ためつすがめつ
無二の親友と呼べる者がいる。
彼は同じ地元の人間で、同い年だ。
それもそのはずで、小学校も中学校も同じだった。
だが、ガキの頃から仲が良かった訳ではない。
むしろ、小学生の頃などは仲が悪かった。
不思議な縁で、別々の高校に進んだ後に何度かつるむようになり、また別々の大学に進んでからも連絡を取ることが少なくなかった。
そして、社会人になってからも偶然、街や駅で出くわすことがあり、それから年に数回、二人で飲みに行くようになった。
そして、今も。
彼は、自分と全く違うものを持っている。
学生の頃から容姿端麗で学業優秀、おまけにスポーツマンだった。
そんな彼は、有名大学を出た後に消防士を志し、今ではエリート街道を順調に進んでいるようだ。
自分と全く違うものを持つ彼だが、何故か気が合う。
話すときの波長が合う。
今ではお互いオッサンになり、家庭を持つようになり、仕事でも責任あるポジションについて、人生の中盤戦にさしかかったところだ。
その人生のド真ん中で、人とぶつかり、悩み、苦しみ、もがくことは誰でもあるし、秀才の彼でもあるのだと、一緒に飲んでいるときに知る。
彼と私の違う点は、もう一つ。
私は苦しいとき、外に吐き出したいタイプだが、どうやら彼は違うらしい。
いや、実際はわからないが、あまり彼の方から悩みを告白してきたことはないように思う。
たまたま話の流れで知らされることの方が多いのだ。
弱音を吐くことはあるらしいが、そんな様子を微塵も感じさせないところに、「強さ」を感じる。
年に数回しか会って話さないが、最近は専ら、話を聞いてもらってばかりのような気がする。
色々な視点から物事を考えるという点では、自分一人で悩んでいるより悩みを打ち明けた方が良いと思うのだが、彼の強さに近づくためには、もう少し一人で耐える時間というものも大切なのかもしれない。
良い友がいることに、感謝。