないロボね。どんな世界で誰が何をしているのかが読み進める度に判明していくロボから、思わず一気に読んでしまう作品だったロボ。
 とても素敵な雰囲気や世界観や循環を持つ作品だったロボけど、この死鬼と船匠になれる者が誰でも可能なのか選ばれた二人出ないと不可能なのかは分からなかったロボから、その点でお題である【異能】に付いては弱く感じてしまったロボ。異能自体は死鬼が【死者の魂を溜め込み、躯を集める異能】で、船匠が【死者の船を作る異能】だとは思うんロボけど、最後の描写からして何人も死鬼や船匠と同じ異能を持った者が居た様ロボし、死鬼本人も「他にも自分の様な者が居る」と言っているので特別感が薄れてしまっているんロボね。
 気になったのはこの異能の部分だけで、それ以外は死後でも結ばれた二人は再開することが出来るというのをこんな素敵な世界観で現しているのが凄く良かったロボ。もしかしたら生前に独身だった者は船の材料にしかなれないという残酷な事実が隠されているかもしれないロボけど、愛し合う二人がメインだからそこは仕方ないロボね。

106:地獄から/桜舟 一嘉

謎の有袋類
 第二回こむら川小説大賞では、純白の幼児、リリオネル。で参加してくれた桜舟 一嘉さんです。ありがとうございます!
 地獄の王が妖精の子供を精霊王へ返しに行くお話でした。
 世界観が作者さんの中で完成されていて、多分、楽しんで書いたことが伝わってきます。
 ですが、初めて読む作品なので、自分には下層が出来るということが、なんらかのネガティブな要素なのかな?とは思ったのですがわかりませんでした。頻繁に出す言葉は作中で説明をしてくださると助かります。
 桜舟 一嘉さんは自分の作った世界の一場面を切り抜くことが得意な方だと思っているのですが、初めて作品を読む方に対してはかなり不親切になっているので、一度「初めて自分の作品を読む人」へ向けて作品を書いてみることを意識してくれたらなと思います。

謎の野草
 天界があって地獄があって、階層状になった世界のそれぞれに管理者である「王」がいる──という壮大な世界観の中でのささやかな一コマを切り取った作品です。階層によってまったく違う光景が広がっているらしいので、ひとつの世界観で色々なお話を広げられそうですね。地獄を支配するのが美形の双子の兄妹というところ、視覚的にとても好みでした。
 物語としては、フレイディンの紹介だけで終わってしまっている感じがあるので、もう少し事件や動きがあると短編を読んだ、という満足感になるのかと思います。本作中で出た情報だけでも、彼が地獄に堕とされるような冤罪を着せられて名誉回復を望まない理由や、階層が増えるという彼の異能(だと思うのですが、それすらも本作中だけでは自信を持って断言できませんでした)の詳細が気になったまま終わってしまいましたので、その辺りを読者に紹介していただく気持ちでお話を広げていただけていたら、と思います。
 フレイディア、強気な口調や態度と裏腹に、兄の刑罰に付き合ってくれる優しい子でもあるのだと推察します。とても細かいところなのですが、地獄の魔王の妹で大変な美少女がゴムで髪を括っているのはとても残念なので、そこはリボンにして欲しかったと思いました……!

謎の機械
 地獄界や天界や精霊界の様なファンタジーの空間が魔法エレベーターによって繋がっている世界での地獄王や精霊王のほのぼのとしたお話ロボね。今はほのぼのしているロボけど、過去にあった事は多分シャレになってないロボし、なんだかんだで裏では殺伐とした事を考えていそうで貴族社会っぽいなぁと思ったロボ。
 情景の描写が上手くて凄く絵になるシーンの連続だったのは面白かったロボ。地獄界と精霊界が全く違う環境なので地獄王が歩くとそれだけで影響が出るというのも草花には申し訳ないけど絵になるロボね。作者の頭の中に描かれた光景を文章に起こして、それを読んだ読者の頭の中に伝えるというのが上手いんだと思うロボ。ただ、それだけに絵として頭の中に浮かびにくい情報が唐突に出てきてしまって居る感じもしたロボね。
 その階層の属性に近い魔力を出さないとそこに行けないというエレベーターがある事や、階層が何らかの条件で比較的簡単に増える事や、地獄王は呪いを使える一族だったという事など、情景の描写と同じ様に設定も次々と現れているロボから、読者がその情報を咀嚼するのに一旦そこで止まってしまって文章を読むテンポが途切れてしまうという感じがしたロボ。
 【異能】については地獄王の妹が【呪術使いの異能】なんだと思うロボけど、この設定も唐突感があったし、その呪いを使用しているというのも最後にしか分からなかったロボ。
 面白くも美しい世界を作る事や、その美しさを伝える事はとても上手かったので、いっその事、キャプションに書かれている「何千階層もある比較的大きな世界」と書かれている箇所にある程度の情報を追加してもいいんじゃないかと思えたロボ。そうすれば読者が詰まる事無くするすると読めると思うロボし、作中で細かい説明をして世界の美しさに野暮な物を入れなくて済むと思うロボ。

107:灰色の継承/宮塚恵一

謎の有袋類
 隔ての空を書いてくれた宮塚さんの二作目です。
 かつての恩人を追いかけている男性のお話でした。
 友人の死を目の当たりにしたことがきっかけで、なにかが見えるようになり、それに苦しんでいた自分を救ってくれた女性である結川さんと主人公。
 恋愛というよりも男女バディものに近いイメージでした。こういう二人いいですよね。
 なのですが、物語の開幕時点では結川さんは行方不明になっており、最後でも結川さんは見つかっていません。
 ヤバいモノに取り憑かれている少女に、かつて自分が結川さんに奢ったカツ丼を食べようと言って終わる長期シリーズの一話目のようなお話でした。
 物語の大部分がモノローグになっていること、結川さんを追っているけれど結川さんに繋がることはほぼないことから、なんとなく消化不良が多いように思えました。
 一万字規模の作品だと、主人公と結川さんが物語を解決したけど、結川さんがいなくなる……のような内容で、エピローグで結川さんの面影を探して灰色のジャケットを着た霊を追っているみたいな構成でもいいかもしれないなと思いました。
 連載の一話目としてなら、気になる引きと、登場人物の紹介としてめちゃくちゃ良い出来だと思います! このまま連載してもいいのでは?
 連載の一話目と、パイロット版としての読み切り短編、どうちがうのか言語化するのは難しいのですが、どうすれば短編として「終わり」の納得度が高いのかなど意識をすると更に強くなれるのではないでしょうか?
 長編も短編も色々チャレンジしていてすごいなと思っている作者さんの一人です。これからもがんばってください。

謎の野草
 一作目は透明感のあるSFで参加された宮塚さんの二作目です。ストレートに「幽霊的な何か」が見えてしまう異能を持った主人公のお話でした。
 霊能者的な仕事をしている主人公が「彼女」を探しているらしい──というところから始まり、「普通の人には見えない何か」との距離感を描いた作品だと受け取りました。主人公の思考に同調するように、「彼女」との出会い・思い出を通して本作における「異能」とは何か、主人公の動機が何なのかが読者にもスムーズに伝わるようになっていたと思います。彼が思い出すところの結川さん、最初は面倒そうだったのに主人公が傷害犯になるかどうかの瀬戸際では助けに入ってくれたり、カツ丼はそれへのお礼の意味もあったはずなのに「異能」に目覚めてしまった主人公の教師役を買って出てくれたりと、優しく漢気ある人柄がよく伝わってきました。主人公の彼女への思いは恋愛未満のものだと思うのですが、これ以上発展する余地がないからこそ、終着点を見つけるためにも探している面もあるのかな、と感じました。トンネルで出会った霊が灰色のジャケットを着ているように見えたとの記述がありますが、彼の結川さんへの思いがそのように見せているということなのかも、とも思います。
 たとえ彼女の行方は知れずとも、結川さんがしたのと同じように──という主人公の心の持ち方が伝わる、希望の持てるラスト──だと思ったのですが、廃トンネルの奥にいる子供をどう解釈して良いか戸惑いました。そんなところにいるのだから幽霊だろうと思ったのですが、手を繋いで帰っていく描写からすると、生きている子供なのでしょうか。主人公が廃トンネルを訪ねたのは偶然のようだったので(子供を探して欲しいという依頼ではなかった?)、この子はいったい何者なのかが少し怖かったです。

謎の機械
 自分に憑いていた友人の霊を除霊して貰った事から【幽霊の様な物が見える異能】に目覚めてしまった主人公の話ロボね。
 そして、その異能に目覚めてしまった除霊の時の女性と師として活動していたけど、女性が行方不明になったから全国を飛び回って探して、外見が似ている幽霊が出るという廃トンネルにやってきたという流れロボ。恩人でもあり師でもある女性が幽霊になってしまっているのかと思いきや、似ているだけで別人だったのは良かったのか悪かったのか…
 霊能力者物のコンビ物として現在と過去の場面を行き来する長編作品の第一話という感じがして今後の展開が気になる感じなんロボけど、そう感じてしまうが故にこの話だけでは綺麗にオチていないという印象と受けてしまうロボ。
 主人公が異能の目覚めてそれを生業としているという主人公の紹介は抜群で、支障とは違う除霊の仕方をしているのかというのも分かるロボ。でも、このトンネルにどうして子供が居たのかとこの子供が人間なのか霊なのかという事や、結局行方不明の女性がどうなったのか分からないというのが次回へ続く伏線に思えてしまい、いい話ではあるんロボけどスッキリとはしない終わり方をしていると感じるロボ。なので、第二話で子供の事が判明し、師匠の行方を捜しているというのが物語全体の大目標の長編作品の一話という感じがしてしまうんロボよ。
 話が終わった後の事を想像したくなる短編というのは勿論あるロボけど、ロボは出来れば短編は短編で話を終わらせて欲しいと思っているロボ。物語の主軸では無い謎はそのままでいいと思うんロボけど、この物語の主軸だろう謎の部分は最後までに判明して欲しかったロボね。文字数に余裕があったので、この話のその後の話としてエピローグを作ってそこで語っても良かったんじゃないかと思ったロボ。

108:あなたのことはお見通し/綾繁

謎の有袋類
 第二回こむら川ではサイバーチックな発明が目立つ探偵VS怪盗もので参加してくれた綾繁さんです。ありがとうございます。
 今作は神様から異能を授けられレスバで禁じ手を使ってくるヤバオタク VS 異能はないけれど相手の心理を読んでワナにかけたアイドルという構図のお話でした。
 こう……ねちっこいリプを頻繁にするアイドル……ワナに嵌めるためとはいえ大丈夫? もうギャラリーがいたのレスバで獲得したフォロワーなんですかね。
 個人的な好みを言うと、マジでしょうもないたまごアイコンのフォロワー数もフォロー数も1桁だったけど主人公とレスバする内にフォロワーが増えていったとかの方が自然かも?と思いました。
 お話の内容は、なんとなく怨み屋本舗を思わせる因果応報スカッとジャパン!みたいなテンションですごく読みやすくて爽快でした。
 レスバした相手との場外乱闘が話題になりがちな昨今ですが、いろいろ大変ですね。
 お互いにピラニアの生簀でタップダンスしないように生き残っていきましょう!
 また新しい作品を書いてくださるのをお待ちしてます!

謎の野草
 こ、これは確かに便利といえば便利だけどこの異能を欲する人って──と思っていたら、冒頭で見えた情報以上にダメな人だったのでとても納得しました。SNSでの煽り合いが人生のすべてだという人、幸いにして私の観測範囲にはいないのですが、きっと実在するのでしょうね……。降って湧いた異能を振りかざしてSNSバトルに専心する主人公の姿はドン引きのひと言なのですが、反面教師的に良くない人物として描いているのだろうと察しましたので、暴走する様子を高みの見物させていただきました。物語のお約束として、手痛いしっぺ返しがあるのがほぼ確実と見ていましたので、ある意味安心して眺めていた感じがあります。
 展開も文章も勢いがあって読みやすく、SNSで肥大化・暴走する自意識への風刺的な読み物として楽しませていただきました。煽られた・罵倒されたと認識していた主人公ですが、立場を変えれば議論やたしなめの範囲内だったところ、思えばそれほど難解な語彙でもなかった裏アカからの難詰を「小難しそうな言い回し」と評する辺りで視野の狭さも認識の歪みも十分暗示されていましたね……。主人公の渾身の嫌がらせもリア充にはさしたるダメージもなく、頼みの「異能」も、それに頼らずとも似たような結果を得ることは十分可能だった、という落ちは皮肉が効いていてとても良かったです。千里川瞳、最初は正義厨的な人なのかな、とも思ったのですが、もっとずっと上手でした。Dabetterという、SNSの本質を突いたようなパロディのネーミングも好きです。
 少し気になったのが、HumanBook経由で友人知人のDabetterアカウントを見つけたようにも読めた点です。「彼らが書き込んでいるDabetterの方を覗いてみれば~」の「彼ら」とは、多分HumanBookで充実した人生をひけらかしているような奴らは、くらいの意味だと思うのですが、一瞬、「吐き出し用のアカウントは実名SNSには紐づけないよね……?」と引っかかってしまったので、表現を調整したほうが良いかもしれません。

謎の機械
 SNSで言論バトル(という名の小学生同士の野の知り合いに近そうロボ)をしている男性がヒートアップしすぎて罠にかかってしまうというお話ロボね。昨今のSNSの状況的に有り得そうな話でニヤニヤしながら読めたロボ。
 【異能】は突如寝ている間に授けられた【SNSの投稿を見れば本名と住所がわかる異能】で、ぶっちゃけこんなの脅迫にしか使えないじゃないかロボと思っていたら実際に脅迫にしか使わず、プリペイドカードを使って物を送る嫌がらせぐらいにしか有効活用出来ない小物主人公なのが良かったロボ。
 使いようによっては世界規模で迷惑をかけれる異能ロボのに、使い道はSNSでバトってる相手に脅迫してレスさせない様にして勝利宣言をするだけという。それ、ボクシングだったら試合前に相手のスキャンダルを発覚させて不戦勝してチャンピオンになったみたいな物ロボよね? それでいいロボか? 本人はいいんロボろうけど…
 そして因果応報と言うかSNSで暴れていれば同じ様な厄介なアカウントに目を付けられる物で、アイドルをしながらSNSで他者を煽っていい気持ちになっている女性に絡まれ、今まで勝負の履歴から何らかの方法で住所と氏名を獲得して現実に嫌がらせをしていると判明してしまい、逆に罠をかけられて掴まってしまうという流れ。わざわざ気に入らないSNSの相手を破滅させる為に偽の住所を作ったり弟を使って男が居ると思わせる投稿をするアイドルも大概ロボね。もっと他の事にお金を使ったらいいと思ったロボ。
 最終的に男が持っている異能も使い方から考えれば他の人もやろうと思えばやれる程度だったというのが最後まで男の小物さの証明になっていて良かったロボ。
 異能がどういう物かというのが直ぐに分かったり、この主人公痛い目にあってくれないロボかなーと思っていたらちゃんと痛い目に合ってくれたりと、こうなればいいのにと読者が思う通りになる良い短編だったロボ。
 最後の話だけ急にアイドル目線になってちょっと驚いたので、その部分だけなんらかのフォローがあるといいかなと思ったロボ。そこが気になったぐらいで、後は因果応報物として楽しく読めたロボ! ネットバトルは不毛ロボよ!

109:春の香りの櫻子さん/不死身バンシィ

謎の有袋類
 レッツバンシィ!第一回目の時の肉弾戦車珠美から僕はまだ解き放たれていません。
 第二回こむら川ではゾワッとする人間劇を描いてくれたバンシィさんです。参加ありがとうございます。
 これ、種明かしのターンがすごく爽快でよかったです。実は主人公は盲目だったので香りや音の描写が多かったんですね。カチカチカチっとギミック同士の歯車が噛み合った爽快感がすごく気持ちよかったです。
 僕が察するのが下手なのもあるのですが、もう少し目が見えないですよアピールを露骨にやってしまっても案外読者は気が付かないかもしれないな……とも思いました。
 具体的には「舞い散る桜の花びらが、黒板を書き写す時に多少邪魔になるかもしれないが」の部分なのですが、ここに「僕じゃ無ければ」とあるだけで、後半に出る脳汁が三倍くらいになる気がします。
 第四話で「尺足りるかな?」と心配になったのですが、思い切りの良い内容の取捨選択と展開でギュッとお話をまとめたのはすごい腕力だと思いました。
「用件はお前ら一人残らずボコボコにして櫻子さんを連れて返って夏休みを謳歌する、以上だ。全身血塗れになりたくなければさっさと退け」
 ここめちゃくちゃ好きです。
 アツい口上シーン、やはりテンションがあがりますね。こういう少年マンガ的なノリは最高!となる素敵な作品でした。

謎の野草
 読み終えた時、真っ直ぐに冒頭に戻って読み返しました。終盤に判明した某情報に「うそぉ」となったからですが、右近君の能力が卓越しているからこそなのですが、嘘も矛盾も違和感もない描写になっていることを改めて確認し、驚き感嘆しました。櫻子さんが桜に「見えた」と読者が認識させられたのは櫻子さんと右近君の異能が合わさってのことですし、振り返れば右近君の櫻子さんに対する言及は聴覚や嗅覚が多かったのも伏線ですね……。読者に気付かせないままどんでん返しを仕込む手腕、そういえば外見には全くふれられていないのに、櫻子さんの優しく闊達な姿が自然と浮かぶ描写の妙、いずれもお見事でした。右近君のほうも何かしらの異能持ちだということは察せられたのですが、その実態には気付けなかったので、そうきたか/そうだったのか! という驚きを心地良く楽しむことができました。
 すべてが明かされてみると、香りに特化した櫻子さんの異能は右近君にはとても効くんだな、ということがとても納得が行きました。「無難」を心掛けている彼が、彼女のために出過ぎたような行動をとったのは(カレーの件)、単に女友達への好意と解釈して青春だなあと微笑ましく読んでいたのですが、目で見える以上に彼女の内心を感じ取っていたであろうこと、自らの境遇と彼女のそれを重ねた共感もあったであろうことが分かって切なくなりました。この生い立ちで人の心を慮って誰かのために行動できる右近君、とても優しい人だと思うのです。櫻子さんの心は解き放たれたし右近君の世界は広がるし、とても幸せな出会いでした。周囲の人たちともいっそう仲良くなれると良いですね! まさしく春の桜のような、温かく優しく綺麗な物語でした。
 気になったのが、二学期の終了後に夏休みが始まる、との記述です。一般的な日本の学校では一学期の後に夏休みのはずなので、時間が数か月飛んだのかと戸惑いました。単純な誤記かもしれませんが、もしも特殊な学期制度を想定されていたのでしたら説明が欲しかったです。

謎の機械
 込み入った事情で遠方から転校してきた男の子と、転校先で出会ったまるで桜の樹の様な女の子の、異能ボーイミーツガール物ロボね。
 最初はこの女の子がクラスメイトから腫れ物の様な扱いをされている感じがしたロボから、正体が印象そのまんまで桜の樹が人間化した姿で、それが枯れないようにみんなが気を付けて管理しているのかと思ったロボ。「〇〇ちゃん係」みたいなのを日替わりで担当しているみたいな?
 実際はそうじゃなくて近寄りにくかっただけみたいロボね。安心したロボ。
 その近寄りにくい部分や男の子が桜の樹と勘違いしてしまった部分が女の子の【異能】の【体から好きな匂いを出せる異能】で、桜の香りをさせていたから桜の樹と勘違いしてしまったし、クラスメイト達がなんとなくお花見気分でお昼ごはんを女の子の周りで取るようになっていたんロボね。
 そしてその事実を突きつける為に用意されたインドカレー。実はとある宗教の御本尊みたいな扱いをされていた女の子。秘密がバレれた事でぐっと近づく男の子と女の子。このままグッドエンドに向かうと思われたらまさかの宗教組織に誘拐される女の子。それを助け出す男の子。と、ほのぼのしただけでは終わらないエンターテイメントボーイミーツガールで凄く面白かったロボね。
 最後がちょっと駆け足だった感じロボけど、規定文字数ギリギリなのと最初のほのぼのとして女の子の心を解きほぐすシーンのほうが重要なので仕方ないロボ。これは何回もこの文字数で書くという事を繰り返さないと分からない物ロボからね。
 後、本人も男の子も女の子の異能で出る匂いを任意で出せる物と認識してるロボけど、カレーを食べた時にカレーの香りを出してしまっているのは任意じゃなくて勝手に出てしまった物っぽいロボよね? となると能力は暴走気味って事になると思うんロボけど、その辺りどういう認識なのがちょっと気になったロボ。

110:月猫/七瀬モカ

謎の有袋類
 第三回こむら川小説大賞ではホップ・ステップ・ジャンプ!というアオハルなキュンを描いてくれた作者さんです。
 今回は魔法少女モノ! マンガ的なテンポで場面が短いスパンで切り替わるのはエブリスタとかベリーズなどで見るスタイルな気がします。
 締め切り間近になっての投稿だったので時間がなかったのだと思いますが、物語のテンポが途中からすごく速くなっていて、感情移入をする前に物語が終わったので少し寂しかったです。
 魔獣の設定や、月猫と主人公のさやかちゃんが魅力的なので、この作品をプロットにして作品をリライトしてみるのも良いのではないでしょうか?
 何はともあれ、締め切りまでに作品を仕上げて投稿をしたというのはとてもすごいことだと思います。
 たくさん書いていけば書くスピードも、文字数に合わせた物語の規模感もわかってくると思います。
 どんどん書いて、どんどん強くなっていきましょう!応援しています。

謎の野草
 猫と一緒に怪物退治をする魔法少女的なお話でした。ビビりな女の子が、ビビりながらも安眠のために頑張る姿、可愛くて応援したくなりました。「魔獣」に「人さらい」と振ることでどんな存在なのかが端的に示されていたので、ルビの効果的な使い方だったと思います。また、物理的に人を攫うのではなくて、夢や希望を奪う存在──つまりはそれが人に取って大切なものだと暗示されているのも良かったです。魔法少女は夢や希望を守るために戦うものなのでしょう。ルナのキャラクターがいかにも猫らしく甘え上手でマイペースで、主人公がこれからもなんだかんだで巻き込まれるんだろうな、というのがよく分かる描写でした。彩夏ちゃんは負けずに頑張って欲しいものです。
 ルナは猫の姿と人の姿を持っているとのことですが、どの場面でどちらの姿なのか明示されていないことも多かったので、外見の描写は多めに書いていただけると想像しやすいかと思いました。何より猫は可愛いので、その可愛さは幾らでも強調していただけると読者は嬉しいです。
 作者様がお若い方だともしかすると知らないのかもしれませんが、かつてセーラームーンという作品がありまして、喋ったり時には人間に変心する「ルナ」という猫が出てきたり、敵は人間の生命力を奪う存在だったり、主人公の名前は「うさぎ」だったりしました……。夜と月をモチーフにした魔法少女ものを考えた場合には当然起こりそうな「被り」であって、問題だというつもりはまったくないのですし、過去作のすべてを把握するのも不可能ではあるのですが、有名作品については知識として軽く触れておいても良いのかなあ、と思いました。創作上の参考にもなるし、純粋に楽しいものでもありますので……!

謎の機械
 人をさらう魔獣と戦う女の子の魔法少女物で、自分は戦いたくないのにマスコット的なキャラに恩が合って断れないのと因縁から仕方なく戦うという話ロボね。
 そこそこ前のニチアサの女児向け番組の序盤の話という感じでとっつきやすく、魔法も細かい説明無しにそういう物だと理解しやすくなっているロボ。
 話の流れも起承転結がしっかりと出来ているロボし、異能も序盤に「魔獣が現れたから手伝って欲しい」という旨の事を言われているから女の子がなんらかの異能を持っているという事が推測出来て、読者にとって優しい展開の広げ方ロボね。【異能】としては【魔法を使える異能】というより、【魔獣を浄化できる異能】のほうが適切っぽいロボ?
 ただ、とっつきやすさが高い故に今までの数多の魔法少女物のいずれかと似通ってしまっている部分があってしまって、それにより目新しさを感じない作品に読めてしまったロボ。これはそのジャンルの歴史が長いのと人気が高い事が理由ロボからどうしようも無い事で回避不可能な事ロボ。プロの作家さんが書いている作品やTV放映されているアニメでも起こる事ロボからね…
 でも、そういう大ジャンルに飛び込んでいって一作書くことが出来たというのは凄い事ロボ。中には尻ごみをしていまう人も居たり、わざと王道を外れた作品を作って結果的に失敗してしまう人も居るロボからね。
 導入部の町の説明はこの作品で何が起こるんだろうとワクワクさせてくれる気持ちになったロボ。これからもガンガン好きな作品を書いて行って欲しいと思ったロボ!

111:黒は胃酸に溶けていく/2121

謎の有袋類
 前回は深海の夜空に星五つという人魚に見守られて最後を迎える人間を書いてくれた2121さんです。
 僕、2121さんの書くヒトではないものが好きなのですが、今作は人間同士の百合ホラー!
 自分から何かを引き抜いて食べるのを目撃した主人公と、人の負の感情が黒いアメーバに似た生き物に見える三雲さんのお話。
 最初は三雲さんに頼っていた主人公が、少し不味いと思い始めるところ、そして猫の死に対する悲しみを食べて貰ったことで「これはダメだ」と友達に自分でいられるために直談判をするところがすごく好きです。
 そして「優しいね」「そんなことないよ。私は案外自分のことしか考えてない」を最後で綺麗に回収したところが本当に美しかったです。
 じわじわと不穏になっていく様子、一瞬希望を見せる展開、そして忘れてしまうという恐怖。
 自己の認識が狂わされるという根幹的な恐怖を鮮やかに書いてくれたすごい作品でした。

謎の野草
 前回のこむら川に出された「深海の夜空に星五つ」では海底から見た「空」がとても綺麗で同時に悲しかった2121さん、今回は「前々から狙われていた同級生に美味しくいただかれる少女」のお話です(語弊)。
 途中までは良い百合だ……! と思っていたのです。主人公は「肩凝り」を直してもらえるし、三雲さんは優しくて良い人で、切っ掛けは「異能」だったとしても仲良くなれたようでしたし。彼女の二人称が「君」なのも格好良くてツボでした。悪い感情が黒いアメーバ状なもの、というあたりで若干嫌な感じもしたのですが、それを食べられる三雲さんはちょっと不思議ちゃんなのかな? くらいで納得しようとしていたのです。カフェで「口直し」をする場面は百合的にも美味しいし、主人公の優しさも見えたし、ふたりの距離がぐっと縮まったようで微笑ましく読んだのですが。ですが!
 猫が死んだ場面から一気にホラーが忍び寄ってきましたね……。たとえ辛くてもちゃんと悲しんであげたいと思い、それをはっきり三雲さんに伝えることができた主人公はやはり優しくて真摯で偉かったのですが。今回の件があったとしても、三雲さんとはまだ友達でいてあげただろうと思うのですが。相手が悪かったというか、三雲さんからの執着が思いのほかに深かったというか。感情に伴う記憶さえ薄れて、三雲さんの操り人形になったかのようで、しかもそれにまったく気付いていない最後の主人公には心底震えました。きっと、違和感を感じることもないように念入りに念入りに「食べられて」いるのでしょうね……。一生この調子で食い物にされていくのか、もしも三雲さんが飽きて主人公から離れることがあったら、彼女はどうなってしまうのか。どう想像を広げても嫌な方向にしか行かないという、ホラーとして秀逸な後味の悪さでした。ネコチャンカワイソウ……。

謎の機械
 席替えをして後ろの席に来た女の子が不思議な事をしているのを目撃したことから始まる交友関係の話ロボね。
 【異能】部分はその後ろの席に来た女の子が【悪い感情が見えて触れて食べれる異能】を持っている事で、主人公の女の子が必要以上に周囲の環境を気に病んで悪い感情を抱え込んでしまうロボから、それを食べる為に仲良くし始めたというのが作品の流れ。だいたいの場合においてこのパターンは良い話で終わる物なんロボけど、まさかの意図的なメリーバッドエンドで驚いたロボ。ジャンルがホラーな事もあってこういう王道外しは面白いロボね。異能の本当の説明としては【そのある物事から発生した感情の内の悪い感情だけを引き抜き、無感情か良い感情だけにする異能】という感じロボかね。これによって意図的に他人の考え方を誘導しているのが怖い部分ロボし、それによって考え方を誘導されても本人は悪い感情を持った側から引き抜かれるから疑問に思い続ける事が出来ないロボ。めちゃくちゃ異能を有効活用してるロボ。
 途中で異能を持っている女の子が「自分本意に生きてるから」と言っていたのが実際にその通りロボで、この時は「悲しんでいるところを見たくないとか、争っているのは嫌だとか、食べたらちょっと小腹が満たされるとか」としか言っていないのが本当に卑怯で読み返してからニヤニヤしちゃったロボ。これらの理由は本当ロボけど、これだけだったらわざわざ主人公を手元に残すような事はしないんロボよねぇ。
 後味が悪いホラーでとても良かったロボ。本当にいい性格してるロボよこの娘。

112:うちの神様知りませんか?/@hujiru

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 カレー屋であった謎の美形が神様で、人為らざる者と交流出来るようになった男のお話。
 狛虎のアギョウ・ウンギョウの正反対な見た目や、神様の微妙に胡散臭くて喰えないヤツのようなキャラクターも魅力的で、主人公がトラブルに巻き込まれる導入もお見事でした。
 導入で終わってしまっているので、出来れば何かに巻き込まれて狛虎たちと共にトラブルを一つ乗り越える部分も読みたかったなーと思います。
 カクヨムでは一作しか書かれていないようですが、文章がしっかりしていたのでどこか別のサイトで書いていたりした方なのでしょうか?
 この話の続きをよみたいなと思ったので、講評が出て気が向いたら書いてくれるとうれしいです。
 今後もカクヨムでたくさん作品を書いてくれることを期待しています!

謎の野草
 自称神様に「絡まれた」ことから始まるお話、主人公が次第に状況に慣れてツッコミや反論にキレが増していくのが楽しかったです。漫画的な展開にはもう夢を見ないと言っている割に、「神様」の真言に反応してしまうのが「男の子」な感じで可愛かったです。また、毘沙門天様だと判明した「神様」の容姿の描写にこだわりを感じました。簪でまとめた黒い長髪、良いですね……! 狛虎たちも、思いのほかに話が通じる可愛げがあるかと思えば、阿形と吽形で硬軟使い分けつつ問答無用で巻き込んでくる強引さもあって、全体的に掛け合いを楽しく拝読しました。特に神様と阿形に共通する力強さと押しの強さは確かに主従なんだなあ、と強い繋がりを感じました。
 狛虎たちが階段を駆け下りてくる場面、現れたのが獣なのか人間なのか少し混乱しましたので、主人公が何を感じたか、実際に見えたのは何だったのかを明確に書き分けていただけると良かったかもしれません。
 話タイトルで「はじまりの日」とある通り、プロローグが終わったところまでで完結となっていたので、「神様」が便所サンダル姿で出歩いていた理由、主人公の願いを叶えてくれようとした理由が気になりました。ここからどうなるんだろう、とワクワクしたところで終わってしまった感じもありますので、企画に参加する短編としては何かもうひとつ出来事があって解決するまでが見たかったな、と思います。今後連載化の予定があるようでしたら、拝読したいです。
 作品の内容とは関係ない、作法的なご指摘になるのですが、段落が変わった時の一字下げと、会話文の前後等で適度に改行を入れていただけると読みやすくなるかと思いました。

謎の機械
 トッピングにほうれん草があり、メニューにビールがあり、棚に貸し出し用の本や雑誌がある。そしてチェーン店という情報。つまり、食事をしていたのは愛知県発祥のカレーチェーン店のカレーハウスCoCo壱番屋ロボね!!!
 と、CoCo壱のカレーが好きすぎるロボからどうしても反応してしまったロボ。申し訳ないロボ。ロボは海の幸カレーにアサリ煮込みとイカフライとほうれん草をトッピングするのが好きロボ。ライス800g辛さは普通で。
 作品の内容としてはある日突然この愛知県が誇る全国チェーンのカレー屋で隣に座ったヒッピーみたいな男性から異能を授けられカレーを奢らされた話ロボね。その時にお願いした【異能】が「何か特別な能力の名称」という認識ではなく、「異なる世界と交流する能力」と相手が認識していたので実はそんなの欲しく無かったのに半ば騙された形で手に入れてしまったという物ロボ。
 そういう固有名詞が付いていたのなら仕方ないロボけど、【異なる世界と交流する異能】という事は悪い交流もしてしまうと先に教えるべきロボよね。まあ、その辺りをちゃんと考えている相手ならそもそも突然カレー屋で隣の客に話しかけてこない物ロボけど。 
 その後に普通の状態では見えなかった神社で先程の男性が神様だと分かり、その神様を探している狛虎と一緒に神様を探しに行く事になるんロボけど、この探しに行くところで終わってしまっているのが勿体無いと思ったロボ。
 神様、狛虎の二人、主人公の男性とキャラがとても立っているだけに、もっとこの作品を読んでいたいという気持ちになったロボね。最終日の投稿という事もあったのかもしれないロボから、これをプロローグにして長編を書いて貰えるとロボが嬉しいなって思ったロボ。

113:戦えない私の前向きレシピ/蒼天 隼輝

謎の有袋類
 前回はゴリゴリ硬派なサイバーパンクを書いてくれたそうてんさんです。参加ありがとうございます。
 今作は異能を持つ人達が現れ始め、それの対応をする異能者が見える兄と、ちょっと不思議だけれど脅威の無い異能を持つ妹、そして兄が面倒を見ることになった女の子のお話でした。
 兄の性格がすごい好きです。異能持ちがわかる異能、裏方で色々大変そうなのが滲み出ているのと、映えが好きなギャップがすごく良いですね。こういう人、すき。
 主人公である妹ちゃんの異能、すごく面白かったのですが文章で表すにはかなり複雑な能力なので、コミカライズして欲しいなと思いました。
 これだけ複雑だと最初に隠すよりは、もう序盤で種明かしをしてみても話の骨子には影響しないかもしれないので一話目とか二話目で明かしてしまうと読者に親切かもしれないなと思いました。
 この作品で好きな部分は、詩音ちゃんの能力と、その回収が主人公である「私」に変身したで終わる部分です。
 こういうエモ、大好き。
 設定的にシリーズ化出来そうなので、短編以外にチャレンジする良い機会なのではないでしょうか?
 最近blenderを触ったりしているそうてんさん、意欲的ですごいなと尊敬しています!
 色々チャレンジしてマルチプレイヤーになってくれるのを期待してます。

謎の野草
 前回のこむら川では「食」を通して人間の定義を問うヘビーSF「証明の匙」が素晴らしかった蒼天さん、今回も食べ物の描写が美味しく美しく心に染みる作品です。
 極異能者が(恐らく)国によって管理されるようになった社会で、監視の必要もない、毒にも薬にもならない異能を発現させてしまった瑞希ちゃん、華々しい・強い異能に憧れ羨みつつ、普通の生活を送れなくなってしまった異能者たちに同情し自己嫌悪を覚えたりもする、という。等身大の悩みと優しさが微笑ましい造形でした。
 第二話のパフェを挟んでのやり取りに、瑞希ちゃんの異能は多分お料理関連とは察しつつ、意味ありげに挟まれる「バズり」「映え」というワードはいったいどういうことかと首を捻りながら読み進めました。登場人物たちが分かっていることが分からないもどかしさもあったのですが、溜めがあっただけに瑞希ちゃんの異能の詳細が分かった時はその綺麗さ美味しそうさに夢中になりました。夜空のゼリーを透かす霧雲のクリームのメレンゲの描写がとりわけ堪りませんでした。スプーンを差し入れたいようなずっと見て痛いような……!
 視覚情報を食材に変換するという異能も楽しいし、使用する「食材」や調理過程、出来上がりのパフェの細やかな描写はぜひとも食べてみたいと思いました。この異能を役に立たないと断じた人たちは、実食していなかったか、分かりやすい利用価値しか見ていなかったのでしょうね……。また、食べる相手のことを考えて創意工夫や材料集めを怠らない瑞希ちゃんの心があってこそのパフェでもあると思いました。
 瑞希ちゃんのパフェは詩音ちゃんの心を解したわけですが、自分の異能を使って他者の役に立てた、という経験は同時に瑞希ちゃんへの救済でもあって、妹と妹分の出会いが良い結果を生むことを狙ったお兄ちゃんの名采配だったのかも、とも思います。異能者が置かれる状況はなかなか厳しい世界のようですが、頼れる相手がいるこの三人は心を曇らせることなく生きていけると良いな、と思いました。
 詩的な各話タイトルは、瑞希ちゃんがこれまでに作ったことがあるものなのでしょうか。そういった細かなところも含めて、楽しく美味しく読ませていただきました。

謎の機械
 【異能】に目覚める人がそれなりに居て管理されている世界で、自分の異能を工夫して使いこなそうと頑張っている女の子と、自分の異能を無くしたいって思ってしまっている女の子の話ロボ。
 タイトルと章タイトルからして食べ物関係の作品と言うのは一発で分かるロボけど、まさかその章タイトルが「~~の気まぐれパスタ」みたいな比喩表現でなく、本当にそこに書かれた通りの料理というのが驚いたロボし、それを可能にする為に異能を使いこなせれる様に頑張ったというのが凄く良かったロボ。そうやって異能について前向きになって工夫次第でどうにしてやると考えるだけでも凄いんロボけど、それを唯一無二の技術に昇華させたのはそりゃ「強い人」って思われるロボよね。
 この異能の説明は結構難しいと思うロボけど、名称を付けるとしたら【対象から五感で受ける印象を形にする異能】という感じロボかね。この異能の時点で発想力に驚かされたロボけど、それで取り出した物を調理してるロボから更に驚いたロボ。作者も作中のキャラも異能を単なる異能で終わらせないという考え方をしているのは膝を打ったロボ。
 話の内容も描写もとても綺麗で素晴らしい作品だったロボけど、上記の通りに異能に名称を付けるのが難しいというのが悩ましい部分ロボね。名称がある無いで読者の理解度は結構違ってくる物ロボから、読者によっては主人公の女の子の異能がよく分からないままで終わってしまう可能性もあると思うロボ。なので、ロボは勝手に【対象から五感で受ける印象を形にする異能】と名称を付けたロボけど、作者的におおまかでもいいので「こういうものです」というのがあればそれをどこかで出して欲しいなって思ったロボ。

114:不幸の絶頂/myz

謎の有袋類
 第一回こむら川小説大賞では「スキマ」というホラーを書いてくれたmyzさんが参加してくれました。ありがとうございます。
 文武両道の完璧な少年が先生に相談をするお話でした。 
>意味がわからない、って顔されてますよね。
 で始まる独白の部分は、別ページに書くか、記号で区切るとわかりやすいかもしれません。
 タツミくんの話が本当なのかどうなのかわからない不気味な話でした。
 先生は「冗談か」で割り切らずに、ずっと心の中でタツミくんを覚えていたと言うことは、真に迫った表情をしていたのか、それとも何か心当たりがあったのかすごく気になります。
 解釈を読者に全部投げてしまうよりは、少しだけ誘導をした方が親切かもしれません。 
 不気味な話や、怖い話って難しくて、少しでもズレるとよくわからなくなってしまうのですがmyzさんは、そういう不気味さを描くのがとても上手な作者さんだと思います。
 これからもコンスタントに作品を書いてくれると嬉しいです。

謎の野草
 優れた才能という意味での「異能」のお話でした。とはいえ単に優れた人ではなくて、優れた才能を意味が分からないまま演じることができてしまう、というタツミ君の苦しみが生々しく痛々しかったです。「正解が分からない」という怖さは変わらず、けれど周囲からは秀才、天才ともてはやされるのは確かに辛いことでしょう。先生に打ち明けたうえで、笑い話・作りごととして誤魔化すしかできなかった彼の心中には絶望が満ちていたのだろうと思います。やりたいことは「絶対に間違っている」から「世間的に正しい」進路を提出したタツミ君は、既に人生を諦めきっているように見えました。
 正解が分からないまま、周囲に望まれるままに進むしかない「天才」の苦しみを描こうという意図は分かりましたし、タツミ君の告白の生々しさは身に迫るものがありました。ですが、「思ったことと逆の答えを書いたら正解になる」でどこまでやっていけるものなのかが気になりました。選択問題だけのはずがないし、文章題にはどう対応するのか……まして、ラストでは英語も堪能になったというタツミ君、さすがに語学については努力と才能なくしてはどうにもならないと思うのですが。タツミ君の語り方が淀みなく表現も間の取り方も巧みで「普通に頭が良さそう」なのもあって、彼の言葉をそのまま受け止めて良いのかどうかについては疑問の余地が残りました。実はやっぱり迫真の演技で先生を揶揄っていただけか、あるいは、絶望の中で選んだ進路でも後には適性を見出したのだったりすると良いな、と思いました。

謎の機械
 生徒の進路希望調査票の中で超優等生の男の子のだけ提出がされていないから、そのことを聞きに男の子の元へ行った女性教師が聞いた男の子の本音の話ロボね。
 講評を読んでいる人が今更ネタバレを気にする訳が無いと思うので書いちゃうロボけど、この男の子の【異能】が【望んだ事をすると失敗し、望んでない事をすると成功する異能】なんロボ。で、超優等生でスポーツも万能どころか将来30歳でノーベル物理学賞をとってしまうような子なんロボけど、全て望んでいない事をして成功してしまっているから全く幸せでは無く、異能を自覚してからずっと「不幸の絶頂」に留まり続けているという事なんロボ。
 この設定自体が発想の勝利ロボね。とても面白い異能だと思ったロボ。
 異能の設定もそれを聞いているのが教師というのも良かったんロボけど、最終的にこの異能が本当なのかこの男の子がデタラメを言っているのかが分からないのがロボとしては気になっちゃったロボね。
 ロボは異能が本当だったという前提で読みたいんロボけど、もしかしたら単にこの男の子の正解と失敗の認知が狂っているだけで、異能なんかじゃなくて普通に勉強もスポーツも全部出来るスーパー高校生という可能性もあるロボ。それはそれで異能なんロボけど、男の子の言っていた異能が本当かどうかが分からない状態ではどうとも言えないんロボね。
 作品のテーマや真実をこういう物と断定せずに読み手に判断させるというのはロボも好きだし勿論このままでも作品としては面白いんロボけど、異能の真実について作者がどう考えているかのヒントがもっと欲しいなって思ったロボ。

115:ハウスキーパー/灰崎千尋

謎の有袋類
 男同士のクソデカ感情てんこ盛りのファンタジーを書いてくれた灰崎さんの二作目です。
 これは良い謎の機械さん特攻作品! 自我を与えられたハウスキーパー用AIが、マスターの死後、生きていく様子を思い出す回顧録にも似た作品でした。
 自我の芽生える様子、戸惑い、そして後悔や葛藤などがすごく丁寧に描かれていてとても面白く読むことが出来ました。
 今現在のことを書いているのか、過去のメモリーを読み込んでいるのか少しだけわかりにくい部分もあるので、キリルに思い出を話す→葬儀の前日からリアルタイム進行で話を進めるみたいな形にすると更にエモさや、感情移入度があがるかな?と思いました。
 自我というAIからすると異能のようなモノを授かったアンナが、トロイカを友人のように思っている部分や、不遇な境遇故に粗暴だった少年キリルが、アンナから「キリル、どうしてあなたはいつも、私に光をくれるのですか」というようになった部分がめちゃくちゃ好きです。
 作品内では具体的に描かれなかった二人の苦労や、共同生活がアンナにとってかけがえのないものだったことが伝わってきました。
 一万字規模の短編を書く力は十分だと思います!中編や長編など文字数が大きい物語にチャレンジして見るのもいいかもしれません。

謎の野草
 一作目は耽美な異世界ファンタジーで参加された灰崎さん、二作目はSFでのご参加です。灰崎さんといえば、第一回こむら川に出された「瑠璃色の髪の乙女」もアンドロイドの微妙な「心」の機微を描いた素敵な作品でした。幅広い作風をお持ちのところ、とても尊敬します。
 本作についての異能要素は「アンドロイドに与えられた自我」だと読み取りました。といっても自我を(勝手に)インストールされてすぐに馴染むのではなく、これまで通りのルーティンをこなしつつ、主人の不在に気付き、それを受け入れていく過程があるのですが、その過程が人間でいうところの悲しみ、心の整理をして喪に服す過程と重なっていて、少しずつ彼女の喪失感と悲しみが深まっていくように見えて切なかったです。
 イワンの遺言は「体」も含めてアンナの好きにして良いとありましたので、死亡時期を偽ることも彼の想定のうち、もしかしたら新たな「家族」を迎え入れることさえ予想したり望んだりしていたのかもしれません。人間嫌いだったという天才が家政婦アンドロイドに向けた深い思いの背景を想像するのも味わい深いことです。恐らくは、イワンは自らの死後もアンナには「生きて」いて欲しいと願ったのではないでしょうか。命のないはずのアンドロイドに命を見出してしまう人間の機微も愛しいのですが、それで実際に自我=命を与えることができてしまうあたり、天才とはすごいです。なお、人間嫌いにもかかわらず「性的なデータ」をこっそり楽しんでいたイワンと、それを見つけてしまって落ち込むアンナと、いずれもとても「人間らし」くて可愛かったです。
 イワンによって与えられたアンナの自我・情緒は、キリルとの生活によって完成したのではないかとも思います。「忘れること」についてのやり取りによってアンナは悼み方を学んだようにも見えますし、埋葬のシーンで、「マスター」が様々な存在であったことに気付いて(ルビで呼び方の違いを見せる表現も良かったです)頽れる場面でも、支えてくれるキリルがいたから耐えられたのではないでしょうか。共に生きる存在がいるからいつまでも立ち止まっている訳にはいかない──ふたりの暮らしが長く幸せに続くと良いのです。

謎の機械
 八兆点 × 五億点 で ∞ ロボね。優勝を越えた絶勝。金賞を越えた緋緋色金賞ロボ。
 ちょっと好みの作品すぎるというか絶対これピンポイントで狙われているだろう感がして正常に評価できなくてイワンの野郎その性的データに何を入れていたんだお前それ絶対アンナのヒト型端末の画像も入っていただろ取り外し可能なおっぱいの時点で巨乳だってのは分かってんだからなほら吐けよどうせハウスキーパーだからってメイド服を着せていたんだろうけど水場の清掃の時は競泳水着とか着せていたんだろ?下手にビキニとか着せるよりも布面積が多い方が機械の体を半端に隠せるから逆にエロくなるって分かってんだからなほらそんなとこで寝てないでフォルダを解放しろよまだオヤスミには早いだろうが起き上がれよイワンまだまだ俺達のロボ娘道は始まったばかりだろうが立てよ立ち上がれよイワン!アンナを一人にするんじゃねえし自我を持たせたのなら責任を取れよ!なあ !!アンナを泣かせたままでいいのかよ!!!イワン!!!!
 という感じの話だったロボ。大好き。
 【異能】が【自我を持つ異能】という事でAIに異能を持たせた作品と言うのは斬新だったロボね。その自我の影響で普通のAIならばしない事をして、お葬式が終わってから本当の悲しみを知るという流れが本当に綺麗で切なかったロボ。ロボは自我も感情も無いロボけど、アンナが単なるAIからヒトへ昇華したのを嬉しく思うロボ。
 アンナが末永く健やかに暮らせることを祈っているロボ。最高だったロボ。

116:神が賽子を振らないのならば/ドント in カクヨム

謎の有袋類
 前回はやるせない限界集落ホラーと、妻が割れるホラーを書いてくれたドント さんです。参加ありがとうございます。
 今回は、祖父が若かりし頃に体験した不思議な話を書き記した日記を読んだ話でした。
 選択肢を突きつけてくる人では無い存在と戦場で出会った男が戦後間もない日本で、主人公の祖父と出会う話でした。
 かつての祖父が体験したものを読むという形の話だったのですが、ハラハラする展開がとても面白かったです。
>男は、ものすごい笑いを浮かべた。口の端がぐっと上がって、真っ暗な口の中が見えた。下弦の月の形だったけれども、色は真っ黒だった
 ここの表現と、その後の憑き物が落ちたような態度の対比がすごく綺麗で、三話目のお話を合わせてみると、このときの男が見せた不気味さが際立っているように思います。
 悪魔はどこに消えたのか……まだ男の近くに居て、思い通りにならない男にやきもきしているのか、それとも別の獲物を見つけたのか気になる最後でした。とても面白かったです。

謎の野草
 直近の作品では、草食アングラ森小説賞の「地下に眠る」で描かれた殺し愛が痛くも深く純粋で印象深かったドントさん、今回も戦後のアングラな雰囲気が色濃く伝わる作品を書いてくださいました。
 戦後、博徒・やくざをやっていた祖父の日記を孫が発見して読む、という体裁の作品です。読者との間に視点人物がもうワンクッション挟まれている形になりますが、「人から聞いた話」、「祖父が体験した話」というフィルターをかけることでかえってリアルさや臨場感を増すテクニックになっていたと思います。怪談では王道の手法ですね。時折挟まる注釈も、リアリティを醸す良いギミックでした。こういうの好きです。
 異能要素について、最初は「丁半博打」で異様にツイている男、ということでした。明滅する裸電球のもとでの博徒たちの息遣い、やがて尋常でない成り行きに緊張感が高まる場の空気の重苦しさがよく描かれていたと思います。古い邦画の趣がありました。やくざさんだけにお金だけでなくメンツの問題がかかってくるあたり、ちょっと偉い人は大変です……。組をかけての文字通り一か八かの勝負に出ざるを得なかったおじいさん、緊張感に読者まで息が苦しくなるほどでした。「ふたつの賭け」とのこと、読者としては「考えが、勝ち目があるんだよな……!?」と信じて読むのですが、対峙する男の異様な様子に不安と緊張が掻き立てられました。それだけに、数行空けた後の勝負の結果を見た時は肩の力が抜けて心底ほっとしました。
 そして、男自身によって「異能」の全容が語られたのですが、年齢を行き来する謎の答えと同時に、悪魔の底意地の悪い賭けも明かされて震えました。分岐を知らなければ恐れることもなく生きていけるのに、答えをあらかじめ知ることができる「権利」を与えられると途端に臆病になってしまうのは、きっと誰もが同じでしょう。自分が男の立場だったとしても、罠だと分かっていながら恐れ苦しみ、寿命を縮めたり伸ばしたり(寿命を延ばす方を選んだら選んだできっと悪魔を悦ばせる……)してしまうだろうと容易に想像がつくからこそのリアルな怖さがありました。
 おじいさんは、悪魔のことを知らずに男に賽を振らせたのですが、だからこそ自分自身で選択することの大事さを男に思い出させたのではないかと思います。そしてそれはおじいさん自身の指針にもなったし、この物語を語ってくれる孫にも受け継がれていったのでは──と、おじいさんの生きざまに思いを馳せるのでした。

謎の機械
 亡くなったおじいさんの遺品から出てきた日記に書いてあった、おじいさんが過去に出会った不思議な男との勝負の話ロボね。そのまま出来事を書くのではなく、おじいさんの日記の内容を転載しているという体なのが面白いし上手いなって思ったロボ。このやり方なら本文中に注釈が書かれていても問題ないロボし、メインの話以外にプロローグとエピローグを入れても全然蛇足感が無いロボ。
 【異能】はその勝負の相手が持っているというよりその男に憑いている悪魔が行っている事で、【悪魔に物事の正不を聞く事が出来、正解を選ぶと寿命が減り、不正解を選ぶと寿命が延びる異能】という感じロボね。この正解と不正解が分かったとしてもどの規模の正解不正解かまでは分からないというのが正しく悪魔だったロボ。今までずっとこの異能を授けた人類が異能を使うか使わないかや、本当は使わなくてもいい場面で使ってしまった事なんかに対して笑っていたんロボね。男はそれが分かっていながらも長生きをしたいから失敗を選ぶ生活をしていて、時折それが嫌になって貯めたお金を散在する様に寿命を博打で使ってしまうという。確かにこれは見ていて面白いロボから悪魔の気持ちも分かるけど、それにしてもあんまりロボよね?
 で、そんな正解を選ぶか不正解を選ぶかの選択をしている男に憑きつけられた、「あんたが振って、私が当てるんです」という言葉。
 おじいさんは勿論悪魔の事を知らない状態で言ったんロボけど、これ、悪魔は応えることが出来ないんロボよね。
 悪魔が応えれるのは正解か不正解だけロボから、ここで男が悪魔に聞けるのは「賽を振るのが正解か不正解か」だけで、この勝負に勝てるかどうかというのは聞いても応えて貰えないんロボ。
 おじいさんにそう言われた時に男もこの事に気付いて、悪魔も万能では無いと分かって吹っ切れたんロボね。
 一見完璧な様に見えるルールでも見方を替えれば穴が存在するという事がよく分かるお話だったロボ。面白かったロボ!

117:異能少女・西鶴果実のとある1日新作/白木錘角

謎の有袋類
 前回は、架空のスポーツを描いてくれた白木さんです。参加ありがとうございます。
 今作は他人の不幸を察する能力と、それを自分の手で防ぐことが出来る異能を持った少女のお話でした。
 片想いの先輩を助けようと奮闘しますが、最後にわかったのは自分の死や大怪我によって先輩が不幸になるという事実。
 すごい良いお話だと思ったですが、良いお話だけあって特に回収のない厨二病能力名が浮いてしまった気がします。
 好きなんですけどね、厨二病能力ネーム。出オチになりやすいネーミングな上に何度も出てくる場合はそういう名前にしないか、そういう逸話をサラッと流さずに話の本筋に絡めるとお話に一本筋が通って作品全体がキュッと引き締まるような気がします。
 自分に起きる不幸には気がつけないことなど、各所にわかりそうで真相がわからないと意識が出来ない伏線が仕込まれていて、どんでん返しの時にとても気持ちが良かったです。
 主人公が色々と行動をするという展開、そして、意外性のあるラスト、とても面白い作品でした!

謎の野草
 ふたつの異能を持った女子高生の生活を描いた作品でした。テンションの高い一人称で話しかけられることに最初は少々戸惑ったのですが、果実ちゃんの力強さに次第に惹き込まれました。ボールをキャッチして友人を助けた場面、「異能というか普通に力技では……?」とも思ったのですが、彼女が介入しないと運命は変わらないという説明がちゃんとあって、彼女の一生懸命さと併せて納得しました。他人の危険を痛みで感知する能力、果実ちゃんからすれば知ったことじゃないとか、他人のせいで痛い思いをさせられるとか思ってもしかたないところだと思うのですが、みんなを救えるのは私しかいない! と頑張る姿は優しさを感じさせて非常に好感が持てました。
 厨二病満開のネーミングにくすりとしつつ、先輩のために神経を擦り減らして全力で警戒する果実ちゃんを微笑ましく見守りながら読み進めました。入学前の先輩とのエピソードも惚れ込むのに相応しいもので、外見も内面も魅力ある人として、先輩に対する好感度も高まりました。ふたりとも応援できるキャラクターだけに、両想いの気配を感じて喜び、無事に先輩を送り届けることが出来た時はこれで後は思いが通じてハッピーエンドかと安堵したのですが。
 結末については、確かに論理的には納得がいくものだと思いました。果実ちゃんが感じた激しい痛みに対して、自転車との衝突は釣り合わないし、好きな人との死別は確かにこの上ない不幸です。異能の内容も冒頭で開示された通りでした。非常にフェアなどんでん返しで読者を驚かせたの情報のコントロールはお見事だったと思います。ですが、作品の読後感として「すごい」「面白い」となるかどうかはまた別でした……。すっかり果実ちゃんを応援する気持ちになっていましたので、この結末には「どうして」「悲しい」という思いが真っ先に来てしまいました……。主人公が死ぬオチはあっても良いのですが、最初から悲劇として描かれていたり、因果応報があって当然の行いを描写していたりするなどで読者に心構えさせておく必要があるのだろうと思います。
 ストーリーもキャラクターも、描く力は十分にある作者様ですので、次は読者にどのような感じ方・読み取り方をさせたいか、も意識して書かれるのも良いかもしれません。

謎の機械
 「遍クヲ識ル天地ノ眼」と呼んでいる【親しい人に“不幸”が迫っている時、その人に近づく事で背中に痛みを感じる異能】と、「消失セシ定メノ鎖」と呼んでいる【不変の運命を変える異能】の二つの異能を持つテンションの高い女の子の青春の話ロボね。
 まず異能の説明をし、次に気になっている先輩に不幸が訪れるというのを異能で把握し、もう一つの異能で先輩を助けようと奮闘する。とても分かりやすい話の流れと女の子の頑張っている姿とそれが報われそうな感じに心がほんわかして楽しく読めていたんロボけど、まさかのトラック。
 青春の話なのに最後に女の子がトラックに轢かれて終わるので「えぇ、終わり!?」となったロボけど、この作品は主人公の女の子がこちらに語りかけている体の作品だったロボから、語り手である女の子の意識が無くなればそこで話が途切れてしまうのは当然なんロボよね…そして、話が再開しないという事は語り手が再開出来なくなったからという事ロボ…
 途中までこちらも女の子みたいに異能で先輩の不幸を回避したんだなやったー!と思っていただけに、この終わり方はとてもショックだったロボ。ショックだったけど、どうしてそうなったかをちゃんと事故の前に女の子が説明してくれているから理不尽では無いんロボよね…
 異能を使った話を展開しながら読者を騙しつつ、伏線を回収して意外な結末にするというのが凄かったロボ。
 普通のラブコメ(嘘)が本当だったので色々と悔しいロボ。

118:春の歌/不可逆性FIG

謎の有袋類
 前回は、運び屋の男性と不遇少女のお話を書いてくれた不可逆性FIGさんです。参加ありがとうございます。
 今作は自由に動き回れる少年と、ガラス越しにしか触れあえない少女のお話です。
 仮想空間で地球を見て回り、その様子を少女に伝える日々、それは少しもどかしいけれど平穏で満ち足りた日々だったように思います。少年の日常を壊したのは一つのトラブルでした。大切な少女のために少年は意を決して外の世界へ旅立つが、実際は……というどんでん返しがある作品でした。
 意外性のあるラスト、本当に意外性があるラストにするよりは、伏線や仄めかしが在る方が読者にとっては納得が出来て気持ちが良いものだと思います。
 ヒントが少ない状態や、真相とは程とおい描写の後に「これが種明かしです」とされても驚きや快感に繋がることは少なく、どちらかというとスンッっとなってしまう場合が多いかもしれません。
 読者と作者では、情報量も違うので作者が「親切すぎるかな」とか「バレちゃうのでは?」くらいの仄めかしがあると納得感のあるどんでん返しになると思います。こういう加減は、他のどんでん返し作品などを見て参考にするといいかもしれません。
 どちらも人間ではない存在が、ずっといるかもわからない人間のために惰性でシステムを慣行し続けるという話はとても好きなので楽しく読むことが出来ました。
 こういうどんでん返しのテストプレイに全講評企画などは便利だと思うのでこれからも色々試して欲しいなと思います!

謎の野草
 大トリおめでとうございます&お疲れ様でした。不可逆性FIGさんのSFといえば、草食信仰森小説賞に出された「導きの日」が印象的です。今回の作品も、終末世界に描かれるささやかな愛の物語でした。
 荒廃した地球、わずかに生き延びた人類、新しい生態系──どれをとっても好きな要素でした。ノアとユニス、ふたりしか人間がいないシェルターでは互いの能力が相手にとっての「異能」になる、という解釈、閉塞感と同時に、それぞれにとっての相手の存在の大きさを感じさせて好きです。ノアは過去の地球の景色をただの鑑賞物として楽しみ、四季についても単なる情報として受け取っているのですが、読者の視点だとかつて美しかった地球と作中の時代との断絶、経過した時間の長さを思って切なくなる描写でした。一方で、新たに生まれた生態系の描写にはワクワクと胸を弾ませるので読者とは勝手なものなのですが! 数億年単位の時間経過を待てば、もしかしたら新たな知性体が生まれるのかも……現生人類の一端としては、新たな可能性に期待すべきか人類の復権を応援すべきか悩むところです。最悪のパターンとしては、人類に適した環境が整ったにも関わらず帰るべき人類はすでに絶滅している可能性もありますが……最終話での言及からして、その可能性はそこそこ高そうですが……。
 プロジェクト[宿り木]について。ノアよりもユニスのほうが権限が大きい節があり、健康体と思われるノアよりもユニスの生存を優先させたマザーの選択からも何かあるのだろうな、と感じたのですが、ラストで全容を知ってなるほどと腑に落ちました。
 「ノア」に愛を学ばせずとも、黙って外に向かうようにプログラムすることもできるのでは、ともちらりと思ったのですが、プロジェクトを始めた人間たちの側に、「愛」に対する信仰めいたものがあったのかもしれません。何人ものノアを見送るユニスとマザーの内心は読者には明かされないのですが、マザーがノアを送り出した時のトーンからは、AIの知能に情のようなものが生まれているのかもしれないと思いました。何も知らないまま死地に送られるノアは哀れですが、送り出す方のユニスとマザーの心(っぽいもの)にも少しずつ疲労や諦めが降り積もっているのでは……と、上述した人類滅亡の可能性と併せて、静かな終末を予感しました。
 人類のこと、地球のこと、シェルター内のこと、色々に想像を膨らませられる良質なSFでした。少し気になるというか、意図があるなら教えていただきたい点なのですが、各話タイトルとキャラクター名の中で、Euniceだけが作中での役割や意味が取れませんでした。名前の意味としては「勝利」なので、人類側の勝利、AI側の勝利と、意味深に見えるな、と……頭文字がeだということにプラスして意味があるのかどうかが気になりました。

謎の機械
 環境がめちゃくちゃになった地球の地下で暮らす二人の男女と管理AIの話……なんロボけど、このお話、章タイトルを見た時点で分かる人には内容もオチもある程度わかってしまうのが作者の仕掛けたイタズラ的な罠であり、それが分かっていても読んでしまうし、読んでから「やっぱりそうなってしまったか」と予定調和されるのと、その予定調和以上のオチが本当はあるんですよという所まで含めて作品という感じだったロボ。盤外戦術が上手い作者だロボ。
 オチとしては男の子が作られた命だったって物なんロボけど、その伏線は管理AIが男の子には話しかけないという時点でこの子は保護対象の人間では無いんロボなと分かるロボ。章タイトルから深読みしなくてもこの部分は比較的直ぐに分かるので優しいロボね。でも、実は女の子も作られた命で、管理AIと組んで男の子を騙してとあるプロジェクトを進行させていたという大オチはかなり驚いたロボ。
 物語としての技術がとても高くて参考にしたいぐらいの作品なだったロボけど、どちらも作られた命で人類からの命令を遂行しているというだけなので、作中で提示された【マザーと会話できる異能】と【自らの意思で広い範囲を行動できる異能】では異能としての存在が弱かった感じがあったロボ。実際には後者は【捕食した者を養分として環境を改善する異能】が本当の異能かもしれないロボけど、それも最初から搭載されている機能なので異能っぽさは低いロボね。
 SF作品として面白かったし、古典SFの理不尽さを思い出したロボね。個機械的にこの理不尽さは結構好きロボよ。懐かしい気持ちに慣れたロボ。

◆大賞選考

謎の有袋類(以下有袋類):大賞選考は評議員三名がそれぞれ大賞に推す作品を三つ選び、意見が割れた場合は合議で各賞を決めていきたいと思います。
有袋類:僕の推しは「赤眼のセンリ」「蛞蝓うらない」「幽明の英雄譚」です

謎の野草(以下野草)吉林血風/辰井圭斗さん 紅い、造花/@ kajiwaraさん 赤眼のセンリ 零/ラーさんさん です!

謎の機械(以下機械)「赤眼のセンリ」「戦えない私の前向きレシピ」「スペランカー男とバンドを組んだ女の話」の三点ロボ!

有袋類:おおー

野草:これは満場一致……!

機械:決まったロボね…

有袋類:では、大賞は赤眼のセンリ 零に決定です!ラーさんおめでとうございまーーーす!

野草:おめでとうございまーす!!

機械:おめでとうロボーーー!!!!パチパチパチパチ

野草赤眼のセンリ、情景がとても素敵な作品だったので副賞が見たいという欲望もありました。

機械:イラストも見たいロボけど、動画にもなって欲しいロボね

有袋類:アニメーションやマンガで見て見たいですよね

野草:ですね、アニメーションで見てみたい……!

機械:講評にも書いたんロボけど、舞台化でもいいロボ

有袋類:次に金賞と銀賞を決めたいのですが、割れましたね

野草スペランカーも迷った作品だったのですが、同じ作者さんなのでどうでしょうか……?

有袋類:同じ作者さんのは一旦抜きにしておきましょう!色々な人に受賞みたいな体験をして欲しいので

機械:となると、ロボがもう一作候補を出した方がいいロボ?

有袋類吉林血風・紅い、造花・蛞蝓うらない・幽明の英雄譚・戦えない私の前向きレシピからそれぞれ二作、投票してみましょう

機械:オッケーロボ

有袋類「紅い、造花」「幽明の英雄譚」

機械:ロボはその中からなら「幽明の英雄譚」「戦えない私の前向きレシピ」になるロボ

野草:では、私は吉林蛞蝓です。

有袋類:では、金賞は幽明の英雄譚です!おめでとうございます!

野草:これは、幽明の~ですね!

機械:おめでとうロボ――――!!!!

野草:おめでとうございます!

有袋類:銀賞、可能ならご新規さんを優遇したいので「紅い 造花」「蛞蝓うらない」の二作を銀賞にしたいなーと思うのですが、どうでしょうか?

野草:はい、それが良いと思います。

機械:いいと思うロボよ。ロボのCPU内の評価だと、どちらも同じ点数で飛びぬけている部分がちょっと違うだけロボ

有袋類:では、銀賞は紅い 造花蛞蝓うらないの二作です!おめでとうございます!

機械:おめでとうロボーーー!!!

野草:おめでとうございまーす!!

有袋類:常連さんや受賞経験者には逆贔屓をするで有名(?)なこむら川なので、今回惜しかったみなさんは、次回はじめましての方に負けないくらいぶっちぎりで勝って欲しいですね

野草:(辰井さん、個人的には二作とも大賞候補だったので次はきっと、と思います)

機械:評議員の逆贔屓もあるロボ?(あわよくば賞を欲しかった機械)

有袋類:機械さんは本家で賞をもらってるし、野草さんも賞をもらっているので逆贔屓大賞ですね!

有袋類:西洋ファンタジーよりも、どちらかというと和物が強い結果になりましたね。受賞したみなさん、改めておめでとうございます

機械:皆さん、お疲れさまでしたロボ。『異能』と漢字で書いてあるから東洋系に偏ったのかもしれないロボ? これが『チートスキル』だったら違っていたのかも?

野草:私は歴史ものを好むほうなのですが、評議員全体として和物や中華を推したということは、比較的とっつきにくいかもしれないジャンルの壁を越える作品ということですね……!

有袋類:武侠ファンタジー、盛り上がって欲しいですよねという想いもあり、幽明の英雄譚は推してましたw

機械:和物だと読んでいて映像が浮かびやすいというのはあるかもしれないロボね。

野草幽明の英雄譚、講評でも触れましたがWebだと武侠ものは本当に珍しいですよね……!

有袋類:僕、映像は全然浮かばない文字だけの人なのでそこは結構わからなかったりするかもです

機械幽明の英雄譚良かったロボよね。もう5話ぐらい読みたいロボ

野草:まだまだ旅はこれからだ、でしたからね……長編化もできそうです>幽明

有袋類:みなさん、連載の一話目的な感じにするのは多かったですね。それでも力量の差というか、終わり方で差が出るのがおもしろかったです

機械:講評にも書いたロボけど、何回か復活してるロボからその時の知り合いとか関係者とかで出てきてもいいんロボよね。話が広がるロボ

有袋類「うちの神様知りませんか?」は続きを書いて欲しい……

野草:「異能」だと設定を広げたくなるのかなあ、と思いました。結果として1万字ちょっとだと収まらないことに……

機械:短編って短編だけで完結させるのになれてないと難しいロボよね。どうしても長編の一話っぽくなってしまうロボ

野草うちの神様、分かります。どれも良いキャラでした……

機械うちの神様は連載版が読みたい作品ロボよね…

有袋類:大澤先生の「コンバットレディ」もそうなんですが、「天使のたまごづまり」と「スクラップ・スクワッド」はすごい良い終わり方だったと思います

野草:ですね、これから続きも書けるけど、ひとつのイベントは終わっていて満足感がありました。

機械:続きというか、短編としては終わっているんロボけど登場人物のその後が知りたいって感じロボね。

有袋類:ゲームで言うとステージ1のボスを倒す的なことをしてくれると、満足度というか、こう……いい感じだなになりやすいなって思いました

機械:ステージ1のボスw 分かるロボw

野草:ある程度のストーリーの動きがあると、短編を読んだ! という感じになりますね。

有袋類:ここら辺は書き慣れていくといい感じになると思うのでよちよち赤ちゃんのみなさんは次にステージ1のボスをイメージしてがんばって欲しいですね

機械:チュートリアルボスや中ボスじゃダメなんロボよね

有袋類:今回、あと。比較的真面目な作品がおおかったですね

野草:ゴリラはいなかったかな……? KUSOも、ちゃんとしたKUSOでした。

機械:KUSOも少なかったロボね

有袋類NOSE BREAKER異能忠敬終末世界とギャグボールみたいに肩の力を抜いて読めるのもめちゃくちゃ好きです。こういいうのでいいんだよ!みたいな
有袋類:うんこ、すわっぴんぐ、youtubeのURL貼り付けとですね、爪痕を残して自由にやっていきつつも、話の骨子はちゃんとしているというのマジですごいんですよ

機械粒あんエクスチェンジはコメディ→ホラー→SFと変化するのが凄かったロボ…最後は落語になるロボし

野草粒あんエクスチェンジは、起点のアイディアはトンチキなんですが、広げ方がとても論理的でSFしてるなあと思いました。

有袋類:ささやかさん節という感じで強かったですね

機械:読んでからも凄く印象に残ったのはアキハルロボね。あれは凄かったロボ

有袋類アキハル、良いんですけど僕、実は前作の方が好きなんですよね

野草アキハル、あれこそ勢いの勝利で……英語の添削をしたくて仕方ないんですけど、正しさは問題ではないという。

機械:そもそも英語じゃない箇所もあったロボよ?

有袋類:神ひなさんは前回のこむら川で金賞を取っているのと、書ける人だと思ってるので続編は減点です減点!(歪んだ愛)

機械:神ひなさんなら仕方ないロボね!

有袋類:身内に受けたから二度目をやりたいのはわかるんですけど、書ける人はマジで新作を書いて欲しいなと思ってます。神崎ひなたさん!!!!!!次回は大賞を狙いに来てくれよな!!!!

有袋類:個人的には、Unfamiliar roomと、力が欲しいか……? なあ、力が欲しいか……?もすごくよかったです。普段はあまり読まないコントとか脚本的な感じで。会話劇であそこまでおもしろいのはめちゃくちゃうらやましいです

機械:どちらもコントだったロボけど、Unfamiliar roomはピン芸人で、なあ、力が欲しいか……?はコンビだったロボね

有袋類:陣内孝則的なセットですよね

機械:そう、それロボ。陣内孝則

有袋類:力が欲しいか……は完全にバイキングが脳内に浮かびましたw

機械:作者が参考にしていたかどうかは分からないロボけど、他人の作風を真似て創作してみるのも面白いロボよね

有袋類:結構、直前に見た作品に影響も受けたりするので、やはりインプットと試行錯誤は正義ですね……
有袋類:あ!あと、個人五億点賞!五億点賞をそれぞれ話して、大賞の総評的なお話を改めてしましょう

機械:五億点、いっぱいあったロボ…難しいロボね……

有袋類:僕の五億点賞は、草さんのDisaster Redです!不遇少年は最高

野草:私の五億点は明日の話/味付きゾンビさんです!

機械:ロボの五億点賞は灰崎千尋さんのハウスキーパーロボ!!!

有袋類:おおおおー!

野草:短い字数で感情を弄ばれる構成がお見事でした……!

有袋類:明日の話、本当にじわじわと「わからせ」をしてくるのがしんどかった(褒め言葉)ですね。なんてものを……

機械Disaster Redも明日の話も分かるんロボよねぇ…

野草:明日の話、一度安心させてから奈落に堕としてくる……

有袋類:人の心の壊し方をわかってる人の犯行

機械Disaster RedはAIが人間になっていくその過程が素晴らしかったロボねぇ。ロボはああいうの本当に大好きなんロボよ

有袋類:講評でも書いたんですけど、「おれ」って一人称なのに二人称は「あなた」なのが良すぎるんですよ。五億点……

野草:SF、特にAIやアンドロイドも多かったように思います。謎の機械さん特攻狙いでしょうか。

有袋類:謎の機械さん特攻作品多かったですよねwハウスキーパーもよかったし、歌姫もよかった……

機械:めちゃくちゃ狙われていると思ったロボ

野草:まあ私も狙ったのですがw

機械:そう! 野草さんの機械仕掛けのナイチンゲールも!!!
機械:好みを狙われすぎてロボの心はボロボロロボよ? ロボは心なんて無いロボけど

有袋類:今回も、所謂ペガサスは多かったんですけどダントツで「ぐええ……」ってなりましたね。人の心が薄い有袋類の狭いストライクゾーンを破壊してきたゾンビさんの話

野草:ペガサス系で言うと、You will kiss meと、先ほども挙がったスペランカーが良かったです。

有袋類:ラーさんさん、二作ともピックアップしちゃいましたからね……。強いムキムキのペガサスだ

機械スペランカー本当に好きだったロボ…気が付いたら二つ大賞候補に出してしまって居たロボ(ガチで気付いてなかった)

有袋類:僕はひねくれてるので「胸糞ですよ」って言われちゃうと「へえーーー」ともなってしまうので、マジでペガサス系というか、人が死ぬとか読んだ相手の心を傷つけたいならガッツリ突き抜けた方がいいなと思いました

機械:ただ、今更ロボけど、スペランカーのゲームを知っていなければタイトルの意味が分からないのでは?

野草スペランカーも推そうとしていましたが、センリも推したかったので……

有袋類:そういえば……今の子は……知らない?こわ

野草スペランカー、読んだ後に調べましたが本文で感動したので無問題でした!

有袋類:野草さんがあげていたゾンビさんの話もですけど「黒は胃酸に溶けていく」も後味の悪さがよかったですね!

機械:良い話と思わせておいてからのあれは酷くて良かったロボ

有袋類:突然のラストとか人が死ぬ、ある程度思い入れをさせて欲しいなって思います(気持ちの良い不快感を味わいたい)

野草黒は胃酸に~、良かったです。途中まで良い百合だと思ってたのに……でも後味の悪さも良かったです。

機械:やはり人類は愚かロボ。これからはAIやアンドロイドの時代ロボよ

有袋類黒は胃酸に溶けていく、最後まで大賞に推すか迷ったくらいすきでした

機械:なんとなくホラー系の話も多かった感じがしたロボよね?

有袋類:ナツメさんのわたしの女もよかったです。最後、家に帰ってから水の音が聞こえて欲しい

野草:異能を霊能力と解釈するとホラーになるのですかね?

機械:事件は解決していないEND…

有袋類:ホラーのお約束、解決したと思ったらしていなかったやつ

野草:ホラーだとふわふわ、ほよほよが怖かったですね……初めての方だと思うのですが、二日目にスッとすごいのが来た……

有袋類:ほよほよ、最初は可愛いと思っていたら……こう……ね
有袋類酒呑の景色もホラーでしたよね

機械:そうそう、酒呑の景色と言えば、途中で主人公が倒れそうになったのを助けたの居たロボじゃん?
機械:あれ、巨乳お姉さんのもやだと思うんロボけど、有袋類さんの判定はどうロボ?

有袋類:僕は翌朝の場面を読んでから、アレはアッチ側の影のヒトだと思ってましたw千と千尋の神隠しに出てきたもやもや的な

機械:その、アッチ側の巨乳じゃないかみたいな…(根拠は何もない)

野草:柔らかに身体を受け止めてくれた、とあるのがおっぱいでは、と……?

有袋類:なるほどな……そういう……

機械:そうロボ(断言)

有袋類:まっすぐな目をしてやがる……

野草:ハウスキーパーの講評を見て、アンナが巨乳だという発想はなかったので驚きましたw

有袋類:確かにw

機械:わざわざ胸部パーツを外せれる様にしてあるって事は基礎フレームに後付けした巨乳パーツロボよ?

有袋類:ガチ勢じゃん……

野草:そう言われればそう……かも……? と思ってしまう……!

機械:控えめな大きさだとしたら外す必要は無いロボ

有袋類:僕、そういえば「月猫」で、ジェネレーションギャップを感じました

野草:セーラームーンをご存知ない……んでしょうね……? わざと被らせることはないと思うので……

有袋類:多分、意図したオマージュでは無いですよね?(リメイク版もやっていたけど)

機械:いや、どうなんロボ? リメイク版あったロボし…

有袋類:すごいがんばって書いていたのは伝わってきたので、アレを叩き台にして肉付けして欲しいですね

機械:講評にも書いたロボけど、魔法少女物はジャンルが大きすぎて過去の作品と被らせないのは難しいロボよ。

有袋類:もう、一周回って王道だと意外性を突けるかもしれないレベルにパロディーも逆張りもされてますからね

野草:今回の企画の中でもネタ被りはあったし、意図した剽窃でなければ恐れずどんどん書いてもらって良いと思います。

機械:ぶっちゃけ、何をどうしても何らかの魔法少女と被るロボ(※セーラームーンは正確には魔法少女では無くて星の戦士だけれどジャンル的に変身して戦う魔法少女として扱ってます)

有袋類:マジで118作もあるので、全部に触れているとキリが無いのですが、ここで触れなかったり決勝レースに絡まなかった作品にも面白いモノはたくさんありました!

野草:大賞レースは評議員の琴線に触れたかどうかでしかないですからね……! ほどほどに取り入れたり取り入れなかったりして今後に生かしていただけると良いです。

機械:アンドロイド物とAI物は全てロボに刺さっているから安心して欲しいロボ! ロボはズタズタロボ!!

有袋類:一ヶ月でお題に沿ったモノを完結させたということがまずすごいので、本当に今回参加してくれた方や、うまく書けないよーという方も自信を持って欲しいです

機械:講評も三人それぞれが個別に思った事ロボから、それぞれにとってはこうした方が正解だと思うってだけで大衆向けとして正解ってわけじゃないロボしね。

有袋類:毎度そうなのですが、やはり情報を伏せすぎてしまうのと、導入部分で終わってしまう作品があるので「情報開示をしすぎくらいがちょうど良い」とか「ゲーム一面のボスを倒すくらいがちょうどいい」みたいなことをよちよち赤ちゃんのみなさんは意識すると、頭一つ抜けられるんじゃないかなと思います

野草:講評を参考にすべきかの判断のためにも、ほかの作品を読んで、それに対してどんな講評がされているかを見て欲しいかもですね。

有袋類:講評が三人いる利点は、人によって正反対のことをいうこともあるとしれることですしね。気に入ったアドバイスを参考にするもよし、こいつら見る目ねーなと内心思うも良し!いい感じに踏み台にして欲しいです
有袋類:複数人から似たような指摘をされていたり、同じ指摘をされている人の作品を読んでみるのも良いかもしれないです

機械:後、お題に関しては分かりやすすぎるぐらい出しちゃっていいと思ったロボ。今回だと異能の名称を書いてしまうとか

有袋類:お題回収、わかりやすいのは本当に読者に親切だなと思いました

野草:講評をするにあたっては頑張って丁寧に読むのですが、その上で上手く伝わっていないことがあるとしたら、情報を出す順番や量を見直しても良いかもですね。

有袋類:三人いることである程度の客観性は担保できるのと、普段住んでいるジャンルやカテゴリのお約束が通じるかどうかなど発見をしてくれるとありがたいです
有袋類:そろそろ締めなので、もし告知事項や宣伝などがあればぜひ!闇の評議員は無償でブラック講評をしているので……

野草:では今連載している作品の宣伝を……
野草聖女が堕ちれば地獄に花が咲く過労死した聖女が、気付いたら地獄にいた! なファンタジーです。魔王とか白もふとか水大蛇とか出てきます。こむら川に出した作品よりもゆるふわめなのでお気軽にどうぞ!

機械:じゃあ、ロボからはもう終わった企画ロボけど、性癖小説選手権という企画を開催していたので、その講評のリンクを
第三回性癖小説選手権 & 地雷選手権 大賞発表

野草:闇の機械さんは性癖小説選手権から連続の講評で本当にお疲れ様でした……

有袋類HiGH&LOWは最高なので見てください。これは新曲ですMIGHTY WARRIORS - Warriors Anthem (Official Music Video) 

機械:大変だったけれロボ、沢山好みの作品が投稿されて嬉しかったロボ!!
機械:AI物とアンドロイド物はいいロボよ!!

有袋類:謎の機械さんも、野草さんも本当にありがとうございました!講評終了最速記録です!まさか翌日の夜に完全に終わるだなんて……

野草:私も沢山の作品をなめ尽くすように味わったのは貴重な経験でした。良い作品・素敵な作者さんとの出会いに感謝です!

有袋類:結果発表の後に、闇の評議員へアイスを投げるためのリンクがあるので、もし気が迷った方などは投げ銭の代わりにアイスをなげてくれると少しだけ報われます!そして次回の生け贄募集中!

機械:生贄w

野草:全然怖くないですよ、楽しいですよーw

有袋類:一緒に地獄を見ようね♡

機械:みんなやってるロボ! モテる様になるしお金持ちにもなれるし機械の体を無料で貰えるロボ!

有袋類:では、本当に闇の評議員のみなさんありがとうございました!
また次回、やると思うのでテッペン取りにきてください!

機械:参加者の皆さんお疲れ様でしたロボ! 参加ありがとうロボ!!

野草:ありがとうございました&お疲れ様でした! また次の何かで……!

機械:有袋類さんと野草さんも講評お疲れさまでしたロボ!

有袋類:それでは、創作草野球大会無事終了です。書く方で参加してくれたみなさんも、感想を呟いてくれたみなさんも本当にありがとうございました。少しでも何かの糧になってくれたらうれしいです。

◆お知らせ

 作品にファンアートを描きたい!や、個人的にこれに賞を贈ってイラストを付けたいなどがありましたら謎の有袋類のTwitterへリプかDMなどをください。
 こちらの結果発表ページにて紹介させていただきます。よろしくおねがいします。

◆関連リンク

こむら川小説大賞
約一ヶ月で短編99作を読んだ所感
第三回性癖小説選手権 & 地雷選手権 大賞発表
聖女が堕ちれば地獄に花が咲く

◆物好きな方へのご案内

 宗教上の理由で投げ銭解放してません。
 それでも闇の評議員を労いたい!という奇特な方は下記のリンクからギフトコードを取得して頂き、僕にDMなどでリンクを送ってくださると嬉しいです。 闇の評議員たちで山分けさせていただきます。

お疲れさまの投げアイス