圧倒的精緻:『線と言葉・楠本まきの仕事展』
あの頃、ロック少女たちはみんなかめのちゃんとカノンくんになりたかった──
そのひとりだった私も、ようやく『線と言葉・楠本まきの仕事展』(東京・弥生美術館)に行くことができました。会期は2022年12月25日までなので、まだの方はお早めにお出かけくださいね。
※以下、場内写真あり
見終わった今は、この展覧会の「線と言葉」というタイトルがとても、とても腑に落ちます。
原画を見ると、恐らく髪の毛よりも細い線!
しかし「細い=弱い」ではなく、むしろ強く、容易に触れることを許さないような厳然とした硬質な線なのです。
その線のそばに踊るのは、詩のような夢のような言葉たち。
ト書き部分の美しさはもちろんですが、会話部分も、改めて読むと作品それぞれに異なるトーンの魅力があるのですよね。「KISSxxxx」のオフビートなほのぼの感、「致死量ドーリス」の研ぎ澄まされたナイフのような鋭さ……。
特に「KISSxxxx」の会話は、憧れるあまり丸暗記してしまった部分もたくさんあります。
こんなお洋服を着て、こんな細い体で、こんな人たちに囲まれて、こんな会話をする世界に生きたいと何度夢見たことか……。
展覧会のハイライトは、やはりライブハウス風の展示部分でしょう。DIE KÜSSEのフライヤーがたくさん貼られた階段を登っていると、まるでライブを観に来た気分!
今回、一連の展示を見て感じたことを率直に述べると「少女まんがというキラキラしたジャンルで、よくこの表現を貫くことが許されたな」という改めての驚きでした。
それは、先生の表現世界にそれだけの魅力があったからというのはもちろんのこと、先生ご自身にも折れない強さがあったからなのかもしれません。というのも、今回の展示品にはミリ単位で細かな指示が入った校正紙もあり、完璧な表現を追求することを恐れない、ためらわない、遠慮しない……という姿勢に、ある種の強さを感じたのです。
それから私見ですが、振り返ると当時はまだ景気のいい時代でしたから、異端的な表現を受け入れられるゆとりが社会にあった気がします。景気のいい時代には暗い歌、景気の悪い時代には明るい歌が流行るといいますよね。
装丁にしても、あんな豪華なボックス仕様の本を作る予算が今の出版社にあるだろうかと思ってしまいます。いろいろな意味で豊かな時代だったんだなあ……。
ともあれ、久々に楠本まきワールドに没入できて本当に幸せなひとときでした。来場者の方たちのファッションも素敵でしたよ。
「KISSxxxx」育ちのロック少女あるある:ドイツ語で4まで数えられる(その先は知らない)
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