病院の法則が乱れる・関東の眼科編

結婚を機に関西の田舎から関東へ。実家よりもはるかに都会に住むことになったというのに、病院探しは困難を極め、特に耳鼻科は病院難民の日々が今も続いている。

もちろん、持病のある眼科については、かかりつけ医と事前に入念に話し合っていた。しかし医者というものは派閥世界で、遠方となればさらに内部事情はわからないという。京大組vs東大組、みたいな感じなのだろうか。

いざ行ってみると「眼球ろう(=滅びゆくだけの眼)だから何してもムダ」と診察の度に何度も言い放つ医者に、次第にムカついてきた。その発言は、有名病院の専門医の地位を自ら貶めているのではないのか。何も出来ないってことだろ?ムダな目が滅んだ先の提案をしてみろよ。

それならば、と密かに近場で探す。「こんな状態の眼なのに紹介状もなく、しかも有名病院からこっちに来られたら困るんだよ!」とこちらの話を聞くどころか叱責された。HPによれば、どこぞの学会の理事長も務めてるそうだが、この権力にこびた狭量な眼科、滅んだらいいんじゃねえの?

患者を慰めろとは言わない。しかし商売相手である患者を、絶望に突き落とす事に何の疑問も持たない医療従事者は淘汰されていい。そしてアイツら全員、静電気体質になって子々孫々ハゲ散らかせや!と心の中で呪詛しつつ、人目もはばからず、大泣きしながら家に帰った。

早々に眼科を確立しておかなければまずい状況になってきていた。以前のかかりつけ医に迷惑承知で現状を相談したが、前述のように具体的な病院名や名案が出せるわけではない。しかし「学会でも顕著だが、関東の病院は専門化と細分化が進んでおり、総合的に診る医者が関西より少ない現状」と「眼球ろうなんて…!そんな酷い事言われたの!?絶対違うよ!そんなの今すぐ忘れて!」「宅急便でびゅうちゃんを運んでもらって診てあげたいところです…」の言葉に、関東の眼科が全部、私の呪詛により静電気体質でハゲる予定のオッサンばかりではないと信じたい気持ちだった。

持病について知っている夫は、黙って日夜、病院探しに動いてくれた。しかし何か条件を指定しないと途方もない。かかりつけ医の話や今までの体験、ネットでの検索の結果から
「血清点眼を扱っていて」
「総合的に診察する事をあえて標榜している」
「医者がそこそこ若い」
眼科に候補を絞っていった。病名のつかない私の眼には専門医でない方がいいし、若い医者の方が新しい技術への理解と関心が高いからだ。それに派閥社会なのなら若い医者がいきなり「なんちゃら理事長」になれないだろう。

調べ始めて何日後だろうか。開業数年しか経っていない小さい眼科があるんだけど、と夫が切り出した。「地域のかかりつけとしての眼科」というコンセプトで誘致された場所と医者らしい。自宅の最寄り駅から3つほど先で、駅からも近く、具合が悪い時でも一人で通院できそうだ。

経緯や病状、紹介状がない旨(有名病院をボイコットしたからもらえなくてな…)等、文章の得意な夫が病院にメールしたところ、事務の人から早々に丁寧な返事が返ってきた。その速度も内容も好印象だった。普通の診察としてではなく、相談しやすい時間を指定してくれてもいた。

「これ以上、生きる意義とか自尊心を、よく知らんオッサンにボコボコにされませんように」と祈りつつ、夫と眼科に向かった。そこには失礼ながら頼りなさそうな語り口のヒョロっとした医者が座っていた。大丈夫か。

「眼の状態とお話を伺う限り、私に出来る事はあまりありません。それでもよければ、できる限り、診させてもらいます。」

現時点で医者としての腕は一切わからない。今後病状が悪化した場合はどうなるのかのアテもない。しかし「できる事がない」と自分から言える医者(人間)は多くない。そして「できない」と言える人は信用できる。

長い眼科探しは一段落ついた。

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