ブリティッシュ ベイクオフ観戦記
音に過敏でテレビもラジオも苦手、けれどGYAOで配信されるDlifeの海外料理番組だけは大好きだった私。
毎日のように流しっぱなしにしてきたけれど、Dlifeはこの2020年3月末で放送終了してしまうとのことで、これまでの感謝を込めて、一番好きだった番組『ブリティッシュ ベイクオフ』の思い出を記したいと思います。
『ブリティッシュ ベイクオフ』とは、パン、クッキー、ケーキなどを焼く「ベイキング」の腕を、イギリス全土から集まった12人のアマチュア挑戦者(「ベイカー」と呼ばれます)が競い合う、いわばイギリス版『TVチャンピオン』のような番組です。毎週1人ずつ脱落していって、最後は3人で決勝戦を行います(番組HPはこちら↓消えないといいのですが……)。
毎週課題に出されるお菓子やパンはかなりハイレベルで、初めて見るようなものもたくさん。作品のできばえも見どころですが、私がいつも気になっていたのは、出演者それぞれの態度や言動でした。
①とにかくみんな冷静
制限時間内に課題を完成させるのはかなりのプレッシャーのはずなのに、殺気立ったり怒鳴ったりしているベイカーはひとりもいなかったと思います。
もしスポンジなどを失敗しても、「もう一度焼き直すわ」と言って最初からやり直す場面をよく見たし、誰かが困っているときは助けるという思いやりが当たり前に存在していたのにも感動しました。
それに、番組アシスタントのメルとスーが、作業中のベイカーたちにかなり絡んでいろいろイジるのに、本気でキレる人がいなかったのも驚き。調理台にひじをついたせいでマフィンをつぶしちゃったり、こねている最中の生地を素手でさわってイタズラしたりと、結構笑えないことをされても、みんなニコニコしていられるのはすごいなと思いました。
唯一、番組内で冷静さが失われた例といえば、イアンのアイス事件くらいでしょうか(詳細は、ネタバレになってしまうので割愛)。あれは取り乱してもしかたないと思ったけれど、審査員のポールとメアリーは「何があったかはともかく、感情に流された行動をとったのはあなたのミス」という評価を下していて、なるほど……と、考えさせられたものです。
「常に感情をコントロールして冷静であるべき、それがグッドパーソン」という考え方が、この国には自然と浸透しているのかなと思いました。
②人としての安定感
ベイカーたちの豊かな個性も番組の面白さなのですが、ちょっとテンションが気になったり、我が強めだったり等、なんとなくノイズを感じる人は、なぜか早めに脱落していく印象でした。
一方、シリーズ後半まで残るのは、人としても安定感のある人ばかりだったように思います。「紙一重の天才児」みたいなトガった人はおらず、みんな常識的でおだやか。ポジティブに努力しながらお互いを認め合っていて、とても素敵でした。
でも、そういう立派な人たちのなかで私が一番感情移入したのは、ちょっと不器用なルビーだったかもしれません。シーズン4の決勝戦まで残ったにもかかわらず、いつも「私なんか……」と言っているような、この番組では珍しくネガティブ気味な女の子。作りながら「どうせひどい出来よ」と泣き出してしまうこともあったけれど、決して卑屈には見えなかったのは、いつも真剣さと純粋さが伝わってきていたからだと思います。
と、いろいろ勝手なことを言いましたが、どのベイカーも基本的にみんな「リア充」です。シーズンの初回と決勝戦では、ベイカーたちのプロフィールが紹介されるのですが、みんなパートナーなり仲間がいるのが普通という感じでした(もしかすると、お国柄的にぼっち文化がないのかもしれませんが……)。家族との関係もよさそうで、ベイカーたちの家族が「娘を誇りに思うよ」「夫を尊敬しているわ」と賞賛の言葉を自然に発するところも、昭和の日本家庭で育った自分にはなかなか眩しい光景でした。
以上が、私が番組を観ながらよく考えていたことです。
こんなことばかりに意識が行っていたのは、私自身が人としてアンバランスだったり、おひとりさまに優しい日本の都心部でぬくぬくしつつ不安を感じていたりする、コンプレックスのせいでしょう。
でも、毎週本当に放送が楽しみでした。ベイカーのアイデアやスキルに感動したり、自分だったらどんな風に作りたいか想像したり。ポールとメアリーの審査の明確さも、さすがプロ。経験と知識があるからこそ、いつもこんな風によどみなく評価を下すことができるんだなあと尊敬していました。
心満たされる楽しい時間を、ありがとうございました。
今は、家でパウンドケーキを焼いたり、外でパンを食べたりするたびに「生焼けだ」「いいお味です」と、心のポールとメアリーが審査しに来ます。
また、どこかで観られる日が来ますように。