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好きだからといって、やってはいけない髪型がある ①


ドイツに来て半年経った頃、美容院に行ってみた。

よく行く住宅街の落ち着いた雰囲気の美容院。オーナーはドイツ人おじさん。店は綺麗で人の出入りも多く、値段も一般的のようだった。
通りかかって話してみたらオーナーは英語も話せたので、安心して予約した。何時間もドイツ語の会話は保たないからだ。
そして、私は特殊な髪型でもなく、髪もごく健康で、普通にやってもらえば大抵OKなのだった。日本では。


日本で、長年担当してくれた美容師さんからは幾つか禁止されていた事項がある。
①強いパーマはかけちゃダメ
②前髪の量は増やしちゃダメ
③姫カットはしちゃダメ

長年お願いしていた美容師さんは、穏やかでハンサムで優しい青年であった。しかしこの3項目に関して、私がたま〜に気分を変えてみたくて、何回か頼んでみたところ、
「絶対にダメです」
と優しく、しかしキッパリと断られたものだった。

しかし、今は彼の目の届かないドイツにいる私。
気分を変えたい!  長年の希望を叶えたい!

予約の日、オーナーに自分の希望を持って説明してみた。丁寧に、そしてはっきりと。
「全体的に、ちょっと強めの細かいカール、例えばダ・ヴィンチの『岩窟の聖母』に描かれた天使のような髪型にしてみたいのです。」
とドイツ人おじさんに頼んでみた。
私が口にしたこの例えを聞いても、おじさんは別に何とも思わない様子で「なるほど。」と。
そして私の説明は「パーフェクト」だと。

日本ではその髪型の事を口に出すと、「はぁ?!」とか言われたものだが、おじさんが普通に受け止めたのは、ヨーロッパでは、生まれながらに、あの天使のような髪型の女性は幾らでもいるからである、と思う。
珍しくも何ともない訳だ。
それにこちらでは、日本のように流行りのヘアスタイルにするとか、前髪の微妙な長さとか量を気にするとか、時代の傾向や、他の人に倣うことはしない。
「私は私」「自分がどうありたいか」のみである。

オーナーのおじさんは私の希望の髪型にするべく頑張った。
私の髪質に合うか、似合うかどうかは、取り敢えずは無視して、4時間かかって(!)チリチリパーマは完成したのだった。
あの天使のカールにするには、細いロットを使うしかないのだ、とおじさんは必死で1時間以上巻き続けた。

「日本人の髪質には苦労したよ〜。でもうまく仕上がった♪」と満足気なおじさん。
これを良しとするか、無謀な試みと評価するか、時間がかかり過ぎて、疲れた私には判断がつかず。
おじさん、4時間喋り続けるし。

私は、くるんくるんの頭で家に帰ってきた。夕食の準備の為に髪をまとめたら、ピン一本でまとまる。かつてない経験。これはこれで良し、と思った。
今までは留めても留めてもスルスル落ちてきていたのに、留まってる!

しかし次の日、改めて自分の髪を眺めてみると、
「私間違った?」という後悔が襲ってきたのだった。
人間にはやっていい髪型といけない髪型がある、と優しく言っていた日本の美容師さんの言葉が蘇る。

で、その日出かける時、前髪は思い切り引っ張ってアイロンを当て、できるだけ真っ直ぐに直した。
後ろの髪は捻って留めてボリュームを三分の一に抑えた。
元の自分に戻すのだ!

で、あれから1年が経つが、おじさんが頑張ったパーマは未だに残っていて、傷んだ髪は絡まって絡まって、櫛が通らない。
櫛が通らないというのも人生初の経験で、荒い目の櫛でも通らず、梳かす度に切れ毛&抜け毛がどっさり。全ての髪がそもそも傷んでいる上に、手入れをしようとする度に物理的に傷み続けるのだ。
傷んだ髪用シャンプー&コンディショナーなど気休めにもならない。
ゴワッゴワのボロッボロ

そしてヤケになった私は、⓵の禁止事項を犯して十分懲りたはずなのに、②、③までも試みることとなる。
馬鹿です。

そのやっちゃった話はまた次回にm(_ _)m








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