『短編小説』 出逢い (1000字の小説)
その日は、5月の大雨の日だった。
私は、友人に誘われて、同年代が集まる朝10時からのお茶会に参加した。
そこには、男性が2人に女性が私を含めて4人の参加だった。
旦那と別れて、数年が経っていた。
この数年間に何人かの男性に言い寄られた。
時には、ラインや電話が毎日くるようなアプローチも受けたが、どれもその気になれず、未だに独り身だ。でも、不思議と寂しくはなかった。
今はまだこの自由の時間を満喫したいという気持ちが大きいのと、元旦那とは価値観が合わなすぎたのに直ぐに別れることができなくて、随分と長い間自分の気持ちと時間を犠牲にしてしまった。
次に出逢う人は、価値観の合う人がいい。
たとえ寂しくても、寂しいから付き合うのではなく
『恋に落ちたい』
という気持ちが強いので、妥協して男性とは付き合いたくない。
歳を取るとなかなか若い時のような「ときめき」という感情が起こらなくなるものである。
初めて会う人々は、皆フレンドリーで2時間は、あっという間だった。
昼になっても、雨の勢いは相変わらず激しかった。
そろそろお開きになるのかな、というところで、1人の背の高いスラリとした男性が、私の右側の視野に入った。彼は脇目もふらず、他のメンパーの男性の隣に座って、険しい表情で何か話始めた。
私は横目でそれを見ていて、ゆっくりと目を彼の左手に目線を落とした。
指が長くてゴツゴツした綺麗な左の薬指には、金色の太めのリングがあった。
心の中で、
あーあ、背が高くて、雰囲気が素敵だからやっぱり奥さんいるよねー、せっかく好みの男性に会えたのに残念!
と瞬時で諦めた。
仲良くなったお隣に座っていた女性と一緒に帰る約束をしていた。帰る前にトイレに行き戻ってきたら、なんとその男性が私の左隣の席に移動していた。
私は、チャンスなのか?まだ帰らないで、座って話をするべきなのか?
もちろん、彼と話してみたい、どうしよう、と心の中で葛藤が始まった。
私にとっては長い葛藤だったと思うが実際は数秒の事だった。
すぐに私の右隣にいた女性が、あなたがトイレから戻ってくるのを待っていたのよ一緒に帰りましょう、と優しい笑顔で話しかけてきた。
私は、小さくため息をついて、渋々帰ることにした。
そして立ち去る前に、皆に挨拶して
わざと一番最後に「また会いましょうね」と彼に挨拶した。
まさに、後ろ髪が引かれるとは、この状況の事だわ、と思いながら
大雨の中、車を走らせて家に向かった。