L.O.後の入店

そもそもラストオーダー(L.O.)というのは、店の限界なわけですよ。スタッフの終電だったりそういうものがリアルに関係してくるわけで。しかし今回はそのラストオーダーに関わる話で僕が気付きがあった話です。ただしこれはリアルでもあまり人には話したことがなくて、共感が得づらいものだと思うので、慎重に書きたいと思います。
それでも僕にはサービスとは何かを伝える事件であったので、何か伝わるものがあればとは思います。

予約時間は21:00。ラストオーダーが21:00、閉店時間は23:00。コース料理は普通に進行しても2時間は見てほしい、そんな店の話です。

暇な日の1日。予約時間の21:00になってもお客様の姿は見えません。僕は扉を開けたり廊下に出たりと様子を伺います。電話もなりません。まさかのノーショウ(予約のお客様が来ないこと)かなとか思いながらも30分は待とうと思っていたところでした。

10分遅れくらいでそのお客様はいらっしゃいました。20代後半くらいの女性と男性。若い日の松嶋菜々子さんと反町隆史さんみたいな、スマートな感じのカップルでした。僕はテーブルに案内しました。

ドリンクを用意して、アレルギー食材を確認し、コース料理を始めました。暇な日だったので他にはお客様が1組しかいらっしゃいませんでした。

僕の働いていた店のコースは最低でも2時間は見てくれ、という内容でした。しかしすでに21:30。閉店時間の23:00まではとても時間が足りませんでした。

僕は料理の声がけをやや早めました。120分の時間を単純に5/6くらいにしようとしたと言いますか、前菜の後のパスタの声かけを、前菜を下げると同時くらいに出そうという声かけをしました。

直後、裏でグラスを拭いていた店長がテーブルの様子を見たあと、僕に言いました。

「お前、明日から来なくていいから」

たまに僕をからかう店長だったのでまたそれかと思って、いやいや、と言ったらマジな顔でもう一度「だから来なくていいから」と言いました。

僕は全く意味がわからなくて、立ちつくしていました。

キッチンはなんでこんな時間に来るんだよ、と文句を言っていた。僕はキッチンとお客様との妥協点で声をかけたつもりだ。なぜそんなことを言われるのかわからない。ちょっと待てよ、なんでそんなことを言うのか。

僕はバックヤードで「いや、ねぇだろ…」とつぶやいてうずくまりました。

僕には何がなんだかわからなくて、それでもたぶん何か兆しがほしかったのでしょう、僕はキッチンのベテランの人に言いました。

「僕、店長にもう来るなって言われました。なんでかはわかりません。でも僕は店長の言うことがわかりません。正直ついていけません。もう辞めることになると思います。ありがとうごさいました」

って涙を流しながら言いました。

そうしたらそのベテランの料理人が、

「うーん、俺はサービスのことはよくわからないけど、たぶんさ、◯◯さんがそれくらい強く言ったんでしょ?たぶんそれ君が悪いよ」

と言いました。

僕はキッチンに対してギリギリの声かけをしたつもりだし、それの何が悪いかわからなかったし、完全に頭は回っていなかったです。

でも、その声1つを信用してみようと、僕は店長に頭を下げました。

洗い場に皿を下げにきた店長に、

「すいません、正直何が悪かったかわかりません。でもこのままじゃ帰れないので教えて下さい。」

と頭を下げて言いました。

すると店長は言いました。

「お前さ、あのカップル、今日何で来たかわかってる?」

僕ははっとしました。
珍しく男性が上座に座ってたのを思い出しました。

「あれさ、たぶんだけど、男性が誕生日かなにかなんだよね。それを女性がお祝いする席でしょ?んで男性が仕事かなにかで遅れた。それをさ、お前は皿を重ねる勢いで声かけをした。何をしたかわかってる?ゲストは男性なんだよ?ホストの女性の思いがわかってるの?それをお前は声かけ1つで台無しにしようとしたんだよ」

「たしかにさ、コースの時間は閉店時間をオーバーするよ。でもさ、最後には最悪俺らが残ればいいし、少なくとも初めから急かす場ではないでしょ。最後のコーヒーの時間がすくなるのは仕方ないけど、それ急かすの今じゃないでしょ。途中でペースを見て調整すればいいんだよ。なんでそんなのわからないの?お前はさ、キッチンには、すいません遅くなって僕らの声かけで、って謝れるけど、お客様に料理を重ねちゃってすいません、って謝れるの?なんでこの席を大事にしようという意識がないの?そんなサービスはうちにはいらないからもう来なくていいって俺は本気で思ってるんだよ」

僕は何も言えず、ただただ涙を流して、すいませんでした、と言っていました。

今でも何が正解か、正直わかりません。ただ、僕はあのとき、店側の都合「のみ」を考えていてお客様の気持ちに寄り添っていなかったということは確かだったと思います。単なる流れ作業になっていた、というのを思い出します。

うちはコースは2時間かかるから。キッチンも明日の予定があるから。閉店時間に間に合わないから。それら一つ一つは何も間違っていないけれど、では最善を尽くそうとしたのか。

本当に、お祝いをしようとしたその女性の気持ちに寄り添っていたのか。

結果、同じタイミングの声かけであったとしてもそのときの僕はNOだったと言わざるを得ません。どこか店の都合だけを考えるマニュアル化された人間だったのでしょう。だから今でも思い出してしまう話の一つになっています。

僕は一瞬だけれど、俺は悪くない、と真剣に思えたからこそそのあとの店長の言うことが素直に受け入れられて、ああ、自分にはその視点がなかったと思えたので、今夜残すことにしました。

推敲も何もしていないので雑な文章であればすいません。そこで声かけを早めたことが悪いかどうかは今思えば別物なのでそこの意見は求めていませんが、サービスというのは自分の知らない視点も常に考えるものなのだな、と思う原点になるお話でした。ではまた。

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