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「Stand by Crews」プロジェクト始動に寄せて

※掲載日:2020年5月31日

皆様、お元気でお過ごしでしょうか? 初めてここを訪れて頂く方も何度か来て頂いた事がある方もいらっしゃると思います。改めまして私はコンサートやライブの制作、プロモーターをしている有限会社ヴィンテージロックの若林と申します。 今日は私から、新たに立ち上げた「Stand by Crews」というプロジェクトの説明とほんの少し宣伝っぽいこともさせて頂きたいと思い、いつもとは違う形でお届けさせていただきます。少し長くなるかと思いますので無理のない時、お時間の許す時にお目を通していただけると幸いです。

さて、今回の有事にあたり、自分の「仕事」のこと、そしてこれからの「仕事」のことを余りある時間の中でずっと自問自答しております。きっと皆さんの中にも同じような心持ちの方が多数いらっしゃるのでないでしょうか? 私としてもこういった形での、それも長期に渡る「自粛」への対応はなにぶん初めてのことでもあり(これも皆さん、同様かと存じます)、最初はなかなか上手く馴染めなかったりしましたが、徐々に付き合い方を見つけられ何とか折り合いをつけながら引き続き向き合っております。そして自問自答の答えもなかなか見つける事が出来ずにいますが、同時に目の前にある問題についても考えて行かなければならない現実もありました。

まず、最初に向き合わねばならないと感じたのが「会社と従業員をどう守るか?」という問題です。幸いなことに我が社には会社を18年続けていく中で毎年積み重ねてきた「貯蓄」があり、これを切り崩していきながら売り上げが無い中を凌いでいく試算は割とすぐにイメージすることが出来ました。そしてもうひとつラッキーだったのは万が一の会社の有事に備え十数年前から「企業保険」をいくつか積み立てており、そのうちのひとつがちょうど今年の5月に解約時の払い戻しのピークを迎えるものがあり、昨年より会計士と相談しながら払い戻しに向けての動きを進めていたところでした。私のポリシーとしてこの会社を立ち上げた際、他人や公的機関からお金を借りてまで会社を延命しないことを決めていました。万が一そのような事態に陥ったときは躊躇いなく会社をたたむつもりでいましたし、そうならない努力は怠らず続けて来たつもりです。保険の加入についてはそのための防衛手段でもありましたが、今となってはこの有事をあたかも想定していたかのような対策。1円の収益も生み出す事が出来ないこの危機的状況に於いては「ラッキー」としか言えないことだと今でも思います。

そしてもうひとつの問題は「コンサートの世界をどう守るか」ということです。こう書いてしまうとかなりグローバルな視点で物事を語っているようにも見えてしまうかもしれませんが、少なくとも私の周りのアーティストのコンサートを守る為の何らかの手立ては最低限必要なのではないかと考えました。少し噛み砕いて言うことが許されるなら「仲間を助けたい!」というシンプルな発想です。

そうこうしているうちにいろいろな企業やいろいろな方々が「ライブハウス支援」に向けての動きをスタートさせました。私の会社もあまり表立ってはおりませんが某放送局主体で行なっているライブハウス支援の為のプロジェクトのバックラインに於いて、支援先店舗への連絡や支援金のお支払いなどを無償でお手伝いさせていただいております。「充分」とは言えないかもしれませんが、ライブハウスの支援についてはこうした様々な形での働きかけや独自での取り組みなどが功を奏す日が必ず来ると信じております。

さて次は各セクションのコンサートスタッフのことです。私と同じくライブに従事し、そこで得た収入を生活の糧にしている人々にとって、今回の騒動はダメージを通り越して死活問題へとなりつつあります。サラリーを生むためにはコンサートを実施し、その収益からサラリーを受け取ることでしか生き延びる道はなく、今それが出来ない現実の中では心許ない政府からの支援を受けることや、蓄えを切り崩していくことでしか凌ぐことができないほど脆弱な状態に陥っています。

我々を含むコンサートに係る仕事をしている人間にとっての収入のほとんどは、皆様に購入していただくコンサートのチケット代の一部が糧となっております。我々はそのことを片時ならずとも忘れることなく、ひとつひとつのコンサートに向き合う際には少しでも良いものを届けることを肝に銘じて向き合ってまいりました。すべてのコンサートはそこに携わるあらゆるセクションのプロフェッショナル達が、修行と経験からアウトプットされるテクニックを集結させて(もちろん、演者の力がありきのことは大前提です)「ショー」として皆さんに届ける「芸術作品」であると自負しております。

そんな中での今回のパンデミック。音楽を日常的に愛聴する習慣や価値観を持たない人にとっては音楽体験やコンサートといったものは生きていく上で必ずしも必要不可欠なものではないと思いますし、実際無くても生きていけると思います(音楽のみならず演劇やその他のショー、演芸や映画、スポーツ鑑賞なども同様かと思います)。ライフラインの中に於ける優先順位は最も低いと言え、それ故の一番最後のリスタートになると思うのです、ライブやコンサートは。

「飲んでよし、打ってよし」のワクチンや予防接種が開発され、季節性インフルエンザ並みの付き合い方が出来るようになるまでは、大規模な公演や肩や体をぶつけ合いシンガロングや歓声を送るライブなんて、やっぱりどう考えても良しとされないのが当然な訳でして、そう考えるとパンデミック以前の状態にコンサート業界が戻ることが出来るには1年以上かかってしまってもおかしくはないのではとすら考えます(これもワクチンの開発次第で状況は大きく変わると思います 研究者や開発者の方々、医療関係者の方々を引き続き応援して参ります)。

来月くらいから小規模で着席でキャパシティを各自治体からの要請に伴って調整しながら販売を行えるものに関しては、ゆっくりではありますが少しずつ始まっていくでしょう。長い期間をかけて元通りの状態を取り戻していく活動が、少なくとも年内は求められていくのではないかと考えます。すなわち、長期戦です。

今もなお戦場のような医療の最前線で働いてくださっている方々、私たちの生活を守るために働いてくださっている方々が多数いらっしゃるこの状況の中、「コンサートが開催出来ない」「仕事ができない」事実や悔しさに落ち込んでいるだけでは何も始まらない。自分にできることは何か、これからの仕事について出来ることは何かを考えて出た答えは「再開の日のための準備を怠らない」ということでした。

今、危機的状況にあるコンサート業界のスタッフのために少しでも出来ることは何かを考え、この「Stand by Crews」を進めることにしました。

ことの発端は些細なきっかけから動き出しました。

ご存知のように「スピッツ」も3月より始まる予定だったホールツアーの全てのスケジュールを、11月以降に延期することになりました。振替の日程も絶賛調整中のため、スタッフ間では電話やリモート会議などで定期的に連絡を取り合っておりました。その過程でぼんやり考えていた「本来開催されるはずだったイベントのグッズを販売し収益をスタッフ支援に当てる」という意向を相談したところ、次の日には私を含めた仙台、大阪のスピッツ定例イベントのプロデューサーにマネージメントチームを加えた会議が行われ一気にいろんなことが動き出しました。まさに30年来の付き合いの長さ故の連携感とスピード感だと思います。そんなスピッツの力添えもあってようやく皆様にこのプロジェクトのお知らせをする事ができた次第であり、長くなりましたがこのプロジェクトの誕生のきっかけと本日に至る経緯でございました。

今年10回目を迎えるはずだった「サンセット」は開催見送りとなりました。個人的にも10回目の開催に当たり今年は会場の規模も拡大し「スペシャル」としてお届けすべく奮闘しておりました。すでに多数の共演者の方々にもご相談させていただいており、中には出演の快諾をいただいている方々もいらっしゃいました。ただやはり、まだ先の9月のこととはいえご来場いただく全ての方、全ての出演者やスタッフの安全が確約される状況にはならないと判断し来年に持ち越すことを早々に決断させていただきました。個人的にもこのイベントだけでなく数え切れないほどの公演が延期、中止となり、それぞれのコンサートやイベントに賭けてきたプランや想いなどはいとも簡単に木っ端微塵に吹っ飛んで行きました。内心では相当に落ち込んでおります、はい。

今回のプロジェクトは本来開催予定であった「Spitz X VINTAGE ROCK std. presents “有明サンセット 2020”」のイベントグッズを販売させていただき、全売上からグッズ制作原価、決済手数料などの経費を差し引いた収益の全てを、我が社で業務をともにさせていただいている40組を超えるアーティストやバンドの、フリーランスや法人含めた100を超えるスタッフに支援金としてお支払いするというものです。「サンセット」のグッズはありがたいことに例年ご好評いただいており、たくさんの方々にご購入いただいております。デザインや商品のネーミングにもこだわって丁寧に作っております(笑)。

商品のラインナップのお知らせや通信販売の受付は6月中旬を予定しております。勢威制作中ですので楽しみにお待ちください。そして、お気持ちやお金や生活に余裕がある方でこの取り組みにご賛同いただけるという方は是非ホームページをのぞいてみてください。もちろん、単に商品に魅力を感じていただきご購入いただけることも大歓迎です。

たくさんの方々にご利用いただけるのであれば、この上なく嬉しい限りでございます。

http://www.sun-set.info/

それから引き続き自粛生活を送っていらっしゃる方、行楽などを控えていらっしゃる方などへ改めてのお知らせになりますが、スピッツが2013年に行った一夜限りのコンサートを収録し2014年に劇場公開された作品「横浜サンセット 2013 -劇場版-」がYouTubeで公開されております。こちらも私を含め多くのコンサートスタッフの経験やノウハウを集結させてみんなで作り上げたコンサートのひとつです。

https://www.youtube.com/watch?v=W4Lkp42a-10

最後に改めまして、このような厳しい状況下でも医療の現場で働いていらっしゃる方々、私たちの日々の生活を支えてくださっている方々、自粛を続けてらっしゃる方々へ感謝とお見舞いを申し上げます。そして、感染された方々の一日も早い回復と、すべての方々の安全と健康を心よりお祈り申し上げます。

引き続き感染拡大の防止に努めるとともに、安全な状態でリスナーの皆様に音楽をお届けする日が一日でも早く訪れますよう祈る毎日です。

ご拝読ありがとうございました。

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