イラストレーターとIllustratorとデザイナー?
こんにちは、マルチデザイナーのはしあやです。
※今回から名乗り変更してみました。特に意味はありません。
みなさんが「依頼する側」でのお話をひとつ。
イラストの入ったデザイン制作物を発注しようとした時、あなたなら「誰」に依頼しますか?依頼先はどうやって探しますか?
もしかすると「知り合いにデザイナーはいないから、ネットで探してみよう」となるかもしれません。昨今はネットで集客していることも多いのでそれでも可能でしょう。
しかし、1つだけ気にしてほしいことがあります。
ネットで探した人がどの程度まで自分の依頼内容に沿ったものを納品してくれるかは仕事が終わるまでわかりません。そして、その依頼は一度依頼して契約書を取り交わしたら、途中で『やーめた!無料キャンセルね!』というのが通用しないのです。
依頼者の想定範囲や好みと、依頼した先との技術や経験、または作風。
技術は足りていたけれど作風が違ったり、依頼者の伝え方もしくは依頼先のヒアリングがうまくいかずに本来ならきちんとしたものが納品されてもおかしくなかったのに些細な情報不足で失敗したり・・・そんな話をたくさん聞いています。
依頼を受ける側はもちろん、依頼する側もある程度の予備知識を持っていればこういった悲劇は防げます。
デザイナー=イラストを描く人ではない
他の記事でも書きましたが「デザイナー」と言ってもいろんな守備範囲(職種・業種)があったり、複数が可能な人もいるために、一言では何をしている人か言い表せないことも多々あります。
ここでは記事内の概念として、デザイナーというと「グラフィックデザイナー(紙媒体)」「Webデザイナー(Web媒体)」「動画クリエイター」くらいを指すこととします。
一般的にはデザイナーの仕事内容がよくわからず、「何か絵を扱っている?」ようにイメージされることも多いようです。そのため「デザイナーは絵を描く人」の認識や、「デザイナーなら絵を描けて当然」と言われがちです。
デザイナーの中には「絵を描ける人(得意な人)」もいれば「絵は描けない人」もいます。
デザイナーの業務とはざっくり言えば「ビジュアル要素や文字要素等をトータル的に整理してユーザにわかりやすく表現する」ことであり、細かいイラストやパーツを描くのは「イラストレーター」という職種、と業界内では認識されています。
また、デザイナーに絵が描ける人描けない人が混在しているように、イラストレーターの中には「イラストを描くことのみを仕事にしている人」もいれば「イラストを描く仕事がメインだけど、トータルなデザイン業務もやっている(デザイナーと名乗っている率も高いですが)人」もいます。
ややこしいのですが、基本的にはそれぞれが「より得意な方」「より業務比率の高い方」を名乗っていると考えて発注先を決める必要があります。
デザインとイラストは別?
そうなのです。
業務を「家を建てる」ことに置き換えてみればわかるかも知れません。
デザインは設計しながら標準的なパーツを組み立てるとします。
イラストは標準的なパーツ以外のデザイナー家具等のオプション要素だとします。
もちろん、家自体も完全オリジナルですが、さらに芸術性を上げるために別注パーツを組み込もうとすると、それは発注先も違いますから、別に料金が発生します。
それと似たような感じです。
もちろん、デザイン自体が発注者の好み・要望に合せて1から組み立てられた完全オーダーメイドのものですが、そこにイラストレーターに好みのイラストを入れてもらうとする場合は上記のようなイメージになるのです。
つまり、「デザイン費」に「イラスト費」が加算されることが多いのはこの理由からです。
デザイナーにイラストを描いてもらったほうがお得?
さて、私がよく遭遇する問題がここにあります。
偶然にも私はイラストを描くことができます。以前はイラストのみのお仕事も依頼を頂いて描いていたこともあります。今は表立ってイラストのお仕事を探すことをしていないため、メインは「デザイナー」の仕事のみです。
そこでお客様がこう言われます。
「イラストレーターさんに依頼したら別料金がかかるなら、デザイナーのあなたが描いてよ」
と。
私がイラストを描く場合、それは「イラストの業務」を1つ新規で請け負うという認識となりますので、結局『イラストレーターさんに依頼した場合の料金』は同じようにかかってくるのですが・・・。
※イラストレーターさんのギャランティはそれぞれなので金額については差異が生じるのは事実です。
理由を説明しますと。
もしメインのイラストとして支給されたものがある場合は、最初の項目にあった「デザイン業務」を行うことになりますので、デザイン費のみとなります。
<チラシを作るとします>
デザイナーの業務は以下の通り。
1:制作するチラシのターゲットや目的、内容の精査、コピーから素材のチェック等までのヒアリング一式
2:内容に沿ってラフ案提出(省く場合あり)
3:内容のすり合わせと不足している素材があれば撮影や手配
4:初回デザイン案提出
5:4の調整を数回繰り返す
6:最終調整
7:入稿データ作成作業(省くこともあり)
8:納品
ここに「メインのイラストを描く」場合ですが「1」の工程にある「素材」が足りていないということになりますので、上のデザイナーの業務「1」の手前に下記の業務が追加されることになります。
1:イラスト内容のヒアリング
2:内容に沿ってラフスケッチ
3:スケッチを提出して内容のすり合わせ
4:3の内容で再度調整
5:本イラスト描き〜仮彩色
6:本仕上げ
7:最終チェックの後、本仕上げ
8:納品→デザイン工程へ
おわかりでしょうか。
デザイン業務は1〜8の工程が発生します。
イラスト業務も1〜8の工程が発生します。
ということは、
「イラストレーターに頼むとお金がかかるが、デザイナーに頼めばタダでイラストを描いてもらえる」
というわけにはいかないのです。
単純に2件の依頼をこなすことになるのです。
※もちろん、営業方法としてイラストを無料で作成します、という形で請け負っている方もいますので全てではありませんが大半はこのような感じになります。
Illustratorを使うのにイラストを描けないの?
これもよくお客様から言われます。
「イラストレーターという職種」を指す場合はもちろんイラストを描くお仕事をされている方を差しますが、もしデザイナーが「Illustratorを使えます」と書いている場合はイラストを描けますという意味ではなく、「Adobe社のイラストレーターというベクターソフトを使ってデザイン業務ができますよ」を意味しているのですが、音のみで聞きかじった方は特に意味がわからない!となる方がいらっしゃるようです。
また、Illustratorというソフトはもちろんイラストを描くこともできますが、業界内では基本的に「自由にお絵かきをするソフト」ではなく、「ベクターグラフィックスを扱うデザイン制作ツール」という認識です。
自由にペンや指でのお絵かきソフトはむしろ「Adobe Fresco」や「Adobe Photoshop」のほうがイメージが近いかも知れません。
※Photoshopはデザイナーが使う場合は、写真レタッチや色補正等に使う場合が多く、あまり自由なお絵かきには使わないかも知れませんが…
また、Illustratorを使ってイラストを描くイラストレーターさんもいますし、Illustratorは使ったことがないというイラストレーターさんもいます。
本当にややこしいですが、そうなのです。
「イラストレーターです(職種)」なのか「Illustratorを使えます(スキル)」なのかはちょっとだけ気にして見てもらったほうがいいかもしれません。
では誰に依頼したらいいの?
「イラストはイラストレーター」に「デザインはデザイナー」に。
これが一番現場も混乱せず、依頼側も幸せになれるパターンですが、では依頼側がわざわざ分けて依頼先を探さないといけないのか?と言われると、そうではないとお答えしましょう。
もし、制作会社に問い合わせられるのであればそこでまるごと聞けば大丈夫です。仕事の内容を精査して采配できる人が応対してくれます。後は、どんなものを作りたいのか、イラストを別に発注するのかどうか等の想定を話すだけで良いでしょう。
ただ、予算がないので「個人で安く請けてくれる人に」と思っている方。
今まで解説してきた通り、予算がない場合は請けてくれる人が個人になる分、そのスキル内容は発注するまで不明ですし担保はされない可能性も高いです。それでも発注をするのであれば、最低限の発注に際しての「準備」はしておいたほうがいいでしょう。
・どんなものがほしいのか(制作物の概要)
・いつまでにほしいのか(納期)
・予算はいくらくらいか(これがないとほぼ話が頓挫します)
・イラスト付きの場合、イメージするイラストに近いものを探しておく。(WebサイトのURLでもいいですし、印刷されたものでもOK)
上記は依頼先から聞かれる必須最低限になります。
「何を作ってもらえばいいのかわからないけど、いいのを安く作って欲しい」では結局安くは作れないので、具体的なものが揃っていれば揃っているほどスムーズに話が進みます。
なお、発注先や問い合わせ先は、個人ならとりあえずフリーで活動している人に職種問わず聞いても構わないかと思います。
ただ、「完全に別業種の人」に聞いた場合は下記のどれかの対応になるでしょう。
1:普通に「業務外」でお断り
2:人を紹介してくれる
3:その人が間に入って別の人を使って制作してくれる(手配費等上乗せになるかも)
知り合いにデザイナーやイラストレーターがいれば紹介してもらえる場合があります。
デザイナー(Web・DTPどちらも)・イラストレーター・プログラマー・カメラマン・印刷業者等は意外と何かしらのつながりを持っている場合も高いです。とりあえずで相談してみてもいいかも知れません。
私のお世話になっているカメラマンさんから、仕事先の人にデザイナーを知らないかと聞かれた、ということからデザインのお問い合わせを頂いたことがあります。また逆に、こちらからそのカメラマンさんに仕事の話を仲介したこともあります。
デザイナー間やイラストレーター間でも、得意な作風と合っていない場合で知人が丁度その作風だ!という場合も紹介してみるという場合も多いのではないでしょうか。
ということで。
何か作りたいと想定ができる人は、積極的に近場の誰かに相談してみてください。発注に至らなかったとしても、何かしらのアドバイスを得て次のステップに進むことも可能になるかも知れません。
では、何か作りたいけど何を作ればいいのか分からない場合ですが。それは「ディレクションができる人」に依頼することになります。
ディレクションできる人とは?はまたそのうち・・・。