『草原に黄色い花を見つける』映画レビュー
題名:草原に黄色い花を見つける 英題:Yellow Flowers on the Green Grass
製作年:2015年
監督:ヴィクター・ヴー
レビュアー:淡路大護(京都産業大学現代社会学部)
物語の舞台は1980年代ごろのベトナムにある貧しい村。そこで生活する12歳になったばかりの主人公ティエウとその弟トゥオン。彼らは貧しいながらも家族で協力し合いながら生きていた。そんなある日主人公ティエウが思いを寄せている幼なじみのムーンの家が不幸にあいムーンはティエウの家へと身を寄せることとなる。一つ屋根の下で一緒に生活する中でティエウは恋心を募らせていく、トゥオンとばかり遊ぶムーンを見るティエウは弟トゥオンに対し嫉妬してしまう。そしてティエウはトゥオンに怪我を負わせてしまう。
本作では登場する人物の多くが家族思いであることが読み取れるような描写が多くテーマとしては家族愛、幼い子供からの成長といったものが当てはまるように感じた。また映画は全体を通して長閑で静かに暮らしているティエウの家族と村の人々の日常にフォーカスが当てられている。物語の終盤に明かされるオートバイサーカスを営んでいたタムが村人たちに気がおかしくなってしまったと言われるほどまでの言動をしていた理由には家族への愛でここまですることができるものなのかと感じた。主人公ティエウは映画内において様々な行動をおこす。幼なじみムーンに対して想いを伝えるもうまく伝わらない様子には幼いが故の残酷さを感じた。またこの場面は恋文を書いたティエウがクラスメートを通して手紙をムーンに渡してもらうのだがそれが先生にバレてしまいクラスメート全員の前で手紙の内容を公開されてしまう。これもムーンがティエウの想いを受け取らなかった理由の一つであるように思えた。
また本作はベトナムの田舎の自然の美しさにも触れることができるものであった。兄弟が草原を駆け抜けるシーンにはこころを奪われるほどであった。自分が子供の頃を思い出すことができ、純粋に自然を楽しめる感性は尊いものでありはかないものだからこそ大切にする必要があると感じた。兄弟の絆を描いた後に兄の弟に対する嫉妬からくる行動とそれに対する後悔。ムーンの不幸等の暗い情景と美しい風景、兄弟愛どちらについても描かれており貧しいが故の残酷さと幸せな時間の対比が上手く行われているように思った。
本作にはそれほど多くの登場人物がおらずキャラクターひとりひとりに個性がありメインキャラクターの性格も面白いものがあった。主人公ティエウの思春期を迎える中で芽生えた幼なじみムーンに対する恋心やムーンと仲良くする弟への嫉妬、それとともに家族を大事に思う様子を見せており様々な心情の変化を見ていると自分の思春期の頃を思い出すようだった。弟トゥオンは社交的で兄想いの良い弟であった印象がある。いじめっ子にからかわれる兄を助けるために尽力したり、兄に傷つけられた際にもティエウが父に叱られるのを防ぐために自分で木から落ちたと言ったりしている。思春期に入り感情のコントロールが難しい時期の中で多くのことに悩みを持ち出したティエウに対してまだ幼く純粋無垢なトゥオンが兄を助けたいという思いだけで行動をする様子から私は善意のみで動けるトゥオンに対してなかなか現実でできないことを当たり前に行える行動力を見習いたいと感じたからだ。
この作品はハリウッドで映画について学んだヴィクター・ヴー監督がベトナムの作家グエン・ニャット・アインのベストセラー小説を映画化したものである。また、2015年にベトナム国内での記録を塗り替えた大ヒット作品でもあり、第89回アカデミー賞外国語映画部門のベトナム代表として出品されている。12歳という多感な時期の始まりに様々なことを通じて成長する兄弟が描かれているため高校生、大学生におすすめしたい作品であった。この映画は今現在、様々なビデオ・オン・デマンドで視聴することができるので、加入しているアプリケーションで視聴できるのであればぜひ、視聴して欲しい。
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