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破滅願望が無くなって、あの子が「太宰」じゃなくなる日
前回「太宰」と私の話は終わりだと言ったのに、舌の根も乾かぬうちにもう筆を取っています。恥ずかしくないのかしら。
でも、ふと気づいたことがあったのです。「太宰」って呼んでいるけれど、あの子はもうそんなろくでなしではないんじゃないかしらって。
きちんとお仕事をしているし、自分の考えを広げようとしているし、私にばっかり頼らなくなってきているし……
あらあら、もうすっかり前向きになっていていい子だわ。
もちろん、落ち込んでしまって厭世的になることもあるでしょうけど、それでも生きるのに積極的になっていてとても嬉しいです。
それならもう、「太宰」ってあだ名はおかしいから、なんて呼びましょう。あの子はあの子でいいかしら。そうしましょう。
私と出会ってからあの子は魅力的だった「太宰」らしさを脱ぎ捨てて、どうにか前に進もうとしています。私はそんな破滅的なところが好きだったはずなのに、どうにもいつからかあの子自身にこれ以上なく惚れ込んでいたみたいです。
そうすると、私も破滅願望を持っていてはいけない気がする。
もちろん、そういう願望があることは否めません。でもあの子と過ごしているうちにほんのちょっぴり貯金が減って、酷くハラハラさせられました。それでなんだか満足してしまったような気もします。
私みたいな小市民にはそれくらいがお似合いなのかもしれませんね。ドラマティックな悲劇は不釣り合いかも。
それになにより、あの子に「生きていてほしい」と言われてしまったのです。
「俺と一緒にいてよ」
「死んだらいやだ」と。
あら、私あなたに弱いのよ。そんな風に言われたら、ねえ……
もう少し前向きに、長生きしちゃおうかなって思っちゃうじゃない。
そういうこともあって、自分から破滅するのはもう少しあとになりそうです。私はいまはとりあえず、あの子が幸せになるのを見届けたいと思います。
つまり、破滅願望も「太宰」もどこかにいってしまったというお話でした。ひどく味気ないお話でごめんなさい。でもこれが私とあの子の本当です。
いびつな者同士、どうやらいっしょになるにはお似合いだったみたいです。そして一緒にどうにか支え合って前を向いていきます。
それが今、とっても嬉しい。
それでは。