
【詳細解説】ドジャース アイアトン氏の経歴
大谷翔平の通訳としても知られるドジャースのアイアトン氏。その知られざる経歴についてみていきます。
概要
ウィル・アイアトン氏(William Augustine Ireton, 1988年生)は、米メジャーリーグ(MLB)ロサンゼルス・ドジャースの球団スタッフであり、現在は2024年より大谷翔平選手の通訳を務める人物です。本職はデータ分析担当のアナリストで、かつて前田健太投手(現デトロイト・タイガース)の専属通訳を務めた経歴も持ちます。元プロ野球選手(内野手)という異色の肩書きも持ち合わせています。
アイアトン氏は日英バイリンガルである強みと自身の野球経験・分析スキルを活かし、選手のパフォーマンス向上に貢献している点が特徴です。デーブ・ロバーツ監督から「秘密兵器」と評されるほどチームに不可欠な存在であり、通訳として選手と言語の壁を取り除くだけでなく、最先端のデータ活用で選手を支えるアナリスト兼通訳というユニークな役割を担っています。
時系列でみるアイアトン氏
生い立ちと学生時代の背景
ウィル・アイアトン氏は1988年12月21日、東京生まれです。父親が日系アメリカ人(米国籍の日本人二世)、母親がフィリピン人という国際的な家庭に育ち、幼少期から日本と英語圏双方の文化と言語に親しんできました。15歳までは日本で過ごし、その後単身で渡米します。
高校時代はハワイ州ホノルルのミッドパシフィック・インスティテュート高等学校(名門私立校)に進学し、野球部に所属しました。卒業後はカリフォルニア州のオクシデンタル大学に進学して野球を続け、内野手としてプレーしています。学生時代を通じて野球に打ち込みつつ、英語・日本語双方に堪能なバイリンガルとして成長しました。
大学卒業後、アイアトン氏はプロ野球選手としての道も模索します。母親の母国であるフィリピンの代表選手として第3回WBC(2013年開催)予選に内野手として出場する経験も積みました。しかし選手として大成することは容易でなく、自ら現役引退を決断します。その後は「野球に別の形で関わりたい」という思いから、裏方スタッフとしてのキャリアを志すようになりました。
通訳キャリアの開始とMLB球団での経験
プロ選手を断念したアイアトン氏は、MLB球団スタッフへの道を歩み始めます。まずテキサス・レンジャーズとニューヨーク・ヤンキースでインターン研修生として勤務し、メジャー球団の運営や分析業務について実地で学びました。この時期に培った語学力と野球知識、人脈が後のキャリアに活きていきます。加えて、一時は日本の大手芸能事務所吉本興業のスポーツマネジメント部門にて職務経験を積むなど、日本と米国の両方でスポーツビジネスの経験を重ねました。
こうした経験を経て、2016年にロサンゼルス・ドジャースに採用されます。着任早々の大役として、同年ドジャースに入団した前田健太投手の専属通訳を任されました。当時27歳だったアイアトン氏は、メジャー一年目で言葉や文化の壁に直面する前田投手を支える役割を担い、通訳としてロッカールームやグラウンドで奔走する日々を送りました。
通訳としての業務には、単に言葉を訳すだけでなく、投手やコーチに提供されるデータ資料の説明なども含まれていました。アイアトン氏はその業務を通じて最先端のデータ分析に強い関心を抱くようになります。実際、前田投手への通訳を務める傍ら、配信される投球解析データや打者の分析レポートにも目を通し、自ら学習を深めていったといいます。
前田投手とのエピソードとしては、通訳時代のアイアトン氏の人柄が垣間見えるものがあります。例えば、2017年には前田投手がアイアトン氏にドッキリを仕掛けたことが話題になりました。前田投手がクラブハウスで隠れて待ち伏せし、不意に現れてアイアトン氏を驚かせる映像が公開され、通訳と選手の信頼関係の深さを物語る微笑ましいエピソードとしてファンに楽しまれました。このように若き通訳として選手に寄り添いつつ、自らも貪欲に知識を吸収していったことが伺えます。
データ分析担当への転身と主要な転機
ドジャースで通訳を務めて数年が経過した頃、アイアトン氏のキャリアに大きな転機が訪れます。2019年, 通訳としての経験とデータ分析への興味を買われ、ドジャース傘下の3Aオクラホマシティ・ドジャースで「データコーチ」という役職に就くことになりました。このポジションは、トラックマンなどの先端機器で計測されたデータを解析し、選手の技術向上に役立てるコーチングを行うもので、アイアトン氏は現場スタッフとして分析面から選手を指導する新たな役割を担いました。通訳からコーチ職への転身は異例ですが、アイアトン氏は持ち前の野球知識と分析力を発揮してこの任務に適応します。
2020年になると、アイアトン氏はドジャースのフロントオフィス(編成部)に呼び戻され、パフォーマンス・オペレーション主任に就任しました。この役職は選手の育成・能力開発を統括し、データ分析や動作解析を駆使して選手のパフォーマンス向上をサポートする重要ポストです。アイアトン氏は以降、球団アナリスト兼スタッフとしてメジャーのチームに帯同し、選手や首脳陣にデータ面から助言を行うようになります。通訳として培った現場感覚とコミュニケーション能力に、分析担当者としての専門知識が加わったことで、チームにとって欠かせない存在へと成長していきました。
この頃には、通訳時代に比べ表舞台に立つ機会は減りましたが、ドジャース内での評価は非常に高まっていました。「チームに欠かせないデータ分析のスペシャリスト」との評価を受け、同僚からの信頼も厚かったと伝えられています。実際、データ分析担当となった後も通訳としてのスキルは健在で、必要に応じて日本人選手や関係者との橋渡し役も務めていたようです。球団内では「アイアトンさんに任せておけば安心だ」という空気が醸成されていきました。
大谷翔平の通訳就任とメディアでの反響
2023年オフ、二刀流で知られる大谷翔平選手がロサンゼルス・ドジャースに入団することが決まりました。ところが開幕前の2024年3月、大谷選手の前任通訳だった水原一平氏が違法賭博への関与疑惑により球団から解雇される事件が発生します。長年大谷選手の「相棒」として寄り添ってきた通訳が不在となる緊急事態を受け、ドジャースは急遽アイアトン氏を大谷翔平の新通訳として指名しました。元々チームスタッフとして帯同していたアイアトン氏は、シーズン開幕直前に「臨時通訳」という形で大谷選手のサポート役に就いたのです。
同年3月下旬に行われた大谷翔平選手の入団記者会見では、スーツ姿で隣に立つアイアトン新通訳の姿が日米メディアの注目を集めました。水原氏不在という異例の状況下、大谷選手の肉声を英語に訳す大役を担ったアイアトン氏でしたが、その落ち着いた振る舞いと的確な通訳ぶりは高く評価されます。実際、「英訳が非常に適切で的確だ」「大谷のコメントをニュアンスまで上手く伝えている」といった声がファンやメディアから上がり、新通訳の有能ぶりが改めて認識されました。水原氏が通訳を務めていた頃と比べて訳し方の違いも話題となり、フォーブスジャパンは「水原一平と訳し方の差くっきり」と見出しを打って伝えています。アイアトン氏は自身の通訳スタイルについて公の場で多くを語りませんが、選手本人の言葉をできるだけ忠実に伝えようという姿勢が滲み出る場面でした。
アイアトン氏が大谷選手の通訳に就任した背景には、前述のようにドジャース球団内での高い評価と信頼がありました。デーブ・ロバーツ監督はアイアトン氏について「彼は我々の秘密兵器だ。本当に優秀で、選手を成功に導いてくれる存在」と米メディアに語っています。実際、通訳就任後の大谷選手は以前にも増して積極的にチームメートと交流し、リラックスした様子を見せているとも報じられました。米ABCニュースは、水原氏の退任によって「大谷がより自分の言葉で発信する機会が増え、チームに対しても一層オープンになった」と分析しており、アイアトン氏の存在が大谷選手の新天地での順応にプラスに働いているとの見方もあります。
一方、日本のメディアやファンからもアイアトン氏への注目が高まっています。ドジャースの試合中にベンチで忙しく立ち回るアイアトン氏の姿が紹介されると、日本のファンからは「めっちゃ忙しそう」「本当にあの人は何でもやるなぁ」といった驚きと称賛の声が上がりました。彼の肩書きが「通訳」に留まらず編成部の分析担当主任であることが広く知られるようになると、「実は凄い人だった」と改めて注目を集めるなど、日米双方でその多才ぶりがクローズアップされています。
さらに、「マエケンの元通訳が大谷の新通訳に」といった見出しで日本のスポーツ紙が報じたことで、前田投手との縁から大谷選手へと不思議な巡り合わせで繋がった経歴にもスポットが当たりました。前田投手と大谷選手という日本人スター投手二人を支える通訳となったことで、アイアトン氏の名前は日本の一般ファンにも広く知れ渡ることになりました。
まとめ
現在、ウィル・アイアトン氏はドジャース編成部のパフォーマンス・オペレーション主任(選手育成・能力開発担当)という立場でチームに貢献しつつ、大谷翔平選手の通訳を兼務しています。2024年シーズンも引き続きアイアトン氏が大谷選手の通訳を務める方針であることが球団関係者から明かされており、引き続きその手腕に期待が寄せられています。
アイアトン氏の活動の特徴は、言語の壁とデータの壁の双方を取り払う架け橋となっている点です。自身も野球選手だった経験から選手目線を持ち、英語・日本語の通訳で選手と指導者の意思疎通を円滑にするだけでなく、データ分析の専門知識でプレーの裏付けを提供できる稀有な存在です。その多才さゆえに、現場とフロントの両方から厚い信頼を得ており、選手たちにとっても心強い支援者となっています。
影響力の面では、大谷翔平選手のドジャース移籍に際しアイアトン氏の存在が円滑なチーム合流を支えたように、今後も日本人選手をはじめとする国際的な選手が米球界に挑戦する際の重要な支援役として期待されています。実際、大谷選手だけでなく将来的にドジャースが獲得を目指す日本人選手(例えば山本由伸投手など)のサポート要員としても言及されるなど、チーム戦略上も欠かせない人材となっています。
今後の展望として、ウィル・アイアトン氏はその卓越したスキルセットを武器に、更なるキャリアアップも見込まれます。まだ30代後半と若く、通訳・コーチ・分析担当と多様な経験を積んできた経歴は将来的にフロント幹部や国際部門のリーダーなどへの道を開く可能性もあるでしょう。現時点では大谷翔平選手の活躍を陰で支える重要な存在として、チーム内外から厚い信頼を受けているアイアトン氏。彼の歩みは、日本とアメリカの野球界を繋ぐ架け橋として、これからも大きな役割を果たしていくと考えられます。
いいなと思ったら応援しよう!
